原作だと階層ごとでボス戦になりましたが。
本作では一気に戦力を叩き付けてきます。
この辺りは、戦力分散の愚を敵が犯していない、というだけのことです。
原作だとたかが人間と油断していたんでしょうね。
塔の入口は開いていて、中にすんなり入る事が出来た。クリアリングというらしいが、周囲を確認。
塔は封印さえ解けば、彼方此方に穴が開いている、開放的な造りだ。外も見える。封印がそれをそうと感じさせていなかった、というわけだ。これなら外から狙撃も出来るかもしれない。
安全確保と同時に入り込む。
気配はあるが、今の時点では此方に対してそれほど強い敵意を向けてきていない。
それよりも、なんだ。
ずんと来るこの不快感。
これは恐らくだが、此処に閉じ込められている奴の気配とみて良いだろう。
塔の構造は、至ってシンプルだ。螺旋状に階段があって、中央にある大きな柱の周りをずっと回っている。
とてもではないが、人間が作るものとも思えない。
実用性もなにもないし。
そもそもなんの目的があって作られた建物なのか、見ていて皆目見当がつかないのである。
霊夢は柱に刻まれている文字を見て、触らないようにと言ってくる。
「これ、全てが封印の文字よ。 塔そのものが封印装置になっていて、何かを抑え込んでいるようだわ」
「塔全部をつかう封印装置ね。 一体何を抑え込んでいるんだか」
「……東のミカド国から此処を開放しろと指示が出たんでしょう。 仮説はあるけれど、ちょっとなんともまだ現物を見ない限りはいえないわね」
「まずは警戒しながら進みましょう」
イザボーの提案に、皆頷く。階段もかなり一段一段が大きくて、少なくともお年寄りに優しい造りではない。
銀髪の子は、ひょいひょいと飛び越えているが。
逆に言うと、踏み越えるのが無理なくらいに高い。僕も踏み越えるのは無理だと判断して、同じようにぽんぽんと飛んでいく。ワルターはかろうじていけるようだが、イザボーは辟易していた。
「僕がスプリガンを貸そうか? 背中に乗せて貰いなよ」
「いや、結構ですわ。 流石に、貴重な戦力を、無駄にはできませんことよ!」
「……いる」
「!」
最初に気付いたのは僕だ。
階段の向こうに気配がある。静かに潜んでいるが。確実に首を刈り取りに来ている。
即座に悪魔を展開。
ラハムと一緒に、アナーヒターも出す。
それで相手は、奇襲は無理だと悟ったのだろう。
ぬっと姿を見せていた。
あれは、なんだ。
階段を急いで上がりきって、展開する。周囲にはまたコヨーテがたくさん。それだけじゃない。
筋繊維の塊みたいな奴。
手に持っているのは、あれは鎌だろうか。
それが、中空に浮かんで、見下ろしていた。
側には鉄格子がある。
内部には三角錐の構造物が吊されていて、内部には半裸の何か人間らしいものが、閉じ込められているようだった。
「妙だ、気配がヨナタンの天使に近いよ」
「ほう、天使を従えている人間か。 この最果ての地にも、まだそんな信心深きものがいるのだな」
「貴方堕天使じゃないわね」
「ふっ……」
筋繊維の塊が翼を拡げる。
翼には大量の目がついていて。更には筋繊維の体そのものも、かろうじて人型というくらいに異形だ。
彼方此方に目がついているその様子は、極めておぞましい。
「現時点では解析不能。 もう少し情報を集めて」
「分かった。 ヨナタン、気を付けて。 天使は引っ込めた方が良いかも知れない」
「……皆、戦えるか?」
「問題ありません。 我等が身と心、ヨナタン様の為に!」
天使達が立体的な陣形を構築している。
五体のヴァーチャーを主軸に、前衛にパワーを並べたとても頑強なものだ。
多数のコヨーテが唸り声を上げて、此方に敵意を向けている中。
更に気配が出現する。
今度は赤い鎧を着込んだ奴だ。剣を手にしているが、これも体は筋繊維の塊だ。それも脈打ちながら、兜の中にある一つ目がらんらんと輝いている。
「出し惜しみはなしといくか」
「おや、上の守りはいいのか」
「各個撃破されるのも馬鹿馬鹿しいのでな。 其方にいた奴らもつれて来た」
更に更に気配。
これは、コヨーテより更に大きな獣だ。
体に多数の縞模様がある。
「ジャガーよ。 猫科の中ではかなり大きな、凶暴な肉食獣になるわ。 勿論普通のジャガーでは無さそうだわ」
