塔の制圧完了。非常に厳しい状況ではありましたが、人間側の自力が上がっている、というのが決定打になりました。
そして塔に幽閉された人物の処遇は原作と変わります。
スペシャリストがいること。
何より、既にフリンがギャビーに対して大きな不審を抱いている、というのが原因です。
塔の外では、やはり志村さんたちが待っていた。でっかい銃を持っている。それで狙撃してくれたらしい。
銃はワルターが時々使っているのを見るが、僕やヨナタンはまだ使いこなせていない。人外ハンターの方が、やはり使い手としては何日も長があるようだ。
「あの状況で、良く冷静に悪魔共の気を引いてくれた。 狙撃が成功したのも、君の勇気が故だ」
「うん……」
実を言うと。
あの瞬間での奇襲で期待していたのは、マーメイドの大技だったのだが。
それについては、言わない方が良いだろう。
マーメイドの大技で、カマエルが致命打を受けたのは事実だ。
それにしてもあの氷、何だったのだろう。
ちょっと気になるが、それについては今はいい。ともかく休憩をしないと。
霊夢も横になって休んでいる。マーメイドも何もいう余力が無いようだ。すぐに装甲バスが来る。
安全圏まで移動した方が良いと判断したのだろう。人外ハンター達も一斉に撤収しているようだった。
あの塔は、護り手さえいなくなったが、結局頑強な造りは変わっていないようだし、奧に封じられていた者についても、簡単に引っ張り出せる状態ではないらしい。
一度新宿のターミナルまで移動。
其処で一旦解散となった。
僕達は、一度東のミカド国へ戻る。
此方も安全とはとても言い難い場所だが、六十倍の時間の流れの違いが大きい。
戻ってくると同時に、ずっと消耗が大きい悪魔ばかり呼んでいたイザボーが腰砕けになってしまったので、僕が肩を貸す。
そのまま隊舎に戻って、食事と風呂を済ませて。無言で解散して、それぞれの部屋で寝る。
霊夢やマーメイドも酷く消耗していた。
あの戦い。
最悪の戦況だった。
テスカポリトカという邪神に逃げ癖があったこと。
大天使三体がアホだった事。
それが救いになったが。
もしも彼奴らが油断していなかったら、とても勝ち目なんか無かっただろう。危なかったのだ。
そう思うと、横になっている今も、冷や汗が流れて来る。
ともかく今は回復だ。
そう思って、一眠りした。
起きだしてもすぐには回復出来ない。
肉体は全盛期だし、じっくり鍛え上げた体だし。膨大なマグネタイトを吸収しつづけている。それでも限界がある。
これはもう数日休んだ方が良いな。
そう思って、朝の鍛錬だけをすると、食堂に。
案の場うつらうつらしているイザボーとかち合う。
大丈夫だろうかと思ったが。イザボーも僕に気付いて苦笑いしていた。
「レディらしくもない有様ですわね。 情けない姿を見せてしまいましたわ」
「情けなくなんかないよ。 それよりも、あの塔の守護者は追い払った。 その後どうするかだね」
「ええ。 ただちょっとあと何日かは休みたいですわ」
「大丈夫、それは僕も同じ。 あれくらいの相手だったら、いずれ片手間に斃せるようにならないと駄目なんだろうね」
イザボーも苦笑い。
すっかり身についたテーブルマナーで、食事を済ませる。
新人の料理係も、腕を随分あげたようだ。向こうでの一日が、こっちでは二ヶ月になる。
元々此処に招かれるような人だし、短時間で腕を上げるのも、当然なのかも知れない。
ヨナタンが報告書をどうするかと相談にきた。
ワルターも交えて、軽く話をする。
勿論話をするのはターミナルで飛んだ先。奈落の深奥でだ。
「塔にいた大天使については、どう報告するかだね。 そのまま素直に書いてしまっていいものか……」
「別にいいんじゃねえのか? あの塔にいたってことは、明らかにこの国を裏から牛耳ってる連中とはべつだろ」
「確かにそうですけれども。 あの塔に封じられている何者か。 マンセマットが、自分以上の霊格だと言っていましたわ。 しかもわたくしたちに、何かさせるつもりだったようですし。 ひょっとすると敗走を装うつもりであったのかも」
「だとすると、封じられているものは少なくとも開放されるとマンセマットに得になったのかな」
考え込む僕に。ヨナタンが言う。
いずれにしても、一旦東京に戻って、専門家と協議すべきだと。
確かにそれはそう。
