もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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西洋の悪魔召喚でも、悪魔の正体を割り出す作業は極めて大事なものとされています。悪魔は狡猾で正体を見破れないととんでもない契約をふっかけられるから、とされていますが。ソロモン72柱の設定を見る限り、それはどうなんでしょうね。

いずれにしても今回それを……相手の看破をやるのは霊夢ですが、神道でも呼び出した神の正体を確かめるような事はやるので、別段不思議な話ではありません。

此処で……ある意味決定的な変化が生じることになります。







3、捕らわれた者

塔には三箇所、封印がされている部屋があった。其処には三角錐の構造物が存在していて、誰かがその構造物に入れられていた。

 

三角頭巾みたいなのを被せられていて。

 

それで痩せこけている。

 

ただ、おかしな事がおおい。

 

食事を運ばれていたとも思えない。

 

ずっと放置されていたように見えるのに、排便や排尿の後もない。

 

十中八九悪魔だな。

 

そう思いながら、痩せこけたそのヒト型を助け出す。骨と皮しか残っていないが、なんだろう。

 

助け出すとき、ずしんと来ていた。

 

霊夢が幾つか問答をしている。

 

神話については、この場で霊夢が一番詳しいはずだ。

 

だから任せておく。

 

僕は警戒を続行。

 

さっさと逃げに転じたテスカポリトカだが。いつ戻って来ても、おかしくないからである。

 

マンセマットは満身創痍で、あれはすぐには戻っては来られないだろう。

 

だがテスカポリトカは、逃げ癖がついていただけで。ほぼ無傷だった上に、手下にしているコヨーテたちも無事なようだった。

 

警戒はした方が良いだろう。

 

「名前を奪われた。 その上何もかも分からないと」

 

「そうだ。 此処は一体何処で、私が誰なのかも分からない……」

 

「哀れだわ。 とにかく休ませてあげないと」

 

「イザボー、その優しさは大事だけれど、少し待って。 倒れているフリをして相手を襲う強盗は、古くから存在していた常套手段よ。 この存在も、名前を奪いあり方を奪って、その上で封じていた……殺してしまえば早いはずなのに、そうしていた程の存在ということよ。 マンセマットが霊格が自分より上と言う程の相手。 普通に情けを掛けたりしたら、どんな禍になるか」

 

霊夢の指摘ももっともだ。

 

イザボーは哀れみを持って痩せこけた人を見つめているが。僕としても、確かに霊夢の言う通りだと思う。

 

助け出すときも、枯れ木のような見た目だったのに、なんだか不可解な斥力みたいなのを感じた。

 

悪魔が殺さなかったのではなく。

 

殺せなかったのだとすれば。

 

一体コレは何者なのか。

 

霊夢が聞いたことがない言葉で呼びかける。

 

そうすると、三角頭巾の存在は、ううと呻く。

 

しばしして、霊夢は咳払い。

 

「なるほどね……分かってきたわこれは」

 

「どういう事だ」

 

「今問いかけたのは、一神教の秘儀についてよ。 父と子と聖霊の御名において、というね。 父とは一神教の神のこと。 子とは一神教に何例かいるけれど、神の言葉を託された存在の事。 モーセやイエス、ムハンマドなどが当たるわね。 聖霊とは天使のこと。 これらは三位一体説といって、基本的には同一の存在とされているわ」

 

それに反応した。

 

つまり知っている、ということだ。

 

霊夢は腕組みして、ぶつぶついいながら歩き回る。

 

説をまとめているのだろう。

 

手を上げて、イザボーが提案する。

 

「それはそうと、他の封じられている人を助けるのはどうかしら。 皆苦しんでいるし、せめてこの場にまとめては」

 

「俺は反対だな。 今まで悪魔があの籠に押し込んでいても、殺す事は出来なかったほどの相手だぜ」

 

「僕は信条的にはイザボーに賛成する。 苦しんでいる者に手をさしのべるのは当然の事だ。 だが霊夢がいうように、苦しんでいるフリをしているだけの賊である危険は常に考えなければならない。 だからワルターの意見にも同意できる」

