もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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エジプト神話でホルス達神々と激しく戦った悪神ですが。ただの悪神ではなく、エジプト文明が異民族などの強大な外敵との戦いをしたときには普通に信仰もされた存在、セト。

セトは女神転生シリーズではかなり優遇されている悪魔で、真Ⅱではサタンの半身だったり、小説版でボスを務めたりもしています。

本作でのセトはあくまで現時点ではガイア教団の側で様子見をしているだけですが。

元々エジプト神話で強大な軍神であり反逆の神であったことに代わりは無いのです。






3、軛が外れる

霊夢は速度を上げる。追跡してきている悪魔はかなりの大物だ。

 

銀座に威力偵察に出ていた。そうしたら、空中で絡まれた。それもかなりの大物である。後方から殺気をまき散らして迫ってきているのは、あれは龍か。いや、違う。色々な生物の特徴を取り込んだ姿。

 

何処かの邪神だ。

 

乾いた風。

 

叩き込んでくるそれを回避しつつ、高度を上げる。

 

こいつからは、乾いた砂漠の気配がある。

 

あまり戦いに、周囲を巻き込めないし。しかも実力は、あの西王母に勝るとも劣らないだろう。

 

「人間の割りには的確な状況判断だ。 余と同格の存在があの銀座にはまだいると判断して、即時撤退を決めたか」

 

「何者かしら、貴方」

 

「我は砂漠の軍神。 邪神と貶められつつも、戦いがあるときは都合良く勝利を願われた神格。 太古の神にて、現在の魔の祖にも通じるもの」

 

「ああ、それで分かったわ。 その混ざり合っている姿。 それでありながら蛇神の系譜の頂点に近い存在。 貴方はセトね」

 

ふっと黒い龍が笑う。

 

大当たりか。

 

セト。

 

エジプト神話の最高位に近い神格だ。どちらかと言えばヒールになる。オシリスやその子のホルスとの戦いの逸話が伝わっているが、話はそう簡単ではない。

 

元々砂漠の神で軍神であったセトは、平時には遠ざけられ、戦時には崇められたという性質を持っている。砂漠の神で軍神となると他にも類例がいるのだが、セトに関する一致点が、目の前の悪魔には多すぎた。

 

霊夢は元々日本の怪異専門だった。だが、幻想郷を出る時に、世界中の神々について学んだのだ。

 

恐らく今の東京には、残った人間の信仰を求めて世界中の神々と魔がいるだろうから、と。

 

知恵の神であるオモイカネ……今は八意永琳と名乗っているが。そいつの手ほどきを受けながら、世界中の神話と、その特性を頭に叩き込んだ。戦いと修行を兼ねながら、である。

 

身が入ったのは、天使だかしらないが、連中の攻撃でたくさん殺されたのが理由だ。奴らは霊夢の友人もたくさん奪っていった。

 

外では、ほぼ全ての人間が同じように殺された。

 

それを聞いてしまうと。

 

霊夢としても、戦いに身が入るのも、当然だとは言えた。

 

「一神教の「敵対者」のモデルにもなっているのでしたっけ貴方」

 

「まあほんの僅かだけな。 余の直系子孫というわけでもないよあ奴は。 今や天の座の監視役ですらある。 敵対者という概念が文字通り最大限に拡大解釈された結果だな。 元々は悪さをする天使、くらいの意味であったのだが」

 

「そう、それであたしとやりあうつもり?」

 

「……いや。 下の方から余を狙っている強い力もある。 余としては、銀座に近付く強敵を排除できれば良い。 ガイア教団はまだ使い路がある。 それに……なんだかよく分からん連中も動いている様だしな」

 

今の、わざと伝えたな。

 

そういえば、秀もターミナルの主から似たような事を言われたらしい。

 

ターミナルの主については、だいたい正体の見当がついている。だとすると、恐らく蠢動しているのは。

 

まあ、それはいいか、

 

セトとやりあったら無事ではすまない。

 

負けるとは言わないが、この辺りにどれだけの被害が出るかも分からなかった。

 

