もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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道教におけるもっとも信仰を集めた存在の一柱である西王母ですが(他だと二郎真君や哪吒太子などが人気ですね)、これが元は凶暴な獣神でした。信仰が変遷し、お行儀が良い母神へと変わっていった存在。それが西王母です。

真4でのトラウマイベントの残虐人食い描写と、圧倒的強さを見せつけられてこれ負けイベントかと困惑した人も多い相手ではありますね。

そんな難敵ですが、本作では最初から準備をした上で勝ちに行きます。

なお本作の西王母は、東方Projectにおける月関係者です。それも嫦娥と連んでいた一柱。

それだけで東方Projectの知識がある程度ある人は、あっとなるかも知れませんね……







2、墜ち果てた母神のなれの果て

連携はどうせ上手く行かないだろう。

 

だから、先に大まかな作戦を決めて、それに沿ってそれぞれで臨機応変に行く。

 

僕はそう提案した。

 

頷くと、霊夢は作戦を提案してくれた。

 

カガもそれに納得。

 

僕は結界に入り込むと、あまりにも濃すぎる血の臭いに、思わず眉をひそめていた。あれだけ血に腐った地面だ。

 

奴のエサ場が悪夢のような場所だと言う事は分かりきっていたが。それにしてもこれは酷すぎる。

 

肉の床と壁が辺りには拡がっている。そして転がっているこれらは、拷問道具か。

 

実際の所、拷問というのは相手を脅かすためのものであるらしい。それはヨナタンが話してくれた。

 

拷問なんかでまともな証言なんて出てこない。

 

正しい証言を引き出すのではなく、相手に自分にとって都合が良い言葉を言わせる事。それが拷問であるらしいのだ。

 

そして拷問で相手が何も言わない場合は、そのまま殺してしまう。

 

そのために、拷問用具の殺傷力は極めて高いものとなっている。中にはそのまま処刑道具となっているものもあるそうだ。

 

壁に貼り付けになっている人を見て、イザボーがうっと呻く。

 

もう体中の皮が剥がされ、肉が剥がされ。内臓がこぼれでている。蠢く肉片が傷口に貼り付いて、ちゅうちゅうと血を吸っている。目は縫い合わされ、呻いているその人は、まだ死にきれていなかった。

 

彼方此方に散らばっているのは、人間の残骸か。

 

恐怖を与えるためにひたすら残虐に痛めつけて。死んだら食ってしまう。

 

怒りが全身を燃え上がらせる。

 

相手がどれだけ強大だろうと、これは倒さなければならない。

 

霊夢に頷く。

 

霊夢も、凄まじい険しい顔をしていた。

 

「月の神々の外道ぶりはあたしも聞いていたけれど、こういうのを間近で見せられると言葉もないわ。 転生すら出来ないように徹底的に滅ぼしてやる」

 

「ほう、たかが人間風情が吠えたものよ」

 

ずんと、凄まじい威圧感が来る。

 

姿を見せたのは、なんだかカラフルな服を着込んだ女だ。見た事がない色合いの服であり、扇子なんて持って優雅さを演出しているが。

 

これだけの無茶苦茶をやったのが此奴だというのは、一目で分かる。

 

漂って来る血の臭いが尋常ではない。

 

全身に纏っている悪意と呪いがあまりにも凄まじすぎる。

 

クエビコはひたすら悪に墜ちた自分を嘆き、懺悔していた。

 

だがこいつは違う。

 

既に作戦は決めている。

 

「さっきから羽虫共がわらわの力を削ぎにかかっているようよな。 無駄な努力よ。 全部まとめてくろうてくれるから覚悟せい」

 

「偉そうなものね西王母」

 

「偉そうなのではない偉いのだ」

 

「笑わせる。 貴方たちの残虐行為が作り出してしまった復讐の仙霊に怯えて、ずっと籠城していた程度の分際で」

 

霊夢の言葉に、みるみる西王母の余裕が消えていく。

 

僕も少しだけ話は聞いている。

 

月の重鎮にゲイと呼ばれる男神がいた。

 

力は強いが頭の弱い男で、残虐行為も大好き。色々と悪辣な行為を繰り返していたが。妻の一人の子をあろう事か殺して喰らったという。それも、単に気にくわないという理由でだ。自分の子供を喰らうなんて、とんでもない悪神だが。逆に言うと、そんな奴が重鎮をしているのが月だったのだ。

 

それで子を喰われたそのゲイの妻が、復讐の権化と変じた。化けて出るという奴かも知れない。

 

