もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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原作ではこの地獄絵図から誰も救い出せないんですよね……

本作では条件が変わったこともあり、いま生きている者だけでも助け出します。

見殺しにはしません。






大アバドンは眠る
序、腸の地下


ヒルズの地下へ移動する。地上部分の制圧は完了しており、其方へ移動するのは特に問題が無い。

 

激しい戦闘で一階は滅茶苦茶だったが、このビルという建物はそもそも一度ひっくり返されているのだ。

 

それを考えると、滅茶苦茶に一度され。

 

それを再利用した、といえる。

 

彼方此方で灯りが照っているが、それも後から取り付けたらしく、あからさまにテクノロジーが低い。

 

ドクターヘルが鼻を鳴らしていた。

 

「見境なく殺すから技術者もいなくなる。 身内だけ守っても、こういう所で作業を出来る人間がその中にいるとは限らん。 阿修羅会とやらの愚かさは犯罪的よ」

 

「確かに歩きにくくてかなわねえな」

 

「エレベーターとやらも動いていませんわね。 階段をいくしか無さそうですわ」

 

バロウズの指示で移動して行くが、途中で悪魔はほとんど見かけなかった。というか。番兵がいるとは思えない。

 

あの南光坊天海の圧倒的な強さに依存しきっていたのだろう。

 

倒されるとは想定もしていなかった、ということだ。

 

まあ、無理もないか。

 

あの実力、もしも枷がついていなかったら勝てなかった。

 

銀髪の子を一瞥する。

 

もしもこの子がいなくて。殿もいなかったら。此処を攻略するのはずっと後になっていただろう。

 

後付けで無理に作られたらしい階段を下りる。

 

かなりがたついているので、気を付けるように声を掛けながら降りて行く。

 

地下に進むと、嫌な臭いがした。

 

この臭いは分かる。

 

死臭。

 

それも、かなり古いものだ。

 

僕が先頭になって足を踏み入れる。戸を開けると、其処はもう既に地獄だった。

 

ぶちまけられたままの血の跡。内臓らしいものが腐っている。彼方此方に積み上げられているのは人骨で、それを雑多な悪魔が囓っていた。

 

此処に連れ込まれた人は加工されて、そしてその残りをこういう雑魚悪魔が与えられていたのだ。

 

無言でオテギネで消し飛ばす。

 

断末魔もなく消える雑魚悪魔。口を押さえている新米らしい人外ハンター。ヨナタンが祈りの言葉を口にする。

 

此処からは、迅速な制圧が必要になる。

 

辺りは半分硝子になっていて、階の全てを見渡すことが出来る。

 

なんだか寝台みたいなのに寝かされている人がかなりの数いる。ハンドサインを出して、散る。

 

雑魚悪魔ばかりだ。

 

分散して、それぞれで片付ける。

 

どうやら阿修羅会の人間は此処では殆ど作業をしていなかったらしい。

 

放されている悪魔は戦闘向けの悪魔ではないようだが。

 

人間の衣服を身につけ。

 

血まみれの器具を手にして、人の頭を弄っている様な奴が幾らかいた。

 

上での戦闘音は聞こえなかったのか。

 

いや、聞こえなかったんだろう。

 

此処は恐ろしい程静かだ。硝子で区切られている部屋からも、殆ど声は聞こえてきていない。

 

志村さんが無線を入れる。

 

「地下二階制圧。 要救助者確認」

 

「了。 増援を送る。 即座に救出を開始する」

 

「これ……助かるのか」

 

「やってみないと分からん。 最悪の場合は、楽にしてやることも考えないといけないだろうな」

 

ナナシがぼやく。

 

イザボーは視線を背けていた。

 

寝台に乗せられている人の中から、比較的無事そうな女性を助け出す。これは。

 

確か話には聞いていたが、阿修羅会に連れて行かれた女性は、短期間で大量の子供を産まされた形跡があったという。

 

