もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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ケルトの冥府神ケルヌンノス。メガテンシリーズでもたびたび登場している神格ですが、狩りの神でもあり一辺倒な邪神ではありません。

ケルトの神格が動き出している中、ケルヌンノスも動きます。最悪な事に、殆どの人間が死に絶えた東京は冥府神が最も力を発揮できる場所。

しかもフリン等主力は出払っている状況。

相対する一般人外ハンターや一般サムライ衆にとっては根性の見せ所です。

増援が辿りつくまで、死者の海を耐え抜かなければなりません。この地の未来の為にも。






3、妖精とサムライ

サムライ衆達とともに、志村はノゾミの所に向かう。なんだかまずい連中に目をつけられたらしいと相談を受けたのである。

 

ノゾミは妖精達に慕われていて、その長に祀り上げられそうな勢いだそうだ。

 

ちょっとその理由はまだわからないが。

 

妖精達は個は弱くても、集まるとかなりの戦力となる。

 

元々妖精というのは、西洋における妖怪といっていい存在だ。日本の妖怪が色々な種類があって、性質も様々であるように。西洋における妖精も、人に対して友好的なものから、悪辣なものまで。弱い者もいるし、強い者もいる。

 

そういうものなのである。

 

雑多な妖精は、そもそもが土着信仰の下級の神々であったり、神々が妖精として貶められたものであったり。

 

後に危ない場所に子供が近寄らないように、大人達が作りあげた存在であったり。

 

それらの出自は様々だが。

 

中には古い神々の名残を残している者もいる。

 

それらはケルト……欧州全般の神話の事だが。ケルトの土着民であるゲルマン民族の荒々しい性格を反映するように、猛々しい戦神であったり、武神であったりするものもいて。

 

いずれにしても、侮れない存在なのだ。

 

サムライ衆と一緒にいるナナシはちょっと不機嫌だが、苦手なナバールというサムライがいるからだろう。アサヒが上手におだててナナシから遠ざけているが、これは喧嘩にならないようにするためだと思う。

 

人間的な相性はあまり良く無さそうだが、それは今の時点での事。

 

ナバールと言うサムライは支援魔術を豊富に覚えていて、非常に支援が得意だ。戦闘でも前線に出ないようにと分隊長のサムライに時々言われるが、的確極まりない支援をしている。

 

何度か戦闘をともに行ったが、まず支援役としては充分な実力をもっていて。後方にいてくれるなら、という条件がつくが。とても頼りになる。

 

今も人数がいる事があって、雑多な悪魔が仕掛けて来ているが。

 

それも危なげなく撃退出来ていた。

 

牽引している装甲バスには非戦闘員も乗せている。

 

これは神田明神の復興以降、この辺りで危険な悪魔の活動が露骨に減っているからである。

 

彼方此方で復興作業を始めていて、特に阿修羅会が壊した橋などの復旧を少しずつ開始している状態だ。

 

このため、その作業をしていた元土建業の非戦闘員と。

 

同じくその見習いの若い非戦闘員を何名か連れていた。

 

何度か戦闘はあったが、いずれにしてもこの面子の敵ではない。今回は英雄の支援はないが、この位置だったらいざとなったら誰かしら来てくれるだろうし。なんなら神田明神にいる神の支援も見込める。

 

八咫烏が来た事もある。

 

ますます神田明神の神威は上がっているようだった。

 

教会に到着。

 

ナバールというサムライが、のんきに声を上げていた。

 

「おお、立派な礼拝堂ではないか! 東京にもあるのだな!」

 

「殆どは天使にぶっ壊されたらしいけどな……」

 

「嘆かわしい話だ。 神に祈りを捧げる人々を手にかけるとは、天の使いの風上にもおけん。 そのような者は、見かけ次第討ち取らなければなるまい」

 

皮肉のつもりで人外ハンターの一人がいうが、ナバールはそれを大まじめに受け止める。それで毒気を抜かれたのか、人外ハンターは黙る。

 

ともかく。

 

志村が精鋭を募って、教会に。

 

内部に入ると、ノゾミはいない。

 

