ある者は言った。
桃髪のウマ娘がありあらゆるレースに出場し、勝利し続けていると。
ある者は言った。
彼女の走りとライブは多くの人を恐怖させ、魅了させたと。
ある者は言った。
彼女と走った他のウマ娘達が次々と引退したと。
ある者は言った。
そのウマ娘の名は、ハルウララ。
恐怖と魅了で支配する『桃桜の魔王』だと。
<><><><>
トレセン学園、そこは多くのウマ娘が学び、走り、競い合う場所。
そんな学園で、多くのウマ娘達は怯えた表情を浮かべていた。
彼女達の視界に映るのは、桃色の髪を伸ばした背の小さいウマ娘。
そのウマ娘は桜の紋様を宿した瞳を怪しく輝かせながら廊下を歩いている。
彼女に気付いたウマ娘たちは道を開けた。
「ねぇ……あの子よね?『桃桜の魔王』って?」
「ええ、そうよ。マイル、短距離、中距離、長距離。あらゆるレースに出場し、勝ち続けているそうよ」
「私が聞いた話では、普通のレースだけじゃなくて、重賞レースであるGⅠ、GⅡ、GⅢも1着でゴールしているみたい」
「しかも一緒に走ったウマ娘たちはレースから引退したそうよ」
「海外に行ったときは、参加した全てのレースを1着でゴールして、他のウマ娘たちを絶望させたみたい」
ウマ娘たちはヒソヒソと噂をする。
あらゆるレースに参加し、全て1着でゴール?
ハルウララと走った者は、全員引退した?
海外のレースでも大暴れし、全て勝っている?
その噂は真実か?
答えは一つ。
事実である。
「まさに……ウマ娘の魔王ね」
<><><><>
誰もが楽しく話す教室。
その教室に桃髪のウマ娘―――ハルウララが入ると、一瞬で静まり返った。
ハルウララは気にせず、自分の席に座り、鞄から本を取り出す。
そしてページを捲りながら本を読み始めた。
「お、おはよう……ウララちゃん」
一人のウマ娘がハルウララに声を掛けた。
スペシャルウィークだ。
ハルウララは細めた目で、スペシャルウィークを見つめる。
彼女から感じる魔王の雰囲気に、スペシャルウィークは息を呑む。
「……おはよう」
「きょ、今日もいい天気だね」
「そうだね」
「……」
「……」
会話が続かなかった。
そんな時、別のウマ娘が助け舟を出す。
セイウンスカイだ。
「ウララ……今度、よかったら遊びに行かない?」
「あ、それはとてもいいね!」
楽しそうに話すスペシャルウィークとセイウンスカイ。
そんな彼女達にハルウララは、
「悪いけど……遊んでいる暇はないの」
感情が宿っていない冷たい声でそう言って、本に視線を向ける。
スペシャルウィークとセイウンスカイは黙り込む。
「そ、そんなこと言わないでさ。遊ぼうよ」
「そうだよ……たまには息抜きしないと」
なんとか遊びに誘おうとする彼女達に、ハルウララは本を閉じて……冷たい目で睨む。
睨まれたスペシャルウィークとセイウンスカイは彼女の威圧に、汗を流す。
「何度も言わせないで。トレーニングが最優先なの」
そう言ってハルウララは本を開け、視線を向ける。
「そ、そうなんだ」
「邪魔してごめんね」
スペシャルウィークとセイウンスカイは落ち込んだ顔で、ハルウララから離れた。
とても明るく、笑顔が似合うウマ娘。
それがハルウララだった。
そんな彼女が笑わなくなってから、教室は寒くなっている。
クラスメイト達もハルウララに怯えていた。
しかし……二人のウマ娘は怯えていない。
それどころか覚悟を宿した表情を浮かべながら、ハルウララを見ていた。
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「『レースもライブも支配するウマ娘の魔王』『ありとあらゆるレースで完全勝利』『海外で多くのウマ娘に敗北を与えた』『彼女と走ったウマ娘は必ず引退する』……か。まったく……まさに魔王だな」
トレセン学園の生徒会室で、大きな椅子に座りながら新聞を読んでいた一人のウマ娘は目を細める。
そのウマ娘は鹿毛のロングヘアーを伸ばし、前髪は焦げ茶色で、三日月のような白いメッシュを垂らしている。
彼女の名はシンボリルドルフ。
トレセン学園の生徒会長で、無敗でのクラッシック三冠制覇をした最強のウマ娘。
異名は―――『皇帝』。
そんなウマ娘の皇帝は、新聞に載っているハルウララの写真を鋭い目で見ていた。
「一度、話さないとな……ウマ娘の『魔王』と」
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