「ではな強き娘。 ああそうだ、余の子を産まぬか? 余としても眷属が増えてくれれば、動きやすくなるのだが」

 

「お断りよ」

 

「カカカ、そうか。 ……下手に銀座には近寄るなよ。 余はともかく、荒っぽいものも多いぞ」

 

ひゅんと、セトが消える。

 

あれはまずいな。

 

セトは強い。それだけではない。銀座には、セトと同格か、それに近い力を幾つも感じた。

 

或いはだが、阿修羅会とは関係無い堕天使の類は、あらかたガイア教団の手が掛かっているのかも知れない。他にも邪神やダークサイドの神々は。

 

一度地上に降りる。

 

マーメイドが霊夢を見ていた。

 

「戦いは避けたのね霊夢さん」

 

「ええ。 あんなのとまともにやりあっていたら命が幾つあってもたりないわ。 幻想郷にいた頃は、地獄の女神が最強だと思っていたのだけれどね。 彼奴ですら、外の神々の中では、上の下から中程度でしかなかった。 神々や悪魔に弱体化が入っていても、ガイア教団を今内偵するのは厳しいわね」

 

「……そう」

 

マーメイドは誰かを探している。

 

それはどうも混沌勢力の何者からしいのだが。誰かという話になると、寂しげに笑って会話をうちきってしまう。

 

元は奥手で内気な子なのだ。

 

それが分かるから、どうにも心の中にずかずか踏み込む気にはなれない。

 

他のマーメイドが人間を容赦なく殺して水に沈めているのとは随分違うが。

 

何かしら理由はあるのかも知れない。

 

シェルターから秀が出てくる。何処かしらのターミナルでも使ったのだろう。秀は六本木の方に出向いていたはずだが。

 

「何か問題があったの?」

 

「ああ。 必殺の霊帝国防兵器とやらの実力を確認してきた。 あれは恐らくだが、西王母に匹敵する強さだ。 元は兎も角、この国の神格であるということが大きいのだろうな」

 

「厄介ね。 少しずつ東京の状態が緩和してきたと思ったのだけれど。 一気にひっくり返る可能性が出て来たわ」

 

「……」

 

マーメイドが悲しそうに目を伏せる。

 

今もっとも警戒すべき最悪の状況は、ガイア教団と阿修羅会の連合だ。もしもガイア教団がガイア教徒ではなく、背後に控えている悪魔達を出してきたら。

 

更に言えば、今タヤマは籠城に必殺の霊的国防兵器をあらかた回している。タヤマがそれだけ憶病ということなのだが。

 

問題はそれを攻勢に回してきた場合。

 

今まで人外ハンター協会で確認している情報によると、必殺の霊的国防兵器には七柱いるという。

 

その内一柱については、霊夢に縁がある存在の分霊体だ。

 

分霊体だがこの国でも最上位層に存在する神格であるため、恐らく意思疎通が可能。戦闘を避けることが可能だろう。これについては、つい最近幻想郷から知らせが来て知った。

 

問題は他六柱だが、そのうち一柱はどうも阿修羅会の軛を脱しているらしい。が、居場所がわからない。これも幻想郷情報だ。これが分かった理由については、偶然だそうで。まだ確定情報ではないらしいが。

 

また一柱はマサカド公本人の事で、此方は東京を覆う天蓋と化してしまっているため、今の時点で阿修羅会の影響下にはない。

 

つまり現時点で問題になるのは四柱だが。

 

その内一柱は南光坊天海。

 

問題になる正体が分からない相手は残り三柱か。

 

また一柱は、どうやら隠し玉としてしられる存在で、少なくとも阿修羅会の制御下にはない八番目であるそうだ。

 

「何かしら縁がありそうな気配は感じなかった?」

 

「……奴らが抑えている市ヶ谷という場所に三柱。 六本木ヒルズと言う所に南光坊天海の気配があった。 恐らくだが、そうなると一柱はタヤマが切り札として持っているとみて良いだろう」

 

「了解。 さて、此処からね問題は。 ガイア教団は想像以上に多くの大物悪魔が手を貸している。 対抗するには、日本神話系の神々の封印を砕くしかない」

 

