もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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原作におけるチュートリアルです。

この辺りはまだ易しいんですよねえ。ヤバイのは悪魔化したイサカル辺りから。凄まじい敵の火力に唖然とした記憶があります。そして立ちはだかるミノタウルス……

本作では原作の苦労などなんのその、豪腕フリンがてきぱきと基礎を片付けていきます。

元々理由があって基礎能力が無茶苦茶強いのと、たゆまぬ鍛錬もあって、最初から結構強いのです。あくまで「結構」にすぎませんが。






3、悪魔

奈落の前。

 

アキュラ王の像の裏側で、先達のサムライ達が並ぶ中、サムライ衆の長。名前をやっと知ったのだが、ホープというらしい。

 

ホープは昔はもっと優しい雰囲気の男性だったらしいのだが、悪魔に婚約者を食い殺された過去があるとか。

 

そうか。

 

悪魔はそれほど危険なのだな。

 

そう僕は肝に命じる。

 

階段が長く下へ続いている奈落には、いつも手練れのサムライが貼り付いているそうだ。

 

というのも、希にかなり強力な悪魔が、上層まで上がってくるらしいのである。

 

それらが出る時は、ホープを初めとする最精鋭が対処に当たるのだとか。

 

数人のサムライが戻って来て、ホープに耳打ちする。

 

「よし。 ではお前達五人、実戦訓練だ。 現在三層まで問題なく活動できる状態になっている。 悪魔はいるが、少なくとも先達達が助けに入れば撃退出来る範囲の雑魚ばかりだ。 お前達五人は、みっつの課題をこなして貰う」

 

一つ。

 

ホープが声を張り上げる。

 

悪魔を倒せ。

 

まあ、これは予想していた通りだ。

 

二つ。

 

悪魔と交渉して仲魔にせよ。

 

これはちょっと想定外だ。だが、サムライは悪魔を従えるとか聞いている。交渉して従えるのか。

 

ガントレット様あらため、ガントレットでいいらしいので、様付けは外すが。とにかくガントレットの使い方は講習で習った。ガントレットの精バロウズと話す講習もあったのだけれども。

 

様をつけなくていい。むしろバロウズが僕に従う立場らしいので。その通りにさせて貰う。

 

このバロウズが色々な機能を持っているらしく。

 

悪魔と交渉するのも、代行でやってくれるそうだ。

 

マッカを渡される。

 

「講義で教えたとおり、悪魔は自分より弱い相手には絶対に従わないし、何よりも相手が格上でも隙さえあれば足下をすくおうとする。 悪魔を従えるには契約だ。 マッカと後は宝石などがいいのだが……たまに傷薬などでも満足してくれる。 生命力を吸い上げる奴もいる。 そういったものを上手に使って、悪魔を従えろ。 悪魔を従えた後は、幾つかの応用があるが、それはまた教える」

 

これについてはちょっと予想外だが、それでもやるしかない。

 

そして最後。

 

「三層の奥に、赤い目立つ石をおいておいた。 悪魔が持っていかないように見張りのサムライがいるからすぐに分かるはずだ。 そこまで従えた悪魔とともに辿りつけ。 人数分はあるから、問題は無い筈。 この初期任務をこなしたら、諸君はやっと一人前のサムライだ。 心してかかれ」

 

「はいっ!」

 

四人の声が揃う。

 

それに対して、ナバールはあからさまに腰が引けている。使用人を連れて行っても良いかとか言い出す有様。ホープが一喝して。それですくみ上がっていた。使用人を肉盾として使うと言う訳だ。まあホープ隊長が怒るのも当たり前である。弱きの盾になるサムライが、弱気を盾にするなんて言語道断だ。

 

僕が最初に出ると、おっと嬉しそうに声を上げて、ワルターが続く。

 

そのまま長い階段を下りていくと、露骨に空気が変わった。

 

いわゆる広場に出た。湾曲した石の階段が、下に続いている。これは、色々と違う。殺すつもりで突っ込んでくる猪を前にした時なんか比じゃないくらい肌がひりついている。

 

思わず口の端をつり上げる。

 

どうしてこの武力があるのか分からなかった。

 

だけれども、これが悪魔の気配で。

 

これが人々を苦しめる存在で。

 

此奴らから人々を守るためにこの武力があるのだとすれば、これほど嬉しい事はないだろう。

 

