人外ハンター達も力をつけていることもあり、此方も此方で動く事になります。
東京の霊的結界の話は4Fで出て来ますが、本作では状況に余裕が出始めた(後手詰まりもあるので)、先にそれの確認をしております。
4Fのある意味最も問題だったシーンも、そもそも結界を悪い風に弄られなければ発動しないのです。
秀もついていますが、それだけではなくナナシもアサヒも、既に他の人外ハンターに引けを取らない実力に成長してきており、こう言う任務に出られるようにもなってきています。
志村は秀と、ナナシとアサヒ。他数名とともに、幾つかの寺を見て回っていた。
江戸幕府が開かれたとき、一応あった方が良いと判断されたのだろう。陰陽五行説に基づいて、霊的要地に寺が建てられた。
仏教の四天王。
道教の五神。
それに調べると、仏教の天部の一角摩利支天も此処に配置されているという。摩利支天は暁を司る女神で、道教では西王母と同格の存在として扱われた高位神格だ。もしも敵対したら面倒な事になる。
上野近辺の寺から見て回る。
近付いただけで、一寸法師が警戒の声を上げていた。
「皆、止まれ!」
「どうやら何か起動しているようだな」
秀が手札を切る。
何体かの悪魔が寺に近付くが、即座に制御を失ったようである。すぐに消えてしまった。
なるほど、これは想定外だ。
「人間が近付いても大丈夫でしょうか」
「いや、止めた方が良いだろう。 これは人間の欲望を最大限まで増幅させる妙な結界が展開されている。 今は破ろうとか考えずに、性質だけ調べて他を見て回るべきだろうな。 他にも何カ所か見て回らなければならないのだろう」
「そうですね」
「なるほどな。 一箇所に固執せずに、全体をまず調べてから戦略を練るんだな」
ナナシが感心して、秀の言葉をすぐに飲み込んでいた。
理解が早くていい。
戦闘をこなしていく内に、ナナシは急激に成長している。
雑多な依頼をこなしながら、日銭にしがみついている人外ハンターだとこうはいかない。戦闘力は上がるかも知れないが、ただそれだけだ。
ナナシは戦略的判断が必要な局面に毎日のように直面して、どう決断するかの実例を見続けている。
それはアサヒも同じだ。
成長が早くなるのも道理だろう。
途中で連絡が入った。
なんとタケミカヅチを発見したらしい。これから神田明神に向かうのだそうだ。それは心強い話だった。
二つ目の寺に到着。
此処も変な結界が貼られている。
触れるだけで危険だと秀が言うと、ひっと声を上げてつれて来ていた人外ハンターが腰砕けになる。
まあ、それは仕方がないだろう。
ただ、今まではそんな危険報告はなかった。
これらの結界、ごく最近に展開されたものなのかもしれない。
しかしながらそもそもこういう場所は、今までは調べる余力すらなかっただけの話でもあるため。
誰も報告を挙げてこなかった。
それだけなのかも知れなかった。
「なあ、秀さん」
「どうした」
「あの寺、強い気配とかやっぱりあるのか」
「あるにはあるが、結界の方が強い気配を放っているな。 出来るだけ近付かない方がいい。 相手が悪魔ならまだ戦えるが、こういうのは即死トラップに近い。 欲求の制御をしていないような人間が近付くと、一瞬で発狂死するぞ」
ぞっとしたようで、ナナシはさがる。
それでいい。
恐怖を持たない奴は死ぬだけだ。
恐怖を制御出来る奴が強いのである。
志村も警戒をしながら、次へ。
途中、悪魔と何度も交戦する。志村自身も、この年になってから更に腕が上がっているのが分かる。
ナナシとアサヒは成長がとても早い。
此処では必要ないと判断したのだろう。秀は手を出さずに、周囲の警戒を続けてくれていた。