東のミカド国では、ありとあらゆる情報が失われてしまっている。
色々な悪魔と遭遇して分かってきた事だが。
何々神話と言われても、まるで理解出来ない僕達の方が無知なのだ。世界がこうなる前は、そういった色々な神話があって。
それを信じている人々がたくさんいた。
それを滅茶苦茶にした出来事があった。
そんな出来事を、僅かながらも知っている人がいるなら。
そこで相談するべきなのだろう。
「分かった。 後三日、上で休もう。 その後、シェルターに戻って、そこで会議だね」
「霊夢とマーメイド、あの銀髪の子も。 消耗が激しそうでしたけれども、大丈夫かしら」
「確かに此方での三日なんて、向こうではあっと言う間だよな。 何かしら回復の手段があると良いんだが」
「ともかく、行ってみるしかないとないと思う。 何かの回復手段があるかも知れないし、僕達も利用できるかも知れない」
まあそれはそれとして。
そういうあるか分からないものを期待するのではなく。
僕達は自然回復力を利用して、万全な状態にするべきではあるのだが。
それからは、報告書はヨナタンに任せて、残りの予定時間を休憩に費やした。ぼくとしても、久々に眠くて仕方がなかったので、ずっと眠った。
それで充分回復させてから、ホープ隊長に話もする。
東京で、どうも東のミカド国と対立しているらしい大天使と遭遇したという事を。
ホープ隊長は頷いて、続けての調査をするようにと全権を任せてくれた。
いい隊長だ。
僕としても、こう言う人が後ろにいるから、安心して進める。
東のミカド国を牛耳ってる連中は正直気にくわないが。
東のミカド国に住んでいる人々を守るためにも。
今後は更に慎重な行動が必要になるだろう事は、確実と見て良かった。
休憩を済ませてから、シェルターに。シェルターの入口では、丁度戦闘を終えたばかりらしい秀がいて。
大きな刀を振るって、血を落としていた。
辺りには仕掛けて来たらしい悪魔の残骸が散らばっていて、マグネタイトに変わりつつある。
安心できる実力だ。
礼をすると、秀もこくりと頷いて返してくる。
此処は任せても大丈夫だろう。
すぐにシェルターに入って、それで忙しそうなので目を細める。あの地獄老人が、志村さんと話をしていた。
「狙撃のログはみたがな、もう少し完璧にやれなかったのか。 上手くやれば三射で天使共全部を仕留められただろうに」
「無理を言ってくださいますな。 あれもフリン殿が相手の気を引いていたから出来たことであって……」
「いずれにしても、対悪魔レールガンの破壊力はこれ以上はあがらんぞ。 その代わり速射性とバッテリーの性能を上げて、最終的には個人で無理なく携行できるようにするのが当面の目的じゃな」
「あれを携行できるのは心強い。 高位の悪魔であっても倒せる事は今回立証されましたので」
よく分からないが。
あの銃はレールガンというのか。
僕に気付いたか、地獄老人が振り向くと、ふんと鼻を鳴らしていた。
「勘が鋭いようだなあの霊夢ともども。 おかげでバカみたいな罠に引っ掛からずにすんだようだが」
「塔は現在も同じ状態ですか」
「ああ。 ただ霊夢達がまだ回復しきっておらん」
「さもありなんですね」
まあ、仕方がないだろう。
霊夢に至っては、マンセマットの攻撃をもろに貰っていたのだ。神降ろしというので防御をあげていただろうが、それでも普通だったら死んでいる。
やはり都合のいい回復は出来ないよな。
そう思いながら、奧に通される。
フジワラがいたので、礼をする。
フジワラは誰かとスマホで話していたが。僕達に気付くと、後でまた連絡するといって、それで会話をうちきっていた。
「塔の攻略、ありがとう。 本当に助かった」
「いえ」
僕としては、被害を出したと聞いているので、喜ぶわけにもいかない。
フジワラもそれを察したのだろう。
もう一つ咳払いすると、幾つか頼まれる。
「専門家の霊夢くんが同行できるといいのだが、ちょっと今寝ている状態でね。 一度寝ると、霊夢くんはしばらく起きてこないんだ」
「強引に睡眠を利用して回復しているのかな……或いはそういう神様を降ろしているとか」
「かも知れないね。 ともかく、今は塔には触らない方が良い。 ただ、制圧した塔を、一般の人外ハンターだけに任せるのも危険だ。 これから新宿御苑に出向いて、塔に新しい悪魔が入り込まないように、見張りだけ頼めるだろうか。 後から霊夢くんにも行って貰う。 それから合流して対応を協議して欲しい