階段の上には数名のサムライが見張っている。恐らく死にそうになったら割って入るというわけだ。

 

皆かなりの手練れである。

 

僕は階段をゆっくり下りていく。

 

辺りにはかなり気配がある。サムライ衆が強い訳だ。此処にいる連中は、熊なんかおやつ代わりに食べてしまうような存在だろうから。それに対応できるのだとすれば、強いのも当然だ。

 

階段を下りきると、一段と肌が冷えた。

 

そして、周囲に早速現れる影。

 

剣が全身に突き刺さった男。どう見ても生きているとは思えない。

 

それが、うめき声を上げながら此方に迫ってくる。バロウズが説明を入れてくれる。

 

「邪鬼ラームジェルグ。 戦いで死んだ亡霊が悪魔化したものよ」

 

「随分と不思議な格好だね」

 

「来るわ、構えてマスター」

 

言われるまでもない。

 

躍りかかってくるラームジェルグより早く動くと、僕は踏み込みと同時に、全身を捻って後ろ回し蹴りを叩き込んでいた。

 

手応えが堅い。

 

とんぼちゃんを持ち込みたかったな。

 

がつんと音がして、ラームジェルグが吹っ飛ぶが、地面で耐えて見せる。顔を上げたラームジェルグが。雄叫びを上げて剣を構えようとするが、その時には着地した僕が地面を蹴り、その顔面に飛び膝を叩き込んでいた。

 

顔が砕ける手応えがあったが、それでもなお動く。

 

反動で跳びずさった僕に、剣を振り下ろしてくるラームジェルグ。剣筋は、見える。それほど大した使い手じゃない。

 

ただ、力が強い。

 

二度、剣撃を紙一重で見切ってかわすと、踏み込み。

 

双掌打を叩き込む。

 

それで尻餅をつくラームジェルグ。

 

態勢を立て直す前に、跳躍しつつ、全体重を乗せた蹴りを奴の顔面にもう一度叩き込んでいた。

 

小柄な僕でも、それでも全体重を乗せた一撃、それも加速して撃ちだしたものだ。

 

それを受ければ、普通だったらひとたまりもないのだが。

 

ラームジェルグは石壁に叩き付けられ。

 

それでまだ動こうとし。

 

そして、それで力尽きた。何か良く分からないものになって消えていく。

 

「対象のマグネタイト化を確認。 流石ねマスター。 マグネタイトは自動回収するわ」

 

「ええと、マグネタイトってのが悪魔のご飯なんだよね。 悪魔が死んでもマグネタイトになるんだね」

 

「正確には、この世界に悪魔が体を持って降り立つためにマグネタイトが必要なの。 人間の体はマグネタイトそのものだから、悪魔も好物にしているのよ」

 

「なるほどね……」

 

上を見上げる。

 

サムライの一人が、フリン、悪魔を撃破と叫ぶ。頷くと、僕は先に行く。

 

横ではワルターがラームジェルグと激しく戦っている。ワルターは渡されている短槍で剣での攻撃を捌きながら徐々に押し込んでいるようだ。

 

ヨナタンはなんだか二つの頭を持つ馬みたいなのとやりあっている。イザボーも同じ相手と、華麗な剣術で渡り合っているようだ。

 

僕は先に行かせて貰う。

 

広間みたいなのを抜けると、狭い通路に出た。

 

講習でやったのだが、奈落は敢えて複雑な通路にしているという。

 

講習の途中でアキュラ王の伝承について復習した。

 

アキュラ王は奈落を通って現れ、後から追いすがってきた悪魔の群れを、天の御使いとともに退けた。

 

そしてアキュラ王が初代となって、この東のミカド国を作りあげた。

 

アキュラ王はまた悪魔が東のミカド国を陥れる事を避ける為、奈落を複雑な迷宮にした。

 

そういう話だった。

 

確かにこの狭い通路だと、長物は不利だな。

 

そう思っていると、不意にカラフルな羽を持った女の子が飛び出してくる。どう見ても人間ではない。

 

構える僕に、その女の子は興味深そうな視線を向けた。

 

「新米のサムライ? え、素手なの?」

 

「槍を持ち込みたかったのだけれど、槍はこういう所では扱いにくいからね。 それで次に得意な無手で来た」

 

「流石に悪魔を相手に無手で……」

 

「既に一体倒したよ」

 