「ありがとバロウズ。 上にもいるね。 出て来なよ」
「面白い。 気付くとは流石ですね」
すっと現れたのは、浅黒い肌を持つ、黒い翼の天使らしき奴。
両手を拡げる其奴は、明らかに此方を見下し、馬鹿にしている気配を隠してもいなかった。
これはまずいな。
あのジャガーが一番気配としては危険だ。コヨーテの群れと混ざっているが、三段くらい上の力を感じる。
それだけじゃない。
あの三体の天使らしき奴らも然り。
あれらは、片手間に相手出来る存在じゃなさそうだ。
それに、である。
背後はこの転がったら無事では済みそうにない階段。ここで戦うのは、地の利から言っても不利か。
「私は大天使マンセマット。 今は訳あって、この塔を守護しています」
「貴方が天界の掃除屋か」
「おや、そう認識してくれるのは有り難い。 其方はサリエル、其方はカマエル。 同じように天界での後ろ暗い仕事を任された同志ですよ」
「サリエルは月と目を使った魔術の専門家である大天使。 カマエルは破壊の天使と言われる、攻撃的な性格の荒々しい大天使よ」
バロウズが解説してくれる。
ちょっとまずいな。
コヨーテと、何よりこいつらと同格かそれ以上のジャガーがいる。少しばかり、手が足りないか。
霊夢を一瞥。
冷や汗を掻いているようだが、即時撤退という雰囲気ではない。指先でハンドサインを出しているのを確認。
なるほど、そういくか。
幸い、背後が駄目でも、階段の前には戦えるスペースがある。
押し込まれなければ、足場もしっかりしているし、戦える。
ヨナタンの天使達の数も、僕らの手持ちの数だって増えている。戦う事は、不可能じゃあない。
じりじりと間合いを計る中。
ぽんぽんと手を叩くマンセマット。
「少し話をしましょう。 そもそもこの塔に何が封じられているか、貴方方は理解していないでしょう?」
「だから解析して、場合によっては葬るだけだよ」
「荒々しくて結構。 池袋で西王母を斃したというだけのことはありますな。 しかし此処にいるのは、貴方方が来た東のミカド国、でしたっけ? 其処に、更なる波乱をもたらす存在なのです」
「だったらブッ殺すだけかな」
というかだ。
ギャビーが名指しで指示をして来た時点で、此処にろくでもないものが封じられている事は分かっている。
今更動揺なんかするか。
笑顔のまま、マンセマットは更に話しかけてくる。
何となく分かってくる。こいつ、こっちが戦力差に萎縮していると思っている。
長い時間生きてきた存在のようだが。
戦闘経験そのものはあまり積んでいない。
しかも肌で感じて分かる。
此処で一番強いのはあのジャガーだ。此奴は恐らく、他の二体の大天使ともども、信仰を失い、伝承も失い、かなり弱体化している。それでも人型を保っているのは、何かしらの理由があるのだろう。
「意外や意外。 上で飼い慣らされたわりには、神の盲目的な木偶人行というわけでもないようですね」
「長広舌はそこまでだ。 そもそも大天使というのなら、どうして人々を救おうとはしない。 此処で虐げられていた人々の事は、間近で見ていた筈だ!」
ヨナタンが我慢できなくなったか、反論する。
確かにそれもある。
いずれにしても、ろくな連中でないのは目に見えて分かっていたが。
「天使達を従え、慕われているものよ。 この最果ての地は、そうなるべくしてなったのです。 此処は現世に具現化した地獄。 此処にいる者どもは、あるべくして罪を受け、それを償っているのですよ」
「そ」
僕の声が冷えたのに気付いただろうか。
いずれにしても、即座に動く。
恐らく戦力差を過信して、それで気付けていなかったのだろう。とっくに僕は、準備を終えていた。
ばきんと、地面が凍り付く。それで、コヨーテが皆、困惑しながら動かない足を見やった時には。
僕が踏み込むと同時に、払い技の究極を叩き込む。
払い技の奥義。
薙。
これも貫と同じで、ただそれだけの意味があり、それだけの用を為せばいい。多数群れていたコヨーテは、体を曲げて避けようとするが、それも出来ずに一斉に消し飛ぶ。凍った足が、彼等の体を逃がすことを許さなかったのだ。
ジャガーだけは回避していた。
今の冷気は、アナーヒターによるものだったのだが。
それ以上の悪魔ということか。
