もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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はいというわけで此処から人外ハンターとフリン達は戦略的に連携して行動する事になります。

既にギャビーに対する不審が相当に高まっていることもあり、その言う事を素直に聞くつもりもありません。

ある意味原作における最大のポカが、本作ではどうなるのか。

其方もお楽しみに。





3、塔の話

霊夢が戻ると、丁度フリン等が来ていた。秀も戻っている。

 

あのマーメイドがかなりやられた。

 

その話を聞いて、あわてて戻って来たのが。相手がケツアルコアトルだと聞いて、納得したものだ。

 

それはそうだろう。

 

南米神話の主神である。それとある程度まともに戦えただけでも凄い。霊夢と秀が二人がかりで、やっと勝負になるかという相手だ。

 

銀髪の娘も所用で外していて、フジワラもそれに同行していた所だった。

 

完璧に虚を突かれたのである。

 

それでも守りきれたのだから、これでよしとするしかなかった。

 

まずは情報を展開する。

 

フリン達は黒いサムライを連行したものの、やはり最終的には逃げられたようだ。まあそうだろうなと霊夢も思う。

 

あれはほぼ確定でリリスで。

 

しかもあの様子だと余程面倒な仕掛けをしていたとみて良い。

 

上には大天使級の天使達が多くいた可能性が高く、それらによる処刑からも逃れる自信があるから捕まったのだろうし。

 

それはフリン達にもどうにもできない。

 

志村が挙手。

 

「申し訳ないがフリン殿」

 

「うん、フリンでいいですよ」

 

「了解。 サムライ衆の皆、現在我々は戦略的な目標に、話にあった塔の攻略を据えている。 其方にも有益な話だと思うのだが、乗って貰えるか」

 

「詳しく」

 

すぐにフリンも乗ってくる。

 

阿修羅会の力を徹底的に削ぐために、必要な行動だ。

 

此方としても利がある。

 

問題は、上で塔をどうにかしろと、大天使と思われる存在に言われたという事である。

 

だとすると、塔に封じられているのは、なんだ。

 

「現在我々で確認した所、新宿御苑には監視用の雑魚悪魔が放されているが、本来監視に当たっていた悪魔の大半はその場を離れている。 幾らかの野菜畑があるが、あまりいい野菜は作れていないようだ。 強制労働されている人々が五十名ほど。 働かなければ連れていくと脅されていること、それに働けば当時は貴重品だった野菜屑を恵んで貰えること。 それもあって、其処から逃げられなかったようだ」

 

「聞けば聞くほど最低な連中だ」

 

フリンがぼやく。

 

まあそうだろう。霊夢も同じ意見だし。

 

これを「素晴らしい事だ」なんて思う奴はいるのだろうか。いや、いるのかも知れない。大戦が始まる前は、そういうおかしな事を考える輩がたくさんいて、霊夢の所の支配者層も頭を抱えていたようだったから。

 

「作戦は何段階かにわけて行う。 第一段階は、まずは塔にいる大物の排除。 塔には今、大天使マンセマットがいることが分かっている」

 

「大天使が東京に?」

 

「訳ありの奴でね。 悪魔を使役する能力を持っている、一神教でいうところのダークサイドの天使なんだ」

 

ヨナタンに、フジワラが話す。

 

大天使マンセマット、マスティマともいうが。モーセの逃避行に登場する大天使だ。

 

堕天使とされることも多いが、それにしてはおかしな事が多い。一神教では汚れ役をする天使を片っ端から堕天使扱いしたこともある。

 

そういう風潮の犠牲者だろう。

 

いずれにしても、東京では悪魔からも鴉と言われて忌み嫌われているようだ。

 

「六本木にいる阿修羅会は、今別の問題に追われて対処中だ。 援軍の到着は気にしなくてもいい。 霊夢くん、サムライ衆の皆と連携して、鴉を押さえ込めるか」

 

「厳しいわね。 もう一人つけてくれる?」

 

「……」

 

挙手したのは銀髪の娘。

 

そうか、この子が加わってくれるなら心強い。

 

池袋の戦いで、鬼札のこの子の存在は既に阿修羅会側にも漏れている。だったら、更にそれを印象づけると言う訳だ。

 

それによって本当の今の人外ハンターの指導者がこの子だと思われる可能性は更に減るのである。

 