 

皆、意見が割れるか。

 

霊夢はすっと札を出すと、目の前の痩せた男に投げつける。

 

その札が、ぼっと燃えると、消え果てていた。

 

「何か不愉快な力が。 一体何をしたのです」

 

「……なるほどね。 今のは穢れを封じた符よ。 それが一瞬で燃え尽きたと言う事は、どうやら闇に属する悪魔ではなさそうね。 そうなると、恐らくは大天使。 それも名前を奪わないといけないほどの高位天使と言うことだわ」

 

「大天使ってか。 つまりこの東京を焼き払った奴だって事だな」

 

「ワルター。 駄目だよ。 下手に敵意を向けると、どうなるかしれたもんじゃない」

 

僕が制止する。

 

東京の有様を見ている限り、こいつが下手人だとしたら、絶対に許せない。それは僕としても同意見だ。

 

だがそうだとすると。

 

こいつがどれほどの力を秘めているか、まるで分からないのだ。安易な行動だけは、してはならない。

 

更に幾つかの術を掛ける霊夢。

 

「風」の術に反応があった。霊夢は他にも幾つかの事を質問していたが、やがて結論が出たようだった。

 

「なるほどね、分かったわ」

 

「誰か分かったんだ。 それで名前を封じなければいけないほどの相手って事は」

 

「直に聞かせない方が良いでしょうね。 一度場所を移すわ。 他の二人も、聴取をしてから同じ措置を執るわよ」

 

霊夢の表情は険しい。

 

やはりこれは大天使。それも超大物ということなのだろう。

 

「あたし達神道系術者の中には呼び出した神の正体を確かめる存在もいてね。 あたしみたいに神を身に降ろす場合はともかく、そうでない場合はそういう仕事の人間が必要になることもあった。 それは西欧でも同じで、悪魔を呼び出したときにその正体を確かめることから始めなければならなかった。 それだけ様々な信仰があって、世界には多数の神魔が存在するということよ」

 

「なるほど。 それの殆どを大天使達は奪ったのか……」

 

「そして今度は自分達が奪われた、というわけですわね。 皮肉というかなんといっていいものか」

 

イザボーの発言に、霊夢も頷く。

 

二人目。

 

今度は地に関係しているらしい。霊夢の質問を幾つか受けているが、霊夢の表情は険しかった。

 

「正体が分かったのか」

 

「ええ。 こいつの正体はあたしにとっても旧知よ。 ずっと昔に此奴の分霊体と戦った事もあるわ。 いえ、ついさっきもね」

 

「!」

 

「一神教における天使信仰弾圧の見本みたいな存在ね。 これについても後に話をしましょう。 いずれにしても信仰の闇というか、くだらない派閥闘争というか。 そういうものの犠牲者と言えるわね」

 

よく分からない話だが。

 

ともかく、正体が分かったのなら対策も出来るかも知れない。

 

そして最後の一人。

 

これもまた、哀れな姿をしている。見かねたワルターが、持ち込んでいた襤褸着をかけてやる。

 

その瞬間、ぼっと空間が熱くなった気がした。

 

「なるほど、これは質問もいらなさそうだわ」

 

「まったく分からないけど、専門家にはわかるんだね」

 

「ええ。 ともかくこれは一旦此処から引き離すわよ。 あの鴉はまだ死んでいないし、それに……奴の目的が概ね分かったわ。 奴は恐らくだけれど、此奴らが不完全な状態で元に戻ることを願っていたのね。 そしてそのまま東のミカド国に戻せば……其方にいる残りと同様に、全員が「壊れた」筈だわ」

 

「色々とわからねえ事が多いが、あんたの悪魔知識は頼りになる。 ともかく、こいつらを運びだそう」

 

ワルターが一人を背負う。ヨナタンも。僕はイザボーと一緒に、もう一人に肩を貸して歩かせた。

 

