神田明神で、霊夢が神楽舞というのをやっている。
居着いたタケミカヅチが大喜びして手を叩いており。アメノウズメやサルタヒコが、目を細めて見守っていた。
僕としても、腰を据えて見る機会は中々なかった。この間大国主命への神楽舞を見た時はちょっと距離が離れていたし。
たんと踏み込んで。そしてパンと手を叩く。
それで神楽舞が終わった。
霊夢がスポーツドリンクを一気に飲み干している。疲れがまだ取れていないと言う話だが。
今は此処しか突破口がない。
霊夢には疲労を押して頑張って貰うしかないのである。
幸い、少しずつ確実に五神が力を取り戻していることもある。シェルターの守りは、既に生半可な悪魔では全く歯が立たないものになりつつあるらしい。
誰かしら英雄が一人守りについていなくても、いずれは良くなるかも知れない。
そういう話も出ていた。
「それで、どうかしら。 神楽舞を奉納したけれど」
「有り難い事に力が戻って来ている。 後は神酒があれば言う事もないが」
「あたしが飲みたいくらいよ。 今は医療用のを生産するのでやっとだそうよ」
「そうか、民草も苦労しているのであるな」
タケミカヅチが腰を上げる。
そして、何やら魔法の言葉で唱えていたが。印を切るというのか、それをすると。
ぱっと辺りが一瞬だけ光っていた。
「今の神楽舞で受けた奉納の力、それに集い始めている八百万の神々の力を少し借りて調べて見たが、比較的封印が緩いのは八咫烏であるな。 太陽神としては天照大神よりだいぶ格下であるし、天使どもも封印は適当に済ませたのであろう」
「八咫烏は分霊体があたしの故郷で色々問題を起こしてね、良い印象がないわ」
「そうかそうか。 まあ霊格は腐っても太陽神で高いからな。 直に見ると気が触れるというくらいだ。 気を付けよ。 場所は……」
天王洲と、タケミカヅチが言う。
天王洲。なんだか聞いた覚えがある場所だが。
それを聞いて、霊夢がちっと舌打ちしていた。
「知っている場所?」
「800人近くが餓死しかけていた場所よ。 何となく読めてきたわ。 あの事件、ひょっとすると、太陽神が封じられた土地で、800人に達する怨念を集める事で、大物の神格を呼び覚ます目的があったのかも」
「おいおい、穏やかじゃねえな。 どうせそんなので呼び出されるのはあの西王母みたいなカスだろ?」
「必ずしもそうとは限らないけれど、どうせ荒神として蘇っていたでしょうね。 一神教の神への怒りだけ募らせて暴走状態になった、過去の誇りなど忘れ去った愚かな存在にね……」
霊夢が戻ると言い出す。
この様子だと、霊夢が休むのはしばらく無理か。
装甲バスでシェルターに急ぐ。飛んでいかないのは、それだけ消耗が大きいから、らしい。
途中で装甲バスとすれ違う。
志村さんと秀が乗っていたようだ。気配でわかった。
先の会議で話題になった、神田明神近くで暮らしている手練れの人外ハンター。其方と話をつけに行くらしい。
今は野良の人材を遊ばせておく余裕はないらしく。
一人でもそういった人材を取り込む必要があるって殿が言っていたっけ。
帰路で先に幾つか話す。
天王洲には水路で行くのだが、途中の水路ではガンガーという強力な龍神が縄張りを作っていて。それを突破する事が必須になる。
ガンガーは天王洲事件の時に人々に信仰を求め。
人々にはガンガーの像を配って感謝するようにさせているが。ガンガーとはしばらく会っていないので、満足しているかは分からないそうである。
最悪血を見る。
そういう話だった。
神楽舞の分の休憩をすると霊夢が個室に消える。出来たばかりのスポーツドリンクを鷲づかみにしていった。
相当に機嫌が悪い。
疲れが溜まれば、それは機嫌も悪くなるだろうなと、僕も苦笑を禁じ得ない。
先に色々やっておくか。
貰った古いPCなどがあるので、それを東のミカド国に運んでおく。
これらについては、悪魔が入るも何も、中身はまっさらにして。OSを再インストールしたとドクターヘルが言っていた。
バロウズが補足していたことによると、記憶を全部消して赤ん坊と同じ状態にしたらしい。
まあ、それなら東のミカド国に持ち込んでも、悪魔が出て来て暴れる事はないだろう。
ただ問題もある。
ギャビーがしびれを切らして、サムライ衆に酷い事をしだす可能性だ。
「戻り次第、僕が人伝手を使って色々情報を集めるよ。 こういうのは、人脈がある僕の方がやりやすい」
「面倒な話ですわ」
「そういえばイザボーはそういうのは苦手なのか」
「ちょっと苦手ですわね。 うちの家族は変わり者でしてよ。 悪い意味でね」
イザボーが言うには、そもそもラグジュアリーズの悪い所を煮詰めたような家だそうである。
長男に期待して権力を得ることだけを考えていて、イザボーは完全に放置。
ラグジュアリーズをいいわけにして、この世の悪徳の全てを煮詰めたような両親をみて育ったから。イザボーはああはなるまいと、自分で自分を徹底的に律したとか。
幸い、イザボーの境遇を見て同情したじいやとばあやがマナーを徹底的に仕込んでくれたこともあり。
今では何処に出しても恥ずかしくないレディになったと自負できるそうである。
その一方。腐りきった両親に際限なく甘やかされた兄は、彼方此方で問題を起こしまくっていて。
この間ついにサムライ衆に捕らえられ。投獄されたそうだ。
皮肉にも、ギャビーが大なたをふるってラグジュアリーズの権力を削り取っているのが影響しているそうだ。
そうでなければ、投獄さえされなかったとか。
「帰ったら家がなくなっているかも知れませんわね。 その時には、わたくしはいっそ此方に骨を埋めますわ」
「いいじゃねえか。 俺もこっちに骨を埋めるのは悪くねえと思ってるし」
「あら、珍しく気があいますわね」
「はっはっは、全くだな」
ワルターとイザボーがそんな話をしていて、僕は苦笑い。
ともかく、戻るよと声を掛けて。そして戻る。
やはりかなり時間が経過していて、もう冬になっていた。東のミカド国ではサムライになってから三年目が終わろうとしているようだ。
僕達だけが年を取らず。
居残り組だけが年を取っている。
隊舎で手紙を見る。
イサカル兄ちゃんに子供が出来たらしい。元気な女の子だそうだ。
そうかと思って、目を細める。
イサカル兄ちゃんの子供が大きくなる頃には。
バイブルしか本がなくて、みんな同じ事しか許されないような国は変える。
東京もどうにかする。
厳しいかも知れないが、そう目標を立てないと。目標を下方修正することすらできないだろう。
僕はそう思うのだった。
(続)
日本系の神格を復活させる事により、外来種の力を下げ、逆に在来種の力を相対的に上げる。
それがこの状態攻略の鍵となります。
神の使いとはいえ立派な太陽神である八咫烏の封印解除……
次の目標はそれとなるのです。
それはそれとして、本作では惨劇を生き延びたイサカル兄ちゃんは結婚して嫁さんに子供も生まれました。
その子が大きくなるまでには、平和を取り戻したいものですね。
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