もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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アベが倒れたことが決定打になり、事前に行っていた準備も実を結んだことで、ついに六本木ヒルズへの攻撃が可能になります。

人間が赤玉に加工されている邪悪な施設です。

此処を守るは必殺の霊的国防兵器が一柱、南光坊天海。

その実力は、以前実力を殆ど発揮できない状態におかれていた甲賀三郎とは、文字通り桁外れとなります。







3、殿と僧

事前の打ち合わせ通り、出撃が始まる。アベが倒れた。それを聞くと、僕はそうか、としか言えなかった。

 

クズの集まりである阿修羅会の良心だと思った。

 

その正体はシェムハザという堕天使だと知って、複雑な気分にもなった。

 

シェムハザという堕天使の逸話も知った。

 

それを聞く限り、どうしても一神教の神は好きになれなかった。

 

人を好きになった存在を堕天使にするのか。

 

それは傲慢を通り越して暴君ではないのか。

 

そう感じたからである。

 

勿論愛の形には色々あるだろう。それが一方的な押しつけの可能性だってあるだろうし。

 

だが、アベという男と接してみて分かったのは、下手な神より理性的だったということである。

 

あれが一神教の神によって悪魔扱いされるなら。

 

一神教の神も、いずれは悪魔扱いされても文句は言えないのかも知れない。

 

そうとすら思った。

 

僕の苛立ちを感じ取ってか、ヨナタンが声を掛けて来る。

 

「アベについては僕も思うところが多い。 彼は悪魔ではあったが、阿修羅会という外道の群れの中ではまっとうな存在に思えた。 それを悪魔呼ばわりするのは正しいのだろうかと思う。 だが、これから出向くのは今まででも特に厳しい戦場だ。 急がないとまずい」

 

「分かってる。 一瞬の躊躇が負けにつながりかねないからね」

 

頬を叩く。

 

それで、ある程度冷静を取り戻す。

 

此方に来る霊夢。

 

咳払いすると、霊夢は言う。

 

「殿の正体があたしの考え通りだとすると、南光坊天海はある程度無力化出来ると思うわ。 問題は他の必殺の霊的国防兵器が移動されてきた場合ね。 今の貴方たちとマーメイド、秀に殿が揃えば……それでもギリギリだと思うわ」

 

「分かった。 油断はしないで戦うよ」

 

「今貴方たちを失う事は、未来を失うのと同義よ。 あたしの故郷も此処が潰えたらなし崩しに潰されるでしょうね。 此処は任せて。 何が来ようと守り抜いて見せるわ」

 

頷く。

 

そして、ターミナルから六本木に移動する。

 

今回はかなりの人数が参加するが、ターミナルにいるのは秀と志村さん、それにナナシとアサヒだけだ。

 

他の面子は、マーメイドと一緒に装甲バス数両とともに陸路で来るらしい。遅れて殿が来た。

 

既に作戦会議は終わっている。

 

六本木ヒルズの入口には、南光坊天海がいる。これは小沢さんが既に確認済みだ。

 

これには僕達と殿で当たる。

 

勿論南光坊天海は非常に手強いだろう。足を止めたとしても、あの甲賀三郎が非常に手強かったように。

 

甲賀三郎と戦った時よりも力は上がっている。

 

手持ちも強くなっている。

 

それでも、油断など出来はしない。

 

時計を合わせろと志村さんがいう。

 

こういう作戦は秒刻みで行うのだとか。なるほど、頷いてバロウズに周囲との連動を指示。

 

ワルターがぼやいた。

 

「そんな細かい作戦、俺に出来るかねえ」

 

「やるのよワルター。 昔ならともかく、今はできるはずだわ」

 

「……そうだな。 やってやる」

 

大丈夫だ。

 

皆のガントレットにいるバロウズが、それぞれ同期してくれる。連絡。マーメイドの別働隊が、所定の位置についた。

 

僕達も移動して、ヒルズというビルが見える地点まで来ている。

 

この辺りは大戦での地形変化が凄まじかったらしく、文字通り滅茶苦茶だ。元がなんだったのか分からないような地形になってしまっている。

 

