もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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明らかに人間の強みを捨てて存在していたガイア教団。力を貴ぶといいながら、強力な悪魔にもっとも好き放題される事を受け入れてしまっていた組織。

悪い夢から覚めるときが来ました。

こうして東京の人間は、ついに一つの麾下に纏まることになります。

最後の戦いに備えるために。







3、ガイア教団を麾下に

秀は意識を失ったフリンをそのまま担いで連れ出そうと思ったが。

 

周囲に現れるのは、ガイア教徒達だった。

 

ただ、あの双子の妖怪老婆はいない。

 

まあそうだろうな。

 

そう秀は苦笑していた。

 

ヨナタンが前に出る。

 

殿が側で見ている。徳川家康が。

 

ヨナタンは、今後東のミカド国と統治するにあたって、殿に色々話を聞いている。それで短時間で、深い見識を得ている。

 

秀は、自身の生きた歴史では、あまり徳川家康とは接点がなかった。

 

だが、接してみれば分かる。

 

徳川家康は、狸だの何だの言われているようだが、文字通りの英傑だ。戦国時代を統一したのは偶然じゃない。

 

嫌う者も多い存在ではあるだろう。

 

だが、その能力は、総合力に関しては戦国随一。

 

政治力に関しては、日本史中最高だろう。

 

世界史でも間違いなく上位に食い込んでくる存在だ。それから薫陶を得れば、それは成長する。

 

「ガイア教徒の皆。 リリスは倒れた。 ラーヴァナとインドラジットの親子も倒れた。 もう戦う理由はないのではないか」

 

「し、しかし我等はどうすればいいのか」

 

「僕は君達に行動を強制しない。 ただし、君達自身だけにだ。 君達一人一人が、混沌の理を守るというなら、好きにすればいい。 だが家族や君達の周りにいる存在にまで、それを押しつけるのは許さない。 後は好きにすればいい」

 

理想的な言葉だな。

 

秀も頷く。

 

ガイア教徒達は恐縮したように頭を下げるが。

 

だが、もう一言必要だ。

 

ガイア教徒達は、実の所混沌の理なんかに生きていない。力が全てを決めるというルールを口にしてはいるが、現実には「そういう正義」が欲しいだけの集団だ。

 

結局のところ、此奴らもそういう「全肯定」が欲しいだけなのだ。

 

人間の社会は思考停止できる全肯定と全否定を基本的に貴ぶ。

 

せっかく知能を得た生物が、その知能を投げ捨てにかかる。それはもう、戦国の業を見てきた秀も、嫌になる程理解できている事だ。

 

銀髪の子が、ヨナタンの袖を引く。

 

それで、ヨナタンも理解したようだった。

 

「これから我々は、四文字の神と、その軍勢を相手の戦いを準備する。 その後には、東京の外に出て、それぞれが好きに暮らせるコミュニティを作れるようにするつもりだ。 その戦いには君達も加わり、僕達の助けになって欲しい」

 

「おお……!」

 

「どうするかは君達が判断するんだ」

 

「いえ、決まっている! いや、決まっておりまする! 我等はこれより、あなた様の麾下に!」

 

こうなることが分かりきっていた。

 

だからこそ、先が見えていたあの狡猾な老婆二人は逃げたのだ。

 

カルトというのは、末端の信者は阿呆の集まりだが。教祖もそうである可能性が高いのだが。

 

それを裏から操っているような連中は違う。

 

あの老婆二人は、典型的なそれだったのだ。

 

ガイア教団は、そもそも今回の件で、明けの明星に見捨てられた。捨て石にされたと言っても良いかも知れない。

 

元々あったようなもっと強大な組織であったら、こうも脆い瓦解を起こさなかったかも知れないが。

 

しかしながら、現実はこうだ。

 

散々弱体化した挙げ句、構成人員も減った今だったからこそ。

 

こうも無様な壊滅を遂げてしまったのかも知れなかった。

 

ヨナタンがさっそく、ガイア教徒達に指示を出す。聖堂の罠を撤去し、今まで虐げられていた人間を全て解放する。

 

雑多な悪魔に関しても、既に好戦的な者達はラーヴァナに従った挙げ句に討たれた。後は野良の悪魔だが、それに関しては人外ハンターとともに駆除して行けば問題はないし。四天王寺とやらをどうにかして、竜脈というのを正常化すればだいぶ悪魔も大人しくなる筈。