ターミナルで飛んで移動。ただ、ターミナルで鹿目が戻った。なんでも生理痛が来たらしい。タイミングが最悪だが、こればかりは仕方がないだろう。
三つ目の寺に来たが、此処もだ。
「やはり結界が貼られている」
「そういえば秀さん、そういうのは詳しいのか」
「私の周囲では妖怪と呼んでいたが。 妖怪が自分の力を増すために結界を貼って、エサ場を作る事は私の時代からよくあった。 それに空気が似ている。 神と妖怪ではだいぶ性質が違うし、結界の性質も自己強化ではなく相手の精神の暴走という差はあるが、いずれにしても人間を殺しに懸かっている点では同じだ。 いや……」
秀が目を細めて考え込む。
何か気付いたのなら言ってくれると助かるが。
やがて秀は、小首を傾げる。
「地獄で神仏とあった事はある。 どうもそれらが、此処には近づけまいと結界を貼っているように思ってな。 ただ意図が分からん。 こんな危険な結界、人間が踏み込んだら死ぬ事くらい、神仏なら分かるだろうに。 それともまっとうな神仏ではないということか?」
「他も調べましょう」
「ああ。 だが気を付けろ。 周囲へ警戒を怠るな」
そのまま次の寺を調べる。
これでとりあえず四つか。
いずれもが結界を張られていたようで、それだけで調査としては充分である。連絡が来る。
小沢からだった。
「志村か、無事か」
「トラブルか」
「ああ、交戦中だ。 今座標を送る。 クソッ、このままでは逃げ切れない!」
小沢ほどの手練れが。
即座に座標を確認。
小沢は周辺で神田明神を脅かす大物がいないか調査してくれていたのだが。近くも遠くもない。
とにかくシェルターに連絡を入れる。
すぐにサポートのチームが動く。ドクターヘルが編成してくれた電子戦部隊が、常に動いているのだ。
今は引退した人外ハンターや、あまり体が丈夫ではない人間が、ドクターヘルがつないで作ったサーバに搭載したAIの支援で動いている。即座に其方から連絡が来る。
「現在一番近いのが志村さんと秀さんのチームです! 野良の人外ハンターに救援を要請するも、救援できる人材がおらず……」
「分かった、仕方がない。 奥の手だが……」
秀が手札を切る。
それは車……牛車か。牛車から、恐ろしい顔が覗いている怪異だった。
「私を含め、二人だけしか乗れない! 此奴は暴れ馬でな!」
「……ナナシ、行ってくれ。 連絡先にいるのは、恐らくかなり手強い悪魔とみていい。 手持ちが不安な私と、狙撃戦専門のアサヒは行っても役に立てないだろう。 我々はそのままシェルターに戻り、支援を追加して其方に向かう!」
「分かった!」
見ると、幽鬼朧車と記されている。
そういえばその名前を前に秀が出した事があった。これがそうか。確かに常にガタガタと揺れていて、かなり気性が荒そうな悪魔だ。
志村もアサヒと人外ハンター達を急かして、シェルターに戻る。後は秀とナナシに任せるしかない。
志村は志村で、情報を持ち帰る必要がある。
今は手が足りない。
とにかく、確実に情報を持ち帰り。出来るだけ被害を減らしながら、悪魔と戦っていくしかないのだ。
秀という人とバディで行動するのは初めてだ。
朧車という悪魔は、屋根に秀とナナシを乗せると、凄まじい勢いで爆走を開始した。二輪しかついていないが、もの凄い暴れっぷりだ。
「な、なんなんだ此奴!」
「日本の古い妖怪だ。 私は平安時代に此奴を式にした」
「平安時代!?」
「そうだ。 私は時代を渡って、ある存在……全ての鬼の始祖と戦ったんだ」
すげえ。
素直にそんな声が出る。
秀の戦闘力は間近で何度も見ている。本人も強いが、呼び出す悪魔の実力も生半可ではない。