頭巾を取ろうかと聞くが、霊夢が駄目だという。

 

視線の時点で凄まじい力があるらしく、下手をしなくてもどんな災害が起こるか分からないのだとか。

 

「最低でも日本神話の神々の影響力を戻してからね、何かしらの行動を起こすのは。 それにしても厄介な話だわ。 ただ斃されたのだったら、まだ話も楽だったのに」

 

「そろそろ分かる内容を話してくれ」

 

「悪いわねワルター。 此処にいる三人に、それらの話を聞かせるわけにはいかないのよ。 幸いシェルターには五行の陣が現在敷かれていて、幾つかの要所は此奴らを入れるのに最適だわ。 それに此奴らを捕獲しておけば、それである意味抑止力になるでしょうしね」

 

霊夢が色々言っているが、僕には分からない。

 

ともかく装甲バスでシェルターに急ぐ。

 

途中、悪魔が寄っては来るが。小物ばかりだ。護衛の人外ハンターだけでどうにでも出来る。

 

危なそうな場面では割って入るが、それも一度だけ。装甲バスを待ち伏せていた悪魔がいたので、出たくらいだった。

 

シェルターにつくと、霊夢がフジワラを呼び出す。外まで出てきたフジワラが、霊夢に耳打ちされて頷き、悪魔を呼び出していた。

 

あれは、西王母の守りについていた。

 

確か浄化されて正常に戻ったと聞いているが、方角を司る五神だったか。

 

「相克の関係に配置して力をまずは抑え込むわ。 五行で風は木に相当するから、相克関係は火で朱雀。 土は相克関係で木に当たるから青龍。 火は相克関係で水になるから玄武。 それぞれの陣にこの三人を配置して。 違う陣に移しては駄目。 食糧や水は必要ない。 何を言っても陣からは出さないように」

 

「分かった。 それでいいんだね」

 

「ええ。 大天使級の天使が取り戻しに来るようだったら面倒だったのだけれど、幸い話を聞く限り大天使達にもう東京に降りてくる力はないわね。 しかも土の対の関係になっているサリエルは先の戦いで滅ぼした。 これならば、多少は楽に対応出来るかもしれないわ」

 

とりあえず、僕達は何をすればいいのか。

 

霊夢とフジワラが幾つか話をしていたが、咳払いしてこっちを向く。

 

やっと話をしてくれるらしい。

 

痩せこけて、頭巾を被されたままの者達が、陣に運ばれて行き。更には道教系の神格達が見張りについた。

 

結界も霊夢が張ったので、簡単には出られない。

 

ちょっと可哀想なものを見る目でイザボーは捕まえられていた者達を見ていたが。

 

ともかくシェルターに入り、フジワラが幹部を集める。

 

それで、ようやくネタが明かされていた。

 

「結論からいうと、あの塔に捕まっていた三人はそれぞれ大天使ミカエル、ウリエル、ラファエルよ」

 

「!」

 

「貴方たちが大戦の時に斃したそうね。 残念だけれど、それくらいで四大天使は死なないと言う事よ。 それと、今回の件ではっきりしたわ。 東のミカド国にいるギャビーとか言う女。 其奴はほぼ間違いなく大天使ガブリエルでしょうね」

 

なんだってと立ち上がったのはヨナタンだ。

 

僕は腕組みしたまま。

 

ギャビーが大天使の可能性は既に考慮していた。

 

だから別に驚かない。

 

まず霊夢が、順番に説明してくれる。

 

「一神教の神に信頼される天使というのは四大とか七大とか言われているのだけれど、後世でもっとも有名なのが四大天使よ。 その面子があの三人にガブリエルを加えた四名ね。 それぞれが地水火風を司る存在で、特にミカエルは明けの明星とされる大堕天使ルシファーと双子という説もあったりするわ」

 

「い、一体どういうことなんだ」

 

