原作だとよく分からない場所で遊んでいるタケミカヅチ神。居場所が居場所なので、「必殺の霊的国防兵器」の一柱ではないのか、と噂されたようですね。実際には違ったわけですが。
本作ではせっかくなので、その辺りを原作とは切り離して、地下で独自のコミュニティを構築していたタケミカヅチ神と、大国主命から情報を得て会いに行くことになります。
ただ……タケミカヅチ神は日本神話ではアマツミカボシ神以外には負け知らずの強力で好戦的な武神。
話を聞いて貰うには、相応の手順を踏まなければなりませんが。
東京の地図が拡げられる。
フジワラによると、現在天蓋が出来ているのは、昔「山手線」といわれたものが環状に囲んでいた地域より、少し広い位の範囲らしい。
山手線というのは電車であるそうで、上野駅で見かけたあの無惨な焼け焦げた鉄箱と同じ種類のものだろう。
フジワラが補足してくれる。
あれと同じようなものが、何十種類も東京だけで走っていたのだと。
そう聞かされると、凄いなと言う言葉しか出てこない。
そして東京の図の、四方にフジワラは指を走らせていた。
「東京に張られていた霊的結界というものが、元々は幾つかの寺を基点にされていて、四天王が守りについていたという経緯がある」
「四天王?」
「仏教において、インド神話の神々を取り込んだときに、天部という神々に振り分けたんだ。 何々天と言われているような神……日本で言うと弁財天や大黒天、帝釈天や毘沙門天などが有名だが。 これらがそうだね。 それらの中で、方角を司る四柱の天。 毘沙門天、持国天、増長天、広目天。 現在これらの天部は荒神化していて、結界が上手く作動していないらしいんだ。 日本神話の神々が封じられた時に、それが色々と壊れてしまったらしい」
殿はノーコメント。
あまり詳しくはないのか、それとも。
ともかく、これらの話は大国主命から聞いた話であるそうだ。
「現時点でこれらの結界を復旧すれば、恐らくは今霊夢さんがやろうとしている、大天使達への本格干渉も出来るようになる。 ただ急がないと、四天王が別の寺に移されたり、或いは結界そのものが壊される可能性もあるそうだ」
「俺には魔術的な話はよく分からないんだが、ある程度話をしてどうにかならないんですかね」
「元々日本神話系の神々が封じられた時点で、この国の秩序というのはおかしくなってしまったんだ。 仏教系の天部も荒神化するのは避けられないだろう。 残念ながら、戦うしかないだろうね。 ただ、日本神話系の神々を更に封印から救い出せば、話は変わるかも知れないが」
「もとの秩序を取り戻して、それから、ということだね」
僕の言葉に、そうだとフジワラは言う。
霊夢は現在ダウンしているので、他の皆とこれについて話す。
まず現在、有力な日本神話の神として、タケミカヅチという存在についての話を僕が大国主命から聞いている。
六本木にいるらしいという話だが。
まだ彼処は安全ではない。
先輩は助け出したから、その点では問題はないが。
いつあのタヤマが血迷うか分からないのだ。
殿が言う。
「血迷った場合、何をしでかすか一番分からないのがタヤマだ。 出来るだけ早い段階で殺してしまうべきだろうな」
「随分厳しい判断ですね」
「世の中にはどうあっても救えない相手がいる。 そういう意味では、タヤマはそれに該当する。 わしとしても、こんな状態では出来るだけ人は殺したくはないんだがな。 それも仕方がない。 タヤマは情報を総合する限り、生きているだけ害を為す」
それは僕も同意だ。
そして、殿は指示を出していた。
「まず手を幾つかに分ける。 わしが指示する寺を偵察し、内部がどうなっているかを確認してくるように。 勿論荒神化した四天王がいる可能性がある。 他の神格がいるかもしれん。 迂闊に足を踏み入れるなよ」
「了解」
これには秀とナナシとアサヒ、それに志村さんが当たると言う。
