全ての授業を終えた後、わたしは白雪トレーナーがいるトレーナー室にやってきていた。
多くのレースで勝ち続けてきたおかげで、新しく用意されたトレーナー室は広くなり、豪華。
綺麗な床にいくつもの本が並べられた本棚。
高い天井にふかふかのソファーと高級そうな机。
全てわたしの活躍で手に入れたもの。
「お、お帰り。ウララさん」
トレーナー室にいた白雪トレーナーはわたしに気が付くと、微笑みを浮かべた。
彼女は白い体操服は着ておらず、高級そうな白いスーツ姿をしている。
そのスーツは担当ウマ娘であるわたしが1着を勝ち取り続けたことで手に入った高級品。
本当は着なくてもいいのだが、白雪トレーナーが「ウララさんがくれた大切なものだから」と言って、毎日来てくれている。
「今……帰ったよ。トレーナー」
わたしは頬をわずかに緩めて、白雪トレーナーに近付く。
「トレーナー。今日のトレーニングは?」
「いつものように筋トレと走り込み、そして新しく手に入った走る秘伝の本で勉強かな」
「わかった。すぐに準備するよ」
「あ……ちょっと待って」
白雪トレーナーは高級ソファーに座ると、自分の膝の上をポンポンと叩く。
わたしは何も言わず、ソファーに移動し、白雪トレーナーの膝の上に頭を置いた。
膝枕。
時々、白雪トレーナーはわたしのために膝枕をしてくれる。
これがわたしにとって幸せの時間。
「トレーニングは少し休んでからにしよう。ウララさん。ほとんど休まずにトレーニングしているから」
「……うん」
「今週の日曜日はデートでもしよう」
「本当?すっごく嬉しいよ」
白雪トレーナーはわたしのために色々としてくれる。
休日はいつもデートしてくれる。
本当……大好き。
「……ねぇ、ウララさん。聞きたいことが―――」
白雪トレーナーが喋っていた時、トレーナー室の扉からコンコンというノックの音が聞こえた。
「……もう、誰なの?」
少し……いや、かなりイラつきながら、わたしは白雪トレーナーの膝から離れ、扉を開けた。
扉の前にいたのは、一人のウマ娘。
グレーに近い鹿毛を左で分けたワンレングスボブカット。
右目が髪で隠れており、左耳には黄色のリボンと金チェーンの髪飾りをつけている。
トレセン学園の生徒会所属の副会長にして、女帝の異名を持つウマ娘。
エアグルーヴだ。
「副会長」
「ハルウララ。私と共に生徒会に来い」
「会長がお呼びだ」
<><><><>
エアグルーヴと一緒にわたしは生徒会室にやってきた。
生徒会室に入ると、出迎えたのは椅子に座りながら手を組んでいる一人のウマ娘。
そのウマ娘をわたしは知っている。
なぜなら皇帝の異名を持つ無敗のウマ娘。
名を……シンボリルドルフ。
「やぁ……待っていたよ。わざわざ来てもらってすまない」
小さく微笑みながら、わたしを見つめるシンボリルドルフ。
皇帝の名に相応しい美しさと凛々しさを持つ彼女に、わたしは問う。
「それで?わたしに何の用かな、会長」
「とりあえずお茶をしながら話をしようじゃないか?」
「もう一度、言うね。なんの用?」
威圧を込めてもう一度、わたしは尋ねた。
近くにいたエアグルーヴは一筋の汗を流しながら後ろに一歩下がる。
だけどそんなのはどうでもいい。
一秒でも早くトレーニングがしたいの、こっちは。
「……ふむ。なら単刀直入に言おう」
シンボリルドルフは目を細めながら、口を動かす。
「『桃桜の魔王』ハルウララ。今すぐあの走りと歌とダンスをやめたまえ」
「理由を聞いても?」
「君の走りとライブを何度か見せてもらったよ。全身が凍り付くような恐怖を与え、そして目が離せくなくなるぐらい魅了させる。まさに魔王の名に相応しい。だけど……君の走りと歌とダンスは多くのウマ娘の心を壊す。事実、多くのウマ娘は君と走った直後、次々と引退していった」
「……」
「だからこそ言おう。今すぐにやめたまえ」
なるほど……確かにわたしと走ったウマ娘は、次々と引退した。
ニュースにもなるぐらいだしね。
「なるほど……よくわかったよ」
「わかってくれたか」
「うん。よくわかったよ。だからこそ言うね」
わたしの答えは。
「断るよ」
シンボリルドルフは目を細め、わたしを睨む。
「……どうしてだい?」
「わたしはね……勝ち続けなくちゃいけないの。負けられないの」
もう二度と白雪トレーナーを悲しませないと決めたの。
そのためなら魔王になる。
例えそれで、
「他のウマ娘の心を壊すことになっても……わたしは止まらない」
わたしの答えを聞いて、シンボリルドルフは「うむ」と言って椅子から立ち上がる。
そしてわたしに近付き、鋭い目で見下ろす。
「何を言っても無駄か。なら……私と勝負しよう。ハルウララ」
「なに?」
「これから私と勝負しようと言ってるんだ。私が勝ったら、もう二度とウマ娘を恐怖させる走りと歌とダンスをやめたまえ」
「……悪いけど、なんのメリットもない勝負はしないよ」
「なら君が勝ったら私が集めた走る秘伝の本を渡そう。一冊一億はする代物だ」
「……」
わたしは顎に手を当てて、考える。
一冊一億する走る秘伝の本。
それを読めばわたしはさらの強くなる。
「わかった。その勝負……受けて立つよ」
わたしはシンボリルドルフを睨んだ。
ウマ娘の皇帝との決闘。
負けるわけにはいかない。
「私が勝たせてもらうぞ、魔王」
「潰してあげるよ、皇帝」
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