「この辺りは、何があったの?」

 

「大戦時に、大物の悪魔同士が戦ったんだ。 最高位の攻撃魔術が炸裂して、文字通り天地がひっくり返ってしまったそうだよ」

 

「よそでやれよ……」

 

「同感ですわね。 魔界だか天界だか知りませんが、そういう場所でやってほしいものですわ」

 

その破壊でどれだけの被害が出たか容易に分かる。巻き込まれた人は文字通りひとたまりもなかっただろう。

 

酷い話だと思いながら、バロウズの案内通りに移動。

 

この辺りの地図は、小沢さんや志村さんが既に仕上げてくれているのだ。

 

所定地点に着く。ナナシとアサヒは、此処で一緒に来ていた他のハンターとともに一旦入口の安全確保として離れる。

 

他班と連絡を何回か取る。

 

マーメイドのいる部隊は、あの鹿目と野田が加わっている。どっちもそれなりの腕の持ち主だ。

 

ニッカリさんもいるし、塔の時のように先走って倒されるハンターが出ないとは思いたい。

 

ヒルズというのはあれか。

 

本当にひっくり返って地下に埋まっている。それがなんとなく、東京の建築にはあまりくわしくない僕でも分かった。

 

酷い状態だが。

 

あそこに閉じ込められている人達は、もっと酷い目に今も会い続けている。今、助けに行く。

 

僕はそう、もう一度心中で誓っていた。

 

配置を確認。

 

ヒルズの周囲に強い悪魔はいないようだ。問題は阿修羅会の増援だが、それも彼方はアベがやられて大混乱。

 

問題はそれでタヤマが血迷う可能性があるということ。

 

その場合に備えなければならない。

 

「A班、クリアリング完了」

 

「B班同じく」

 

「C班、悪魔と交戦中。 C班のみで対処可能」

 

「了解。 念の為にB班支援せよ」

 

幾つか無線が飛び交う中、もう一度確認をする。

 

銀髪の子をまず守り抜いて、南光坊天海という元坊主という人の所につれて行く。今では人ではないのか。

 

坊主というのは仏教という思想の司祭に近い存在であるというのは僕も聞いている。それがあの甲賀三郎と同格というのもちょっと面白いが。この国では三大怨霊と言われる死者の霊が下手な悪魔よりも強く怖れられたという話は既に聞いているので、それについては驚かない。

 

色々な信仰があって、それぞれが違う。

 

それで何か問題があるとは、今の僕には思えないのだ。

 

「最初は支援とクリアリング。 殿が相手と接触したら、それからは殿を主体に相手に仕掛ける。 多分一番重い一撃は秀さんが撃てるよね」

 

「重いかどうかはともかく、屋内戦では私に一日の長があるだろうな」

 

「任せるぞ。 その葵の紋の陣羽織に恥じぬ戦いを今回も見せてくれ」

 

「ああ」

 

秀さんは銀髪の子に頷く。

 

この人も、銀髪の子に何が憑いているのか理解していそうだが。僕達だけが蚊帳の外か。

 

僕も時々この子に接した後に変な夢を見る。

 

それが関係しているのかも知れないが。

 

ともかく、今はそれどころではないか。ともかく、作戦開始と同時に、全力で敵陣を突破する。

 

「C班、敵制圧。 クリアリング完了」

 

「よし、突入班、突撃! ABC班、いずれもヒルズの周辺を固めろ! 何があっても守り抜け!」

 

「了解!」

 

「堕天使だろうが魔王だろうが通すものかよ!」

 

勇ましいが、勇ましいだけでは駄目だ。ただ今回はマーメイドもいるし大丈夫だと思いたい。僕は瓦礫を乗り越えて飛び出すと、指定されている入口へと走る。彼方此方融解していて、この辺りで起きた戦闘の凄まじさがよく分かる。

 

銀髪の子が空中でもう一度跳躍して、瓦礫を容易に超える。それだけではなく、壁に垂直に貼り付いて、そこから跳ぶような立体的な動きも見せている。

 

凄いな。

 

