もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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一般ハンター代表の志村さん。

彼もナナシくんとアサヒさんを引率して、この状況では各地を走り回ります。危険任務の時は英雄と同行しながら。

今回はちょっと早いですが、真4Fでは仲間になるあの人も登場します。

真4では声がついていなかったんですよね。イベントを最後まで進めないと、真4Fでどうしてああなったのかも、分からないあの人です。






3、神田明神の戦い

秀と合流した志村は、ナナシとアサヒ、それに数名の人外ハンターとともに、調査を続けていた。

 

志村もこの年になって、マグネタイトを多数得ているからか、力が増している。連れている悪魔にも、新顔が増えてきていた。

 

その中の一つが道祖神。

 

むかし道に幾らでも立てられていたあの存在だ。

 

道祖神は今一正体がよく分かっていない神格で、熱心に各地に立てられたのは歴史的に見て比較的最近である。

 

交通安全、地域安全などを司る分かりやすい善神であるからか。後にサルタヒコなどの国津神と同一視されることもあったようだが。

 

その正体は古い蛇の神の系統ではないか、という説も志村は聞いた事がある。

 

東京でも破壊の中道祖神は残っており、その力を感じ取ることが出来る道祖神は探索では貴重だ。

 

国津神であるサルタヒコや、その妻となった天津神のアメノウズメなどの事も考えると、古い神とも縁があるわけで。

 

そういう意味でも、大国主命を探すには、丁度良い存在だ。

 

ちなみに現在呼び出している姿は、石に夫婦の神が浮かび上がったものだ。

 

元がどうであっても、多くの人に安全をねがって信仰された。

 

それが全てだ。

 

道祖神を見て、ナナシが不思議そうに言う。

 

「あんな石の塊が、神様なんだな」

 

「色々な神がいるし、色々な側面がある。 信じたくない神は信じなくてもいい。 だが、他人が信じたくもない神を押しつけたり、他の人が信じる神を、害があるわけでもないのに否定するのは良くない。 それだけのことだ。 それにアティルト界から具現化している以上、実際に安全をある程度担保してくれているのも事実だからな」

 

「それは分かったんだけれどねえ志村さん。 あれなんだろう」

 

アサヒが言う。

 

あれは、教会か。

 

ただ、それなりに力があるようだ。天使達が暴れ回った中、教会が残っているのも皮肉である。

 

志村は知っている。

 

天使が破壊の限りを尽くす中、一部の人間は教会に逃げ込んで、神に助けを祈ったりしていた。

 

天使はそんな人間を、教会ごと焼き払った。

 

教会はそういう理由で、殆ど残っていないのだが。

 

残っていると言うことは、何か理由があるのかも知れない。

 

ハンドサイン。

 

皆頷いて、周囲を警戒してくれる、秀は手をかざしていたが、やがて言う。

 

「内部に悪魔多数。 ただし、敵対的な者もいないし、危険な者もいないな」

 

「秀さんがそういうなら、大丈夫かな」

 

「あくまで相対での話だ。 油断はするなよ」

 

アサヒにしっかり釘を刺す秀。

 

友好的な悪魔もいるが、それでも機嫌次第では襲いかかってきたりもする。そういうものなのだ。

 

比較的しっかり残っている教会だ。天使達の情け容赦ない殺戮を知っていると、こういう場所に立てこもり、丸ごと皆殺しにされた人々の事を思い出して志村は少し悲しくなる。ともかく外装も意外としっかりしているが。

 

これは、比較的最近に再建したものだ。

 

わざわざ教会を。

 

そう思って、外壁を調べていると、秀が視線で促してくる。すぐに向かうと、中から声がしていた。

 

「手練れだよ。 どうしよう」

 

「少し脅かして追い返すのはどうだ」

 

「ノゾミがいないし無理だよ。 あいつら絶対強いよ」

 

「隠れよう!」

 

わいわいと話しているのが聞こえる。

 

志村もちょっと呆れてしまった。

 

「中に入るか。 罠か何かの可能性もあるが……」

 

「斥候を出して様子見からですね。 一寸法師、頼む」

 

志村が一寸法師を出す。

 

教会の扉は最近開け閉めした形跡もあり、普通に開く。先に一寸法師に入って貰い。ジャックランタンに灯りを照らして貰う。

 

東京はずっと太陽と縁がない。

 

