八咫烏神はメガテンだとそれほど高位の神と描かれていませんが、一応太陽神の端くれである事もあり。力が弱い者が直視すると気が触れるなんて恐ろしい逸話もあります。
太陽神は最高神である事も多いことからその力は普通に強く、少なくとも本格的に力を取り戻せば、外来種の太陽神では太陽に関する干渉力では勝てなくなりますね。
そういう事もあって、八咫烏が邪魔な存在はどうしても出て来ます。
天王洲シェルターに入り直して、霊夢と一緒に奧へ。
単純な構造をしている場所だと思ったのだが、封印されている奧が存在しているらしい。それも霊的に複雑に結界が張られていたらしく、シェルターとして使われていた時も、誰も気付けなかったらしかった。
その証拠に分厚くその結界の奧は埃が積もっている。
僕はアナーヒターを呼び出すと、清浄な水で一度辺りを綺麗にする。
かなり気軽にアナーヒターを呼び出せるようになって来ている。この様子なら、そろそろ戦闘時ずっと展開する事も可能だ。
念の為、ラハムを呼び出しておく。
周囲をヨナタンのドミニオンが照らす。
此処は、倉庫か。
ずらっと棚が並んでいて、色々おかれている。ただ電波とやらの状態が悪いらしく、外に通信が出来ない。
「これって……」
「シェルターを使う時に混乱があったんだろうね。 こういう場所があるって、シェルターに逃げ込んだ人に引き継ぎが出来なかったんだ」
ヨナタンが悲しげに言う。
そうだな。僕もそう思う。
此処では800人近くが餓死寸前だったという話だ。だが霊夢が保存食だというものが手つかずで大量に積まれている。
これを知っていれば、そんな事にはならなかったのかも知れない。
混乱が起きると、人間の群れはとたんに弱体化する。
それは僕も知っているから、とても悲しい光景だと思った。
周囲を照らしながら、奧へ。
霊夢がぼやく。
「強力な結界が張られているわね。 マーメイドが気づけないわけだわ」
「ごめんなさい。 探査は苦手なの」
「戦闘があれだけ出来るのだから別にいいわよ。 あたしもちょっとこの中では、勘がほとんど働かないくらいだわ。 皆、五感を生かして周囲を警戒して。 何が起きるか分からないわよ」
まずいな。
先にターミナルを探すべきだったか。
ただ、バロウズが周囲を記録してくれている限り、構造そのものは単純極まりないようである。
迷子になるおそれは無さそうだ。
元が倉庫であるのなら、それはそうなのだろう。
武器を構えたまま、油断なく進む。
マーメイドはどうも潜って進むのが難しいらしく、珍しく人型に変わると、足で歩いていた。
人型にもなれるのか。
まあ下半身を人の足にしただけだが。
相変わらず鱗を下着代わりにしているが、目のやり場に困る格好である。
イザボーが無言でコートを脱ぐと、マーメイドにかける。きょとんとしているマーメイドに、イザボーは頬を膨らませている。
何となく言いたいことは分かる。
「ちょっと周囲を守ってくれるかしら。 集中して探索したいの」
「分かった!」
「あんたに護衛を任されるとは、腕が上がったって事だよな」
「……」
霊夢が黙り込んだので、ワルターも軽口を止める。
印を切って何か唱えていた霊夢が、そのままゆっくり進んでいき、やがて壁になっている場所で足を止めていた。
壁をしばらく触っていたが、ばちんと大きな音がして弾かれる。
すぐに支えたが、霊夢が手を振って渋面を作っていた。
何かあると言う事だ。
「かなり厄介な結界ね。 触るまで気付けなかったわ」
「解除できそう?」
「……ユダヤ神秘思想による結界ねこれは。 ちょっと専門外だけれど、少し解析に時間がいるけれども……それでもやってみる。 周囲を固めて。 何か護衛の悪魔がいるかもしれない」
そうだろうな。
僕達は周囲を見張る。
マーメイドが、辺りを見て来るといって、姿を消す。
まああいつがやられるような悪魔がいて、不意打ちされたらどうにもならないだろう。バロウズが警告してくる。
「此処では強烈な妨害電波が出ていて、スマホもハンドヘルドコンピューティングシステムもまともに動かないわ。 この電波は文明由来ではなくて、恐らくは精神生命体由来……悪魔由来のものよ。 結界で封じ込んでいても、その力が漏れ出ていて、それでバアルが寄って来たのでしょうね」
