もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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八咫烏を解放し、更に弾みをつけるフリン達ですが。

全てが上手く行くわけではありません。

現時点では必殺の霊的国防兵器や、ガイア教団を守る強大な悪魔に対してはまだまだ決定打が足りない状態です。

其処にガイア教団側から、交渉の手が伸びてきます。






2、呼び出し

天王洲シェルターの側のビルに、ターミナルはあった。

 

ターミナルの番人は、今回はなんだか派手な服装で、なんと球に乗っていた。多種多様な獣の悪魔を用意していたが、其処でアガートラームとの激戦を経たことをどうしてか知っていたようで、加減でもしてくれたのか。比較的突破は難しく無かった。

 

ただどの獣も即死技ばかり持っている奴で。

 

天使達が壁になって倒されるのを見ながら、必死に数を減らさなければならなかったが。

 

ヨナタンがずっと辛そうにしている。

 

この天使達が、アガートラームが厳しく糾弾した四文字たる神の僕である事を、どうしても考えてしまうのだろう。

 

ヨナタンは頭がいい分、そういうのは敏感な筈だ。

 

ローマという国が何処にあったのかさえ僕には分からないが。

 

其処を支配したことが決定打になったのだとしたら。

 

その四文字たる神も人間の影響を強く受けている訳で。

 

結局この世界に絶対なんてものはない。

 

それは、よく分かる。

 

絶対の存在が、世界を絶対に支配するなんて事は上手く行くわけがない。それもまた、分かるのだった。

 

最後の巨大な一つ目の獣、カトブレパスというのを撃ち倒す。

 

そうすると、ターミナルの主は、手をパチパチと叩くのだった。球に乗りながら、器用な事である。

 

「見事見事。 流石あるね。 いつもながら、此処を守る時に、君達がどんな風にたたかうかが楽しみでならないよ」

 

「あまりこういうことは言いたくないけれど、命のやりとりを楽しむ考え方は同意できないね」

 

「ハハハ、まあ一つの命の者ならそう思うだろうよ。 だがわれらアティルト界の者は、余程の事がない限り滅びる事もない。 そういう退廃した存在あるよ。 だから我をこうして配置したあの方も、それをどうにかしたいと考えているのだろうね」

 

「……その人と会えないかしら」

 

マーメイドが不意に、番人の側に出て話しかける。

 

ぎょっとした様子で、一瞬だけ素に戻る番人。球から墜ちそうになったが、すっと態勢を立て直す。

 

人間離れというか、重力とか無視した動きだった。

 

「貴方は蠅の王ね。 貴方の主に用があるのだけれど」

 

「貴様ただのマーメイドではないな。 ……あの方は気まぐれでな、この世界がどうなるかを最終局面まで傍観するつもりでおられる。 人間に試練を与えたり、あまりにも目に余るようなら天使を間引いたり、逆に魔の者達が人間を殺しすぎたりする場合は戒めもするが、それ以外は基本的には滅多に出てはこられぬ。 だが、その者達……この世界の未来を変える者達の前には、必ず姿を見せる。 そなたの力の大きさも理解している筈だ。 その内姿を見せるだろう」

 

蠅の王。

 

それを聞いて、少し後方で様子を見ていた霊夢がすぐに理解したようだが。

 

僕には分からない。

 

ともかく、咳払いすると、番人はターミナルを開放してくれた。

 

「とりあえず此処は解放しておくあるよ。 好きに使うよろし」

 

何も残さず番人が消えて。領域がなくなる。

 

ターミナルに登録しながら僕はぼやく。

 

「バスは後で回収しないといけないねこれは」

 

「いや、此処から戻りたいところだけれども、八咫烏は直接連れていかないといけない。 それにいずれにしても人外ハンターやシェルターの人員がこのターミナルを利用するために、何度か往復もしないといけない。 それを考えると、バスで戻る事になるわ。 帰路の護衛、悪いけれど頼むわ。 酒でもあれば少しは話が違うのだけれどね」

 

「そっか。 まあ、バスに乗るだけだし、ガンガーの護衛もあるから、大丈夫かな」

 

「少し私は疲れたわ。 帰り道、何事もないといいのだけれどね」

 

何だかマーメイドが落ち込んでいる。

 

ただ、良く事情がわからないので、後でバスの中ででも聞くか。

 

バスに乗って、それで水中に。

 

移動しながら、霊夢に聞く。

 

「前にもターミナルで蠅の羽音を聞いたことがあったんだ。 蠅の王ってなんのこと?」

 