また別働隊として、小沢さんとニッカリさんも、精鋭の人外ハンターを率いて様子を確認しに行くそうだ。
霊夢がいれば話は早いのだが。
ただ、それらの寺は、上野、池袋、渋谷などの近辺にある。いずれもが六本木や銀座などの、現時点で危険地帯とされている場所ではない。
それだけは救いだろうか。
「サムライ衆は六本木に潜入してくれ。 わしも同行する。 六本木の地下を探索して、タケミカヅチを探す。 タケミカヅチは日本神話で各地の国津神を破った武神で、戦闘力に関しても頼りになるが、それ以上にこの国でアマツミカボシ以外の神格に敗れていないという逸話が大きい。 この国での武神だから、他の国の神々に対して優位を取れる」
頷く。
相撲、か。
力は増しているが、そんな凄い神様相手に勝てるだろうか。
まあ、そんなことはやってみないと分からないが。
いずれにしても、調べるしかない。
六本木についての地図は、ドクターヘルがバロウズに転送してくれる。
地下鉄や、更に地下の使われていない通路や空洞などを調べるという。
ただそれらも、阿修羅会が拠点にしている可能性がある。最悪の場合、交戦は避けられないだろう。
挙手する小沢。
「六本木ヒルズに南光坊天海がいます。 それらの話について、詳しく聞けるかも知れませんが」
「必殺の霊的国防兵器と化しているのだろう。 軛から抜けて暴走していた甲賀三郎より更に格上の筈だ。 霊夢が動けない今は、手を出すべきではない。 阿修羅会が混乱している今のうちに、更に出来る事を進め、地固めをする。 日本神話系の神々を封印解除すれば、それだけ他の神々に対して優位を取れる。 だが、今はまだ状況が不安定だ。 安定化を図るのが先である」
頷くと、小沢がさがる。
兎に角話が分かりやすいし論理的だな。
順番としても、霊夢がしばらく動けない今は、妥当な筈だ。
この間六本木で同行してくれた鹿目という人外ハンターは、今回は志村さんのチームに入るそうである。
ずっと黙っていたマーメイドが言う。
「時に、フリン。 恐らく貴方にだけれども、不思議な人が接触してこなかったかしら」
「不思議な人?」
「ええ。 明らかに場違いで、面白がって貴方を見ているような人」
「……何とも言えないけれど、ターミナルの番人かな?」
恐らく違うと、寂しそうにマーメイドが笑う。人を装っているはずだと言うのだ。
ふとぴんと来る。
あのヒカルという女ではないだろうか。
明らかにあいつはおかしかった。
どう見ても非力な人間なのに、どうしても異様な威圧感があった。
その話をすると、イザボーが眉をしかめる。
「殿方に媚を売っているようで、非常に不快な方でしたわ」
「……話を聞く限り、その人の可能性は高そう。 現れる場所などは特定出来ないかしら」
「いや、僕達もまだほとんどあった事がないし。 新宿で二回だけかな」
「今はシェルターから動けないね。 殿、時間を作って、調べて回れるようにしてくれないかしら。 この世界の未来にも関わる、大事な事なの」
この世界の未来か。
マーメイドが誠実な言動をしていることを、僕は知っている。今更嘘をつくとはとても思えない。
それにだ。
塔での戦いで、マンセマットへの発言が気になっている。
「この世界でも」とマンセマットにこのマーメイドは言っていた。
最高位の悪魔になると、別の世界に渡ったり、別の世界の同一個体と知識を交換したり出来るそうだが。
ひょっとしてこのマーメイド。
その手合いではないのだろうか。
「そなたが献身的に尽くしてくれているのは分かっている。 よし、良いだろう。 ただし、この世界が安定するまでわし等とともにあってくれるか。 貴様の力を失うのは、痛手としては大きすぎる」
「勿論それは約束するわ。 この世界でもっとも大きな問題になっている存在をどうにかして、未来が見えるまでは一緒にいる」
