池袋の民は反吐が出る連中だった。それはフジワラが連中を仕分けして、安全圏に送り出す途中で見た。
ワルターは特にキレていたようだった。
フリンもはっきりいってブッ殺してやりたいと思ったが、それでは悪魔と同じだ。フジワラは信頼出来る。
今回の戦いでそれが分かったし。
まずはそれを元に、今後の戦略を練っていくべきだろう。
秀が加わってくれたことで、池袋の調査も楽に進んでいる。
先にアナーヒターが、浄化の水で地下をひたひたにしてくれた。それで安全を確保。それからターミナルがあるようなら探す。
汚物だらけだった地下も、浄化の水でだいぶまともになっている。
周囲に気を配りながら歩く。
ラハムというとても頼りになる悪魔が転化してくれたが。
消耗が大きいので、常時出しておくわけにもいかないのだ。
地下二階で、反応がある。
此処も地下に深い構造になっていて、元は街だったようだ。既に物資はあらかた食べ尽くしてしまっていたようだが。
「其処にターミナルの反応よ」
「よし、これで戻れるな。 それにしても、綺麗さっぱりなくなったもんだな」
「人外ハンターの支部もあったけれど、機能はしていなかったようですわね」
「戦える者もいたと言うのに」
ヨナタンが口惜しそうにしている。
自分が此処にいたら、と考えているのだろうか。
だが、ヨナタン一人では恐らくどうにも出来なかっただろう。
それを考えると、僕としても無責任なことをいえない。
フジワラの話を聞く限り、この街は何世代もかけて、腐るだけ腐っていったのである。
賢王が仮にでても駄目だっただろうし。
ましてやそれぞれの人間が考えを改めるなんて無理だ。
さて、咳払いして、深呼吸。
どうせターミナルにはかなり面倒なのがいる。
頷きあうと、シャッターというのをあげて、内部に踏み込む。
やはり其処は領域になっていた。
歩いて来るのは、腰が曲がった老人だ。
白い髭を蓄えていて、髭の先が地面にまでついていた。
勿論見かけ通りの存在じゃない。
気配がいつもの奴と同じだ。
「ふおっふおっふおっ。 きたかきたか。 おお、今回は強そうなのを助っ人に連れているねえ」
「ターミナルに巣くっているあんたに興味があるらしいよ。 それで何を出してくるつもり?」
「そうさな。 趣向を少し変えてみるか。 いでよ、ヒラニヤカシプ!」
すっと現れるのは、今までのものとは随分違う雰囲気の相手だ。
腕がたくさん生えていて、荒々しい神というのは分かる。だが、今までの相手みたいな圧倒的な力は感じない。
そそくさとさがる老人。
バロウズが警告してくる。
「圧倒的な不死性を持つ悪魔よ。 神話にて、神にも悪魔にも龍にも人にも、あらゆる武器にも、朝にも昼にも夜にも、家の外でも中でも、地上でも空中でも殺されないという性質を持っていたとされているわ」
「なんだよそれ。 どうするの?」
「……ふっ。 どうすればいいのかな?」
ヒラニヤカシプは六本の腕を三対腕組みして、こちらをじっと見ている。
これは、攻撃をしてくるつもりはないということか。
なるほど、知恵比べというわけだ。
「我に攻撃を届かせてみよ。 それで認めてやろう」
「……バロウズ、ちょっといい」
バロウズに時間を確認して貰う。
幸い今は夕方か。好都合だ。朝でも昼でも夜でもない。
ただ、僕は人だし、あの堅牢そうな肉体。生半可な一撃では届かないだろう。
地面に牙の槍を突き刺す。
ドカンと音がしたので、またイザボーが跳び上がっていた。
「魔術をまず試してみよう」
「りょ、了解しましたわ!」
「俺は呪いの魔術を使えるようになったから、それで行ってみるぜ!」
まず、皆で魔術担当の悪魔を召喚。
片っ端から魔術を叩きこんで貰う。
勿論その中には、ラハムとアナーヒターもいるが。
あらゆる魔術が、悉く通じなかった。
「次、毒とかそういうのも!」
「よし……」
ワルターが呼び出したナーガが、猛毒をヒラニヤカシプに吐きつける。コカクチョウが眠りの魔術を叩き込み、相手を錯乱させる魔術や、麻痺させる魔術なんかもそれぞれの手持ちが叩き込む。
だが、ヒラニヤカシプは涼しい顔である。
なるほど、分かった。
悪魔を下げて貰う。
