ついに手札が揃いました。市ヶ谷への攻撃が開始されます。
メガテンシリーズでももっとも悪辣な東京の支配者。恐らくTOKYOミレニアムを支配していたメシア教徒よりも更に悪辣と言えるだろう阿修羅会を、不相応な地位から叩き落とす時が来ました。
決戦開始です。
炉というものは、基本的に「回転させる」事によって電気を生じさせる仕組みなのだとドクターヘルはいう。
これは大なり小なりそうだとか。
そして回転させるには、水蒸気が最適なのだとか。
水蒸気は水の状態に比べて千倍以上の体積を持つ。僅かな水を水蒸気に変換するだけで、膨大な体積による出力をたたき出す事が出来る。
勿論水以外でも回転の仕組みは作れるが。
近代の「炉」というものは、基本的に水蒸気のものが主流。
そういう話なのだそうだ。
「水ってそんな凄いものなんだな」
「実はこのことはお前さん達の歴史で言うと3500年前くらいのローマではとっくに分かっていたことでな。 これを動力に変える仕組みも作られていた。 だが千倍以上の体積になるということは、制御を間違えれば大爆発を起こす事も意味する。 大事故が実際に起き、それで研究は凍結された。 この蒸気機関が実用化されたのは。お前さん達の歴史から見ると1800年ほど前でな。 以降、やり方は違うが、如何にして蒸気を作り出して回すかが、炉の主軸となった」
そうして様々な炉が作られた。
シェルターの地下にある核融合炉はそのなかでももっとも最新のもので、ドクターヘルも開発に協力したものなのだという。
そして、それよりも更に時代を先取りし。
完成しようがないのに完成してしまったそれこそが、縮退炉だそうである。
「それで、その縮退炉ってのは、何を燃やしてるんだよ。 要は熱を出せば良いんだろ」
「理解が早くて助かるなワルター。 残念ながら縮退炉では燃やして等おらん。 ものというのはな、それぞれが引きつけ合う力を持っている。 それが極限まで行くと、ブラックホールというものになる。 ブラックホールが一度出来てしまえば、後は雪だるま式に膨らむ……といいたいところだがな。 実際には大半のブラックホールは、ホーキング輻射というもので、一瞬で熱に代わって蒸発してしまう。 縮退炉ってものはな、超小型のブラックホールを作り出して、それを片っ端から蒸発させているものなのだ。 ブラックホールを作り出す力よりも、それが蒸発する熱の方が遙かに強烈でな。 それで圧倒的な効率を持つ炉になるわけよ」
カカカとドクターヘルが楽しそうに笑う。
まあ、幾つも分からない事はあったが。それでも何となく分かったのは。それがとんでもなく危険な代物で。
人類のためになるではあろうが。
間違っても大天使や、タヤマのようなアホに渡してはいけないものだということだ。
「そのブラックホールってのは危険なんだよね」
「当たり前だ。 下手をすればこの星ごとなくなるだろうな」
「星ごと……!」
「星だけで済めば幸運かもな。 最大限まで拡大したら、太陽も何もかも飲み込み尽くすだろうよ」
なるほど、大アバドンと言う訳だ。
ぞっとした様子のイザボー。
咳払いすると、ヨナタンが聞く。
「それでドクターヘル、貴方がそれを作ったのですか?」
「いんや。 そもそもわしは顧問として呼ばれただけよ。 この国では光子力研究所というのを大戦前に作っていてな、お前達は名前も知らないだろうが、富士山という山の麓にて発見されたジャパニウムという新しい力を研究しようとしていた。 だがそれを研究する前に光子力研究所は天使共に破壊されてしまってな。 ジャパニウムで何ができるのかすら分からない状態で、計画は頓挫した。 だが、その研究過程で一つだけ仮説が出た。 それが縮退炉の案だった」