「それだけ強大な相手が封じられているって事?」
「ええ。 八咫烏だとすると納得出来る話ではあるわ。 いきなり襲ってくる可能性もあるから気を付けて。 それと、悪魔でも日本神話系以外は弱体化すると思うわ。 展開する悪魔については気を付けて」
「分かった」
ラハムに視線をやると、頷かれる。
確かに力を出し切れていないようだ。
マーメイドが探査しきれないというのも、それが原因なのだろう。
此処は元々、日本神話の神々の土地。
ならばそれの素の力が封印されているのであれば。
確かに非常に強力な……今まで見たこともないほど強力な神が現れても不思議ではないのだろう。
だが、それはそれとして。
どうしてそんな存在が天使に封じられてしまったのか。
霊夢は全力で結界解除作業中。
聞く訳にもいかないだろう。
僕はオテギネを構えたまま、いつ何が現れてもいいように備え続ける。イザボーが呼び出したコノハナサクヤ姫。それにワルターが呼び出したなまはげとスイキが頼りだ。ヨナタンも状況を鑑みて、天使達を引っ込めた。
ヨナタンはバランス良く近接戦と回復と光の魔術が使える。
天使達を壁にする戦術だけではない。
マーメイドが戻ってくる。
「ターミナルがあるわ」
「ありがとう。 周囲の警戒に加わって。 バアルなんて大物が来るくらいだし、何が出てもおかしくないからね」
「ええ」
マーメイドも、周囲の警戒に加わってくれる。
それでだいぶ心強い。
小一時間ほど経過しただろうか。
出来た、と霊夢が声を上げて。
結界を砕く。
それと同時に、周囲に猛烈な熱気が溢れる。霊夢が飛び退くのと同時に、僕達も結界に向き直る。
奧から出て来たのは、恐ろしい悪魔ではない。
三本足の鴉だ。
首からは何かぶら下げている。この国では翡翠という宝石が特産品だということなのだけれども。
それで作った宝飾のようだ。
直に見ると普通の人では気が触れると言う事だが。
少なくとも、今の僕は平気なようである。ただ、凄まじい光が此方に叩き付けられているのが分かるが。
「八咫烏ね。 貴方の封印を解除させて貰ったわ」
「……コノハナサクヤビメ様か。 どうやら異国の天使共の手下ではないようだな。 天使共の気配があったから警戒はしていたが」
「その天使に支配されている国から来ました。 ただ天使の支配を可とはしていません」
「いずれにしても狭い所に封じられて困っていたところだ。 何処かしら、私がいやすい場所はないか」
霊夢が神田明神を提案。
タケミカヅチもいるという話をすると、おおと八咫烏は声を上げていた。
足が三本ある鴉という不思議な姿だが。
普通に喋る事も出来るし、獰猛な存在でもないようである。ただ、鴉がとんぼのように滞空しているのを見ると、ちょっと不思議だ。
「国津神どもとも仲良くやれているか」
「はい。 それは問題なく」
「分かった。 私も封じられていた期間がながく、まだまだ上手く力を制御出来ない状態だ。 其方に連れて行って欲しい。 力を取り戻しながら、力になる事を約束しよう」
これで一段落か。
だが、そう上手くは行かなかった。
わずかな一瞬の隙。
僕が反応していなかったら、誰か倒されていたかもしれない。即座に振り向いた僕が、オテギネでその一撃を弾き返す。
ガンと、重い音。
僕は歯を噛みしめると、敵襲と叫んでいた。
飛び退いた其奴は、ゆっくりと剣を構え直す。
恐らく、此処に入り込んだ僕らを伺っていたのだ。結界を解除した後、八咫烏を仕留めるつもりだったのだろう。
霊夢は結界解除後で、かなり疲弊している。
厳しい相手だ。
「太陽神を増やされると面倒なのでな。 始末してしまおうと思ったが……この状況でも、なお勘を働かせるか。 なかなかの人間だ。 殺すには惜しい」
「僕はフリン。 貴方は」
「我が名はアガートラーム。 銀の手のヌアザとも言われる太陽神格だ。 もっとも今は、この世界に太陽をもたらすこともできぬがな」
雄々しい男性だ。右は義手になっているが、もの凄い剣を手にしている。
霊夢が冷や汗を掻いている様子からして、ただ者ではないのだろう。
「気を付けて。 さっきのダグザと同格かそれ以上の神格よ。 ケルトの太陽神にて、ダグザの兄弟に当たるわ」