「恐らくだけれども、あの塔は四大天使の力を奪うために作られたものだったのよ。 作ったのは誰か知らないけれど、四大天使を良く知るもの。 或いはあの鴉……マンセマットかも知れないわね」

 

「大天使同士で争ったというのか」

 

呆れ果てるヨナタン。

 

とりあえず、座れと僕が声を掛ける。

 

確かに東のミカド国に関係することだ。いつになく熱くなるのも分かるが。今は、一つずつ情報を集めるしかない。

 

一神教の神は、元々世界で最も信仰を集めていた神格だ。その手足として活動していた天使達は当然の事、その直下にいた四大天使の力は文字通り圧倒的。

 

この国の守護神格である天津神や国津神が封じられて、更にはこの将門公の守護を受けた東京だったから戦いになったのであって。

 

そうでなければ、恐らくは勝負にすらならなかっただろうと霊夢は言う。

 

「幻想郷に攻め寄せた大天使はアブディエルという天使だったけれども、今まであたしが見た中で最強の相手だったわ。 そのアブディエルですら大天使としては四大よりはだいぶ格が落ちる存在よ。 本来だったらとても勝ち目なんか無い。 フジワラたち三人は、恐らくこの国の神々が、最後に力を振り絞って加護を与えて、それでミカエル達を打ち破れたのでしょうね。 そしてミカエル達を破った後、簡単に滅ぼせないミカエル達を拘束するためにあの塔が作られた」

 

「ガブリエルの奴が救出しろって命じてきたって事は、つまり」

 

「もしも下手に解き放ったら、東京は今度こそ滅ぼされるでしょうね」

 

「最悪だわ……」

 

イザボーが呻く。

 

確かに、間近で感じたあのギャビーの力。あれがガブリエルの力であったとするのだとすれば。

 

他にいる大天使達も、いずれ劣らぬ強者揃い。

 

しかもである。

 

感じただけであの力である。

 

更に切り札くらい、隠し持っていても不思議では無い。それくらいは想定しなければならないだろう。

 

「ヨナタン君、いいかい」

 

「はい」

 

フジワラが言う。

 

ヨナタンが顔を上げた。フジワラは厳しい表情だった。口調は柔らかいけれど、この人は恐らく、今もっとも激しているだろう。

 

「まだ私は色々君達に隠し事をしている。 だが、それでも話はしておかなければならないとは思う。 東京で行った大殺戮で、大天使達は満足していない。 文字通り全てを消し去り殺し尽くすつもりだったことが分かっている。 今後彼等を解き放てば、恐らく東京は血の海に沈むどころか、一辺も残さず消し去られるだろう」

 

「あまりにもそれは……為政者としてはあってはならないことです!」

 

「その通りだ。 君はどうしたい。 東京はまだろくでもない場所だ。 阿修羅会は衰えたりとはいえ健在。 それに多数の人に害なす悪魔が蔓延り、ガイア教団も何を目論んでいるか分からない。 此処は混沌の土地だ。 全て滅びた方がいいと思うかい? 一つの正義だけが存在する土地が、まぶしく見えるかい?」

 

「……絶対の正義があればいいと、思っていた事もありました。 東京のあり方を見ていて、それでなおさらそれは感じていた。 この土地の人々はあまりにも愚かすぎる。 これほどの無惨な有様で、なおも皆が協力しようとしきれていない。 間違わない王が統治してくれればと思ったのは事実です。 ですが……」

 

ヨナタンは、大きく嘆息していた。

 

僕は、ヨナタンを止めない。

 

その言いたいことは、嫌になる程分かるからだ。

 

「残念ですが、大天使達にその器はない。 それははっきり理解できました。 恐らくは、大天使達が掲げる一神教の神にも」

 

「ヨナタン。 それでどうする? 大天使達を撃ち払う? 神々ですらこんな有様だってのは見てきたよね。 人間なんて、もっと愚かだよ」

 

「……どうしたらいいか、分からないな。 ただこのまま人間が拡がっていけば、何度でも同じ事を繰り返すのは目に見えている。 この世界の破滅だって、結局は人間の愚かさがもたらしたものなんだろう?」

