六本木の上空を飛ぶのはセトだ。
ガイア教団を守る悪魔の一柱。その背には、同じようにガイア教団の守護をしている堕天使ネビロスの姿もあった。
ベリアルの盟友であり、力量ではベリアルほどでは無いが、強大な悪魔である。
見下ろす先は、炎上する市ヶ谷。
前には自衛隊が駐屯地としていて。
もっとも激しい悪魔との戦いが行われた土地だ。
在日米軍の生き残りも投入され、激しい戦闘が行われた。近代兵器では斃せない筈の悪魔にも自衛隊は引かなかった。
セトの聞いた話によると、日本の対魔組織であるヤタガラス。太陽神ではなく、その神の名を借りた組織だそうだが。そのヤタガラスも総力を挙げて参戦し。主要な悪魔使いはあらかた戦死。
組織は瓦解したそうだ。
ネビロスが聞いてくる。
「戦況はどうだ」
「現時点では人外ハンターが圧倒的に有利だな。 阿修羅会はもはや必殺の霊的国防兵器だよりで籠城することしか出来ない。 タヤマは……霊的国防兵器の守護が強くて、様子が見えん。 いずれにしても、あの炉をタヤマが抑えている事態は、どうにかしなければまずい。 その点で利害は一致している」
「だが、神田明神は邪魔だな」
「ああ、それは分かっている。 だが、現実問題として、これ以上人間を減らすわけにはいかん。 我等は静観するぞ」
これ以上人間が減ったら。
信仰が更に減ることになる。
そうなればアティルト界はやせ細り、いずれは全ての悪魔が形を失ってしまうことになるだろう。
雑魚はそれを考えず、目先のエサに食いついたりしているが。
そんな愚行をセト達はするわけにはいかない。
戦況は見届けた。
一度戻る事にする。
ガイア教団の聖堂の前で待っていたベリアルと合流。見てきた事を話しておく。
ベリアルはふっと鼻を鳴らす。
「これでタヤマも終わりだな。 あの不愉快な輩がいなくなるのは、此方としても好都合だが」
「問題はこの奧にいるバカ共が、主導権を握りたいとか言い出しかねないことだが」
「リリスが手綱を取っているが、上手くやれるやら」
「……」
奧から出て来たのはアスラ王。
アスラ神族の王である。正確にはそんな存在はいない。様々なインド神話に出てくるアスラの強者の要素をかき集めて、王とした存在。
神としては仏教の大日如来と同系統となる。
ただ、性格は真逆だが。
そもそも悪魔になったり神になったりは神話ではよくあること。
アスラ王は昔から魔界の大魔王であるルシファーの側近であり。ベルゼバブと並ぶ大幹部として扱われていた。
「皆、閣下からの伝言だ」
「む、閣下から」
「伺おう」
閣下とは、ルシファーの事である。
ただその閣下は、大戦の時の市ヶ谷の戦いのどさくさで、大きなダメージを受けて。現在は力が半減している。
神々や悪魔は人間の半身を見つけて融合すると、非常に大きな力を得る事ができるのだが。
そういった半身たり得る人間は、大戦の時に天使があらかた殺してしまった。
いつもふらついているルシファーの真意はよく分からない。
そういった半身を探しているのかもしれないと噂はあるが。
セトから見ると、ただ遊び歩いているようにしか思えなかった。
「炉がタヤマの手から落ち次第、此方も動く。 ガイア教団の主戦派は敢えて暴走させる」
「!」
「どうやら閣下は現在市ヶ谷を攻めているサムライ達に興味を持っているようだ。 今の時点では利害が一致しているが、それも炉が落ちれば終わる。 サムライ達と共闘できれば、或いは四文字の神を倒せるかも知れない。 まず当面の目的は、上にある不愉快な「エデン」だそうだが」
「ふむ……」
それにはリリスを生け贄にするのが必須だろうな。
最低限の条件として、リリスを要求してくるはずだ。
それに、である。
セトも他平行世界の事をある程度知るくらいの力を持ってはいる。
だから知っている。
大アバドンを大天使どもが発動させて、何もかも消し飛んでしまうような世界もあるし。
混沌の理に同調した人間が、考え無しにそのエデンを潰してしまう世界もある。
中には消し去らせた世界の怨念を受け入れて、炉を暴走させ。世界そのものを終わらせてしまう世界すらも。
それらの平行世界の事をうっすらとセトは理解しているので。
その特異点となるサムライ達。
あの若き俊英達には、下手に手出しをしたくないし。
知っているそれらの平行世界よりも明らかに状況が良くなる要因を作っている、どこからかきたあの特異点的な英雄達。
その存在にも興味が尽きないのだ。
「とりあえず今は保留だな。 多神の者達に対する油断だけはせぬように、備えておかなければならないか」
「ああ。 ベルフェゴールも倒れた今、天照大神だとかいうこの国の最高神が封印から蘇る可能性もある。 そうなった場合は、余も太陽への干渉力では勝てまい。 今は守りに徹し、閣下の次の指示を待つべし」
「……」
ベリアルが考え込んでいる。
何か思うところがあるのかも知れない。
まあ、それはいい。
セトは提案しておく。
「それでは余は上空より偵察を続けておく。 多神の者達に、つけいる隙を与えぬためにも、できる限り見えている範囲は多い方が良いだろう」
「うむ、頼んだぞ」
さて、此処からだ。
ここから何がどう動く。
大まかな流れを、平行世界というものは共有するのだが。それはそれとして、大きな出来事があると分離するものでもある。
ただ、この今いる世界とその平行世界の中では。この世界は一番マシだと言える。
もしも人間が神々への信仰を取り戻し。
傲慢なる四文字の神を撃ち倒し。
そして神々と悪魔と、人間がともに生きる新時代が来るのであったら。
セトはそんな世界を見てみたいとは思うのだった。
(続)
市ヶ谷攻防戦に着目しているのはガイア教団も同じです。
トキを送り込んで阿修羅会の要人が逃げだそうとするのを先に始末させているのは、面倒な厄ネタを幾つか抱えているから。最悪トキが殺されてもガイア教団では大した痛手だと考えません。負けて死ぬ方が悪いと考える組織ですので(それどころか妖怪ババア姉妹はそもそも生きて帰ってこないことすら期待しています。 理由はいずれわかります)。
そんなガイア教団を見守っている大物悪魔達も、状況には着目しています。
今後の東京……下手をすると世界が大きく変わり、自分達の動向にも影響するのだから当然だといえます。
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