そしてこの速さ。
飛ぶ悪魔でも、此処まで出るかどうか。
凄まじい叫び声をあげながら、朧車という悪魔が走る。ナナシは急いでスマホを確認。風圧が凄まじくて、操作に一苦労だ。
「もう少しで接敵する!」
「よし、跳躍したら飛び降りろ!」
「えっ! 分かった!」
ばっと朧車が飛ぶ。それはエサを求める猛獣のような動きだった。ナナシは飛び出すと、悪魔を呼び出す。
呼び出した鬼達をクッションにして、着地。
飛んでいった朧車は、必死に円陣を組んで守りを固めている小沢さん達の部隊を囲んで嬲っている悪魔……なんだか大きな人型の肩にかぶりつくと、そのまま噛み潰していた。悲鳴を上げる悪魔が、鮮血を噴き上げながら横転する。
何事かと振り返った悪魔達は、どれも雑多な姿をしていて、統一性がない。
どこの悪魔だあれら。
とにかく大剣を手にし、身を起こす。鬼達に突貫を指示。荒々しい鬼達は、おおっと叫んで、突っ込んでいく。
小沢さんは相当な腕利きだ。あんな雑魚相手に苦労するとは思えないのだが。ともかく走っていって、暴れ狂っている朧車に追いつく。朧車は車の部分から恐ろしい顔を出すと、悪魔に食いついて、車の中に引っ張り込んだ。悪魔の肉片が車から飛び散る。内部で喰らってやがるんだ。
なるほど、これは暴れ馬だ。近付かないように気を付けないと。
大剣を振るって、傷ついている人外ハンターを掴んで、かぶりつこうとしている悪魔の頭に叩き込む。
頭を唐竹にはいけなかったが、それでも殴られた悪魔が態勢を崩し。左右から鬼が組み付く。
鬼を押しのけるほどのパワーの持ち主のようだが。
それでも倒れた所に、飛びかかったナナシが大剣を叩き込むと、それで動かなくなった。
次。叫びながら顔を上げる。
円陣を囲んでいた悪魔が、朧車に蹂躙されている。小沢さん。叫んで円陣に飛び込むと、酷い負傷をした人外ハンターと。瀕死の悪魔達。小沢さんは。
上。
秀が戦っているのは、高位の堕天使だ。
小沢さんは、至近に着地。息を切らしていた。
「助かった。 もう少しで全滅する所だった」
「あいつは……」
「堕天使アリオク。 復讐を司る堕天使で、相当な高位悪魔だ。 オリアスは恐らく、彼奴に派遣されて、神田明神を監視していたんだ」
ぐっと呻いて膝をつく小沢さん。
この人が志村さんやニッカリさんと同じくらいの使い手で、まだナナシが及ばない事は理解している。
とにかく悪魔を出して、回復を。
近くで着地した秀。雑魚をバリバリ喰らっていた朧車を即座に引っ込め。朧車がいた地点に、アリオクが着弾。
肉の鞠のような姿かと思ったが、違う。
全身が口なんだ。
手足と頭はあるが、それはそれとして体に縦に裂けた口がある。
見ると、右手を食い千切られたらしい人外ハンターが、瀕死の状態だ。回復を急がせる。手を失うことは東京では珍しい事では無い。
シェルターに担ぎ込めば助かると思いたい。
おかしな話だ。
前は自分さえ良ければ、どうでもよかったのに。
自分一人では何もできないと悟ってから。こんな風に、他人の事を考えられるようになっていた。
「もう少しこの国の異神が集まってから、まとめて食ってやろうと思っていたのだがな……お前、この国の悪魔の祖に近い存在だな?」
「正確には少し違う。 祖だったものは呪いから解き放たれ、既に歴史は変わったのでな」
「面白い、時を渡るほどの者か。 ならば我が獲物として相応しい。 我が名はアリオク! 復讐の堕天使よ! 狩らせて貰うぞ、異神の血を引く者!」
「そうか。 では参る!」
秀が短刀の秀という文字を見せると、アリオクがふっと笑い、剣を手に出現させる。