「そうか、その言葉、万金に値する。 ドクターヘル、人外ハンターの目撃例を電子戦部隊に当たらせてくれ。 ヒカルなる女の目撃例と、その場所などを調べて欲しい」
「承知。 作戦らしくて面白いわい」
それで解散となる。
殿がついている銀髪の子は兎に角喋らないが、それでも話を理解はしっかりできていたようである。
スマホも既に受け取っている。
ただ悪魔召喚用ではなくて、連絡用としてらしいが。
六本木のターミナルは、銀髪の子も既に登録しているので、一緒に転移する。さて、此処からだ。
近場に地下通路への入口がある。
甲賀三郎が倒れても、阿修羅会が受けたダメージは甚大なようで、好き放題に辺りをうろついていた阿修羅会は姿を見せない。
ターミナルのあった周辺も、荒らされている気配はないようだ。
地下通路はすぐに見つかったが、残念ながら崩落してしまっている。これについては、事前に聞かされている。
崩落の状態を見せて、それで登録しておく。
現状分かっている地図を、そうしてどんどん更新していくのだ。
また、外では基本的に殿は喋らない事を明言している。
それはそうだろう。
殿が取り憑いているのが銀髪の子だと知られるのはまずい。今の時点では。正体不明の指導者が誰なのか、他の勢力に悟られるのは致命的なのだ。
「おい、こっちの通路はどうだ!」
「奧へは通じているが、随分と寒いな……」
「気を付けて。 悪魔がいるかも知れないよ」
「いや、もう遅いようだ。 ワルター!」
ヨナタンとワルターが飛び出してくると、どっと凄まじい冷気がその後を襲っていた。僕は即座にアナーヒターを出して、冷気の壁を作る。
冷気同士でぶつかり合って、ヨナタンとワルターを助け出す。
穴から出てきたのは、巨人だ。
全身青白く、見るからに獰猛な姿をしている。
すぐにバロウズが解説してくれた。
「霜の巨人よ。 北欧神話ではヨトゥンヘイムと言われる土地に住んでいるとされる神々の敵ね。 しかしそれにしてはおかしな事が多くて、元々は神だったものが貶められた可能性が高いわ」
「どこでも一神教と同じ事をしていやがるんだな」
「とにかく排除するよ! イザボー、時間を稼ぐから頼む!」
「分かりましてよ!」
僕とワルターが、ラハムと一緒に突貫。
霜の巨人は巨大な武器……棍棒だろうか。それを振り回して、雄叫びを上げながら暴れまくる。
凄い剛力だが、ガタイの割りにはどうってことはない。
問題は身に纏っている冷気で、ちょっと近づけない。
炎の悪魔は何体か手持ちにいるのだが、それらも寒さを相殺できる状態ではないようだ。ちょっと冷気が強烈すぎる。
ヨナタンの天使達も、壁を作るので精一杯だ。パワーが割り込んで、時間を一瞬作ってくれるが、棍棒を防ぎきれず、盾ごと砕かれて消し飛んだ。
本当に殉教だな。
倒されても倒されても復活して、ヨナタンや僕達のための盾となる。武器にもなる。
パワー達自身も力が上がっているはずだが、それ以上に強い悪魔が多すぎる。
ドミニオンが指揮を取り、天使達はめげずに巨人の動きを止めずに襲いかかる。巨人も五月蠅そうに天使を払い。
注意がそれた瞬間、イザボーが最大出力の火焔魔術を、コンセントレイトつきでぶっ放していた。
炎の柱が、それこそ天を焦がす勢いで上がる。
凄い火力だな。
イザボーの火力は同レベル帯の悪魔よりも上だとバロウズが解説してくれていたが。それにしてもとんでもない。
文字通り全身を炎に灼かれた霜の巨人が悲鳴を上げるが、その瞬間、僕とワルターが左右に分かれ、巨人の足の腱を斬る。
そして、ラハムが髪の毛を蛇に変えると、えいっと声を上げて、巨人を投げ飛ばしていた。
踏ん張れなくなった巨人が、頭から地面に落ちて、グシャアとか音を立てる。
あれは痛そうだ。
巨人もそれで、消え始める。
流石にひとたまりもなかったらしかった。
「奧に似たようなのが他にいないかな」