 

「難しいね。 それに土地の豊かさだって永遠じゃない。 どんなに豊かな土地だって、いつかは枯れ果てるんだ」

 

ヨナタンは、一人にしてほしいと、頭を抱える。

 

僕だってこんなことは結論が出ない。

 

不意に、威厳のある中年男性の声が聞こえる。

 

そういえば、この声。

 

ベヒモスとの戦いで、指揮を取っていた声だ。

 

「もういいだろうフジワラ。 わしが話そうか」

 

「そうですね。 この悩める若者達は、既に同志といっていいでしょう。 殿の存在を、明らかにしても良いはずです」

 

「まあ全て、というわけには行かぬがな」

 

「……え?」

 

声の出所を見回して、それで僕は声を上げていた。

 

銀髪の子。

 

いや、喋っている様子はない。そうなると、この子に何者かが憑依しているという事だろうか。

 

銀髪の子は、全く表情を変えない。

 

足を椅子でぶらぶらさせている様子は、普通の女の子だ。ただこの子が、とんでもなく戦い慣れしていることは知っている。

 

普通の子ではないと思っていたが。

 

「わしの名は明かせぬが、この娘に力を借りて今人外ハンターを統率しておる。 この娘はこの娘で凄まじき使い手にて英傑であるのだがな」

 

「貴方は一体……」

 

「この東京を今守護しているのは、天蓋を作った将門公と言って良いだろう。 だが、将門公はそれをやるだけで力尽きてしまった。 板東武者の始祖とは言え、力には限度もあるということだ。 だから、わしが来た。 本当はもう四人ほど来て貰うつもりであったのだがな」

 

殿とフジワラに言われているその中年男性の声。

 

フジワラを見ると、苦笑い。

 

この様子だと、フジワラも或いは、正体はまだ確信を持てないのかも知れない。

 

ともかく、話を聞く事にする。

 

「ヨナタンよ。 そなたは先の先を見過ぎておる。 国家百年の計も、まずは足下を固めることからよ。 まず最初に、今するべき事は何か」

 

「それは、この誰もが苦しむ東京を、まともにすることです!」

 

「その通りだ。 それにはまず阿修羅会を潰す。 この東京で今もっとも害を為しているのはあやつらだ」

 

明確な目標の提示。

 

僕としても賛成だ。

 

まずそもそもとして、東のミカド国はそこまで優先度が高くない。大天使達が支配しているといっても、千五百年続いているのだ。それに彼方此方で悪魔が出ていることに関しては、僕達は何もできない。

 

ホープ隊長達に、対応を頼むしかない。

 

ならば、まずは。

 

この地獄と化している、東京をどうにかする。

 

それには東京を蝕む阿修羅会の排除がまずは最優先。その後は、人々に害なす悪魔の排除。

 

ガイア教団も、その目的次第では排除。

 

それらが必要だろう。

 

ただ、人間は下手に集まると、池袋にいた連中みたいになる。それは東のミカド国のラグジュアリーズを見ても分かっている。

 

だが、だからといって。

 

目の前にいる苦しんでいる人達が、牙も爪もない人々が。

 

これ以上、理不尽に死ぬ事を許せるか。

 

許せはしない。

 

「今回の一件ではっきりしたが、阿修羅会は明らかにマンセマットと組んでおった。 それは大天使の見苦しい内輪もめに噛んでいた、ということを意味しておる。 そのような連中、もはや許してはおけぬ。 ただし、この東京では武力は少しでも必要なのは事実だ。 故に阿修羅会の首領であるタヤマを屠る。 その後阿修羅会は解体し、単純な武力組織として再編制し、悪魔との戦いに当てる」

 

これもまた分かりやすい。

 

というか、何だろう。

 

この人の言葉、すっと耳に入ってくるというか。不思議な安心感がある。

 

