原作だとタヤマにやりたい放題されるフリン達。小者ぶりは接する時から明白なので、もうちょっと上手に立ち回って欲しいと歯がみしたプレイヤーも多かったのではないでしょうか。
本作では阿修羅会への攻勢を強めた末での六本木進出で、そのため背後に支援もあり、状況がだいぶ違います。
フリン達は阿修羅会とタヤマに対して、原作より遙かに強く出る事になります。
序、六本木へ
東京に降りて彼方此方を歩いて、橋が落とされているのを何度も見た。地下に通路があっても水没していたり。悪魔がたくさんいたりで通れない。
東京の覇権を一度握った阿修羅会が、彼方此方の橋を落とし、地下道を意図的に水没させた。
各地を孤立させ、それで自分達だけ楽に生きられる状態を作った。
それは歩いているとよく分かる。
だから復興を開始している志村さんの行動は、見ていて感心させられる。
「この川を越えると六本木でしてね。 今回は橋をどうにか悪魔で作って渡ることになりますね」
「あの大きな橋は……」
「電車が通っていた橋です。 阿修羅会に壊されて」
「まったく……」
呆れ果てるイザボー。
とにかく何処に足を運んでも悪行の形跡しか無い。他にも通る道はあるらしいのだけれども、今回は出来るだけ正面から行く方がいいと言う事で、川を直に渡るそうだ。まあ、僕としても異論はない。
アナーヒターを呼び出して、氷の橋を造って貰う。
最近は力がついてきたからだろう。
消耗を少なく、アナーヒターに橋を作って貰えるようになって来ている。
氷の橋と言っても、脆くもない。魔力でガチガチに固められているから、踏んでも問題はない。
急いで渡る。
今回同行してくれている秀も、氷の橋を珍しそうに見ていた。
川を渡りきって、そして六本木に。
六本木の街は阿修羅会の膝元だ。完全に連中の支配下にあって、色々なろくでもないものが売り買いされている。
街に入ると、早速阿修羅会の者達がこっちを睨んでくる。
どうでもいい。
まずはターミナルを探す。
他にも何カ所かでターミナルは見つけたのだが、此処でも見つけておくべきだ。特に此処の場合は、即時撤退が出来るのが大きい。
ちなみに人外ハンターも見かけるが。
殆どは、此方に気付くとすぐに離れていった。
いや、原因は。
連れている彼女か。
マスクで顔を隠している鹿目というハンター。東京でも上から数えた方が良い凄腕として知られているのと同時に。
切り裂き魔の名前で知られている。
病的な男嫌いで、触られた瞬間に斬るということで有名であり。
手を出そうとして斬られたハンターが五人や六人ではないらしい。阿修羅会も、下手に手を出そうとしないそうだ。
人外ハンターは連れている悪魔が強くて有名な事も多いらしいが。
鹿目の場合は支援の悪魔だけ連れていて。
あくまで本人の剣腕で戦っているらしい。
確かに西王母戦でも、大きな戦果を上げたと聞いている。それに、いるだけで抑止力になるのは大きい。
人外ハンターの支部に顔を出す。
相変わらずの音楽で、イザボーが渋い顔をしているが。鹿目を見て、さっと人外ハンターが避ける。
本当に怖れられているのが分かる。
志村さんが話してくれる。
「以前阿修羅会の若頭を問答無用で切り伏せて、そのまま二十人以上を斬り伏せた事件がありましてね。 阿修羅会ですら手を出さないようになりました。 今回はそんな彼女にも手伝って貰います」
「分かっています。 それはそれとして……」
「あ、ああ、仕事についてだな」
店のマスターまで青ざめている。
そうか、どうやら本当に怖れられているらしい。
何かあったのはわかるので、僕としてもああだこうだいうつもりはない。ただ無言のまま、置物であってくれればいい。
とりあえず軽く話をする。
ターミナルについては、すぐに分かった。阿修羅会も興味がないらしく、六本木の一角に放置されているそうだ。
元は警察署があったらしい。
警察署については、前に志村さんに聞いた。
サムライ衆のような警邏のような人達がいた場所。それだけで充分である。
座標もバロウズに送って貰った。
今回は其処から調べる事にする。
仕事の依頼については、ヨナタンが顔をしかめていた。
人間の入荷だの。薬物の売買ルートの確保だの。ろくなものがない。
この場所に相応しい仕事ばかりというべきか。
此処にいる人外ハンターも、里がしれると言う奴である。はっきり言って、ここらを彷徨いている人外ハンターには、期待しない方が良さそうだ。
街を出て、それから少し行く。
あれが警察署か。
