ドクターヘルが戻ってくる。
疲れている様子もないし、なんなら雑魚悪魔は肉弾戦で制圧したらしかった。本当に肌の色といいこの人は。
とんでもない老齢とはとても思えない。
そのまま、幾つかの事を言われる。
地下には支援チームも同行すること。
これは、捕まっている人々を救援する知識を持つ人間が必要だと言う事があるらしい。また、上の階で調べた情報によると、地下部分はまだテクノロジーが生きている。
このヒルズの地下には元々の病院の設備が運び込まれたらしい。
そんなものがあるのなら、解放していればどれだけの人が助かったか分からないと言うのに。
それを悪用したというわけだ。
マーメイドは阿修羅会を皆殺しにしなかった。
だが、償わせる。
僕はそう思いながら話の続きを聞く。
「セキュリティに関しては完全に黙らせた。 わしの方でロックされている扉などを開放するキーは作った。 後は、地下にいる連中は……以前人質交換で助けた者達のように、完全に頭が真っ白にされているだろうし、高確率で頭に穴を開けられているだろうな。 それを迅速に助ける必要がある」
「人数はどれくらいか分かりますか」
「危険な状態の者は二十人ほどだな」
以前人質交換で、三十人ほどを救助したことは聞いている。それが二回行われたそうだ。
六本木で人間の仕入れだのの依頼が入っているのはみたし。何より阿修羅会が高値で子供を買っているという話も聞いていた。
それらによって売られた人間はいたのだろう。
それも貞操や尊厳やそういうものじゃない。
文字通りいのちを、だ。
僕は出来るだけ平静を保つ。
今でも怒りが爆発しそうだが、殿に言われてそれでも冷静さは保っている。
僕だけではなく、秀も銀髪の子もまだ全開ではないが、地下にいる悪魔はそれほど大した相手ではないそうで。今の状態でも制圧は容易だという。
「どうしてそんなことが分かるんだ爺さん」
「監視カメラと言ってな。 遠隔で様子を見る事が出来る道具があるのよ。 わしがそれで確認した」
「な、なるほどな……」
「相変わらず凄まじいテクノロジーだ」
ヨナタンがぼやく。
ちなみに上の方の階にも数名の阿修羅会が残っていたようだが。
全て制圧して、外に縛ってつれて来ているらしい。悪魔に囲まれて逃げる事も出来ず、殺気だった人外ハンターに囲まれて、震えているのがそれだ。
まあ同情できる要素はミリもないが。
咳払いしたドクターヘルに言われる。
「地下は硝子張りになっていて、出来るだけ素早い制圧作戦が必要になってくる。 血迷った悪魔が人質を取る可能性もあるし、人質に憑依して媒体にする可能性もある。 可能な限り迅速に、地下の制圧をしたい。 疲れていると思うが、頼むぞお前等」
「お任せください、ですわ。 このような悪徳の宴、これ以上続けさせるわけにはいきませんことよ」
「それにしても、悪魔よりよっぽど悪辣なんじゃねえのか」
ぼそりとナナシが言う。
ナナシもこの作戦に加わる。
というか上階の制圧には普通に加わっていたので、監視カメラとやらを経由して、何か見たのかも知れない。
ドクターヘルは言う。
こういうのを見たのは、二回目だと。
ドクターヘルが最初に所属したナチスという組織でも、こういうことを平気でやっていた過去があったらしい。
それだけじゃない。
他の国でも、同じような事はやっていた歴史がどこでもあるというのだ。
悪意という観点では、人間は悪魔なんかよりも遙かに上だとドクターヘルは断言する。
邪神やら魔王やらと会話したらしいが。
まあ、この東京ではなんぼでもできるだろうし。
それで結論したらしい。
悪魔は所詮アマチュアだ。
力は強いかも知れないが、所詮悪意に関しては人間の足下には及ばないと。
この地下では、人間の悪意と、悪魔の力が合わさってしまった。だから、地獄絵図が展開された。
そういうことであるらしかった。
「皆、揃っているな」
「はい」
フジワラからの通信だ。
咳払いすると、フジワラはいう。
既に医療班は待機させており、人質を救出し次第、治療を。できる限りの事を出来るようにしてくれているそうだ。
助からない人もいるかも知れないが、特に子供に関しては助けられる可能性も高い。
出来るだけ助け出して欲しい。
未来を担うのだ子供は。
子供のいない世界に未来は無い。
そう念押しされた。
フジワラがいた時代には、子供がいなくて、未来がなかったのだろうか。そんなことを考えてしまう。
いずれにしても、これから出向く。
地下に残るのは雑魚ばかりとはいえ、迅速な制圧をするには、この面子でもまだたりないくらいだ。
僕はオテギネではなくて、徒手空拳を振るうべきかもしれない。
そう考えて、ずっと身に付けている支給品の小刀に意識をやる。
これも便利なのは便利だが。
戦闘で使えるものではなかった。
ただ、今の身体能力とあわせれば、小型の悪魔を迅速に制圧する事は出来るかもしれない。使う事は意識に入れておくべきだろう。
「セキュリティの解除は済んでいる。 地下のマップも既に転送した。 地下の人質がいる部屋についても、AIがナビをしてくれるはずだ」
「バロウズ、頼める?」
「任せて。 可能な限り効率的に助けられるように、皆をサポートするわ」
「よろしくね。 いつも助かるよ」
顔を上げる。
皆、考えはそれぞれ違うかも知れない。
だが、今やろうとしていることは同じだ。
この悪徳の宴を終わらせる。
そしてそれが終わった時。
東京での阿修羅会の覇権は終わり。後は、奴らがもっとも戦力を集中して守っている……極めて危険らしい何かを残すだけ。
「では、頼む!」
フジワラに頷くと。
僕は声を掛けて、先頭を行く。
ヨナタン、ワルター、イザボー。銀髪の子、秀。それにドクターヘルとナナシ、志村さん、後は数名の人外ハンターがそれに続いていた。
(続)
ついに東京の地獄を作りあげていた施設の一つに殴り込みです。
此処から先は文字通りの地獄。
その地獄を終わらせるために、フリン達は進みます。
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