特に重要なのは天照大神だ。

 

日本神話の主神である天照大神は、この闇に覆われた東京では文字通りの鍵となる存在だろう。

 

実は日本神話における最重要神格、いわゆる三貴神のうち、月夜見……あの腐った月の都を作った存在の一柱だが。そもそもそれは分霊体の行動であって、実体を持って日本で活動していた分霊も存在していたらしいのだ。

 

月夜見は現在幻想郷で傷ついた体を休めている。

 

どの面を下げて来た。殺してしまえという声もあったが。

 

日本の神格でもっとも重要な三柱の一角だ。殺せば全てが潰える。それに月夜見は月の都では道教系の神々に主導権を握られ、胸くその悪い幾多の行為には手を貸してはいなかったらしい。

 

分霊体であった、というのも原因なのだろう。

 

ともかく相談するか。

 

シェルターに入ると、フジワラが慌ただしく指示を飛ばしていた。

 

何かあったな。

 

そう判断したが、それは当たっていた。

 

「丁度良いところに来てくれた」

 

「うん? どうかしたのかしら」

 

「どうやら六本木で問題が起きたようだ。 阿修羅会が総出で警戒態勢に入っている。 これが我々に対する行動に関するものか、それとも防御的な行動であるのかは、現在分析中だ」

 

「では此方も威力偵察の結果の話をするわ」

 

銀髪の娘と、地獄老人。

 

それにテレビ会議でツギハギと志村や小沢、それにニッカリにも参加して貰って、情報を展開する。

 

ガイア教団に強力な守護の悪魔がついていることは、人外ハンターの間でも周知であったらしい。

 

このご時世だ。

 

ガイア教団に入ったり抜けたりした人外ハンターもいる。

 

そして力が全てのガイア教団では、抜ける者は放置である。そんな弱者はどうでもいいという思考だからだ。

 

だから情報も漏れやすい、

 

これは阿修羅会についても同じ事が言えるが。

 

ともかく、今回でその話を実例をもって確認出来た、というわけだ。

 

「まさかセトか。 ホルスを初めとするエジプトの神々と年単位で戦い続けた強者だ。 神話での戦闘力は、古代神格でも上位に入る……!」

 

「しかもそれと同等のが何体もいるわねあれは。 迂闊に手出し出来ないわよ。 もしもあれらが本気で仕掛けて来た場合、あたし達も総力戦の末に力尽きるかもね」

 

「……ともかく今は迂闊に仕掛けないことが吉ですな」

 

「そうなるわね」

 

今の東京は問題で満ちているというか、問題だらけだが。

 

下手にガイア教団を刺激するのはまずいというのがよく分かった。

 

ガイア教団を実質的に仕切っているのはリリスという噂があるようだが。霊夢が見たところ、リリスはただエサ……神々に対する信仰や恐れとなる人間を指導するだけの立場に過ぎない。

 

実際の指導者は別だろう。

 

フジワラは咳払いして、秀に聞く。

 

「六本木から戻ったばかりで申し訳ないのですが、そのような強い気配は感じませんでしたか?」

 

「いや、特には感じていない」

 

「だとすると気配を絞れる悪魔なのかも知れないですね」

 

「暗殺特化などの性質を持つ悪魔か。 厄介な話だ……」

 

この間、人質交換の時に連絡用のラインが阿修羅会につながった。

 

向こうから連絡が来ても、基本的にはフジワラかツギハギしか取らないようにしているようだが。

 

これは相手が舐められたら終わりの界隈に生きている存在だからだ。

 

だから、敢えてこちらの最高位の存在が出る事で、連絡用のラインを切らないようにするわけだ。

 

近代戦は、相手の総司令部を粉々にするような真似は滅多にしないそうだ。

 

これは相手を降伏に追い込む必要があるからで、皆殺しなんて真似はまずありえないから、らしい。

 

だが、今東京で行われているのは近代戦だろうか。

 

霊夢の思うところ、まだフジワラはその辺り、どこかで人間を信じてしまっているのかも知れない。

 