まずは彼処を落として、拠点を確保する。六本木の周囲はかなり荒れていて、最近殺された死体も目だった。
殺されているのは阿修羅会の構成員で、腐っている状態からして、それほど殺されてから時間も経過していない。
切り傷の専門家である鹿目がぼそりという。
「凄い腕前……」
秀は一瞥しただけ。
あまり思うところはなかったのかも知れない。
ともかく、警察署の周囲でも、数体の死体が散らばっていた。バロウズによると、この辺りは銃がたくさんあるらしい。
警察官という警邏の人達は相応に武装していたらしく、銃も使っていたようだ。
殆どは大戦の時に持ち出されてしまったようだが、まだ地下にはあるという話なのだ。
警察署はターミナルになってしまっていることもあって、周囲にある車などを漁るしか銃を手に入れる術もないとか。
それらの車はパトカーという代物だったそうで。
今は錆びて朽ちているが。
昔は白黒の塗装とぴかぴか光る仕掛けで、犯罪者を容赦なく追い詰めていたのだという。
志村さんが、懐かしそうに言う。
「大戦の時は、警官はかなり役に立っていましたね。 市民の盾になって、みんな勇敢に悪魔と戦って。 真面目で責任感のある警官から殺されていました。 最後の残存部隊は自分のような自衛官と合流して、悪魔討伐隊に入って戦ってくれましたが。 それも阿修羅会の連中のせいで……」
「仇はとろう」
「ええ」
まずは、ターミナルからだ。
此処にいつ何が出てもおかしくない。
甲賀三郎とやらは彼方此方をうろつき回っているとかで、いつ遭遇してもおかしくないのである。
あの六本木の街に乱入しても不思議では無いだろう。
如何に腐った街とはいえ。
それでも、見逃して良い事と悪いことがある。
警察署とやらに入ると、即座に領域になった。やはり此処にもいるか。いつもと気配が同じである。
「鹿目さん。 無理だと判断したらさがって」
「分かりました」
「おや、久しぶりですな。 といっても、言う程久しぶりでもありませんが」
今度はなんだ。
今度はなんだか黒い服に身を包んだ、杖とか持ったお爺さんの格好で出て来た。でも雰囲気は同じである。
間違いなくいつものターミナルの番人だ。
「気になっていたんだけれど、毎度姿を変えているのは何?」
「気分ですかねえ」
「気分」
「そうですよ。 何事も世の中で娯楽は大事でしょう。 私も主君にターミナルを守れと言われてそれなりの月日も経っていますし、退屈は色々と大敵なのです。 それで毎回、色々な姿で来客を迎えているのですよ」
なんだか大仰な礼をする其奴を見て。
何故かイザボーがキレた。
「ちょっと貴方!」
「は、はい! どうしたのですかな?」
「その格好、その礼の角度、いや腕の角度などもこう! 執事を真似るつもりなら、少しは本格的にやりなさい! 貴方のは真似事にもなっていませんわ!」
いきなり番人の腕を取ると、こうこうと実例をさせ始める。ワルターも呆れて様子を見ているばかり。
何度か大まじめに指導して、違うと鋭い叱責が飛ぶ。
志村さんが呆然としているのを見て、僕ももう放っておいていいかなと思ったけれど。筋がいいらしく、数回でイザボーが納得出来る動作が出来るようになったようだった。
「それでいいのですわ! まったく真似をするなら、少しは調べてからなさいまし!」
「ハ、ハア。 ま、まあ今後は気を付けます。 それで今回はちょっと人数が多いですね。 とりあえず此方にしますか……」
なんだかどっと疲れている様子の番人が、適当に何か呼び出してくる。
いや、やはり此奴は変わっていない。
呼び出されたそれは、地面を割りながら、這い出してくる。
これはなんだ。
「溶岩!」
「ちょっとまった! 溶岩なんて反則だろう!」
「いいや、溶岩そのものは悪魔ではないよ。 いでよ、ムスペル! 世界の終焉をそのまま焼き尽くせ!」
巨人がにゅっと地面から顔を出し、体を出そうと這い出してくる。
全身が燃え上がっている凄まじい巨人で、灼熱が此方まで吹き付けてくるほどだ。
バロウズが解説してくれる。
「北欧神話の巨人ムスペルよ。 世界の終焉に現れて、何もかもを焼き尽くす存在とされているわ」
「洒落にならないね。 凄い熱……!」
「人数がいてもこいつの暴力的な力を前にはそうそう勝手はできまい! さあどうする!?」
この温度、危険だ。
下手に冷やすと爆発しかねない。たしか聞いたことがあるが、水にあまりに高温を一度に叩き込むと大爆発を起こすと聞く。こんな溶岩を一気に冷やしたら、似た現象が起きるのではあるまいか。