ドクターヘルは光子力研究所の破滅後、彼方此方の「大学で教鞭を執って」日銭を稼いでいたらしいのだが。
国の方で、全滅した光子力研究所のメンバーの代わりに、仮説としての縮退炉を見て欲しいと言ってきたそうだ。
単純にやることもなく。
縮退炉なんてものを作り出せたら革命にもなると知的好奇心を刺激されたドクターヘルは再度日本に赴き。
そして縮退炉の設計段階を見た。
その結論は。
これが動いている理由がわからない、だった。
「貴方ほどの天才がですか!?」
「いや、あれはそもそも今になって思うと、科学で作った代物ではなかったのだと思う。 一応マニュアルは頭に入れた。 わしは口を酸っぱくして忠告した。 これは完成するまで絶対に表に出すな、と。 そもそもこれは腐りきった国家の手に負えるものではないとも思った。 それに天使共が……人間が新しい段階の技術や、過去の偉大な帝国を発見しようとしていた時に破壊の限りを尽くした連中の事が気になってもいた。 だから何度も口を酸っぱくして忠告したのだがな。 この国の政治家は当時無能の極みでな。 金を掛けるべき所に掛けず、抜いてはいけないところから抜いていた。 それで、縮退炉の存在がばれた」
ドクターヘルは怒鳴ったという。
だから絶対に秘匿しろと。
外部の人間を迂闊に入れるなと。
わしを呼んでおきながらなんという様だ。すぐに隠蔽し直すか、研究を凍結しろ。何が起きても知らんぞ。
そう吠えたのは、怒りと哀しみから。
老人になってから不老不死になり。
それ以降も、ただ人類の歴史を見ている事しか出来なくなっていたドクターヘルにとって。
その後に来ると予想される破滅は、あまりにも耐えがたいものだったのだそうだ。
その時縮退炉の製造に関わっていた大臣が色々と何かやっていたらしく。それが更に混乱を拡大するのを見て。ドクターヘルはさっさと細工を施した。
一つは縮退炉の機能制限。
放置すればブラックホールを幾らでも巨大にする機能を持っていたそれを制限して、あくまでマイクロブラックホールから大きく出来ないようにするだけのものへと変えた。
そして既に出現し始めていた悪魔に対策をした。
制御プログラムに、悪魔召喚プログラムに仕込まれているプロテクトを仕込んだ。
「あのなんとかいう無能大臣は、縮退炉を利用して、自分だけ平行世界に逃げるなどと言う計画を立てていたようだな。 まあそれも上手くは行かなかったようだが」
「世界を破綻させておいて、自分だけ逃げるだと……」
「そんな奴が、国のお偉いさんだったんだね」
ワルターの怒りに、僕も同意する。
いずれにしても、ドクターヘルが見ている内に、怖れていた事態が始まった。
世界中で同時に、あらゆる場所へ核兵器が発射された。
迎撃装置は微動だにせず。
それどころか、各国家が自己申告していた核兵器よりも何十倍も多い核兵器が、世界中を飛び交った。
シェルターなどなんの役にも立たず。
ものの数時間で、各地の大国からの通信は途絶。ドクターヘルは、将門公による天蓋が世界を覆うのを見届けると。
シェルターに入り。
冷凍睡眠装置を使って、時を待つことにしたそうだ。
「というわけで、わしが縮退炉に行き状態を確認する。 生半可な悪魔で防壁は突破出来ないし。 知識がないタヤマ程度にいじれる代物ではないがな。 それでも万が一と言う事もある」
「霊夢も満足に動けないだろうし、護衛対象が増えるね……」
「カカカ、まあ雑魚悪魔くらいならステゴロでどうにかしてやるわ。 だが、道中は頼んだぞ」
「了解。 まあ任せておきな」
事実ドクターヘルは生半可な悪魔より強そうである。
程なくして、六本木に突入。
