桃桜の魔王   作:グレンリアスター

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勝利のための機械

 それからわたしは……死ぬほど努力した。

 筋トレと走り込みの量を増やし、夜遅くなるまでレースの走り方の勉強をする。

 感情を殺し、ただ勝つための機械として活動し、己を強化した。

 レースだけでなく、歌やダンスも頑張った。

 友達のライスシャワーやキングヘイローが心配してくれるけど、今はどうでもいい。

 今、わたしに必要なのは楽しく生きる事じゃない。

 勝利のためのトレーニングだ。

 

 もう……白雪トレーナーを悲しませたりしない。

 絶対に。

 

 

<><><><>

 

 勝つための機械となってから二週間後。

 GⅡレースが始まった。

 空は暗く、小雨が降る中、多くのウマ娘達がゲートに入る。

 そんなウマ娘達は……わたしのことが気になって仕方がなかった。

 

「なに、あの子?」

「あの時とぜんぜん違う」

「どうしたんだろう」

 

 今のわたしはどんな風に見えているか、わからない。

 だけどそんなのはどうでもいい。

 今、わたしに必要なのは勝利。

 感情は全て消せ。

 勝利のために動く機械になれ。

 

「もう二度と……負けない」

 

 その呟いた時、ゲートが開いた。

 わたしを含めたウマ娘たちが一斉に走り出す。

 多くのウマ娘達がわたしの前を走る。

 そして今、わたしがいるのは一番後ろ。

 これでいい。

 今は本気で走る必要はない。

 体力を温存しろ。

 冷静に考えろ。

 焦るな、勝つための走りをしろ。

 楽しい気持ちを完全に消せ。

 例えそれが……わたしが好きなハルウララの走りじゃないとしても。

 

<><><><>

 

 多くのウマ娘は勝利のために走り続けた。

 カーブを曲がり、走る、走る、走る。

 冷たい雨が降ろうが、身体が寒くなろうが止まらない。

 そして直進コースへ。

 ゴールに向かってウマ娘達が残りの力を振り絞って走ろうとした。

 その時……とてつもない悪寒がウマ娘達を襲う。

 

「なっ!」

「え?」

「これって」

 

 振り返ったウマ娘たちの目に映ったのは、一番後ろにいる体操服姿の桃髪のウマ娘。

 そのウマ娘は桜の花の紋様を宿した瞳を怪しく輝かせ、桃色のオーラを纏っていた。

 彼女から感じる化物の気配に、ウマ娘達は言葉を失う。

 そして……桃髪のウマ娘は、一瞬で他のウマ娘を追い越した。

 彼女の走りを見て、他のウマ娘達は恐怖を覚える。

 次々と他のウマ娘達は速度を落としていく。

 先頭を走る桃髪のウマ娘は……1着でゴールした。

 他のウマ娘達はゴールした後、地面に座り込む。

 自然と身体は震え、呼吸が荒くなる。

 

「……」

 

 1着でゴールした桃髪のウマ娘―――ハルウララは、ただ冷たい目で他のウマ娘達を見下ろした。

 そんな彼女を見て、一人のウマ娘はある言葉を漏らす。

 

「ま、魔王」

 

<><><><>

 

 1着でゴールしたわたしは他のウマ娘達を見下ろしていた。

 誰もがわたしを化物を見るような目で見ている。

 そしてわたしを化物のように見てるのは、観客席にいた観客達も同じだった。

 誰も歓声を上げない。

 ただ…雨の音しか聞こえない。

 

「ま、魔王」

 

 一人のウマ娘がわたしを見て、そう言った。

 魔王……か。

 いいよ、それで。

 勝つためなら魔王になるよ。

 勝利のためにレースを支配する。

 レースだけじゃない。

 このあとのウイニングライブも支配する。

 レースも、ウイニングライブもわたしが一番であり続ける。

 

「わたしは……魔王だよ」

 

 そう言い残して、その場から立ち去った。

 

<><><><>

 

 レースが終わった後、ウイニングライブが始まった。

 誰もが楽しみ、誰もが最高の笑顔を浮かべるライブ。

 だが今回、誰も笑わなかった。

 なぜか?

 それは一人のウマ娘の歌が、ダンスが……ライブを支配したから。

 彼女の歌声は、ダンスは……観客だけでなく、一緒に踊っていた他のウマ娘たちも恐怖させ、魅了した。

 

 そのウマ娘の名はハルウララ。

 彼女はこの日からある異名が付けられた。

 

 

 

 

 

『桃桜の魔王』と。 




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