「蠅の悪魔は何種類かいるのだけれども、その中でもっとも有名なのが七つの大罪と言われる一神教でもっとも強大な七体の悪魔の一角。 その中でも最強とも言われる、魔王ベルゼバブよ。 これもまた例によってバアル信仰を貶めた存在なのだけれどね。 バアルへの生け贄に蠅が集っている様子を見て、そう嘲るために名付けたらしいわ」

 

「そんなにバアル信仰って凄かったんだね」

 

「いや、実の所そうでもないのよ」

 

霊夢が丁寧に説明してくれる。

 

オリエントというらしいのだが、人類の万年の歴史の中で、もっとも最初に勃興したのが中東の文明であるらしいのだ。

 

人類は世界中に短時間で発展していったのだが。

 

中東の原初の信仰が、世界中に影響を与えたのは、単純に最も最初に優れた文明が出来たのが中東だったから、に他ならないらしい。

 

しかもバアル信仰ですら、中東では最古のものではないそうだ。

 

「あんたが連れているラハム。 あれの母が最古の信仰よ。 ティアマトという蛇の系譜の頂点にある祖神の信仰……と言いたい所だけれども、実際にはそれが分かっている最古というだけで、更に古い信仰があってもおかしくはなかったでしょうね。 ティアマトを倒した暴風神マルドゥークによる信仰がその次に勃興して、以降はそれから様々な神々と信仰が勃興して、世界中に波及していった。 一神教もその一つ。 ただ、バアル信仰は、その一神教の少し前に存在していてね。 激しく一神教と争った歴史を持っているの」

 

「そうなると、仮想敵だったと言う訳か」

 

「そういうことよ。 バアル信仰そのものは、雑多な信仰に加えて、バアルという呼び名があまりにも一般化しすぎて、今では訳が分からないものとなり果てている。 それが、一神教と対立し、一神教が後に世界を席巻した結果、悪の総元締めみたいに扱われたというのが真相ね」

 

ヨナタンの疑問を、霊夢がばっさり。

 

神様の専門家である霊夢だが。

 

その神様を随分とドライに考えているのだなと思う。

 

神様と接してきた存在だろうに。

 

その神様を、学問としても考えているのは、ちょっと面白い。

 

「長年敵だった相手を、今でも悪魔として貶めているって訳だな。 確かに恨みが残るのは分からなくもなくねえ」

 

「そうですわね。 それほど迫害が激しかったのかしら」

 

「一神教は最初ユダヤ教が勃興し、其処からキリスト教、イスラム教が派生したのだけれども。 ユダヤ教は中東での争いに負けて、一度根拠地から追い払われるという歴史を辿っているの。 これが後々まで問題になってね……」

 

「なるほど、それは悪魔とされる神々に対する恨みも溜まるね……」

 

いつまで昔の事を、というような理屈はあまり口にしたくない。

 

今、霊夢から聞いている話によると、それこそ何十世代もその恨みを蓄積させている筈だからだ。

 

それは当人達の問題であって。

 

余所から他人がどうこう言える話でもないし。

 

下手に口を出すと、問題をややこしくするだけだろう。

 

「話を戻すけれど、ベルゼバブはバアル信仰を貶めた悪魔の一つで、今現在一神教で一番邪悪とされる明けの明星……大魔王とまで言われる大堕天使ルシファーの側近中の側近よ。 あのターミナルの主がそれだとすると、確かにあの異常な強さにも納得がいくし、話に聞く限りルシファーは最後まで自分が出るつもりもないようだから、傍観を助ける仕事をしているのも頷けるわ」

 

「そんなに凄い奴なんだな」

 

「本来は大した事はないわよ。 魔界では極めて弱小なんて記述がある場合もあるくらいにはね。 ただ、神学というのは言った者勝ちで、言った事が定着するとそのままアティルト界では影響を及ぼす。 だからベルゼバブは今は強い。 それだけの話だわ」

 

「人間の適当な定義や考えで影響を受けるとなると……神々が人間を何処かで嫌うのも、納得出来るかな」

 

僕はぼやく。

 

アガートラームも、あれは人間に全く期待していないのがよく分かった。恐らくだが、直前に問答したダグザもそうだろう。

 

特にダグザは、人間世界のあり方を痛烈に批判していた。

 

それはダグザが、本来の姿とは程遠い姿になりながらも、あの場に降臨したことを。ダグザなりに弾劾していたのかも知れない。

 

