もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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原作で色々あって離別したり死別したりする四人の仲間。ロウヒーローであるヨナタン。カオスヒーローであるワルター。そしてヒロインであるイザボー。

ヨナタンとワルターは名前がまんまですね(笑)。イザボーは最終的に仲間にならないときの凄惨な死に様が色々と話題になりましたね……

本作ではフリンも含めてこの四人にはある秘密があります。

その秘密は、第一話で登場した銀髪の女の子に憑依している存在と関係しています。





2、サムライになって

最初にサムライ衆の服が支給される。サムライ衆は基本的には、青い服を着ていて、戦闘用に動きやすいようになっている。

 

それも白い服の上から青い服を二重に羽織る仕組みで、服もこれは絹じゃない。素材はよく分からないが、いつも僕が着ていた木綿の服よりよっぽど頑丈だ。ちょっとした刃物くらいなら、武術経験者だったら受け流せるだろう。

 

服を着る前に湯浴みをして、眠っておくように言われる。

 

成人の儀は数日続くのだ。

 

それが終わって、志願者が全て成人の儀を受けてから、細かい研修をするということだった。

 

僕はお風呂に入ってそれで体を綺麗にして。

 

石鹸だの潤沢にあるもので髪も体も隅々まで洗って。

 

それでさっぱりしてから、サムライの制服に袖を通す。

 

ちなみに武器は自由だというのは、以前に引退サムライに聞いていた。

 

引退サムライはガントレットも返してしまうのだが、それでも経験を積んで身に付けた武術まで失うわけではない。

 

何処の村でも獣が出たりして荒事になると、現役のサムライ衆が来るまでに持ち堪えたり、カジュアリティーズを指揮して避難誘導させたりと、仕事は一杯ある。僕みたいなのが押しかけて、武術を教えるのは希らしいけれど。

 

それにしても、僕のにぴったりの丈の服があるのは驚きである。

 

着替えてから、四人で集合する。背がみんな順番に違っているので、これはこれで面白い。

 

一番高いのがワルターで、一番低いのが僕。

 

こうしてみると、イザボーも決して長身ではないのだと分かる。ワルターは普通の男衆よりも頭一つ背が高い。

 

「よくお前用のサムライ服あったな」

 

「隊服と言いましてよ」

 

「隊服か。 とりあえず覚えた」

 

「此処だけの話、サムライになる人間に貴賤はない。 だから育ちが余り良くなくて、背が高くないサムライは珍しく無いんだ。 フリンさんは背が少し低いけれど、今までに例がなかった訳じゃないんだよ」

 

ヨナタンがさん付けで呼んでくれるので、呼び捨てでいいよと答えておく。

 

いずれにしても、中庭に出て、少し動いてみる。それで服は破れる様子もないので、かなり頑丈だ。

 

僕が軽く動くのを見て、ヨナタンとイザボーは度肝を抜かれていたようだが。

 

ワルターは面白そうに口笛を吹いていた。

 

「やるなあお前。 噂以上だ」

 

「軽業師も真っ青ですわね……」

 

「ああ、想像以上だ」

 

そういえばヨナタンとイザボーは知り合いみたいに口を利いているな。

 

軽く演舞をして、その後残心する。

 

とんぼちゃんを振るうとちょっと危ないので、今は無手での演舞をしていたが。

 

遠く、アキュラ王の像がある広場を見ていると、喚声が上がっていた。

 

合格者が出たな。

 

「今年は凄いな。 もう五人目だ」

 

「去年まで衛士がカジュアリティーズが成人の儀を受けに来るのを嫌がらせで遠ざけたりしていたからですわ。 本来だったら合格者は毎年出ていたのに」

 

「噂によると、一部のサムライがラグジュアリーズだけでサムライを独占して、それで派閥を作って国政に関与しようとしていたらしい。 ギャビー様にそれを告発されて、まとめて更迭されたそうだ」

 

「サムライにまでなる奴にも、そんな反吐野郎がいるんだな」

 

ワルターがぼやく。

 

僕もちょっとそういう話を聞くと悲しい。

 