遠くで戦闘音が聞こえている。恐らく、市ヶ谷では既に陽動攻撃が始まっているとみて良いだろう。
何カ所から集まって来た部隊が集合する。
戦車というのは、シェルターの前にいた奴か。チャリオットと違って、中に人が入って動かすらしい。
動かすための燃料があまり多くはないらしく、戦車と歩兵戦闘車を、今回の戦闘の行き来で使うくらいが限界だそうだ。
ただ、明らかに悪魔が引くバスよりも威圧感にしても物々しい。
これも、大戦の時は悪魔にさんざんやられてしまったのだな。そう思うとちょっと悲しい。
とても強くて格好良いのに。
フジワラからの指示が来た。
「部隊は三班に分ける。 フリンさん、ワルターくん、霊夢君をよろしく。 必殺の霊的国防兵器を一柱無力化出来る当てがあるらしいが、最悪の場合は対応を頼む」
「分かりました。 どうにかして見せます」
「イザボーくん。 君は秀さんとともに、市ヶ谷に突入後必殺の霊的国防兵器を相手してもらいたい。 甲賀三郎とともに敵陣を切り開く……と言いたい所だが。 霊夢君が先だ。 無力化出来る必殺の霊的国防兵器を最初に対処する」
「了解しましたわ」
ヨナタンは銀髪の子と組む。役割はほぼ同じ。
ただ。一体の必殺の霊的国防兵器を始末した後は、それぞれが柔軟に動く事になる。
人外ハンター達は市ヶ谷の制圧を行う遊撃班と、僕らの支援をする突撃班に分かれる。遊撃班は志村さんが指揮。
此処にはマーメイドと、ナナシとアサヒが入る。
ナナシは妖鬼ゴズキを扱えるようになって来ているらしく、市ヶ谷での戦闘では主力を任せられるらしい。
更にもう動いていない兵器と違って、動く戦車が出て来たら、阿修羅会の動揺は確定ということだった。
「戦車も大物悪魔相手に優位は取れないが、10式の120ミリ滑空砲は高位悪魔以外だったら一撃だ。 しかも今回は制御プログラムにプロテクトが入っていて、悪魔に乗っ取られる恐れもない。 未熟な戦車兵でも、支援AIの助けもある。 確定で当てられるだろう」
「ついでに弾数は限られているが、霊夢が手を入れているから、砲弾が魔術で反射される事もない。 遠慮無くぶっ放せ」
戦車を直したらしいドクターヘルがご満悦。
ちょっと苦笑い。
そして、歩兵戦闘車には、レールガンが搭載されている。
ただこれは凄まじいパワーを使うらしく、数回しか撃てないらしい。三回までは保証されているが、四回はかなり怪しいそうだ。
「大物が出た場合、どうにかして足を止めろ。 レールガンを叩き込めば、大物でも致命打になる」
「イエッサ!」
「小沢、ニッカリ、野田。 貴方たちには携行式レールガンを渡す。 以前使ったものと同じ型式だが、例のごとくバッテリーの問題で三発までしか撃てない。 使いどころに注意して欲しい」
「俺ッスか。 これは光栄だ。 恥ずかしい戦いは出来ないな……」
戦場に移動しながら、話をするが。
実はこれらは、既に話してある内容である。
どこからか情報が漏洩している。
スパイではない。
それは分かっているからこそ、敢えてこうしてわざと同じ話をしている。
漏洩するなら、させる仕組みがある筈。
漏洩の機会が多いほど。その仕組みを突き止める好機も巡ってくる。
そうドクターヘルが提案したようだった。
市ヶ谷が近付いて来た。
既に暴れている殿と秀が、散々引っかき回しているはずだ。かなりの数の悪魔がいるが、阿修羅会が無理矢理集めて来たものや、市ヶ谷に最初から配置されていた連中とみて良いだろう。
巨人が荒れ狂っている。
制御出来ているとはとても思えない。
この状況だ。
自棄になって何でも良いから呼び出して。そして自爆した。そんなところだろうか。