僕もカジュアリティーズの出身だから、子だくさんな人は見た。半分とまでは行かないにしても、子供は結構簡単に死ぬからだ。だからたくさん子供は産むが、それでも限度がある。

 

知っている限りだと十人くらいが限界だった筈。

 

それも一人産むと人間は猛烈に消耗する。これは他の動物もそうだ。子を産んでそれで果ててしまう生物もいると聞くほどだ。

 

この寝台につながれた女性は、ただ栄養だけを注がれて、子供だけをひたすら産まされていたようである。

 

感覚も全て奪われていたようだ。

 

すぐに医療班が来て、一人ずつ運び出していく。僕は阿修羅会には今まで怒りしか覚えていなかったが。

 

これは、もう。それすら生ぬるくなってきた。

 

捕まえた奴を全員この場で首をねじ切ってやりたいくらいだ。

 

「助かりますか」

 

「なんとも。 何人かはどうにかなりそうですが、頭に穴を開けられている人は、意識が戻るかはわかりません」

 

「これが赤玉って奴か」

 

ナナシが見つけて来る。バケツに乱暴に詰め込まれている、禍々しい赤い色の球体。血の臭いが露骨過ぎる。

 

ドクターヘルが何か機械を調べていたが。やはりなと呟いていた。

 

「成分などは分かっていたが、これではっきりした。 この赤玉というのはな、人工的に作りあげた食用の人間だ」

 

「食用の人間だと……!」

 

「悪魔が好むのは人間の感情とマグネタイト。 それに目をつけたやつがいたんだろうよ。 赤玉の成分は人間の脳内物質と血であることは分かっていたが、これらの装置で人間の感情を過剰に発生させ、それで脳内物質を大量に作り出させた。 そしてそれを脳から直に吸い上げ、マグネタイトも混ぜ込んで、球体にしていたというわけよ。 霊的な処置とやらをしているかも知れないが、それはまだ解析しきれておらん。 いずれにしてもそれで一人の人間から大量に悪魔が喜ぶ食用肉を精製していたわけだな」

 

「誰が考えたんだそんなこと。 考えた奴、殺す」

 

僕が完全にブチ切れたのを見て、銀髪の子が袖を掴む。

 

分かっている。

 

殿の言う事は理解している。

 

今、此処で怒るべきじゃない。

 

怒りはタヤマにぶつけるべきだ。それと、この赤玉とか言う代物を喜んでいた悪魔どもにもだ。

 

志村さんが諭してくる。

 

「フリンさん、まだ地下に捕らわれている人がいる。 先に進もう」

 

「うん……」

 

「きついようなら俺が片付けてこようか」

 

「いや、きつくはない。 怒りを抑えるのがちょっと大変なだけ」

 

ワルターが気を遣ってくれる。

 

だが、僕よりも気を遣うべき相手がいる。間違いなく一番衝撃を受けているのはヨナタンだ。

 

イザボーも口を押さえているが、ヨナタンはあまりにもの邪悪に、もう言葉も出ないようだった。

 

人間は、上下関係で相手を判断するとき。

 

下と見なした相手には、なんでも平気でする。

 

反社といったか。阿修羅会の連中は特にその思考で動いている存在で、故に下に見た「社会のお荷物」に対してはどんなことでも平気で出来る。

 

その結実がこれだ。

 

無言で、救出は他の人達に任せて、僕らは更に地下へと降りる。バロウズがナビを敢えて淡々としてくれているのは、気を遣ってくれていたからかも知れない。

 

地下に降りると、頭がたくさん着いている悪魔がいた。

 

堕天使ダンタリオンというらしい。

 

首から下はラグジュアリーズのような服を着ているが、首の所にひだひだがついている妙な服だ。そして頭がたくさん。

 

異形だが、戦闘力はそこまで高そうではない。

 

「おや、侵入者か。 こんな所に何をしに来たのかね」

 

「わかってんだろ。 お前等を皆殺しにして、此処にいる人間を全員助け出す。 それだけだ」

 

「助け出すねえ。 この荒れ果てた東京で、助け出しても養う余裕があるとは思えないが」

 

