トレセン学園の生徒会長室で、エアグルーヴは大量の書類にサインをしていた。
生徒会長であるシンボリルドルフがいなくなったため、副会長であるエアグルーヴが新たな生徒会長になったのだ。
彼女は悲しみと悔しさを宿した顔で唇を噛む。
「会長……」
エアグルーヴは思い出す。
自分が最も尊敬したシンボリルドルフと別れた日のことを。
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「なぜですか、会長!なぜ学園から去るのです!?」
トレセン学園の校門前で、エアグルーヴは叫んだ。
彼女の視線の先には、荷物が入ったダンボールを持ったシンボリルドルフがいた。
シンボリルドルフの目には隈ができており、もはや皇帝の姿はない。
そこにいたのは、恐怖と絶望に怯える一人の少女だった。
「すまない。私はもう……この学園にいられない。いや……
「どういう……意味ですか」
「私は……ハルウララが怖いんだよ。同じ学園にいたくない。すぐにここから去りたい。そう思うようになったんだ」
シンボリルドルフの心には、大きな傷ができていた。
ウマ娘の魔王につけられた大きな傷が。
その傷は皇帝だったシンボリルドルフを、か弱い少女へと変えた。
もはや走ることはできない。
レースを見ることもできない。
心にあるのはただ一つ。
逃げたいだ。
「エアグルーヴ。お前と過ごした日々は忘れない」
「会長!」
「逃げたと思ってくれていい」
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「くっ!」
エアグルーヴは執務机を強く叩いた。
彼女は憎かった。
学園を去るシンボリルドルフを止めることができなかった自分が。
シンボリルドルフの心に大きな傷を作ったハルウララが。
「だが……どうすればいい!」
もはやハルウララを止めることはできない。
彼女はシンボリルドルフが集めた秘伝の本を手に入れてから、さらに強くなった。
シンボリルドルフの仇を取るために、多くのウマ娘がハルウララに決闘を申し込んだ。
結果はハルウララの全勝。
敗北した多くのウマ娘は恐怖と絶望に支配され、トレセン学園から去っていった。
もうハルウララを倒そうという者はいない。
「私が行ったところで、他のウマ娘と同じ末路を辿る。しかし……このまま黙っているわけには!」
エアグルーヴは考えた。
『桃桜の魔王』を止める方法を。
しかし、思いつかなかった。
もはやこれまでかとエアグルーヴ。
そんな彼女の耳に、コンコン!というノックの音が聞こえた。
「失礼します」
「し、失礼します」
生徒会長室に入ってきたのは、二人のウマ娘。
彼女達を見て、エアグルーヴは目を大きく見開く。
「お、お前達は……」
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全ての授業を終えた後、わたしはダートの上を走っていた。
全力で走るわたしの隣を、ウマ娘型ロボットが走る。
そのロボットはG1レースで勝ち続けたことで手に入れたトレーニングマシン。
わたしは毎日、ウマ娘型ロボットと共にトレーニングをしていた。
「ハァ…ハァ…ハァ……」
走り込みを終えた後、わたしは腕で汗を拭う。
そんなわたしに白雪トレーナーはタオルと水筒を渡してきた。
「ありがとう、トレーナー」
タオルで汗を拭い、水筒に入っていた水を一気に飲み干した。
冷たい水が乾いた喉を潤す。
「ウ、ウララさん……一つ聞いてもいい?」
「ん?なに」
白雪トレーナーは心配そうな顔でわたしに尋ねる。
「本当に……大丈夫?」
「なにが?」
「ウララさん……とても辛そうだよ」
「……辛くないよ。ぜんぜん」
「う、嘘だよ。だって……シンボリルドルフや他のウマ娘が学園から去ってからウララさん、とても悲しそうだから」
「それは……トレーナーの勘違いだよ」
そう、勘違いだ。
だってわたしは感情を殺している。
なにも感じないし、なにも思わない。
会長を倒しても、悲しくはなかった。
会長が学園から去ったと聞いても、苦しくなかった。
他のウマ娘たちがわたしに決闘を挑んできたから倒して、恐怖を与えたけど……なんの感情もわかなかった。
あるのは勝ったという結果。
「トレーナー……わたしは勝ち続ける。絶対に」
例え多くのウマ娘に恐れられようが。
例え多くのウマ娘に魔王と呼ばれても。
わたしは止まらない。
止まれない。
大好きな人を悲しませないためなら、わたしは……他のウマ娘の心を迷わず壊す。
だから……これでいいんだよ。
「さぁ……トレーニングを再開しよう」
わたしはウマ娘型ロボットを起動させ、トレーニングを再開しようとした時、
「ウララちゃん」
「ウララさん」
わたしの耳に聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ったわたしの目に映ったのは、二人のウマ娘。
「ライスちゃん。キングちゃん」
わたしの視線の先にいたのは、友達のライスシャワーとキングヘイローだった。
彼女達は覚悟を宿した表情でわたしを見つめる。
「どうしたの?なにか用?」
わたしが問うと、ライスシャワーとキングヘイローは頷く。
「うん、そうだよ」
「あなたに用があるの」
ライスシャワーとキングヘイローはわたしに人差し指を向けて、大声で叫ぶ。
「ウララちゃん。ライスは―――」
「ウララさん。私は―――」
「決闘を申し込むよ!」
「決闘を申し込むわ!」
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