もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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というわけで日本武尊戦です。

実は別の自作で(ハーメルンさんにはこの作品を連載している時点では未掲載)は対日本武尊戦を扱ったことがあります。

いずれにしてもこの方、エピソードごとに性格が全然違うので。恐らくは色々な英雄のエピソードや神話を一緒にした存在なのかと思われます。

そういう事もあって、本作のような戦い方が本領かなと。


3、陥落する武神

霊夢がなにかの神降ろしを始める。

 

僕はそれを確認しつつ、斬り込んでくる日本武尊と渡り合う。体を分裂させたこともある。しかもその内二体は、甲賀三郎と南光坊天海と渡り合っている状態だ。元が如何に強くても。

 

いや、違う。

 

これは勝つための戦術じゃない。

 

恐らく、負けるためにわざと。

 

目一杯の抵抗と言う訳か。僕はぎりと歯を噛むと、激しい剣戟を日本武尊とかわす。

 

広い広い空間だ。

 

奥にあるのは、縮退炉というやつだろう。かなり頑丈に作ってあるらしいが、それでも戦闘の余波が直撃するのは避けたい。

 

振り下ろされた剣を受け流しながら、流れるように回し蹴りを叩き込む。腕を盾にして、一撃を防ぐ日本武尊。

 

いきなり細身だった体が筋肉質になる。僕は飛び離れ、それを追うようにして日本武尊が飛びかかってくる。

 

うなりを上げる豪腕が、床を砕く。

 

ドゴンと、拳が直撃したとは思えない音がしていた。

 

拳を床から引き抜くと、日本武尊が立て続けに襲いかかってくる。ラハムはアナーヒターとティターニアと一緒に、一体を相手にしている。天使達も総掛かりで一体を。いずれにしても、誰も他を加勢できる状態にない。

 

これは、拮抗がくずれると一瞬だな。

 

そう思いつつも、猛攻をいなす。

 

簡単な相手じゃない。

 

深呼吸。

 

大上段に振りかぶった日本武尊。其処に、態勢を低くして、自分から前に出る。その瞬間、また体を切り替えてくる。今度は細身になると、すっと僕の突貫を回避して、それどころか後ろに回り込んでくる。

 

横殴りの剣。

 

踏みとどまり、振り返りつつ切り上げる。

 

火花散る中、僕は更に三十合ほど渡り合う。更に加速。日本武尊は、無言であらゆる技を叩き込んでくる。

 

やるな。

 

だけれども、わざわざ負けるために好機を作ってくれている。それが分かるから、余計に負ける訳にはいかない。

 

鋭い一撃が肩を、股を抉る。

 

剣の技術だけなら相手が上。これに本来は腕力や速度が数倍になるというわけだ。たまったものじゃない。

 

だが、その時。

 

霊夢がぱんと、手を叩いていた。

 

辺りが凪の海原になる。

 

勿論沈むことはないが、日本武尊が、その瞬間明らかに動揺するのが分かった。

 

「大綿津見神!」

 

「貰ったっ!」

 

横殴りに、薙をたたき込み。

 

それで飛びさがった日本武尊に、連続して突きを入れる。

 

水に足を取られるというよりも、日本武尊の逸話に何か不利な事があったのかも知れない。

 

今度は日本武尊の全身に傷が増える。

 

海が消える。

 

そして、今度は、霊夢が別の神を降ろしたようだった。

 

出現するのは、猪に大蛇。

 

それを見て、日本武尊達が、明らかにたじろぐ。これも神話によるものなのだろう。

 

霊夢はかなり疲弊している状態で、立て続けに神降ろしをしてくれている。この相手だと、自身が直に戦うよりも、こうして支援した方がいいと判断したからだろう。

 

だがこれは。

 

相手の心理に訴えかけるようで、卑怯なのではないか。

 

そう考えた瞬間、日本武尊が吠える。

 

「かまわん! 外道の犬に変わった私に対しては、どんな手を使っても勝て! それがこの国の未来を開く!」

 

「あんた立派だぜ! 勝たせてもらう!」

 

ワルターが攻勢に出たようだった。ワルターの手持ちの悪魔達が、一斉に日本武尊を攻め立てているのが見える。

 