ほどなく、川から上がる。

 

流石にガンガーの力は凄まじく、途中で悪魔が襲ってくる事もなかった。

 

ただ、バスを覗いて、念押しをして来るが。

 

「今回も護衛をした。 我に対する信仰を欠かさないようにな」

 

「ありがとうガンガーさん。 僕からも、貴方は立派な神だと伝えておくよ。 川を綺麗にしようか?」

 

「ふむ、古代の水神の力を感じるが……いや、今は別にかまわぬ。 我は川の綺麗さよりも、信仰を貴ぶ」

 

「分かった! また次の機会もお願いね!」

 

手を振ると、ほほほと笑いながらガンガーは川に戻っていく。

 

しかし大迫力だな。

 

イザボーはとにかくどでかいガンガーにびっくりしっぱなしのようだし。

 

シェルターはすぐ其処だ。

 

一度合流して、皆と話さなければならない。それと、だ。霊夢が咳払いしていた。

 

「悪いけれど、シェルターで休む前に神田明神に一度行くわよ。 八咫烏の力は強力で、体が弱っている人間の側に置くことは好ましくないわ」

 

「そういえば、直接目にすると気が触れるって言っていたね」

 

「そういうことよ。 人外ハンターを呼んで護衛に出して貰って。 あたしは今あまり動ける自信がない。 このまま護衛についてくれる、マーメイド」

 

「ええ。 任せて」

 

マーメイドがいてくれるのは心強いが。

 

強力な悪魔が気軽に姿を見せるようになってきた今、それでも絶対の安心などは存在しない。

 

ヨナタンがシェルターに出向くと、すぐにフジワラが来てくれた。

 

途中でヨナタンが話をして、結果について告げていたこともある。あの鹿目というハンターを含め、何人かを出してくれた。

 

ナナシとアサヒは、神田明神の方で護衛任務に就いてくれているらしい。

 

まあ、神田明神まではすぐだ。

 

「フジワラ、酒を用意してくれないかしら。 ちょっと限界だわ」

 

「ああ、分かっているよ。 酒については、今次のが仕上がる。 嗜好品にようやく少しずつ手が回るようになって来たんだ。 それと、各地を回っている人外ハンターも、手が少しずつ空いてきていてね。 酒屋を見つけたハンターがいる。 近々、それなりの量の酒が手に入るよ」

 

「本当! あ、でも酢になってるかも知れないわね……」

 

「酒蔵の類は残念ながら大戦で全部駄目になってしまっているからね。 君の故郷とやりとりが出来るようになったら、輸出入を積極的にして、互いに足りない物資を交換したいものだ」

 

バスに乗り込んで来る鹿目。

 

軽く目礼をする。

 

そのまま、何人かのハンターを加えて、神田明神まで向かう。

 

色々あったが、もう少しだ。

 

イザボーが声を掛けて来る。

 

「アガートラームとやりあったのに、休まなくても平気ですの?」

 

「正直すぐにでも休みたいけれど、八咫烏を神田明神に届ければ、それだけ相対的に有利になる。 僕としても、それがどれだけ戦略的に大きいかは分かる。 だから、頑張るよ」

 

「無理をしてはいけませんわよ」

 

「それよりも、アガートラーム配下の戦士達だって強かったでしょ。 イザボーこそ大丈夫?」

 

咳払いするイザボー。

 

ナタタイシやワルター、それに皆の悪魔が奮戦していたらしく、イザボーは攻撃魔術に専念できたらしい。

 

だから、皆を気遣って欲しいと。

 

そうか。

 

神田明神が見えてきた。

 

バスを横付けして、すぐに展開。神田明神に八咫烏が入ると、出迎えたサルタヒコが声を掛けていた。

 

「八咫烏どの、よくぞご無事で」

 

「本当に国津と天津で仲良くやれているようだな。 素晴らしい事だ。 そなたとアメノウズメは国津と天津の橋渡しをする貴重な存在。 これからも、その役割を全うしてくれ」

 

「勿論にございます。 それで、他の神々は」

 

「恐らく地下の何処かに封じられているとみていい。 力を戻しながら、じっくり調べて見る。 いずれにしても、もう少し力が戻れば、この暗い地下の闇に、私が光となって太陽の力を行き渡らせよう。 その後は、豊穣の神々と協力して、少しでも草木や作物を戻したいものだ。 これは天の岩戸に天照大神が隠れられた時と同じような有様だ」

 