「分からないが、まずは回復だ。 そういえば……」
銀髪の子がいない。
戦闘音がする。
見に行くと、数体の悪魔が切り裂かれ、消えていくところだった。どれも弱くは無い堕天使達。
この様子だと悪魔達は戦いを伺い。
不意を突くつもりだったのかも知れない。
それを銀髪の子が対処してくれた。冷静に霜の巨人以外を見て、戦局を判断してくれていたという事か。
殿がついているだけの事はあるが。
この子自体が凄い英雄だという話だし、或いは自己判断かもしれなかった。
地下道に入ると、奧で阿修羅会の死体が転がっていた。スマホが手元にある。だとすると、霜の巨人はその殺された阿修羅会の手持ちだったのかも知れない。死体は今殺されたものではなく、痛み始めている。恐らくは甲賀三郎に倒されたのだろう。霜の巨人は、介入する暇すらなかったのだと思う。
銀髪の子が、周囲を調べて、やはり指さす。
片側は塞がっているように見えるが、人為的に塞がれている。
これは、奧へ通れそうだ。
ワルターと僕で瓦礫をどかす。
天使部隊は回復を急いで貰う。
その間に、ヨナタンはイザボーと一緒に、殺された阿修羅会の死体を荼毘に付していた。死体蹴りまではしなくていいと思ったのか、それ以上に衛生面の問題や、この死体を媒介に悪魔が出現するのを防ぐ目的かも知れない。
瓦礫はすぐにどけ終わる。
それに、イザボーの連れているスイキやワルターの連れている数体のナーガが指揮官のナーガラジャと一緒に力強く働いたというのもある。
瓦礫の奧には、まるで動物の臓腑のような深い穴が拡がっていた。
灯りもない。
ハイピクシーが、光の魔術を使って、周囲を照らしてくれる。同じようにドミニオンが辺りを明るくしてくれた。
「足下に気を付けて。 尖った瓦礫も多い」
「それでフリン、どうだ。 気配は感じないか」
「感じるけれど、雑多だね。 それに少し遠くにたくさん強い気配がある。 これが多分、必殺の霊的国防兵器だと思う。 いや、本当にそうか? ちょっと分からないかな」
地図を更新しながら奧へ。
ともかく、出来るだけ急いで探索を進めたい。
もたついていると、東のミカド国では何十年も経っていたとかなりかねないのだ。
地下を進む。
黙々と歩いていると、雑多な悪魔とどうしても出くわす。干涸らびた亡骸を囓っているようなのから、弱くて他との戦闘を避けているような者まで。有害な悪魔は全て駆除して行く。
それだけじゃない。
悪魔は当然として、鼠やゴキブリが元気に活動している。
ドクターヘルが言っていたっけ。
人間より此奴らの方が生物としては完成度がずっと上なのだと。人間が滅びても、此奴らは何の問題も無く存続しているだろうと。
確かにそれも納得出来る。
一体ずつは弱いかも知れないが。
とてもではないが、脆弱だ等とは、こういう光景を見ていると、言う事は出来なかった。
イザボーがいやそうな顔をしていたが。
嫌悪感を感じるのと、容赦なく殺して良いとかそういう理屈は別だ。
そんな理屈が成立するのなら。
権力者は気にくわない相手を皆殺しにしていいとかいう話にもつながる。
相容れないなら、そもそも近寄らない。
それだけでいい。
黙々と探索して回ると、不意に足音。
灯りで前を照らすと、人影が姿を見せる。僕は一瞬だけオテギネを構えたが、すぐに降ろしていた。
知り合いだ。
「カガ……」
「久しぶりだな」
ガイア教徒のカガ。
優秀な戦士で、西王母と一緒に戦った一人だ。長身の女性で、優れた体術の使い手である。
単騎で行動していたようだが、流石に悪魔は連れている。
どれも荒々しい鬼の類種のようだった。
「なんだ、あんたも調査か」
「ああ。 お前達は何を調べている」
「強めの神様がいるって話があってね。 地上部分にはいなさそうだったし、地下を調べてる」
「そうか。 この先は水が溜まっていて、かなり危険だ。 引き返してきたところだ」
