もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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母神から堕落し果てた邪神の最後。

神々でも地獄には落ちます。そして堕落の果てに行く先は……最悪の地獄である阿鼻地獄しかありません。

真4の世界ではそもそもゲームオーバー時に地獄にいけるので、存在は確定しています。

つまり、行く先は其処なのです。








3、池袋後始末

「西王母を討ち取ったぞ!」

 

「見事! 人外ハンターもやるではないか!」

 

「いや、やったのはサムライと名乗る連中であるらしいぞ。 それに、あの巫女服の娘であるようだが」

 

「ガイア教団に欲しいますらお達だ。 我等の一番槍を受けもったカガも、良く生き延びた!」

 

そんな事をガイア教徒達が言っている。

 

さて、ここからが本番だ。

 

まずはフジワラは全員の無事を確認、シェルターにも連絡を入れる。

 

五カ所の内、三カ所の戦線はギリギリだった。一方的に相手を叩き伏せていたのは殿の所くらい。

 

銀髪の娘の暴れぶりは遠めに見ていたが、本当に凄まじい強さで、瞠目するばかりだった。実戦は見た事がなかったので判断をこれから上方修正する。頭だけではなく、いざというときは最大戦力の一角として出て貰うことも可能だと言う事がよく分かった。

 

ただそれにしても危うい勝利だった。

 

秀でさえ、堕落黄龍を相手に押し切れていなかったのだ。

 

最初に霊夢が敵の布陣を分析出来ていなかったら、此処を攻略するのにどれほどの犠牲を出すことになったか、分からない。

 

まずは回復魔術を使える悪魔を展開させ、しばらくは休憩に入る。

 

同時に、純喫茶フロリダと、国会議事堂シェルターにも連絡。

 

幸い、どちらも大した敵はこなかったようだ。

 

ただ国会議事堂シェルターは、ずっと阿修羅会の者達が監視していて、余裕はなかったようだが。

 

「よし、志村くん、国会議事堂シェルターから、すぐに装甲バスを回すべく、準備を始めて欲しい。 西王母の犠牲になった人を、少しでも助けたい」

 

「分かりました。 すぐにターミナルを用いて其方に向かいます」

 

「あたしが戻るわ。 バスの護衛は必要でしょう」

 

「頼みます」

 

霊夢が浮き上がると、しゅんと飛んでいく。

 

ガイア教徒達が、霊夢に手を振っている。それを苦々しげに見ているのは、二人の老婆である。

 

霊夢が予想以上にガイア教徒に人気になると困る。

 

そう考えているのかも知れない。

 

実際、力を貴ぶガイア教徒にとっては、圧倒的な強者は単純な尊敬の対象になる。霊夢や秀がそうだ。

 

ガイア教徒が教えを請おうとでもしようとしたら。霊夢が今の東京であんたらの行動はバカ丸出しだとはっきり言う可能性は高い。そうなったら、ガイア教徒達が一斉に信仰を崩す可能性も否定出来ないのだ。

 

あの狡猾な老婆二人には、それは看過できまい。

 

少なくとも内部からガイア教徒が崩れるにしても、自分のせいにされるのは避ける筈だ。

 

サムライ衆は全員ボロボロ。ヨナタンとイザボーが必死に回復を続けている。それと、見慣れない悪魔がいる。

 

調べて見ると、邪神ラハム。

 

バビロニア神話の、ティアマトの娘だ。あの邪神ラフムのつがいとなった存在である。

 

ただし、力を使い果たしたらしいフリンに膝枕して見守っている様子は、邪神という種族とはとても思えない。

 

むしろ心優しそうな娘だった。頭に大胆な縦ロールがむっつもついているが。まあそれはファッションの一つだろう。

 

動けるようになった人外ハンター達が、ニッカリの指示で、西王母の結界に捕らわれていた人々を助け始める。

 

いずれもが悲惨な有様で、目を覆うような惨状だ。

 

西王母は何らかの理由で堕落したのかも知れないが、この有様を見るととても同情などできない。

 

皮を剥がれ肉を削がれ。目をくりぬかれ。

 

まだ生きている人も、ただ生きているというだけの状態だ。

 

回復魔術でどうにか助けようと試みる。

 

だが、それでも。医療班の到着次第、場合によっては判断しなければならないかもしれない。

 

咳払い。

 

イザボーだった。

 