ゲイは復讐の権化となったその「仙霊」に殺され。

 

その残虐行為をそそのかした月の重鎮であるゲイの正妻である嫦娥がまだ健在な月に、復讐の仙霊は何度も攻撃を仕掛けた。

 

月は圧倒的な力の差に反撃できず、復讐の仙霊が攻めてくる度に籠城するしか出来なかった。

 

「貴様……何故それを知っている!」

 

「……月が滅びた後、天の軍勢からかろうじて逃げた月人……神々の殆どは、その仙霊に殺され尽くしたようよ。 あの嫦娥も含めてね。 貴方の事もその仙霊は追っていた」

 

「……っ!」

 

霊夢に話は聞いている。

 

その仙霊は今動ける状態ではないらしい。霊夢の隠れ里に攻め寄せた天の軍勢との戦いで、致命傷に近い傷を受けた。今は必死に回復に努めているそうだが。生き残れるかは五分五分。霊夢が殺し合ったら絶対に勝てないと断言する程の使い手だそうだが、それでも天の軍勢の前には、防戦でやっとだったし、それだけの手傷を受けたのだ。

 

だが、それは話す必要がない。

 

霊夢は、会話で相手のペースを崩してから戦うタイプだ。それは知っている。だから凄まじい毒舌を吐くが。

 

これはあくまで殺し合いの場で、しかも相手が外道の場合に限るそうだ。

 

「人々を喰らうけだものと化したあんたが、あの仙霊に勝てるとは思えないわね。 この場所は既に知られている。 いずれあの仙霊……純狐がここに来るわよ。 貴方のちゃちな結界ごと、まるごと純化しにね!」

 

「おのれおのれおのれ! そのようなことさせてなるものか! 貴様等全員、ずたずたに……」

 

「それはもう聞いた」

 

自分でもびっくりするほど声が冷えている。

 

背後に回り込みつつ、僕は四度の突きと払いを入れている。

 

戦い開始。

 

打撃が通っていない。

 

こっちを向こうとする西王母に、カガが跳び蹴りを叩き込み。ワルターが大剣を振り下ろす。

 

がっと音がして、扇子で大剣を防ぐ西王母。

 

その間に皆が悪魔を展開。

 

霊夢が、凄まじい巨大な魔法陣を足下に出現させていた。

 

僕は自身に強化魔術を掛けながら、指定されている機会を窺う。西王母は吠え猛ると、何か振り回す。

 

反射的に避ける。

 

見えないそれが、肉として蠢いている地面に叩き付けられ、大爆発していた。

 

「呪いの塊よ。 密度が高すぎて、物理圧力さえ持っているわ」

 

「厄介だな。 だが!」

 

ワルターが仕掛ける。

 

呪いにワルターが耐性を持つのは分かっている。ヨナタンも、今のを見て距離を取ると、天使達に一斉に光の魔術を唱えさせる。パワーが戦列を組み、壁を作る。

 

だが、一喝だけで光の魔術をかき消す西王母。

 

そして、複数の呪いの塊らしきものを振り回す。

 

ワルターが一つ目を大剣で弾き返すが、二つ目はもろに喰らった。吹っ飛んだワルターが、壁に叩き付けられる。

 

派手に吐血していた。

 

「ホホホ、非力よ非力! 所詮は人間! 此処の人間共を食い尽くしたら、すぐに離れればいいこと! あの頭がおかしい女に捕まらなければそれでいい!」

 

「頭がおかしいのはお前だろう」

 

ワルターが作ってくれた隙。

 

その間に僕はチャージまで済ませていた。その渾身の一撃を、蹴りとして相手の後頭部に叩き込む。

 

手応えあり。

 

思いっきり吹っ飛んだ西王母。頭が砕けた筈だが。それでも、人間離れした動きで立ち上がってくる。

 

例の相互補完の結界。

 

それに何より、今までこうして殺戮した人々の力を、そのまま自分の再生力へと変えているのだ。

 

それを断つためには、戦いを続けなければならない。

 

ワルターは。

 

まだ回復の途中。

 

続けてイザボーがコンセントレイトを掛けてからの、必殺の魔術を叩き込むが。その炎が全身を包み込んでなお、平然としている西王母。それどころか、まるで無傷の状態で炎から現れる。

 

とんでもないタフさだ。

 

カガが前に出ると、立て続けに連続し拳と蹴りを叩き込む。

 

だが、涼しいといわんばかりに、西王母が手を払う。

 

