桃桜の魔王   作:グレンリアスター

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魔王に挑戦する者

 トレセン学園の生徒会長室で、エアグルーヴは大量の書類にサインをしていた。

 生徒会長であるシンボリルドルフがいなくなったため、副会長であるエアグルーヴが新たな生徒会長になったのだ。

 彼女は悲しみと悔しさを宿した顔で唇を噛む。

 

「会長……」

 

 エアグルーヴは思い出す。

 自分が最も尊敬したシンボリルドルフと別れた日のことを。

 

<><><><>

 

「なぜですか、会長!なぜ学園から去るのです!?」

 

 トレセン学園の校門前で、エアグルーヴは叫んだ。

 彼女の視線の先には、荷物が入ったダンボールを持ったシンボリルドルフがいた。

 シンボリルドルフの目には隈ができており、もはや皇帝の姿はない。

 そこにいたのは、恐怖と絶望に怯える一人の少女だった。

 

「すまない。私はもう……この学園にいられない。いや……()()()()()

「どういう……意味ですか」

「私は……ハルウララが怖いんだよ。同じ学園にいたくない。すぐにここから去りたい。そう思うようになったんだ」

 

 シンボリルドルフの心には、大きな傷ができていた。

 ウマ娘の魔王につけられた大きな傷が。

 その傷は皇帝だったシンボリルドルフを、か弱い少女へと変えた。

 もはや走ることはできない。

 レースを見ることもできない。

 心にあるのはただ一つ。

 

 逃げたいだ。

 

「エアグルーヴ。お前と過ごした日々は忘れない」

「会長!」

「逃げたと思ってくれていい」

 

<><><><>

 

「くっ!」

 

 エアグルーヴは執務机を強く叩いた。

 彼女は憎かった。

 学園を去るシンボリルドルフを止めることができなかった自分が。

 シンボリルドルフの心に大きな傷を作ったハルウララが。

 

「だが……どうすればいい!」

 

 もはやハルウララを止めることはできない。

 彼女はシンボリルドルフが集めた秘伝の本を手に入れてから、さらに強くなった。

 シンボリルドルフの仇を取るために、多くのウマ娘がハルウララに決闘を申し込んだ。

 

 結果はハルウララの全勝。

 

 敗北した多くのウマ娘は恐怖と絶望に支配され、トレセン学園から去っていった。

 もうハルウララを倒そうという者はいない。

 

「私が行ったところで、他のウマ娘と同じ末路を辿る。しかし……このまま黙っているわけには!」

 

 エアグルーヴは考えた。

『桃桜の魔王』を止める方法を。

 しかし、思いつかなかった。

 もはやこれまでかとエアグルーヴ。

 そんな彼女の耳に、コンコン!というノックの音が聞こえた。

 

「失礼します」

「し、失礼します」

 

 生徒会長室に入ってきたのは、二人のウマ娘。

 彼女達を見て、エアグルーヴは目を大きく見開く。

 

「お、お前達は……」

 

<><><><>

 

 全ての授業を終えた後、わたしはダートの上を走っていた。

 全力で走るわたしの隣を、ウマ娘型ロボットが走る。

 そのロボットはG1レースで勝ち続けたことで手に入れたトレーニングマシン。

 わたしは毎日、ウマ娘型ロボットと共にトレーニングをしていた。

 

「ハァ…ハァ…ハァ……」

 

 走り込みを終えた後、わたしは腕で汗を拭う。

 そんなわたしに白雪トレーナーはタオルと水筒を渡してきた。

 

「ありがとう、トレーナー」

 

 タオルで汗を拭い、水筒に入っていた水を一気に飲み干した。

 冷たい水が乾いた喉を潤す。

 

「ウ、ウララさん……一つ聞いてもいい?」

「ん?なに」

 

 白雪トレーナーは心配そうな顔でわたしに尋ねる。

 

「本当に……大丈夫?」

「なにが?」

「ウララさん……とても辛そうだよ」

「……辛くないよ。ぜんぜん」

「う、嘘だよ。だって……シンボリルドルフや他のウマ娘が学園から去ってからウララさん、とても悲しそうだから」

「それは……トレーナーの勘違いだよ」

 

 そう、勘違いだ。

 だってわたしは感情を殺している。

 なにも感じないし、なにも思わない。

 会長を倒しても、悲しくはなかった。

 会長が学園から去ったと聞いても、苦しくなかった。

 他のウマ娘たちがわたしに決闘を挑んできたから倒して、恐怖を与えたけど……なんの感情もわかなかった。

 あるのは勝ったという結果。

 

「トレーナー……わたしは勝ち続ける。絶対に」

 

 例え多くのウマ娘に恐れられようが。

 例え多くのウマ娘に魔王と呼ばれても。

 わたしは止まらない。

 止まれない。

 大好きな人を悲しませないためなら、わたしは……他のウマ娘の心を迷わず壊す。

 だから……これでいいんだよ。

 

「さぁ……トレーニングを再開しよう」

 

 わたしはウマ娘型ロボットを起動させ、トレーニングを再開しようとした時、

 

 

「ウララちゃん」

「ウララさん」

 

 わたしの耳に聞き覚えのある声が聞こえた。

 振り返ったわたしの目に映ったのは、二人のウマ娘。

 

「ライスちゃん。キングちゃん」

 

 わたしの視線の先にいたのは、友達のライスシャワーとキングヘイローだった。

 彼女達は覚悟を宿した表情でわたしを見つめる。

 

「どうしたの?なにか用?」

 

 わたしが問うと、ライスシャワーとキングヘイローは頷く。

 

「うん、そうだよ」

「あなたに用があるの」

 

 ライスシャワーとキングヘイローはわたしに人差し指を向けて、大声で叫ぶ。

 

「ウララちゃん。ライスは―――」

「ウララさん。私は―――」

 

 

「決闘を申し込むよ!」

「決闘を申し込むわ!」

 




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