以前来た志村だ、と声を掛けると。内部から、こわごわと様子を窺っていたピクシーが飛んできた。

 

「たた、大変だよ!」

 

「救援要請があって来たが、何かあったのか」

 

「ノゾミが戻らないんだ! 近くでなんか悪魔が出たって、それっきり……」

 

「場所は分かるか?」

 

知らないと言うが、ナナシが即座に動く。

 

スマホを操作して、以前登録したノゾミの位置情報を確認。GPSなんてものはとっくに動いていないが、その代わり基地局は生きていて、それを利用して大まかな位置は割り出せる。

 

「今の場所は分からないが、だいたいの場所は分かった! こっちだ!」

 

「よし、皆ナナシを支援! 装甲バスも追従してくれ! 安全になったとは言え、現時点では分散して行動するのが一番危ない!」

 

「イエッサ!」

 

「よし、我等も動くぞ! 周囲に常に警戒しろ!」

 

サムライ衆も動きがいい。

 

洋風の名前をつけているが、皆どう見ても日本人だ。本当に東のミカド国というのはどういう場所なのか。

 

シェルターに念の為連絡を入れる。

 

現在シェルターにいる英雄はマーメイドと秀だが、マーメイドはこれから天王洲への護衛をしようかという所だったらしい。

 

秀が来ようかというが、マーメイドが来てくれるそうだ。天王洲は二往復目だった事もあるので、遅らせて大丈夫だそうだ。小沢含め数人の人外ハンターが今地下倉庫を調べているらしく、どうせ時間はかかるそうなので。

 

「霊夢さんは? あの人だったら空飛ぶし早いだろ」

 

「連戦の疲れが祟って今休んでいる所だ。 ここのところ立て続けに大物神格を調伏したり、今回も八咫烏を降ろしたりしたりで負担が大きかった。 だから無理はいうな」

 

「あ、うん……そうだな」

 

ナナシだって休憩の大事さは分かっている。というか、叩き込んだ。

 

訓練をしたいとごねるナナシに、超回復の重要性を教えたし。勉強を見始めた関聖帝君も、休む事は戦士の仕事の一つだとナナシとアサヒに厳しく言い聞かせていた。疲労が溜まるとろくでもないミスを重ねることになる。休まなければ、ベストパフォーマンスは発揮できないのだ。

 

警戒しつつ移動。

 

前方に敵影。数名が構える中、最初にアサルトを相手に向けたのはアサヒだった。

 

「屍鬼ゾンビの群れだ! まだこんなにいるのか!」

 

「効力射! 火焔、光の魔術を使えるものは前に! 悪魔も出せ!」

 

「数が多いぞ!」

 

バスを横付けさせて、その上に上がる。其処で腰だめして、近付いてくる屍鬼ゾンビを撃ち据える。

 

ゾンビには基本的に悪魔が憑依している。ゾンビ映画のものとは違って噛まれても感染はしないが、しかし殺されればゾンビになるし、下手をすると生前より身体能力があがる。見ると警官の格好をしているゾンビも多く。

 

志村は勇敢に戦って倒れていった警官達の事を思い出して、ぐっと歯を噛む。

 

今、楽にしてやるからな。

 

そう思いつつ、射撃して足を打ち砕く。頭を潰すのはあまり良い手ではない。相手が映画のゾンビだったら効果抜群なのだろうが、このゾンビは悪魔が憑依した肉の塊である。頭は必ずしも急所ではない。

 

サムライ衆も勇敢で、自力で火焔魔術を使える物もいる。

 

ナバールが支援魔術を展開。

 

魔術の火力を底上げするものだ。一気に投射火力が上がり。次々と腐肉が崩れて行く。

 

最悪の場合は装甲バスを盾にする。

 

悪魔の力でも簡単には破れない装甲を張っているので、一面に対しては防波堤に出来るのだ。

 

更に防御強化の支援魔術をナバールが前衛に唱えている。

 

ナナシが展開した鬼が、それで強気にゾンビを薙ぎ払う。アサヒの射撃は、確実にゾンビの足を止める。

 

炸裂する光魔術が、ゾンビから憑依している悪魔を引きはがす。

 