僕も、勝たせて貰う。

 

態勢を整えると、真っ正面から全力で突きに行く。動揺もあるのだろう。態勢を立て直すのが遅れた日本武尊。

 

そこに僕は、貫を全力で叩き込んでいた。

 

吹っ飛んだ日本武尊が、塵になって消えていく。これでやっと一人。周囲を見回す。

 

ヨナタンが苦戦している。天使部隊を殆ど失い、ヨナタン自身が渡り合っているが、劣勢は明白。

 

躍りかかる。

 

そのまま、ヨナタンに斬りかかっていた日本武尊に蹴りを叩き込む。それを余裕を持って防いでくるが。

 

その時、ドミニオンが日本武尊に組み付いていた。

 

「今です!」

 

「その通りだ! やれっ!」

 

日本武尊自身が叫ぶ。なんと悲しい話か。ヨナタンが剣を日本武尊の胸に突き刺す。相変わらず、剣で突き刺すのは完璧に近い手腕だ。

 

それでも死にきれない日本武尊が、ドミニオンを瞬時にバラバラに切り裂き、ヨナタン自身も蹴り飛ばす。

 

だが、その瞬間。

 

僕が日本武尊の首を叩き落としていた。

 

塵になって消えていく日本武尊。顔を上げる。次。

 

ワルターは互角か。仲間達と連携して頑張っている。甲賀三郎、南光坊天海、殿、秀。それぞれ互角にやり合えている。マーメイドはやや有利というところか。床を潜ったり出たりを繰り返して、変幻自在の戦いで日本武尊を翻弄している。

 

劣勢なのはイザボーの前衛になっている悪魔達。

 

必死に戦っている悪魔達が、次々に蹴散らされ、イザボーも相手が速すぎて魔術を当てられていない。

 

手が空いたヨナタンが、魔術を広域に展開。

 

回復の魔術だ。ヨナタンは口から溢れた血を拭いながら、僕に頷く。

 

ラハム達も、どうにか押されつつも踏みとどまっている。それならば。

 

僕は一直線にイザボーと戦っている個体に向かう。その瞬間、不意に殺気。オテギネを振るって弾いたのは弾丸。

 

弾丸を放ったのは、タヤマだった。

 

「ヒャハハハハ! 弾丸も通じねえや!」

 

「……」

 

まあいい。

 

放置して、そのまま日本武尊に突貫。

 

日本武尊は、横っ腹に僕の突撃を受けるが、それでもまだまだ余裕。片手間にナタタイシを地面に叩き付け、回し蹴りを叩き込んでくる。

 

まだ全体的には若干不利か。

 

ヨナタンが天使の生き残りを向けて、タヤマを組み伏せさせる。

 

タヤマがひっと悲鳴を上げたが、日本武尊は助けにもいけない。これで横やりはもう入らない。

 

それに全身に力が満ちる。

 

回復が進んでいる。ならば、いける。

 

剣。

 

態勢を低くした日本武尊が切り上げてくる。

 

これが好機だ。

 

僕は敢えてさがりつつそれを受け流し、上段からの必殺の一撃を誘発する。日本武尊は、恐らくだが分かっていてそれに乗る。

 

例え操作されていても。

 

それだけの事が出来る意地がある、と言う事だ。

 

イザボーが放った大火力の魔術が、日本武尊を焼き払う。全身を焼かれ、動きが止まった所に。

 

滅茶苦茶に蹂躙されていたイザボーの仲魔達が殺到。

 

全身を串刺しにされた日本武尊が、塵になりながら消滅していく。

 

呼吸を整える。

 

イザボーも限界近い。

 

英傑達の誰かに加勢して、一気に形勢を変えるか。それとも。

 

僕が視線を向けたのは、ラハム達だ。ラハムとティターニアとアナーヒターが、必死に日本武尊を食い止めてくれている。

 

迷う事なんかない。

 

直行する。

 

日本武尊が振り向いた瞬間、ラハムが息を合わせて、蛇の髪で飽和攻撃を仕掛ける。霊夢の蛇を見て何か思うところがあったようだし、少しだけ隙が出来る。即座にラハムが斬り倒されるが、その瞬間。

