クリシュナが出向く。
他の神格を出向かせると、面倒だと判断したからだ。
クリシュナにしても、実際の所はビシュヌの姿を取りたいのだが。それも信仰を失って出来ない状態にある。
シヴァに至っては現時点では身動きが取れず、最悪ルドラの秘法で新世界を作ろうと考えていたようだが。それも出来ない状況だ。
意外にクリシュナにも出来る事は少ないのだ。
三界を征服する悪魔と遭遇し、何度も退けてきたクリシュナだが。
此処までの難敵は初めて。
最悪の場合は、世界をエサにさせて出現させた原初のナーガラージャを媒介に、四文字の神を倒すしかないとも考えていたのだが。
しかしながら、状況の急変が続いている今。
計画を修正しつつ、柔軟に動くしかない。
地上に出ると、其奴は腕組みして待っていた。
ダグザ。
ケルトの最高神格だ。
ただ、知られている姿とは随分違っている。荒々しい男性神格の格好で、痩せている。
気の良い太めの神という姿が定着していて。
戦いの神でスケベでもあるが、それ以上におかゆが大好きな気の良い存在として愛された神なのに。
こんな姿を取ると言うことは、それだけ今は戦時だと判断していると言う事。
それが分かっているから、クリシュナは笑う事は出来なかった。
「ケルトの神格は出遅れ気味ですが、最高神である貴方が今頃になって出張ってくるとは。 何か気が変わったのですか」
「お前等の目的を教えろ」
「言うとでも」
「……天使共は相変わらずくだらん世界を作ろうとしておる。 昔はきちんと自分でものを考えていたのに、一神教の先鋭化に伴ってどんどん人形じみたつまらん連中へと変わってしまった。 かといって大魔王を自称するあやつも、結局それに反発しているだけにすぎん。 それで他の神話の存在が集っているのなら……と思ったのだがな」
大戦の前。
天使達は後顧の憂いを無くすつもりなのか。
渋々従っていた他の神話の神々や悪魔を、まとめて皆殺しにした。シヴァもそれのエジキになったようなものだ。
流石にシヴァほどの神格を滅ぼすには至らず封じ込むに留まったが。残念ながら信仰を失ってしまった今、シヴァが巻き返す可能性はない。
強いて言うなら、悪魔合体で呼び出されれば、アッシャー界に具現化出来るかもしれないが。
あのシヴァを呼び出せるような人間なんか、百年に一人出れば良い方だろう。
今の人間が減り尽くした状態で、そんな奇蹟には期待できないのだ。
「貴方はどうするおつもりで」
「お前等はどうせ四文字の神に挑もうと考えているのだろう。 俺もそう考えていたのだがな……」
「おや、考えが変わったのですか」
「いや、変わってはおらんよ。 俺が座につくつもりで、人間を利用しようと思っていたが。 思ったより面白い奴らを見つけてな」
ああ、なるほど。
理解出来た。
クリシュナが盟主を務める多神教連合が余計な事をしないように、自ら様子を見に来たと言う事か。
直近で、アガートラームが倒れたことはクリシュナも感知している。滅ぼされまではしなかったようだが、人間に負けたのだ。
ダグザと協調はしていなかったが、それでもケルトでは最高神格に近い存在だった。それが負けた。
それだけではない。
恐らくダグザの母神にて、ケルト最高の母神であるダヌー。最高位の地母神の一角に名を連ねる存在も、どうやら巫女を確保して復活したようだ。
やはり、人間全てを贄にして四文字の神に挑む計画は保留しておいて正解だったとクリシュナは思い始めている。
かといって、ダグザを盟主にし、自身の座を譲るつもりもない。
維持神であるクリシュナは、あくまで世界の維持を目的としている。
それには今やあらゆる悪鬼よりも世界の害になると判断出来る四文字の神を、どうにかして除かなければならなかった。
「貴方は人間とともに、四文字の神の打倒を目指すのですか」
「もう少し見守ってからだがな」
「……良いでしょう。 我々から貴方へ攻撃をするつもりはありません。 ただし、我々はまだ我々として状況を見据えてから動きます。 我々の邪魔もまた、しないように」
「ふっ、それは此方の台詞だ。 俺の邪魔をするようなら、容赦なく叩き潰すから覚悟しておけ」
すっとダグザが消えた。
ふうとクリシュナは嘆息。
側に出現したのは、弥勒菩薩である。
かなりふくよかな体型をしているが、これは民を救うということに特化しているからである。
56億7千万年の後現れるとされている救いの権化も、この状況では強攻策を採らざるをえなかったのだが。
それでも、クリシュナと同じく。
強攻策を採らなくてもよいのであれば。犠牲は減らしたいと考えているようだった。
「あれは危険な神格。 クリシュナよ。 よろしいのか」
「かまいませんよ。 それよりもやはり如来級の仏の支援は得られませんか」
「それは無為というもの。 阿弥陀如来は既に他世界を巡って、この状況の打開策を探しているし。 大日如来は世界そのものの行く末を見守っている。 私も出来れば民の犠牲などは出したくはない」
「そうですね。 その気持ちはわかります」
クリシュナとて、他の化身の時には人々の為に世界を救うこともあったのだ。
今のクリシュナは、世界を終わらせる神格、カルキに近い状態になっている自覚もある。ヴィシュヌに戻る事ができれば、強攻策などは採らなくてもいいだろうに。
とりあえず、ガイア教団に動きがあるのは感知した。
恐らくだが、人外ハンターと連携して、まずは阿修羅会を潰すつもりなのだろう。
合理的な判断だ。
あれは核兵器を手にした幼児に等しい。
タヤマが血迷って例のものを起動したら何もかもが終わるし。
しかも多神教連合の総力を挙げても、市ヶ谷にある例のものを簡単には制御はできないのだ。
まったく、よけいなものを作ってくれた。
ともかく、今は更に力を蓄えるしかない。
今目をつけているのは、天使共に半殺しにされ、人間に紛れて彷徨っていると噂されているオーディンだが。
クリシュナの力を持ってしても、オーディンを探し出すのは、骨が折れそうだった。
(続)
着々と戦力を拡大しているクリシュナさん。維持神ヴィシュヌの化身であって、知恵が働く彼は手札はあればあるほどいいと考えています。
現時点では原作真4Fのような動きは想定していませんが、本作世界は非常に状態が悪いこともあり。真4Fのような動きを後からすることも当然考えている状態です。
それには手札が幾らでもいります。
もはや彼ほどの知恵者であっても、手段を選んでいられないほど事態が悪いからです。
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