ただ問題はまだある。

 

「問題はそれだけじゃないわ。 鴉の……マンセマットの手札がどれくらいあるか、によるわね」

 

霊夢が知る限り、マンセマットは掃除屋だ。

 

天界の掃除屋が何を守っているかは知らない。だがそこにあるものを守れないなら、マンセマットがその場にいるとは思えない。

 

あれだけ恨みを買っているのだ。天使という時点で。

 

野良の大物が仕掛けて来るかも知れない。その状態でのうのうとしているのだ。生半可な戦力では攻略されない自信を持っているとみて良い。

 

マンセマットとの戦闘だけで、霊夢と銀髪の娘、サムライ衆を加算しておきたい。

 

それ以外に何がいるか次第では、更に予備戦力を招集したいところだ。

 

銀髪の娘が手を上げて、トイレに出向く。

 

ふむ、あれは何かあるな。

 

微笑ましい光景ではない。

 

まだフリン達には、あの娘に憑いている存在が、人外ハンターの指導者とは明かしていないのだ。

 

フリン達は信用できるかも知れないが。

 

ばれる経路は、一つでも少ない方がいい。

 

同時に、フジワラのスマホがなる。ツギハギからだといって、フジワラがその場を離れる。

 

なるほど、何かあったな。

 

しばらくして、先に銀髪の娘が戻ってくる。

 

そして何事もなかったかのように、作られたばかりのオレンジジュースを飲み始める。生産ラインが作られて、今ではそれなりの数が生産されているのだ。元々地下のビオトープにはオレンジの木が生きていて。壊血病対策に育てられていたそれが、少しずつ東京で拡がり始めている。

 

時間をずらして、フジワラも戻る。

 

フリンは小首を傾げていた。

 

この脳筋に見える娘が、実はかなり頭が回ることを霊夢は気付いている。こういう工作も、やがて見抜かれる可能性が高い。

 

「純喫茶フロリダが悪魔の襲撃にあったが、退けた」

 

「久々ですね。 被害がなかったのなら良かったのですが」

 

「大丈夫。 ツギハギもアキラとともに戦った一人だ。 その程度でやられるほど柔ではないさ」

 

咳払いすると、フジワラは言う。

 

思い出したのだが、と。

 

「今回フリン君達からもたらされた話によると、東のミカド国がそもそもとしてあの塔を名指しで攻略対象として指示している。 だとすると、塔にあるもの次第では、それはそのまま大天使達の利益になりかねない」

 

「……確かに東のミカド国を大天使達が支配しているのだとすれば、その可能性はありますね」

 

「ああ。 大天使達が今何を考えているか分からない状態だ。 その真意がわかるまでは、塔を制圧しても、中にあるものを下手に弄らない方が良いのかも知れない」

 

「そうだな。 何も考えずに動いていたら、とんでもない事になるかもしれねえ」

 

ワルターが言う。

 

いずれにしても、確かに。これは恐らく殿の入れ知恵だろうが。そのまま考え無しに塔を触るのは悪手だろう。

 

霊夢は咳払いして、ならば余計に急いだ方が良いと提案。

 

「阿修羅会が出てこない現状であれば、塔を潰すのに総力を挙げられる可能性が高いでしょうね。 秀にも来て貰いましょうか」

 

「いいえ、私が行くわ」

 

不意にマーメイドが発言する。

 

ちょっと驚いた。

 

こう言う会議では、殆ど口を開かないのだが。

 

だとすると、此処は秀に守って貰うことになるか。後、今回の襲撃では、フジワラがいなかったこともまずかった。

 

フジワラはたまたまこの場を外れていたこともあり、関聖帝君を初めとする強力な手持ちを展開出来なかったことが、襲撃による被害を拡大したのだ。

 

秀は凄腕だし、フジワラの手持ちとあわせれば、そうそう下手な相手に遅れを取る事はないだろう。

 

やがて、フジワラが決断していた。

 

「よし、では塔を攻略するための作戦を発動する。 第一段階で、志村くん、小沢くん、ニッカリくん、君達が人外ハンター達を連れて、威力偵察をしてほしい。 新宿御苑の現在の守りを確認する」

 

「最近腕を上げて来ているナナシとアサヒを連れていきたいのですが、よろしいですか」

 