鳥でも彼処まで出来るかどうか。

 

僕は跳ぶのは出来ても飛ぶのは無理なので、瓦礫の状態を見ながら走る。皆も問題なくついてきている。

 

入口。

 

硝子が溶けて散らばっていて、内部も傾いているようだ。

 

内部に飛び込むと、広い床が拡がっていて。

 

其処には筋骨たくましい、何かフードのようなものを被った男性がいた。数珠を手にして、手を合わせている。

 

これは、以前小沢さんが即時撤退を決意したというのはよく分かる。

 

僕も全身がひりつく。凄まじい強さが、相対するだけで分かった。甲賀三郎はまだ足を封じられたが。

 

今は甲賀三郎が自由に動き回れる状態に等しい。瞬きする暇に、一瞬で全滅しかねない状況だ。

 

さっと展開する中、床に降り立った銀髪の娘がまっすぐ歩いて行く。

 

南光坊天海というお坊さんがじっと娘を見るが、はっと驚いたようだった。

 

「殿……!」

 

「久しぶりだな。 このような場所で、鬼畜外道に顎で使われるというのは屈辱でしかあるまい」

 

「まったくにございます! 戦国の世を経て地獄を見慣れたとは思ってはおりました。 しかしまさか、これほどに悪辣な事の門番にされ、しかもそれをとめる事すら出来ぬとは。 情けのうございます」

 

「今はそなたを黙らせなければならぬ。 必殺の霊的国防兵器とやらにされ、制御を他で握られているのであろう」

 

僅かに気配が弱まる。

 

この二人、生前の知り合いか。

 

或いは。僕も。

 

時々見る夢が気になるのだ。いや、それはいい。今の僕はフリン。此処では一つの槍となり、敵を撃ち抜く事だけを考えればいいのだ。

 

「見ると殿は素晴らしいますらお達を連れ、その憑依させていただいている体の主も優れたますらおであるご様子。 それならば、今の拙僧をとめる事もかなうやも知れません。 是非、止めてくだされ」

 

「分かった。 少しだけ己を押さえ込めるか」

 

「可能な限り!」

 

「皆、手加減は不要! 一度実体化を解除した後、霊夢に作ってもらった札を用いて再度封印する! 以降は阿修羅会の制御を外れる筈! 行くぞ!」

 

頷くと、仕掛ける。

 

踏み込むと同時に、南光坊天海はオン、と叫び。周囲が一気に重くなっていた。

 

これは、支援魔術。

 

それも、相手を弱体化させるものか。こんなに強力に、これほどの広範囲に展開して来るとは。

 

まずい。

 

支援魔術を一瞬で相殺された。

 

動きが鈍ったワルターに瞬時に間合いを詰めると、手をそっと添える南光坊天海。ワルターが吹っ飛ばされる。ドカンと壁をブチ抜いて、ヒルズの外にまで。

 

ワルター。

 

叫びながら、天使達に続いて、僕が仕掛ける。

 

仕掛けたパワーの前衛が、瞬時に蹴り砕かれる。徒手空拳が、全て必殺の凶器となっているレベルか。

 

イザボーの至近、祈るような手を、振り下ろしに懸かる南光坊天海。イザボーは反応しきれない。

 

突っ込んだナタタイシを横殴りに一撃で吹き飛ばす南光坊天海。あいつ、あんなに強いのに。

 

更に飛びかかった悪魔をまとめて薙ぎ払うと、オンと再び叫ぶ。それだけで、重ね掛けした支援魔術が全部消し飛ばされる。

 

振り下ろされる手刀。

 

銀髪の子が、イザボーとの間に割って入る。そして、光の壁で、一撃を相殺していた。

 

「これでも加減しておる! 急げ皆!」

 

「くっ!」

 

ヨナタンと僕が同時に斬りかかるが、残像を作ってかき消える南光坊天海。手刀。背中に叩き込まれて、地面に僕もヨナタンもぶち込まれていた。全身が砕けるかと思う程の破壊力だ。

 