 

実際秀も、あの苛烈な戦国の世で、妖怪を見るのは限られた場所だった。戦場や墓場、後は何らかの理由で妖怪だらけになるようなことをしでかした場所だけだった。

 

本来は悪魔はそれくらいの存在であって、今の東京がおかしすぎるのだ。

 

ヨナタンと、補助のためのイザボーが残る。

 

秀は殿とフリンとともに一度戻る。

 

マーメイドは用があると言って消えた。

 

多分もう隠している事はないだろうが、いずれにしてもマーメイドは強い。まだ何か、感じ取ったのかも知れない。

 

銀座でも急速な解体作業が始まっていた。

 

人外ハンターが入って、作業を始めている。街を解体するのではない。残っている街は、出来るだけ活用するべきだからだ。

 

地下に満ちている毒の道やら。

 

悪魔が好き放題に縄張りにしている場所やら。

 

彼方此方で好き勝手にしている破落戸やら。

 

そういうのを、片っ端から排除し始めたのだ。

 

既に聖堂は落ちている。

 

それを理解しているからか。目端が利く破落戸は逃げ始めているが、人外ハンターの方が動きが速い。

 

今回の会戦で動いていたのは、フリンや秀達だけではない。

 

フジワラも事前に準備をして。

 

制圧のための作戦を事前にしっかり立てていたのだ。

 

銀座を動かしていた金だけの理屈も、これで少しはマシになっていくと良いのだが。ともかく、伸びているフリンを担いで。ターミナルへ。

 

其処からシェルターについて。ようやく一段落していた。

 

シェルターにはサムライ衆が来ていた。

 

一部は東京駅での会戦に参加してくれていたらしい。フジワラがねぎらっている。フリンが力を使い切った様子で戻って来ているのを見て、それで絶句している者もいた。既にフリンの武勇は、知られていると言う事だ。

 

とりあえず医療班に任せる。

 

アサヒがすぐに手慣れた様子で回復の得意な悪魔達を出すのを見て、頼もしくなったなと目を細めたが。

 

それよりも先に、まずやっておくべき事がある。

 

フリンが回復の魔術を受けると、呻いて目を開ける。

 

休んでいた方が良いとアサヒが言うが、先にやらないといけないのだ。

 

「オテギネが限界だ。 ドワーフにどう頼む。 修理を頼むか。 それとも……」

 

「オテギネは、もうこれ以上はついていけないと思う。 だから……」

 

「分かった」

 

問題は、この先どういう方向で鍛えるか、だ。

 

オテギネは秀から見ても充分にいい槍だ。

 

結城家に伝わっていた名槍だったか。後に徳川家の所有に移ったのだが、最終的にこの歴史では戦禍に巻き込まれて消失した筈。

 

ただ天下三名槍というだけあって、その槍としての性能は破格。

 

秀としても、これほどの槍はそうそうないと思わされる程だった。

 

他の天下三名槍も知っている。

 

一つは福島正則が使っていた日本号。

 

ただこれは、そもそもとしてフリンとはあうまい。

 

フリンは無双の武人といっていい存在に今や成長しているが、ただ暴だけが先にあった福島とは違う。

 

あの福島とも、前の歴史では違う会い方をしたんだったな。

 

そう思うと、ちょっと懐かしい。

 

ただいずれにしても、日本号はフリンの手にはあわないだろう。

 

もう一つの天下三名槍は、知名度からしてもちょっと格が違う。だが、ひょっとするとだが。

 

フリンについては、前に聞いた。

 

合戦場に出ているような夢を見ると。

 

殿……徳川家康公を、以前から知っていたような気がすると。

 

だとすると。

 

ドワーフたちのところに、傷んだオテギネを持っていく。ドワーフの親方は、オテギネの痛み方を見て目を細めていた。

 

素人が雑に使って壊したのでは無い。

 

達人がそれ以上の相手と戦い。達人の力について行けなくなったのが明白だったからだろう。

 

「打ち直しだな。 それでどうして欲しいと」

 

「本人はこれ以上オテギネではついていけないといっていた。 それで……蜻蛉切りと呼ばれる槍に出来るか」

 

「蜻蛉切り? ふむ、なるほど……こういう槍か」

 

「そうだ。 私が見る限り、その槍こそフリンにとっては半身となるものだと思う」

 

蜻蛉切り。

 

それを使った武人の名は。

 