「ああ、かまわない。 二人もかなり戦えるようになって来ていると聞いている。 最前線に投入するのは流石に避けた方が良いだろうが、今回も手札が多い方が良い」

 

「イエッサ!」

 

ニッカリが少し嬉しそうにする中、志村が敬礼する。

 

まあ、ニッカリにして見れば、自分の子供みたいなものだ。ナナシは孤児だと聞くし、アサヒも父親だけしかおらず、錦糸町のハンター皆で可愛がっていたらしいから。まあそれも納得出来る。

 

子供が一人前になれば。

 

まっとうな親なら嬉しいものである。

 

「第二段階は塔に仕掛けつつ、装甲バスを横付けして、強制労働されている人員を救出する。 装甲バスには医療班を同道させる。 恐らく状態が悪い人員もいる筈で、雑多な悪魔を排除する必要もある」

 

「しかし彼処に残りたいというものが出たらどうしますか」

 

「いや、その可能性はないよ。 既に彼処にも、新鮮な野菜が安く出回り始めている話が拡がっていて、阿修羅会が箝口令を敷いていてももう誰も知っている。 人外ハンター協会が、立場が悪い人を引き取っている話もな」

 

志村がそれを告げる。

 

一寸法師を偵察に出して、情報を探ったらしい。

 

幻魔一寸法師は極めて小さい事もあり、こういうのは得意中の得意だそうだ。

 

幻想郷にいた小人を思い出してしまう。

 

少しだけ、悲しかった。

 

「第二段階では、霊夢君、マーメイドと同時にフリン君達も出てほしい。 頼めるだろうか」

 

「良いでしょう。 敵はただ者ではなさそうですし、仕掛けるのに協力します」

 

「ありがたい」

 

フリンは協力的だ。助かる。

 

まあフリンにして見れば、今はギャビーとか言う奴の不審行動について、確信を取りたいのだろう。

 

あの様子だと、東のミカド国にも協力者を囲い始めている可能性が高い。

 

そもそも黒いサムライをまんまと逃がした時点で、東のミカド国の支配者層への不信も更に募っているようだし。

 

「第三段階では、塔を完全制圧した後、内部を調査する。 地獄老人、いやドクターヘルと呼んだ方がいいかな。 出て貰えるだろうか」

 

「任せておけ。 少しずつデータが揃ってきて、アティルト界とやらの正体が分かり始めた所だが、まだ仮説の域を出ておらんでな。 完全にそれを解き明かしたとき、悪魔共も神とやらも、今までのようにやりたい放題を出来なくなるわ」

 

カカカと邪悪に笑う地獄老人。

 

霊夢としては、大丈夫かこいつとは思うが、まあ仕方もないだろう。

 

幾つか質問が出て、それを丁寧にフジワラが捌く。

 

これは恐らく、殿と事前に打ち合わせをしていたのだろう。

 

やがて最終的な撤収などについてもプランが出され、それで決定される。既に此処で訓練された人外ハンターは装備も練度も以前より上がって来ており。以前は野良の腕利きに頼らなければならなかった場面も、そうしなくて良くなって来ている。

 

西王母戦で活躍していたリッパー鹿目というハンターは、個室を貰えるなら此処に移りたいと言ってきているそうで。

 

今フジワラが対応を検討中だそうだ。

 

かなり危険な性質の持ち主なので、簡単にはいとは言えないのだろう。

 

だが、制御出来る範囲内の腕利きであれば、一人でも制御下におきたいだろうし。

 

此処にて共闘して貰うのは大いにアリだ。

 

咳払いする霊夢。

 

「塔の攻略が済んだ後、少し協力して欲しい事があるのだけれど、良いかしら」

 

「なんだい。 出来る範囲であれば」

 

「大国主命の目撃報告が出ているらしくてね」

 

「!」

 

大国主命。

 

国津神の総元締めである。

 

日本の大物神格はあらかたロウ勢力に封印されてしまったが、大国主命はごく一部だけを逃がすことに成功したらしい。

 

ただし荒神として暴れているようで。

 

被害が出てしまっているそうだ。

 

今、目撃報告から移動の癖を割り出して、最終的には調伏して、元に戻したいところである。

 

国津神としても、外来種に好き放題されている状態は好ましくない筈。

 