飛び出した僕が。その手を槍で切り上げて威力を殺すが、そうしなければカガは粉みじんだった。

 

それでも吹っ飛ばされて、壁に叩き付けられる。

 

受け身は取れたか。

 

僕にも、うおんとうなりながら、透明な呪いの塊が叩き付けられる。牙の槍で防ぎつつ、後方に跳ぶが、それでも威力を殺しきれない。

 

ぐっと、声が漏れていた。

 

壁に叩き付けられる。

 

凄まじいパワーだ。それだけ人々を食い荒らし、その恐怖を喰らってきたということだ。

 

壁になろうと飛びかかったスプリガンが、一瞬で砕かれる。

 

ハイピクシーが全力で放った雷撃が、文字通り一喝だけで消滅する。

 

流石は最高位の悪魔。

 

末の子が、肩を貸して、立ち上がらせてくれた。

 

僕は血を吐き捨てると、頷く。

 

まだ駄目だ。

 

もっと此奴に傷を与えないと。

 

外はきっと頑張ってくれている。此奴に致命打を与えるには、内外からの総攻撃が必須なのだ。

 

「てんで手応えがないのう。 やはり人間なんぞわらわのエサよ」

 

「そのエサにずっと信じて貰っていたんじゃないの?」

 

「だから何か。 我にすがってどうにかしてもらおうなどと考えている弱いものなど、家畜と同じ。 家畜は利用した挙げ句に食べるものであろう。 お前達人間の考えぞ。 自分で考えたことだし、そなたらがずっとやってきたことだ。 同じ人間に対してすらな。 わらわは四千年にすら達する歴史の中、わらわが生まれた土地で、人間がそれを繰り返すのをずっと見てきた。 月に移った後も、身勝手な願いはわらわに常に届いていた。 おろかしい人間ども。 だからわらわはそなた等を軽蔑する」

 

「そう。 あんたがくだらない奴なのはよく分かった。 いずれにしても、勝ち誇るのはまだちょっと早いんじゃないのかな」

 

僕自身に回復魔術を掛けて、それで動けるようになっているのに、西王母は気付いただろうか。

 

それだけじゃない。

 

僕を見て頷く末の子。

 

ついにきたか。

 

悪魔は力を蓄えると、転化する。末の子にも、その機が来た。

 

変わりたい。人間をエサとしか考えていない姉妹達や、母親とは別になりたい。僕に従った時の末の子の気持ちは、今は理解できている。

 

だから、背中を押す。契約した者として、許可を出す。

 

変われと。

 

光に包まれる末の子。

 

なんだとと、西王母が呻く中。

 

末の子は、転化を終えていた。

 

立ち上がるその姿は、蛇の要素がとても強く出ている女性。髪の毛はいわゆる巻髪で。赤い帯を身につけている。水の力を身に纏っているその力は、リリムだった時の末の子とは、まるで段違いだった。

 

「フリンさん。 わたしに命令を! わたし、偉大なる祖神ティアマトの子、ラハムに!」

 

「ラハムっていうんだね。 そうか、何となく分かる。 蛇の神々の系譜を辿って、悪に貶められた神という系譜も辿って、その姿になった!」

 

「うん。 今までとは力が違う! 役に立てるよ! もっともっと!」

 

舌なめずりする。

 

西王母が明らかに動揺している今が好機。ついでに、僕はもう一枚の切り札も切る。水の荒々しい女神、アナーヒター。

 

今の僕だったら。

 

短時間、全力で暴れさせることができる筈だ。

 

「いまだ、仕掛ける!」

 

「おおっ! やってやるぜえっ!」

 

ワルターが立ち上がる。カガも、必死に起き上がっていた。ヨナタンが皆に広域回復の魔術を展開。

 

イザボーも、二発目の総力での魔術を練り上げ始める。それを、イザボーの悪魔達が、支援魔術で更に増幅している。

 

髪を振り乱し、喚く西王母。

 

「な、なんだ貴様等は! わらわの威を見てどうして怖れぬ! わらわは偉大なる地の母神であるぞ!」

 

「母神であったの間違いだろうがこのケダモノ! お前なんか、今はただの人食いの化け物だ! お前を母神として祀ってくれた人々を馬鹿にしていた時点で、お前の腐った性根はケダモノ同然だったんだ!」

 

躍りかかる僕とラハム。喚きながら呪いの塊を恐らく六つ以上、同時に展開して来る西王母。

 