だが、その巨人が袈裟にぶった切られて、そのままマグネタイトになって消えていく。多分秀によるものだろう。
火線が空に飛んでいる。
バスが停止。
そのまま、バスからざっと皆が降りる。霊夢はかなり青ざめているが、それでも自力で降りて来た。
僕が頷くと、霊夢もにっと笑って見せる。
よし、此処からだ。
此処を失陥したら、阿修羅会は事実上終わりだ。
そして、縮退炉というのを抑えれば。
暗君タヤマによって滅茶苦茶にされた東京を再建する目処が立つ。ガイア教団が仕掛けて来る懸念はあるが。
その時には、必殺の霊的国防兵器全てが相手をすることになる。
そうなれば、ガイア教団とて好きには出来ない筈だ。
志村さんが声を張り上げる。
「悪魔達を出せ! 銃撃がいつどこから来てもおかしくない! 背後側面に敵が展開している可能性を常に忘れるな! 行くぞ!」
「おおっ!」
「じゃ、僕達も行こうか」
「総力戦ですわね」
市ヶ谷の一部は既に炎上しているようだ。それぞれ作戦行動に従って、確実に制圧する。
入口には瓦礫が積まれていたようだが、多分秀が悪魔を呼び出して吹っ飛ばしたのだろう。
まず戦車が、歩兵戦闘車が続き、僕達も堂々と敷地内に入る。
意外と広い敷地だ。
所々で見かけた動く階段などが野外にあったりするが、あれは屋根の部分が劣化してしまったのだろうか。
悪魔が彼方此方で死んでいる。
さっと展開して、人外ハンターが拡がっていく。纏まっていると、一網打尽にされる可能性が高いからだ。
「わたくしは彼方に」
「僕は其方のようだ」
それぞれが、秀と銀髪の子のいると思われる方へ。
銀髪の子が放ったらしい光の砲が、悪魔を貫いて粉々に消し飛ばしたばかりだ。まあ、分かりやすいと言えば分かりやすい。
僕はざっと悪魔達を展開する。
ラハムが周囲に結界を展開。普段は霊夢の仕事だが、今は無理な神降ろしでかなり弱体が懸かっている。
それを補うためである。
正面から淡々と進む。
前から炎に照らされながら、大量の屍鬼ゾンビと、それが融合したコープスが来る。死体は酷い状態だが、多分大物悪魔が操っているとみた。
僕と同じ班に入っているカガがぼやく。
「大戦の時、市ヶ谷には助けを求めて市民が殺到した。 悪魔との激戦地になった此処では、それだけたくさんの人が死んだんだ」
「それをこんな形で冒涜するか。 許せないね」
「同感だぜ。 流石に俺も、死んだら肉だなんてことはいわん。 誰だ、これをやってる外道野郎! ツラを見せやがれ!」
返事は死者達の呻きだった。
まあいい。
全て排除して、更には遺体を荼毘に付す。悪魔に好き勝手にされている魂を浄化して解放する。
今回の作戦とそれに優先度での違いは無い。
それに気楽だ。
此処まで出来る悪魔を、阿修羅会が従えているとはとても思えない。
この先にいるのは野良の悪魔で。
しかも遠慮無くぶっ潰して良い外道だろうから。
死者を薙ぎ払いながら前進。
カガが呼び出したカルラ天という神様が、死者を片っ端から浄化してくれる。助かる。僕らは破壊するだけでいい。
幾ら悪魔が憑依していても、死体は死体だ。
今の僕らの戦闘技術とオテギネの敵じゃない。
小山みたいなコープスを、ムスペルが丸ごと焼き払う。飛び出してきた悪魔の霊体を、霊夢が一喝して消し飛ばしていた。
カガの拳が唸り、屍鬼ゾンビを粉砕する。僕も安心して一方面を任せて、オテギネで破壊の限りを尽くせるというものだ。
ワルターとそれぞれ戦線を担当して、敵を片っ端から砕き、前線を押し上げる。死体の中にいたのは、あれか。
恐らく彼奴が操作者だ。
ハンドサインを出すと、僕はティターニアを呼び出し。雷撃を叩き込ませる。今まで屍鬼ゾンビやコープスを相手に淡々と戦っていた所に、いきなりの範囲攻撃への転換。もろに巻き込まれた其奴が、ぎゃっと悲鳴を上げて跳び上がっていた。