日本神話の高位神格を呼び戻すことが出来れば、少なくとも大天使だろうがなんだろうが、この国で好き勝手はできなくなる。

 

どうしてこの国の高位神格が封じられてしまったのかは少し興味もあるのだが。

 

ともかく、その状態を打開すれば。

 

霊夢も更に強力な神降ろしを使える。

 

もっとも、体力の消耗が凄まじいから、連戦で使う事は出来ないし。天照大神の神降ろしをやる場合、下手すると翌日は丸一日動けなくなる覚悟がいるが。

 

「大国主命を開放できれば、この地下のカオスが収束に向かう可能性も高い。 情報の整理や分析、お願い出来るかしら。 あたしの勘で探し廻るのでもいいのだけれども、こう大規模作戦が立て続けにあると、恐らく手が回らないからね」

 

「今電子戦部隊を組織しておる。 そやつらにやらせよう」

 

「お願いね」

 

地獄老人が任せろとにっと笑う。

 

凶暴な笑みだが、まあ良いだろう。

 

後は流れで一旦解散とする。

 

ただ、マーメイドに話は聞いておく。マーメイドも霊夢の視線を受けて、話がある事は悟ったようだった。

 

「どうして今回はでることに決めたの?」

 

「ここに来たのは目的があってのことなの。 勿論、こんな状態になっている世界を見捨てるつもりはないから、少なくとも落ち着くまではつきあうつもりよ。 でもそれには、一つとても大事な事があって」

 

「あんたの目的ね。 そもそもあんた、この世界の存在なのかしら」

 

「わたしの目的は、まだ話せないわ。 ごめんなさい」

 

金属の床に潜ると、そのまま消えてしまうマーメイド。

 

勘は働く。

 

あいつが結構な面倒な目的を抱えて来ている事は分かっている。

 

地獄で秀を紹介してもらって、合流してから幻想郷を出た。

 

それから比較的すぐにあのマーメイドとは出会った。

 

勘が告げていた。

 

こいつは必ず助けになると。

 

幻想郷にいた心優しい人魚は戦いに向いていなかったが、このマーメイドはとにかく戦闘力も高く、それに良心的だったから、とても助かった。

 

あのマーメイドが抱えている問題は、恐らく霊夢の不利益にはならない。それも勘でわかっている。

 

だが、あまりにも巨大な問題を抱えているように思えてならないのだ。

 

いずれにしても主神クラスの悪魔が出て来た以上、此方も戦力の出し惜しみはしていられないだろう。

 

幾つか退魔道具を持ち出すか。

 

それと。

 

最近分かってきたが、恐らく此処に裏切り者はいない。何かしらの方法で、限定的に情報を外部から探っている奴がいる。

 

最初は霊夢は小沢を疑っていたのだが、衰えていない勘が違うと告げている。

 

それに対しても、何かしらの手を打たないといけない。

 

今後は西王母と同等か、それ以上の悪魔が出てくるのが当たり前になるだろう。

 

そういう事態を見越して、手札は幾らでも用意しておかなければならなかった。

 

 

 

作戦までの間に、フリン達は二度東のミカド国に戻った。持ち込んだ物資と遺物を交換して、それを持ち帰るためだ。

 

フジワラが指定した野菜の種などの物資を持ち込んだフリン達には、地獄老人が本当に感謝していた。

 

現在存在している生産ラインに乗せれば、更に出来る事が増えるそうだ。

 

既に鶏卵の生産ラインは完成が近く、シェルターの外部に新鮮な鶏卵が出回る日は近いそうである。

 

志村は銃の整備を続ける。

 

この間の対西王母戦では、志村は出番がなかった。今回は初撃での敵戦力の見極めと、雑魚の誘引、更には制圧が仕事としてある。

 

志村の仕事は多い。

 

更に、である。

 

ナナシは今、悪魔との素手での組み手に励んでいる。汗を流して、ひたすら武芸を叩き込んでいる相手は。

 

巨大な牛の頭を持つ鬼。

 

妖鬼ゴズキだ。

 

地獄の獄卒としてしられる鬼で、もっとも一般的な地獄の鬼といって良い存在だろう。他にも馬の頭を持つメズキという鬼もいる。

 

罪人を怖れさせ苦しめるために恐ろしい姿と力を持っているが、本来は地獄の公務員であり、ただ仕事のまま罪人に刑罰を科しているだけである。

 