「ちょっともう余力がありませんけれども、応急処置はなんとかしてみますわ」

 

「それほど特化した悪魔の手持ちがあるのか」

 

「ええ。 切り札ですわよ。 もうわたくしが限界近い上に力をごっそり持って行かれるから、出来るだけやりたくなかったのですけれどね」

 

イザボーが呼び出す。

 

これは。

 

驚いた。呼び出されたのは、女神パールバティ。あのインド神話の三柱の最高神の一角、破壊神シヴァの妻だ。薄着の女性だが、それでいながら威厳がある。

 

パールバティが、桁外れの回復魔術を使い始める。

 

目も当てられない有様だった負傷者の皮膚が肉が回復していく。文字通り、奇蹟に近い回復魔術である。

 

息を吹き返した負傷者達。

 

だが、これは心が壊れてしまっているかも知れない。そればかりは、回復魔術ではどうにもできない。

 

時間を掛けていくしかない。

 

イザボーがへたり込む。

 

パールバティも、頷くと消えていた。

 

「有難う、後は僕達がやるよ。 休んでいてくれ」

 

「我々は撤収する」

 

「遅れる奴はおいていくよ」

 

もう後は興味もないと言わんばかりに、ミイとケイが号令。ガイア教団は引いていく。統率が昔の軍のそれだ。

 

カガは、最後に一礼だけして、その場を去った。

 

本当はフリンに礼を言いたかったのかも知れない。見たところ、腕利きと言ってもフリン達を超える程とも思えない。

 

西王母との戦いで生き残れたのは。きっと幸運が原因だったのだろうから。

 

三時間ほどして、霊夢が護衛をする装甲バスが来る。装甲バスとともに、今度は秀と殿に戻って貰う。殿は頷くと、指先で招いてくる。耳打ち。

 

「恐らくこれから池袋には阿修羅会の者どもが来る。 隙を見せるなよ」

 

「分かっています。 池袋の民は、西王母に生け贄を捧げて、生き残る事だけ考えていたでしょう。 阿修羅会が来たら、また守って貰うことだけ考えて、それで旗を変えるでしょうね」

 

「それが分かっているのならそれでいい。 阿修羅会のものどもは近づけるなよ」

 

「はっ」

 

とてとてと、子供らしい動きでバスに乗る殿の憑いている銀髪の娘。堕落玄武を終始圧倒していた凄まじい強さには正直驚かされた。

 

医療班がすぐに酷い状態の者達から優先して、シェルターに運んで行く。また、人外ハンターの大半も乗せていった。

 

今回のために来て貰った六人は、全員生還。重傷者が何名か出たが、取り返しが憑かない状態でもない。

 

前哨戦は、とりあえず此方の勝ちだ。

 

問題は、此処からである。

 

ピストン輸送で負傷者を救助していく。同時に、純喫茶フロリダにすぐにツギハギに戻って貰う。

 

これは純喫茶フロリダも重要拠点だからだ。小沢は信用できる男だが、一人だけで守るのは少し危ない。

 

キャンプ地を設営して、サムライ衆の復帰を待つ。

 

シェルターに戻らないのは、此処を放置すると阿修羅会が確定で来るからだ。今の池袋に連中を入れる訳にはいかない。

 

フジワラも乱戦の中で消耗した。

 

しばらく休んでいると、大柄な男が来る。悪魔だが、悪辣な気は感じない。

 

手にしている大きな薙刀のような武器、何より真っ赤な顔。

 

なるほど、分かった。

 

礼をする。

 

いわゆる包拳礼をだ。

 

相手もそれを返してきていた。

 

「我等の身内が大変な非道を働いてしまった。 道教の神格となっている今は、わしが代わりに謝罪しなければなるまい。 力でもなんでも貸そう」

 

「ありがたい。 これから荒事は幾らでも起きるでしょう。 貴方の力が借りられるのであれば有り難い。 関聖帝君」

 

関聖帝君。

 

道教に神格として取り込まれたあの三国志の関羽である。

 

関羽はそろばんを発明したという伝承があり、商売の神としても祀られた経緯がある。中華街によく設置されていた関帝廟は、関羽を祀るものなのだ。それくらい中華の民には関羽が愛された。

 

だが、関羽が示した義は、誰も愛さなかったし実践もしなかった。

 

中華の歴史は不義と悪辣の繰り返しだ。

 