「一度状況を整理するぞ」

 

銀髪の娘についている例の存在が言うと、一気に空気が変わる。

 

まあそれは当然だろう。

 

今や誰もが認める人外ハンターの長だ。

 

勿論絶対の存在なんかいないだろうが、全てが傑出している。霊夢もこの存在より的確に判断が出来る自信は無い。

 

「新宿はこの間、サムライ達を見極めるついでにわしが見てきた。 他に現在もっとも問題を起こしている集落は」

 

「はい。 阿修羅会とガイア教団に支配されている集落を除くと、周辺の雑魚は掃討が進み、徘徊していた大物悪魔も駆除が進んでいます。 現時点で、即時で危険な場所はありません」

 

「よし、ではうって出るべき時だ。 そしてその狙いはガイア教団ではなく、阿修羅会だな」

 

現時点で、必殺の霊的国防兵器を阿修羅会が攻勢に出してくる可能性は。

 

それを確認すると、ツギハギが重い口を開いていた。

 

「ほぼゼロかと。 タヤマは憶病な男で、手札を知られるのを極端に怖れています。 今までシェルターにけしかけた悪魔があらかたやられた事実を考えると、リスクを冒してまで博打に出る事はあり得ないかと」

 

「よし。 阿修羅会が現在抑えている新宿御苑を狙う」

 

さっと緊張が走った。

 

阿修羅会が抑えている新宿御苑には、封魔塔という拠点がある。これは正体がよく分かっていない場所で、フジワラやツギハギ、アキラが四大天使と戦った場所であるらしいのだが。

 

倒した天使達がどうなったのか、結局分からなかったらしい。

 

その後忙しくなって放置したところ、いつのまにか阿修羅会が高位堕天使数体を連れ、更には魔王も連れて制圧。

 

おまけに最近では鴉……東京で活動している珍しい大天使。大天使マスティマ……マンセマットの姿を目撃した例があるそうだ。

 

また新宿御苑の周囲では、阿修羅会が奴隷労働を行っていて、野菜を作っている。この野菜が現在価値が暴落しているが、それは当然で、シェルターの水耕プラントで新鮮な野菜が膨大に作られ、出回り始めたからだ。

 

今まで野菜屑ですら信じられないような値段がついていたが、今や誰でも新鮮な野菜を食べられる。

 

しかも東のミカド国から持ち込まれた野菜の品種で、更に栄養面が良くなって来ており。近々鶏卵も量産ラインに乗せられる。

 

鶏卵も出回るようになると、阿修羅会はますます立場がなくなるのだが。

 

それはともかく、新宿御苑周辺の畑は既に阿修羅会にとって価値がなくなっており、完全に放棄しているようだ。

 

塔に関しては多少の見張りを置いているようだが。

 

それも、黙らせてしまえば問題はない。

 

「その塔の護衛をしていた悪魔は、以前の襲撃で霊夢達が撃ち倒した。 現在塔の守りは、マンセマットと雑魚だけとみて良い。 塔を制圧して、内部に何があるのを確認するのはいまだ。 場合によっては完全破壊する」

 

「分かりました。 それで作戦ですが」

 

「秀」

 

こくりと頷く秀。

 

まず土地勘がある小沢と一緒に、六本木に侵入。

 

もしも阿修羅会が攻勢を目論んでいるようなら、一度戻る。何かしらの脅威に振り回されて対応に追われているようなら、その内容を確認。最終的には情報を持ち帰る。

 

そう指示されると、秀は頷いていた。

 

「威力偵察だけで良いのですか」

 

「もしも必殺の霊的国防兵器とやらを出された場合、秀でも生還がギリギリになる。 今は無茶をする時間ではない」

 

「確かにそうですね」

 

「志村。 現在動いている、西王母と戦ったサムライ達を呼び出せるか」

 

志村が立ち上がると、所見を述べる。

 

現在彼等は恐らく池袋に出向いており、そこで黒いサムライを探している可能性が高いという。

 