此奴はバロウズによると知識を司り、他人の心を読むような能力を持っているようだ。僕は頭に来たらしいワルターの袖を引くと前に出る。

 

ダンタリオンは笑おうとして、それで失敗する。

 

そのまま僕は、ダンタリオンを上下に両断していた。

 

悲鳴を上げながら消えていくダンタリオン。他の悪魔も、皆で散って可能な限り迅速に処理。

 

此処は、さっきと違って加工場じゃない。

 

服を着た人が収容されていて、なにやらずっと同じような事をしている。

 

箱に何か映像が映し出されていて。

 

それを子供みたいに喜んで、おじさんが見ている。

 

部屋の中を歩き回っているおばさんは頭に何か装置をつけられていて。表情がめまぐるしく変わっていた。

 

まだ子供の面影を残している男の人は、半裸のままずっと遠くを見ている。

 

なんだ、此処は。

 

ドクターヘルが、また機械を操作して、そして呻いていた。

 

「なるほどな。 此処は加工の前の段階の人間が入れられていたようだ。 此処では主に人間の頭を空っぽにするための処置をしていたらしい」

 

「頭を空っぽに、だって?」

 

「上で見ただろう。 彼処の処置室では、赤玉を増やす事、適当な女に子供を産ませるだけ産ませる作業をしていた。 赤玉を作るには人間の感情が必要だが、感情を引き出すためには何も考えていない人間の方が望ましい、そうだ。 これは論文だな。 ほう……」

 

ドクターヘルが、知らない人の名を呟いた。

 

志村さんが反応する。

 

有名人なのか。

 

志村さんが歯がみしていた。

 

「あの外道、こんな所にまで悪影響を及ぼしていたのか……!」

 

「知っている人ですか?」

 

「大戦の前に、SNS……人々の間で「論客」などと呼ばれていた大学教授だ。 適当な事ばかりほざいていて、それでいてエセ科学の広告塔になっていて。 スパイ活動をしているなどという噂もあった悪辣な輩だったが……こんな最悪の研究を残していたのか」

 

「だが大した論文ではないのう。 はっきり言ってこんなのが教授なのかと失笑する内容よ。 こう言う場で言いたくはないが、もっとやりようなど幾らでもあると思うがな。 阿修羅会とやらと通じていたのか、それとも後から協力したのかしらんが。 いずれにしてももう生きてはいまいし、地獄が存在するこの世界ではそこであっぷあっぷとしておろう」

 

カカカとドクターヘルが笑う。

 

僕は流石に咳払い。

 

銀髪の子は、大丈夫か。いや、これは。下手をすると僕より怒ってるな。代わりに怒ってくれているようで、ちょっとだけ気持ちが楽になった。

 

更に地下へと降りる。

 

巫山戯た真似をしてくれている。

 

絶対に許しておくものか。

 

地下への階段は更に複雑だが、なんだか籠みたいなのがある。それを使って、ちいさなものを運んでいたようだ。

 

ロープを使って、志村さんが行き来をしやすいようにしている。後で工事をしっかりするとして。

 

この辺り滅茶苦茶なままなのは。

 

万が一にも人間が逃げないようにするためもあったのだろう。

 

更に下の階。

 

悪魔がそれなりにいる。

 

大きな目を持った、人型の悪魔だ。それらが、硝子張りの部屋に入れられているたくさんの子供を監視しているようである。

 

下手に逃げ出せばあれのエサと言う訳だ。

 

「一瞬で始末するよ」

 

「あれは日本の妖怪だな。 確か一目連というやつだ。 妖怪というより邪神に近い存在だった筈だが、気を付けろ」

 

「手強いって事だな。 だが、今の俺は負ける気がしない!」

 

「私もだ!」

 

僕も負けてはいない。

 

一斉に襲いかかる。

 

すぐに此方に振り返った数体の一目連だが、流石に相手が悪い。その場で次々と始末していく。

 

本来は手強い悪魔なのだろうが。

 