たしか相手に心地よく届く声、みたいなものがあると聞く。貴族街に出入りする歌を唄うことを仕事にしている人がそんな声を持っているらしい。

 

この人の声は明らかにそれとは違う。

 

なのに、なんだろうこの安心感は。

 

「霊夢よ。 まずは三体の大天使。 それらを無力化する事に全力を注いでくれるか」

 

「分かったわ。 しばらくは外に出られないわよ」

 

「いや、そうも言っていられなくなった。 阿修羅会を探っていた人外ハンターから連絡が来ている。 どうやら現在暴れ阿修羅会を混乱に陥れている存在の正体が分かったようだ。 甲賀三郎……といえば縁があるのではないのか」

 

「!」

 

霊夢が反応。

 

知っている名前なのか。

 

確かに魔法の文字で示されそうな名前だけれども。

 

「諏訪における原始信仰が英雄化した存在よ。 あたしも良く知っている奴の分霊体でしょうね。 ただ、恐らく荒神化していて、一度叩きのめさないと言う事は聞かないでしょうけれど」

 

「決まりだな。 大天使どもは我等で確保を続ける。 暴れているのは必殺の霊的国防兵器で間違いない。 それすら阿修羅会の手を離れたとなれば、奴らの威信は更に低下する。 完全に叩き潰す好機が来るとみていい。 甲賀三郎との戦闘を確実に行えるようになったら動いてくれるか。 それまでは大天使三体の無力化を続行してくれ」

 

「色々と面倒ね。 分かっていると思うけれど、そもそもこの国の封じられた神々の力を借りないと厳しい相手よ。 暴れているらしい大国主命の居場所も突き止めなければならないし……」

 

複雑な展開のようである。

 

殿と言われている存在は、更に指示を出した。

 

「志村」

 

「はい」

 

「サムライ衆を六本木へ案内して欲しい。 現在六本木は混乱状態で、上手く行けばそのままタヤマを討ち取れるかも知れない。 ただ深入りはするな。 霊夢と同等以上の実力を持つアベが控えている。 とにかく様子次第では、わしも現地に入る」

 

それは心強い。

 

西王母戦以降、銀髪の子の戦力は当てにさせて貰っている。

 

その他にも幾つか指示が出る。

 

回復が終わったマーメイドは此処の堅守。

 

秀は大国主命という存在を探しに出向くようだ。ただし、もう少し確度が高い情報が入ってから。それまでは六本木に同行してくれるらしい。

 

更にこのシェルターの周囲を、あのレールガンという武器で要塞化するべく、ドクターヘルが動くらしい。

 

あの破壊力は間近で見た。

 

勿論悪魔に効く弾は製造が大変らしいのだが、あれが見張っているとなると迂闊に悪魔も此処に近づけなくなる。

 

更に塔での戦いの話は、あの邪神テスカポリトカがどこに所属しているか分からないが。コヨーテも含めて、悪魔の中で拡がる可能性も高い。

 

そうなると、シェルターに大天使を瞬く間に仕留めた武器が配置されたとなれば。

 

それは、当然悪魔による攻撃への抑制につながるだろう。

 

「携行用レールガンは、残念ながらまだ自由に持ち出したり、荒れ地で運用できるほどの耐久性がなく、足を止めて使うしかない。 今回の作戦では自力での勝負になる。 それぞれマッカを支給するから、悪魔の強化などをしておくよう」

 

「よろしいでしょうか」

 

「うむ」

 

「今回の陽動作戦の影で、各地で悪魔討伐を一斉に行いました。 その時に著しい戦果をあげた者が三名います。 一人は池袋で活躍したリッパー鹿目」

 

あの剣士だな。

 

凄腕と聞いていたし、人外ハンターに協力的だという。

 

病的な男嫌いで、触られでもしようものなら腕を即座に斬り飛ばす程だというが。

 

僕には何となく理由がわかる。

 

これだけ荒んだ土地で生きてきていれば、そんな風になってもおかしくはないだろうなと思うのだ。

 

