全身を痛めつけられたマンセマットは、必死に第二の拠点にしている廃ビルに逃げ込んでいた。
此処は元々反社の人間がドラッグパーティをしていた穢れた土地で、今のマンセマットには隠れ家として丁度良い。
呼吸を整えながら、傷を治しに懸かるが。
その場に、役立たずの同盟者が現れていた。
「逃げ延びていたか友よ」
「貴様っ……!」
思わず声を上げるマンセマット。
姿を見せたのは、テスカポリトカである。
もう少しこいつが粘れば、サリエルやカマエルは。
そう思うと、怒りがこみ上げてくる。
それに、である。
あのマーメイド、もしも捕獲できていたら、ちょっとは分かったかも知れない。あれは明らかに。
いや、それはまあいい。
ともかく、居住まいを正す。
ボロボロになった体や、失った翼は再生すればいい。
負の思念が満ちている今の東京で、それは難しく無い。
マンセマットは大天使でありながら、呪いの力を活力にすることが出来る。天界のダークサイドの第一人者だからだ。
「これで塔にあった例のものは手に入らなくなってしまったな」
「奴ら幽閉されていた者どもを連れ去ったようですね」
「ああ。 しかも上に連れて行ったのではなく、力を封じる場所に連れて行き直したようだ。 もしもこれで奴らが一神教の時の姿と名ではなく、一神教の前の状態にされでもしたら……」
「例のものは手に入らなくなる」
そうぼやく。
例のモノ。
それはいわゆる上位次元に入るための鍵だ。
色々な名前で呼ばれているが、その三つの鍵は、極端な話をすれば「王者の証」とでもいうべきもの。
慈愛だの均衡だの峻厳だのと言われているが。今まで神々の指導者たる存在が、世界の法則を決める「座」につくときに。「座」がある上位次元に入る時に用いていたものである。
大戦が始まるときに、各地にあったベテルと呼ばれるしぶしぶ一神教に従っていた各地の信仰の神々の支部を、大天使達は全て滅ぼした。そして四大天使が、その支部が分担して管理していた鍵を手に入れて。ガブリエル以外の三体が手にしていた。
これは幾つか理由があるのだが、この時点ではそれで万全の状態になり。くさった世界を焼き尽くして、新しい世界でも一神教の神が問題なく天下を取れる。その筈だったのだ。
だが、それも上手く行かなくなった。
まだ残っている東京に攻めこんだ四大天使が破れ、ガブリエル以外の三体が封じられたからである。
ただし、ミカエル、ウリエル、ラファエルらは。その存在の強大さもさることながら、手にしていた「鍵」もあって、滅ぼす事は出来なかった。
しかし奴らがもしも存在を理解していない者に連れ出されたら。
鍵を上手く分離することが可能であったかもしれない。
だが、この国の神々の最後の抵抗で、鍵は妙な形で三体と融合していた。今は神々の力も弱まってきていたから。
主神格の力を持つテスカポリトカであれば。
総力を挙げれば、一個くらい鍵は奪い取ることが出来た。
その筈だった。
そして、鍵を一つでも四大天使の側から奪うことが可能になれば。
マンセマットも、同志達と一緒に、神の側に四大などよりも寵愛を得て侍ることが可能になったかも知れないのだ。
勿論鍵を手にした異教のものどもは勢いづいただろうが。
どうせ人間が殆ど生き延びていないこの世界だ。
単純な信仰の一神教の天使が有利なのはいうまでもない。
後のライバルは、四大天使だけ。
それも奴らは自滅に近い形で信仰を歪めた結果、弱体化している。
上手いこと、封じられていた三体を東のミカド国にでも逃がせば。それで鍵の一つや二つ引っこ抜いておけば好機はあったのに。
全てが台無しだ。
爪を噛むマンセマットに、テスカポリトカは言う。
「ちょっとまずい事態になっていてな」
「わざわざ貴方が直接きていると言う事はろくでもないのでしょうね。 話してください」
「俺の策がばれた。 多神教連合の中で著しく地位が悪くなった」
「はっ……」
それは自業自得だ。
マンセマットだけではないということだ。悲惨な目にあったのは。
ましてや逃げ癖が身についている此奴である。
クリシュナが盟主をしている異神どもの集まりの存在はマンセマットもとっくに掴んでいる。
だから、鼻で笑うだけだった。
「それで私に何をしろと」
「いや、それでな」
周囲に気配多数。
マンセマットは立ち上がろうとして、その瞬間拘束されていた。
ひっと悲鳴を上げるマンセマット。側に浮き上がったのは、ケツアルコアトル。南米の信仰の影と言えばテスカポリトカだが、光と言えばこのものだ。
その他にも弥勒菩薩や、大物のナーガラージャが数体。
更には道教の鬼神ショウキ。
他にも幾体も異神がいる。
「お前を売って、身の安全を確保することにしたよ。 流石に俺も、ちょっとこの面子には勝てないんでね。 へへへ」
「き、きさまああああっ!」
次の瞬間、ナーガラージャ複数が同時にマンセマットに噛みつき、猛毒が注入された。神経毒だのではない。神々ですら致命傷になる神毒とでもいうべきものだ。
見る間に力が抜けていく。
そして。手もなく縛り上げられていく。
側に浮き上がったのは、クリシュナだ。
薄れ行く意識の中で、マンセマットは聞く。
「それでこれはどうするんで、盟主」
「いざという時の保険に捕獲しておく。 これでも強大な力を蓄えている存在だ。 贄としては有効だろう。 世界を壊すかどうかはまだ決めていないが、限定的にあれを蘇らせる可能性はまだまだある。 その時には、一時的に蘇らせるための贄がいる。 これはそれに充分だ」
ああ、終わったかこれは。
もはや力が入らない。
他の世界でも、マンセマットは志半ばで倒れる。
どうやらこの世界でも。
自分の事だけしか考えていない。あの強大な力を持つマーメイドにそう言われたか。
そうかも知れなかった。
そう、口惜しいながらに、マンセマットは認め。意識を手放していた。
(続)
原作でも塔のイベントの後、フリークエストで狩られてしまうマンセマットさん。
フリークエストは別にやらなくても良い事を考えると、放置されてしまう事もあるわけで……まあそっちの方が可哀想かもしれないですね。
いずれにしても自分はマンセマットさんが大好きなので(迫真)、マンセマットさんらしい末路を常に用意しておくのです。
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