そしてフリンが、もしも徳川家康公を知っていて。その戦いを支えた最強の武将だったのだとすれば。

 

秀も前の世界ではその武将に会ったことがある。

 

妖術の類も使えないのに、凄まじい使い手だった。あれは確かに、「東国最強」といわれるだけのことはある。

 

なんでも後の世では徳川憎しの連中が、貶めるような言説をしていた事もあるらしいが。実際にあった秀がいう。

 

例え歴史が変わった今であっても。

 

あの者だったら、東国最強の名を冠するに相応しかったと。

 

「分かった。 グングニルやゲイボルグであったら新しく打つのは難しかっただろうが、その槍であれば。 そしてリリスを打ったというこのオテギネの残骸を利用して作り直せば。 最強の魔を討ち、神を倒す槍に化けるだろう」

 

「そうか。 頼むぞ」

 

「ああ、任せておけ。 職人の誇りに賭けて」

 

さて、とりあえずこれでいい。

 

霊夢の様子を見に行く。

 

まだ疲れが残っているようだが、既に準備を終えているようだ。だが、ガイア教団の後始末と。

 

それとフリンの回復をまず待ちたいのだろう。

 

それに動けるようになったといっても、まだ疲れは取れきっていないし。

 

これから天照大神を神降ろしするとなると。力が上がってきているという霊夢でも、簡単にはいかないだろうから。

 

「リリスだかを倒したらしいわね」

 

「ああ。 手強い相手だった。 私もともに戦ったが、既にフリンは私達に並ぶ使い手になっている」

 

「そう。 あたしも神降ろしによる状況の変化にだけではなくて、バリバリ最前線で戦いたいものだけれどね。 流石にこれだけ大物の神を立て続けに降ろすとなると、負担が尋常じゃ無いわ」

 

「それでも出来ているのだから大したものだ」

 

地獄に会いに来た霊夢のことは今でも覚えている。

 

閻魔に紹介されたといって、地獄の最深部で戦い続けていた秀に会いに来た。周りには浮かばれぬ亡者。業を抱えた極悪人の霊。それらを片っ端から斬り、少しでも業から逃れられるように。次はマシな奴になれるように。

 

そう、全てを狂わせてしまったことを嘆き、改心して自ら地獄へいった叔父のためもあって。

 

戦い続けていた秀の前に。

 

まるで怖れる事なく、霊夢は現れた。

 

襲いかかった妖怪に振り向きもせず札で爆散して、そして事情を説明する胆力。

 

大した奴だと、感心させられたっけ。

 

「ガイア教団を黙らせたことで、人間の勢力はまとまった。 後はクリシュナの動きが気になるところだが」

 

「随分と多弁になったわね」

 

「必要だからな」

 

「……クリシュナは恐らく、座につくのは自分でなくてもいいとは思っていても、ましな理屈を持つ存在が座についてほしいと思っているのでしょうね」

 

それはそうだろうな。

 

クリシュナ自身には、見た所座とやらに執念を燃やしているような印象はない。四文字の神を倒す事に執念を燃やしている様子はあったが、それ以上でも以下でもなかった。

 

それはクリシュナ以外の生き残っている神も悪魔も、みな同じなのだろう。

 

ただ、秀には結局クリシュナも、四文字の神に対する全否定、という。全肯定全否定の理に捕らわれているように見える。

 

結局のところ、神も魔も、そういう意味では座についてはマシな世界など作れないのだろうとも思う。

 

「とりあえず四天王寺とやらの復旧と、大天使どもを四文字の神から切り離す作業を同時にするとして……」

 

幾つかの話をしておく。

 

今のうちに、片付けられることは全てやっておく必要がある。

 

秀は今まで蓄えてきた力を全て出し切って、この世界を変えられるなら変える。以前、同じように世界を変えたときは、闇に墜ち果てた叔父を救うためだった。

 

今度は、闇に閉ざされた東京と。

 

飼い殺しにされている東のミカド国の民を救うため。

 

それだけで、大きく意味が違う結果になるはずだった。

 

 

 

低空飛行で飛ぶ双子の老婆。二人で互いの超能力を増幅し合い、最大の速度を出して銀座から離れる。

 

まさかラーヴァナとインドラジットがあれほど容易く破れるとは。

 

あれではリリスとその同類も勝てはしない。

 

それを理解したからこそ、双子の老婆は逃げている。

 