 

逆側に回った霊夢が、多数の針を一斉に投擲していた。

 

全身に針が突き刺さった日本武尊。

 

其処に浄化の水で全身を拘束。僕も気合いを入れて、オテギネを突き込む。

 

だが、連戦の疲れが出たのか、弾き返される。

 

雷撃が直撃しても、なおも平気な様子の日本武尊が、吹っ飛んで肩で息をつく僕を見据える。

 

「先ほどから獅子奮迅の活躍のようだが、もう息が上がったか。 それでこの国を守れるというか。 タヤマごときの犬と化した私など、さっさと討ち取って見せろ!」

 

「貴方は死にたいんだね」

 

「そうだ。 元々非人道的な方法で先の大戦時に作られたこの札は、我等を召喚して我欲で使うためのものだった。 こんなものは無い方が良い! 我等が先の大戦で敗れたのもそれが理由だ。 我等を道具として扱おうなどとした行為は、常に我等と共にあったこの国のあり方に背く反逆だったのだ!」

 

先の大戦。

 

そういえば、そんな話をドクターヘルがしていたか。

 

天使達が東京を焼き払った大戦の、八十年も前に起きたという大戦争。

 

そうか、必殺の霊的国防兵器とやらは、その時に作りあげられたのか。

 

此処を崩せば、後は互角の戦いをしている場。それらに加勢すれば、後は雪崩を打つようにいける。

 

霊夢も立て続けの神降ろしであまり状況が良いとは思えない。しかし、無理をしても、勝てる相手ではない。

 

すっと槍を立てて、構えを改める。

 

頷くと、日本武尊は剣をしまって、手を掛ける。

 

相手は鞘の中を走らせる事で剣速を上げる武術を使うつもりだ。居合いと言われているものだ。

 

本来は鎧を着た相手には効果が薄いものなのだが。僕は鎧は着ていない。それにこれほどの武人が、神の剣を手にしてそれをする。

 

文字通り必殺の技となるだろう。

 

だが、僕はゆっくりと槍を、オテギネを正面に構え直す。

 

霊夢は少し距離を取ったまま、様子見。

 

日本武尊と僕は少しずつ間合いを詰め。それに対して、ダメージが大きいラハム達は介入できる状態にない。

 

勝負は一瞬で決まる。

 

仕掛ける。

 

仕掛けて来たのは、日本武尊。ふっと二歩ほど踏み込むと、恐ろしい程伸びる居合いを放ってきた。

 

無言で、剣筋を見切る。

 

剣筋を見切るために、相手に向けてオテギネの穂先を向けたのだ。

 

そうか、これほどに伸びてくるのか。かわす術は、一つしか無い。

 

僕はそのまま、オテギネの柄を斜めに刃にぶつけつつ、突貫。相手に組み討ちに持ち込む。

 

その過程でざっくりと刃が体に突き刺さるが、この程度。

 

ねじり上げるようにし、火花散る居合いの刃を弾きながら、組み討ちに持ち込んで、地面に押し倒す。

 

日本武尊は即座に対応しようとするが。

 

その時、僕の動きを読んだラハムが、深手を受けて床に倒れたまま、それでも蛇の髪を一斉に日本武尊に食いつかせていた。

 

大量の血が飛び散る中、刃は更に僕の体に食い込んでくる。

 

僕はそのまま、決死の覚悟で日本武尊を抑え込む。

 

ぐっと歯を噛みながら、押さえ込み続けて、やがて。

 

その力が抜けるのを感じた。

 

この日本武尊は、恐らくもう。

 

最後に僕に技を見せるつもりだったのだ。

 

血がドバドバ出てる。すぐに駆け寄ってきたイザボーとヨナタンが、回復の術を掛けてくれるけれど。

 

僕は顔を上げて言う。

 

「僕は良いから! 皆に加勢を! もう少しで斃せる!」

 

「フリン、君は……!」

 

「分かりましたわ。 ヨナタン、回復のために天使を展開して。 わたくしたちは……マーメイドの支援に回りますわよ。 彼処が一番戦況が良さそうですわ!」

 