だが、まだまだ来る。

 

「あれは悪霊インフェルノだ!」

 

「凄い数だぞ!」

 

「光魔術は続行! 冷気魔術、使い手いけるか!」

 

「いけます!」

 

「銃撃はゾンビに集中! インフェルノに銃撃は通じない! 弾を無駄にするなよ!」

 

ゾンビの群れは数を武器に押し込んでくるが、立て続けの支援魔術を受けた鬼の群れが大暴れして、確実に数を減らし、其処に光魔術や炎魔術が次々に炸裂する。

 

ゾンビが削れると、今度は燃え上がる死体の群れが来る。

 

閉所で蒸し焼きになったり、燃えさかる炎の中で死んでいった人々の無念が死体を動かしている存在、悪霊インフェルノ。

 

彼方此方の地下駅で大量にいたのだが、今では駆除が進んで、多くが沈黙した。だが、この数は。

 

大戦直後の混乱では、凄まじい規模の火災が何度も起きて。止めようがなかった。

 

そういった火災に巻き込まれた死体は、炭の塊になってしまっていて、見られたものではなかった。

 

教会に逃げ込んだ人々を、天使が皆殺しにした後もそういう死体が大量に散らばっていた。

 

迫る燃える人影の山。冷気魔術が次々炸裂するが、それでも止めきれない。鬼が押されている。

 

ナナシが更に鬼達を展開する。他の人外ハンターもサムライも、悪魔達を次々に出すが、それでも倒し切れないほどに数が多い。

 

「マーメイドは!」

 

「既に向かった! 間もなく到着するはずだ!」

 

「まずい、半包囲されてる!」

 

「最悪バスだけでも逃がすぞ! 血路を開くときは、我等が殿軍になる!」

 

サムライ達が決死の覚悟で前に出る。

 

死なせる訳にはいかないな。

 

ああいう人から死んでいった。ろくでなししか残らなかった。ろくでなし達は無能な上に残忍で、だから阿修羅会みたいなのが幅を利かせた。何が淘汰だ。そういった言葉のいい加減さを、志村は思い知った筈ではないか。

 

少し賭になるが、やるしかない。

 

召喚。

 

その悪魔は、この間作成に成功したばかりの悪魔だ。志村では使いこなせるかギリギリだが、やるしかない。

 

隣に出現したそいつは。

 

機械的な翼を持つ、大天使。体も機械じみていて、顔などは全て仮面になっている。

 

誰もが嫌がるのは分かっている。それでも、今は従えられるなら、天使ですら使うべきなのだ。

 

フジワラもそうしている。

 

志村も、そうしなければいけない。

 

「大天使メルキセデク、ここに」

 

大天使メルキセデク。

 

平和を司る天使達の長で、中級三位パワーの一員だとか、その司令官だとか言われている存在だ。

 

元は実在の司祭がモデルになっている可能性が高いらしいが、今は「平和の天使」であることが重要だ。

 

「天使だ!」

 

「くそっ! 畜生!」

 

「大天使メルキセデク、あの苦しむ人々を浄化して救ってやれるだろうか」

 

「……分かった。 浄化の光で、少しでも楽になるようにしよう」

 

志村だって苦しい。

 

だが、今は力が必要なのだ。

 

メルキセデクが広域の光魔術を展開。ばっと拡がった光魔術が、大量のインフェルノを瞬く間に浄化し尽くす。

 

だが志村の消耗も激しい。

 

「志村殿! 支援する!」

 

ナバールの声。回復魔術か。かなり楽になるが、それでも心臓が痛いほどだ。ぐっと歯を噛んで、第二射を頼む。

 

メルキセデクは第二射の大規模光魔術を展開。

 

インフェルノが消し飛ぶ。

 

辺りに散らばる燃え滓のような死体の山。燻っているそれを踏み越えて、まだインフェルノが来る。

 

それで打ち止めだ。メルキセデクが消える。呼吸を整えながら、志村は顔を上げる。まだまだいる。今の二撃でかなり削ったが、それでも。

 

これは、損害覚悟で退却しなければならないか。

 

だが、その時。

 

