それからわたしは……死ぬほど努力した。
筋トレと走り込みの量を増やし、夜遅くなるまでレースの走り方の勉強をする。
感情を殺し、ただ勝つための機械として活動し、己を強化した。
レースだけでなく、歌やダンスも頑張った。
友達のライスシャワーやキングヘイローが心配してくれるけど、今はどうでもいい。
今、わたしに必要なのは楽しく生きる事じゃない。
勝利のためのトレーニングだ。
もう……白雪トレーナーを悲しませたりしない。
絶対に。
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勝つための機械となってから二週間後。
GⅡレースが始まった。
空は暗く、小雨が降る中、多くのウマ娘達がゲートに入る。
そんなウマ娘達は……わたしのことが気になって仕方がなかった。
「なに、あの子?」
「あの時とぜんぜん違う」
「どうしたんだろう」
今のわたしはどんな風に見えているか、わからない。
だけどそんなのはどうでもいい。
今、わたしに必要なのは勝利。
感情は全て消せ。
勝利のために動く機械になれ。
「もう二度と……負けない」
その呟いた時、ゲートが開いた。
わたしを含めたウマ娘たちが一斉に走り出す。
多くのウマ娘達がわたしの前を走る。
そして今、わたしがいるのは一番後ろ。
これでいい。
今は本気で走る必要はない。
体力を温存しろ。
冷静に考えろ。
焦るな、勝つための走りをしろ。
楽しい気持ちを完全に消せ。
例えそれが……わたしが好きなハルウララの走りじゃないとしても。
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多くのウマ娘は勝利のために走り続けた。
カーブを曲がり、走る、走る、走る。
冷たい雨が降ろうが、身体が寒くなろうが止まらない。
そして直進コースへ。
ゴールに向かってウマ娘達が残りの力を振り絞って走ろうとした。
その時……とてつもない悪寒がウマ娘達を襲う。
「なっ!」
「え?」
「これって」
振り返ったウマ娘たちの目に映ったのは、一番後ろにいる体操服姿の桃髪のウマ娘。
そのウマ娘は桜の花の紋様を宿した瞳を怪しく輝かせ、桃色のオーラを纏っていた。
彼女から感じる化物の気配に、ウマ娘達は言葉を失う。
そして……桃髪のウマ娘は、一瞬で他のウマ娘を追い越した。
彼女の走りを見て、他のウマ娘達は恐怖を覚える。
次々と他のウマ娘達は速度を落としていく。
先頭を走る桃髪のウマ娘は……1着でゴールした。
他のウマ娘達はゴールした後、地面に座り込む。
自然と身体は震え、呼吸が荒くなる。
「……」
1着でゴールした桃髪のウマ娘―――ハルウララは、ただ冷たい目で他のウマ娘達を見下ろした。
そんな彼女を見て、一人のウマ娘はある言葉を漏らす。
「ま、魔王」
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1着でゴールしたわたしは他のウマ娘達を見下ろしていた。
誰もがわたしを化物を見るような目で見ている。
そしてわたしを化物のように見てるのは、観客席にいた観客達も同じだった。
誰も歓声を上げない。
ただ…雨の音しか聞こえない。
「ま、魔王」
一人のウマ娘がわたしを見て、そう言った。
魔王……か。
いいよ、それで。
勝つためなら魔王になるよ。
勝利のためにレースを支配する。
レースだけじゃない。
このあとのウイニングライブも支配する。
レースも、ウイニングライブもわたしが一番であり続ける。
「わたしは……魔王だよ」
そう言い残して、その場から立ち去った。
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レースが終わった後、ウイニングライブが始まった。
誰もが楽しみ、誰もが最高の笑顔を浮かべるライブ。
だが今回、誰も笑わなかった。
なぜか?
それは一人のウマ娘の歌が、ダンスが……ライブを支配したから。
彼女の歌声は、ダンスは……観客だけでなく、一緒に踊っていた他のウマ娘たちも恐怖させ、魅了した。
そのウマ娘の名はハルウララ。
彼女はこの日からある異名が付けられた。
『桃桜の魔王』と。
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