すっ飛んできた秀が、悪魔化した手で掴みに懸かるが、それを振り返りもせずに弾き返し、逆に正拳を叩き込んで吹き飛ばす。秀がそれを全力で相殺するが、かなり飛ばされていた。

 

凄まじい。

 

これが必殺の霊的国防兵器。

 

如何に甲賀三郎が霊夢の力で弱体化されていたか、思い知らされる。強いなんてものじゃない。

 

立ち上がると、オテギネで抉りあげる。

 

喝と叫ぶだけで、僕は衝撃波で天井に叩き付けられていた。ぐっと歯を噛むと、外から突っ込んできたワルターが。なまはげと一緒に体当たりを仕掛けるが、なんとそのまま踏み込んだだけで南光坊天海は微動だにしない。

 

「何ッ!」

 

「ワルター、どきなさい!」

 

必死にどくワルターとなまはげ。天使達が、逆に粉砕されるのもかまわず突っ込んで、南光坊天海に組み付く。

 

イザボーの最大火力魔術が炸裂し、全身を焼き尽くすが。

 

その炎の中から、南光坊天海は殆ど無傷で現れる。

 

僕はその間に支援魔術を掛け、銀髪の子が距離を取っているのを一瞥。着地すると、チャージを掛ける。

 

イザボーに蹴りを叩き込んだ南光坊天海だが、その間に割って入ったラハムが、髪の毛全部盾にして防ぐ。だけれども、それでも防ぎきれずに二人まとめて吹っ飛ばされる。もう少し。

 

呼吸を整え、意識を集中。

 

分かってきたが、多分南光坊天海は、自分で動きに制限を掛けている。動きというよりも、移動にだ。

 

本来はあれが足を止めずに縦横無尽に暴れ回るわけで、はっきり言って手に負えない。

 

だが。

 

突撃。

 

僕の方に振り返った南光坊天海は、手刀を振り下ろしてくる。渾身の貫を叩き込むが、手刀でそれを弾き。

 

更に返す刀で、僕を吹っ飛ばす。

 

吹っ飛ばされつつも、僕は見る。

 

銀髪の子が、全身に蓄えた光を炸裂させる様子を。

 

しかも、その瞬間。

 

巨大な蛇の悪魔……頭に角が生えている……が、南光坊天海に襲いかかっていた。あれは秀の手持ちか。

 

がっと、それを受け止めて見せる南光坊天海。

 

だが、それで動きが完全に封じられる。

 

僕は着地しつつ、血を吐き捨てる。全身がぶっ壊れそうなほどいたいけれど、ヨナタンが必死に天使部隊で回復魔術を使ってくれているから、まだ動ける。

 

そして、銀髪の子が。

 

サリエルを倒した極太の光の一撃を、撃ち放っていた。

 

巨大な蛇を投げ飛ばした南光坊天海が、それに対する。だが、その時、ぶすりと音がした。

 

ヨナタンが、南光坊天海の左脇に剣を突き刺していた。

 

それが決定打になり、光が直撃する。南光坊天海がそれでもさがりつつ、雄叫びを上げて光を抑え込もうとする。

 

僕はその間にもう一度チャージ。

 

そして、アナーヒターとムスペルを呼び出し。

 

アナーヒターの水魔術と、ムスペルの熱魔術を組み合わせて爆発を引き起こしつつ、突貫する。

 

その僕を、雷撃が包む。

 

もう一枚の切り札によるものだ。叫びながら、僕は突貫。光の柱がもう一本、南光坊天海に突き刺さっていた。

 

一瞬の均衡の後、凄まじい雄叫びが響き渡る。

 

「喝!」

 

二つの光が、それで弾き飛ばされていた。

 

だが、通った。

 

僕は、吹っ飛ばされつつ、焦げた臭いを嗅いだ。僕自体が焦げてるなこれ。あわてて飛んできたラハム。ラハムもボロボロだ。

 

僕とラハムを回復の魔術が包む。

 

側に浮かんでいるのは、妖精の女王。

 

ハイピクシーが転化した、妖精女王ティターニアである。

 