「そうだな、そうしよう!」

 

意識がちょっと薄れてくる。

 

霊夢も戦闘に戻った。

 

大丈夫、目が覚めたときには、もう戦闘は終わっている。今の刃、傷口が熱くて、痛いというよりも何だか不思議な気分だな。

 

そう、僕は思った。

 

 

 

最後の日本武尊が倒れる。

 

まだ倒れて意識が戻っていないフリンに、天使達が集って回復の魔術をかけ続けているのを横目に。

 

日本武尊の倒れた地点に出来た小山のような岩の塊から、霊夢は札を回収していた。

 

これが制御用の札だ。

 

こうして将門公以外の必殺の霊的国防兵器は全て沈黙したことになる。

 

皆、手傷を少なからず受けているが。

 

それでも完全勝利と言えた。

 

「なーんだ、負けちまいやがったよ、ひくっ……」

 

完全に自棄になっているタヤマは、泥酔したままそんな事をほざく。ワルターが危険な目をして近寄ろうとしたが、霊夢が手を横に。

 

ワルターがどうして止めると言うが。

 

霊夢としては、止めるつもりなんかない。

 

ドクターヘルが炉を調べ始める。同時に、ヨナタンが連絡を入れていた。

 

「炉の状態は問題ないのう。 わしが施した暴走対策用のプログラムはきちんと動いておるわい。 ただ……」

 

「ただ、どうしたんだドクター」

 

「何度も不正アクセスを試みた跡があるのう。 しかも何回かはかなり惜しい所までいっておる。 誰がやったかは知らんがな」

 

そうか。

 

縮退炉というものの仕組みは既に聞いている。

 

だからそれが悪用されないのなら、それでいい。

 

うめき声を上げて、フリンが起き上がる。

 

日本武尊に対する獅子奮迅の活躍で、劣勢をひっくり返す切っ掛けになった張本人である。

 

もうちょっと体調が戻っていれば、霊夢ももっと加勢できたのだが。

 

連続で無理をしたツケが出ている。戦闘では、日本武尊のペースを崩すので精一杯だった。

 

今回の戦いの勝利の立役者は、間違いなくフリンだ。

 

フリンはラハムに肩を借りると、炉のところまで来る。

 

ドクターヘルが肩をすくめる中、隣に倒れているクズを冷たい目で見やった。

 

天使が抑えている其奴が持っているボタン。

 

何度も押したようだが。

 

縮退炉は起動などしなかった。

 

それはそうだ。

 

起動しないように、ドクターヘルが細工をしていたのだから、

 

ボタンを霊夢が奪い取る。

 

天使に離れるように指示。

 

やる事がある。

 

「解毒の魔術使える悪魔出してくれる。 酒に潰れたの、それで解除できるから」

 

「分かった」

 

ワルターが悪魔を呼び出す。

 

あれはデュオニソスか。

 

ギリシャ神話における酒の神バッカス……と一般的には思われているが、違う。実は酒と薬物で狂乱状態のまま、欲の限りを尽くす業が深い淫祠邪教の神だったものが、ギリシャ神話に取り込まれたものだ。

 

つまるところ酒の神と言うよりも狂気の神に近い。

 

ディオニソスは全身が黄色と緑の斑模様の彫りが深い顔の男性神格で、だが明確に目がおかしかった。

 

ディオニソスはまさに適役だろう。

 

魔術を掛けて、一瞬でタヤマを素面に戻す。素面に戻った瞬間、タヤマは真っ青になって震え始めていた。

 

「ま、まてよ! せめて酔ったまま楽に死なせてくれよ! 俺をこ、殺すつもりなんだろ! せめてもの慈悲をくれよ!」

 

「だそうだけれど殿?」

 

「わしの治世にあったなら、お前は問答無用で打ち首獄門にしていたわ。 霊夢よ、そなたは何かしら此奴に適切に罰を与えることが出来ると言うのだろう」

 

「というよりも閻魔に頼まれていたのよ」

 

札を取りだす。

 

ひっと悲鳴を上げるタヤマの側にそれを投げつけて、皆に離れるように指示。

 