「了解です」
ヨナタンが挙手。
出来る範囲で、上で調べてきていたという。
幾つか専門的な話をしているが、フジワラはすらすら答えられているようだ。
「なるほど、やはり此方の人間の方が色々と詳しいようだ。 上にいる司祭達は、配布されているバイブルの内容を丸暗記するだけで、それについて考えると言うことを一切していない。 技術や知識についても、与えられているものだけを丸呑みにして、それで満足している状態だ。 自由に考える事ができると言う点で、破壊されてしまった世界には、それだけ大きな価値があったんですね」
「そう言ってくれると嬉しいが、大戦が起きる前はそういった情報も混乱が酷くてね。 誰もが自分で調べないといけない状態になっていたんだ。 僕は情報を扱う専門家だったんだが、同業者は情報を利用して周りから金をむしり取る事だけを考えるような連中に堕落しきっていた。 情けない過去の話さ」
「それでも貴方は違った。 上では何かを真面目に考えて、分析しようとするだけで命を奪われる事すらある。 やはり……東のミカド国の今の状態は間違っている」
ヨナタンがそんなことをいう。
前だったら、多分そんな風なことは言わなかっただろう。
ご落胤(事実は違うが)として勝手な期待を寄せられ、親にはそれすら利用され。
それで色々と、ヨナタンなりに抑圧された生活をしていたのだ。
一度疑念がわき上がれば、確かにそうやって不審も拡大していくのだろう。
ワルターが今度は促してくる。
「難しい話はいい。 ともかく霊夢が起きてくる頃に、塔がまたあんな悪魔共に制圧されていたらたまったもんじゃねえ。 さっさと抑えに行くぜ」
「そうだね。 ヨナタン、後でまた難しい話はしよう」
「分かっている。 フジワラさん、また次の機会にお願いします」
「うむ」
ターミナルから新宿へ。其処から新宿御苑に。
途中で人外ハンターと合流する。前にちょっと顔をあわせた、ライフルの野田とかいう人だ。
かなりの使い手だが、流石に霊夢達と比べると何段も見劣りする。
恐らくフジワラが、僕らだけで塔を守るのは厳しいと判断して、援軍を寄越してくれたのだと思う。
他にも数人、現役でやっているらしい人外ハンターがいる。
一緒に移動しながら、軽く話す。
人外ハンターの間では、僕達がいる東のミカド国がどういう場所なのか、噂になっているらしい。
天国みたいな場所だという噂も流れているようなので、即座に僕は否定する。
ディストピアのようだとフジワラが言っていたと話をすると。
まだ比較的若い人外ハンターが、肩を落としていた。
「なんだよ。 身なりがいいのが来るから、少しはマシな場所かと思っていたのに」
「勝手に期待されても困るんだが」
「ああ、そうだよな。 それはすまない。 だけれど俺たちはずっと希望なんかない世界に生きてきたからな。 だから希望が何処かに無いかって、期待してしまうんだよ」
「なるほどね……」
わからないでもない。
僕も農民として一生暮らすのかと思って、サムライになる前はずっとなりふりかまわず鍛練をしていた。
ガントレットの儀に誰でも出られるようになったのは、とても幸運だったと思う。
それまでは、形ばかりの平等で。
ガントレットの儀にカジュアリティーズが出られない何てのは、当たり前の事だったのだから。
ワルターも、少しは気持ちがわかるようだ。
「今は我々で力を合わせられる。 少しずつ良い方向に向かう未来も見え始めている。 勿論希望ばかりがあるわけではないが、それでも我等で努力して、少しでもいい未来に向かう努力をしよう」
「みなりがいいあんちゃんよ、確かにそうしたいのは山々なんだが。 俺たちは悪魔に殺されないように生きるだけで手一杯なんだ」
「それは、皆でバラバラに動いているからじゃないのかな」
僕が指摘すると、人外ハンター達はむっと呻く。
分かっている筈だ。
僕だって、単騎でここまでやれているわけじゃない。
大変に将来性があるナナシやアサヒだって、今はまだまだだ。
人外ハンターにしても、このくらいの人数で、もっと訓練をして、それで互いに弱点を補い合うように動けば。
まるで生存率は変わってくるはずだ。