そういうと、うそと笑いかけて。そして笑うのを止める女の子。

 

どうやら信じてくれたか。

 

まあいい。

 

バロウズが解説してくれる。

 

「妖精ナパイアよ。 ニンフと呼ばれる最下級神の一種ね。 人に友好的でもあるし悪意を持って襲ってくる事もある。 気を付けて、マスター。 先のラームジェルグよりは上の悪魔よ」

 

「……話が通じるなら、交渉というのは出来るかな」

 

「マスターの実力であれば、出来ると答えるわ」

 

「よし、じゃあやってみるか」

 

お金を出そうとするが、ナパイアがひょいと至近距離から顔を覗いてくる。

 

飛び離れると、くすくすと笑う。

 

「いや、今の隙かと思ったら、油断してないね。 油断しているようだったら、首を刈り取ってやろうと思っていたんだけど」

 

「其処までバカじゃないよ。 で交渉は? 僕は殺し合いでも一向にかまわないけれど」

 

「いや、いらない。 貴方凄く面白いから、仲魔になってあげる。 大サービスよ、ウフフ」

 

それは、幸運だったと思うべきなのか。

 

ともかく、ナパイアが実体を失い、ガントレットに消える。バロウズが、かなり幸運な事だと説明してくれた。

 

「迷宮の地図はマッピングをしておくわ。 迷った場合はすぐに告げてねマスター」

 

「おっけい。 みんな無事かな」

 

「相互リンク機能を確認する限り、息絶えた者は近場にいないわね」

 

「……」

 

一番心配なのはナバールだ。

 

あの様子だと、ラームジェルグなんかとても斃せないだろう。

 

ともかく、迷宮の中を歩いて行く。

 

そうすると、酷い臭いとともに、死体が此方に来る。サムライの服を着ているが、既に息絶えているのが明白だ。それなのに歩いている。

 

「屍鬼ゾンビよ。 死体に悪魔が宿って、そのまま動かしているものだわ」

 

「……楽にしてあげよう」

 

「戦うのね。 見かけよりかなり強いわ。 気を付けて」

 

頷くと、僕はゾンビ化したサムライに襲いかかる。

 

こんな所で息絶えて無念だっただろう。

 

壁を蹴って立体的に相手に迫ると、対応する前に蹴りで腐った頭を胴体から切り離していた。

 

 

 

一度戻り、物資を補給する。

 

六渡の戦闘を経て、支給されていた傷薬が尽きたのだ。何度でも補給して挑めと言われているので、そうさせて貰う。

 

ナパイアの他に、フケイというおじさんの顔をした鳥も仲間になってくれた。ただフケイは、圧倒したら怖れてそのまま降参した感じだったが。

 

僕はこれでも危ないと思ったらすぐに引き返すタイプだ。帰路の分も含めて、傷薬の残量が気になった。

 

それにおなかもちょっと空いた。

 

それで戻って来て、今用意されていたおにぎりを黙々と食べている。

 

少し遅れて、ワルターが戻って来た。

 

かなり疲れたようで、座り込むと傷薬をくれと補給班に頼んでいた。補給班はサムライではなく、カジュアリティーズの人間が雇われているようである。この下で何をしているかは知らないようだ。

 

「ちょっとお前が戦ってるところを見たが、無手でもいけるんだな」

 

「なんとか通用するね。 それと悪魔とやり合ってると、その力が流れ込んでくるみたいな感触を受ける」

 

「俺もだ。 少し戦いは楽になったと思うが、まだまだ厳しいな。 補給したら、もう少し先まで行ってみる。 何日で奥までいけるかなあ」

 

「君達も無事だったか」

 

ヨナタンもボロボロで戻ってくる。

 

背負っているのはナバールか。案の場悪魔にこっぴどくやられたのだろう。死んでいないだけマシだな。

 

その元婚約者の醜態を白い目で見ているイザボー。

 

見苦しくない程度の化粧をしているが、やはりかなり手傷を受けている。華麗なだけの剣術では、多分通用しないのだ。かろうじて勝ったという感じがありありと伝わってくる。

 

「マスター。 悪魔の中には、打撃が通じにくい者もいるわ。 そういう相手と戦うために、悪魔から魔術を習うのも手よ」

 

「魔術? 魔法とかの事?」

 