あんな寸胴の体で剣なんて振るえるのか。そうナナシは思ったが、全身を回転させつつ、秀に即座に襲いかかるアリオク。
なるほど、回転しながら相手に打撃を叩き込み続けるのか。秀の超絶の剣技でも、生きた回転のこぎりを相手にして、どこまでいけるか。
周りは鬼達が掃討を終えてくれた。すぐに手近に戻す。これは、雑多に散らせて各個撃破されるのを避けるのと。倒れている人外ハンターを守るため。
そして、切り札を出す事にする。
あの堕天使アリオク、ざっと調べたが非常にまずい。レベル判定が戦闘を避けろという意味の赤判定、それも真っ赤っかだ。悪魔召喚プログラムは相手の危険度をある程度判定できる。
そしてそれが外れたのをナナシは見た事がない。
ナナシだけだったら絶対に勝てない。だが、いまはナナシだけではない。
回転しつつ、跳ねて更には空中で機動して、変幻自在の攻撃を仕掛けるアリオク。それも、時々口をがっと開いて、真上から強襲まで仕掛ける。
半分悪魔化する技も使って、猛攻を凌ぐ秀だが、あれはまずい。
明確に押されている。
あの人でも単騎では厳しいか。ならば、周囲が助けるしかない。
呼び出すのは、かなり厳しいと思っていたが。
それでも、今だったら。
ともかく、支援が来るまで耐えないといけない。
「来い、ゴズキ!」
ナナシが吠えると同時に、全身の力を吸い尽くされるような虚脱感。鬼達がおおっと声を上げる中。
ずっと体格が優れた、ナナシに武芸を叩き込んでくれた師匠の一人。
牛の頭を持つ地獄の獄卒、妖鬼ゴズキが出現していた。
ゴズキは秀を押し気味に戦っているアリオクを見てぼやく。
「これは厄介な相手とやりあっているな。 一瞬程度しか足止めできんぞ」
「一瞬でいい! あの人だったら、一瞬で形勢を逆転してくれる!」
「分かった。 どうやらそのようだ!」
地面を踏みしめると、突貫するゴズキ。
同時に苦手意識のある長物を、側の倒れている人外ハンターから借りる。
狙撃は成功させた試しが無い。
だから、今は当てる事は意識しない。
小沢さんも銃を構えている。
ナナシは頷くと、ゴズキが突貫を仕掛けた瞬間を狙う。
ゴズキが、上から秀を飲み込みに強襲を仕掛けたアリオクに組み付く。アリオクは鼻で笑うと、ゴズキを瞬時に胴斬りで真っ二つにしていた。
ほんの一瞬だけの隙。
その瞬間、ナナシは小沢さんと一緒に弾丸を叩き込む。
普通の弾丸ではなく、あの霊夢という人が作った対悪魔用の強烈な奴だ。直撃したのは、一発だけ。
小沢さんの撃った弾丸。
それが僅かにアリオクの顔を抉った。ナナシのは首側を外れた。だが、掠めたというのに意味がある。
ちっと舌打ちした瞬間、アリオクは気付いただろうか。
真下にいる秀が、大砲に武器を切り替えた事に。
まさに一瞬の隙に。
アリオクの腹の口に、大砲が突っ込まれていた。
「死ね」
ドゴンと、もの凄い砲撃音。大砲が炸裂し、アリオクが頭上に吹っ飛ばされる。なんと貫通はしなかったようだが、あれで痛打にならない筈がない。事実、アリオクは全身が破裂同然の有様だった。
血を吐き、剣を手放し、そして地面に背中からたたきつけられるアリオク。秀は呼吸を整えつつ、火縄銃に切り替えると、更に追い打ちの射撃を叩き込む。アリオクの体に二発。大穴が空いた。ぎゃっと叫びつつ起き上がるアリオク。全身から血を噴き出しながらも、凄まじい鬼の形相を作り出す。
まだ死なないのは、流石と言う他無い。
「おのれ、雑魚どもが! 達人との戦いに水を差しおって!」
「いまだ、一斉にかかれっ!」
鬼達が、アリオクに襲いかかる。アリオクは鬼達を鬱陶しそうに見つつも、秀からは注意を外さない。
その時。