引退サムライは、基本的に出身地に戻るそうだ。僕が見てきた引退サムライは、みんなカジュアリティーズだったのだろうし。

 

それで、僕の気持ちがわかる人ばかりだったのかも知れない。

 

ちなみにギャビーというのは司祭の偉い人らしい。ひょっとして、前に見たあの冷たい目の人だろうか。そう、何となく思った。

 

五人目の合格者が来る。

 

イサカル兄ちゃんかなと思ったのだが、違った。

 

なんだかきざったらしく髪を整えた、ラグジュアリーズの男だ。僕らを見ると、ふんと鼻を鳴らす。

 

鼻持ちならない奴である。

 

「なんだ、猿がサムライ衆になったのか。 それも二匹も」

 

「口を慎みたまえ!」

 

「貴方がサムライ衆になるとはね、ナバール。 ガントレットの選別も、本当に人格など関係無いようだわ」

 

イザボーは此奴を知っているのか。

 

というか、ラグジュアリーズのようだが、どうもそんなに戦えそうには見えない。

 

ナバールと呼ばれた男は、イザボーの強烈な拒絶を受けて露骨に怯む。

 

気も小さいんだな此奴。

 

「き、君がサムライになるのは予想していたよ。 ヨナタンもな。 だが、平民をサムライに選ぶのこそ、ガントレットの選別がおかしいのではないのかな」

 

「お言葉ですけれど、さっき見せてもらったこのフリンの実力、貴方なんて足下にも及びません事よ」

 

「同感だ。 僕の父は剣術の達人だが、それでも勝つのは難しいだろうな。 凄腕だ。 サムライ衆の次世代の長になれるかも知れないほどの逸材だとみて良い」

 

イザボーもヨナタンも滅茶苦茶褒めてくれるので、ちょっとこそばゆい。

 

舌打ちすると、ナバールという男は居づらくなったのか、サムライの隊服を受け取りに行ってしまった。

 

その様子を心配そうに見ている小さい男の子。

 

僕の視線を受けると、首をすくめて、使用人らしいのに連れられて戻って行ってしまった。

 

「知り合いか、お前等」

 

「サムライの名門の出の男でナバールと言う。 一家から高名なサムライを何人も出しているのだがね」

 

「不本意ですけれども、わたくしの婚約者であったこともありましたわ。 幼い頃に性根が分かって、お断りさせていただきましたけれど」

 

「婚約者ねえ」

 

僕もそうだったが、キチジョージ村とかそういうちいさな集落だと、親が結婚相手を決めるのが当たり前で。

 

決まったら余程の事がない限り強制的に結婚だ。

 

僕の場合は鬼っ子なんて余所でいわれていた事もあるし、僕自身が米俵よっつ担いで走り回っている札付きのガキ大将だったこともあるだろう。相手側の親が嫌がっていたようだし。

 

同年代はイサカル兄ちゃん他少しいたけれど。

 

イサカル兄ちゃんは僕とある程度仲が良かったけれど、他の男は僕の事を女どころか、影で猿とか呼んでいた。

 

だから僕としてもお断りだし。

 

いつもお小言いっていた両親だって、僕を猿呼ばわりするような相手の所へ嫁にやるつもりもないようだった。

 

「僕は皆の想像の通りだけど、ワルターは?」

 

「皆の想像通りって……まあわりいが、だいたい想像はできちまうな。 俺は何しろ暴れ者で悪名高かったからな。 お前だけはお断りって感じで、それで婚約者なんて出来なかったよ」

 

「ワルターって漁師だよね。 荒くれが多いって聞くけど」

 

「まあな。 それでも限度があるんだよ。 何度か喧嘩で年上のチンピラをけちょんけちょんに伸してからは、とくに色々な。 ただそれでも、俺の村の引退サムライが面倒を見てくれて、それでサムライになれって言ってくれたのさ。 捻くれて漁師を続けるくらいだったら、サムライになって自分なりの自由を見つけろってな」

 

武術もそれで教わったんだと、自慢そうなワルター。

 

そっか。

 

ワルターにも尊敬できる師匠がいるんだ。

 