霊夢がこくりと促してくる。

 

もういい、ということだろう。

 

ただ、霊夢が一番疲弊が激しいはずだし、もう少し護衛するという。

 

霊夢は頭を掻くと。

 

好きにしなさいと言った。

 

拒否する様子はなく。ちょっとだけ、また信頼が深まった気がした。

 

 

 

神田明神での引き継ぎが終わった後、先進的なシェルターの風呂を借りて、すっきりしてから東のミカド国に戻る。

 

寝るのはこっちでやった方が時間を無駄にせずに済む。

 

また時間がだいぶ進んでいた。

 

ともかく隊舎でぐっすり眠って、それで起きて。

 

ホープ隊長に状況を話してから、すぐに東京に戻った。

 

シェルターにサムライ衆が来ている。何班か同時に来ているが、合同任務があったかららしい。

 

ナバールもいた。

 

「おお、皆! 更に腕を上げたか。 武勲の話は聞いているぞ」

 

「ナバール、怪我とかはしていない?」

 

「はっはっは、毎日だ。 だが、皆にたすけらて良くやっている! それよりだ。 時間の流れが違う事もあって、さっき戻った時にガストンがこんなに大きくなっていてな!」

 

あの弟、ガストンだったか。

 

ナバールは家族の話はせず、ガストンが立派になった事だけを喜んでいる。

 

これは、ナバールの家はもうナバールを見捨てたな。多分サムライとしてのキャリアだけを積むことを求めていて、サムライとして立派になる事なんて求めていなかった。それが最前線でこう戦うサムライになってしまっては、家にとってはむしろ邪魔だというわけだ。

 

だがそんな腐ったラグジュアリーズの家のことなんぞどうでもいい。

 

見た感じ、ナバールはかなり腕を上げている。

 

これから神田明神に出向いて、共同任務に当たるらしい。分隊長数人が来たので、敬礼だけしておく。

 

基本的に東京に来ているサムライ衆は皆士気が高く、ホープ隊長が認めている人員である。

 

それもあって、僕達に対して当たりが強いようなこともなかった。

 

皆が行った後、フジワラが来る。

 

霊夢は大丈夫だろうかと思ったが、今酒を入れているそうである。個室でぐいぐい飲んでいるらしい。

 

「余程鬱憤が溜まっているようだね。 かなり強いモルトが運良く見つかったから渡したんだが、水で割ってぐいぐいやっているよ。 あれはしばらくは戦いには出て来てくれないだろうね」

 

「本当に蟒蛇なんだな……」

 

「酒そのものが殆どないこの世界では仕方がない。 八咫烏を解放してくれた君達には悪いが、すぐに次の行動を取りたい。 会議に出てくれるか」

 

「ギャビーの妖怪ババアがうるさいんでね。 遺物ははずんでくださいよフジワラさん」

 

ワルターがそんな風にいう。

 

ワルター自身も蓄財しているらしく、遺物納入で得られたお金を貯め込んでいるようだった。

 

使い路は聞かない。

 

ワルターも色々あるようだし、踏み込むのはあまり僕としてもやらない方が良いと判断しているからだ。

 

シェルターの内部は、足を踏み入れる度にどんどん便利になっているようだ。

 

丸い小さいのが動き回っている。

 

イザボーが驚いていたが、ドクターヘルがどうよと自慢げに言う。

 

「色々直せるようになってきたから、試しに直してみた。 ロボット掃除機といってな、勝手に細かいゴミを掃除してくれる機械だ。 ただ此処では大人とか悪魔とか彷徨いているから、象が蹴ったくらいではびくともしないように頑丈にしてあるがな」

 

「機械、これが。 凄いな……」

 

「仕組みは説明するのにだいぶ時間がかかるでな。 まあそれはいい。 また厄介ごとがある。 頼むぞ」

 

会議の内容だろう。

 

頷くと、会議室に。

 

霊夢を除く主要人物がいる。ただ、志村さんと小沢さん、ニッカリもいない。

 

ツギハギは画面向こうにいるようだ。

 

ただ、この部屋も毎回どんどん機械が直されているようである。最初に足を運んだ時には、色々壊れたままだった。

 

それを考えると、感慨深い。

 

フジワラが説明を始める。

 

「八咫烏が戻り、更には天王洲シェルターの地下に物資があることも分かった。 これからそれを回収する。 同時に主要な人外ハンターはターミナルに登録をする必要がある。 これから何度か往復して、細かい貴重品などはターミナル経由で此方に運んでしまってほしい」