それを関羽はどんな気持ちで見ていたのだろう。

 

関聖帝君とその眷属の道教神格が集まって来たので、契約をしておく。関聖帝君はすぐに契約を受け入れてくれた。

 

そして、である。

 

邪悪の軛から解き放たれた五神も、姿を取り戻し始めていた。

 

秀に呼ばれて出向くと。

 

半透明になった、霊体の状態の黄龍がいた。周囲には四神を従えている。

 

「邪へと墜ちた西王母によって使役されていた我々を開放していただき感謝する。 我等も助けになりたい」

 

「どうする。 此処を守って貰うのか」

 

「……いや、考えがあります。 黄龍殿。 我々が現在根拠地にしている地点があります。 其処を四神の皆様と守っていただければ、それは大いに助かるのですが」

 

「ふむ、思考を見せてもらった。 国会議事堂とやらの側にあるシェルターなる地か。 元々この東京では、我等を霊的防御に用いていた故に相性は悪くない。 残念ながらまだ力は戻らぬが、少しずつ力が戻り次第守護へと当てよう」

 

これもまた、有り難い話だ。

 

この辺りの悪魔は、関聖帝君に出て貰って、退治して貰う。

 

流石は武勇絶倫の逸話がある関羽。神格化したことで、その強さは更に増しているとも言える。

 

池袋周辺の悪魔を、たちまちに撃ち払ってくれる。

 

しばらくは関羽に任せる。八時間ほどで、フリンが起きてくる。流石にまだ体は痛いようだが。

 

ここからが本番だ。

 

フリンと軽く話をする。

 

池袋の民が他力本願で、それ故つけ込まれた話はすでにしてある。

 

だが、他力本願になった理由を、誰かが考えるだろうか。

 

幼い頃からずっと叩き込まれてきた無力感。

 

日本などでもそれは同じだろう。

 

力が弱かったりハンデがあったりする人間は、基本的に無力感を感じながら生きるものだ。

 

何かしら他者に秀でるものを持ったとしても、他人を上下でしか判断出来ない人間は、それを徹底的に否定に懸かる。

 

それは簡単で、相手が自分より上であることを絶対に認めたくないからだ。

 

こうして社会というものでは、一芸を持っている人間は育たないし、潰されていくものである。

 

自分の足で立てなんて偉そうに言える人間は。

 

単に最初から、それが出来る位置にいただけなのだ。

 

池袋は元から海外の犯罪組織に好きなようにされていた土地。その後は阿修羅会である。

 

自治の意識とか、自分が率先して動くとか。そんな事は考えられない。

 

頭がいないのだ。

 

いたとしても、潰されていた。

 

今の東京の縮図のようなものである。

 

だから、意志薄弱だなんだと言って池袋の民を馬鹿にする事は。それは悪魔と阿修羅会にやりたい放題されて、どうにもならなくなって無力感に包まれていた東京の民全てを馬鹿にするのと同じである。

 

軽くその話をすると、ワルターは頷いていた。

 

「わからないでもない。 俺の近所にも、計算が得意な奴がいて、漁師には向いていなかったが、商人に雇われて結構稼いでいたんだ。 そうしたらそれを生意気だとか言い出した連中が、束になって殴り殺そうとしてな。 商人の家にまで火をつけようとした事があった。 其奴らは計算が得意な奴の近くに住んでいた奴で、其奴を毎日痛めつけて遊んでいたらしくてな。 今の話を聞くと納得が行くぜ。 チンピラ同然のカスだった連中が、自分より下だと見下していた奴が、自分の上になったのを許せなかったんだろうな」

 

「意外ね。 貴方だったら、弱い方が悪いとか言い出しそうだと思ったのだけれど」

 

「ここ最近色々見たからな。 実際問題、どうしてそうなっているのかってのを理解していくと、そういう暴論は口に出来なくなる。 俺は力に恵まれたが、それでも苦手分野はあるし、それなら得意分野を生かしていけばいいだけだって分かってきたんでな」

 

ちなみにワルターによると、そのチンピラどもは、街に来ていた小柄な子供みたいな女に全員海に放り込まれた上に。

 

騒ぎを聞きつけて駆けつけた警邏とサムライに全員つれて行かれて、今では牢屋で臭い飯を食っているそうである。

 

ちょっとフジワラもおかしくなった。意外とこの四人、古くから意識していないだけで関係があったのかも知れない。

 