ずっと地下で見張りについていたこと。それに、此処に乗り込んだ面子の実力もある。その場で即座に解体されていく。

 

オテギネで目を貫いた後は、蹴り飛ばして後続に任せる。

 

後続のハンター達が寄って集ってなぶり殺しにするのは放置して、僕は次々一目連を撃ち抜く。

 

出来るだけ静かに。

 

早く。

 

怒りを込めて、貫け。此処にいる時点で、此奴らは殺されるだけの理由がある。許される存在じゃない。

 

自分に言い聞かせながら、片っ端から始末する。秀と銀髪の子も、最前衛で暴れ回り、敵を一体だって生かして残さなかった。

 

オテギネを振るって、マグネタイトを落とす。

 

まだ呻いている悪魔はいたが、それも全て後続の人外ハンター達が仕留めた。少し遅れてドクターヘルが来る。

 

壮健なことだ。足腰なんか、若者よりしっかりしていそうである。

 

「子供か。 これも悪魔にそのまま提供したり、赤玉を絞り出すのに確保していたのだろうな。 子供は何も与えなければ感情を引っ張り出すための道具になる、と言う訳だろう」

 

「悪いけど、ちょっとそういうのは後で解説してくれるかな。 ぶっちゃけキレそうなんだ僕」

 

「……そうだな。 わしも一歩間違えばこちら側にいた人間だ。 ともかく今は違う。 助け出すぞ。 一つずつ開けるから、中の子供らを確実に安全地帯まで送れ。 まだ悪魔の残党がいるかもしれん。 途中の通路などは特に警戒せえよ」

 

人外ハンター達にドクターヘルが釘を刺す。

 

頷くと、戦力で劣る人外ハンター達が、子供を少しずつ連れていった。

 

子供はリネンというのだっけ。特徴のない服を皆着せられていて、それで栄養も足りておらず。死なないようにされているのだけが一目で分かった。暴力を受けた後も目だっていて、それどころかもう泣くことさえしない様子だ。これは、泣いても無駄だと悟ってしまっているということだ。

 

目の前で他の子供が殺されたり。

 

これから加工されるとにやついた阿修羅会の連中に言われたり。

 

そんな事があったのだろう。

 

それが容易に想像できてしまうから、僕は正直、殿に事前に言われていなければ。とても平静は保てなかっただろう。

 

周囲を警戒する。

 

先にヨナタンは、子供達を連れていくハンター達の護衛に出る。回復したばかりの天使達も全て出して、途中経路の護衛に当てているようだ。

 

子供は逆らう事もしない。

 

逆らうと即座に殴られたからだろう。

 

もうそういう事を出来る状態にないのだ。心身ともに。

 

流石に力を貴ぶ思想寄りのワルターも、これを見ては平静ではいられないようである。イライラが見る間に溜まっていっているのが分かる。

 

阿修羅会を滅ぼすべき。

 

そう殿が言っていたのは、正解だったのだ。

 

志村さんが来て、経過を報告してくれる。

 

「バスによってシェルターとの往復を始めています。 途中での護衛のために、秀さんに来ていただきたく」

 

「分かった。 此処は任せても問題ないか」

 

「ええ、救出した皆の護衛をお願いします」

 

「ああ、命に替えても」

 

秀さんもこれは相当に頭に来ているらしい。

 

話を聞く限り、戦国の世をも生きてきているらしいが。その基準を持ってしても論外の所業と言う訳だ。

 

何よりこれは悪魔が考えた事でも、そそのかしたことでもない。

 

人間が考えてやったことだ。

 

それを思うと、よりやりきれなくなる。

 

銀髪の子はじっと周囲を警戒してくれている。

 

あの子が喋らないのは。

 

こういう東京で起きている事を知っていたからではないのだろうか。そうとさえ、僕には思えた。

 

ドクターヘルが彼方此方から情報を回収している。

 

更に、奧には赤玉が幾つか散らばっていた。

 