アリオクの頭が、消し飛んでいた。
横殴りの射撃。
流石にそうなってはどうしようもない。
巨大な腹の口から、だらんと舌を垂れ流しながら、横倒しに倒れるアリオク。その姿が、マグネタイトになって散って行く。
今のは、確か。
こっちに来る、なんか凄い車。
直している最中の歩兵戦闘車という奴だ。
それに据え付けられているのは、最近の戦いで二度も戦果を上げたレールガンという凄い銃。
歩兵戦闘車は凄い速度で走ってきて、側で止まった。悪魔が引いていない。ということは、戦前に車を走らせていたガソリンとかいうのが手に入ったのか。阿修羅会が、僅かな残量を独占していると聞いていたのだけれど。
歩兵戦闘車から顔を出したのは、ドクターヘルである。
「カカカっ! 作ったばかりのなけなしのガソリンで走らせた甲斐はあったな。 レールガンを移動しながら射撃する試験もついでにできたわ」
「ドクターヘル、内部が狭いですよ……」
「それくらい我慢せい! 今後改良してやるわ! まずはこの偉大な発明の完成を喜ぶんだな!」
助手らしいのが、中で泣き言を言っている。
歩兵戦闘車の後方が開いて、すぐに医療班が出て来た。
どうやら間に合ったらしい。
「腕を失った奴がいる!」
「分かった! 止血! ショック状態か確認!」
「悪魔はすぐに引っ込めて!」
遅れて来たのは装甲バスだ。志村さんが乗っている。アサヒも。
また、回復魔術を使える悪魔を既に召喚していて、範囲の回復を始めていた。こういうのは手伝えない。
ナナシは座り込むと、悪魔達を戻す。
やっと召喚できたゴズキだけれど、本当に一瞬しか活躍させられなかった。だが、決定打を作る事に成功した。
一瞬に、これだけの蓄積が必要になる。
それは運が大事になるし。
それに、どんな達人だって一瞬で死ぬよな。
そうナナシは理解して、大きなため息をついていた。アサヒが走ってこっちに来る。こけそうでちょっと不安になった。
「ナナシ! アリオクなんて超大物相手で、助かって良かったよ!」
「俺は一瞬時間稼いだだけだ。 殆どは秀さんだよ」
「それでも立派だ。 アリオクが回避するように敢えて苦手な射撃をしたのは、戦士としてすぐれた判断だった」
「それはどうも。 もっと優れた行動を出来るように、腕を上げないとな」
小沢さんが褒めてくれたが、ちょっと素直じゃなかったかも知れない。
だが、小沢さんは怒る事もなく、苦笑いだけしていた。
もっと素直にならないと。
もっと強くはなれないな。
ナナシは装甲バスで戻りながら、そんなことを考える。帰路は流石に、これ以上は問題は起きなかった。
集まった情報。
更には神田明神に移動して貰った日本神話の神格三柱。まだ疲れが残っているようだが、起きて来た霊夢とともに会議をする。
そろそろこの主要メンバーにナナシとアサヒを加えてもいいかとフジワラは思い始めている。
だが流石にまだ未熟か。
サムライ衆の四人は、完全に馴染んでいるが。
それは彼等との利害が一致しているから。
手伝って貰ってばかりだが、いずれこちらからも手伝わないといけないだろう。そうフジワラも考えていた。
「情報の収集が終わったら、一度神田明神に行ってくるわ。 恐らくだけれども、タケミカヅチやサルタヒコだったらある程度の情報は持っているはず。 封じられた神々の情報があれば、探索は楽になる筈よ」
「タケミカヅチはよく分からないって言っていたよ。 それでも大丈夫?」
「そうでしょうね。 だけれども、その「よく分からない」から情報を抽出できるものなのよ」
フリンに対して、霊夢はそう答える。
ただまだ疲労が大きいようで、それだけ言うと黙り込んでしまったが。