それは髑髏から顔を出している蛇というような姿をしていた。
「ロアよ。 ブードゥー教における精霊ね。 ゾンビという存在を作る為に力を借りる存在でもあるわ」
「ん? 種族は?」
「夜魔でもあるし妖魔でも邪鬼にでも分類できるわ。 下等とはいえ邪神といえなくもないわね」
「ふうん。 まあいいや。 逃がさない」
髑髏に巻き付いている蛇が、他にも出現するが、逃がすか。
どっと流れ込むアナーヒターの浄化の水が、まとめて屍鬼ゾンビを押し流す。その隙間を縫って、僕が走る。
そして、一閃。
まずは一体。貫いて、粉々に消し飛ばす。跳躍して、上空から飛燕のごとく襲いかかる。そのまま二匹目を叩き潰し、三体目を薙ぎ払う。集まってくる屍鬼ゾンビの動きが露骨に鈍くなる。
やはり此奴らのせいか。
そのまま続けて斬り伏せる。四体目を倒した時には、ゾンビは動きを止めて、その場で倒れ込むものも出始めていた。
死体はどれも酷く痛んでいて、もう男性か女性かすらわからないものも多い。腐敗だけではなく、単純な戦傷による痛みが酷くて、どれだけ此処で凄惨な殺しが行われたのか分からない程だ。
最後の一体を串刺しにすると、ゾンビ達がどっと倒れ。コープスも死体の山へと戻っていく。
即座にカルラ天が死体を浄化。
それを見計らってから、一瞥。茂みの方に、覚えのある気配。今は不安要素の一つも残すわけにはいかない。
「出て来なよ」
「……」
出て来たのは、以前西王母戦で見かけた小柄なガイア教徒だ。手にしている鉈は、既に人血に濡れていた。
確か、トキだったか。
「暗殺専門の君がいるって事はガイア教団も何か狙っているようだね。 狙い次第では生かして返さないけど」
「前にあった時と違って好戦的だな」
「戦場なのでね」
「……貴方たちに仇なすつもりはない。 それだけは言っておく」
すっと気配を消してさがるトキ。
まあいいか。
あの実力だったら、僕らを殺す事は出来ない。多分だけれども、阿修羅会の人間が逃げるのを少しでも減らすつもりとみた。
ガイア教団としても、阿修羅会がろくでもないものを此処から持ち出すことは警戒しているのだろう。
一応バロウズに情報を展開して貰う。
さて、先に進む。
秀と銀髪の子はまだまだ先で大暴れしているようだ。合流してからが本番だし。
合流する前に、可能な限り戦力を削り取らなければならない。
進んでいくと、彼方此方に積み上げられたからくりの残骸や、机なんかがあった。その辺りで、激しい戦いの跡が見受けられる。
それについても転送しておく。
大量の死者の群れがいなくなってから、露骨に反撃の圧力は減ったが。それはそれとして、時々悪魔が仕掛けて来る。
「これ、恐らくあの戦車って奴がひっくり返ったんだぜ。 悪魔にひっくり返されたんだろうな」
「凄い力だ」
ワルターとカガがそう言い合っている。
霊夢は力を可能な限り温存して進んでいるが、彼方此方が炎上している事もある。汗を掻いているし、疲弊も抜けていない。
無理を続けているんだ。
酒で無理矢理誤魔化して回復しているとは言え、流石に厳しい。
何処かしらのタイミングで、まとまった休憩を取ってほしいものだが。此処を落とさないと、危険な状態には代わらないし。
更に言えば、三体の大天使をどうにかしないと、その状態が続くのだ。
「此方フジワラ」
「どうしました」
「神田明神で大規模な交戦が始まった。 此方は私がどうにかする。 君達はそのまま市ヶ谷での戦闘に集中して欲しい」
「了解」
彼方でも始まったか。
確かに神田明神に日本神話系の神々がいて、更にはそれと連携する妖精達がいるのは好ましくない悪魔も多いだろう。