ナナシはまだまだ流石にゴズキを相手に圧倒とはいかないが。それでもかなりいい勝負が出来ている。

 

ゴズキは真面目な地獄の獄卒として、意外と扱いやすい悪魔だ。少なくとも、生きている人間を無闇に殺すような事はしない。

 

今もナナシのスパーリングの相手として、大まじめに戦ってくれていた。

 

アクロバティックな動きで、後ろ回し蹴りを叩き込むナナシ。頭を狙った一撃。更に受けたゴズキの腕を起点にして、空中で機動して踵落としまで叩き込む。殺意が高い連携だが、ゴズキは問題なく受けきっていた。

 

「いいぞ、もっと打ってこい」

 

「そうかい、じゃあやらせてもらうぜ!」

 

着地すると同時に、打撃技、蹴り技、次々叩き込むナナシ。どれが有効なのか、試しているようだ。

 

最近は大剣を使いたいと言っていて、ドワーフが作っている。

 

ドワーフも分かるのだろう。

 

この若者が有望だと言う事は。

 

それでありながら、銃はまだちょっと扱いが雑だ。

 

幸い弾は生産ラインに乗り、数が充分に確保できるようになっている。だから志村が銃をアサヒとナナシに教えている。

 

アサヒはナナシほど格闘戦は出来ないが、銃の扱いは凄い。

 

既に狙撃のイロハを習得して、中距離での制圧射撃についてもかなり腕を上げて来ている。

 

ナナシは逆に、拳銃を用いての近距離戦に特化したいようで。

 

そのうちショットガンを渡して、破壊力の高いスラッグ弾などでの近距離格闘戦と連携した銃撃を仕込みたかった。

 

しばらく汗を掻いていたナナシが上がる。

 

もう既に、ずぶの素人のハンターより強い。

 

近くでフリン達の戦いを見ていたし、この間は暇を見てワルターに剣の稽古をつけて貰っていた。

 

それもあるのだろう。

 

「ありがとな、ゴズキのおっさん」

 

「おう。 わしを従えて、皆を守れるくらいに早くなれ」

 

「分かってるさ。 志村のおっさん、お待たせ。 銃の方頼むわ」

 

「ああ、任せておけ。 次も大きな作戦になる。 苦手分野があるのは仕方がないが、それでも出来る事は多い方が良い」

 

射撃場に移動する。

 

地上に作った射撃場は、国会議事堂の正面……戦闘になりやすい場所ではなく、裏手にある。

 

流石にシェルター内に射撃場は作れなかったのだ。

 

其処で、構えから教えて、銃を撃たせる。やはりセンスがないようで、ナナシはどうしても射撃が苦手なようだ。特に長物には苦手意識がついてしまっている。

 

「遠距離は駄目だな。 やっぱり近距離で格闘戦とあわせる銃撃がやりたい」

 

「これを使って見るか」

 

「おお、でっかい銃だな!」

 

「デザートイーグルだ。 大口径のマグナム弾を撃てることもあって、小型から中型の悪魔には決定打になる。 ただし反動が凄まじいから、お前の体格だと下手をすると骨を折るぞ」

 

使ってみせる。

 

しっかり態勢を整えてから打たないと、志村の体格でもガンと衝撃が来る。これは50口径のマグナム弾を用いるモデルだが、市販品としては最高クラスの破壊力を発揮する拳銃として、米国で愛されただけのことはある。

 

ナナシは凄く嬉しそうにデザートイーグルを受け取る。まあ、こういうのが好きなのは男子のサガだ。

 

構えから教え込む。

 

戦闘中で移動しながらの射撃なんかは、まずは撃てるようになってからだ。ナナシはどうしても戦後世代の子供だから、栄養が足りておらず、体格が小さい。これはアサヒも同じである。

 

ただナナシは生体マグネタイトに恵まれているようで。見かけよりずっと力が強い。

 

射撃の反動も、筋力で押さえ込めているようだ。

 

それにフリン等と一緒に戦ったり、最近では危険度が低い地点での悪魔退治を人外ハンターとしてやっていて、それでマグネタイトを吸収していることもある。

 

確実に力はついてきている。

 

近距離でも、射撃は外れる。

 

それをやらせてみて、はっきり理解させるところからだ。

 