だが、ラハムがその一つを、すっと僕に当たらないようによける。呪いとは親和性が抜群なのかも知れない。或いは怒りに我を忘れて雑になっている扱いだったら、どうにでもなるということか。

 

そこにアナーヒターが全力で水を叩き込む。ただの水じゃない。浄化の水だ。それはこのおぞましい結界の全域を襲い、捕らわれている魂を片っ端から浄化していく。呪いの槌が、明らかに制御を乱しているのが分かる。

 

飛びかかるワルターとカガ。

 

明らかに恐怖に顔を歪めた西王母が、二人を呪いの槌で防ごうとするが。ワルターは。その一つを全力で叩き斬っていた。

 

にっとわらうワルター。

 

更には、その間隙を縫って、カガが肉薄。

 

西王母の顔面に飛び膝を叩き込み、更には空中で機動して、踵落としまで入れる。顔面が石榴みたいに爆ぜた西王母が、明らかに揺らぐ。

 

其処へ、僕が接近。

 

手持ちの槍技を、片っ端から全部叩き込む。

 

全身がズタズタになる西王母が、絶叫していた。

 

「おのれおのれ不敬であるぞ! 地を這う下民が!」

 

喚く西王母だが、がっとその全身が掴まれる。ラハムがその巻き毛を展開して、動きを抑え込んだのである。

 

勿論、まだまだラハムの方が西王母より力が落ちる。

 

だが、動揺した西王母の全身を、アナーヒターの浄化水が包む。それは強酸のように、西王母の全身を焼いていた。

 

布でも引き裂くような悲鳴を上げながら、暴れ狂う西王母。

 

だが、それを身を盾にして、ヨナタンのパワー達が防ぐ。パワーの数はかなり増えているが、それでもまさに特攻だ。

 

ぐっと歯を噛む。

 

一瞬の時間が惜しい。

 

僕は飛び退くと、力を集中していく。

 

霊夢がこの乱戦の中狙っているあれが、勝機につながる。今は焦るな。

 

ワルターの悪魔達が、一斉に西王母に組み付いて、ズタズタに吹き飛ばされる。ラハムが必死に髪の毛を蛇に変えて戦いを挑んでいるが、既に完全に綺麗な服が吹っ飛び、猛獣としての体を現している西王母が、髪を食い千切って暴れ狂う。炎を口から吐き散らしているその有様は。少なくとも人に愛とか救いを与える姿では無い。

 

戦いの前に聞いていた。

 

西王母は、古くはケダモノの体に人間の顔を持ち、火を吐く存在だった。

 

それが信仰の中で都合良く慈愛の存在とされて、美しい姿へ変わっていったのだと。

 

だとすると、あれが西王母の真の姿。

 

僕もあまり力は残っていない。

 

「後は頑張りなさい」

 

アナーヒターが切り上げる。僕は深呼吸すると、その機会を窺う。

 

カガが、凄まじい一撃を受けて、吹っ飛ばされる。ワルターの大剣がかみ砕かれ。ワルターはそれでも徒手空拳で、西王母に蹴りを叩き込む。

 

そして、全力で魔術を練り上げたイザボーが、渾身の一撃を叩き込む。イザボーの悪魔達も、それと一緒に魔術を叩き込む。

 

冷気の柱が、西王母を真下から貫く。離れていても、凍り付きそうな大火力だ。

 

全身が凍り付いた西王母が、悲鳴を上げながらも、氷を吹っ飛ばす。毛皮はボロボロ、全身も傷だらけで彼方此方肉が露出している。猛攻の前に、既に再生が追いつかなくなって来ている。

 

「おのれ役立たずどもが! こうなったらァ!」

 

来た。

 

西王母は、追い込まれたら絶対に周囲に展開している力を己に集め始める。堕落した五カ所の神から、力を吸い上げて己の戦闘力に切り替える。

 

そして、その時こそ。

 

霊夢が、術式を完成させる。

 

西王母はずっと血を頭に登らせていた。

 

この中で最強の霊夢が戦闘に加わっていないのを、どうしておかしいと気付けなかったのか。

 

それは西王母がずっと実戦から離れていて。

 

人間のやるような悪辣な権力争いばかりしていて。

 

それで何よりも、自分は常に偉くて正しいと思い込んでいて。客観という概念を忘れていたからだ。

 

「ラハム!」

 

「はいっ!」

 

ラハムは降り立つと、詠唱を開始する。ずっと肉弾戦を挑んできていたラハム。それに、この状態でもまだ肉弾戦を挑んでくるワルター。

 