「人間なんて単独では弱い生き物なんだよ。 それが強い奴だけ生き残るなんていって、それぞれ勝手にやってれば、それは悪魔のエジキになるよ。 今は人外ハンターがまとまりつつあるんだし、連携して動く事を考えた方がいいんじゃないのかな」
「確かにそうだな。 俺も腕利きなんて言われてはいるが、何度も死ぬような目にあってきた。 俺が今生きているのは運が良いからだ。 それを考えると、確かにその通りだと思う」
「野田さん」
「この子供みたいな背丈のサムライさんは、小さくてもあの西王母を斃して生還した実績持ちだ。 俺よりも確実に強い。 そんなサムライさんのいうことだぜ。 少しは聞いておいた方が、生き残れる可能性は上がるんじゃねえのかな」
野田というハンターが言うと、そんなものかと他が納得する。
まあ、納得してくれたのならそれでいい。
新宿御苑に到着。
人外ハンターが展開しているが、雑魚との戦闘が散発的に起きているようだ。それに、である。
塔の外部の守りは破壊したが。
内部の守りまでは破壊できていない。
しばらくは見張りをする事になるだろう。
ヨナタンが、天使を多数、上空に展開する。
最初にヴァーチャーに転化した天使が、そろそろその上になれそうだという話をしているらしい。
ヴァーチャーまでは天使としては役割が違うだけで、そこまで大きな力の差はないらしいのだが。
その上からは、確実に霊格だかが上がって、単騎で色々できるようになるということだ。
また、天使の中には、悪魔合体を利用して、大天使にしてほしいと言っているものもいるらしい。
下級二位のアークエンジェルではなく、マンセマット等と同じ天界の重鎮としての大天使なのだろうが。
ヨナタンは迷っているようだ。
まあ、気持ちはわかる。
あのギャビーが仮に大天使だったとしたら。
この東京で苦難に喘ぐ人々に物資をけちり。それどころか、殺戮の限りを尽くした存在なのだから。
とりあえず、分散して周囲を警戒する。
この新宿御苑、元々は要塞だの畑だのではなかったようだ。また、一箇所が不自然に開けられている。
ハンターが来て、話をしてくれる。
「そこに繭があったんだ」
「……」
ちょっとだけ聞かされた奴か。
大戦の前に子供達が行方不明になった。大戦が起きると同時に、繭は空へと飛んでいった。
それをやったのは天使達だという話があると。
「俺の姉も行方不明になった一人だった。 繭の中に入っていたのなら、生きていたのかな」
「僕には分からないよ。 でも、同じ事は繰り返させてはいけないね」
「……そうだな。 すまない」
子供をさらって、人々を殺して、それで何が天使だというのか。
苛立ちが募るが、それを誰にぶつけて良いのかも分からない。
悪魔だって、あの黒いサムライの身勝手極まりない言い分を聞く限り、天使よりマシでもなんでもない。
ただいる立場が違うだけで、大してそのあり方は変わらないのだ。
人間が素晴らしいかと言うとそれもノー。
カジュアリティーズとラグジュアリティーズを見てきて、分かっている筈だ。
まともな人間なんて、例外なのだと。
確かに守るべき人も、まともな人もいる。
だけれど、その数は多くないし。
人間という種族の単位で見れば、むしろ天使や悪魔よりもずっと悪辣かもしれないのだから。
しばらく、無心に辺りを見回る。
雑魚が時々仕掛けて来るが、それは全部人外ハンター達が片付けてしまうので、僕らの仕事はなかった。
数時間ほど経過した頃だろうか。
霊夢が来る。
すっかり疲れも取れたようだった。
「マーメイドと銀髪の子はシェルターに残って貰ったわ。 特にマーメイドは力が大きい分、回復に時間が掛かるのでね」
「それでどうするんだ」
「塔の中を調べて、封じられているものの正体と、その処遇を決める。 それでいいかしら?」
「うん。 東のミカド国では、塔に囚われた者を助け出せと言っていたけれど。 具体的に何て人を助け出せとは言われなかったからね」
ちょっと我ながら小ずるい行動だが。
相手があのギャビーだ。
悪いが警戒はさせて貰う。
それにだ。
あのマンセマットは、恐らく本来は絶対相容れないだろうテスカポリトカと組んでまで、僕らを騙そうとしていた。
その捕らわれている人に、何か秘密があると言う事だ。
それもマンセマット以上の霊格となると。
霊夢がずんずんと塔に入っていく。
僕らも頷くと、それに続いていた。