阿修羅会は南光坊天海だけではなく、赤玉の精製設備まで失いました。
これで阿修羅会は東京の支配者から一気に後退することに。
そしてこの機に人外ハンターとサムライ衆は更に追撃に入る事になります。
目的は必殺の霊的国防兵器の味方化。
それには裏技を使う必要が生じてきます。その裏技を使うためには、封じられた日本神話の大神の助けが必要なのです。
フジワラは救助した人々の医療、それに回収した物資の仕分けなどを行いながら、報告書に目を通す。
ドクターヘルが書いた報告書はあまりにも事実を精確に主観なく書いていて、その冷静さには背筋が寒くなる思いだ。
本当に、機会があったら世界征服をしていた人で。
こんな世界ではする意味がないからしていない。
それが報告書を見ているだけで分かった。
あのヒルズで殺された人間は、軽く数千に達することもはっきりした。それもただ殺されただけではなく、悪魔のエサに加工されたのだ。
それに、「上客」用に、生きたままクラブミルトンへと「出荷」された人間がいた記録も残っていた。
人肉料理を「上客」に出していたという噂は本当だったわけだ。
それも悪魔が好むのはただの人肉では無くて、人間の恐れや恐怖だ。
だから、生きたまま料理したのだろう。
阿修羅会の連中がそれを笑いながらやっていたのは容易に想像ができる。
それでも。
武装解除し、タヤマを討ち取った後は戦力として使え。
殿は釘を刺してきた。
分かっている。
ただし、あくまで悪魔との戦いの最前線で、使い捨ての駒としてだ。
それは、フジワラも譲れなかった。
酒はだいたい霊夢が飲んでしまう。
それに、生産がやっと始まったとはいえ、人外ハンターや、他の人に振る舞う分もある。
あまり量がない内は、争いを引き起こさないために配給制にせざるをえない。
霊夢のような凄まじい活躍をしている人間に酒が出ていても、それはそれで不満に思う者が出るほどなのだ。
まだ酒はしばらく、フジワラの所にもほとんどこない。
それでも酒を飲みたいなと思う。
ツギハギに連絡を入れる。
しばらく愚痴を聞いて貰う。
寡黙なツギハギは、ネゴを担当していたフジワラの愚痴を、アキラと組んでいた頃から良く聞いていた。
そういう役割だった。
愚痴を聞いて貰った後は、とりあえず休む。
しばし休んで、それで頭をすっきりさせる。
あれは、誰の心にも傷を残す。
そして、心を切り替えた後は。
阿修羅会に、とどめの攻撃を入れる準備を始めなければならなかった。
一休憩を入れた後、皆を招集する。
霊夢は今回は留守居で、日本神話系の神々の居場所の調査。捕獲した大天使三体の調整を同時にやってくれていたようだ。
それは戦闘と同じかそれ以上くらいに疲弊していただろう。
ともかく、今回の成果を確認。
これからの具体的行動について、話し合う。
サムライ衆も既に戻って来てくれている。
現時点では四天王のいる寺。日本神話系の神々の探索と封印解除。それにヒルズを失い、赤玉の供給を絶たれた阿修羅会への追撃。
ないとは思うが、此処で攻勢に出てくる可能性があるガイア教団への対処。
幾つか、懸念の材料が存在していた。
「以上が大まかな報告になります。 それで次、ですが」
「霊夢よ、日本神話系の神々はどうなっている」
「大綿津見神はそろそろ居場所を特定出来そうよ。 素戔嗚尊と天照大神がかなり苦戦しているけれど、朗報が一つ。 八咫烏が守っていたのは、三種の神器の一つ勾玉。 しかも、大綿津見神が鏡を持っている可能性が高いわ」
「勾玉? 鏡?」
まあ、知らないのも仕方がない。
知らない人向けに、フリンが敢えて質問してくれたのだろう。
だから、フジワラから解説する。
日本神話におけるもっとも重要な神の道具。それが三種の神器だ。
この言葉は後々にも有名で、経済成長の中で家庭に欲しい家電がそう呼ばれた時代もあったらしい。
勿論現実と神話は別だが。
それはそれとして、天皇家に伝わった文字通りの秘宝だった。
ただ、本当にもとのものではなく、祭儀などで持ち出されるのは基本的に複製品だったらしいが。