この教会は周囲に多少灯りがあるが、それでもちょっと灯りが心許ないのだ。

 

周囲を警戒するナナシ。

 

アサヒは不安そうに、呼び出した悪魔とともに銃を構えている。

 

悪魔との戦いで勇敢に戦えるようにはなってきたが、まだまだだ。狙撃をやらせると、かなり良い腕を見せるのだが。

 

一寸法師が送ってくる情報をスマホで確認。

 

床、天井、罠なし。ブービートラップなし。

 

奧に悪魔の気配。

 

いずれも低級ばかりだ。

 

「何体か悪魔がいるが、あれで隠れているつもりか? こんな様子で良く生き残れてきたものだな」

 

「なんだか可哀想」

 

志村の言葉に、アサヒがそんな事を言う。

 

弱者を装って襲いかかる悪魔は珍しくもない。それもあって、志村としてはあまり今は何ともいえない。

 

秀が先に踏み込む。

 

内部で、ひっと声がした。

 

「出てこい。 害意がないなら何もしない」

 

「あ、暴れないでくれよ」

 

「此処まで立て直すの大変だったんだ。 教会なんかじゃなくて別のにしようっていったのに、ノゾミが天使が来ても手心を加えてくれるかもっていうから」

 

姿を見せたのは、下級の妖精ばかりだ。

 

ピクシーにフェアリー、後はゴブリンか。

 

それも戦い慣れた連中ではなく、どれも身を守ることさえ怪しそうな者ばかりである。

 

志村は困惑して、此処は何だと聞く。

 

後ノゾミという者も少し気になる。

 

「此処はノゾミが作ってくれた俺たちの家だ。 ノゾミは確か、人外ハンターだとか言ってた」

 

「該当しそうな名前が幾つかあるぜ」

 

ナナシが即座に検索。

 

流石だ。

 

頷くと、該当しそうな名前を確認する。ベテランが一人、若手が一人。それとまだ訓練中が一人。

 

年齢などを聞く限り、もしも登録している人外ハンターなら、若手のだろう。

 

調べると、写真撮影をこの東京でして回っているらしい。随分と変わっている。これだけ悪魔が出て、危険も大きいのに。

 

時々強力な悪魔との戦いを経験して、それで生き残っているから、それなりに腕は立つようだが。

 

秀が反応。

 

剣を抜くのと、背後から入ってきた女が銃を突きつけるのは同時だが。どう考えても秀が早い。

 

ゴーグルをつけている、それなりにしっかりした身なりの女だ。志村が割って入る。

 

「止せ。 此方も人外ハンターだ。 無事な教会なんて珍しいなと思って、確認をしていた」

 

「……」

 

「あんたがノゾミか」

 

「その子達に手出しをしていないでしょうね」

 

していない。

 

そう秀が言うと、ノゾミは銃を下ろした。冷や汗を掻いているのが分かる。これは、窮鼠猫を噛むという奴だ。

 

秀には勝ち目がないことを理解していて、それでも踏み込んできたのだろう。

 

「この辺りで強力な悪魔を探している」

 

「最近人外ハンター教会が活発に動いて、阿修羅会を叩きのめしているって話は聞いているわ。 その関係かしら」

 

「ああ。 大国主命を知らないか」

 

「近くの神社仏閣で強力な悪魔が徘徊しているって噂は聞くわよ。 それくらいね」

 

とりあえず、物資を供給する。

 

人外ハンターも、シェルターで栽培している新鮮な野菜、それに最近は取れるようになって来た鶏卵を見せると態度が変わりやすい。

 

ノゾミも例外では無かった。

 

「出回り始めているって聞いていたけれど、本当なのね」

 

「あの悪魔達は手持ちか? こんな所で単独で生き残れる腕があるのなら、是非我々に合流して欲しい。 今は腕利きの人外ハンターが一人でも必要なんだ」

 

「腕利きと言ってくれるのは嬉しいけれど、私は活動範囲が広いだけの凡人よ。 それにこの子達は手持ちではないわ」

 

何か事情がありそうだな。

 

いずれにしても、優先順位は別か。

 

咳払い。

 

「分かった、深入りはしない。 此方としては、大国主命と接触を図りたい。 いる場所や行動パターンが掴めればそれで問題ないのだがな」

 