今はクリシュナに、ある手札を開示して、多神連合に加わる事を考えておきたいのだが。

 

それも断られた場合は地下に潜って、組織の再編からだろう。

 

老婆達はまだ諦めていない。

 

それは永く生きてきて。超能力で寿命すら操作してきたからこそ、生にしがみつく本能が強くなっているが故。

 

ガイア教団にいても、あのままでは確定で戦犯として殺される。

 

それを見抜いていたから、こうして逃げるのだ。

 

だが、強い気配が立ちふさがる。

 

老婆二人は、すっと空中で止まっていた。

 

「誰じゃい!」

 

「のかんかいわれえ! すっころすぞ!」

 

「酷い訛り。 それでは何をいっているか分からないわ」

 

地面から浮かび上がってきたのは、あのマーメイドだ。規格外すぎる力の持ち主。老婆二人は安心した。なぜなら、此奴はそれほど好戦的では無いと判断したからである。

 

老婆二人はある程度心を読める。

 

このマーメイドの心には哀しみと憐憫がある。

 

それはもっともつけ込みやすいものなのだと、ろくでもない生を送ってきた老婆は知り尽くしていた。

 

「あ、あんたさんか」

 

「見逃してつかあさい。 非力な年寄りでな」

 

「貴方たちが持っているそれ、九頭竜の封印ね。 それを渡してからいきなさい」

 

「!」

 

一瞬で見抜かれた。

 

九頭竜。

 

竜脈思想の奥義の一つ。竜脈を竜とみなした場合、九つの頭を持つ巨大な竜として認識できる。

 

そして日本にはその頭の一つがあり。

 

その思想がある以上、アティルト界からアッシャー界へと呼び出すことが出来る。その気になれば、この陰気な将門公が展開した天蓋を突き破って、東のミカド国を即座に消し飛ばす事も可能だ。

 

ただそれをやるには、百万単位の魂がいる。

 

そんな魂は現在は地獄にしかないが。

 

地獄では確か今、多数の亡者が並んでいて、処理が追いついていないと聞いている。それをかっさらってくれば、すぐに数など満ちる。

 

地獄の神々は怒るかも知れないが。

 

そんなもの、力に比べれば些細なものだ。

 

いずれにしても、これは切り札の中の切り札。

 

渡すわけにはいかない。

 

「かんにんや、かんにんや」

 

「これは生命線なんや。 だから、どうかみのがしてつかあさい」

 

「それを貴方たちみたいな存在がいい方向に使う事はあり得ない。 残しておいても禍しか産まない。 それを手放すなら……見逃してあげるわ」

 

「……クソッ! やむをえん!」

 

老婆達は知っている。

 

もう寿命が長くないことを。

 

だから後継を育てていたのだ。

 

実はこのからだすら、乗っ取ったものだ。本来は優れた力を持っていた双子の姉妹だったが。

 

それを乗っ取り、自分の体にした。

 

次の体が必要だった。

 

だが、死体として戻ってくれば良かったトキは、あろう事か生きて戻って来た。その上ベリアルは老婆達のもくろみを見抜いていたからか、出来るだけ苦しめて殺そうと考えたトキを逃がしてしまった。

 

怨念と苦痛をたくわえた死体が一番よりしろとして長持ちする。

 

この体のように、だ。

 

老婆が、二方向に飛んで逃げる。どっちかだけ生き残ればいい。この体は、それぞれ魂を分割していれているもの。

 

老婆はもとは双子だった。

 

だが、一つの体に同時にはいっていた時代もあり。今ではどっちがどっちかも分からなくなっていた。

 

だから、一つの魂になっても、其処から分割すればいい。

 

新鮮な死体さえ見つければ、そこから新しくやり直せる。時間さえ掛ければ、新しい死体を見つけて、乗り換えていけるのだ。

 

古い古い時代には対魔師だった。

 

だが、その心を忘れ、今はただの化け物となった老婆は必死に逃げ出すが。

 

その両者ともが、止まっていた。

 

動けない。

 

バカな。

 

超能力が発揮できない。地面に落ちて、そのままもがくだけ。ずるりずるりと引っ張られていく。

 

マーメイドに向けて。

 

老婆達の喉からひっと声が漏れた。

 

「色々な世界を旅してきたの。 九頭竜を兵器として使おうとする者ともあったし、貴方のように志を忘れて化け物になってしまった人も見た。 救えない存在は存在しているのを私はもう知っているの。 だから、ごめんなさい」