それでも、神話の時代のものだということで。
21世紀になってから一度行われた天皇の退位から上皇への即位についての儀式では、持ち出された三種の神器の一つ草薙の剣を見て、海外の報道陣が湧いたという話がある。神話の時代の伝説的な神器なんて、そうそう世界でも残されていないのだ。
「八咫鏡、草薙剣、八尺瓊勾玉。 正式にはそういう名前だね。 このうち勾玉は既に確保出来たと言う事だ。 続いて鏡を確保できれば大きい」
「ふむ。 少し聞いているが、もしもそれら三種の神器を揃える事ができれば……」
「ええ、恐らく天照大神を復活させる事が可能よ。 話を聞く限り、天照大神は千々に砕かれたようで、それが日本神話系の神々が外来種に遅れを取った原因であったようね。 天照大神は何度か転生してこの国で外来種相手に戦いを続けていたらしいけれど、その最後の転生体が倒されてから、しばらくは復活も出来ていなかったそうだわ」
「皆、聞いてほしい。 ここからが重要だ」
フジワラは。此処で話すべきだと判断した。
現時点で、二体の必殺の霊的国防兵器を沈黙させた。これはとても大きな戦果だが、問題は此処からである。
まだ三体の必殺の霊的国防兵器が市ヶ谷にいて、そしてタヤマが即座に使えないとは言え、一体を従えている。
一体については、霊夢が恐らく無力化出来る可能性が高いという事だが。
それでも一体だけだ。
三体はどうにかしなければならない。
タヤマは既に部下達とタワマンを引き払って、市ヶ谷に移ったとニッカリが告げてきた。つまり籠城に入ったという事だ。
憶病なタヤマである。
赤玉を失った以上、最早信頼出来る戦力に囲まれていないと生きた心地がしないのだろう。
「必殺の霊的国防兵器を調べて見たが、悪魔合体で作り出す事そのものは可能だ。 しかし、扱える力ではない」
「そうでしょうね。 戦った感じ、とてもではありませんがまだ手におえる相手ではないと感じました」
「その通りだ。 だが、手におえるようにする裏道がある」
「!」
霊夢が頷く。
現時点で一番個人として力が高いのがマーメイド。その次が霊夢であるらしい。ただ、霊夢でも、秀や銀髪の娘と比べて図抜けている訳でもないし。悪魔召喚プログラムを用いて必殺の霊的国防兵器を呼び出し使役するのは無理だそうだ。
しかし、此処に抜け道がある。
「大綿津見神は海すべてを従えている日本神話での最高位の海神で、これを神降ろしすれば一時的に実力が足りるわ。 一時的に力が足りれば、合体で呼び出せるし、何より呼び出せれば以降はそれで手を貸してくれるとみて良いでしょうね。 それだけじゃない。 大綿津見神は素戔嗚尊とも関係が深い。 封印を解除すれば居場所がわかる可能性が高い」
「そういうことだ。 市ヶ谷は今面倒なものがあって、精神の均衡を崩しているタヤマをあそこにやっておくのはあまり気が進まないが、それでも優先順位としては此方にしてほしい。 必殺の霊的国防兵器のうち、相手は残り四体。 その内一体はタヤマが直衛にしている筈で、出てくるのは三体。 その内一体を無力化出来るなら、互角の状態に持ち込める。 そうですな、殿」
「ああ。 大綿津見神の封印解除を最優先とする。 それで霊夢よ、どこだ封印されているのは」
「秋葉原ね」
秋葉原か。
確かサムライ衆によると、スマホがたくさんあるからとかいう理由で、阿修羅会が消し飛ばしたという廃墟の筈だ。
或いはだが。
悪魔達にでもそそのかされて、大綿津見神を完全に葬るつもりでそれをやったのかも知れない。
ただ、問題があるとフジワラは言う。
「日本神話系の神々が復権する事は、この地での覇権にこだわる悪魔には好ましくない事だ。 実際神田明神にはアリオクが貼り付いていたし、その後もケルヌンノスは死者の軍勢で神田明神を襲撃する事を考えていたと判断して良いだろう。 まず間違いなく仕掛けて来る存在がいる」
「それに……この中に裏切り者はいないとみて良いが。 情報が漏れている。 既に先回りして、秋葉原に悪魔が展開していると考えて良いだろうな」
殿の指摘に、皆が黙り込む。
そう。情報の漏洩。