それはとても良い事だと思う。

 

ちょっと皆に断って、広場の方を見に行く。

 

ひょいひょいと跳躍して、石壁を登って、それで上に。なに、木登りに比べれば簡単だ。

 

使用人らしい女の子が度肝を抜かれていたが。

 

まあ度肝くらいは抜いても良いだろう。

 

石壁の上からだと、凄い人数が来ているのが分かる。

 

そして、たくさん来ている人もよく見えた。

 

イサカル兄ちゃんは。

 

まだ来ていないか。

 

僕はこれでも目が良いので、一目で大人数の中にいるイサカル兄ちゃんを見分けることも出来る。

 

しばらく見ていたが、合格者も出ないし、イサカル兄ちゃんもいない。

 

それで、この日は終わっていた。

 

 

 

隊舎というらしい。

 

サムライ衆は基本的に宿みたいなのの部屋を貰って、その部屋で一人暮らしする。

 

石造りだから、僕の家と同じだけれど。

 

ただとても広いし、壁なんかはしっかり出来ていて、物音もしない。とても静かな空間だ。

 

僕の家とは偉い違いだ。音なんて外からも入ってくるし外にも漏れる。隙間だらけだった。

 

幼い頃は分からなかったけれど、両親なんかはそんな状態だからまぐわうのは随分苦労していたようだし。

 

何しろどの家も音が漏れるから、家が近いと余所の夫婦のそういう声がどうしても聞こえてげんなりしたっけ。

 

ちなみに部屋に異性を連れ込むのは厳禁で、破った場合は一発で除隊……サムライを首だそうだ。

 

まあ僕としても別に男と同衾したいとも思わないので。

 

サムライを除隊したくもないし。

 

男なんぞ連れ込むつもりはない。

 

最初の任務は研修も兼ねるらしく、それまではまずはサムライとしての生活に慣れろと長に言われた。

 

そうすることにする。

 

まずは規則正しく寝起きする。

 

それだけである。

 

翌朝まであっと言う間だ。僕は農家の出なので、朝一に起きだす。

 

中庭に出ると、ちょうどいい木。昨日のうちに見つけておいたのだ。

 

まずは腕立てからだ。

 

とんぼちゃんを背負って、腕立て開始。

 

ひゅんと音がするほど、加速して腕立てをする。まだ鶏が鳴く前だけれど、もたつくとすぐに時間が立つ。

 

朝ご飯までに、やる事はやっておきたい。

 

100、200、300。

 

そう呟きながら、腕立てを続ける。

 

体が温まってきたので、速度を上げる。

 

サムライが何人か遠巻きに僕を見ているようだが、気にしない。

 

腕立て2500、終わり。

 

次はとんぼちゃんを地面に置くと。ひょいと木の枝に掴まる。良い感じのしなりと太さだ。

 

その後は、懸垂開始。

 

こっちも、木のしなりを利用して、ひゅんと音を立てながら、懸垂を開始。

 

木のしなりが加わるから、腕の筋肉の調整に丁度良い。

 

体の調整の重要さは、引退サムライの誰もが言っていた。

 

姿勢を良くするのにも、体を制御するのにも全て意味がある。それを何度も反芻しながら、ひゅんひゅん音を立てて、懸垂する。

 

木の枝が折れないように気を付けて、それで何度も何度も。

 

やがて、2500が終わったので、地面に着地。

 

ふう、いい汗掻いた。

 

貰っているハンカチを使って、綺麗に汗を拭っておく。とんぼちゃんも、近いうちに綺麗に洗っておこう。

 

鼻歌交じりに、教わっている食堂に行く。

 

どうやら僕の朝の日課を見ていたようで、昨日のナバールとかいう奴が。顎が外れたように僕を見ていた。

 

「お、昨日の。 君も僕と同じ鍛錬やる?」

 

「じょ、冗談だろう! お前は化け物か!」

 

「違うよフリンだよ」

 

「お、恐ろしい! 何者だ。 他のサムライもこんななのか!?」

 

何を今更。

 

サムライを何人も出している「名門」だろうに。サムライ衆の長は僕なんかよりずっと強いと言うと、更に青ざめるナバール。

 