 

「ま、まてっ!」

 

ばきんと音がした。

 

懐に入れていた、一双の球。九頭竜の封印が、瞬時に冷凍され、砕かれていた。もはやただのゴミ。

 

これで老婆は、多少強いだけの妖怪ババアと化してしまった。

 

これでは、多神連合に売り込むどころでは無い。

 

それにだ。

 

哀れみを込めて見下ろしているマーメイドは至近。こいつは元々船乗りを死に誘う存在だ。

 

歌われたら、それで終わる。

 

恐怖が心臓を鷲づかみにする。絶望と恐怖が、既に人間として生きるには無理がありすぎる肉体に、致命的な負担を掛けていた。

 

老婆二人に宿っていた魂は、そのまま体を離れた。

 

死体は。死体は。

 

探すが、そんなものはない。

 

そして、地下から伸びてきた死神の手が。暴れる魂を掴むと、地獄に引きずり込んでいった。哀れな悲鳴を上げる魂だが。それはもう、どちらがどちらかすらも、自分で理解していなかった。

 

 

 

ダグザはガイア教団が瓦解していく様子を見つめて舌を巻いていた。まさかこんなにあっさり瓦解するとは。

 

クリシュナが変な風に動いているのと同時に、明けの明星も動いているのはダグザも確認していた。

 

ダグザも独自の方法であの四文字の神を撃ち倒す事を目論んでいたからだ。出来る範囲の事は全てしていたし。

 

クリシュナの勢力は邪魔になる可能性が高かったから、注視していた。

 

ガイア教団はクリシュナの麾下よりも更に強大な悪魔が揃っていたから、更に警戒していたのだが。

 

明けの明星が主力に手を引かせたとは言え。

 

まさか一日も経たずに瓦解するとは、本当に驚かされた。

 

特に最強硬派だったインド神話の魔族達。

 

ラーヴァナはともかく、インドラジットをあれほど容易く破るとは、今も信じがたい。インドは数学に秀でた文化圏と言う事もあって、その活躍は具体的な数字で示されて、途方もないインフレーションを起こしているのだが。

 

溜息をつくと、一旦距離を取る。

 

このまま人外ハンターと連携している神々に混じって、創世が行われるのを待つか。

 

今人間達は、明らかに天に攻め入る準備をしている。二十年ほど前にも同じ事をしようとして、三英傑がそれを為せずに帰還した。だが、今度は三英傑以上の人材が揃って、傲慢な天の座の主の家の戸を叩こうとしている。

 

天使共はダグザが見る所、うすうす気付いているようだが、圧倒的優位に胡座を掻いてこれは対応が後手に回る。

 

さて、どうするか。

 

フリンとやらは、凄まじい豪傑だった。

 

ダグザがやり込められた狡猾さと、強さを併せ持っていた。

 

オーディンの知恵とトールの力を併せ持った豪傑。そんな印象を受けた。ただ、その頭は創世のために使おうとしているようには思えなかったが。

 

かといって、他に人材は。

 

フリンと一緒にいた三人は、もうあり方が決まっている。たぶらかすのは無理だ。

 

英雄達は、あれはもうとっくにあり方を決めている存在。今更ダグザが何を吹き込んでも都合良く踊ることはないだろう。

 

いるかも知れないが、ダグザは多分好機を逃してしまったのだと思う。

 

元々ダグザは陰謀が得意な神格ではない。

 

戦闘は出来る。荒々しいケルトの神格だからだ。だが、それが限界。この世界の有様を見て、個からの解放という事を願ったけれども。それは本当に正しかったのかと、不安にさえなってくる。

 

腕組みして考え込んでいると。

 

クリシュナが姿を見せる。

 

「おや、随分悩んでいるようですなダグザどの」

 

「……消えろ。 俺は今少し機嫌が悪い」

 

「そのようですな。 ただ、このままだと貴方は出遅れる。 我々は次の段階に計画を移そうとしています」

 

「それをわざわざ俺に聞かせてどうするつもりだ」

 

苛立ちを感じるダグザが凄むが、勿論その程度で怖れるクリシュナではない。ダグザも相手が引くとは思っていなかった。

 

そもそも此奴は目的のためには手段を選ばない。

 

下手をすると、自身を生け贄にして、四文字の神を倒すような事を考えるかも知れないのだ。

 