「それで僕達はどうすればいい?」

 

「一旦池袋は空にする」

 

「!」

 

これは殿と出した結論だ。

 

池袋はとにかく頭がない状態だ。頭がなければ、それは誰も彼も流されるだけである。そこで、一旦切り分けて問題を処理する。

 

池袋の街に入ると、不安そうにしている人達がいた。

 

千人以上はいるだろう。

 

この人数は助けられた。そうフジワラは考えつつ、咳払いをしていた。

 

「人外ハンターのフジワラだ」

 

「フジワラって、あの……?」

 

「西王母を倒してくれたのは、あんたなのか」

 

「残念ながら違う。 西王母は人外ハンターと、頼りになる助っ人達と、それにガイア教団も連携して倒した。 君達ができなかった事だ」

 

勿論即席の連携だったから、高度な戦術など採りようがなかった。大まかな戦術的連携で、最終的には当てた最精鋭の力だよりだった。

 

手を叩いて、ざわめきを止めさせる。

 

「まず第一に、体が弱っている者、子供、老人を救出させて貰う」

 

「いないよ一人も」

 

「……まさか西王母に」

 

「役立たずからエサになってもらうしかなかったんだよ」

 

フリンが前に出ようとするのを止める。

 

流石にブチ切れるのも分かる。

 

此奴ら全員殴り倒したくなるのだって。

 

此奴らは、自分らの中で立場が弱かったり、既に体が弱くなっている者達を率先して生け贄にしていた。

 

前は阿修羅会にそうやって人間を提供していた。

 

勿論集団心理を働かせて、気にくわない者も生け贄にしていたのだろう。

 

阿修羅会の時ですらそう。

 

恐らく、その前の海外の犯罪組織に仕切られていたときですら。

 

ずっとそうだったのだ。

 

フジワラも怒りがこみ上げてくるが、今は断罪の時ではない。この悪しき流れを、断つのが先だ。

 

「君達はこの後どうするつもりだ。 自治なんて出来るのか。 どうせ阿修羅会にまた支配して貰おうとか思っているんじゃないのか」

 

「……」

 

青ざめる連中。

 

バカな連中だ。本当に。

 

だが、人間とはこういうものなのだ。

 

池袋は特に酷いかも知れない。だけれども、他の東京の集落だって、大なり小なりこうなのだ。

 

だったら、一から状況を変えるしかないのである。

 

「はっきり言っておく。 阿修羅会は裏切った君達を許すような組織ではない。 全員つれて行かれて帰ってこられないだろうな」

 

「そんな!」

 

「あんたが助けてくれよ! 伝説の英雄だろう!」

 

「ああ、助けよう。 ただし、池袋は捨てて貰う」

 

殿に言われた。

 

まずはこの愚かしい集団を「分離」しろと。

 

人間は群れで力を発揮できる生物だが、しばしばそれが悪い方向に働く。池袋の状況を聞いた殿は、即座にそれを把握して、具体的な案を出してくれたのだ。

 

最初に人外ハンターを呼び出す。十数人程度か。練度は最低レベルだ。ニッカリを呼んで、連れていかせる。

 

こいつらは一から鍛え直しだ。それぞれ別の班に入れて、徹底的に基礎からやり直させる。

 

それには熟練の人外ハンターであるニッカリが適任である。

 

そしてある程度力がついてきたら、錦糸町などの守りについてもらうことになる。

 

続いて一芸がある人間を呼ぶ。

 

料理が出来る。裁縫が出来る。それでかまわない。そういった人間を選抜して、ピストン輸送でシェルターに送る。

 

老人や子供をあの悪辣な西王母のエサにして生き延びた卑劣さは許しがたいが。

 

こんな環境では、人間はカスになる。

 

それもまた事実なのだ。

 

そうして一芸がある人間をどんどん選抜していくと、ただ声がデカイだけの奴だとか、図体だけデカイ奴が残る。そういう輩は群れているのを的確に分けて、別の場所へと配置する。図体がでかい奴は人外ハンターになって貰う。それを聞くと青ざめるが、一喝。

 

フジワラの一喝に抵抗できる訳もなく、項垂れてつれて行かれる。

 

ニッカリに徹底的にしごき直して貰う。

 

声だけデカイ奴は一番始末が悪い。

 