だが、その時点で、戦闘態勢を取るサリエルに対して、既に霊夢が動いていた。一斉に針を投擲。
それが容赦なく、体中にある目に突き刺さり。
僅かに動きが鈍った瞬間。
イザボーとヨナタンの天使達が、一斉に光の魔術を叩きこんでいた。
狂気を司る月の天使だ。
光の魔術にはむしろ相性が悪いはず。その予想は大当たり。全身が焼かれて、凄まじい悲鳴を上げるサリエル。
おのれと喚いて、斬りかかろうとするカマエルに、ワルターとナタタイシが躍りかかる。そして、サリエルに対して、まず突貫したのはラハムだ。髪から大量の蛇を展開。全身を絡め取る。
其処に、銀髪の子が突貫。
滑るように氷の上を行くと、跳躍。しかも空中で跳躍して上を取ると、サリエルの頭から足下まで、鋭い爪のようなもので、切り裂いていた。
「ぎゃああああああっ!」
「サリエルっ!」
霊夢がサリエルを蹴飛ばし、音を超えたサリエルが遙か向こうの壁に叩き付けられて、ドゴンとか音がしていた。
怒号を張り上げたカマエルだが、ナタタイシが猛攻を叩き込み、すぐに動けずにいる。
苛立ったようすで、マンセマットが着地。
僕に対して、鋭い手刀を振り下ろしてきていた。
がっと、オテギネで防ぐが、思い切り吹き飛ばされる。だが背中を打つ事もなく、腰をつくこともなく、そのまま踏みとどまると、突貫。
そのまま乱戦に移行していた。
ジャガーはいない。
奇襲に移るのか。
いや、違う。
様子見に徹しているんだ。
それに妙だ。
此奴らの戦闘力、どうにもちぐはぐである。違和感を感じたのは僕だけではないらしく、霊夢も視線を送ってくる。
飛びかかってきたコヨーテ。踏み込みつつ、掌底を叩き込み。奴がおちょくるようにはらを曲げて回避した瞬間、オテギネを旋回させて首を叩き落とす。単独での陽動攻撃でも通るか。
いや、これは。
槍を正面に構える。
マンセマットが前に出てくるが、跳躍。上空でラハムの髪の毛を台座にして貰い、それを蹴って跳ぶ。
狙うはあのジャガーだ。壁を蹴ってジグザグにいき、避けようとしたジャガーに払い。回避しようと浮き上がった所に、回し蹴り。それもコヨーテと同じように体をぐねっと変化させて回避するジャガーだが、そこへ完璧なタイミングで、アナーヒターの冷気魔術が直撃していた。
「何ッ!」
そして、その時には、僕もチャージを終えていた。
一瞬だけ動きを止めれば、それで充分だ。
槍技の奥義、突きの究極、貫。それを叩き込む。
更に火力が上がったのが分かるが、問題は其処じゃない。確実にジャガーに打撃が通った瞬間、辺りの光景がぐにゃりと歪んだのである。
これは、領域。
結界の中か。
周囲はまるで森。それも、こんなに緑が濃い森は見た事がない。霊夢が着地すると、ジャガーに何か術を展開。
その体を拘束していた。
「やはりね。 大天使が三体にしては弱すぎると思ったのよ」
「面白い、我に攻撃を通すか。 人間程度の割りにはやるではないか」
既に粉みじんに砕けたサリエルもそうだが、マンセマットと思っていた奴も、それにカマエルと思っていた奴も、コヨーテに蛇やら鳥やらが絡みついた、合体型の悪魔であったようだ。
そして、霊夢の結界をみしみし言いながら、内側から破ろうとするジャガー。
貫を完全に通したのに、致命打になっていない。
それどころか、今まで斃したコヨーテたちが、立ち上がってきている。塔の入口からも、奧からも来る。
「幻影を斃させて気持ちよくさせて、それであるものを奪う予定だったんだが、どうするねマンセマット」
「困りましたね。 ただ我々も残念ながら力尽くでは奪えません。 何しろ霊格という点では封印されている状態でも上の相手ですからね」
「仕方がない。 いい手駒だと思ったが、殺してしまうか?」
降り立つ三体の大天使。マンセマットもカマエルもサリエルも、姿は変わっていない。変わったのは威圧感だ。
冷や汗が流れる。
まずい。
相手の力が単純に四倍になったように感じる。
そして、ジャガーの悪魔は、姿を変えていた。蛇などが寄り集まった結果、それで不可思議な多数の動物が合成された、人型へとなっていたのである。
「邪神テスカポリトカよ。 南米のトリックスター。 主神でも邪神でもあり、創造神でも破壊神でもある厄介な存在。 テスカポリトカに加えて大天使三体では、今の実力では勝ち目は薄い。 撤退を推奨するわ」