特にフリンは黒いサムライに家族を皆殺しにされているも同然であり、相当に怒りが強いようだと。

 

「こう提案しろ。 黒いサムライと戦う際に此方が手を貸す」

 

「分かりました。 しかし、相手はあのフリンが西王母より強い可能性が高いと言っているほどの相手ですが」

 

「此方も力を上げている」

 

「……分かりました」

 

殿は言う。

 

今の時点で、あの者達と強いつながりを作っておいた方が良いと。

 

他のサムライ達は良くも悪くも平凡な使い手で、しかも公務員の色彩が強い。

 

今シェルターに入り浸ってナナシにかまっているナバールと言うサムライがいるが、その男くらいだ。東京に入れ込んでいるのは。

 

だが、フリン達は違う。

 

霊夢達とも馴染むのが早く、行動も言動も論理的だ。

 

道を踏み外す前に色々此方から働きかけて、連携して東京を。場合によっては東のミカド国も救う方が良いだろう。

 

それが出来る可能性があるのだ。

 

やるべきだ、と。

 

「フリン達と連携して、塔の攻略を目指すのですか」

 

「できればな。 阿修羅会の混乱の様子からして、数日で問題が片付くような事はあるまい。 急ぎは急ぎだが、あまり此方の意思を押しつけるような真似は避けよ」

 

「はっ!」

 

志村もすっかり部下になっているな。

 

でもそれでいいと思う。

 

霊夢も明らかに正しい判断をしているのは分かるし。この判断力も決断力も、今までのフジワラに決定的に欠けていたものだ。

 

それでいて、重要事以外は各自に任せている。

 

組織の長としては、全て自分でやらないと言う点でとても優れていると言えるだろう。

 

残念ながら、幻想郷の賢者達にこんなに出来る奴はいなかったな。

 

霊夢はそう考えて、少し悲しくなった。

 

「準備が整い次第仕掛ける。 池袋のジュンク堂でサムライ達が黒いサムライとやらと遭遇する可能性はどれほどだと思う」

 

「低くはないかと思います」

 

「分かった。 霊夢、わしと出向くぞ。 志村も来い」

 

「了解」

 

すぐに組織全てが動く。

 

地獄老人は出番がなかったが、部屋を銀髪の娘が出る時に、幾つか細かい指示を出していた。

 

いずれも専門的な用語で、霊夢にはよく分からなかったが、地獄老人には通じているようだった。

 

つまり短期間で現在の専門用語を把握して会話していると言う事か。

 

いやはや凄まじい。幻想郷にも頭が良いことを売りにしている奴はいくらでもいたのに、これはちょっと相手が悪い。

 

一連の全ての事が終わったら、幻想郷に顧問として来て欲しい位だ。

 

そう霊夢は思った。

 

 

 

六本木は現在封鎖されており、入るためには監視の悪魔や阿修羅会の目を潜り、複雑な経路を通らなければならない。

 

小沢は秀にその経路を一度説明しただけ。

 

それなのに、まるで歴戦のレンジャーのように問題なく敵から身を伏せ、小沢も舌を巻くほどクリアリングが早い。

 

同期だとどうしても志村やニッカリが比較対象になるが。

 

常に上には上がいる。

 

それを噛みしめながら、小沢は行く。

 

父は自衛官だった。

 

家族で自衛官で。父はどうも特務でガイア教徒と戦っていたらしい節がある。家族の前でそういう話はしなかったが。平和ボケしていた日本でも、その程度の事はやっていたらしいのだ。

 

大戦の時、小沢の父は東京にいなかった。

 

各地で戦闘が勃発して、核が世界中の主要都市に着弾する中、小沢の父は戦地に残った。

 

生きている可能性は皆無だ。

 

だが、それでも。最後まで戦った父は、小沢の誇り。

 

特務の指揮官だった父の魂は、小沢が引き継ぐのだ。

 

瓦礫を潜って、六本木に。

 

くだらないタワマンが立ち並ぶ土地。その中の一つに、今もタヤマが手下達とともに住んでいる。

 

狙撃はやれと言われたら実の所成功させる自信がある。

 