小首を捻る。

 

ともかく、朝食に出る。

 

ナバールは明らかに隅っこで食べている。ワルターが僕の隣に座ってきて。ヨナタンとイザボーも向かいに。

 

わいわいとサムライ衆が食べている。

 

パンが多いが、僕はご飯を頼んだ。ちなみに、ご飯もちゃんと出てくれる。

 

肉は、これは牛か。キチジョージ村では、殆どお祝いの時くらいにしか食べられない。嬉しくてがつがつと頬張る。量も申し分ない。

 

「俺は魚の方が好きだな……」

 

「あらワルター、食事のマナーはしっかりしていてよ」

 

「ありがとよ。 俺の恩師のじいさまに、この辺りは躾けられたんだ。 サムライ衆になってからはこういうのも五月蠅く言われるってな」

 

「それに加えてフリンは、ちょっと教育が必要ですわね。 犬みたいに食べるのはおやめなさい」

 

あ、怒られた。

 

イザボーがいうには、食事も武術同様にしっかり背筋を伸ばして食べろというらしい。

 

分かった。ヨナタンの真似をして見る。

 

そうすると、イザボーが黙り込む。

 

「……ひょっとして、一度見た動作、すぐに真似できますの?」

 

「これくらいの動作だったら難しく無いよ。 ただ、慣れるまでちょっと疲れるかもしれないね」

 

「慣れてくださいまし。 わたくし達は、模範になる存在ですのよ」

 

「そうだね。 キチジョージ村のチビ達の見本にならなきゃいけないし。 両親にも恥はかかせられないし」

 

ちょっと疲れるけれど、食べ方は改めるか。

 

食事を終えた後、成人の儀を見に行く。

 

イサカル兄ちゃんが来ていた。

 

きっと受かる。

 

そう思っていたけれど。

 

ガントレットは、光らないようだった。

 

肩を落として戻っていくイサカル兄ちゃん。僕が様子を見に行くと、この世の終わりみたいな顔をしていた。

 

「イサカル兄……」

 

「笑えよ。 結局駄目だった。 その格好、お前は受かったんだな」

 

「キチジョージ村は僕が守るよ。 それに偉そうなカッコウしてるラグジュアリーズだって殆ど受かってない。 だから気負わないで」

 

「ありがとうな。 だが、今は優しい言葉が胸に刺さるんだ。 また、機会があったらあおうぜ」

 

そういうと、肩を落として去って行くイサカル兄ちゃん。

 

どうしてガントレット様は選ばなかったのだろう。

 

そう思うと、憤りが湧いてくるのだった。

 

誰も彼も、やることを決めて。それ以外の事をするな。それがこの国のあり方だ。

 

自由になれるのはサムライだけ。

 

だから僕はサムライを目指した。

 

イサカル兄ちゃんもそれは同じだったのだろう。

 

いや、まて。

 

イサカル兄ちゃんは、或いは。

 

僕に勝ちたくて、サムライになりたかったのが主体だったのか。それで選ばれなかったのか。

 

でも、それでも。

 

僕も納得出来なかった。

 

その日は、ずっと中庭でとんぼちゃんを素振りした。とにかく雑念を払いたかった。

 

恋愛対象ではないかもしれないけれど、ずっと僕の兄貴分で。ずっと親しかった相手だ。その挫折だ。悲しくないわけがない。

 

素振りの千や二千でマメが出来るほど柔な鍛え方はしていないし。

 

この程度の太刀筋が鈍るほど心だって弱くない。

 

だが、今日はひたすら素振りをして、心を落ち着かせたかった。

 

 

 

結局それから二日で成人の儀は終わり、僕はサムライ衆になった。合格者は結局五人だけ。

 

あれからは合格者は出なかったのだ。

 

ガントレット様は正式に支給されて。以降はサムライ衆を抜けるまでは肌身離さず持つこと。

 

身分証と同じように。

 

そう、厳しく言われた。

 

それから、幾つかの研修を受けた。

 