手下にしているような者達から引き離した後、単純作業をさせることにする。地獄老人が、現在工場にしようとしているシェルターの人手が足りないと言っている。其処に送る事になる。

 

会話が出来ないように一本ダタラ達が監視する中、単純作業を送る事になるだろう。

 

そうしてピストン輸送で装甲バスを使い、どんどん人間をシェルターに運ぶ。一部の人間はシェルター以外に行くが、それは基本荒事をさせるためだ。

 

サムライ衆に来て貰ったのは。池袋の探索と掃除のため。

 

悪魔がそれなりに入り込んでいるし。

 

此処で生け贄を探して血眼になっていた連中から生き延びた子供とかいるかもしれない。それを救助して貰う事になる。

 

サムライ達は頷くと、すぐに探索をはじめてくれた。

 

池袋は空っぽになった。

 

外に出ると、見張りについていた秀が親指で差す。

 

阿修羅会が早速来ている。

 

恐らく大規模作戦は嗅ぎつけていたのだろうが。それにしてもくだらないハイエナをしに来たのだろう。

 

わめき散らしていた下っ端どもが、フジワラが出ると黙る。

 

秀についても、実力は知っているようで。

 

装甲バスが行くのを、歯がみして見守るしかないようだった。

 

前に出てくるのはアベだ。

 

「流石はフジワラさんだ。 池袋を支配していた西王母を倒したようですね。 阿修羅会からも礼を言わせていただきます。 彼奴らには我々も随分殺されましたので」

 

「僕は戦力の一つにすぎない。 西王母を倒したのは此処に集った勇士達さ。 それで何をしに来たんだい。 君達は何一つこの作戦に関与していない。 それでありながら恥知らずにも池袋の所有権でも主張するつもりかね」

 

「元は此処は我々の土地でしたのでね。 ただ、ひょっとして誰も彼も連れて行ってしまったのですか?」

 

「彼等は愚かしい集団心理に飲まれて自活出来る状態ではなかったからね。 池袋はこれから我々で再建する。 君達にとっても、人が誰もいない池袋など、なんの価値もないのではないのかね。 しかも我々と争ってまで手に入れる価値などね」

 

アベが少し考え込む。

 

下っ端達が静かにしているのは、アベとフジワラが話をしているから。

 

此奴らはくだんの「上下関係」に何よりも厳しい。アベには絶対服従なのだ。カスにはそのくらいの理屈で丁度良いのだろう。

 

反吐が出る連中だ。

 

アベも此奴らを従えていて、内心では呆れているのではあるまいか。

 

「いずれにしても迅速な作戦行動、更に我々の行動まで読んだ動き、お見事です。 今からではどうにもできませんね。 今回は完敗です。 しかしながら、いつまでも上手く行くと思わないでいただきたい」

 

「そんなことは思っていない。 いずれ全面対決になるときが来るだろう。 ただそれは今じゃない。 此方も余力が今はあまりないのでね。 もしもやり合う気なら、全力になるが」

 

関聖帝君が、他の道教神格達と一緒に威圧的な壁を作る。

 

それを見て、露骨にアベの手下達が怯む。

 

アベは頷くと、撤収だと手下達に怒鳴る。

 

手下達は、素直に従って。アベも消えた。

 

「危うい綱渡りが続いたが、これで一段落だ。 コーヒーが飲みたいね。 それも合成ではない奴を」

 

「黒くて苦い飲み物らしいな」

 

「ああ。 もう豆はどこにもないだろう。 ひょっとしたらあるかも知れないが、それを育てるところから、だろうね」

 

少し寂しくなるが、とにかくサムライ衆を待つ。

 

程なくして、四人が戻って来た。

 

数人子供を連れている。いずれも、フリン達に手を引かれていて。痩せこけて、今にも倒れそうだった。

 

「倉庫の奥に隠れていたのを見つけて来たよ。 保護してあげられる?」

 

「もちろんだ。 次のバスで連れていく。 先につれて行った池袋の者達とは離した方が良さそうだね。 きちんとそれは僕が指示するよ」

 

「おかあさんが、おにいちゃんをあの悪魔のおばさんに売ったんだ。 僕も売ろうとしてた」

 

まだようやく立って歩けそうになったばかりの年の子が、そんな事を言う。

 

不信の目。

 

フジワラも悲しくなる。

 

「あの恐ろしい悪魔は、そのお姉ちゃん達と私達でやっつけたよ」

 