周知の事実だった。だが、殿はそれを裏切り者のせいではないと言った。だから、それが皆の心を和らげる。
だから、フジワラは。
安心して咳払いしていた。皆を後押しするために。
「サムライ衆の皆、それに霊夢さん、後マーメイド。 皆で出てほしい。 此処は私と殿が、神田明神は秀さんに守って貰う。 マーメイド、相手は海の大神だ。 相性がいい貴方が、もしも荒神化した場合は力を抑え込んで欲しい」
「分かったわ」
「よし、作戦行動開始!」
全員立ち上がる。
さて、此処からまた動く事になる。
タヤマは市ヶ谷に逃げ込んで、それでいきなり例のもの……無限炉に触る事はないだろう。
あれを抑えている事がタヤマの最大のアドバンテージだったのだ。
しかもあれは核兵器と同じで、使えば終わる。それも、知識がない人間が使えば、なおさらである。
ドクターヘルを一瞥する。
状況からして、この人があの忌まわしい炉の作成に噛んでいたのはほぼ確定とみて良いだろう。
だが、それを聞くのは後だ。
今は、まず。
必殺の霊的国防兵器二柱を復活させ。
その力を得て、籠城にかかった阿修羅会を、叩き潰す事を考えなければならなかった。
バロウズのナビで急ぐ。上野のターミナルに出て、其処から移動。今回は僕達と霊夢、それにマーメイドだけの精鋭での急行だ。
ナナシとアサヒは神田明神に出向いて防御の担当だそうである。彼方には秀もいるし、滅多な相手に遅れを取る事はないと思うが、それでも作戦は出来るだけ迅速に、被害を減らさなければならないだろう。
霊夢が浮いて移動しながら言う。
「あんた達には言っておこうかしらね。 大綿津見神の封印を解除して神降ろしして、それで一時的に作れるようになるのは必殺の霊的国防兵器だけではないわ」
「他に何か頼りになる存在を呼び出せるのか」
「いや、そうではないのだけれどね。 ……閉じ込めておいた連中を、どうにか出来る可能性が上がったと言っておきましょうか」
「!」
なるほど、それは大きい。
大天使はそのままの形では戻さないと、霊夢は言っていた。
ミカエル、ウリエル、ラファエルの大天使達は、あれは元々は他の神話の神々だったり、或いはその麾下にいた存在だったり、そもそもの形から一神教の信仰の中で姿が変わっているのだそうだ。
そして本来だったらどうにもならないが。
もしも日本神話系の大物神格が更に力を取り戻した場合、力は相対的に低下することになる。
長年日本神話の神々が占拠してきたこの土地では。
どうしても影響力という点では、分が悪いからである。
「大天使を大天使ではない存在に出来るのか」
「いや、天使信仰というのはそもそも一神教が存在する前からあったものよ。 一神教の前の天使にしてしまう、というべきかしら」
「つまりそれは……」
「四文字の神と言われる一神教の影響力下から外す、ってことだね」
霊夢はこくりと頷く。
とにかく走って急ぐ。マーメイドも土の中を泳いでついてきている。瓦礫をひょいと飛び越えると、悪魔が目を丸くしてその様子を見ていた。今は雑魚にかまっている場合じゃない。
見えてきた。
徹底的に破壊され尽くしていて酷い有様だ。それどころか、完全に砂漠化してしまっている。
米軍の気化爆弾というのでやったらしいのだが。それにしてもこれは。
前方に人影。サムライ衆である。ナバールがいる班のようだ。あわてて声を掛ける。
「今から戦場になります! すぐに退避を!」
「フリン! 戦いだと! それなら私も一緒に戦うぞ!」
「そうだ。 我等もサムライ衆! 悪魔を恐れはしない!」
「いや、今回のは正直最精鋭を集めて来て、それでも死者が出る可能性が高い相手なんだ。 他の戦場で命を使って欲しい。 頼めないかなナバール」
ナバールに懇願。
ナバールはそれを聞いて、しばし考え込んで。挙手していた。
「分隊長、此処は引きましょう」
「臆したというわけではなさそうだな」
「私もある程度冷静な分析は出来るようになって来ました。 最近大きな作戦行動が続いているようです。 そういった作戦行動に、適切な戦力の部隊が参加するべきでしょう」