誰も、タヤマを楽に死なせてやろうなどと考える奴はいない。

 

当たり前だ。

 

東京でこいつが行った事で死んだ人達。

 

ヒルズの人間加工場を見た者達。

 

誰が、此奴を許せると思うだろうか。

 

ドクターヘルですら軽蔑するほどの、我欲を優先し、他の人間の権利も命も踏みにじったクズの中のクズ。

 

歴史上様々な暴君が出現したが、その中には我欲だけで国を滅ぼした者もいるにはいる。だが、それは例外で、多くの場合は名君たろうとして失敗したのだ。こいつはそれすらない。

 

タヤマの側の床が、真っ黒に染まる。そして、無数の人影がタヤマの側に出現していた。

 

「タヤマぁああああ」

 

「良くも俺を後ろから刺しやがったなああああ」

 

「地獄で待っていた! お前を地獄につれて行く瞬間をなああああ!」

 

最初に現れたのは、タヤマが裏切ったらしい兄貴達だろう。

 

此奴らは此奴らでどうしようもないカスだったらしいが。それでもまあ、同じ場所に連れて行く資格くらいはあるだろう。

 

無様で情けない悲鳴を上げるタヤマに告げておく。

 

「あたしや秀が経験しているから言っておくけれど、生きたまま地獄に行く事は可能よ。 あんたの場合は、殺してやる慈悲すらないわ。 そのまま地獄に落ちなさい。 行く先の地獄は阿鼻地獄以外にはあり得ないわ」

 

無数の手。

 

黒い手。

 

いずれもが、タヤマに殺されたものの。タヤマのせいで命を落としたもの。それに地獄の獄卒達の手。

 

それらがタヤマを掴む。闇の中に引きずり込んでいく。

 

誰もタヤマを楽にしてやろうなどと考えない。

 

マーメイドさえ、タヤマを哀れみを持って見つめるだけ。

 

罪は誰もが犯す。

 

だが此奴の場合、それの度が過ぎている。

 

霊夢だって、古くは閻魔にお前は業が深すぎてそのままでは地獄にすらいけないといわれた事があった。

 

それでも此奴とは違う。

 

此奴は、人類史に残るレベルのカスだ。

 

情けない悲鳴と言い訳と繰り言を述べているタヤマが、生きたまま地獄に送り込まれていく。

 

クズが。

 

殿がそう吐き捨てた。

 

そして、大きな溜息をついていた。いつの間にか、其処は静寂になっていた。タヤマは地獄に消え。

 

阿修羅会はこの瞬間。

 

完全に崩壊した。

 

 

 

市ヶ谷の完全制圧完了。だが、問題は此処からだ。

 

僕は皆とともに一度外に出て回復に努める。

 

ドクターヘルの側にはマーメイドについてもらう。あの炉は正直、放置するには危険すぎるのだ。

 

一応というか。必殺の霊的国防兵器が全滅した結果、市ヶ谷の地下は正常な状態には戻った。

 

それもあって、本来の地図が使えるようにはなったのだが。

 

その結果、更によく分からない事ばかりが明らかになってきたのである。

 

志村さん達にも調べて貰う。

 

元自衛官だという話で、市ヶ谷には足を運んだことがあったらしい。食堂では凄い量の食事が出て、名物になっていたのだという話を聞かせてくれた。軍人はとにかく使用する体力が凄いらしいので、それで必然的に食べる量も増えるから、だそうだ。

 

休みながら、話を聞く。

 

隊服が血で真っ赤だが、別にそれはいい。

 

回復の魔術も掛けて貰ったし、隊服が血で汚れるのは当然だ。僕はサムライ。殺すのが仕事だし、殺されるのも仕事。

 

守れればいいが、それと同時に殺している。

 

血で濡れているのは、最初からなのだから。

 

しばらく休憩しながら、話を聞く。

 

それによると、志村さんたち此処の経験者がいうには、明らかに手を入れられた形跡があるという。

 

市ヶ谷は大決戦が行われた土地で、たくさんの人がなくなった。悪魔がそのまま此処を放置して行ったとは考えにくい。

 

まだわずかながら生きていた阿修羅会の者達が連れ出されてくる。其奴らは尻を蹴られながらバスに詰められ、つれて行かれた。

 