「それは厄介だ。 不意打ちを防げただけでよしとしないと」
「私が奴の力を中和する。 此処には貴重な物資も多い。 出来るだけ、被害を抑えて戦って欲しい」
「ふっ、この国の太陽神め。 万全であれば我も勝負は避けたい所だが、封印を解除されたばかりの病み上がり。 力を取り戻す前に討たせて貰うぞ!」
さっと皆が散る。辺りの熱量が見る間に上がると思ったが、不意に周囲がクリアになる。
これが力の中和か。
一気に分かりやすくなった。
突貫。
オテギネをしごいて突きかかる。流石に太陽神。アガートラームは輝く剣を振るって迎撃。この神も悪神だとは思えない。激しく渡りあいながら、問いかける。
「悪神だとは思えないけれど、戦わないといけないのかな!」
「先のダグザとの問答は見ていた。 流されやすいダグザと我は違うぞ。 この地は我が照らす。 そのためには、悪いがこの地の神は無用! ただでさえ天使共に敗れた無能な者どもなど、従わせる価値もない!」
飛び退くアガートラームを。霊夢の針が横殴りに強襲。背後に回ったワルターが、大剣を振るうが、義手であっさり受け止める。
だが、それで動きが止まった所を、大量の水が襲いかかり、一気に倉庫から押し出して、シェルターの一階に流し出す。
アナーヒターによるものだ。
周囲の物資も、ダメージは最小限に抑えられたようである。
「八咫烏さんは此処に! あいつは僕達でやっつける!」
「分かった! 武運を祈る!」
「行くよ!」
僕は真っ正面から突貫。
シェルターの一階に出ると、アガートラームが眷属らしい多数の戦士のような姿をした神々を呼び出していた。
だが、いずれも弱体化は避けられないだろう。
僕に続いて、皆が躍り出る。マーメイドは気配が消えた。これは恐らく、人魚に戻って床に潜ったな。
悪魔達を展開。
乱戦が開始される。
荒々しい戦士達は、いずれもが悪とは見えない。だが、今はとにかく、戦って退けないといけないだろう。
乱戦を無理矢理突破し、手傷を受けつつもアガートラームに中空から襲いかかる。アガートラームは剣を振るって、僕の突き技をかわしてみせる。
激しい火花が散る中、一騎打ちに持ち込む。
アガートラームの眷属はいずれもが強者だが、今の僕の仲間と仲魔。それに霊夢とマーメイドがいれば、多分敵にはなり得ない。ならば、僕がアガートラームを抑え込めば、それで周囲が有利になり。
物資の安全を気にしなければならない倉庫では無い、広いこのフロアでならば。
多少の破壊を気にせず、猛攻を仕掛けられる。
アガートラームも冷静に戦況を見ているようで、僕の猛攻を凌ぎつつ、次々に眷属を呼び出しているようだ。
つまり僕より強くて、余裕があると。
舐めてくれたものだ。
踏み込むと、抉るように切り上げる。
義手が激しく弾かれて、アガートラームが飛び退く。そのまま、突撃。アガートラームが剣では無理だと判断して、義手と手をあわせて、突撃を防ぐ。雄叫びを上げながら、シェルターの外にまで押し出す。
勢いのまま、外に。
これで更に力を振るえる。
アガートラームも、全身を燃え上がらせていた。
「我の本領は屋外戦よ! 抜かったな!」
「そうだろうね。 でも、周りを気にせずやれるのは僕達も同じかな! ラハム! アナーヒター!」
それと、もう一枚切り札を切る。
僕は攻撃魔術が苦手だ。だからラハムとアナーヒターには頼っている。
他の雑多な悪魔達もいるが、アガートラームには流石に勝てないだろう。だから、此処で呼び出すのは。
灼熱が吹きだし、その巨人が咆哮する。
アガートラームは恐らく知っているのだろう。飛び退くと、顔を義手で覆っていた。外でだと、その精悍な顔つきと、整えられた髭がよく分かる。悪神ではないのだ。ただ、この地を力で奪おうとしているだけで。
今は、そんな場合ではない。
だから、倒す。
「地霊ムスペル。 行くよ!」
「おのれ……そのような破滅の権化を従えるか!」
「行きすぎた太陽神には丁度良い相手だよね」
それに、水魔術の使い手であるアナーヒターと。水魔術と呪いの術が得意なラハムがいる。
ここで火魔術の専門家が欲しかったのだ。