殆ど男の子みたいな見かけの僕ですら、そういう視線を時々感じるのだ。

 

イザボーなんかは、かなり警戒して相手を近づけないようにしている程である。

 

これに関しては、子供や老人、痩せた人なんかも同じように警戒している。それくらい、人心が荒廃していると言う事である。

 

その人の責任というわけでもないだろう。

 

「今回の作戦で同行を頼んでみます。 シェルターで暮らしたいと申し出てきていて、その最終確認となります」

 

「あの者は腕は立つが癖が強い。 気を付けよ」

 

「はっ。 残りの二人は、少し前まで見習いであったナナシとアサヒです。 既に充分な実力がついたと判断しました。 どちらもまだまだな部分はありますが、総合力では充分。 ナナシもアサヒも、相応の悪魔を従えており、つまり悪魔が相応の実力があると認めていると言う事です」

 

少し殿は考えたようだ。

 

志村の発言の後に、しばし沈黙が続いていたが。

 

やがて結論を出していた。

 

「いや、その二人には今回は別で動いて貰う」

 

「別ですか」

 

「ああ。 今回は大国主命の探索で最終的に秀に動いて貰うが、ニッカリとともにその事前調査に動いて貰う。 此方も重要な任務だ。 そして六本木には、一人前ではまだ無理だ。 だが大国主命は現在阿修羅会もガイア教団も着目していない。 強力な悪魔よりも、対人戦という観点では人間の方が危ない。 この場合は、其方で更に経験を積ませるべきだろう」

 

「分かりました」

 

僕も側で聞いていて納得したが。

 

いや、これは違う。

 

多分志村が自分の弟子かわいさで言い出した事だと判断したのだろうと思う。志村としては、育った二人を誇らしく思っているのだろうが。

 

殿としては、恐らく最終試験代わりに、大国主命探索で実績を見たいのだろうと思う。

 

非常に厳しい視点だが。

 

阿修羅会に対して抑え込まれていた人外ハンターを立て直したというだけの事はある。駄目と一蹴するのではなく、ちゃんと納得出来る案を出してきて、それで不満を出させていない。

 

すごいなこれは。

 

ヨナタンがくれた帝王学の本は読んだのだけれども。

 

ヨナタン自身が此処は机上論だ、というような持論を述べているような所も多い本だった。

 

この人は違う。

 

恐らくだが、本当に帝王として何かを為した人なんだと思う。

 

その人が積み上げた経験から、これらの決断は出て来ている。大したものだ。銀髪の子は穏やかで優しい性格に見える。それにどうして取り憑いているのかとか、事情はわからない事も多いが。

 

いずれにしても、話を聞いていて安心できる。

 

ヨナタン達も、不満を持っている様子はない。

 

ワルターはわくわくしているようだ。

 

単純に力を即座に把握できて、素晴らしいと感じているからなのだろう。

 

「恐らく当面阿修羅会は力を削られるばかりだろうが、それもいずれは何かしらの形で立て直す可能性もある。 また同類を失ったマンセマットが、態勢を立て直して仕掛けて来る可能性もある。 時間は必ずしも味方にはならない。 ただし、それでも焦りは禁物だ。 フリンらサムライ衆は、一度東のミカド国に戻り、十全に休憩をしてきてほしい。 また、報告書も出して、ガブリエルと思われる司祭に不審を買わないように振る舞ってきてくれるか」

 

「分かりました。 休息も仕事の内ですね」

 

「そうだ。 分かっているな」

 

他の皆にも、休息を殿は指示している。

 

僕らは先に上がると、すぐにターミナルに。

 

ワルターが戻る途中で、ひたすら感心していた。

 

「すげえなあの殿って人。 お頭をみて本当に出来ると思ってたんだが、お頭以上の器じゃねえかあれは」

 

「ホープ隊長は優れた人だけれども、それよりも更に豊富な経験を積んでいる印象だね」

 