辺りの地面が、まるで凪が渡ったように、しんとした。

 

同時に、地面から優しいくらい静かに、氷が。インフェルノがまとめて凍り付いていくのが分かった。

 

氷が砕ける。

 

そして、マーメイドが地面から顔を出す。

 

凄まじいな。

 

尻餅をつくと、志村は笑ってしまう。凡人と超越存在の差。だが、志村はどうにか守りきった。

 

通信を入れる。

 

「此方志村。 増援により、大量の死者達は排除完了。 このまま作戦を続行する」

 

「一時休憩を入れてから続行せよ。 二次遭難になっては意味がない。 負傷者の後送を」

 

「了解」

 

すぐに負傷者の確認をする。

 

前衛で戦っていた鬼達の消耗が激しいが、それもどうにかなるレベルだ。大量の死者の残骸は、どうにかしてやりたいところだが、今はどうにも出来ない。荼毘に付すしかない。

 

土建の人達が出て来て、死体を一箇所に片付け始める。仕方がないが、ここで一度焼くしかないか。

 

そのまま残していても、マグネタイトを利用して悪魔が出現する。そして出現した悪魔は、人を襲うのだ。

 

増援の人外ハンターが来る。

 

カガだ。

 

敬礼すると、カガに読経を頼む。頷くと、カガは仏教系の神を召喚。天部の一角である迦楼羅天だ。ガルーダが仏教に取り込まれた姿で、もとのガルーダほどの力はないが、どうにか死者を浄化できるだろう。

 

カガの読経とあわせて、志村が黙祷、と声を掛ける。

 

荒れ果てたこの東京でも、膨大な死者が成仏して行くのを見て、それで思うところがあるものも多いのだろう。

 

サムライ衆も、敬礼して死者が浄化されていくのを見送る。

 

一神教しか知らなくても、これは穢してはいけないものだと理解出来ているのは助かる。

 

死者の浄化、完了。

 

問題は此処からだ。

 

補給を入れてから、ノゾミがいなくなった地点を目指す。何が起きたか分からないので、慎重にいかなければならない。

 

ほどなくして、妙な臭いが立ちこめた。

 

これは、緑の臭いか。

 

今、東京に木が生えている土地なんてまずない。この臭いを嗅いだのは、いつぶりだろうか覚えていない。

 

巨大な気配。

 

ぞくりとした。

 

マーメイドが最前衛に浮かぶと叫ぶ。

 

「気を付けて! 大きいのがいるわ!」

 

「総員警戒! これは……!」

 

「あそこだ!」

 

ナナシが叫び、指さした先。

 

何か女性型の神が、手酷く傷つけられて蹲っている。それが守っているのは、あれはノゾミか。

 

その周囲には、大量の死者。

 

そして、それを従えているらしいのが、牛の頭蓋骨に跨がって、ふんぞり返っていた。

 

あれらはなんだ。

 

「うわ、やべえ。 判定真っ赤っかだ。 死神ケルヌンノス。 ええと……ケルト神話の、なんか色々な神だ! ごっちゃな属性がどうしてこう盛られてるんだよ!」

 

「ケルヌンノスか……!」

 

志村も聞いたことはある。

 

ケルトの古い神であり、狩猟などを司る神であると同時に、冥府の神でもある。此処では恐らく、冥府の神としての力が暴走しているのだろう。これも邪神と言う訳ではなく、後々の信仰などで貶められたタイプの神格だ。

 

あの女性型の神は、ノゾミを守って傷ついたとみていい。

 

これは、一刻の猶予もない。

 

「人間が何の用だ。 これは我と地母の祖たる存在の争い! この国の神が半端に蘇っているようだが、そのようなことは関係無い! 膨れあがった冥界の力をこれ以上暴走させないためにも、この辺りは我の地とし、その全てを我が平らげなければならぬのだ!」

 

「勝手な事を! そんな事のためにいま生きている存在を蹂躙させ等しない!」

 

女性神格は黒い人型だ。

 

あれは……ちょっとなんともいえない。いずれにしても、これは味方につく相手は決まっている。

 

問題は、どう割って入るか、だが。

 