「呼び方が違うだけで基本的には同じね。 目くじらを立ててどうこういうほどの違いはないわ。 悪魔が信頼してくれれば教えてくれる事も多いし、人でも使えるものよ。 後は、人知を越えた武術もそうね」

 

なる程ね。

 

ともかく、ご飯は食べたので、トイレに行って。

 

それですっきりしたので、すぐに再挑戦する。思ったより時間が掛かっていたので、今日はもう一回の挑戦で終わりだろう。

 

ナパイアとフケイを即座に展開する。

 

僕より戦力が落ちても、悪魔は悪魔だ。

 

奈落入口付近での戦いは、ぐっと楽になった。

 

だが、少し進むと、すぐに悪魔が次々姿を見せる。見た事がある奴は対処が難しくはない。

 

今度はドロドロの塊みたいなのが来る。こいつは初めて見る。

 

「外道スライムよ。 マグネタイトが足りなくて、実体化し損ねた悪魔の末路ね」

 

「うーん、殴ると溶けそうだ。 フケイ、風の魔術」

 

「よかろう!」

 

フケイが何か知らない言葉を唱えると、烈風がスライムに叩き付けられる。

 

一発では倒し切れないが、それでも二発、三発と叩き込むと体がえぐれていき、やがて消し飛んで跡形もなくなった。

 

マグネタイトはバロウズが自動で回収してくれる。

 

よし。余力充分。奥へ。

 

階段を見つけるが、其処にも悪魔が屯している。先輩のサムライが要所で見張ってくれているが。

 

これは油断したらすぐにやられるだろうな。

 

そう思いながら、僕は確実に進む。

 

羽の生えたでっかい獣が出てくる。魔獣グリフォンというらしい。

 

何だかよく分からない動物を掛け合わせた存在らしいが。それらの存在が此処ではもう知られていないので、とても弱体化してしまっているそうだ。

 

いずれにしても、勝てない相手ではないが。

 

此奴を撃ち倒したら、一度戻る。

 

今日は、ここまでだ。

 

 

 

体が軽くなっているが、辺りは悪魔がまき散らしたのか、見るからに有毒な液が散らばっている。

 

最初は連携して戦うな。一人一人での対応力を見る。

 

勿論一人前になってからは、複数人で任務に当たる事も増える。だがそれ以前に、一人のみで強敵と戦う力も必要なのだ。

 

ホープ隊長がそう言っていたので、僕も仲間を連れてただ戦うだけだ。

 

モコイというなんだか体が緑色の、木の枝を組み合わせたみたいな悪魔も仲間に加えて、更に奧に。

 

どうやら此処が三層で。

 

此処に石があるらしい。

 

バロウズがナビをしてくれている。三層はそれほど広くはないらしく、本番になるのはこの下くらいかららしい。

 

悪魔の力も段違いに上がるそうだ。

 

確かに、手練れらしいサムライが見張りについている。それに、全身がひりつくような気配がずっと消えていない。

 

この三層にも、強力な悪魔は出るのでは無いのか。

 

そう思えて来る。

 

ちょっと段差になっている所があるな。でも、普通じゃ届かないか。

 

バロウズのナビは的確で、迷路を確実に覚えて、それでアドバイスをくれる。僕としても、頼りになると思う。

 

そして、今までのアドバイスを見る限り、あの段差の先しか、もう行ける場所がない。

 

辺りの地形を見て把握。

 

これは恐らく、悪魔の力を使って高い所に行くのを想定しているのだろう。だが、それは必要ない。

 

確かに此処まで来るのに悪魔の力も使った。

 

だが、僕は。人間の力で、出来るだけのことはやってみたいのだ。

 

跳躍と同時に、壁を蹴る。壁を蹴り上がって、更に跳躍。幾つかある瓦礫を順番に蹴り上がって、最後には回転しつつ、その回転の遠心力まで利用して、高い所にまで上がっていた。

 

着地。

 

ちょっと着地は失敗したが、まあこれだけ出来れば充分だろう。

 

驚いた顔をしているのは、先に此処で待っていたらしいサムライだ。

 

「お、おい、身体能力だけで此処に上がったのか!」

 

「はい。 いけると判断したので」

 

「……ま、まあいいだろう。 本来は悪魔に力を借りて此処に上がるんだが、そんなやり方は指定されていない。 だが、くれぐれも無理をするなよ。 軽業を失敗して死んだりしたら、それこそ笑い事にすらならないからな」

