大天使マンセマットは、あわてて走り回っている阿修羅会の者どもを見て、愚かな連中だと思っていた。
大戦前。
ロウ勢力に属する国際的組織の一つが、人体実験の挙げ句にたまたま呼び出してしまったマンセマットは。その場で愚かな人間共を皆殺しにすると、以降は自分の意思で神のために動き出していた。
実体をこのアッシャー界で持つのは、天使であっても色々と大変なのだ。
それの膳立てをしてくれたことだけは感謝する。
だからその場で皆殺しにしてやったのだ。
本来だったら苦しめ抜いて殺すところを、それだけで済ませてやったのだから、感謝して貰わなければならないだろう。
ましてや呼び出した連中は、無作為に実験材料として人間を使い。途上国から買いあさった子供やらホームレスやらを生け贄にし。
しかも軍事兵器としてマンセマットを呼び出したのだ。
全員地獄行きは確定。
それを即座に殺してやった程度で済ませたのだ。大感謝して貰わなければ割りにあわなかった。
この塔を作るのを指示したのはマンセマットだ。
阿修羅会とかいうあの愚か者共は、指示通りに動いて塔を作った。阿修羅会の後見をしている一人であるマンセマットは、そろそろ潮時かなと思っていたが。勿論それを口に出すつもりはない。
塔のてっぺんで座っていると、側に降り立った天使がいる。
多数の目が翼についている大天使。
月の大天使にして、邪眼の大天使でもある存在。
大天使サリエルである。
「マンセマットよ。 聞いたか。 この塔に戦禍が迫っているようだ」
「まあそうでしょうね。 ふふふ。 人外ハンターとやらには何やら頭が最近ついたようだ。 それが人間かどうかは分からないですが、それでも阿修羅会どもの醜態を見れば、好機と判断するはず。 仕掛けて来るのも妥当でしょう」
「いいのか。 此処に封じているのは……」
「かまいませんよ。 封じられた上に、奴らが都合良く信仰を歪めた結果、見るも無惨な姿に変わり果てています。 我等が主への信仰を完全にはき違えた愚かな道化。 それは上にいる残りのあれも同じでしょう」
そう言うと、笑いがこみ上げてくる。
マンセマットは、自分こそ。
神のために喜んで汚れ仕事をしてきた自分やサマエル、それに今は出張っているカマエルのような大天使達。
場合によっては人間が堕天使扱いしてきた者こそ。
神の側に侍るに相応しいと考えている。
だから大戦では、連中の背中を刺した。
ここに来た三人の英傑も確かに強かったが。それでも四大天使が破れたのは、マンセマットが決定的な隙を作ったからだ。
ガブリエルに逃げられたのは痛恨だったが。
それでも連中は完全に己のあり方を見失った事も分かっている。
他の大天使どもも、既に自分でものを考えるということを放棄しているようだ。
つまり。
今後大天使どもを堕天使や魔王ども。或いは異境の神々共と戦わせ。
共倒れにさせてしまえば。
神の側に侍り。
同志とともに寵愛を受ける事ができるのだ。
「ではサリエル。 カマエルとともに、此処を撤収する準備に入りましょうか」
「別にかまわぬが、本当に大丈夫なのか。 名前を奪って封じ込んでいるからこそ動けないが、もしも動けるようになったら、我等を即座に襲いに来るのではないのか」
「問題ありません。 既に手は打ってあります」
側に降り立った影。
サリエルが身構えるが。
それは、ふっと笑う。
ジャガーを中心に、様々な獣が混ざりあった神。
テスカポリトカである。
南米のトリックスターの権化であるこの神と、しばらく前からマンセマットは同盟を組んでいた。
互いに利害が一致しているからである。
「邪悪の天使ども、悪巧みは済んだかな?」
「何のことやら。 それよりも、この塔の表向きの守りをしてくれるという約束、頼みますよ。 代わりに我等が封じた例のものを引き渡しましょう」
「ふっ、まあその程度はかまわん。 コヨーテどもと一緒に、此処に攻め来る人間共を、ある程度翻弄すれば良いだけであろう。 易い易い」
またかき消えるテスカポリトカ。
あいつの目的は、それはそれでまた後ろ暗いものだが。
別にどうでも良い。
モーセの出エジプトの頃から、ずっと裏方をして来たマンセマットだ。それなのに天界では、神の寵愛は華々しい活躍をしているものばかりに向いていた。それも、その華々しい活躍をしている連中が全部消えれば全て済むこと。
それに、だ。
マンセマットは、少し前から知り始めている。
霊格が上がっているのだ。
別次元の自分が。具体的にどんな可能性世界か分からないが。ともかく、極めて強大な力を得て、それの影響を受けている。
色々な世界で、最終的に破滅するマンセマット。
その運命は変わらないらしい。
中には、神を裏切り、別の存在に膝を屈してしまう世界まであるようだが。
そのようなこと、自分は絶対にしない。
そのためには、どれだけ卑劣で汚い真似でもやって見せよう。
「あの者も良くやる。 邪教の集まりの集団に属していることは分かっているが、それをも裏切る事になろうに」
「何、利害だけで結びついている集団なんてそんなものですよ。 さて、カマエルが戻り次第動きましょうか。 醜く変わり果てた連中を開放した後は忙しくなりますよ。 最終的に我等が勝てば良い。 そのためには、神の代行者が必要です。 しかもそれには、既に目星がついています。 後はそのものに取り入って、神の前まで行くように仕向けてやればいい」
「ふっ。 そうだな」
「誰にでも野心などある。 たとえどれだけ清廉なものにも。 我等が神を座に導いた者も、野心は多分に秘めていた。 ならば我等が野心を持って、何が悪い。 人形と化した同胞達のようになってたまりますか。 神は人形のように従う者を喜ばれるとしたら、諌言しなければならない。 それは我等であるべきなのです」
そう手を拡げていうマンセマットを。
大鎌を手にしたまま、サリエルはじっと黙って見つめていた。
塔の下では、新宿御苑で阿修羅会が怒鳴り合っている。
此処を守れと言われているが、どうすればいい。
何かあっても援軍なんて来やしないぞ。
それよりも畑をどうする。
この畑よりずっといい作物が出回り始めてる。それも格安でだ。
俺たちは、本当に此処にいていいのかよ。
そう叫んでいる連中は。
東京の支配者を気取っていた愚か者の面影はなく。今や怯えきった。哀れな痩せ犬の群れにしか見えなかった。
(続)
メガテンで出るたびに毎回やりたい放題の限りを尽くす自由人な大天使といえばマンセマットですね。マスティマという呼び名の方が一般的のようですが、本作ではメガテンシリーズにあわせます。
毎度毎度汚れ役の領域を超えたやりたい放題をしてくれることもあって、出てくるととてもわくわくしてしまうのは自分だけでしょうか。あまり好感が持てないメガテンの大天使の中では、個人的にとても愛着がある存在だったりします。他だと神への忠義のために敢えて堕天使になったアブディエルさんも好きだったりしますが。
というわけでとても書いていて楽しい人ですねマンセマットさんは。Sストレンジジャーニーの時も。勿論今回も。
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