マーメイドが頷くと、たぷんと沈む。

 

よし。

 

志村はハンドサイン。

 

此方を一瞥だけしたケルヌンノスは、懸かれと、大量に従えている死者達に号令を出す。

 

何がこの地を平定する、か。

 

お前が好き勝手にしている死者達は、皆この地で普通に生きていた存在達だ。それを好き勝手にしている時点で、冥界の王としては失格と知れ。

 

お前は偉大な神だったかも知れないが。貶められたのかも知れないが。それでも、一線を越えた以上。

 

許してはおけない。

 

不意にふわりと、女性神格と、ノゾミが浮き上がる。

 

巨大な泡が地面の下から浮き上がり、二人を持ち上げたのだ。

 

殺到した死者達が、押し潰そうとして失敗。ケルヌンノスが何だと呟いた瞬間、その横っ面を志村の狙撃が張り倒していた。

 

勿論致命傷になどならない。同時に走った装甲バスが、死者を刎ね飛ばしながら突貫。泡に乗って飛んできたノゾミと女性神格を助けると、バックして戻ってくる。そして、ケルヌンノスは、その時点で引かなかった事が致命打になった。

 

辺りの音が消える。

 

これだけの時間があったのだ。マーメイドが準備をしていないわけがない。

 

今の泡のコントロールが終わった今。

 

その火力を、余すことなく叩き付けられるということだ。

 

ごっと、辺りを凄まじい冷気が包む。死者の群れが、まとめて氷漬けになる。何度か見たマーメイドの超火力魔術。

 

浮き上がって来たマーメイドは喉をおさえながら、それを叩き付け続ける。

 

しかし、流石にケルヌンノス。

 

冥府の神にて、最高位神格の一角。

 

「凄まじい冷気よ! 貴様ただの人魚ではないな! だが冥府の神にて狩りの神であり、獣たちの神である我は、むしろ半端な冷気などものともせぬ!」

 

ケルヌンノスが、マーメイドの凄まじい冷気の火力投射を浴びつつも、進んでくる。志村は声を張り上げる。

 

「バック! 追いすがって来る死者どもを叩き伏せろ! 追撃を叩いて、奴から引きはがすんだ!」

 

「了解!」

 

「数が多いが、それでも……!」

 

それでも、あの超絶の冷気を浴びて、それでも動いている死者は少ないし。

 

何よりもケルヌンノスが全力でマーメイドとぶつかり合っている今、その操作できる死者は限られる。

 

それに、志村は何度か見たが。

 

マーメイドは大きめの魔術を使うときに、喉を押さえている。

 

あれは恐らくだが、全力で魔術をぶっ放すと、周囲全てを巻き込むからだろう。つまり、まだ余裕がある。

 

しかしながらケルヌンノスも、雄叫びを上げると、巨大な熊の手のようなものを具現化させて、マーメイドに叩き付ける。

 

がっと、冷気の壁がそれを防ぐが、二度、三度。

 

ケルヌンノスは叩き付けられる凄まじい冷気で確実に消耗しつつも、マーメイドと渡り合っている。凄まじい。

 

だが、それを見ている余裕はない。

 

迫る死者の群れ。ノゾミと黒い女性の神格は、バスに乗せてさがって貰う。バスには医療要員もいる。とにかく容態を見てもらう。

 

前衛で暴れる多数の鬼だが、消耗が厳しいか。ナバールが連続して前衛に的確な支援魔術を掛けているが、しかし数が多い。マーメイドを背後から襲おうとしている死者もいて、それは志村が対処しなければならない。

 

鬼に混じって、ナナシが前に出る。アクロバティックな動きで死者を翻弄しながら、次々斬り伏せる。見事な動きだ。元々かなり弱体化している死者を、次々倒すが。しかし死者は数が多い。一体が、ナナシの足を掴んで、地面に叩き付けようとする。その腕を、志村が撃ち抜いた。その隙にナナシは手を地面に突くと、ブレイクダンスの要領で逆さに回転して、腕を引きちぎっていた。

 

だが、悪魔が憑依している死者に掴まれて、足が無事ともいかない。

 