 

「ありがとございますっ。 戻りますね」

 

さて、皆はどうだろう。

 

赤い石が一つ不意に浮き上がると、消えた。

 

僕はおっと思って、段差の下を覗きに行く。ワルターがそこにいて、側には椅子を持った子供みたいなのが浮かんでいた。

 

「ありがとなポルターガイスト」

 

「ワルター」

 

「見てたぜ。 流石はキチジョージの鬼っ子だ。 俺は其処まで行くのが面倒だから、ちょっと小ずるい手を使わせて貰ったぜ」

 

へっへっへと悪そうに笑うワルター。

 

でも、手に入れる手段なんて誰も決めていない。隣にいる見張りのサムライも、苦笑いをしていたが。駄目だとは言わなかった。

 

「ワルター、ちょっとどいてくれるかな。 大がかりな術を使うんだ」

 

「ヨナタン」

 

「お、何をするんだ」

 

「見ていれば分かるさ。 アーシーズ、頼めるか」

 

ヨナタンが呼び出したのは、茶色い人型だ。

 

それが辺りの石をかき集めて、やがて階段を作り出す。見張りの先輩サムライが、おおと驚いていた。

 

それを一歩ずつ堅実に上がってくるヨナタン。

 

そして僕の側にまで来ると。先輩サムライに敬礼をして、そして石を手にとっていた。

 

「短時間で悪魔を使いこなしているな。 流石に噂に聞く俊英だ」

 

「ありがとうございます。 ……彼方からも来ますね」

 

見えた。

 

三層の狭い天井を這うようにして、飛んでくるイザボー。

 

鳥の悪魔二体が、イザボーを抱えて飛んでいる。あれは、女性の顔した鳥の悪魔だ。

 

なんだかちょっと性格が悪そうな顔をしているが、大丈夫だろうか。

 

すっと優雅に着地するイザボー。

 

「おぞましい毒があまりにも酷い臭いでしたから、工夫しましてよ。 ありがとうオシチ。 帰りも頼みますわ」

 

イザボーも赤い石を手に取る。

 

そういえばもう一人。

 

ナバールはどうしたのだろう。手をかざして見ていると。半死半生でこっちに来るナバール。

 

ヨナタンに、ワルターが言う。

 

「その階段、崩しちまえよ」

 

「流石に其処まではしなくても良いだろう。 僕もこの階段で下りるつもりだ」

 

「登って来やがった」

 

ナバールを支えているのは、心底嫌そうな顔をした子供のような悪魔だ。

 

バロウズが地霊コボルトだと教えてくれる。

 

コボルトというのは伝承が色々ねじ曲がってはいるものの、結局はお城などに現れて、気に入った存在の手助けをしてくれる悪魔だそうだ。それがいつの間にか鉱山などに現れて、貴重な石をそうでないものに変えてしまうと言う伝承と混ざり合い。更には犬の顔をしているなどと言う伝承も混ざったのだとか。

 

その結果、ナバールを支えているコボルトは毛深くて、尻尾も犬みたいなのが生えている。

 

ナバールがへろへろになっていて、それで体重がかかっているからだろう。

 

半泣きになっているコボルトを見かねたヨナタンが手を貸そうとしたが、先輩が厳しい目で見ていたので。それで嘆息する。

 

階段を這い上がってきたナバールは、赤い石を手に取る。そして、何故か僕に自慢げな視線を向けていた。

 

ぷるぷる生まれたての子鹿みたいに震えているのに。

 

コボルトが軽蔑しきった目をナバールに向けている。なんでこんなのに捕まったんだろうという表情だ。

 

「は、はは、取ったぞ。 わ、私もこれで、やっと一人前だ」

 

「悪いけれど、皆実力でこの石を手に入れたのに、貴方はヨナタンが作った階段を利用して、しかもその為体。 生きて帰る自信はあって?」

 

イザボーが鋭い指摘をする。

 

ワルターはうんうんと頷くと、さっさと先に行く。イザボーもオシチという悪魔を呼び出すと、元婚約者を放ってさっさと行ってしまった。

 

流石に見かねたか、ヨナタンが提案する。

 

「石は手に入れました。 未来には優れたサムライになるかも知れません。 僕がついて行きましょうか」

 