 

「護衛は私がするわ」

 

「ありがとう。 頼むよ」

 

マーメイドは寂しそうに微笑む。

 

彼女は蠅の王とやらに話をしていた。あの話を聞く限り、多分マーメイドの用がある相手はその主君。

 

大魔王ルシファーとやらだろう。

 

魔王の名を冠する悪魔は何体か今までも交戦したが、いずれも悪魔の頂点に達する実力者で、主神級の悪魔には劣るものの、それに近い相手ばかりだった。

 

その長となれば。

 

まあ、弱い訳もないだろう。

 

フジワラが出て貰う人員を読み上げ、すぐに向かって欲しいと指示。装甲バスは神田明神に向かい、其処にいるナナシとアサヒ他、数名の人外ハンターを拾った後、天王洲シェルターに向かうようだ。

 

サムライ衆がその代わり神田明神の守りにつくのかと思ったが、違うようである。

 

「神田明神には日本神話系の神々が集まりつつあり、その中には中堅所の国津神もいる。 今は力を戻して貰っている段階だが、大国主命はかなり力が戻って来ていて、タケミカヅチは元々かなりの力の持ち主。 アリオクが倒れた以上、余程の事がない限り、陥落は考えなくてもいい。 ただいざという時に備えて、私が此処に残って睨みを利かせる。 いざという時には私が関聖帝君達を連れて救援に向かう」

 

「おお……」

 

「それは心強い」

 

何人か画面向こうから会議に参加しているベテランの人外ハンターが言うが。

 

この様子だと、何かしら別任務がある。

 

咳払いすると、フジワラが僕を見る。

 

「フリンさん、ガイア教団と連絡が取れた。 会合が開かれる。 それに参加して欲しい」

 

「!」

 

「ガイア教団は力を貴ぶ組織で、仮にその場でユリコを倒してもなにか文句を言うこともないだろう。 ユリコに勝てるかい?」

 

「……」

 

ちょっとそれは、厳しいか。

 

ギャビーに渡されたロザリオはいいのだが、問題がある。

 

アガートラームとやりあってみて分かったが、まだ手数が足りないかも知れない。

 

黒いサムライがリリスだったとして、手駒が大量に作り出したリリムだけだとは思えないのだ。

 

僕がヨナタンと調べた所によると、リリスはたびたび悪い意味で話題になっている一神教……その一つのユダヤにおける神秘主義での重要悪魔。

 

そして、最初の人間を騙した「蛇」の妻という共通点がある複数の女性悪魔が散見されるし。

 

何よりもその蛇。

 

サマエルというらしいが。そういう強大な存在も確認出来る。

 

もしもユリコがリリスで、リリスを追い詰めた場合。それらが場に出張ってくる可能性は低くない。

 

今の身内だけでやれるか。

 

僕はアガートラーム戦で実戦投入したムスペルがいるが、皆もそれぞれ強力な悪魔を手に入れている。

 

ヨナタンは天使部隊のうち三体がドミニオンに転化し、ヴァーチャーとパワーで構成された天使達を三部隊に分けて従えている。皆並みのヴァーチャーやパワーよりも練度が高く、戦闘では百体近い中級天使の軍団が敵を圧倒できる。

 

ワルターは荒々しい悪魔達を多数連れていて、ナーガラージャを主軸に他にも数体の切り札がいて。

 

また今も、順次強化に当てているようだ。

 

イザボーは魔術戦部隊の他に、接近戦部隊も育成している。

 

ナタタイシも最近では言う事を聞くようになって来ているし、他にも手駒を増やしているようである。

 

ただ、それでも。

 

リリスに届くかは、かなり怪しい。

 

それにリリスを前にして僕が冷静でいられるかは、更に怪しいというのが本当の所だ。

 

ガイア教団は分厚い悪魔の守りにあるというし、相手がリリスだけとは限らないのも事実である。

 

「よし、分かった。 一度リリスとの戦闘は保留としよう」

 

「フジワラさん?」

 

フジワラさんが視線を向けて、それで理解する。なるほど、殿も行くと言うことか、

 

ユリコは殿のことを既に理解しているようだった。

 

だったら、リリス相手に隠していても無意味と言う訳だ。

 

「話を主体に進めてきて欲しい。 彼方が対話を望んでいるのは、決して良い理由だけではないだろう。 だが……」

 

「阿修羅会を追い詰めているとはいえ、今ガイア教団を敵に回すのは得策ではないし、何なら同盟を組めるのなら……というわけですね」

 