「そうなの。 本当にもう誰も食べられなくてすむの?」

 

「ああ、なんとかする」

 

「おにいちゃんに会いたいよ……」

 

泣き始める子供。

 

酷い格好で痩せこけていて、性別すら分からない。男の子なのかすらも、定かではない。

 

酷い事だ。

 

バスが戻ってくる。

 

連絡を入れていたので。栄養士と救護班も乗っていた。関聖帝君が元々赤い顔を更に赤くして怒っていた。

 

「西王母め、あのような幼子を……! 我等の恥だ!」

 

「あの子を守ってくれるかい、関羽将軍」

 

「もちろんだ。 我等の恥は、我等で注がねばならぬ! 我等道教のもの、皆貴殿とともにこれから戦おう。 あのようなことをしている輩はまだ東京にいるだろう。 いつでも呼び出してくれ」

 

「義将と名高い貴方の言葉、本当に心強い。 頼みます」

 

包拳礼をかわす。

 

更に幾つか打ち合わせをする。

 

此処でもターミナルがあったらしい。フリン達が出向くそうだ。片手をあげる秀。

 

ターミナルに興味があるらしい。フリンも頷くと、せっかくだから来て欲しいと頼む。まあ、一休みしたばかりだ。

 

ちなみに秀にもスマホは渡してあり、今の時点で開放されているターミナルは機会を見て足を運んで貰ってある。

 

だから、ターミナルを開放すれば、すぐに戻ってくる事が可能だ。

 

あらかたやる事は終わったが、それでも確認はしておく。手持ちの悪魔の内、呼び出せる者達を出して、池袋内での調査をして貰う。

 

フリン達の調査は短時間だがしっかりしていて、もう誰も残っていなかった。

 

あの子供達は、もう少し遅れていたら助けられなかった可能性が高い。西王母は差し出されれば嬉々として喰らっていただろう。そうでなくても、餓死して果てていた可能性が高かった。

 

後は池袋の構造を把握して、それを地図に残す。

 

悪魔召喚プログラムの機能の一つにオートマッピングがある。

 

後、先に別れる際に、一度本格的に会合を持とうとフリン達とは話してある。

 

この戦いを経た後だ。

 

東のミカド国とやらはどうかは分からないが。

 

少なくともフリン達は信頼出来ると判断して良いだろう。

 

最後のバスが来たので、戻る事にした。勿論秀が負けるとは思わない。だから、池袋の調査は任せる。

 

バスの中で少し休憩する。

 

通信が入る。

 

ツギハギからだった。

 

ツギハギはメールだけ送ってくる。一応幾つかの基地局は生きていて、それで連絡は取ることが出来るのだ。

 

ツギハギによると、純喫茶フロリダは小沢が守りきってくれたそうである。ツギハギが調査をしたが、荒らされている場所もなく、特に誰かが機密に触れた様子もない。悪魔に対する襲撃でも対策は完璧だったようだ。

 

実は、僅かだけ小沢を疑っていた。

 

前に天王洲の救出作戦を行った時、タイミングがあまりによく現れたからである。

 

小沢が歴戦の人外ハンターであり、長い戦歴を持つ元自衛官である事はフジワラだって分かっている。

 

だが悪魔が人間の体を乗っ取ったり。

 

或いはこれほどの悪環境で、短時間で人格が悪い方向に変わる事はよくある。フジワラも何度か目撃している。

 

そういう意味で、今の小沢を見極めたいという意図もあって、純喫茶フロリダを一人で任せる時間を作った。

 

それも杞憂だったようだ。

 

後問題なのは、天王洲救出作戦のタイミングで、あまりにも多数の悪魔が国会議事堂シェルターを襲撃したと言う事だ。

 

それを考えると、何かしらまだスパイの存在は想定しておかないといけない。

 

ただ、悪魔の能力を考えると、特に高位の者が相手の場合、どんなことをやらかしてもおかしくは無いのだ。

 

シェルターにつく。

 

池袋からの人員は、早速区画分けして配置されていて。厳しい監視の下で、方向性をもって働かされ始めている。

 

食事も出るし、衣服なども新しいものを支給する。

 

それを知って、彼等はほっとしているようだ。

 

言い訳ではある。

 

此奴らが、自分が助かるために、子供や老人、病人を率先して西王母に差し出していたのは分かっているのだ。

 