前は幼児サイズだったが、今は大人の女性くらいの背丈になっている。緑の服を着込んだ、落ち着いた雰囲気の美しい女性だ。背中には透明な二対の翼がある。本来は嫉妬深く浮気性の性格に難がある存在だそうだが。此処にいるティターニアは僕に忠義を誓ってくれている。

 

他にもメイヴと呼ばれる妖精女王が存在するし、ハイピクシーから其方に転化する選択肢もあるらしいが。ハイピクシーは此方を選んだということらしい。

 

いずれにしても、回復が続かないと、もう動くのも無理だ。

 

煙の中、南光坊天海が見えてくる。

 

嘘だろと、ワルターが呻く。

 

まだ形がある。

 

だが、僕は見抜いていた。

 

「通ってる! あと少しで斃せる!」

 

「そうか、信じるぜ!」

 

突貫するワルター。まだ余力が残っているのはワルターだけだ。唸りながら、ワルターに相対する南光坊天海。其処に、秀も同じように突撃する。

 

振るわれる大剣を、手刀であっさり捌く南光坊天海だが、そこに秀が弓矢で射撃を立て続けに叩き込む。

 

矢とは思えない破壊力だ。南光坊天海は其方にも注意を向けなければならない。

 

回復を続けてもらい、とにかく最後の一撃に備える。

 

彼奴には今までの貫は通らなかった。というよりも、彼奴は恐らく直線攻撃に決定的に強いんだ。

 

だとすると、薙で行くか。

 

いや、ワルターに対して激しい応酬をしているところから見て、恐らく。

 

銀髪の子は肩で息をついていて、纏っている光も弱くなっている。あっちも無理は出来ないだろう。

 

それに悪い事に、外で戦闘音がしている。見る余裕は無いが、何かが仕掛けて来ていると判断して良い。

 

急がないとまずい。

 

回復が更に強くなる。

 

イザボーがいつの間にか側にいて、コノハナサクヤビメを召喚してくれていた。一緒に回復を掛けて貰う。

 

「わたくしはちょっともう余力がありませんわ。 ヨナタンも。 秀さんもワルターもそう長くはもちませんわよ」

 

「分かってる。 最後の一撃、オテギネと、上がって来ている僕の技を信じるしか無い」

 

必死に立ち上がる。膝が笑っているが、それでもやる。

 

なまはげが蹴り砕かれる。

 

ナーガラージャが地面に叩き付けられて粉砕される。

 

なんとか戻って来たナタタイシが、横殴りの蹴りを食らって、吹っ飛んで消し飛ぶ。

 

他の悪魔達も飽和攻撃を加えているが、かかればかかるだけやられるだけだ。これでも抑えているというのだから、笑いしか出てこない。だが、今とは規模が桁外れの国を守るための最終兵器だったのだとしたら。

 

確かにこの強さくらいはないと、話にもならないのかも知れなかった。

 

「くそっ! 攻め切れねえ!」

 

「代われ」

 

秀がワルターの代わりに前に出ると、徒手空拳でラッシュを叩き込む。

 

凄まじい応酬だが、秀さんは体力に問題があると聞いている。ワルターが飛びさがって、残っているヨナタンの天使達の回復を受けるが、それもどこまでやれるか。

 

銀髪の子が頷く。

 

よし、いくしかない。

 

勝負は一瞬。

 

そして、南光坊天海は、突きというものに対して決定的な優位をもっている。それは理解できた。

 

銀髪の子がまず仕掛ける。

 

秀が飛び離れた瞬間、突貫した銀髪の子が、質量体を真上から叩き込む。透明だから姿は分からないが、凄まじい破壊力に、床が、全域で粉砕される。

 

「おおおおおおっ!」

 

南光坊天海も、ダメージを受けていると言う事だ。今までとは違う、明らかすぎる苦悶の声。

 

殿と面識があるのだったら、多分嘘ではないはず。

 

そして、だ。

 

追い込まれると、恐らく封印も外れる。だから、力を出し切る前に、倒すしかない。

 

踏み込みつつ、南光坊天海が、叫ぼうとする。

 