それに気を取られた西王母は気付けない。

 

力を集めている西王母自身が、何かに捕まった事を。

 

西王母は今まであれだけの攻撃を受けても、まだまだ余裕という感触で動いていた。それは、奴に肉の体を構成するための核があるからだ。

 

そしてその核は、普段は圧倒的な呪いの力で守られている。

 

それだけではなく、外部にも力を供給しているから、体の内部にて一定した位置に存在していない。

 

だが、これだけの猛攻を受けて。

 

それで余裕がなくなればどうなるか。

 

ワルターの攻撃を弾こうとして、気付いたのだろう。西王母は、完全に霊夢の結界に捕まった。

 

神々しい光に包まれている霊夢が叫ぶ。

 

「今よ……!」

 

「ラハム、全力で押し出せっ!」

 

僕は全力で突貫する。

 

極限までかけた強化魔術、それにチャージまで入れた。そして、恐怖に顔を歪める西王母が火を吐こうとするが、ワルターがその頭に全力で蹴りを叩き込み、火焔を暴発させる。

 

ぎゃあっと叫ぶ西王母が、見る間に近付いてくる。

 

その中央に、禍々しい殺気を放つ黒い影。

 

僕は、一身全てを槍にして。

 

それを貫く。

 

突きの技、奥義。

 

貫。

 

それそのものの技だから、偉そうな名前はいらない。ただそれを示す物であればいい。

 

そう、これを教えてくれた引退サムライは言っていた。

 

そして、槍の技を極めないと、これを真に使う事は出来ないだろうとも。

 

文字通り、今がその時。

 

いや、まだ遠いかも知れないけれど。

 

その麓に、ついに足が届いた。

 

文字通りの全てを貫く一撃が、西王母のコアを、まるで掴むようにして捕らえて。そして、消し飛ばす。

 

破壊力はそれだけに留まらず、その薄汚い結界を内側から吹き飛ばし。更には爆風となって、西王母の体に大穴を開けていた。

 

わずかな時間、僕は立ち尽くしていた。

 

西王母が、襤褸ぞうきんのようになって崩れゆく。霊夢がその側に歩み寄ると、全力で浄化の術を使い始めた。

 

悲鳴を上げてもがく西王母は、しわしわになっていて、まるで老婆だ。何かが側に墜ちている。

 

それを、容赦なく霊夢は踏み砕いて、蒸発させていた。

 

「やっぱり蓬莱の薬を持っていたわね。 使う気になれなかったのは、ガマガエルになり果てた嫦娥を知っているから、かしら?」

 

「そ、それは、わらわが……」

 

「今更悔いても遅いわよ。 お前はあまりにも重い罪を犯した。 転生さえ許されない。 ただ一つの穢れた魂となって、阿鼻地獄で永久に苦しみ続けなさい。 先に行った嫦娥も待っているわよ」

 

「ひっ! あ、阿鼻地獄はいやじゃ! わらわは、人間のせいで、人間がわらわを……」

 

情けない泣き言が、光の中に消えていく。

 

僕は尻餅をつきそうになったが、ぼろぼろのラハムが支えてくれる。ラハムは、とても優しい目をしていた。

 

「フリンさん、わたしは変われました。 以降は、貴方のために。 何があろうと、貴方の側に」

 

ちょっと限界だ。

 

ラハムに背中を預けて、僕は意識を手放した。

 

今までまともに交戦した相手の中で、間違いなくぶっちぎりで最強の敵だった。それでも、打ち克つことが出来た。

 

そして僕には、頼れる仲間がいる。

 

だから、今は意識を手放しても大丈夫だ。

 

申し訳ないが、後の事は人外ハンターや、ヨナタン達に任せるしかない。だけれども、色々と、静かな気持ちでいられた。








※ラハムについて

バビロニア神話における祖神ティアマトの子、ラフムの対の存在です。

ラフムは真Vで登場し、その悪辣さと自分を余なんて呼んじゃう傲慢さとどうやっても人質を助けられない展開でプレイヤーの憎悪を集めましたね。真VVでこいつを容赦なくぶちのめして折りたためたときには喝采したものです。その直後の展開に絶句しましたが(笑)

本作のラハムは蛇神の系譜、「子」という属性を辿って転化したものです。これによってリリスの影響力から脱し、邪神として元とは段違いの力も得る事ができました。

現時点でのレベルはフリンより若干上ですが、何しろ転化の経緯が経緯なので、自分の意思で従っています。以降もフリンの片腕として活躍する事になります。



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