しかもそれを主導したのは声ばかり大きい輩や、図体ばかり大きい輩。

 

集団心理そのもの。

 

だから、その集団心理を最初に破壊してしまう。

 

それでいい。

 

悪魔が監視している中、仕事を続けている連中を横目に、司令室に出向くと。地獄老人が復旧したPCのキーボードを凄まじい勢いで叩いていた。

 

「おう、戻ったか」

 

「何かありましたか」

 

「例のレールガンのデータを確認していてな。 既に復旧した核融合炉と連携させれば、恐らくCIWSとしてこの基地周辺に展開する事が出来るであろうな。 空を飛んでいる大型の悪魔が今の時点では仕掛けて来てはいないが、そいつらが気が変わって襲ってきても、痛打を与えられるだろうよ」

 

カカカと笑う老人。

 

よりにもよって、あの大火力をCIWSに。

 

砲身をどうやってもたせるのかとか色々疑問は残るが、短時間でレールガンを作りあげた技術の持ち主だ。

 

まあ、信頼しても良いのだろう。

 

「それと、旋盤や精密機器の精度が上がってきてな、そろそろマザーボードくらいなら作れるようになった。 このまま精度を更に上げて、スマホを一から作る事もそう遠くはないぞ」

 

「素晴らしい。 本当に頼りになりますね」

 

「年は喰わなくなっているからな。 元々科学や知識は好きだ。 優性思想なんぞが大手を振るっていた時代に生まれなければ、違う生き方もあったのかもしれんのう」

 

優性思想か。

 

この人は世界征服を企んでいた時期があったようだと、志村から警告は受けている。そんな人でも、優性思想を愚論と論じているわけだ。

 

まあそうだろうな。

 

実際問題優性思想の最悪の面が東京で蔓延った結果、またたくまに十万にまで人の数は減ってしまい。

 

それどころかタヤマのようなカスが東京を牛耳るに至ったのだ。

 

池袋の惨劇だって、優性思想にそって考えれば西王母は正しいし。西王母に生け贄を捧げていた連中だって正しい事になる。

 

そんなもの。

 

認めてはならない。

 

「問題は電子機器は悪魔には無力という点でな。 幾つか試してみたが、堅牢なLinuxでもあっと言う間に防御を貫通されていたわ。 当面は霊的防御とやらは悪魔召喚プログラムに付随しているプロテクトプログラムに依存するしかないのう。 此処のメインPCも、悪魔召喚プログラムのプロテクトを途中で導入して、それでかろうじて悪魔に乗っ取られるのを防いだようだからのう」

 

「それを前提にアップデートは出来ますか」

 

「今の時点で機能拡張は考えなくてもよかろう。 このシェルターにしてもまだ復旧の途上で、リソースはありあまっておる。 今後天王寺などの拠点に再進出する時に、そういう事を考えなければならぬであろうな」

 

後幾つかの打ち合わせをした後。

 

フジワラも休む事にする。

 

風呂に入ってから、酒が欲しいなと思ったけれども。

 

既に戦いの前に全て飲んでしまったか。

 

酒などの嗜好品は後だ。

 

一応作る方法は分かっているし、地獄老人が手が空いたら作ってくれると言っていたけれども。

 

それも後回しで良い。

 

医療品や幼児用のミルクなど、もっと大事なものを先に生産しなければならないのだ。

 

子供の生まれない生きられない世界に未来なんぞない。

 

それはあの最果ての時代……大戦前夜を経験しているフジワラが、いやというほど知っている事だった。

 

一眠りする。

 

眠るときも護衛の悪魔は立てる。

 

阿修羅会と激しい抗争をしていた頃は、何度も寝込みを襲われた。

 

それでついた癖だった。

 

鍛え抜かれたフジワラの悪魔達は、生半可な奇襲なんて許さないし。関聖帝君を初めとする精鋭が加わってくれた。

 

安心して眠る。

 

不安要素はある。

 

だが、それでも、今回は完全勝利だ。

 

このまま、東京を少しずつ、確実に悪辣な悪魔の手から取り戻し。未来を作らなければならない。

 

長年の酷使が祟って、フジワラの体もガタが来始めている。

 

いつ戦えなくなるか、分かったものではない。

 

更に言えば、フジワラもツギハギも後継者と呼べる存在がまだ育っていないのである。

 

だから、まだ。

 

倒れるわけにはいかないのだ。

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