いずれにしても、まずは冷気魔術だ。ただ、一度に冷やしきるのはまずい。
巨体が這い出してくる。
僕はまず皆に、冷気魔術での飽和攻撃を指示。ある程度温度を下げてから、アナーヒターでの水魔術投射に移行する事にする。
秀が印を切って、呼び出したのは、白い服を着た女性だ。
確か東京に出る悪魔を従えたと言っていた。雪女郎とかいう、本来この国に出る妖怪だった存在らしい。
ふっと雪を噴きかける雪女郎。
ワルターのギュウキが大量の水をブチ撒け、イザボーのスイキも同じように水をぶっかける。
しかし、それらの冷気、水魔術をものともせずに、ムスペルは進んでくる。唸り声を上げて、知能すらないように見えるそれは、あまりにも巨大で。あまりにも圧倒的だった。
「接近戦組はさがって! まだ仕掛けていい段階じゃない!」
「あれは魔そのものだ。 光魔術も試してみる!」
「分かった、だけれど無理は禁物だよ!」
ヨナタンが天使達を呼び出す。
天使達は空中に美しい方陣を構築すると、一斉に光魔術を叩き込む。
そこで、五月蠅いというようにムスペルが反撃に出ていた。
がっと手を振るだけで、溶岩が飛ばされてくる。それも凄まじい量である。
スイキとギュウキが前に出て、即座に溶かされるが、一瞬だけ壁になってくれる。天使達も、瞬時に半壊していた。
空を向き、吠え猛るムスペル。
まだまだ熱量凄まじく、とてもではないが接近戦は無理だ。
秀がでっかい銃を取りだす。いや、本当に大きい。銃も使っているのを見たけれど、どうやって取りだしているのか。
ドンと凄まじい音とともに撃ち出される銃弾。
だけれども、ムスペルはそれを顔面で受けて、とくに効いている様子もない。舌打ちすると、秀は多数の女性の上半身を持った蛇の悪魔を呼び出す。そして、一斉に水を吐きかけさせる。
膨大な蒸気の中、暴れ狂うムスペル。
腕を振るう度に溶岩が飛んできて、着弾して悪魔が斃される。イザボーが魔術戦戦用の悪魔をどんどん出してくれるし、それらが水で防壁も張ってくれるが、防ぎきれない。イザボーの大火力魔術でも、ムスペルの熱を殺しきれない。
相手が進む分、下がるしかない。
だが此奴が呼び出す悪魔は、必ず攻略法がある。今までの戦いで、それは理解できていた。
ムスペルは人型だ。僕は前に出ると、支援魔術で防御力を上げながら、手を振って叫ぶ。こっちだ。そう言って、足下で気を引く。
うるさいと、踏みつぶしに懸かってくるムスペル。その程度の速度なら、問題にならない。
問題なのは暑さだ。一瞬で意識が持って行かれそうな程にヤバイ。
回復魔術をヨナタンが連続で掛けてくれているが、それでもいつまで持つか。ムスペルの足下で気を引いて、相手の意識を逸らす。その間に、一斉に皆に冷気魔術をムスペルに投射して貰う。
踏みつけに懸かってくるムスペルだが、気付く。そうか、両足が地面についていないと、熱量を発揮しきれないのか。
理由は何となくわかる。
本来は熱の悪魔なのだろう。バロウズの説明を聞く限り、寒い地方で怖れられた暑さそのものの悪魔なのだろうが。今回は呼び出されるのに、溶岩の噴出を用いた。つまり溶岩を媒体にしている訳で。
地面から湧き出してきている溶岩と切り離されると、力が出し切れないのだ。
ワルターにハンドサインを出す。
ワルターが分かったと頷いて、呼び出したのはアイラーヴァタ。白い象は、僕を踏みつぶそうとしていたムスペルに、相討ち覚悟で足に横から突っ込む。巨体でも、流石にそれで横転するムスペル。
一瞬でその熱量が下がる。
やはりそうだ。
此奴は地面から噴き出す溶岩そのもの。だとしたら、足が地面に着いていなければ、その力を発揮しきれないのだ。
「いまだよ! 総攻撃を!」
「いよっしゃあ! 待っていたぜ!」
「良く耐えてくれた! 総攻撃だ!」
天使達も他の悪魔も、一斉に接近戦に切り替える。志村さんも、銃を乱射しつつ、接近攻撃に。更に、呼び出した小人、確か幻魔一寸法師が、ムスペルの頸動脈を叩き斬っていた。
僕自身も、倒れたムスペルの顔面に、ありったけの槍技を叩き込む。立ち上がろうとするムスペルを、ラハムが抑え込む。アナーヒターの清浄な水が、もがくムスペルに躍りかかる。
そしてずっと控えていた鹿目が突貫すると、ムスペルの足の腱を一撃で両断していた。
ワルターも同じように、大上段からの一撃で足を斬る。それで、ムスペルは戦意を無くしたようで、消えていく。
辺りの領域も、それで解除されていた。
暑さが一気に収まる。