「確かに発言の一つ一つに説得力が違いましたわ。 同じ事ばかり口にしている司祭達や、ラグジュアリーズの教育係達とはまるで違いますわね」

 

「貴族というなら、皆があれくらいの器だったら良かったのにね。 血統で優秀な人間を選別しているといいながら、ラグジュアリーズはあの人の足下にも及ばない。 情けない話だ」

 

ヨナタンもそこら辺ははっきり把握できているんだな。

 

ターミナルから東のミカド国に戻る。

 

暑くなっている。

 

もう夏だ。

 

既に、僕達がサムライになってから。東のミカド国では二年が経過しようとしているようだった。

 

 

 

夢を見た。

 

また、時々見る夢だ。

 

僕達は、とても勝ち目がない相手。名前はわからないが、数でも質でも上回る、最強の存在と相対していた。

 

僕達の勢力と同盟……実際には主君に近いが。その勢力から援軍は出たが、質でも数でも話にもならない。

 

それどころかその主君は、相手に対して土下座外交を続けるばかりで、僕達の勢力を見捨てているようだった。

 

翻る旗。

 

それを見て、恐れを知らぬと言われた僕の所属勢力の戦士達が、明らかに青ざめている。領土を侵食され、追い立てられ。非常に厳しい状況に置かれて。もはや後がないことが分かっている。

 

そして、戦いに負けた。

 

乾坤一擲の勝負に負けて、それで。

 

僕達の主は、城の戸を開けるように指示した。

 

錯乱したか。

 

大敗の後だ。そう困惑した戦士達の中で、僕は動く。いつもの夢の中だ。背は高く、声も太い。大柄な男性だということだろう。

 

「逃れてくる兵どもに、城は健在である事を示せ! 殿軍が時間を稼いでくれている! 多くの被害は出したが、籠城に持ち込めば相手もただではすまぬ! それよりも今は、一人でも救うのだ!」

 

「ははっ!」

 

扉を開く。

 

篝火を焚く。

 

太鼓を叩く。

 

それで、意気盛んだと判断した敵は、追撃をして来なかった。城には生き延びた戦士達が逃げ込んでくる。

 

そして、多くの戦士が死んだ事が明らかになったが。

 

僕達の主はそれを聞いても、冷静なままでいた。

 

「相手は日の本最強の男ぞ。 この程度の被害で済んだのは、むしろ軽いといえるわ。 それよりも、今日のことは忘れるな。 あの方は格上との戦いを怖れる。 今回でも本拠の側まで別働隊に侵攻されていながら、結局土下座外交を崩さなかった」

 

僕達の主はそう、僕も含めた数人の側近に零した。

 

多くの部下達を失った怒り。

 

それに哀しみ以上に。

 

この時、主君に近い存在に対して、僕達の主は、決定的な不審を抱いたのかも知れなかった。

 

目が覚める。

 

手を見る。

 

ちいさな手。体格に恵まれなかった僕は、このままこの背丈のまま生きる事になるだろう。

 

それでも力には恵まれた。悪魔とは充分に戦える。

 

顔を洗うと、軽く鍛練をして。それからオテギネを振るう。

 

これから六本木という場所に出向く。あの塔での戦いで、またマグネタイトを豊富に吸収して、力は上がっている。

 

ハイピクシーも乱戦の中で力を増したらしく。更に力を増せば、転化が可能だと言っていた。

 

他にも手札は増やしている。

 

食事をしながら、今後の事を考える。

 

ギャビーが大天使であり。東京どころか世界を破綻させた四大天使とやらの一角だとしたら。

 

絶対に討ち取らなければならない。

 

それにはまだ力が足りない。

 

オテギネを振るって、ひたすら腕を磨く。実戦での実践が一番良いのは分かりきっているのだが。

 

それでも基礎鍛練で力をつけることが、実戦での飛躍につながる。

 

それも理解しているから、手は抜かない。

 

他のサムライ達が、僕を見ている。

 

それには、いつの間にか。

 

畏怖が混じり始めていた。

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