「オン」にしても「喝」にしても、もう一度やられたら終わりだ。その瞬間、秀が巨大な猫の悪魔を呼び出すと、辺りを火の海に。

 

更にイザボーも、恐らく残っていた最後の魔力で、火魔術で南光坊天海を包んでいた。

 

これで、叫べない。

 

そして、僕は弾き飛ばされた殿と入れ替わりに。

 

天井を抉り抜き、更に加速を加えながら。

 

槍技の奥義を叩き込む。

 

突き、払い、叩く。

 

これが槍の基本だ。

 

突きの奥義、貫。払いの奥義、薙。

 

そして、叩くの奥義は。

 

「奥義……!」

 

「やれっ!」

 

飛びついたワルターが、南光坊天海の動きを一瞬止めてくれる。凄まじい熱の中、良くやってくれた。

 

僕は、そのまま叩き落としていた。

 

「割!」

 

オテギネの刃が。

 

南光坊天海の肩口から腹辺りまで、叩き割っていた。

 

 

 

総力戦を終えて、札を回収。外に出る。まだふらついているが、外でも戦闘が行われている。

 

銃撃。

 

どうやらこれは、阿修羅会によるものか。

 

まあ想定の範囲内だ。

 

此方は既に地形を味方につけて、相手をあしらっている状態だが。それでもかなりの数の悪魔が投入されている。

 

油断すると死者が出る。

 

「彼処を落とされるともう赤玉は出ないぞ! 欲しかったら敵を追い払うんだ!」

 

「巫山戯るなよ外道共! 此処でどれだけ人間をすり潰したら気が済むんだ!」

 

「生き残るために何やってもいいのが東京だ!」

 

「その理屈はおかしいわ」

 

冷えた声。

 

辺りが、瞬時に冷える。この冷気、僕もぞっとするほどだった。

 

一瞬で大量の悪魔が氷漬けになる。そして、阿修羅会の者達も、足が凍らされて、悲鳴を上げていた。

 

マーメイドが怒っている。内気で穏やかな性格の彼女が、今確実に怒っていた。

 

悪魔達が、我先に逃げ始める。

 

あまり強い悪魔はいない。数で押している状態で、その数ですら負けている状況である。

 

雑魚悪魔が、あんな力を見たら引くに決まっている。

 

悪魔使いの阿修羅会の者達も、悪魔使いだからこそ相手の恐ろしさを即座に理解したのだろう。

 

禿頭の大男が吠え喚く。

 

「逃げるんじゃねえ! 根性みせんかい我ェ! 極道のプライドみせたれぇ!」

 

「で、でも、兄貴……!」

 

「あんなアマ、ぶっこ……」

 

禿頭の大男が、間近に迫る氷の大杭に気付いたのだろう。それで、固まる。わめき散らしていた大男の顔に、あ、死んだと書かれていた。

 

杭がはじけて、辺りに飛び散る。

 

死なない程度に加減して、なおかつ脅かしたのだろう。それでもかなりの手傷を受けて、阿修羅会の者達はパニックになった。

 

後は逃げ散るだけだ。

 

撃ち方やめ。志村さんがそう叫ぶ。

 

僕は見ているだけで良かった。状況が悪いようなら、無理を押して参戦するつもりだったのだが。

 

腰を下ろすと、視線が志村さんとあったので苦笑い。

 

手を出す必要もなかった。

 

「勝ちました」

 

「おおっ!」

 

「必殺の霊的国防兵器をまた倒したぞ! これで二体目だ!」

 

「喜ぶのはまだ早い!」

 

喚声を挙げる人外ハンター達に、ニッカリさんが鋭く叱責。咳払いすると、作戦指示を出す。

 

恐らく気配からして、この地下にはもう必殺の霊的国防兵器やそれに類する力の持ち主はいない。

 

だがその同類が来る可能性はある。

 

一つずつ、やる事を処理していく必要がある。

 

「内部の地図の一部は既に作ってある。 地上部分にA班は侵入して、完全制圧を目指す。 その間にB班は陣地を構築、C班は補給と回復を急げ!」

 

「軍隊らしくなってきたな」

 

「ああ、懐かしい」

 