アリオクという悪魔がいなくなっても、利害が一致している以上、堕天使達が攻撃を仕掛けに行くのは妥当だし。
僕が悪魔の立場でも同じ事を考える。
とにかく出来るだけ急ぐ。
今度はドクターヘルから通信が入る。
「その奧に臨時で作られた宿舎がある。 其処から地下通路が延びていて、その先に恐らく炉がある」
「分かりました。 その宿舎にて合流して、奧へ突入します」
「わしも後から行く。 流石にお前等の戦いに巻き込まれたらたまらんからな」
「掃除はすませておきます」
一応念の為、ドクターヘルの周囲も固めて貰う事にする。
あの暗殺者のトキという子がドクターヘルを狙っている可能性は高くはないものの。同じように、暗殺目的の悪魔がいないとはいえないし。ドクターヘルはあからさまに強いものの、僕らほどじゃない。
連絡を入れながら、片手間に飛びかかってきた大柄な馬面の鬼をオテギネで貫き、回し蹴りを叩き込んで粉々にする。
今のは妖鬼メズキというらしい。
ナナシが武術の先生にしていたゴズキと似たような地獄の公務員だそうだ。だとすると、阿修羅会に呼び出されて使役されていたか。
通信を終えると、数体の悪魔相手に立ち回っている秀が見えてきた。
やっと追いついたか。
早足で進んで加勢する。
勿論大量の悪魔が押し包んでくる。
これは阿修羅会の手勢だけではないな。炉が人外ハンターの手に墜ちると面倒だと判断している悪魔が、それぞれ集まって来ていると見て良い。
まあいい。
悪魔を減らせば減らすほど、東京の人達の危険は減る。
どれだけでも来い。
今日の僕は、なんぼでも相手になってやる。
凄まじい濃さのマグネタイト。悪魔を倒しに倒して、それでマグネタイト化したのだ。
ヨナタンはため息をつくと、側にいる銀髪の娘が、特に疲弊している様子もなく。纏っている光が更に強くなっているのを見て感心した。
相変わらず凄いな。
この子はこの子で英傑だと殿が絶賛していたが。確かに戦い慣れの度が尋常じゃない。フリンよりも今の段階では強いかも知れない。いや、強いだろう。
秀とイザボーとも合流。
フリンと霊夢とも合流を果たす。
怪我人を後送し、遊撃班が追いついてくるのを待つ。この先に、阿修羅会の残党が籠城し、多数の悪魔が潜んでいるのが分かっている。
それに、だ。
「いるね」
「ああ、強い気配だわ」
フリンがいうと、霊夢も頷く。
この先に、必殺の霊的国防兵器三柱がいる。更には、最深部にはタヤマの使役する隠し玉もいるだろう。
その内霊夢が一柱を無力化出来ると聞く。
タヤマがその一柱を直衛にしていると厄介なのだが。霊夢の話によると、タヤマの側にある気配は恐らく違うらしいので。
その勘を信じる。
実際霊夢の暴力的な勘は、今まで何度も目にしているのだ。
「交代で休憩を取ってくれ。 市ヶ谷の地上部分を制圧して、突入はそれからだ。 回復の物資は、後続の人外ハンターが輸送してくる。 遠慮せずに使ってしまっていい」
「では、言葉に甘えさせて貰うぜ」
「あたしも」
ワルターが、その辺で平気で横になるので、ちょっと呆れた。
ほどなく歩兵戦闘車が突っ込んできて、バスもそれに続く。戦車の方は、市ヶ谷の入口辺りで暴れているようだ。時々凄い音がしているが、戦車に搭載されている大砲の発射音だろう。
あんなものをまともに受けたら、流石に悪魔でもひとたまりも無いし。
普段なら兎も角、弾には霊夢が処置をして、悪魔がはじき返せないようにしているそうである。
一射確殺できているだろう。
バスから展開した人外ハンターが護衛し、土建屋達が補給地点を設営し始める。
ドクターヘルもそれに加わっていた。