オテギネを回すと、アガートラームが剣を構え、間合いが瞬時になくなる。
閃光が走る。
相手は弱体化が入っているが、それでもこれでやっと互角というところだろう。そして、僕が耐えれば皆が戦況をひっくり返してくれる。しかし、アガートラームも凄絶な笑みを浮かべると、僕を豪腕で弾き飛ばす。吹っ飛ばされつつも踏みとどまり、猛攻を受け止める。
水魔術で刃を作って斬りかかるアナーヒターと、更には髪を蛇にして飽和攻撃を仕掛けるラハム。それに、神の力を中和するムスペル。ついでに僕。四人を同時に相手にしつつ、むしろ徐々に押し込んできている。
これが最高神の力。衰えても太陽神と言う訳だ。
ぐっと歯を噛むと、猛攻を確実に一つずつ弾く。
アガートラームは体術も混ぜてくる。猛烈な蹴りが、斜め下から襲いかかってくる。一番避けにくい蹴り技だ。回転しつつ、更に剣技も混ぜてくる。水の刃を粉々に砕き、ラハムの蛇の髪も瞬時に斬り伏せる。僕が前衛に飛び出す瞬間に、かっと吠えたムスペルの中和の力を、更なる光の力で打ち消す。
ムスペルはスルトという王とともに、途方もない大軍で神々の国を滅ぼす存在なのだと聞いている。
如何に神殺しに特化した存在とは言え、単騎では無理か。
否。
単騎で無理なら、僕が補うだけだ。
剣をオテギネで受け流しながら、今度は懐に入ると、オテギネを旋回しつつ腰当てを入れる。
ぐっと呻くと、アガートラームと一瞬競り合う。
激しい熱を、アナーヒターが中和してくれるが、周囲が熱で歪んで見える程だ。ゼロ距離で体術の応酬。僕の力も上がってきているが、単純にアガートラームが積んでいる経験が多い。舌を巻くほど手慣れている。同格かそれ以上の神と、飽きるほど戦って来たのだこの存在は。掴む、外される。全身を使って打撃の応酬。小柄な僕相手でも、まるで苦にしていない。強い。
がっと音を立てて弾きあう。
アガートラームには余裕があるのに対して、明確に押されている。アガートラームは百戦を経た神。
最強と喧伝されるばかりの存在ではなく、これは実戦を豊富に経てきた存在だと刃を交えて即座に分かった。
戦術的にも戦略的にも判断力が極めて高い。
このまま僕をじりじり押しても最終的に押し切られると判断したのだろう。ムスペルの拳をかわすと、剣を僕に向け、全力で突貫してくる。
アナーヒターが水の壁を作るが、それを無理矢理突破。ラハムが蛇の髪を再生させて包み込みに懸かるが、早すぎて対応できない。
僕は深呼吸すると、勝負に出たアガートラームに対して、むしろ踏み込む。
剣と槍だと、どうしても槍が有利だ。
これは師匠達に教わった。
無手と剣では、剣術が三倍くらいは有利だという話がある。これは戦闘で、武器が届く範囲が違うからだ。
槍も同じ。
槍の場合、扱いが簡単なため、簡単に習得出来る事も追い風になる。
フジワラにも霊夢にも聞いた。
実際に英雄だった関聖帝君にも軽く話を聞いたが。
この世界の万年の人間の戦いの歴史で、もっとも活躍したのは飛び道具。そして槍だと言う。
僕は安易に槍を選んだ訳では無いが。
その対応力については、身に叩き込んでいるつもりだ。
無理矢理突破して瞬時に間合いを詰めてくるアガートラーム。だが、その動きが一瞬止まる。
僕が先に、オテギネを、伸ばすように突いたからだ。
アガートラームはそれを弾き上げる。これで詰みだと思っただろう。
だが、大きな隙を晒したのは、アガートラームの方だった。
踏み込む僕。
アガートラームは、此方に迫りつつも一瞬動けなくなる。
槍の奇襲技、伸。
相手に対して長距離の突き技を叩き込み、それを弾かせる。あまりにも遠くまで伸びてくる技だから、達人なら反応できて、それで無理にでも弾く。だが、無理をするから、体の動きが一瞬だけ止まる。
アガートラームは突貫しつつも、剣での二撃目が遅れる。
それに対して僕は即座に槍を手元に戻し、抉りあげる。
すれ違った瞬間。
アガートラームの腹をざっくりと、オテギネが抉っていた。僕の方も、肩口をざくりと斬られていた。
片膝をつく。
アガートラームは振り返りつつ、大量の血をもう止めている。
「ケルトの騎士にもそなたほどのますらおはそういまい。 討たねばならぬは惜しいが、我も傲慢な四文字の神に世界をこれ以上支配させておくわけには行かぬでな。 首、貰いう……」