あれは武装解除された後、やっていたことを吐かされて、内容次第では悪魔との最前線で肉盾にされるんだろう。そうでなかったとしても、一本ダタラに見張られながらずっと単純作業だ。

 

それも、自業自得だとしかいえない。

 

一瞥だけして、思考を戻す。

 

なんというか、あの地下空間。やはり違和感があったのは、本当だったのか。

 

霊夢が休むと言って、側のバスに入る。秀は一度シェルターに戻り、其方の守りを確認するそうだ。

 

シェルターも激戦になったと聞くし、秀が戻ってくれていれば安心するだろう。

 

日本武尊との戦いでは、激戦の末単騎で競り勝った。僕が気を失った直後だったらしい。ただ、それで自慢の陣羽織がざっくりとやられてしまったそうだ。時間を掛ければ元に戻るらしいが。

 

応急処置で誰かに縫って貰う意味もあってシェルターに戻るのだとか。

 

あんな万能な人でも、苦手な事はある。

 

そう思うと、ちょっと僕でも安心する。

 

しばしして、フジワラが来た。或いはだけれども、秀がシェルターについて、守りが大丈夫になったからかも知れない。

 

シェルターの方では怪我人の手当てで忙しいようだが。

 

フジワラは、炉を見ないといけないと言う話らしい。少し遅れてツギハギも来る。

 

「霊夢さんはまだ眠っているのかな」

 

「はい。 日本武尊との戦いでも、何度か神降ろしをしていましたので」

 

「そうか。 霊夢さん自身も、此方に来て力が上がっているという話だったが、それでもまだ厳しいんだな」

 

「……或いはそれでかも知れないですね」

 

霊夢の力が上がっているとしたら。

 

器としての体がどうしてもついてこられていないのかも知れない。

 

霊夢は僕と同じくらいの年だと言っていたし、戦士としてまだ伸びる肉体年齢だ。だとすれば、良質な戦闘と取り込んだ膨大なマグネタイト。それに神降ろし、それも大綿津見神などの高位神格を降ろしての神降ろしとなると。

 

それは肉体が更に強化されるための準備期間が必要で。

 

疲れと眠気が出るのかもしれなかった。

 

あまり背は伸びなかった僕だが、それでも成長痛は経験している。

 

それと同じだと思うと、霊夢も大変だなと思う。

 

「炉には霊夢と一緒に行くんですか?」

 

「ああ、そのつもりだ。 あの炉は高位の悪魔達が狙っている。 今は状況が落ち着いてはいるが、それでも専門家を交えて話をしておきたいのでね」

 

「……分かりました」

 

「秀さんは興味がないそうだ。 それもあって、シェルターを守って貰る事にする。 ただ、一度だけ一緒に炉に行く事になるが。 休憩が終わったら、一緒に炉に行こう。 皆を交えて、話をしなければならない。 今後の事も含めてね」

 

そうだな。

 

僕も分かっているが、まだ何も終わっていない。

 

東京を闊歩する悪魔。

 

東のミカド国を壟断する大天使達。

 

隙あらばその大天使達は東京を全て焼き尽くそうとしているし。

 

現在確保している大天使達は、解放すればすぐにでも牙を剥く。

 

そして今の所大人しくしているが、ガイア教団だって何を仕掛けて来るか分からないし、ユリコは倒さなければならない。

 

タヤマが地獄に文字通りの意味で落ちて。

 

それで無限炉と言われる縮退炉が悪用される可能性がなくなった。

 

つまり、直近の破滅の可能性がなくなっただけで。

 

まだまだ東京の状態は何も改善していない。

 

だいたい将門公が無理矢理に支えている東のミカド国だって、いつまでそのままでいいものなのか。

 

無能な王とラグジュアリーズ達。

 

愚民化されたカジュアリティーズ達。

 

上にいる大天使達にとっては理想的な状況なのかも知れないが。

 

そんなものは、許してはおけない。

 

順番にそれらをあげて、どうするか確認する。

 

フジワラはそれを聞いて、頷いていた。

 