ナナシが飛びさがる。ナバールが悪魔を呼び出して、回復魔術を使わせつつ、前に出ようとして分隊長に止められる。

 

体を張って死者の群れを食い止めている悪魔達が、次々に倒され始める。

 

カガを初めとした接近戦が得意な人外ハンターも前衛に出ているが、これは崩されるのも時間の問題だ。だが。

 

後方から、増援が到着。

 

凄まじい勢いで死者の群れに突入したのは、幻魔ゴエモンとリッパー鹿目だ。シェルターの人員が来てくれた。

 

更に関聖帝君と道教系の神格達も死者の群れを薙ぎ払い始める。一気に形勢が傾き、ケルヌンノスを狙撃する余裕が生まれた。

 

ケルヌンノスは全身を分厚い毛皮で覆い、多数の獣の足と腕を生やした異形に代わりはて、それで必死にマーメイドを殴りつけている。

 

マーメイドは喉を押さえたまま、更に火力を叩き付けているが、完全に千日手状態だ。

 

死者の群れは、こっちで引き受けられている。

 

後一手あれば。

 

レールガンを搭載している歩兵戦闘車は、簡単には動かせない筈。だとしたら、このライフルでやるしかない。

 

移動開始。

 

志村は誰にも告げず、そのままケルヌンノスの死角へと走る。

 

回復魔術で足の痛みを消したナナシが、また前線に復帰。アサヒの支援射撃を受けながら、大暴れしている。

 

それでも死者の数が数だ。関聖帝君が前に出すぎるなとナナシに釘を刺して、名高い青龍偃月刀を振るい、死者を右左になぎ倒しているが。それでも数が多すぎるのである。あれだけマーメイドが削ってくれたのに。

 

今まで交戦した高位神格は、どれもこれも弱体化が入っていた。

 

それは多くの人が死んだ世界で、信仰も伝承も失われたからだ。

 

だが、ケルヌンノスは違う。

 

信仰も伝承も失われているが、地獄が存在するこの世界。冥府の神はそれだけ強いということだ。

 

世界の大半の人間が死んだのだ。

 

それは、力を悪用しようとすれば、圧倒的につよくもなる。

 

後一手、欲しい。

 

マーメイドとケルヌンノスの戦闘は拮抗しているが、死者の群れは際限なく出てくる。その中には悪霊も多く、銃などが通じない相手もいる。このままもしも前衛が潰されたら、途方もない被害が出る。

 

狙撃地点に着く。

 

だが、今狙撃しても決定打にはならないだろう。

 

焦るな。

 

そう言い聞かせて、狙撃の瞬間を狙う。マーメイドがじりじりと押されている。あの強大なケルヌンノスを相手に、あれだけやり合っているだけ凄まじいが。それでも限界がある。だが、今手を出しても、全て無駄だ。

 

ケルヌンノスは既に此方を侮ってもいない。

 

狙撃が最初に入った事で、此方を明確に脅威と認定しているということだ。

 

緑の臭い。

 

ぶわっと、辺りにそれが拡がるのが分かった。

 

それと同時に、マーメイドが弾きあって、ケルヌンノスと離れる。

 

ケルヌンノスの異形の体格が、重さに耐えかねたのか、地面に押しつけられる。ぐっと、ケルヌンノスが呻く。

 

「おのれっ! 完全に目覚めたか、母神!」

 

「この最果ての地でも、これだけの勇士達が生きるために戦う姿を見ました。 ノゾミ、力を貸してください」

 

「ええ、任せて!」

 

草が、木が。

 

東京から失われたものが、地面から力強く生え始める。太陽が失われた土地だというのに。これが緑だ。

 

死者達が、足を取られ、木に絡め取られる。ケルヌンノスも。

 

多数の妖精達が、群がり始める。森だ。緑だ。そんな声がたくさん聞こえる。ケルヌンノスは雄叫びを上げ、暴れ狂って森を潰そうとするが。その全身を冷気から水に切り替えたマーメイドが抑え込む。

 

水は見かけより遙かに重い。ケルヌンノスは水に抑え込まれて、暴れようとするも。明らかに植物の繁茂が早い。

 