サムライ衆に求められるのは武芸だ。まずは師範が皆の腕前を見た。僕達四人は一発で通ったが、ナバールが大苦戦していた。

 

見ていると、一応剣術らしいのは出来るようだが、明確に鍛錬が足りていない。いわゆるお座敷剣法と言う奴で、いいのは見栄えだけだ。

 

サムライ衆の師範は引退前の老サムライだが。腹を空かせた熊みたいな気迫の屈強な人物で、ナバールを何度も容赦なく叩きのめしていた。

 

「ひいっ! 私にこんな事をして、私の家が黙っては……」

 

「お前の親を鍛えたのはオレだ。 今日ちょっと文句を言いに行ってくる。 早々に引退したと思ったら、息子をこんな腑抜けに育ておって、許せん! 立て! お前は素振りから鍛え直す!」

 

「のぎゃああああ!」

 

情けない悲鳴を上げるナバール。

 

僕は、ちょっとイザボーに同情した。

 

「あれと結婚させられるかも知れなかったってマジ?」

 

「確かそれ訛りでしたわね。 大マジですわ」

 

「良かったね早めに婚約破棄できて」

 

「うちの家も、相応にサムライを出している「名門」ですのよ。 ただナバールの家は政争目的でサムライになる事を目論んでいるような場所で……ナバールの父親もサムライだったのですけれど、武勲の話は聞きませんわ」

 

そんなのもサムライになるんだったら。

 

それこそイサカルをサムライにしてほしかった。

 

それから座学をやる。

 

ちょっと座学は苦手なのだが、ヨナタンとイザボーが教えてくれる。

 

基本的に本は「バイブル」とかいうのを「司祭様」ってのが読み聞かせてくれるのだけれど。

 

これがとにかく退屈なので、僕としては余り好きじゃなかった。

 

とりあえず文字を書けないけど読めるので、順番に本を読んで、サムライの仕事について学んでいく。

 

サムライの仕事は、民を守る事にある。

 

講師をしている老サムライが、細かく指導してくれる。

 

悪魔と言う言葉も時々出てくる。

 

悪魔はサムライが使役するだけではない。

 

時々、実際に出現するそうだ。

 

東のミカド国では、時々大きな災害が起きる。100年ほど前にも、大火事で一つ村が滅びた事があったらしい。

 

それも実際には伏せられているが、悪魔の仕業だったのだそうだ。

 

「悪魔の力は熊などの比では無い。 手練れのサムライ衆が束になってもかなわない事もある。 だからサムライ衆になる君達は、これから「奈落」で鍛錬をするのだ」

 

「奈落?」

 

「悪魔の巣だ」

 

「……」

 

悪魔の巣。

 

つまり村を一夜で焼き滅ぼすようなとんでもない存在が、わんさかいるということか。

 

しかも話によると、それはあのアキュラ王広場の地下から行く事が出来るという。

 

深い階層構造になっていて、浅層はサムライ衆が駆除を進めているから雑魚しか出ないが。

 

深くに潜ると、どんどんとんでもない悪魔が出てくるのだという。

 

そしてある層では、凄まじい強さの悪魔がいるらしく。

 

生還者はいないそうだ。

 

「その層は、特別なことがない限り立ち入り禁止だ。 サムライ衆は今回の大々的な募集でも新人が五人だけ。 それにガントレットの在庫にも限度がある。 サムライ衆の戦力は、ひらの兵士とは訳が違う。 だがその分精鋭の補充、訓練はとても大変なのだ。 君達も、とにかく命を粗末にしないようにな」

 

講義を終えて戻る。

 

それにしても悪魔。

 

話には聞いていたが、どんな奴らなんだろう。

 

ヨナタンとイザボーは知っているようである。

 

そういえばイザボーはサムライが家族にいるのか。ヨナタンも、この様子だとあるいはそうなのかも知れない。

 

「二人は悪魔を知ってるの?」

 

「実物を見た事はないが、話には聞いている。 子供の様に見えても凄まじい剛力の持ち主であったり、巨体で何もかも挽き潰すような奴もいるのだとか」

 