「我々は次の段階で、戦力を温存します」

 

「ほう……」

 

「人間達に恩を売った。 ついでに明けの明星とその配下になっている神々は、恐らくは天の軍勢との全面戦闘にどうあっても巻き込まれる。 つまり……」

 

「消耗しあったところで漁夫の利か。 貴様が考えそうなことだ」

 

鼻で笑われる。

 

ダグザもいい加減苛ついてきたが、どうやらクリシュナの狙いは違うらしい。

 

「この間人間の根拠地を見てきましてね。 今一線で戦っている英雄達の後の世代に、四人ほど有望な子供がいる。 座をどうにかするには、どの道人と神の力が必要で。 恐らく今の段階だと天照大神と人間がそれを為すでしょうね。 それを貴方は受け入れるのか」

 

「今更。 もっと早い段階で神殺しを見つけていれば好機もあったがな。 人材の育成を始めるには遅すぎる」

 

「ふっ、そうでしょうか。 私は今回の座の獲得は諦めますが……」

 

今回は、か。

 

神々らしい思考だ。

 

なる程、分かってきた。

 

此奴は今回、多神教の世界を作らせるつもりだ。そもそもとして、この国は極端すぎるほど多神教で、余程横暴な真似をしない限りあらゆる信仰に寛容だった。良い例が八幡信仰で、この国でトップに近いほどの信仰を集めている神だが、正体はこの国の誰も知らないのである。

 

一神教がこの国に根付かなかったのは、あまりにも横暴な行動を取ったから。他の国でやってきたことが、この国では通用しなかったのだ。

 

ただ、ダグザは思うのだ。

 

そう簡単にいくだろうかと。

 

「まあいい。 お手並み拝見と行こう。 やはり俺は俺で好きなようにさせてもらう」

 

「……そうですか。 では」

 

クリシュナが消えた。

 

これは、わざとダグザをたき付けに来たな。ダグザがクリシュナの言葉で踊ることなどないと分かっていた筈。

 

そして神殺しになりうる乾いた魂もまたない。

 

それはダグザも、ある方法で人間の根拠地を見てきて既に知っているのだ。

 

そうなり得た者はいた。

 

だがその者は、戦士としてまっとうに育っている。

 

ダグザも戦士の文化の神だ。

 

だから、まっとうに育つ戦士を見れば、悪い気にはならない。そういうものなのである。この戦闘形態と言える姿になったとはいえ、ダグザも本来の性質を全て捨て去った訳ではないのだ。

 

いずれにしても、クリシュナの思うとおりになるのも癪だ。

 

幾つか手を打っておくことにする。

 

気は進まないが、人間の根拠地に向かう。既に天照大神が戻り、余裕が出来れば人間は素戔嗚尊も蘇らせるだろう。

 

まだ主神というには頼りない力のようだが、それでもこの地の主神だ。既に外来種に比べて力は圧倒的。

 

これで竜脈の力が戻れば、四文字の神がいる上位次元への扉をこじ開けることも可能になる筈だ。

 

クリシュナは今回は諦めるといっていた。

 

だが、そんなことをさせるくらいなら。

 

いっそのこと、座に神がつく仕組みそのものを終わらせてしまうのも手かも知れない。

 

何度か空間を跳んで、人間の根拠地近くに出る。

 

丁度いい。

 

外に出ていた銀髪の娘を見つける。

 

最近はその実力も知られているのか、外を一人で歩いている事も多い。悪魔が瞬殺される様子もよく見られるため、タチが悪い人外ハンターも怖れて近寄らないようだった。

 

目の前に出ると、銀髪の娘は足を止める。

 

むっとしたようだった。

 

「久しいな」

 

「別に呼んではいないが。 何用だ」

 

「俺単騎とお前単騎。 どちらが強いかな」

 

「あいにくだがこの娘は戦闘で更に力を取り戻している。 お前が相手でもそうそう遅れは取らん」

 

どうやらそのようだ。

 

辺りに人がいないこともあって、殿といわれているこの地の英雄が出て来ている。それはそれと、銀髪の娘は油断している様子もない。

 

「一つ取引がしたいと思ってな」

 

「言って見ろ。 暗躍されるよりはその方が良い。 もっともお前は条件が揃わないと、本来暗躍するような神格ではないようだがな」

 

「そうだな。 我ながら苦手な事をしている自覚はある。 どうせ座をどうするか考えるのはお前だろう。 俺から、今までの座がどうだったのか教えてやる」

 