ともかく、成果をまとめる。
格から言っても恐らくアリオクは神田明神を狙っていた最高位の悪魔とみて良い。天使がこの国の神を封じたのは事実だが、しかしながらこの国の神が封じられている方が、堕天使としても都合が良いからだ。
そういう点では。利害が一致していると言える。
必ずしも天使は堕天使と一緒に作戦行動できないというわけでもないのだ。特にこういうケースでは、天使の成果を堕天使が横入りでいただいているというような状態だったと言える。
今回の神田明神関連の作戦行動では負傷者も出たが、それ以上に得た者は大きかったし。何よりも、何度か遭遇例があり、多くの人外ハンターが殺され食われていた堕天使アリオクを仕留めたのは大きい。
アリオクは数少ない遭遇例とそれらでの会話から、ルシファーからかなりの地位を任されている事が分かっている。伝承としてはそれほど明確な原典や信仰のある堕天使ではないのだが、それが逆に強さにつながるのかも知れない。似たような例としてはフルーレティが存在している。
残念ながら霊夢やマーメイドが戦闘に参加したわけではなく、とどめもレールガンによるものだったので、魔術的な観点から完全に滅ぼせたわけではないだろうが。
それでも簡単に復活もできないだろう。
今はそれでよしとするべきである。
殿が咳払いして、次に話を進める。
「まずは情報を集めてからだな次の行動は。 甲賀三郎を仲魔に出来そうか」
「今私とツギハギで試していますが、少し厳しいですね。 必殺の霊的国防兵器として管理しやすいようにする過程で、相当な高レベルで複雑な呪術を使って甲賀三郎を縛っていたようでして。 本来は私とツギハギの全盛期でも及ばないレベルです。 アキラがいたのなら、どうにかなったのかも知れませんが」
「その呪術の詳細はわからないかしら」
「残念ながら。 ただ、無理に召喚しても荒神として暴走するだけです」
殿が少し考え込んでから、銀髪の子がスマホを取りだす。
何か調べているが、やがて秀を見て顔を上げていた。
「秀よ、そなたでも駄目か」
「試してみる。 ……悪魔召喚プログラムでは駄目だな。 私も自分より強い相手は式には出来ない」
「やむをえん。 阿修羅会に対しての圧力は一旦此処までとして、日本神話系の神々の復活と、更にはフリーランスになっている人外ハンターの取り込み、友好的な悪魔との関係構築を急げ。 ノゾミという人外ハンターが何やら妖精達と友好を深めていると聞く。 志村は雑魚ばかりを見たというが、必ずしも雑魚妖精だけが集まっているわけでもあるまい。 もう少し情報を集めて、協力できそうならば共闘を持ちかけよ」
「はっ」
志村が立ち上がると、すぐに動く。
フリンが挙手。
「手詰まりだとすると、僕も神様の封印解除を手伝うよ。 阿修羅会がまだ現在進行形で人々を苦しめているのは分かってる。 そっちは人外ハンターでどうにかできそうだという事だし。 かといってガイア教団に攻め入るのは無謀すぎる」
「それなんだがな、ガイア教団のユリコにあうことだけなら出来るかもしれん」
「……いや、それについては先送りにさせてもらうね。 あった所でまだ斃せる実力じゃない。 話題に上がった甲賀三郎が手持ちにいるくらいなら、話は別かも知れないけれど」
「同感だ。 彼奴は実際に戦って見たが、想像以上に得体が知れねえ。 今は力を蓄える時だ」
ワルターもそれに同意して、ヨナタンも頷く。
イザボーも提案してきた。
「わたくしたちはかなり力もついてきましたし、危険度が低い任務であればツーマンセルで行動しても恐らく問題はありませんわ。 手数を倍にして行動して、更に問題解決速度を早めましょう。 サムライ衆の中からも、信頼出来そうな面子に声を掛けて、協力するのも良いでしょうし」