呼吸を整えながら、僕はオテギネの石突きで、堅い冷たい床に変わった場所を叩いていた。
「どう?」
「ふっ、合格です。 今回はちょっとしたトラブルはありましたが、まあ私としても学ぶところがありました。 可としましょう。 其方のお嬢さん、まさか私にあんな指導をする肝を持つ人間と出会うとは思いませんでしたよ。 そして学んだ事はきっちり覚えておきます。 いずれ何かに役立つかも知れませんからね」
「まったく非を認めるにしてももう少しいいようがありましてよ」
「ははは、性分です。 いずれにしても面白かったですよ。 次にまた会いましょう」
すっと消える番人。
ハアと嘆息すると、僕はターミナルへの登録を済ませる。鹿目や志村にもそれはやってもらった。
一度此処で解散とする。
六本木での威力偵察は、一筋縄ではいかないし。
荒れ狂っているという甲賀三郎という悪魔を捕捉するまでは、いつ襲われてもおかしくはない。
しかも甲賀三郎という悪魔の戦力は阿修羅会がまるで手に負えないようだし、此方だって勝てるかどうか分かったものではない。
ともかく準備が必要だ。
東のミカド国に戻り、休憩する。隊舎のベッドで横になる。
ラハムが話したいというので、バロウズから声を届けて貰う。
「フリンさん。 わたし、もう一段階転化出来ると思います。 ただそれには、まだまだ時間とマグネタイトがいります」
「それは心強いね」
「はい、ありがとうございます。 問題は……あの人と戦う時には、その転化を済ませたいって事なんです」
もう愛想が尽きている。
だから創造主である母親を、そうは呼ばないと言う事か。
「やはりまだ影響を受ける?」
「はい。 転化して影響を断ち切らないと厳しいと思います」
「分かった、でもそれは今後も良質な戦闘をするしかないってことだよね。 僕は基本的に常に最前線で戦うつもりだから、それで転化を待つしかないね」
「……それもあるんですけれど。 話を聞いている限り、しばらくガイア教団とは事を構えないですよね」
それは問題ない。
ユリコというガイア教団のボスが、あの黒いサムライであることはほぼ間違いがないだろう。
それについてはいい。
だがそもそもとして、日本の本来の神々の封印からの開放。
弱体化している阿修羅会への追い打ちをして、一気に戦力を削ぐ。
この二つの方が先だ。
更に言えば、その先に大天使をどうにかすることもある。
この大天使をどうにかするのは、僕達にはどうにもできない。
何も知らない状態で、あの三人を哀れみのまま東のミカド国にでも連れていったらどうなっていたか。
少しばかり薄ら寒くなる。
だから当面の大目標として、暴れ狂っている甲賀三郎の情報の確認。
日本神話の神として、部分的に出現できている大国主命との接触がある。
僕としても、まだはっきりいってあの黒いサムライは許せない。自他共に命をどうとも思っていない事ははっきりしたし、いずれは討たなければならない。
だがそれには、まだまだ準備がいるのだ。
それを説明すると、ほっとした様子ではラハムは嘆息していた。
「よかった。 本当に貴方が理性的で、頭も回る人で助かります」
「いや、僕だって感情に突き動かされる事はあるよ。 今回は優先順位があるから、それで対応できているだけだよ」
「分かっています。 でも、わたしが知っている人間は、感情で気にくわない相手は殺していいという人もかなりいました。 だから」
「……」
そんな破落戸が、大戦の前の世界では「大人」で「立派」だとされていたのだという。
大戦が起きて良かったとは言わない。
だけれどもそんなのが大手を振って崇拝されていた時代だったとしたら、どうにかしなければならなかったのだろう。
いずれにしても、休むと告げて、寝る事にする。
大天使は僕達を監視している可能性が高い。だからこそ、むしろ堂々と休む事にする。
休憩を取らなければ。
強敵とはちあった時、生きて帰れる可能性は、ぐっとさがるのだから。
まずはターミナルの確保から。
色々な趣向を凝らしてくるターミナルの番人ですが、基本的に野良の人外ハンターでは勝てない相手を出してくる点では同じです。
今回はムスペル。
スルトの手下達ですが、北欧神話のアスガルドを滅ぼしアース神族をほぼ根絶やしにする災厄オブ災厄。
寒さに強い土地に住んでいる人達の暑さへの恐れが作り出した存在ではあるでしょうが、終末の存在として比類ない程の凶悪さです。神々をまとめて滅ぼしてしまうほどなので。
そんなムスペルにも、フリン達は勝てるようになってきています。