そうと頷くと、一応確認させて貰う。
地下鉄というものの通路だったようだが、確かに水没している。というか、水没させられた感じだ。
ばちばちと光が奔っている。
これは、危ないなと判断して、皆に進まないように言う。
正解だとカガが言った。
「漏電している。 下手に水に触れると死ぬぞ」
「漏電?」
「東京の不可解な灯りは、電気というもので賄っているらしい。 雷と原理は同じだそうだ」
ヨナタンが説明してくれる。カガもよく調べたなと苦笑い。
雷を使う文明か。
何度聞いても驚かされる。そして雷がその辺りを走っているなら、それは触れば死ぬのも納得である。
少し引き返しつつ、偵察に出していた悪魔達を集める。
ヨナタンの天使達も殆ど欠員なく戻ってくる。数体の欠員も出ていたが、ただではやられず。倒された分の天使も、何にどう倒されたのかを説明してくれていた。
カガは座り込んで話を聞いている。
銀髪の子が一瞥だけしたが、それだけ。
むしろカガは、銀髪の子に興味を持っているようだった。うっすら光っているし、不可思議に思えるのかも知れない。
「報告は受けているが、その子はなんだ」
「喋らないから素性は分からないんだけれど、凄い使い手だよ。 僕より現時点では上じゃないかな」
「それほどか。 確かに堕落していた玄武を単騎で圧倒していたと聞いているが」
「それよりも、情報交換と行こうぜ。 俺たちも手詰まりでな」
ワルターが提案すると、カガもそれに乗る。
この二人、相性が良いのかも知れない。ワルターはカガを認めているようだし、カガもワルターを嫌ってはいないようだ。
カガのスマホから、地図を転送して貰う。
イザボーが僅かに懸念を示していたが、今の時点でカガと争う理由がない。ただ、バロウズにこっそり、完全に信用せず精査しろとだけ呟いておく。勿論カガも、全部信じる事はないだろうし。
そもそも僕らは、地下に入ってからこれといった成果を見つけられていない。
「天使達がやられた方に行ってみるか。 かなりの悪魔がいるらしいが」
「そうだな。 ただ、パワー三体がそれなりに戦えたと言う話だが。 そんな程度の雑魚を探している訳ではあるまい」
「言い方は少し気になるが、その通りだ。 ただ、それが歩哨か何かだった可能性は低くない」
「それもそうか」
ヨナタンがちょっとむっとしていた。
ただ、カガもきちんと論理的に返すので、それで問題にはならない。
銀髪の子はやりとりに興味が無さそうで、周囲を見ているが。これは、気配を探ってくれているのかも知れない。
横道にそれる。
大きな地下通路を行くと、壊れた電車が潰れていて。たくさんの人が中で死んでいた。燃えたのだろう。酷い有様である。
カガが右手を立てて、何か呟いている。
以前聞いたことがある言葉だ。多分お経という奴だ。
天使達が光の魔術を掛けて、浄化をしている。やはり悪霊がたくさん集っていたが、それがまとめて浄化されているようだ。
幸い死者が歩き出している様子はない。
この電車の残骸は、もの凄く酷い状態で徹底的に蒸し焼きにされたらしく、内部の死体は動くような状態ではなかったようだ。
こんな酷い鉄の棺が、地下中にあるのだろう。
とても悲しくなる。
此処と、パワー三体が倒された地点は近い。
倒されたパワー達は既に復活させてあるが、すぐに戦闘させるのは無理だろう。こういうのは割切って進むしかないのだ。
瓦礫だ。どけて進むか。
そう思った瞬間、ひゅっと音がして、僕はオテギネを反射的に振るってそれを弾き返していた。
コンクリートだとか言う強靭な素材の壁に、まるでバターにでも突き刺さるようにそれが刺さった。
棘だ。
それもワルターの腕くらいも太い。
即座に展開する皆。
奧に何かいる。それも陣列を組んでいるようだった。
「出てこい!」
「!」
カガが吠えると、ぴゃっとか、憶病そうな声が聞こえた。灯りを向けると、小さいのがワラワラと逃げる。