「殿、如何なさいます」
「フリン達が信頼出来る事はわしが見届けている。 そうだな。 ではフジワラよ、そなたが頼む任務について割り当てよ。 良質な戦闘を重ねて、今は少しでも戦闘経験を積み、マグネタイトを吸収するべきだ。 それはわしもこの娘も例外ではない」
後は幾つか細かい話をして、場は解散となった。
フジワラは嘆息すると、情報を確認する。
フリン達は一度まとまって霊夢とともに神田明神に。これはアリオクが倒れたとはいえ、堕天使達がまだ仕掛けてこないとも限らないし。
なんならそれ以外の悪魔だって仕掛けて来る可能性があるためだ。
事実直近で、ケツアルコアトルやショウキといった、南米系、中華系の神格がそれぞれシェルターに仕掛けて来ている。
あれらは堕天使ではない、どちらかと言えば本来は中立にいる神々だ。それが仕掛けて来たという事は。
幾つかの報告が上がっている、「蠢動している連中がいる」という話の。そのまさに当人の可能性がある。
もしもだが。
本来中立である外来種の神々が、何か目論んで行動しているのだとすれば。
神田明神に日本神話系の神々が集まることは、好ましくない筈だ。
専門家の霊夢が徹底的に調べることで、罠があっても防ぐ事が出来るかもしれない。
幾つか細かい指示を、志村と小沢に出しておく。
ニッカリにも手を借りたいが、今ニッカリは池袋から回収した半人前以下の人外ハンターを鍛え直している。
といってもスパルタなどではなく、雑魚悪魔から相手させて、それで戦いの勘を掴ませている感じだ。
無理をさせても死ぬだけで。
今の東京では本当に簡単に命が消し飛ぶのである。
関聖帝君が来る。
包拳礼をした。関聖帝君が来たと言う事は、何かしらの重要事があったのだろう。
「関羽将軍、如何なさいました」
「ナナシという者にわしが修練をつけてやろうと思ってな。 許可を貰えるか」
「最近はゴズキに十五回に一回一本を取れるようになって来ていると聞きましたが、アリオク戦ではゴズキが一瞬しか時間を稼げなかったと聞いています。 まだ関羽将軍が修練をつけるのは早いのでは」
「いや、実戦形式のものではなく、軍学を仕込もうと思っている。 あれは貪欲に軍学を学んでいるが、多数の師から学んだものを独学でまとめている。 この辺りでそろそろ体系化した軍学を学んでもいいだろうと思ってな。 元より戦闘の適性は高く、それに体系化された知識を得れば鬼に金棒という奴であろう」
少し考え込む。
シェルターで子供達を守ってくれている関聖帝君は、非常に頼りになる守護悪魔だ。子供達も赤い顔のおじさんと呼んで慕っている。
関羽の側には周倉もいる。
周倉は幻魔に相当するようだ。当然の事で、実在の人物ではないのだから。ただ、神格となった関羽は、今の周倉を信頼しているらしく。
周倉も守護人格としてまっとうに振る舞ってくれているが。
「子供らの世話は周倉にも手伝って貰う故問題はない。 どうだ、あのナナシは恐らく今後東京の未来を担う使い手になるが」
「……分かりました。 ただしナナシは気が難しく、関羽将軍に無礼を働くかも知れませんが」
「かまわぬよ。 わしも生前の最後で、傲慢に振る舞う事の愚を悟った。 多少勘気が強いくらいの方が、戦場では強くなれよう」
これは賭だな。
フジワラは思う。
関聖帝君の指導となれば、ナナシは更に伸びる。
だが、ナナシはかなり傲慢で自信家だ。素直に座学を受けるかどうか。
しばしして、フジワラは決断していた。
「分かりました。 ただしアサヒもお願いいたします」