「妖精達が怖がっているのは此処から北の神社よ。 人外ハンターがコテンパンにやられて何人かが逃げていったって話もあるわよ」

 

「そうか。 いずれにしても確かめないといけなさそうだな」

 

「……」

 

ノゾミという女に礼をして別れる。

 

一応連絡先は交換した。事情については分からないが、此処で単独で生き残れる者なら、やはり戦力として欲しい。

 

移動しながら、軽く秀と話す。

 

「秀さんは多くの悪魔と戦った経験があるようですが、日本神話系の神との交戦は経験したことがありますか」

 

「いや、それはないが、その代わり今身に付けている装備は日本神話系の神々の加護を受けている」

 

「そうなんですね」

 

「ああ。 私は元々人間と比べて少しだけ頑丈、程度でな。 元はそれほどうたれ強くはないんだ。 妖怪化する形態を、相手の大技を受け流したり、とどめ用に使っているのもそれが理由だ」

 

本来だったらそれでずっと戦えばいいものを。

 

そういう理由があったわけだ。

 

人間と悪魔の合いの子の話は時々聞くが、秀の話を聞く限り、必ずしも強力な存在ばかり生まれるわけではないのかも知れない。

 

指定された神社に向かう。

 

神社が寺を兼ねている場所も当然ある。

 

それについて、ナナシが聞いてくる。

 

「なんでそんなことをしてるんだ」

 

「神仏習合といってな。 この国ではそうやって、この神はこの仏様と同一存在という風にして、無駄な争いを避けてきたんだ」

 

「面白い考えだな。 でもなんで天使共はそれが出来ないんだ」

 

「彼等もやってはいるんだよ。 他の神を悪魔として、神の下に置くことでね。 でもそれじゃあ、他の神を信じている人からは反発されるだけだ。 だけれども、一神教徒は最後までその姿勢を改められなかった。 自分達の神は唯一絶対で、一番偉いってことにしておけば、自尊心も刺激されるし、何より何も考えなくていいからな」

 

バカに都合が良い考えなんだな。

 

そうナナシが言う。

 

厳しい言葉だが、確かにその通りだ。

 

思考停止するのに最もいいものが、「全肯定」と「全否定」だ。

 

しかしながら、どの信仰も基本的に信者を獲得するため、皆が幸せになる為の思想などを捨て、とにかく簡単に感情に訴えかける方向に進んだ経緯がある。

 

一神教だって、例えばキリスト教などでは隣人愛の思想や許しの思想が最初にあったのに。

 

そんなものは弟子を名乗る連中が滅茶苦茶にして、原罪と罰の思想へと代わっていった現実がある。

 

また、思想によって人を教化するのでは無く、美しいマリア像や、分かりやすい賛美歌などで人を手っ取り早く支配下に置くのは、古くからやってきたことだ。

 

皮肉な事に仏教では踊り念仏、イスラム教ではスーフィズムというような、似たような事をやって信者を増やした派閥が存在している。

 

ただ、そもそも古代の信仰では、どれも歌と踊りを用いていたこともある。

 

ある意味先祖返りなのかも知れない。

 

そんな事を話しながら、目的地に到着。

 

神田明神か。

 

かなり古くからある神社だ。大国主命を直接ではないが、同一視される大黒天を祀っている。

 

また幻魔一寸法師の原型神であるスクナヒコナ神を祀ってもいる場所で。

 

そして何より、平将門公を祀る神社の一つだ。

 

今では廃墟になってしまっているが。確かに強い気配がある。

 

「いるな」

 

「一度戻るのか」

 

「それがいいだろう。 下手に倒してしまうと、逆にこの国の神々を救う手がかりが途絶える可能性がある」

 

実の所、志村の感じる気配としては、そこまで危険だとは思わない。これだったら、アドラメレクの方が気配が遙かに絶望的だった。

 

霊夢を連れてくれば単騎で対応できるだろう。

 

だが、逆に言うと。

 

下手に倒してしまうとまずいということだ。他の人外ハンターなどが入るのも避けたい。

 

「ナナシ、アサヒ」

 

「おう」

 

「はいっ」

 

「俺は秀さんと此処で見張りにつく。 二人は他のハンター達と一緒に戻って、見つけた事を霊夢さんに告げてきて欲しい。 場所については、今送った座標だ」

 

秀を戻そうかと思ったのだが、この辺りは既に安全圏から遠く、志村単騎で潜むのは危ない。

 