一瞬で正体をバロウズが看破したようだ。
「妖獣ノデッポウよ。 人を襲う逸話もあるものの、基本的には老いた狸が変じたものとされているわ」
「狸?」
狸は僕も知っている。
溜め糞という習性を持っていて、それを水場近くとかでやられると困るものの、基本的には無害な動物だ。
そういえば前に何回か、狸由来の悪魔がいると聞いた。
それも実際には、元々は大型の猫が由来で。それがこの国……日本といったか。日本に文化が到来したときに、狸のことだと勘違いされた末だという。
確かに狸が憶病で害を為す生物ではないことを知っている僕は、妙な話だと思ったけれども。
ただし、悪魔となっているなら。
しかも今の殺傷力を考えると。
放置も出来ない。
パワー達が壁を作るが、パワー達が殺されるほどの相手とも思えない。灯りで奧を照らすと、大きいのがいる。
手に巨大な刃物を持った、大柄な人だ。藁を編んだような服を着ていて、恐ろしい形相に角が生えている。
鬼の一種かと思ったが、違うとバロウズは言う。
「秘神なまはげだわ。 東北地方に伝承がある、悪い子供を戒めるための一種の守護神ね」
「天使ども……ついにこんなところにまでも来たか!」
なまはげが吠える。
ヨナタンが攻撃を指示しようとしたようだが、僕は手を横に。
一旦天使達を引っ込める。
その代わり、イザボーに頷く。イザボーは、最近悪魔合体で作り出した存在を、召喚していた。
この国の古い神様の一柱らしい存在。
コノハナサクヤ姫。
非常に美しいことが知られる神様で、東のミカド国には見当たらない桜という植物の神様であるそうだ。
霊夢にアドバイスを受けて、呼び出せるようなら日本神話系の神格を作っておいた方が良いと言われ。
悪魔合体のデータベースから見つけ出し、作り出したのである。
今の僕達の実力からも、かなりギリギリの存在ではあったが。
「おおっ! コノハナサクヤビメ様!」
「なまはげ、この方達は天使ではありません。 天使を使役してはいますが、天使の奴隷ではないのです」
「ははっ! 失礼いたしました。 しかしノデッポウ達は天使の恐怖を身に刻み、怖れております故。 無礼を働いてしまい」
「いいよ、それはもう。 それよりも、この国の神様を探してる」
僕が前に出て、交渉をする。
じっとなまはげは僕を見て。それで咳払いしていた。
「かなりのますらおと見たが、そなたはこの国に仇為さないと誓えるか」
「僕は今の荒れ果てた東京をどうにかしたい。 それは誓えるよ。 僕達がきた東京の上の国も、色々とあまり良くない状態なんだ。 少なくとも僕フリン、イザボー、ヨナタン、ワルター。 僕達サムライの四人はそうだって誓える」
「私も誓おう。 ガイア教徒は混沌を好む傾向があるが、私には色々と思うところもあるのでな」
カガもそういう。
大きな目でじっと此方を見ていたなまはげは、それで僕達に嘘がないことを見破ったのだろう。
銀髪の子については、しばし警戒していたようだったが。
やがて、提案してくる。
「フリンとやら、そなただけ来て欲しい。 我等追われたもの、常に警戒しなければならないのだ」
「今のお前なら下手は打たないだろうが、気を付けろよ」
「うん、任せておいて」
ワルターが背を押してくれる。
僕は頷くと、なまはげに連れられて、奧へ行くのだった。
カガさんと再会です。原作では西王母に食われてしまったカガさんですが、本作では戦いを生き延びた結果、ガイア教団に所属しながらも悩みつつ任務についています。
フリン達に対しては友好的です。
それは相手がつよいからというよりも、話が通じる相手だとなんとなしに認識できているからだと思います。
ちなみに妖怪ババア姉妹に言い渡された任務は達成済み。これが後に面倒な事態を引き起こしますが、それはまた別の話です。
感想評価などよろしくお願いいたします。励みになります。