何やら機械を組み立て始める。
それに一本ダタラやサイクロプスも加わっていた。
「仮設トイレと給水場を作っておく。 早めにトイレと水分の補給を済ませておけ。 此処から厳しい戦いになるだろうからな」
「有難うございます。 疲労がひどい人から先に行ってくれ」
「それじゃあ、俺から行かせて貰うかな」
ワルターがさっさとトイレに。
こう言うときは遠慮し合うと却って時間が無駄になる。そのまま皆並んで、補給を受け始める。
ヨナタンは持ち込んだ干し肉をかじる。
豚の肉を加工したものだ。
その間天使達には偵察に出向いて貰い、更には倒された天使の回復も進める。
霊夢がスポーツドリンクを飲み干すと、無言でトイレの列に並んだ。周囲をフリンの悪魔達が固めていて、隙はない。ヨナタンは最後でいい。
「今のうちに武器を手入れしておく。 貸しなさい」
「お願いします」
「ああ」
フリンがドワーフにオテギネを貸し出していた。ヨナタンのグラムはあそこまで使っていないから大丈夫だろうと思ったのだが、ドワーフは有無を言わさず出せと言ってきたので、差し出す。
ドワーフはしばらくグラムを見ていたが、細かい調整をしてくれる。
フリンのオテギネは、今までにも何度か調整を入れていたようだが。今回はかなり丁寧に調整しているようだ。
「要所で一突き、という使い方をしておるな。 君は指揮官のようだし、それでいいのだろうが」
「すみません。 必要な時はもっと前衛に出るべきだと判断はしているのですが」
「いや、それでいいのだろう。 調整を終えた。 この剣は竜殺しの逸話がある一品だ。 これからも大事にしてほしい」
頷く。
程なく準備が終わる。
周囲の戦況も、圧倒的優位に進んでいるようだ。この市ヶ谷でたくさんの人が以前殺されたが。
もう一度、同じ事は起きずに済みそうである。
フジワラから連絡が来る。
「神田明神での戦闘はどうにかできそうだ。 其方はそろそろ突入かい?」
「フリン、どうだ」
「霊夢の疲労が心配ですね。 必殺の霊的国防兵器を黙らせたら、一旦さがって貰う事になるかと思います」
「分かった。 此方ではきちんと守りきって見せるよ。 タヤマの手から、炉を取り返して欲しい。 頼む」
フリンが頷いている。
ヨナタンは、嘆息した。
フリンは悩むことも怒る事もあるけれど、そのあり方は一筋の槍のようだ。ヨナタンはどうしても悩むことが多い。
殿と幾つか話して、それで悩みが晴れるけれど。
悩みが晴れるとまた新しい悩みが生じる。
ずっとそんな人生を送ってきた。
だから、というのもあるのだろう。
天使達の指揮官として恥ずかしくないようにありたいし。
殺戮魔と化した大天使達のようには間違ってもなってはならない。
そう自身を戒めているが。
ずっと不安は残っているのだ。
しばしして、フリンが手を叩く。
さて、突入か。
充分に休憩を取った。此処からは、今までに無い程厳しい相手との連戦になるだろう。
一瞬とて、油断は許されない。
原作同様に市ヶ谷にある無限炉ヤマトですが、本作では縮退炉として解釈しています。ブラックホールのホーキング輻射を利用した炉ですね。ホーキング輻射を利用した兵器というと2199版以降のヤマトの波動砲なんかがありますが、本来そういうレベルの代物です。核融合もまだろくに発電に使えていない人類にはオーバーテクノロジーにも程があります。
その作成に関わったのはドクターヘルですが、本来できる筈がないレベルの技術が出来てしまって驚いている一人です。
何故こんなものが完成してしまったのかはまだ幾つか秘密があるのですが。
いずれにしてもはっきりしているのは、タヤマのような輩が持っていてはいけない道具、ということですね。