志村さんが、小沢さんの指示をみて。そうニッカリさんと話している。

 

僕は今の時点でやる事はないかと思ったのだが。

 

程なくバスが来る。

 

そして、バスから降りて来たのは、ドクターヘルだった。

 

アサヒが僕達に悪魔を出して回復魔術を掛けてきている。既にアサヒは下級の女神も従える事が出来ているようで、回復は確実に効いている。

 

ドクターヘルは壮健な様子で瓦礫をひょいひょいと超えて来る。

 

悪魔を素手で殴り倒せる程ではないようだが、それでも見た目の人間離れっぷりと同様に。

 

なかなかの人間離れした動きである。

 

僕が言うことじゃないのかも知れないが。

 

「無線を聞いていたが、A班が地上部分を制圧するのだったな」

 

「はい。 これより自分も支援に向かいますが」

 

「わしがセキュリティを黙らせる」

 

「ありがたい。 恐らく対悪魔のプロテクトがかかっているので、悪魔による制圧は厳しく。 人間によるハッキングが必須だと思っていました。 そうしていただけるのは助かります」

 

ドクターヘルは頷くと、淡々と制圧チームに混じってヒルズに入る。

 

制圧チームには鹿目と野田、それにナナシも加わるようだ。アサヒも加わりたかったようだが、今回は回復に専念するという。

 

確かに僕らの消耗は激しいし。

 

此処の地下で苦しめられている人達の事を考えると、のんびり休んでいる暇はない。

 

また、事前の作戦会議の時に聞かされたのだが。

 

こういった場所の内部では、機械で警備がされているらしい。

 

僕のいた東のミカド国では考えられない話だが、そういう事も出来るくらいの文明だと言う事だ。

 

そして悪魔が大暴れした結果、今は悪魔召喚プログラムの対悪魔防御が施されていて。人間がその警備の親玉を色々して黙らせなければならないらしく。

 

ドクターヘルがそれをするそうだ。

 

僕は座り込んだまま、傷の回復と体力の回復を確認する。スポーツドリンクもいただき、仮設トイレも使わせて貰う。

 

陣地にはおっきい銃も据え付けられている。

 

重機関銃というらしく、生半可な悪魔なんか寄せ付けないそうだ。生半可では無い悪魔が来る可能性も高いのだが、だがそれ以外では充分に対応できる。各地での「自衛隊の駐屯地」から回収してきた装備であるらしく。人外ハンター達を動かして、フジワラが戦力を集めているらしい。

 

医師が来たので、手当てを受ける。

 

回復魔術と医療では得意分野が違うと言う事で、色々確認された。

 

僕は大変に健康であると太鼓判を押して貰った。

 

それは嬉しいような嬉しくないような。まあ、健康である事は分かっていたつもりではあったのだが。

 

「他のサムライ衆の健康診断をしたのだけれども、寄生虫の類がどうしても体内にはいたのだが、君はそれもいない。 衛生観念の観点からはいるのが普通なのだが、免疫云々でどうにかなる問題ではないのだが……」

 

「僕にそんなことを言われても」

 

「いや、とにかく健康だ。 体力を戻してから、作戦行動に戻って欲しい。 次、ワルターだったね。 君を診よう」

 

「うっす。 頼むぜ医者先生」

 

皆が診察をしている間、天使達を三分の一ほど復活させたヨナタンが、偵察を開始している。

 

南光坊天海に全滅状態に追い込まれた天使達だが、既にめげずに復活して、偵察をしてくれているのは。

 

まあなんというか、いつも通りとても献身的だ。

 

ヨナタンが此処で指揮を取っている小沢さんに色々説明をしている。一部の天使は、地上部分の制圧チームに加勢させているようだ。

 

「やはり地下部分には悪魔が守りについているようだね。 君達には悪いが、制圧に加わって貰いたい」

 

「問題ありません。 この地下でまだ苦しんでいる人がいるのだと思うと、今すぐでも行きたい程です」

 

「心強い。 だが、どんな罠があるかも分からないし、下手をすると捕まっている人達も危ない。 少しだけ、堪えてくれ」

 