「話が早くて助かるよ。 分隊長殿、お願いします。 神田明神にも攻撃があるかも知れません。 其方に支援に行っていただけますか」
よしと、分隊長は頷いてくれる。
居残り組みのサムライ衆は、明らかに僕を最近怖れている。
あれは鬼の子だ。
そういう話が伝わっているらしく、東京での暴れぶりも誇張して拡がっているらしい。
或いはギャビー。いやガブリエルの仕業なのかも知れないとも考えた。東のミカド国に居づらくして、精神的な圧力を掛けるようなやり方ではないかと。
だが、奴にそんな小技を使う意味はない。
面倒と判断したら、東のミカド国に控えている大天使達総出で襲ってくればいいのだから。
此処でも人の愚かさを見せられる反面。
ホープ隊長が選抜した班の隊長達は、比較的話が分かる。僕としてもとてもやりやすくて助かる。
ナバール達が行く。
砂漠の中で、霊夢が何やら詠唱して。それでその全身が光を放ちはじめる。砂漠になってしまっている秋葉原に、その光が伝わっていく。マーメイドが浮かんで来た。
「皆、気を付けて! 来るよ!」
「早速か……!」
「霊夢、どう、封印の場所は」
「見つけた。 どうやら全力でやり合えそうね。 封印をしたのは大天使でしょうけれど、守っているのは利害が一致している堕天使という構図は神田明神と同じ、と」
砂漠を噴き上げて、巨大な姿が現れる。
凄まじいプレッシャーがびりびり来る。ナバールを逃がしておいて正解だった。巻き込まれたら、ひとたまりもない。
南光坊天海とやりあって更に一皮向けたから分かる。この面子の全力でも、勝てるかかなり怪しい相手だ。巨大なそれは、うなりながら翼を拡げて、青紫の筋肉の塊のような体を誇示していた。
「此処に封じられた異神を取り戻しに来たか! だがそうはさせん!」
「あんたは?」
霊夢が僕達の事も含めて名乗る。そうすると、堕天使はからからと笑いながら、その素性を明かした。
魔王ベルフェゴール。案の場バアル系統の堕天使。
七つの大罪とされる悪魔のわりに、これも元バアルと言う事以外はよく分かっておらず、しかも怠惰の象徴だったり性欲の象徴だったり。
神学は言った者勝ちの世界。
それを示すかのような存在だそうだ。
ちなみに今いるベルフェゴールは、便座に座ったお爺さんの悪魔だが、それでもプレッシャーは凄まじい。
「此処はトイレを使い放題なのでな。 なにしろ地下に海神がおる。 ……おや、そこにいるのはマーメイドではないか。 わしに仕えぬか? トイレを毎回流してくれれば、人間共を供物に……」
「貴方自身を海に流してあげるわ……」
マーメイドの声が冷え切っていたので、ちょっと驚く。
南光坊天海との戦いの後、好き放題をほざく阿修羅会に対して放った声より冷え切っていて。イザボーがぎょっとしていた。
からからと笑うベルフェゴール。
「おや嫌われてしまったか。 まあいい。 いずれにしても此処の海神を復活させると色々とまずいのでな。 排除させて貰うぞ!」
「やれるもんならやってみろ!」
真っ先に突貫するのはワルターだ。
天使の軍勢も展開するが、それを見て、ふっと息を吐きかけるように術を発動するベルフェゴール。
まずい。
離れて。
僕が叫ぶと同時に、辺りが凄まじい闇に包まれていた。
ぐっと、思わず呻く。
これは呪いの力。それもとんでもない出力だ。即応して出現させたラハムが呪いの力をある程度吸収して逸らしてくれる。
それでも、一瞬で天使の軍勢の半数ほどが消滅していた。
「忌まわしい天使もこれには無力でな。 これでもわしは七つの大罪の一角! 年寄りとはいえ、簡単に斃せるとおもうてくれるなよ!」
「どうやらそのようだ!」
恐らくこれは、アナーヒターはフィニッシャーとして使うしか無い。代わりにムスペルを召喚。
今のにどうにか耐え抜いたワルターも、ダークサイド系統の悪魔を呼び出し始める。だが、鼻で笑ったベルフェゴールは、呪いを周囲にばらまきつつ、更に雷撃や冷気、火焔の魔術も高火力で連発して来る。殆ど詠唱もしていない。
これが七つの大罪の本来の力か。
必死にどうにか少しずつ進むが、火力が高すぎる。