「殿に確認を取りたいところだが、まずは炉の安定が最優先だね。 今も市ヶ谷を狙って来ている悪魔は幾らでもいる。 君達が炉の確保に向かっている間でも、地上では激戦が行われていたようにね」

 

「霊夢に結界を張って貰うのが一番でしょうか」

 

「それもあるが……今の時点では、必殺の霊的国防兵器にされていた神々英傑達に、自発的に守って貰うのが現実的だと考えている」

 

「……なる程」

 

確かにそれもそうだ。

 

それと、声を落としていた。

 

「後、今は問題ないが、ドクターヘルが悪さをしないように、出来るだけ炉には触らせたくない」

 

「現時点では利害が一致していますが、あの人危ない人ですもんね」

 

「そういうことだね。 今は……恐らく東京が安定して、東のミカド国もどうにか出来て、再び人間が発展し始めて、世界に拡がり始めるくらいまでは大丈夫だろう。 だけれど、あの人は不老の体を手にしている。 恐らく病気にもならない筈だ。 そうなってくると、いずれ炉に何か悪さをして、それが問題になるかも知れない。 本来は世界の敵になっていてもおかしくない人なんだ」

 

ともに戦った人ではあるが。

 

確かにあの人の根っこの言動を考えると、今は利害が一致している、以上でも以下でもない。

 

それもあって、気を付けなければならないのも確かだ。

 

あの人は、変わってくれるだろうか。

 

だが、中年を過ぎると人間は変わるのが著しく難しくなると僕は聞いている。ただでさえ、人間は本質的にはほぼ変わらないのだ。老人となったあの人が、今更変われるだろうか。

 

しばし話していると、銀髪の子が来る。霊夢も起きだしてきた。

 

霊夢は少し機嫌が悪そうだが、酒を飲んだこともある。多少は回復したようである。

 

少し時間を取って、じっくり回復したいところだが、そうもいかないのだろう。いずれにしても、まずは皆で炉を見に行く。ヨナタンとワルター、イザボーも来る。ワルターは要領よく一眠りしていたようだった。

 

マーメイドが貼り付いているから大丈夫だとは思うが。

 

何が起きるか分からないのだ。

 

市ヶ谷の地下に入ると、人外ハンター達が運び出しを続けていた。何しろ構造が滅茶苦茶になっていたので、無事な武器や機械類もたくさんあるのだ。

 

死体も片付けを行っている。

 

此処で倒れた自衛官の古い亡骸も見つかっているようだ。カガがお経を上げ、カルラ天が浄化していた。

 

一礼だけして先に行く。

 

これらは彼等に任せてしまって良いだろう。

 

最下層に、炉はある。

 

また複雑な仕組みの戸を開けて、内部に入る。

 

マーメイドが唄っている。

 

そして、ドクターヘルが腕組みしてずっと考え込んでいた。

 

「む、来たか」

 

「どうしたんですか、ドクター」

 

「いや、何かバックドアみたいなのを仕込もうとした形跡があってな。 悪魔が直に乗っ取るのは上手く行かなかったと見るや、電子的なハッキングを掛けようとしたようなのだ。 ログを見る限りは上手くはいっていないが、誰がやったんだろうな」

 

バックドアなどの用語はフジワラが解説してくれる。

 

僕は頷くと、次の瞬間、霊夢とマーメイドと、ほぼ同時に反応していた。

 

その場にいる筈がない人間がいる。

 

あのヒカルという女だった。

 

フジワラとツギハギも遅れて反応。二人とも老いたりとはいえ歴戦の戦士としての動きである。

 

銀髪の子も飛び退いて、警戒態勢に入っているが。

 

同時に。

 

もう一人、この場にいるはずがない存在が出現していた。

 

緑の服と帽子を被った、ひょうひょうとした青年だ。

 

「タヤマが倒れたと聞いて、様子を見に来たのだけれども。 思ったのと炉の状態が違うわね。 異界へのゲートと化していると思ったのだけれど」

 

「おや、貴方もそうか。 私も此処を見に来て、それで少しは面白い状態になっているかと思ったのだが。 別の意味で面白くなっているようだ」

 

青年がヒカルに帽子を取って挨拶をする。

 