確実性がないのだ。

 

その辺りの雑魚悪魔に負けるつもりはないが、それでもアドラメレクのように徘徊して人を襲う悪魔もいる。

 

万が一は避けたい。

 

「分かった。 すぐに戻る!」

 

「ああ、寄り道は避けろ。 とにかく余計な事はしなくていい」

 

ナナシもだいぶしっかりしてきた。

 

とにかくスタンドプレイが目立ちがちだったが、連携しての戦闘で強敵を仕留める所を何度も見てきたからだろう。

 

前衛に立つだけではなく支援魔術も得意になって来ているし、とにかく器用だ。あとは血の気が多いのをもう少し抑えられれば。安心して志村もあの世にいけるんだが。

 

それはニッカリも同じだろうか。

 

ちょっと苦笑する。

 

秀は多数の悪魔を出現させると、周囲に放つ。

 

恐らく偵察の目的だろう。

 

一寸法師は此処が心地よいらしく、ぼんやりと神社を見つめている。

 

また、たくさんの人が初詣に来られるようになったらいいのだけれど。そんな風に志村は思う。

 

数時間が経過しただろうか。

 

装甲バスが来る。引いているのはデュラハンである。

 

この様子だと、霊夢は急いで来たのだろうか。ともかく立ち上がって、手を振って迎える。

 

降りて来たのは、少し疲れ目の霊夢だ。

 

サムライ衆も一緒にいる。

 

これは心強いが、まさか。

 

「六本木の甲賀三郎はもう片付いたんですか」

 

「どうにかね。 ちょっと危ない場面があったけれど、流石だわ。 もう四人一緒ならあたしより全然強いわよ」

 

「一人で強くなるのを目的にしねえとな」

 

「言っていなさい」

 

ワルターがそんな事をいう。霊夢は呆れているようだが、しかし軽口と裏腹に見た所消耗がかなり大きいようだ。

 

サムライ衆の方は、恐らく時間の流れが違っている上で休んできたからか、気力充溢。此方は心配が無さそうだが。

 

「あたしは神降ろしだけして、荒神化している大国主命を正気に戻すわ。 そうね、呼び出すのは須勢理毘売で良いかしらね」

 

「誰だそれ」

 

「大国主命の妻よ」

 

「なるほど、確かに奥さんのいうことなら話も聞きそうだ」

 

ナナシの反応もあって分かりやすい。

 

ともかく此処からは文字通り神域の戦いになる。腰を上げた秀と、前に出るサムライ衆。

 

だが、霊夢が一瞥して言う。

 

「秀、悪いけれどすぐに本拠に戻って。 また悪魔が伺っているようだから」

 

「分かった。 気を付けろ」

 

秀が即座に装甲バスに乗ると戻る。

 

霊夢はかなり無理をして来てくれたのだろう。それは一目で分かる。それに、此処からは志村が頑張る時間だ。

 

「志村さんは周囲を警戒してくれるかしら。 日本神話の神格が力を取り戻したら面倒だと思う神が介入してくる可能性もあるし、人間の臭いを嗅ぎつけて襲ってくる悪魔がいるかもしれないから」

 

「は。 それは間違いなく」

 

「ナナシ、アサヒ、あんた達も志村さんに協力しなさい」

 

「分かった!」

 

ナナシはやる気もある。

 

ともかく、神田明神の周囲に悪魔を展開。見ると、ヨナタンが展開している天使の中にドミニオンがいる。

 

主天使といわれるあれは天使の指揮官級で、中級一位の実力者。中級天使と上級天使は天使としての扱いが全く違うと聞くので、恐らく雑兵としてはあのドミニオンが最強になるのだろう。

 

そうか、確かに霊夢が其処までいうだけの事はある。

 

志村も頷くと、周囲に雑多な悪魔を放つ。

 

ナナシも比較的強い悪魔を召喚できるようになっている。ゴズキはまだ無理なようだが、鬼を数体召喚して、周囲に展開していた。鬼達は荒々しい気性だが、それが故にむしろナナシと気があうのだろう。

 

黙々と周囲に散る。

 

アサヒは教えたとおり、狙撃に丁度いい地点を探して、近くの柱の陰に隠れた。いい位置だ。屋根から伸びている柱で、身を隠しながら高所を取れる。即座に教えたとおりクリアリングを開始する。