「空を自在に飛んだりもするようよ。 東のミカド国にも希に現れるらしいのだけれども、どこから出ているかは分からないのだとか」

 

「俺はそんな奴見た事もないけどな」

 

「いずれにしても猪なんかの比じゃ無さそうだね。 僕のとんぼちゃんが通用するといいんだけど」

 

講義についても、ナバールはやる気が無さそうで、講師に睨まれているようだ。

 

座学が得意なのかと思ったが、そうでもなさそうである。

 

どうしてあんなのが。

 

それとも、これから成長するのだろうか。

 

いずれにしても、彼奴の代わりにイサカル兄ちゃんを選んで欲しかった。

 

そう思うと、複雑だ。

 

城の中には、サムライの為の店もある。

 

此処では傷薬をはじめとしたお薬がたくさん売っているが、それだけ戦闘が苛烈だとみて良いだろう。

 

また、酒場もある。

 

とはいっても、酒を飲むのではなく、仕事を受ける場所だ。

 

サムライ衆は重要任務以外は意外と好きなように仕事を受けて良いらしく。ある程度経験を積むと、それぞれが単独や、少人数の気があう組で動くそうだ。

 

ちなみに恋愛は出来るだけするなと言われた。

 

女性のサムライも他にもいるのだが、特に女性は恋愛は止めておけと釘を刺される。

 

まあ、子供が出来たらサムライの任務に支障が出る。身重で動くのは厳しいし。

 

ただ、子供を何人も産みながら、サムライとして現役で戦い続けた者もいるらしい。サムライ衆の長にも、そういう豪傑もいたそうだ。

 

イザボーと僕だけ呼ばれて、そういうときのための講義も受ける。

 

子供は乳母に預けられて、ほぼ自分で育てることは許されないらしい。

 

産休も与えられるが、その代わり給金はその間半額になるとも言われた。

 

サムライ衆になった場合、特に女性は子孫を残すのを諦めた方が良いし。子孫を残す場合も、キャリアに傷がつくと判断しろとも。

 

また、恋愛対象が出来たときは、素直に申告するのは絶対条件。それもかなり厳しいらしく、申告しなかったら重大な減俸。とくに男とまぐわった場合は申告しなかったら即座に除隊だそうだ。恐らく肝心なときにつわりとかで戦力にならなくなるのを警戒してのことなのだろうと僕は冷静に分析する。田舎の村の出だ。つわりで苦労する妊婦なんて幾らでも見ている。男勝りの農作業をしているおばちゃんが、つわりで身動きできなくなるのをみて、子育てって大変だなとも思ったし。

 

産婆の手伝いをして、母子ともに亡くなるのをみて。それで子供を産むのが命がけなのだって知っている。

 

僕は背も伸びなかったし、子供なんて産もうと思ったらなおさら命がけだろう。まあ産むつもりはないけど。

 

イザボーは複雑そうな顔だ。

 

講義が終わった後、聞かれる。

 

「フリンは素敵な殿方と恋に落ちてみたくはありませんの?」

 

「うーん、あんまし興味ない」

 

「そう。 わたくしはどちらかというと大恋愛というのに憧れていましてよ。 でも最低でもわたくしより強い相手が良いですけれども」

 

「そうだねえ」

 

まあ、サムライ衆にはあの長もいるし、強いのがかなりいる筈だ。

 

これはひょっとすると、イザボーはかなり早い段階で誰かしらとくっついて、一緒に任務はできなくなるか。

 

いずれにしても、初期講習は終わる。

 

一月ほど掛かったが、僕達はかなり出来が良いらしい。ワルターもガラは悪いが座学で苦労している様子はなかった。

 

ナバールもあんなだったが、サムライ衆としては実はあの程度は普通らしい。

 

だとすると、サムライ衆は悪魔と戦う事で、加速度的に育つのかも知れない。

 

男子三日会わざれば刮目してみよだったっけ。

 

まあ男子だけとは限らないけれど。

 

あのナバールも、短時間で成長するのかもしれないし、僕も侮るのはほどほどにしておく事にする。

 

そして、応用の講習が始まる。

 

いよいよ、奈落とやらが舞台になるのだ。

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