拳銃なんて、完全にド素人が扱った場合、至近距離ですら外すことがある。数度弾を無駄にしてから、ナナシもそれを理解した。

 

愕然としているナナシに、どう撃つのかを実演する。

 

どんな凄い武器でも、使いこなせなければ意味がないのである。

 

しばらく撃つときの姿勢などを教えて、弾を無駄にしながら、近距離での射撃を徹底的に叩き込む。

 

これでも小口径の拳銃は使えるようになっては来ている。

 

筋力も見かけよりはずっとある。

 

だが大口径の銃の強烈な反動と、それによるブレは、ナナシも即座には使いこなせないようだった。

 

「クソ、難しい!」

 

「だが使いこなせれば雑魚悪魔なら一発でやれるぞ」

 

「それは分かってる。 弾に色々細工したら、大物にだって決定打になるんだろ」

 

「ああ。 だから使いこなせるようになろう」

 

学習で大事なのは、教える側の観察だとこのあいだ「殿」に聞かされた。

 

殿もいい師匠についたらしく、その人から軍略をはじめとする学問を叩き込まれたらしいのだが。

 

その師匠も歴戦を重ねる中で、軍略などを解説している書物に書かれている事が机上論だったりする例には何度も遭遇したし、その場での判断が大事になる事も理解した。そう殿にいったそうだ。

 

殿が誰かはだいたい見当がついているが、そうなると師匠も見当がつく。

 

故に、今の話は非常にためになる。

 

志村も戦歴を重ねて来たが、それとぴったり重なる。

 

今だからこそ、その言葉を飲み込みつつ。

 

後続に技を伝えなければならないのだ。

 

「これはいきなり実戦投入は無理だな」

 

「ええっ! 使いたいよ」

 

「駄目だ。 次の戦いまでに、使えるようになろう。 良いか、お前はこれからなんだ。 俺たちみたいにもう引退する年なのに戦ってる爺とは違う。 だから、これからの事を考えて戦え。 本当だったら実戦に出るのだって早すぎるくらいなんだ。 今は充分すぎる位できている。 だから、焦らずに覚えよう」

 

「ちぇっ」

 

悔しそうに唇を尖らせるナナシだが。

 

少しずつ表情が柔らかくなっているのは、志村も知っている。

 

特にニッカリとたまにあうと、凄く嬉しそうにしているし。子供らしい表情も浮かべるようになっていた。

 

基礎を徹底的に叩き込む。

 

それで今日は終わる。

 

疲れたと言ってさがるナナシ。

 

代わりに、人外ハンターと混じっての哨戒からアサヒは戻って来た。

 

接近戦はてんで駄目だが、狙撃を初めとする支援銃撃はもう充分に一丁前だ。それもあって、雑魚相手だったら人外ハンターや悪魔と連携しての戦闘で、ナナシよりも役に立てるまである。

 

ナナシは色々出来るが、まだまだ基礎を固めている晩成型。

 

それにたいしてアサヒは、かなり初動が早い。

 

ただし最終的には、ナナシの方が強くなりそうだと思う。

 

アサヒがナナシに気があるのは志村も分かっている。ナナシの方も、アサヒの事を悪くは思っていないようだ。

 

この二人の子供が出来る頃には。東京に太陽を取り戻せないだろうか。

 

東のミカド国となんとか折り合いをつけて。

 

東のミカド国の背後にいる可能性が高い大天使達をどうにかして。

 

それで。

 

そんな風に、老人だから考えてしまうのだ。

 

「志村さん、ナナシの面倒を見ていたの?」

 

「ああ。 接近戦はもう最近はゴズキが相手になっている。 俺は銃撃の基礎を叩き込んでいる状態だな」

 

「ナナシは無理に銃を使わなくても良いんじゃない?」

 

「そうもいかない」

 

あのフリンと比べると、どうしてもナナシはフィジカルで見劣りする。あっちが規格外すぎるというのもあるのだが、剣や槍だけで、あの規格外と同じように戦うのは無理だろう。

 

だから近代兵器である銃がいる。

 

長物は苦手と明言しているから、今後は威力を強化した拳銃を、近接格闘戦に混ぜた戦い方をさせるのが現実的だ。

 

故に教える。

 

それだけである。

 

アサヒにはM16を渡して、機動しながらの戦闘を教えているが、そろそろ教える事がなくなる。

 