 

志村は安心して、他の人外ハンターにも指示。

 

動きはまだまだだが、それでも以前よりいい。

 

以前は本当に、運が良い奴だけが生き延びている状態だった。

 

淘汰が強者を産む見たいな考えがあるが実際には違う。淘汰の中で生き残る事ができるのは、強力な個体より運が良い個体だ。それは東京で散々淘汰に晒されて、志村が良く知っている事実だ。

 

実際志村より強い兵士なんか幾らでもいた。

 

第一空挺団の面子なんて、みんな一騎当千だった。

 

それが一人も生き残れなかったのだ。

 

弱肉強食なんて、社会の上層にいる人間が自分の地位を守るためにぶち上げた身勝手な嘘だと志村は思っている。

 

強くても運が悪ければ一瞬で死ぬのだ。

 

志村は、一応積み上げた経験があるが、それでも運が悪ければ瞬殺だろう。

 

背後で気配が膨れあがる。

 

戦いが始まったようだった。

 

冷や汗が出る程の気配だ。ドン、ドンと激しい激突音がする。フリンの肉弾戦闘能力は凄まじく、ツギハギがいずれ全盛期の自分を超えると明言していた。ツギハギは四大天使とも渡り合った剛の者である。

 

それでも、運が悪ければ死ぬ。

 

その運の要素を、出来るだけ志村は排除しなければならない。

 

「志村のおじさん! 15時、距離440!」

 

「よし。 ……堕天使だな。 数は6。 かなり多いが、個体は……あれは恐らくハルパスだな。 迎撃準備。 手元の戦力でどうにかできる筈だ。 アサヒ、そのまま全周囲を警戒。 ナナシ、お前がやるんだ。 不利になったら支援する」

 

「任せろ。 あんな小鳥、俺だけで充分だ!」

 

そうだな。あれだけだったらそうかもしれない。

 

だが、堕天使が不意に出て来たのが不安だ。もっと大物が、此処を監視していて。大国主命を討ち取るつもりなのかも知れない。

 

まだ神田明神の内部での戦闘は続いている。

 

其方の方は、参考程度に音を聞くだけに留める。

 

ナナシは進歩が早いが、やはり銃は苦手だ。打って貰ったばかりの大剣を振るって、果敢にハルパスの群れと戦っている。

 

ハルパスもソロモン王72柱の一角であり、伯爵という設定がある。この悪魔の爵位がいい加減極まりない代物なのだが、それはまあどうでもいい。ハルパスそのものは分霊体ということもあり、大した実力は無い。ただ鳥の姿をしているので空を飛ぶことが出来、展開力に優れる。

 

案の場、アサヒが警戒の声を上げた。

 

「今度は四時方向! 数、13!」

 

「あわてるな。 時間差での攻撃は想定範囲内だ! 皆、効力射準備!」

 

志村自身も壁を上がり、屋根に。

 

罰当たりではあるのだが、今は仕方がない。神社を荒らす悪魔を、見てみぬふりをする方がいかん。

 

あとで大国主命に謝るしかない。

 

他の人外ハンター達とそれぞれ位置に着くと、引きつける。

 

相手は今度は堕天使ガギソンだ。

 

ガギソンは人型だが顔が鳥に近い。

 

ガギソンはいわゆる疫病をまき散らす悪しき神とされたものが一神教に取り込まれた存在とされているが、いずれにしてもこれも他信仰が一神教にて悪魔とされた存在だ。一神教に取り込まれてからは色々な設定が付け加えられたが、下級と明確に言及されており、いいかげんであっても「伯爵」の階級を持っているハルパスより格下である。

 

引きつけてから、斉射。

 

アサヒはそのまま周囲の警戒を続けさせる。

 

他の人外ハンターは外してもいたが、志村はスナイパーに切り替えて、一射一殺で近付いてくるガギソンを叩き落として行く。距離300に達した時には、既に敵は半減しており、そのまま迎撃戦へ以降。

 

ジャックランタンと一寸法師を向かわせる。他の人外ハンターの手持ちも、ガギソンに負けるほどではないだろう。

 

警戒しつつ、銃の弾を再装填して、次にそなえる。

 

ぞくりとした。

 

本命が来たようである。

 

「し、志村のおじさんっ!」

 