霊夢が距離を取って何かをしているのを見て、目を細めたベルフェゴールが仕掛けようとするが。其処にマーメイドが地面から躍り上がる。
とにかく連発する魔術が凄まじくて近寄れない。
マーメイドが喉をおさえるのを見て、僕は叫ぶ。
「まずい、離れて耳を塞いで!」
「くそっ! 分かった!」
「我等は突貫する! 我が身が一時焼かれようと、少しでも隙を作るのだ!」
ドミニオン等生き残った天使達が、ベルフェゴールに殺到する。ベルフェゴールに一部は到達して、それでも至近で呪いに溶かされてしまう。だが、ベルフェゴールが放った凄まじい雷撃魔術は、ドミニオンに直撃。
ドミニオンを消し飛ばしたが、マーメイドには届かなかった。
マーメイドが叫ぶ。
ごっと、氷の嵐が巻き起こる。いやこれは、もはや竜巻か。ベルフェゴールが悲鳴を上げて、全身が凍り付く。
マーメイドが再び砂漠にどぼんと飛び込む。
氷を砕いて姿を見せるベルフェゴールだが、その時には僕が背後に。ワルターが至近に迫っていた。
ワルターの大剣が振り下ろされる。
ベルフェゴールは巨体を振るって、角でワルターの大剣を受け止める。火花が散るが、流石は七つの大罪の一角。
だが、その背中から、同時に僕が突きを叩き込み。
それが完全にベルフェゴールの背中から、胸に抜けていた。
「ぐ、ううっ!?」
「もう一発、大きいの行きますわよ!」
「そうはさせるかい!」
ベルフェゴールが放ったのは、今度は烈風の大魔術か。砂漠を消し飛ばす勢いで吹き荒れたそれが、僕もワルターも、大魔術発動に入っていたイザボーまで吹き飛ばす。
吹っ飛ばされながらも、僕はオテギネを放さず、何度か地面に叩き付けられながらも跳ね起きる。
砂漠で良かった。ダメージが小さく済む。
だが、砂の下に大量の人骨があるのを見て、流石に怒りが噴き上がる。
また、凄まじい呪いの陣を展開しに来るベルフェゴール。
あれを発動させると、こっちにはもう手がない。連発される魔術で、ラハムもムスペルも近づけずにいる。呪いに強い悪魔も、他の魔術にはそうでもないのだ。
「頑張ったが此処までじゃな! これで……」
「終わりよ」
霊夢がそう呟くと、ごっと風が吹き付けてくる。
これは。
顔を覆ったベルフェゴールが、一瞬の隙を作る。見逃さない。僕は踏み込むと同時に、オテギネを投擲。
それが、ベルフェゴールの後頭部を刺し貫いていた。
更に、刺し貫いた瞬間に、真下から恐らくマーメイドの放った氷の柱が、ベルフェゴールを凍結させる。
もがくベルフェゴールに、温存していたアナーヒターが、聖なる浄化の水を叩き込み。それが致命打になった。
全身がひび割れ、粉砕されるベルフェゴール。
地面に突き刺さるオテギネ。
呼吸を整えながら、ベルフェゴールの方に近付く。マグネタイトと化しながらも、七つの大罪の一角は言う。
「まいったのう。 ここの海神を復活させてしまうと、かなり我等が不利になってしまのだが……」
「こっちだって負ける訳にはいかないんだよ」
「それもそうか。 此処は素直に引き下がろう。 なかなかの強者だったぞ皆。 死んでしまったら、わしのところに来るといい。 わしの主に紹介して、近衛に推薦してやるからの」
「それはどうも……」
辛そうなヨナタンとイザボーを見ると、そう言われて素直に喜べない。
それにしても。浮かんで来たマーメイドの側の地面に刺さっているオテギネを拾いながら、僕は思う。
ベルゼバブやベルフェゴールはマーメイドを知らなかったようだが、マーメイドは知っていたようだ。ベルフェゴールに対しては嫌悪さえ示していた。
だとすると、マーメイドは。
いや、いずれ必要なら本人が話してくれるだろう。彼女は儚げではあるが、弱い存在ではないのだから。
マーメイドのこのベルフェゴールへの反応、見た事がある人もいるのではないでしょうか。
もうそろそろ正体が割れてきているかと思いますが。もう少し先でそれは分かりますので、お楽しみに。
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