「ふむ、あの者も有望であるな。 では二人まとめてわしが指導してやろう」
「ははっ」
包拳礼をして、後を頼む。
さて、他には。
雑多な問題がある。幾つかは各地の人外ハンター協会に依頼として出す。また、六本木に明確に影響力のくさびを叩き込んだ事もある。
甲賀三郎が……必殺の霊的国防兵器が阿修羅会の手を離れ。
タヤマ自慢のタワマンが内側から大穴を開けられたことは、六本木の住民からも既に知れ渡っている。
其処でライフルの野田を初めとする手練れを、六本木に常駐させ。
阿修羅会が子供などをさらってきた場合は、ヒルズに連れ込む前に対処できるように事前に諜報網を張り巡らせる。
生半可な人外ハンターの場合は、すぐに殺されてしまうだろうが。
手練れの人外ハンターは悪魔を連れていて、今の弱体化した阿修羅会の悪魔使い程度だったらどうにでもなるし。
常時悪魔を展開していれば、ライフルで狙撃されても対応できるし、ブービートラップの類も事前察知できる。
野田くらいの実力者なら問題ない。
他にも何人か今経験を積んで貰っている。
同じ程度の実力にまで育ったら、六本木に言って貰うべきだろう。
もう一つ課題がある。
銀座だ。つまりガイア教団。
フリン達はまだ無理だと固辞したが、いずれは衝突する可能性が高いガイア教団である。
東のミカド国でユリコがやらかした事を考えると、東京でも何かしらとんでもないことをやらかしても不思議では無い。
弱者は死ね。
それがガイア教団の基本的な思想だ。
大戦前は、似たような考えをする人間が大勢いたなと、フジワラは寂しい気持ちになる。
大戦が起きて良かったなんて事は絶対に思わないが。
あのまま歴史が進んでも、大戦は別の形で起きていたのかも知れないとは思う。
セト級の悪魔が数体いるとなると、やはり突破口はこの国の神々の復権。
今は。それに全力を投じるしかないだろう。
幾つかのメールを送って、人外ハンター協会の各地の支部に指示を出しておく。それが一段落したら、シルキーにインスタントの紅茶を淹れて貰う。
緑茶の茶葉は少しだけサムライ衆に持ち込んで貰ったが、使うつもりは無い。
それよりも、地下の工場の復旧が第一だ。
鶏卵が市場に出回り始め、値段も一気に下がって行っている。野菜類に加えて鶏卵が出回り始めたことで、かなり各地で暮らしている人々の栄養状態が改善されており、それを進めていく必要がある。
幾つかの手を打っていると、くらっと来た。
長年酷使している体だ。限界だな。
そう思って、休む。
幸いというか、このシェルター内なら安心感がある。後は全て任せて、一休みする。
酒が欲しいと思うが。
医者に診察して貰った所、やはり体中にガタが来ている。ツギハギにも出来るだけ急いで診断に来るようにと、医師は言っていた。
酒も控えるべきかな。
そうなると、インスタントの紅茶しか楽しみがなくなる。コーヒーはインスタントすら貯蔵が尽き掛けていて。
地下の工場でも、生産ラインにはまだ乗っていない。
寂しい話だな。
そうフジワラは思った。
皆の幸福度が上がり始めているが。
個人では、まだまだ我慢をしなければならない状態なのだと、こう言うときに思い知らされるのだった。
アリオクは真5で魔王城(てか妖怪城でしたが)を預かっていたこともあり、メガテンシリーズでは魔界でそこそこの地位にいるようです。あのインパクトがありすぎる姿もあって、まあまあ人気ですよね。
ただあのお姿で剣を振るうのはどうしたらいいのだろうと考えて、本作では高機動戦に特化した描写を入れて見ました。
破れはしましたが、秀を良い所まで追い込んでいるので、決して弱くはなかったのです。