此処の護衛悪魔のエサだったのかも知れない。コレ一つを取りだすだけでも、どれだけ人間を悲惨な目にあわせたのか、考えられないほどだ。

 

「ぶっ潰してもいいか?」

 

「ああ、かまわん。 仕組みは理解できた。 こんなものは焼いてしまえ」

 

「そうさせてもらうぜ」

 

ワルターが呼び出したのは、あまり格は高くは無いが、全身が燃え上がっている女神だった。

 

女神サティーというらしい。

 

その女神が、炎の魔術で赤玉を焼却する。

 

肉が焼ける臭い。この臭いは、キチジョージ村が焼かれたときに嗅いだものと同じだった。

 

子供達を順次連れ出して、最後の一人まで助け出す。

 

更に地下なども調べるが、後は此処を動かしていた機械の設備などが置かれているだけだった。

 

逃げ込んでいる子供とかがいるかも知れない。

 

志村さんに一寸法師を出して貰い。

 

僕達も手分けして、隅々まで探す。

 

途中僅かな数の悪魔がいたが、出会い頭に皆叩き潰した。それくらいは許される筈だった。

 

「駄目だ、こっちに生存者は見当たらない」

 

「フリン……」

 

イザボーが目を伏せて、首を振る。

 

イザボーの方に行くと、体を食い荒らされて、原型も残っていない子供の残骸があった。既にかなり痛んでいる。

 

逃げ出して、地下に潜ったはいいが。

 

それで悪魔に食われてしまったのだろう。

 

死体からは悪魔がマグネタイトを利用してわき出たと。

 

或いは、その逃げる様子を阿修羅会が見て、どれだけ生き残れるかの賭けでもしていたかも知れない。

 

すぐにヨナタンを呼んで、光の魔術で浄化して貰う。

 

腐った肉についても、その場でサティーの炎で荼毘に付して貰った。

 

皆で黙祷する。

 

残りの生存者がいない事を一時間ほど掛けて確認した後、ヒルズを出た。ヒルズをぶっ壊してやりたいと思ったが、ドクターヘルが咳払いする。

 

「此処には医療器具がかなりあった。 運び出して再利用する」

 

「あんた、心ってものがないのか!」

 

「医療器具ってものはな、使い方次第だ。 医療器具そのものには罪はないし、きちんとした医師が使えば今度は人を救う事ができる。 それに医療器具はテクノロジーの塊でな。 壊した後、新しく作り出すのはどれだけこの世界で手間が掛かるかわからんのだがな」

 

殴りかかろうとしたワルターを、僕が止める。

 

僕もはっきりいって今のはブチッと行きそうになったが、それでも確かに利がある言葉だと判断した。

 

「悪用だけはしないでよ。 した時は、僕が許さない」

 

「ふっ、今の時点でそんな事をする理由がない。 後はお前さん達がいなくても大丈夫だろう。 阿修羅会にはもはや此処を奪還する戦力すらない。 野良の悪魔にも、此処を抑える意味がない。 戻って休め。 後始末はわしがしておく」

 

大きな溜息が出た。

 

本当に、本当に疲れた。

 

最大限まで墜ち果てた人間が何をするか、僕は目の前で見た。

 

この光景を前にして。人間の本質は善だとか、生き残るためには何をしてもいいだとか。そんな事を口にする奴を許せはしない。

 

周囲に人がいなくなってから、殿が言う。

 

「お前達、先に上がれ。 後はわしがドクターヘルを見張っておく。 あれも油断すると簡単に悪に転ぶ手合いぞ。 そうはさせぬから、安心して戻って休め」

 

「ありがとうございます。 殿がいなかったら、感情にまかせてどう暴れていたか……」

 

「気にするでない。 わしだって心はある。 多くの哀しみと怒りを乗り越えて此処にいる。 ただ、それだけの違いだ」

 

礼をすると、ターミナルに戻る。

 

東のミカド国に戻ると、後は無言で隊舎に行って、それで無心に眠った。今はただ、そうすることでしか怒りを抑えられなかったし。哀しみをぬぐえなかった。

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