レースでキングちゃんとライスちゃんに負けたわたしは、トレセン学園の控室にいた。
どうやってここまで来たのか覚えていない。
「ウララさん……」
椅子に座っているわたしを、白雪トレーナーは心配そうな顔で見つめていた。
「……ごめん、トレーナー。負けちゃった。絶対に勝つって言ったのに」
「そんな……謝ることないよ」
「……」
どうしよう。
うまく白雪トレーナーの顔を見ることができない。
息が苦しい。
胸が痛い。
頭がどうにかなりそう。
「ウララちゃん」
「ウララさん」
控室にライスちゃんとキングちゃんがやってきた。
「約束通り教えて」
「なんであなたがそうなったのか」
ああ……そうだったね。
二人が勝ったらライスちゃんとキングちゃんに話すんだった。
なんでわたしが魔王になったのか。
「わかった。話すよ……だけど一つ教えて?なんでわたしは二人に負けたの?」
それがどうしようもないぐらい気になっていた。
なんで負けたのか……わたしには分からなかったから。
「あなたに勝つため努力した……というのもあるけど」
「ライスがウララちゃんと話すために頑張ってあるけど」
「あのレースで私が勝てたのは」
「あのレースでライスが勝つことができたのは」
「「楽しいって気持ちがあったから」」
その言葉を聞いて、わたしは言葉を失った。
楽しい……気持ち?
それは……わたしが捨てたもの。
「私は……ウララさんとレースをした時、とても楽しかった」
「ライスも……ウララちゃんと走る時、どうしようもないぐらい楽しかったの」
そん……な。
じゃあ、わたしは……わたしが捨てた楽しい気持ちに、負けたというの。
「ハ……ハハハ」
思わず笑ってしまった。
不要と思って捨てた感情。
それによって二人は魔王であるわたしに勝てた。
笑うしかないね。
「ウララさん……今度は、あなたのことを教えて?」
「なんで……魔王になったの?」
二人の問いに、わたしはすぐに答えることができなかった。
だけど二人はジッと待つ。
そんな二人を見て、わたしは自然と口を動かす。
「……昔のわたしは、ただ楽しく走れればいいと思っていたの」
ポツリポツリと言葉を口から漏らす。
「負けてもいい。勝てなくてもいい。ただレースを純粋に楽しめればいいと思ったの。だけど……その結果、トレーナーを悲しませた。トレーナーはわたしのために色々としてくれたのに、わたしは自分のことしか考えていなかった」
わたしは拳を強く握り締める。
「許せなかった……自分が。大好きな人を泣かせたことを後悔したの。だからわたしは……ありとあらゆる感情を捨てて、勝利を得るためだけの機械として生きることにしたの。例えどれだけ多くのウマ娘を恐怖させ、魔王と呼ばれるようになっても……わたしは、勝ち続けることにしたの」
話を聞いていた白雪トレーナーは両手で口を押える。
「これが……魔王になった理由だよ」
キングちゃんとライスちゃんはなにも言わない。
ただ……悲しそうな目でわたしを見ていた。
「これで満足したかな?わたしは―――」
わたしが言葉を発していた時、
突然、白雪トレーナーに抱き締められた。
「トレー…ナー?」
「ごめん…なさい。私の……私のせいで」
声を震わせながら謝る白雪トレーナー。
お願い。
謝らないで。
そんな声を出さないで。
「なんで謝るの?トレーナーはなにも悪くないよ?」
「違う……私のせいだよ。ウララさんがそんなに辛いだなんて思わなかった。私のせいでそこまで自分を追い詰めていたなんて、知らなかった」
わたしを抱き締める力を強める白雪トレーナー。
違う……違うよ、トレーナー。
トレーナーはなにも悪くない。
わたしが望んで感情を捨てたの。
望んで勝利のために生きる機械になったの。
「もう頑張らなくていい。もう自分を殺さなくていい。もう……休んでいいよ」
「トレーナー……」
「もう魔王なんてやらないくていい。もう感情のない機械にならなくていいの」
視界が涙で歪む。
胸が苦しくなる。
「ウララさん……もう、楽しく走っていいんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、わたしは……大声で泣いた。
「う…うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
わたしは白雪トレーナーを強く抱き締めながら、涙を流す。
辛かった。
悲しかった。
苦しかった。
今まで殺してきた感情が溢れ出した。
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この日……魔王は消えた。
今のハルウララはもう『桃桜の魔王』ではない。
ましてや感情がない機械ではない。
ただの一人のウマ娘の……ハルウララだ。
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