皆が見ている前で、ヒカルがくすくすと笑った。

 

「それで? 大天使達に殺されず生き延びた神々を集めて何を目論んでいるヴィシュヌ。 いや、ヴィシュヌとしての体は失って、今はクリシュナになっているのだったか?」

 

「そういう貴方こそ、随分と今回は穏健的ではないか。 東のミカド国をまるごと食い荒らしても良いくらいだろうに」

 

勝手に話を始める二人。

 

青年はクリシュナというのか。

 

いずれにしても、咳払いしたのは霊夢だった。

 

「勝手に話を進めないでくれるかしら?」

 

「あら、大いなる空を飛ぶ巫女さん。 英雄の皆も概ね揃っているようですね」

 

「相変わらず殿方に媚びたその言動、吐き気がしますわ。 しかも分かってきましたけれど、あなた女性ですらないですわね」

 

「なかなか鋭いお嬢さんだ。 言われているぞ明けの明星。 なお、男性ですらないのは私もだよ。 神々や悪魔は完全性を示すためか、半陰陽である事が多い。 私の主神格であるヴィシュヌも、化身にもよるが半陰陽であるのさ」

 

クリシュナとやらが言う。

 

そして、ばちりと火花が散るが。

 

先に引いたのはクリシュナだった。

 

「最大の懸念点である大アバドンが落ち着いているのを見て安心した。 近々正式に挨拶に伺うよ。 それではね……」

 

ふっと消えるクリシュナ。

 

ヒカルもそれで帰ろうとするが、待ってと声が掛かる。

 

マーメイドからだった。

 

「あら、可愛い人魚さん。 ……いや、それにしては力が大きすぎるな。 その様子だと、かなり今の状態でも弱体化しているようだが」

 

「これを食べて。 私の大事な人から預かってきています」

 

「……? ! これは!」

 

マーメイドが差しだしたのは、なんだ。だが、ともかくヒカルという女は飛びつくと、よく分からないそれを貪り喰らう。白目を剥いて、とても今までの可憐な女とは思えない姿だった。

 

ほどなくごきゅりとおぞましいまでの音を立ててリンゴだろうか。そういうものに見えたものを飲み下すと。

 

ヒカルは、じっと黙り込んだ。

 

「おい、勝手に話を進めやがって! なんだってんだ!」

 

「……これは。 そうか、そういう事だったのか……!」

 

「理解したのなら、次善の策がある筈。 私の大事な人からの言づてよ」

 

「分かった。 持ち帰って検討する。 ちっ。 まさか座がこんなことになっているとは思わなかった」

 

ヒカルがかき消える。

 

僕も霊夢も動けなかった。最大戦力の僕と霊夢に、ヒカルはずっと戦意をぶつけていた。それだけで、動けなくなるには充分だった。

 

殿が言う。

 

「マーメイド。 そなた何者だ」

 

「一番大事な役割は果たせたわ。 だから話しておくわね。 私は、別の世界から来たの。 この世界ほどは酷くないけれど、それでも東京が滅んでしまった世界。 その世界を、平行世界を渡りながら、何度も何度も救った人が私の大事な人。 手近な平行世界をすべて救った後、あの人の願いで私と同じような存在が、色々な世界に飛んだわ。 無駄な破壊と、破滅の未来を避ける為に」

 

そうか。

 

前から別世界の話は想像できていたが、そうだったのか。

 

殿は腕組みして、戻り次第詳しく聞かせろと告げ。

 

マーメイドは、寂しそうに頷くのだった。









ついにタヤマは倒れ、阿修羅会は事実上崩壊しました。

そしてマーメイドの正体が分かります。

更にはその行動によって、ヒカルと名乗っていた閣下も、行動の修正を余儀なくされるのです。




ちなみに霊夢が神降ろしした存在は、いずれも日本武尊やその妻の死因となった現象や神々となります。

余力が尽き掛けていた霊夢は、前衛で戦闘するよりも、苛烈な攻撃を一瞬でも封じることが役目と割切って動いたのです。

そして日本武尊も、いかなる手を用いても勝ってほしいと望んでいたため。それに激高することはありませんでした。



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