「……」

 

ダグザは知っている。

 

最初に座についていたのは、ティアマトの前の神。

 

それは座にルールなど求めなかった。

 

続いてマルドゥークがティアマトを倒して座についた。

 

だがマルドゥークは移り気で、バアルが現れるとあっさりその座を手放した。

 

バアルはラーに座を奪われ。

 

ラーは四文字の神に座を奪われた。

 

それぞれルールは少しずつ違っていた。

 

いずれにしてもその違いは、人が獣から人へと変わっていくものだった。ただし、それがいつの間にか決定的に歪んだが。

 

特にラーの時代の、「神による人の統治」の時代がまずかった。近親交配で神を無理矢理作り出そうとするルールは、人間を極めて弱体化させた。エジプト王朝を何度も破滅が襲ったのはそれが故だ。

 

近親交配で最高の血統を作り出せるという妄想は、以降も人間を蝕み。近年でも優生論とかいう愚論になって現れている。

 

それを告げると、英雄はふむと鼻を鳴らしていた。

 

「つまり座の影響は、例え神が変わっても残り続けていると言う訳だな」

 

「そういうことだ。 理解が早いな」

 

「なるほど、貴様の思考は理解した。 貴様、この世界を終わらせる気だな」

 

「……!」

 

勘が鋭すぎるのも考え物か。いや、此奴の場合は勘ではないな。舌打ちしたダグザが飛び離れる。

 

英雄はいう。

 

「今わしの方でも座についての仕組みを勉強しているところだ。 どうやらくだらんルールでこの座の仕組みが作られ、少なくとも座にいる存在が変わるとこの星に関係する法が変わるということも。 その法は恐らくだが、世界に存在しているもっとも世界を動かしている生物に適応されることも。 量子力学による観測論に近いともあの爺めはいっていたな」

 

「座を科学で解き明かそうとするか貴様……」

 

「それが「在る」以上科学で解き明かせぬことなどないとあの爺めはいっておったよ。 わしも同感だ。 仮に座に何かがあるとしたら、何かを歪める理屈でもなく、その歪める理屈を容認するものでもない。 むしろわしはお前の何もかも無に帰すべしという思想を聞いて確信した。 どうせ座に存在する者が座をいつしか破壊し、その度にこの世界に住まう主流の生物は変わっていったのだろう。 たかが一つの星にある座だかで、138億年だかもっともっとだか続いている宇宙そのものが消し飛ぶというのも不自然な話だ。 シヴァ神が行うと言うルドラの秘法とやらも、宇宙といいながらこの星の生物に破滅的な影響を与えるものであろうよ」

 

そこまで理解していたか。

 

宇宙とは、古くは世界全ての事だった。現在人間が把握している宇宙全ての事では無い。

 

英雄が言う通りだ。

 

座の影響力はこの星にしか及ばない。

 

「ダグザよ。 大人しく呼び出すまで待っているのだな。 少なくとも座によって世界全てを一から作り直すような事は願わん。 それはお前が戦士達のあくなき殺し合いを見続けて到達した絶望から来たものではないのか? わしはあくなき殺し合いを終わらせたものだ。 お前とは考えが違うと知れ」

 

「……面白い、いいだろう。 確かにその点ではお前の方が上だ。 見届けてやろうではないか」

 

舌打ちしながらも、ダグザはやはりこの方法は自分には向かないと判断していた。

 

言われた通りだ。

 

ケルトの歴史はあくなき殺し合いとだましあい。ケルトに誕生した英国という国の外交における悪辣さがそれを示すように、人間でありながら人間性を極限まで嘲弄したのがケルトの最終的な到達点だ。ダグザは末がそれであることに絶望した。故に個からの解放を願ったのだが。

 

違う結論を出すものがいるのなら、それはそれでかまわない。

 

ダグザは、その結論を見守る事にする。

 

完全に言い負かされたが、それはもういい。ただ今は。すっきりした気持ちであった。







はい、こうしてフリンのための最終装備が創られる事になります。

それはフリンのための装備であり。

文字通り転生しても手に馴染む、最高の武具でもあります。



……ちなみにこの武器、いわゆる村正です。村正が徳川家に祟るなんてのは大嘘だという良い例ですね。単にあの時代、性能が良くて安いからたくさん村正が出回っていただけなのです。


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