「……出来るだけ時間を稼ぐ! 大国主命を元に戻す事ができれば、それだけ東京が救われる可能性が上がる!」

 

堂々と神社の前に降り立ったのは、明らかに大物と分かる堕天使だった。

 

馬に跨がった獅子の顔を持つ堕天使。両腕は蛇になっている。

 

この姿は知っている。

 

堕天使オリアスだ。

 

占星術に関連するソロモン72柱の一角。これもまた邪悪な性質を持っているわけではないが、それでも今は脅威である。古くは占星術は立派な学問であり、それを司っていたわけなのだから。

 

「思ったより粘るではないか。 雑魚共をけしかけて様子を見ていたのだが、雑魚では突破出来そうにないから出て来てやったぞ」

 

「戻れ、一寸法師、ジャックランタン」

 

ナナシも戻ってくる。

 

ナナシが展開した鬼達が、明らかにオリアスの威容に腰が引けている。まずいな。これはちょっと手が出せないか。

 

ハンドサインを出すと、はっとオリアスは笑う。

 

オリアスの配下という設定にされているガギソンが、更に出現する。

 

これは、むしろ好都合だ。

 

こっちを弱いとみたオリアスは、手下を用いて圧殺しにくるつもりだ。現に出現したガギソンは30を超えている。アサヒも悪魔を呼び出すが、支援系のものばかりである。

 

新しく配下に加えている道祖神は戦闘では使えない。

 

ナナシも鬼の他に数体の悪魔を呼び出すが、ガギソンならともかく、オリアスに対応できる悪魔じゃない。

 

激しい戦いになる。

 

数に任せて、ガギソンはにやにや笑いながら攻め立てに来る。此奴らはそもそもとして多数が存在する事が分かっている神格なので、分霊体ではない。似たような悪魔は世界中に伝承があるため、今はガギソンになっているだけかもしれない。

 

アサルトライフルで弾幕を張りながら、少しずつさがる。ガギソンは仲間が殺されても平然と進んでくる。

 

まるでどうでもいいように。

 

オリアスが煽る。

 

「食ってしまって良いぞ。 人間の肉は久しく食えていなかっただろう」

 

「さっすがオリアス様! 話が分かるぅ!」

 

「食われてたまるかよ!」

 

ナナシが鬼達と一緒に、必死に前衛をはる。

 

手にしている剣と一体化したような、アクロバティックな動きで、次々とガギソンを斬る。

 

だがガギソンは、次から次へと湧いてくる。

 

M16の銃身が焼け付きそうだ。グレネード。叫ぶと、グレネードを投擲。これは味方に対する警告のためだ。ナナシがさっと下がり。密集していたガギソン数体が吹っ飛ぶ。だが、吹っ飛んだ以上の数がわき上がってくる。

 

他の人外ハンターが駆けつけてくるが。ガギソンの数と、何より明らかに場違いなオリアスを見て腰が引ける。

 

それが分かっているから、ガギソンはにやつきつつ、魔術をぶっ放してくる。

 

神田明神の壁が次々に被弾して、吹き飛ぶ。

 

ぐっと歯を食いしばりながら、弾倉を変えて、射撃を続ける。アサヒも中距離でかなりの精度で射撃を続けてくれている。

 

だが、数も質も違う。もう全員、入口近くまで追い込まれている。

 

ナナシの鬼がガギソンに集られて、倒される。これで全てだ。

 

残りは雑魚ばかりだが、それでも決死の戦いをしてくれている。ジャックランタンが火焔術でガギソンをまとめて焼くが、次々に来る。

 

「も、もうガス切れだホ!」

 

「ありがとう、さがってくれ」

 

「志村がやられてしまうホ!」

 

「大丈夫だ!」

 

一寸法師も、必死の戦闘をしているが、ガギソン達が明らかになぶり殺しに掛かって来ている。

 

オリアスはずっと中距離で見ているが、何か隠し札がないか警戒しているのだろう。

 

人外ハンターに、ついに戦線を突破したガギソンが飛びかかる。まとめて数体に集られた人外ハンターが悲鳴を上げながら、空に持ち上げられそうになる。

 

志村が躍りかかると、受け取っている高硬度セラミックのブレード……ドクターヘルが素材を渡して、ドワーフたちに作らせた科学の剣で、斬り伏せる。ガギソンがぎゃっと悲鳴を上げて消えるが、しかし人外ハンターは酷く負傷していて、戦意もなくしてしまっている。