「駄目だ。 入口まで自力で戻るまでが最初の任務だ。 君が未来の俊英である事は分かっているが、それでも此処で手を貸す事はこの者の為にはならない」

 

「分かりました。 ナバール、君も此処まで来たんだ。 帰りを歩いて来るくらいは出来るな」

 

「な、何を」

 

咳払いすると、ヨナタンは僕を見る。

 

そして、とても真面目でまっすぐなことを言う。

 

「フリン、手伝ってくれ。 帰路の悪魔を掃討しておこう」

 

「分かった。 いいよ」

 

「ありがとう」

 

「僕としても世界が広いことがよく分かったから。 帰り道も悪魔を掃討して、それで少しでも力の肥やしにするよ」

 

その答えを聞いて、先輩のサムライがちょっと呆れていた。

 

ナバールはその場でへたばっているが。まあ、帰路を一時的に安全にしてやるくらいだったら良いだろう。

 

それに、悪魔を従える事には成功しているのだ。

 

きっと、最初より強くなっている筈。

 

誰だって最初は弱いんだ。

 

それが成長できるのなら。

 

それに、その成長できるという点では僕だって同じだ。心が成長できるかは、また別の話ではあるのだが。

 

アキュラ王の像がある広場まで戻る。

 

先に戻ったワルターとイザボーは手当ても終えて、既に休んでいた。

 

大の字に横になっているワルターと、綺麗に横座りをして、ハンカチで汚れを拭っているイザボーが対照的だ。

 

僕達が広場に現れ、最後に半分気絶しているナバールが、コボルトに引っ張られて出てくると。失笑が上がり掛けたが。

 

ホープ隊長が咳払いする。

 

「この最初の訓練で、死者が出る事も昔はあった。 生きて帰っただけ皆立派だ。 みなサムライになれる訳では無い。 サムライになっても、悪魔に不意を打たれて歴戦の者が死ぬ事は幾らでもある。 皆は悪魔との戦いに慣れているかも知れないが、今のこの者の姿は過去の皆だ。 そしていずれは皆を超えていく可能性もある。 それを忘れるな」

 

「は、はいっ!」

 

「良く最初の任務を達成したな。 五人とも合格だ。 報告は既に受けている」

 

ホープ隊長の側に具現化したのは、立派な槍を持った雄々しい戦士だ。白い鎧を着ていて、威厳と力強さが共にある。

 

もの凄く強い悪魔なのは一目で分かった。

 

この悪魔が、他のサムライと一緒に、僕達を監視していたのだろう。そういえば具現化されてみると、この気配が時々あったように思う。

 

「幻魔クーフーリン、ご苦労だった」

 

「あれがクーフーリンか」

 

「流石だぜ……」

 

サムライ衆もひそひそと話している。

 

確かに凄まじい強さが肌で分かるし、それを従えているホープ隊長の実力にも納得がいく。

 

この人はカジュアリティーズ出身らしいし。

 

偉そうにしているラグジュアリーズの謎の自信なんて、なんの根拠もないのだなと僕にはよく分かる。

 

ホープ隊長が、皆を厳しい目で見て、それで次の指示を出した。

 

「まずナバール。 そなたはしばらくは奈落で基礎訓練だ。 戦力が足りない。 先輩と連携して、下級の悪魔を狩れ。 それで力がついてきたら、本格的なサムライの任務についてもらう」

 

「ええっ……」

 

「異論があるのか。 あれだけ苦戦していて。 サムライ衆が任務で戦う悪魔は、奈落上層に出る悪魔など比較にならない実力だぞ」

 

「ひっ!」

 

ナバールが青ざめる。

 

そして、こくこくと頷く。

 

まあ、それでいいのだろうと思う。正直、僕としてもこいつと一緒に任務なんてやれる気がしないし。

 

ただ、僕達にもホープ隊長は甘くなかった。

 

「フリンは個人武力が優れているが、それでも小技がほしい所だな。 これより悪魔合体を教える。 仲魔をガントレットの力で合体させ、強力な悪魔を作る秘技だ。 それらの悪魔とともにしばらく雑多な任務をこなし、悪魔からあらゆる状況に対応できるように魔術を学べ。 ヨナタンはとても満遍なく優れているが、搦め手をもう少し覚えろ。 敵が騎士道精神を持っていないことは学んだはずだ。 ワルター、そなたは逆に戦いの時以外は礼儀を学ぶように。 そのような言動では、いずれ周りの誰もついてこなくなるぞ。 お前にもいずれ後輩が出来る事を忘れるな。 イザボーは流麗だが、圧倒的な力で迫る悪魔にはそれでは少しばかり頼りない。 足りない力を補うような悪魔を集めて、対応力を上げるように」