だがタヤマは何の切り札を持っているか分からない。

 

必殺の霊的国防兵器の内、最強の一柱は、何らかの形で護衛にしているのではないのかと小沢は踏んでいて。

 

どうも悪魔であるらしいアベではないかと思ったのだが。

 

それもどうも違うように思う。

 

アベは明らかに自分の意思でタヤマに従っている。

 

あのタヤマ程度にだ。

 

それは必殺の霊的国防兵器だったらあり得ない。護国のために作りあげられた存在は、護国よりもそも民のために戦う事を主としている。将門公がそうであったように。

 

自主的意思でタヤマに従うはずがなく、それを考えると色々と不可解だった。

 

「伏せろ」

 

秀に言われて、即座に瓦礫に隠れる。

 

空を飛んでいるのは、何かの堕天使か。明らかに必死に逃げているが、それを追っている存在が一つ。

 

中空から斬り下げられる。

 

悲鳴も上がらず、堕天使は斬り伏せられ、散った。

 

あれは凄まじい。

 

殺気というのは、錯覚だ。五感から感じている恐怖が殺気として自覚しているものの正体だ。

 

それが分かっていても、凄まじい殺気に背筋が凍る。

 

まるで伝承にある忍者のような動きをして、その影は消えた。

 

「あれは恐らく必殺の霊的国防兵器だな。 南光坊天海と実力が拮抗する」

 

「!」

 

「……」

 

それだけ言うと、秀は黙り込んでしまった。

 

小沢は状況を分析したいと提案。秀はこくりと頷くと、偵察の最中護衛をしてくれる。

 

前に六本木に潜入した時、彼方此方に仕掛けをしておいた。

 

破壊工作の布石もあるし、盗聴器もある。

 

ただオンラインだと悪魔に侵入されてどうにもならなくなる。そのため、昔ながらのカセットテープなどが役に立つ。意外と悪魔は高度テクノロジーの天敵であり、逆に基礎的なテクノロジーの方が有効だったりする。

 

MBTの相互リンクシステムなどはそうそうに悪魔に乗っ取られてしまい、同士討ちまで引き起こした。

 

そのため戦車兵達は、膨大な予算をつぎ込んで作ったそれらのシステムを黙らせなければならず。名人芸で悪魔とやりあわなければならなかった。

 

それも戦車部隊がそうそうにやられてしまった理由の一つだった。

 

だが、悪魔が電子戦のスペシャリストであるのは、大きな犠牲の末に分かった。

 

それは、戦車兵達の残した遺産。

 

それを無駄には出来ない。

 

幾つかの情報を集めながら、悪魔も放って偵察を続ける。阿修羅会の者達も、殺気だって走り回っていた。

 

「くそっ! どうしてこんなことに!」

 

「霊的国防兵器はタヤマさんに絶対服従じゃなかったのかよ!」

 

「知るか! とにかく大物が使える奴に声を掛けろ! タヤマさんはなんだって言ってる!?」

 

「それが、他の霊的国防兵器は動かせないって……」

 

声には絶望が混じっている。

 

それはそうだろう。

 

霊的国防兵器というだけの事はある。あいつの強さは生半可な悪魔の比ではない。さっき殺されたのも大物の堕天使のようだったが、鎧柚一触だった。

 

「クラブミルトンが顧客ごと潰された! 大量に集められていた赤玉が……」

 

「くそっ! 赤玉の提供がおぼつかねえのに!」

 

「どうするんだよ! あそこが機能しなくなったら、阿修羅会に協力してくれている悪魔が、みんな俺たちに……」

 

「喚いていないで走れ! 他の地域にいる連中も呼び戻せ!」

 

冗談、ではないし。

 

演技でもないな。

 

カルトでもそうなのだが。反社も頭が良いのは基本的に上層部だ。下っ端は基本的にアホである。

 

いや、違うか。

 

思考停止した連中というべきか。

 

それも形式上のトップは頭がいいわけではない場合も多い。実際には支配者はその側にいる目立たない奴だったりすることが多いのだ。

 