死を司るケルヌンノスには、最悪の状況だ。

 

何か喚こうとした瞬間、完璧のタイミングで、志村は狙撃。ケルヌンノスの右目を撃ち抜いていた。

 

普通のライフル弾だったら効かなかっただろうが。

 

これは霊夢が手を入れた対神格用の弾丸。多数の神を倒して来た実績がある代物だ。それをもってなお、今のケルヌンノスは倒れないが。動きが止まった瞬間、関聖帝君が、青龍偃月刀で肩口から袈裟に斬り倒し。更にナナシが残りの力をふりしぼって呼び出したゴズキと一緒に、一撃を叩き込む。ナナシのデザートイーグルの射撃を至近から顔面に受け、更にゴズキに組み付かれ。

 

留めに、マーメイドが作り出した氷の錐が、ケルヌンノスを上から下につき貫いていた。

 

動きが止まる。

 

ケルヌンノスが、呻くようにして言う。

 

「無駄な事を……この世界はもう駄目だ。 ならば死者の世界を一度構築し、そこからあの四文字の神を引きずり落とす事を考えれば……まだ未来はあったものを」

 

「そんなものを未来と言えるか!」

 

ナナシが叫ぶが、ケルヌンノスは答えず、マグネタイトになって散る。

 

志村はライフルを降ろす。

 

どうやら終わったようだった。

 

見ると、ノゾミの教会からこの辺りまでが森になっている。

 

母神と言っていたか。

 

ノゾミは淡く輝いていて、どうやら一種の巫女になったらしい。母神とやらと一体化したようだった。

 

死者の群れは、そのまま土に帰っている。

 

「死者を弔おう」

 

カガが言うと、他の人外ハンターも頷く。

 

この森は、強い生命力に満ちているが、それはそれとして。

 

大量の死者達の、冥福を祈りたいのも事実だった。

 

カガが迦楼羅天を呼び出す。他にも、光魔術を使える悪魔を人外ハンターが呼び出していく。

 

カガの読経が響く中、ノゾミは多数の妖精達に囲まれて、黙祷していた。

 

話を聞きたいが、ちょっと限界だ。順番に人外ハンターを戻らせる。

 

一つ、分かった事がある。

 

神田明神の至近にまた一つ、人間と敵対的では無い悪魔の集落が出来た。その勢力は侮りがたく、簡単に手を出せない。

 

ノゾミはきちんと人格を保持していて、巫女にはなったものの、理想的な共生関係にあるようだ。

 

母神がなんだかはまだ分からないが、今は強い味方が加わってくれた。それがとても大きかった。

 

負傷者はかなり出ていたので、バスをピストン輸送して、シェルターに戻って貰う。今では手術室やCTやMRI、透析装置なども復旧していて、専門的な薬剤も精製が始まっている。

 

確実に押し始めている。

 

志村も手当てを受ける。

 

かなりメルキセデクを呼び出すときに無理をしたので、甘んじてそれを受ける。フジワラから連絡が来た。

 

「戦力の逐次投入になってしまったが、増援が間に合って良かった。 此方でも襲撃を受けていて、戦力を出せなかったんだ。 そんな中、見事に指揮をしてくれた志村君には感謝しかない」

 

「いえ。 それよりも、これで更に前進しましたね」

 

「ああ。 後は四天王の寺だ。 これについても、案が出て来ている。 もう一柱か二柱、日本神話の有力な神格を封印から解放しなければならないが……」

 

そうか、日本神話の神の力を借りて、東京の霊的防御を復旧させるのか。

 

マーメイドは戦いを終えて、目を細めて妖精達と静かな森を見ている。

 

善良な人魚で本当に良かった。

 

この森を荒らさないように、周知しなければならないな。

 

手当てを受け終えた志村は、そう考えていた。







すっかり一人前のサムライになっているナバールの戦闘描写も今回は入れておきました。

前線を張るには頼りないですが、適切な支援を出来る有能な後衛です。

そしてメタ的な話をすると近年のメガテンではバフデバフがとても重要になっているため、ナバールのような存在の意義はとても大きいのです。



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