アガートラームの言葉が止まる。
一瞬、体が硬直した所に、腹から剣が生えていた。
僕の大技を受けきった所で、どうしても油断が生じたのだ。煌々と全身を輝かせている霊夢。
神降ろしという奴か。
あれは、恐らく。
解放したばかりの八咫烏の力。
それで同じ太陽神であるアガートラームの力を封じたのだ。それで動きが止まった瞬間、ヨナタンが貫いたのである。
ヨナタンを肘で弾いて押しのけるのが最後の頑張りだっただろう。
イザボーの極大冷気魔術がアガートラームを氷漬けにする。
それも砕いたアガートラームだが、それと同時に放たれていたマーメイドの冷気が、足を完全に拘束していた。
凄まじい形相で外そうとするが、外れない。
それに、奧からワルターも出て来ている。つまりだ。
既に勝負あったということだ。
ヨナタンが血を吐き捨てながら、回復術を展開する。ぐっと呻くと、アガートラームはそれでも何とか動こうとするが、僕はその義手を斬り飛ばし、剣を奪っていた。それで、アガートラームは諦めたようだった。
「くっ……!」
「あんたは悪神じゃない。 僕達に対して正々堂々と戦い、それで敗れた。 悪いようにはしない。 降って」
「甘いことだな。 四文字たる神は、ただ絶対の支配を求めている。 奴にとっての秩序と法はそういうことだ。 信仰というのは、合体と分離を繰り返す。 ある場所では神は悪魔になり、悪魔は神になる。 聖者は悪人になり、悪党が聖人にされる。 だが奴は、その輪廻すら否定し、己だけの世界を作る。 そしてそれを求めたのは、自分が正義である事を担保してほしいと願う愚かな人間達だ! ローマという国が一神教に支配されてから、奴の暴走は止まらなくなった! 我等神の誰かが倒さなければ、いずれこの世界は最悪無に帰す! 他の世界は、奴が気にくわなくて無に帰されたものすらあるのだぞ!」
「だったら僕達と止めよう。 このままの人間でいいとは僕だって思っていない。 万年殺し合って、色々な案を出して色々な国や考え方を作り出しても、結局そこに楽園はなかった。 人間だけが暮らしている訳でもないこの世界だというのにね。 それなら、人間と一緒に、人間をどうすれば変えられるか考えよう」
それは僕の結論だ。
人間が最高だとか素晴らしいだとかは、僕は考えていない。
ただ、人間よりも強い力を持つ神々を可視化出来て。
其処ですがるのではなくともにある事を選ぶ事ができたのなら。
アガートラームは、肩を落としていた。
「……まあいい。 我は負けた。 バロールに倒された時とは違って、全てを奪われた訳でもない。 力が充分に備わったとき、呼び出すがいい。 力になってやろう。 だが、くだらぬ奴になり果てていた時……太陽の力がそなたを焼き払う。 人間はその短い生の間ですら変わる存在だ。 そなたが人間の愚かさを真に理解した時……四文字の神に代わって、世界の全てを支配する愚物になり果てないと良いのだがな」
アガートラームの体がマグネタイトになって消えていく。
嘆息。
正論だったな今の。
四文字の神が恨まれるわけだ。
霊夢が流石に辛そうである。かなり無理をしたのに、八咫烏の神降ろしまでしたのだから。
「ターミナルを開放して、そこから戻ろう。 何とかもう一戦、頑張るよ。 霊夢、休んでいて。 僕達だけでやるよ」
「そうさせてもらうわ。 酒、そろそろ出来ていないかしらね」
それを聞いて呆れる。
なるほど、酒不足で力が戻らないのか。なんだか色々と業が深いなと、僕は思う。
霊夢は聖人とは程遠い事は分かっている。まあ、そんなものだ。優れた武人が、心まで優れているとは、限らないのだから。
悪神ではないが、相容れなかったアガートラームとの死闘を制するフリン達。
苛烈な戦いではありましたが、それでもダグザの兄弟という高位神格を倒したのはとても大きい。
しかしながら、ダグザのように会話が通じる相手ではなかったこと。
そういった悪神ではない存在も、力で退けなければならない場合もまた生じる事が、此処で示されたのです。
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