阿修羅会の場合はタヤマではなくアベが仕切っている可能性が極めて高い。恐らくこれは、アベが有効な手を打てていないとみて良いだろう。

 

そう秀に説明する。

 

秀もそう判断したようで、説明に頷いていた。

 

これだけ分かれば充分だ。

 

一度戻る。

 

霊夢の方は、きちんとやれているだろうか。六本木周りの守りもガタガタになっていて、帰路も楽だった。

 

敢えて情報を掴ませるという戦術もある。

 

だが、この混乱ぶり。それに阿修羅会の下っ端が、それをできる程統率が取れているとは思えないし。

 

あの言動、嘘とは思えなかった。

 

クラブミルトンと言えば、阿修羅会の重要拠点の一つで、悪魔を大量に集めて何かしていると聞いている。

 

人肉料理を提供しているという噂もあったが。

 

或いは赤玉を提供して、それで阿修羅会が手なづけられる悪魔を其処で懐柔していたのかも知れない。

 

いずれにしても、生きて戻るまでが重要事だ。

 

瓦礫の中で身を潜める。後方で、鋭い叱責が飛んでいた。距離はかなり遠い。文字通り雷鳴のような怒号だった。

 

「人々を苦しめ、雑多な悪魔どもの贄にする悪党が! 我がまとめて斬り伏せてくれる!」

 

「ひいっ! た、たすけ……」

 

「ぎゃああっ!」

 

「死ねっ外道!」

 

断末魔が立て続けに響く。

 

なるほどな。

 

今の声、恐らく例の霊的国防兵器だ。

 

だとすると、完全に制御を失って、自律的意思で動いている。そうなると、恐らくは阿修羅会を自律意思で敵認定したわけだ。

 

ほうっておけばあいつだけで阿修羅会を壊滅させてくれるかも知れないが。

 

そこまで甘くは無いだろう。

 

如何に憶病なタヤマといえど、あれが暴れ続ければ、いずれ他の霊的国防兵器を出す筈。

 

そうなれば、一体では何もできないだろう。

 

むしろ。

 

「あれを味方につけられれば、話は変わってくる」

 

「……」

 

独りごちる。

 

だが、東京を守れてこなかった不甲斐ない人外ハンターの言葉、聞いてくれるだろうか。

 

いずれにしても小沢が判断する場面では無い。

 

険しい顔をしている秀の様子からしても、あれが理性的に此方の話を聞いてくれるとは思えない。

 

それも、西王母みたいに陣を張って其処に居座っている訳でもない。好き勝手に動き回るのを補足して、それでまずは会話を出来る状態にまで持ち込む必要もあるだろう。

 

あれは形はともあれ。

 

クエビコのように、暴走状態に陥っているのだから。

 

シェルターに戻る。

 

急いで戻って来た小沢に、歩哨が敬礼する。

 

すぐにフジワラの所に出向くと。フジワラが、険しい顔で何か会話していた。テレビ電話の先には、霊夢がいる。

 

司令室のスクリーンに映し出されている。

 

一緒にいる志村が、機械の調整をしているようだ。

 

「まずいわね。 戦端が開かれているし、あのフリンらしくもない本気でブチ切れている状態よ」

 

「或いは黒いサムライに遭遇したのかも知れない。 一旦距離を取って、様子を見るべきか」

 

「……黒いサムライ。 遠目に見て分かったけれど、あれが着込んでいるのはデモニカね」

 

「!」

 

デモニカ。

 

大戦末期に少数だけが提供された試作品の兵器。極地行動用の自己強化AIを組み込んでいるスーツで、まだ完成度は低かったが、わずかな精鋭がこれを着て、大いに悪魔を倒した実績のあるスーツだ。

 

本来は宇宙開発用だとか、或いは今は存在がはっきりしている魔界を探査するために開発されたのではないかとか言われているが。

 

それもどうもはっきりしない。

 

ちなみに小沢は着ていない。

 

目の前でこれを着ていた第一空挺団の隊員が殺されたのを見たが、立派な最期だった。それくらいだ。

 