 

「はいっ!」

 

皆にそれぞれ駄目出しが入った。

 

ただ、ワルターもクーフーリンをみて、ホープ隊長の実力は一目で分かったのだろう。此奴は相手が強ければ、素直に言う事を聞く。

 

だから、敬礼もしっかりしていた。

 

それから、僕達四人は「第十六分隊」という部隊名で、しばらくは活動する事になったのだが。

 

別に常にこの部隊で活動する訳でもなく、それぞれで仕事を自由に受けて良いらしい。

 

ただ緊急任務が入った場合は、それが優先になるそうだ。

 

「酒場にKという男がいる。 サムライ衆の実力を把握していて、それで適切な仕事を回してくれる。 それらをこなして、サムライとしての実績を積み、自身の力も高めろ。 では、以上だ」

 

これで僕も正式にサムライだ。

 

教わっていた郵便屋さんに出向く。

 

サムライ御用達の郵便屋さんだ。護衛にサムライもつく。悪魔でも出無い限り、荷物が奪われる事はない。

 

ラグジュアリーズですら、サムライには基本的には強く出られないのだ。

 

それはここしばらくで、ラグジュアリーズのいる貴族街に何度か出て、その時にサムライの隊服を着ている僕らを見て連中の態度がまるで違うのを見て実感できた。

 

郵便屋さんで、最初に貰ったマッカの余りと。

 

戦闘時に悪魔から巻き上げたマッカの幾らかを、実家に送っておく。悪魔を撃ち倒すと、時々マグネタイトだけではなくマッカや、換金できるものも落とすのだ。特にゾンビになってしまったサムライのしがいから回収したガントレットを持ち帰ると、それをホープは悲しそうな目で見て、相応の賞金をくれた。

 

念の為に傷薬も入れておく。

 

問題は字をあんまり書けないことだ。手紙は魔法の言葉ではなく、正式な言葉で書かなければならないのである。

 

イザボーが来て、何をしているのか聞いてくる。そして事情を聞くと、苦笑いしていた。

 

「無双の武芸を持つ貴方でも、そんな欠点はあるのですわね」

 

「正式な言葉の字を書くのも覚えないとね。 ごめん、今は代筆頼める?」

 

「分かりましてよ。 貴方とは仲良くやっていけそうですし」

 

「ありがと」

 

両親に、お金を送ること。

 

サムライとしてやっていけそうだということ。

 

それに少し悩んだが、イサカル兄ちゃんがおかしな方向に道を踏み外さないように気をかけて欲しい事も書く。

 

多分僕が何か言うのは逆効果だ。

 

心についた傷ってのは、治るのに何年だって懸かる。

 

だから、イザボーに代筆して貰う。

 

字を書いたのはイザボーっていう新しく出来た友達だとも書くと。イザボーはちょっと恥ずかしそうにした。

 

「ラグジュアリーズの世界は、権力闘争の縮図で、友達なんてのはまずいないんですのよ。 上下関係とその時の権力者に対する阿諛追従が全てですの。 友達というのには、昔から憧れていましたわ」

 

「そっか。 でも、カジュアリティーズに触るのもやだって雰囲気のラグジュアリーズと違って、ヨナタンやイザボーはそういう表情しないよね」

 

「そんな連中はただの外道でしてよ」

 

「そっか」

 

嘘はついていなそうだ。

 

手紙を出す。

 

そして、酒場に二人で行く。

 

サバトの調査、という任務があった。サバト。聞いたことがない言葉だが、それも幾つもあり。

 

先輩サムライの中でもベテランが受けているようだ。

 

店主はKという元サムライだが、このKというのは通常語の基礎文字となるアルファベットだ。

 

代々の店主がAから順番にアルファベットの名前を継承していて、今代はKであるらしい。

 

かなりの武勲を上げたサムライらしく、今でも優れた武勇を失っていないのが一目で分かる。

 

さて、今日からはまずは細かい仕事をこなして、実績作りだ。

 

お給金が上がったら、また父ちゃんと母ちゃんに仕送りをしないと。

 

そう思った。

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