バロウズもそういうが。
ちょっとまずいな。
そもそもこの場の全員掛かりでも、このテスカポリトカだとかには勝てるか微妙だ。それが四体いるのと同じで、しかもこの数のコヨーテに囲まれているとなると。撤退をするにも、その時間さえあるかどうか。
いや、そんな弱気では駄目だ。
活路を開くには、まずは相手に痛打の一つも叩きこまなければならない。
そういえば、マーメイドはどこに行った。
それと、この気配は。
パンと、手を叩いた。
不可解そうにこっちを見るヨナタンとワルター。飲まれてしまっている状態で、不意に僕が手を叩いたのだ。
毒気を抜かれた状態である。
イザボーもそうだろう。
サリエルが、失笑した。
「この国の神事であったか? 残念ながら、この国の主要な神々は、我々が封印してしまったぞ」
「弱い連中であった。 そもそもこの国の民草は、真摯な信仰などとは無縁であったし、仕方がないのかもしれないがな」
ゲラゲラ笑うカマエル。
何となく、此奴らが東京にいる理由がわかってきた。
こいつら、天界の掃除人だとか言っていたが。
いつの間にか、性根が完全に腐りきっていたのだろう。
もっとも、東のミカド国を支配していると思われる大天使も、きっと方向性は違うだろうが、それは同じ。
醜悪な精神性は変わらないだろうが。
注意を引きつけろ。
僕はそう自分に言い聞かせる。
「貴方たちのその姿を見る限り、信仰なんて受けていたとは思えないけれど」
「……っ!」
「ゴミ虫風情が、我等の何を知っている!」
「分かるよ。 その言動、あの西王母だかと同じだ。 自分を信じてくれた人々をバカにしくさって、エサか何かとしか考えていない。 反吐が出る外道。 あんた達他の天使からは明らかに別行動しているみたいだけれど、そんなだから距離を取られたんじゃないのかな」
額の血管が切れる音がした。
霊夢が呆れるように僕を見ている。
テスカポリトカがじっと此方を見ていることもある。
マンセマットも苛立っているようだが、それでもまだ注意を引きつけるのが足りないか。咳払いすると、もう一押しする。
「人々の信仰を受けていないからそんな姿になる。 貴方たちは東京で……東京以外でも人々を殺して殺して殺し尽くした。 その上今も人々を馬鹿にしてる。 貴方たちを信じていた者も含めてね。 それだったら、その性根に相応しいその姿になるのも、当然なんじゃないのかな」
「我等の姿まで馬鹿にするか!」
「許さんぞこのはしためが! そも男のような格好をすることは女として最悪の行為だと知らぬか猿め!」
「あんたらみたいなのに褒められるくらいだったら、猿で充分! このゴキブリ以下!」
サリエルが、泡を吹きながら喚く。
よし。想定通りだ。
強烈な魔術を詠唱し始める。多分この辺り全部吹っ飛ばす火力だ。それに加えて、カマエルが襲いかかってくる。
手にしている剣が見る間に長大に伸びて、僕に斬りかかった瞬間。
ドンと重い音がして、サリエルの両手と胸に、大穴が空いていた。
「げぶっ!?」
「サ……」
サリエルと呼ぼうとしたのだろうか。
次の瞬間には、完全に意識が僕に向いていたカマエルが、全身氷漬けになっていた。これ、ただの氷じゃないな。
だが、いまだ。
突貫。
フルパワーで、氷漬けになっているカマエルに突撃。態勢を崩したサリエルには、銀髪の子が、ため込んでいた力をぶっ放す。
マンセマットが空間を跳んで僕の前に出ようとするが、その脇腹を霊夢がフルパワーで蹴る。更には、ヨナタンとワルターが息を合わせて、同時にテスカポリトカに斬りかかり、奴は僕に注意を取られていたこともあって、一瞬防御に回る。
それで充分だった。
僕が渾身の貫で凍り付いていたカマエルを砕く。
一瞬でバラバラになったカマエルは、氷の性質が魔術的なものだったこともあるのだろう。
それで再生も出来ず、見る間にマグネタイトに変わっていく。
同時にもの凄い音が響き、サリエルが見ると光の柱に貫かれていた。銀髪の子の奥義だろう。
とんでもない火力だ。
塔を内側から吹っ飛ばしかねない破壊力。
あんな切り札を持っていたのか。
サリエルは何も言えず、そのまま墜ちてくる。その途中で、体が崩れ、マグネタイトに変わっていった。