「話が早い。 少なくともガイア教団の一般信徒は、東京に彼等なりの秩序を構築したいと考えているようだ。 悪魔に赤子を食わせるような悪習は止めさせなければならないのは事実だが。 それはそれとして、同盟を組む事ができれば、相手を内部から崩す事も可能になる」

 

そう簡単だといいのだが。

 

勿論、此方が内部から崩される可能性もある。

 

更に、同時に幾つかの作戦を実施する話をされる。

 

「神田明神の近くに、妖精達が集まっている。 ノゾミという女性人外ハンターがいてね。 彼女が何かしらの加護を得ているらしく、妖精達の信頼を受けているそうだ。 妖精達はあまり個々は強くは無いが、元々はケルトの下級神格だったり、或いはまとめ役には強大な者もいる。 同盟を組む事ができれば、更に力になる。 その作戦の方は、連携してくれている他のサムライ衆に任せる」

 

そういえば四天王がどうのこうのはどうなったのか。

 

まあ、いいか。

 

それについても、何もしていないとは思えない。

 

ともかく順番にやっていくしかないだろう。

 

僕達はガイア教団の本部である銀座に出向くとして。まだ他に、やるべき事は幾つもある。

 

阿修羅会は現在進行形で多数の人間を殺して、赤球やらに加工しているのだ。

 

それも、自分達だけのために。

 

ガイア教団はユリコさえブッ殺せばなんとか味方に引き込める可能性があるのに対して、阿修羅会は。

 

焦りは禁物だ。殿も作戦を練ってくれているはずだし、今はそれに従うしかない。

 

解散。フジワラがいうと、全員がさっと動き出す。バロウズに、早速地図が転送されていた。

 

「意外にこの近くからいけるんだね」

 

「東京駅から地下通路でいけるようだわ。 ただガイア教団も守りを固めているし、油断はしないで」

 

皆がいなくなったからか、殿が咳払いする。

 

皆即座に注目した。

 

どうも僕には、殿が他人だとは思えないのだ。それは皆も同じらしく、ワルターはずっと困惑している。あった事があるように思えてならないと。

 

殿が憑いている銀髪の子は、凄い使い手ではあるけれども、やはり他人だ。殿が何か特別なのである。

 

「カガが離反した直後だから、此方に対して何か要求してくる可能性も考慮はしていたが、特にそういうこともないようだな。 ガイア教団は、強い者にしか興味を見せず、離反者にはどうでもいいという視線を向ける組織のようだ」

 

「それで、今回の会談の目的は……」

 

「ユリコとやらはフリン。 そなたと話したいだけであろうよ」

 

「……」

 

本気でそれだけなのか。

 

いや、そうとはとても思えない。

 

殿はふっと笑う。

 

「政治的な駆け引きについてはわしが受ける。 そなたは……いやそなたらは、奴の口車に乗せられないようにだけせよ。 それでかまわない」

 

「それは心強いわね」

 

「一番心配なのはワルター、そなただ」

 

「俺ッスか!?」

 

ワルターがちょっと驚くが、実は僕はそれも同意だ。

 

あのユリコとの戦闘の時。一番悪い影響を受けていたのは、ほぼ間違いなくワルターである。

 

いや、ヨナタンも危ないか。

 

最近、ヨナタンは考え込む時間が増えているのだ。以前は悩みもなかったようなのに。

 

「歩きながら話そう。 それとヨナタンよ」

 

「はい」

 

「疑念や不安があるならわしが受けよう。 ただし、他人がいない所でだがな」

 

「分かりました。 貴方が想像を絶する経験を積んでいる存在であることは分かります。 僕の悩みは、そういう人に聞いて貰いたい」

 

ヨナタンは元々、どうしようもない家族や周囲もあって、自分で貴族たらんと心がけたのだ。

 

生半可な精神力で出来る事ではない。

 

だからこそ、転んだときには立ち上がるのも大変だろう。

 

先にこういった存在に話を聞いておけば、転んだときに受ける打撃も小さく済むかも知れない。

 

さて、そのまま東京駅とやらに向かう。

 

他でも動いている人はたくさんいる。この様子だと、ナバール達も作戦行動で忙しくなるだろう。

 

止まっていた東京の時間が動き出しているのだ。怒濤の如く。

 

その中心にあるのは殿。

 

僕達がへまをして、殿の動かし始めた時間を止めるわけにはいかなかった。

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