「多分これは、悪魔と言うだけで駄目だね」
「かといって、武器も駄目なんだろ」
「うん。 徒手空拳はいけるかな?」
「別にかまわぬが、この我にそなた等の非力な徒手空拳など届くかな?」
挑発してくるヒラニヤカシプ。
やるなら支援魔術を掛けてから、チャージを使って更に力を高め、それでぶん殴るのが一番か。
いや、まて。
秀さんに視線を送る。
秀さんが頷くと、前に出た。
そして、話に聞いていた悪魔ともつかない姿に化身。それを見て、イザボーが驚きの声を上げる。
巨大な腕を振るい上げて、爪で一気に引き裂きに懸かる化身秀さん。
だが、ばちんと激しい音を立てて弾かれていた。
化身を解く秀さん。
「良い線を突いてきたな。 だがその姿は悪魔に分類されるな。 しかし惜しかったぞ」
「仕方がない、やるか……」
ラハムに目配せ。
頷くと、ラハムが側に浮いたまま、僕と一緒に来る。
直接歩いて来た僕を見て、ヒラニヤカシプがにやついたままだが。
僕の拳に、ラハムが髪の毛を巻き付けていくのを見て、それで顔色を変えていた。
「ワルター、ヨナタン、イザボー、発射台を作って!」
「よしきた!」
「イザボー、二人がかりで背中をワルターとあわせて、支えるんだ!」
「ちょっとまて! 通ればいい! 通れば!」
ワルターが腰を落として、背中をヨナタンとイザボーとあわせて、発射台になってくれる。
更に此処は秀さんにも協力して貰う。
両腕を交差させて、発射台になってくれたワルターに、跳躍し。
そしてフルパワーで蹴り出す。
凄まじい衝撃を、三人がかりの発射台が、数倍に増幅してくれる。そして僕は、総力での突撃。
あわてて防御態勢に入るヒラニヤカシプだが、さっと割り込んできた秀さんに、僕はフルパワーでの拳を叩き込み。
秀さんは震脚を使って、その衝撃を、真っ青になっているヒラニヤカシプに完璧に伝達していた。
武芸十八般に通じているという話だったし、体術も出来ると判断していたが。
やっぱりやってくれたか。
僕のフルパワーを、人間でも悪魔でもない秀さんが、ついでに昼でも夜でもない夕方で、家の外と中か関係無い此処で、とどめに地面でも空中でもない地下空間で叩き込んだのである。
完璧。
思い切りふっとんだヒラニヤカシプが、壁に叩き付けられて、ひでぶとか面白い悲鳴を上げて。
泡を吹いて気絶していた。
秀さんが完璧に僕のパワーを伝達してくれた結果だ。
「おお、模範解答ではないか! 実はこいつは弱体化しているから、お前さんの拳でも充分だったのだがな」
「それはどうも。 それでどうするの?」
「此処は自由に使うといい。 それと……」
「?」
普段はすぐにいなくなるのに。
ターミナルの守護者は妙な事を言う。
「お前さん達の誰もがしらん連中が、東京で動き出しているでな。 今までの既存の勢力だけを警戒していると足下をすくわれるかもしれんぞ」
「……気を付けるよ」
「ひょひょひょ。 ではな」
老人が消える。
領域が消える。
渋い顔をして手を振っている秀さん。流石に僕の一撃を伝える過程で、少しいたかったらしい。
ごめんなさいと素直に謝って、回復の魔術を掛けておく。
ターミナルが出現していたので、僕達は一度戻る。多分向こうでは何ヶ月か経過している筈だ。
春になっているかも知れない。
秀さんも、頷くと、ターミナルを使って戻っていく。
一度解散だ。
此処からは、状況も状態も変わっての。
仕切り直しである。
(続)
原作だと人間の悪い所を余すところなく見せていた池袋の民。
ですが正直な話、此処まで追い込まれると人間はどれだけでも醜くなると思います。
更正は出来ないかも知れません。
ですが、それでも尽力してみるのが人間としてのあり方ではないのでしょうか。
なお、最後に登場したヒラニヤカシプは、ビシュヌがとんちで倒したアスラの一体です。本作では種族魔王になりますね。仮にメガテンに登場した場合は、難攻不落の防御スキルをガン盛りした相手として出現することになるか、或いはギミックボスになると思います。
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