どう見ても致命傷だ。
今度こそ、本当に。
「お、おのれえええっ!」
マンセマットが、瞬く間に斃された二人を見て、顔を歪めて吠え猛る。霊夢を黒い光で弾き飛ばすと、銀髪の娘に飛びかかろうとするが。
氷の壁が出来て、それに顔面からぶつかる。
ずるずると氷の壁をずり下がるマンセマット。ちょっと気の毒な醜態だ。
マーメイドが哀れみを込めて言う。
「貴方はこの世界でもこうなのね。 霊格がどうのといいながら詰めも甘いし自分の事しか考えていない。 貴方が少しでも人々の事を考えていたのなら、こんな事にはならなかったのではないのかしら」
「なんだと! お、おのれ、貴様っ!」
床から浮かび上がったマーメイドが、魔力をいつも以上に増幅させている。
マンセマットは凄まじい形相で吠え猛るが、ヨナタンとワルター。それにヨナタンの天使達から一斉攻撃を受けているテスカポリトカが叫ぶ。
「まずい! 逃げるぞバカ天使!」
「勝手に逃げるなら貴様だけにしろ! 私は……ぐげぶっ!」
氷の壁を砕きに懸かっていたマンセマットの全身が、また三箇所から一斉に貫かれていた。
銃による狙撃。
それも生半可な銃じゃない。
これ、恐らくはサリエルを貫いたのと同じ奴だ。
マンセマットは頭に血が上って、氷の壁をなんとか引き裂こうとしていた。そこを突かれた事になる。
ようやく気付いた。
塔の外側から、志村さん達が、一斉に狙撃したんだ。
多分地獄老人あたりが作った凄い銃で。
さっきのサリエルの時もそう。
大天使達もそうだが、人間をあまりにもこいつらは甘く見すぎていたのである。
ふらついたマンセマットを、背中から僕が刺し貫く。更に、銀髪の娘が不可視の質量体を振り回し、顔面を張り倒していた。
舌打ちすると、テスカポリトカが吠える。同時に、僕やイザボーが呼び出した仲魔と交戦していた大量のコヨーテ達が撤退を開始する。テスカポリトカも、さっと分裂すると、それぞれが逃げていった。
「待ちやがれっ!」
「いや、いい! 行かせろ!」
ヨナタンがワルターを抑える。
それでいい。
あいつはこの状態でも、冷静になれば僕達を単騎で圧倒しかねない化け物だ。撤退してくれたのなら、勝手に逃がしておけば良い。
槍技を片っ端からマンセマットに叩き込む。霊夢が結界を展開して、マンセマットの全身を拘束。悲鳴を上げた黒い肌の天使は、ぶちぶちと手足を引きちぎりながら、上空へと飛ぶ。
氷の壁を多数展開するマーメイド。その壁を蹴って上空に躍り上がった銀髪の娘が、鋭い剣撃を浴びせ。マンセマットの黒い翼が一つ千切れ飛んでいた。
口が耳まで裂けたマンセマットが、絶望の悲鳴を上げていた。
「き、きさまら、きさまらああっ!」
更に狙撃。
マンセマットの体を穿つ。だが、最後の三発目は、マンセマットに致命傷を与えられなかった。
恐らく射撃を読んでいたのだろう。弾が逸らされて、頭やら腹やらを貫くに至らなかったのだ。
マンセマットは慇懃無礼を気取っていた姿から、全身をズタズタに割かれ、翼も一つ失いつつも、塔の最上部。
安全圏まで逃れたようだった。
「この塔はな、貴様等に禍だけをもたらす! 覚えておけ! そして貴様等の顔、覚えたぞ! 絶対に食い殺してやる! サリエルとカマエルの仇は、いずれ討たせて貰う!」
「勝手な事ばかりいいやがって……!」
僕の声が冷えた。自分でもびっくりするくらいに。
此奴らが億だとかもっと多くの人間を殺した事は分かりきっている。それが、仇討ちだと。
世界の果てまでいっても、そんなことが正当化できるものか。
もはや脇目もふらず、ボロボロになったマンセマットが飛んで逃げていく。壁に背中を預けて、座り込む霊夢。
銀髪の娘も、珍しく余裕が無いようだ。いつも身に纏っている白い光が薄れている。マーメイドも浮かんでくると、大丈夫と声を掛けて来る。
大丈夫、とだけ答える。
これはちょっとばかり、しんどいな。
そう僕も思っていた。
この話での規格外マーメイドの言葉、重要です。
規格外マーメイドは何者で、何をしにきているのか……少しだけ其処から分かるかも知れません。
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