 

後ろから飛びかかってきたガギソンを斬り伏せる。

 

志村も年だ。

 

そろそろもう無理か。

 

オリアスがナナシの側に降り立ち、反射的に回し蹴りを叩き込んだナナシの一撃を、余裕を持って蛇で受け止める。

 

ナナシ。

 

叫んだアサヒがオリアスの眉間にスナイパーライフルの弾丸を叩き込むが、ちょっと五月蠅そうにしただけだ。

 

まずい、手に負える相手じゃない。

 

ナナシが吹っ飛ばされ、神田明神の壁をブチ抜いて境内に転がされる。

 

立ち上がるナナシが、畜生と叫んでいた。

 

「此処にいる神格が蘇ると面倒だと聞いていたから張っていたのだがな。 どうやら蘇ることも無さそうだ。 それにしても不甲斐ない部下共よ。 だが、そのおかげで我が久しぶりに人肉にありつけそうだ。 見るとみずみずしい子供もいるではないか」

 

「お前が肉になんかありつけるかよ」

 

「ほう、我に勝つつもりか」

 

「そのつもりだ!」

 

ナナシが、数体の悪魔に指示。支援魔術を掛けさせる。

 

ほうと、余裕たっぷりにオリアスが腕を組む。ナナシはそのまま突貫。さっきよりも、ずっと動きが速い。動きも切れが良く、生き残っているガギソンをまとめて斬り伏せながら、オリアスに迫る。

 

オリアスはふっと笑うと、大上段から斬りかかったナナシを、腕の蛇で丸呑みにしようとしたが。

 

その瞬間、一寸法師が、オリアスの脇から剣を突き立てていた。

 

相手が巨人ではないから特攻とはいかないが、それでも幻魔として実績を積んでいる一寸法師である。

 

オリアスに、確実に痛打が入る。

 

更にアサヒが、もう一発額に狙撃を入れる。

 

五月蠅そうに一寸法師を振り払うオリアスだが、志村がそのまま接近。高硬度セラミックブレードを、奴が乗っている馬に突き刺す。悲鳴を上げる馬に翻弄されるオリアスが、ナナシの剣を頭にもろに喰らい、獅子の頭の半ばまで刃が食い込んでいた。

 

「おのれええっ! 雑魚共がァ!」

 

オリアスが、全身から魔力を放ち、全員を吹っ飛ばす。そして、右腕の蛇を使って、ナナシを締め上げていた。

 

志村は地面に叩き付けられて、それでもよしと呟く。

 

怒り狂ったオリアスは、今の捨て身の総攻撃の理由を理解できていない。

 

それが、オリアスの敗因となった。

 

ずぶりと音がして、オリアスの胸から剣が生える。

 

オリアスが、ナナシを取り落とす。

 

剣から光が迸り、オリアスの全身が燃え上がる。凄まじい悲鳴を上げるオリアス。それを見て、生き残っていたガギソンが悲鳴を上げ、逃げ散っていった。

 

「私の社の境内で好き勝手をしてくれたものだ。 忌ね」

 

「がっ、そなた、この国の……! うぎゃあああああああっ!」

 

燃え尽き、マグネタイトとなっていくオリアス。

 

剣を持っていたのは、古い時代の髪型をした、威厳のある男性の神。

 

古くには多くの女神との逸話が残る浮き名を流した男神にて。

 

素戔嗚尊の娘を妻に持つ国津神の長。

 

大国主命だ。

 

かっと大国主命が叫ぶと、まだ逃げていなかった雑魚が、まとめて光に消し飛ばされていた。

 

フリン達が奧から来る。

 

かなり傷ついてはいたが、やってくれたのだ。

 

志村は身を起こすと、手を振る。

 

人外ハンター達も負傷しているが、誰も戦死はしていないようだ。

 

どうやら、これで更に状況が改善したらしい。年寄りが無理をした甲斐があったようだと、志村は苦笑い。

 

アサヒが涙を拭っている。

 

ナナシはボロボロになりながらも、親指を立て。それにワルターも親指を立てて答えていた。

 

通信を入れる。

 

大国主命、正常化作戦成功。

 

まだまだ東京の状況は予断を許さない。

 

それでも、これでまた一歩、前進したのは確かだった。

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