「このシェルターから持ち出したものではないだろうな。 恐らく殺された隊員から奪い取ったものだろう」

 

そう地獄老人がいう。

 

まあドクターヘルでもいいが。

 

確かにその意見には同意できる。このシェルターは厳重に封印されていて、大悪魔でも簡単に入れる場所ではなかったのだから。此処には今四着デモニカがあるのだが、それ以外の在庫を持ち出せたとは考えにくい。

 

「霊夢さん。 殿と連携しての戦闘で、どうにか押さえ込めませんか」

 

「フリンは今己の全てを賭けて相手に挑んでいるわ。 サムライ三人もそれは同じのようね。 あれは横から手出しをすると、一生恨まれるわよ」

 

「同感だ。 今は動くべきではない。 もしもフリンが敗れそうになった場合は、わしと霊夢で抱えて脱出すると言いたい所だが……」

 

「如何なさいました」

 

どうにもおかしいそうだ。

 

フリンとあの黒いサムライが、戦っているには戦っているのだが。

 

黒いサムライが反撃している様子がないという。

 

なんどもなんども殺されては、平気で起き上がってきているというのだ。

 

既に二十回以上は殺されているとみて良いとか。

 

「あのガイア教団を抑えていると思われるリリスと高確率で同一存在と思われる黒いサムライとやらがか」

 

「そうよ地獄爺さん。 あれは何かしらの理由があってやっていると見て良さそうね」

 

「……気をつけてください霊夢さん。 フリンがもしガイア教団にでも取り込まれたら、大変な事態になります」

 

「分かっている。 その場合は、最悪……」

 

以上は、言う必要もなかった。

 

激しい戦闘音が、此処まで響いている。

 

これはひょっとしてだが、封魔塔を攻略どころではなくなったか。

 

いずれにしても敬礼して、フジワラに六本木で起きている事について、説明をしておく。今でも小沢はレンジャーのつもりだ。

 

だったら、敵地に侵入して持ち帰った情報は、出来るだけ正確に伝えなければならない。判断するのは小沢では無く、フジワラと殿だ。

 

「そうか、どうやらフリではなく、本当に必殺の霊的国防兵器が暴走しているようだね」

 

「判断をお願いいたします」

 

「放っておけ。 阿修羅会は恐らく当面それでかかりっきりになる。 問題は一つずつ解決していく。 此方には、まとめて複数の大目標を達成するほどの戦力がまだない。 今、我等と友好的な関係を構築できているサムライとの仲を悪化させるわけにもいかないし、背後で様子見に徹している可能性が高い天使の介入をもう一度招くときわめて分が悪い」

 

殿は理路整然といい、小沢もそれで確かに納得出来る。

 

焦っても上手く行かない。

 

それで状態を変えられるわけでもないのだ。

 

「小沢くん、休憩に入ってくれ。 それと秀さんは、最悪の事態に備えて、池袋に向かって欲しい。 疲れている所悪いのだが」

 

こくりと頷くと、秀はその場を離れる。

 

どうやら、事態が一気にカオスになって来たようだ。池袋の西王母を倒して、少し状況が落ち着いたと思ったのに。

 

それは、幻想に過ぎなかったのかも知れなかった。








※小沢について

この話で少し描写していますが、この小沢は真女神転生カーンに登場した自衛官オザワの息子です。ただしカーンとは別世界線での話なので名字とか状況が少し違います(ちなみにカーンの方は尾沢)

あちらのオザワも色々あった人ですが、本作の方ではもう十年ちょっと大戦の発生が遅かった結果、息子が自衛官になり、本人も幹部自衛官になっています。

そして大戦では東京では無い戦地で、最後まで持ち場を守って亡くなりました。

小沢さんは大戦の時は新入り自衛官でしたが、そんな父の魂を受け継いで、今ではベテランとして東京で戦っているのです。

同じ名前の別人(オザワ)が真1、真2世界線にもいますが。彼等も実は別世界線の同一人物だったりします。

世界が変われば人は変わります。

真4でも、砂漠の世界、爆炎の世界で、アキラがまるで別人であったように。









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