的の間を走らせながら、的確に的を撃ち抜く訓練をさせているが、命中率が著しく高い。これは恐らく、才能によるものだろう。

 

体力も結構ある。

 

これは元からのものではなく、戦場でマグネタイトを吸収しているからだと思う。

 

志村もそれは同じで。この年でも実は自衛隊に入隊した頃と大して変わらないくらいの体力はある。

 

だが何かしらで体を壊したら、一気に動けなくなることも分かるので。

 

とにかく後続に技を引き継がないといけないのだ。

 

「よし、いいぞ。 次は一寸法師を相手の訓練だ。 頼む、一寸法師」

 

幻魔一寸法師を召喚する。

 

一寸法師には盾を持たせる。それで動き回って貰い、アサヒの射撃でそれを撃ち抜いて貰うのだ。

 

元々精密射撃にはそれほど向いていないアサルトだが。

 

それでもアサヒの腕なら、普通の相手なら弾をばらまいて当てる事ができる。ただし一寸法師は歴戦を重ねて本来よりかなり強くなっている。

 

アサヒの射撃を余裕綽々で見切って、距離次第ではまったく弾を受けない。

 

アサヒがもうと不満の声を上げる。

 

本当に当たらないからだ。

 

「もう少し距離を縮めてみよう。 一寸法師、すまないが頼む」

 

一寸法師は逸話もあるが、女性に極めて甘い。そこで、アサヒの銃撃訓練にも文句一つ言わずにつきあう。

 

しばらく射撃訓練をして、それで切り上げる。

 

そもそもアサヒは悪魔との戦いから戻って来た所なのだ。

 

ナナシもそうだが、本来は中学に通って、それでバカみたいな話をして笑っている年頃である。

 

ナナシは不良として先生の手を患わせていただろうか。

 

アサヒは真面目な子になっていそうだ。

 

それももう、かなわない話。

 

今はとにかく、戦う力をつけて貰うしかない。

 

訓練を切り上げて、それで休む。

 

作戦の日時は、明後日と戻ると告げられた。

 

この間の西王母戦で、決定打になった武器。大型の携行式レールガンが、小型化した上に性能据え置きで、調整されているのを見る。

 

ドクターヘルが大喜びでその作業をしていて。狙撃も三発までならいけると嬉しそうに話していた。

 

ただしバッテリーが問題だ。

 

今もバッテリーの性能を上げているようだが、三発撃ったら使い捨てだそうである。

 

幸い昔の処理もろくにできない危険なバッテリーではなく、処理も普通に出来るバッテリーだそうだが。

 

それでも被弾したりしたら非常に危険だ。

 

使用は最初の制圧時ではなく、霊夢さんやフリン達が突入する第二段階に入っての、支援をする状況でのものになるだろう。

 

ドクターヘルが気付いて、声を掛けて来る。

 

「恐らく作戦決行までに二丁……いや三丁を仕上げられる。 今回はお前さんもでるんだったな。 小沢とお前さんにこれを持って貰う事になる。 狙撃銃としては、普通の長物と同じように扱えるようにしておくし、弾丸には仕掛けをするから気にせずぶっ放せ」

 

「分かりました」

 

銃弾はそれそのものが通じない悪魔が結構多い。

 

酷い場合は跳ね返されたりする。

 

だがここで使う弾丸は、霊夢さんが仕掛けを施すらしく、そんな銃弾を反射する悪魔を普通に貫けるそうだ。

 

銃弾の速度もマッハ20を超えるらしく、弾の大きさから言っても、大物悪魔に痛打を与えられる。

 

ただしそれも三発まで。

 

もしもこっちに注意を向けて殺しに来た場合、対応も出来ない。

 

戦闘時、冷静な判断で使わないと、味方を貫きかねない危険もある。

 

だからまだこれは、才能があるアサヒにも使わせられない。

 

ただ、アサヒには経験を積む為に観測手をやってもらうか。これも既にやり方を仕込んでいる。

 

作戦の準備は、着実に整っている。

 

後は、大戦の時。

 

三英傑が、四大天使と戦ったという話もあるあの塔で、何が起きたのか確かめなければならない。

 

封印されているもの次第では。

 

今後の戦況が大きく変わる。

 

次の戦いも、負ける訳にはいかなかった。

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