ヨナタンは頷くと、回復をまた受けながら、天使達を更に復活させる。

 

ドミニオンに転化する天使がまた一体でたらしく、これで四体。それに、雑多な下級天使達を、悪魔合体で増やしているようだ。

 

単騎では弱くても。

 

絶対の忠誠を誓ってくれる相手だ。

 

大天使がこの東京を滅ぼしたのだとしても。

 

ヨナタンとしては、色々思うところがあるのだろう。

 

無言で回復に努める。

 

銀髪の子が来る。

 

体を覆う光はほぼ回復したようだった。横になって眠っていたようだが。それだけ体が若いのかも知れない。

 

秀はまだ正座して目を閉じている。

 

仮眠を取っているというよりは、まだ回復が途上なのだろう。

 

耳打ちされた。

 

「今のうちに平静を保つべく心の準備をしておけ」

 

「……はい」

 

分かっている。

 

地下には凄まじい悪徳の宴の跡があるはず。捕まっている人も、どれだけ助け出せるかわからない。

 

それにだ。

 

ドクターヘルが、だいたい赤玉の正体を分析し終えたらしい。

 

それを地下で、これから確定させるといっているそうだ。

 

今後、同じ事をさせないためにも。

 

その過程で、僕は人間が際限なく恥知らずになったら何をするか、嫌になるほど見せつけられる事になる。

 

銀髪の子は以外と平気そうだ。

 

いや、この子の場合。

 

同じくらい悲惨な光景を、ずっと見てきた雰囲気だ。だから、平静を保てるのだろうが。

 

それでも、何となく分かる。

 

この子もこの先に何があるのかはだいたい分かっていて、今の時点で相当に腹を立てている事が。

 

アサヒが汗を拭いながら、悪魔達を戻す。支給されたスポーツドリンクをごくごく飲んでいる。

 

限界らしい。

 

代わりに別の人外ハンター数人が、回復を出来る悪魔を出してくれる。

 

僕は彼等の好意に甘え。

 

何より焦りを抑えるためにも。

 

しばし正座して、目を閉じて。精神を落ち着かせるべく。昔師匠達。引退サムライ達に教わった精神修養の事を思い出しながら、ひたすら精神を練り上げる。

 

上の方では何度か戦闘が起きているようだが、元々このヒルズは上下ひっくり返ってしまったのだ。

 

ヒルズの本来の入口が此処にあったらしく、地下部分はそこまで広大ではなかったそうなので。

 

確かにそれほど前に見たタワマンだとかと比べると背丈はない。

 

制圧は順調だという無線を聞きながら。

 

僕は回復に努め続ける。








※南光坊天海について

原作のテンカイはともかく。本作では超難敵に仕上げて見ました。

まず戦闘でいわゆるデバフ技を使っています。「オン」がそうですね。これは全体にデカジャ+ランダマイザと思ってくれれば間違いないものです。

バフデバフが非常に重要になった真3以降(それ以前も重要でしたが、真3以降はボスの攻撃をバフデバフなしではほぼしのげなくなった)では、デカジャやデクンダは非常に脅威となる行動となりました。コレに加えて圧倒的な体術(貫通効果つき)、範囲攻撃「喝」(マハザンダインです)を使う攻防共に隙がない相手です。

フリン等が総出で大苦戦を強いられたのも仕方がない実力者ですが、そもそも国防に使えるほどの霊的兵器となると、これくらいの実力は妥当です。

なおこの人、明智光秀と同一人物説があるんですが。本作では採用していません。

仁王2では……なんですが。あちらは別歴史線の世界ですので。





※殿について

まあ今までで確定情報は出ていましたが、南光坊天海と接点がある時点でおわかりかと思います。あの人です。

平将門公と並ぶ東京の守護者と言えば、東京を世界都市にまで成長させたあの人しかいませんので。

正式に名乗るのはもう少し先になります。

ちなみに殿が取り憑いている子は、この子はこの子で殿とは関係がない別の英雄的存在です。

今まで披露した技などから、正体はもうわかっている人もいるかも知れませんね。









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