桃桜の魔王   作:グレンリアスター

28 / 28
笑顔の桃桜

 ついにやってきたG1レース。

 この日のために楽しくトレーニングをしてきた。

 わたしは控室の姿見鏡で自分の勝負服を確認する。

 

「うん……やっぱりハルウララはこれが一番だね」

 

 鏡に映るのは赤い鉢巻きとピンクの体操服を身につけた自分。

 これが本当のハルウララ。

 わたしが大好きなウマ娘。

 魔王じゃないわたし。

 

「トレーナ……見てて。楽しく走ってくるから!」

「うん。頑張って」

 

<><><><>

 

 レース場にやってきたわたしは周囲を見渡す。

 一緒に走るウマ娘たちや観客達は恐ろしいものを見るような目で、わたしを見る。

 そんな彼らにわたしは……とびっきりの笑顔を見せた。

 

「みんな~!今日は楽しもうね~!」

 

 わたしの言葉を聞いて、ウマ娘達や観客達はポカ~ンと呆然とする。

 数秒後、観客の一部が大きな声で叫ぶ。

 

「ハルウララだ~!」

「あのウララちゃんが戻ってきたぞ~!」

「やった~!」

 

 どうやら昔のわたしのことを知っているファンがいたみたい。

 その人たちのためにも、わたしは……楽しく走って、勝たないと!

 ゲートに入ったわたしはレース開始の合図を待った。

 その時、わたしの意識が白く染まる。

 

<><><><>

 

 気が付くとなにもない白い空間にわたしは立っていた。

 そして目の前にはもう一人の自分……いや、本来のハルウララが立っていたのだ。

 

「おかえり!」

 

 笑顔でそう言った本当のハルウララを見て、わたしは……目を逸らす。

 

「ごめん。あの時……酷いこと言って」

 

 わたしの中で罪悪感があった。

 彼女に酷いことを言ったことを後悔している。

 

「もう~!そんな暗い顔をしちゃダメだよ~!笑顔が一番だよ!」

 

 明るい笑顔を浮かべるハルウララを見て、わたしは……問わずにはいられなかった。

 

「恨んでないの?わたしを……」

「恨む?なんで?」

「だってわたしは……本当のハルウララとかかけ離れたことをしてきたんだよ?」

 

 わたしは魔王となり、多くのウマ娘たちを引退させていった。

 

「恐怖を与え、心を殺し、引退まで追い込んだんだよ?なのに……なんで」

「それは全部……トレーナーのためだったんだよね?」

 

 本当のハルウララの言葉を聞いて、わたしは口を閉じる。

 

「恨まないよ。あなた(わたし)はトレーナーのために頑張った。それを恨むなんてできないよ」

「ハルウララ」

「それに……こうして楽しく走ろうとしてくれるからね。ぜんぜんいいよ!ウララ~!」

 

 わたしは口を開けて呆然とした後、プッと吹き出した。

 本当……叶わないな。

 それでこそ前世で俺が惚れた……ハルウララ。

 桜のように美しく、笑顔が誰よりも似合う最高のウマ娘。

 

「さぁ……楽しんできて!わたし!」

「うん!楽しんでくるよ!」

 

<><><><>

 

 意識が現実に戻った瞬間、ゲートが開いた。

 多くのウマ娘達がわたしの前を走る。

 わたしも走った。心から楽しむために。

 走り、走り、走り続けて……思った。

 

 あああ、やっぱり走るのは楽しいな!

 

 そして気が付いた時には最後の直進コースになった。

 わたしは足に力を入れる。

 楽しいという気持ちを爆発させて。

 

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 わたしは走った。笑顔を浮かべながら。

 次々とウマ娘達を追い抜き、そして……一着でゴールする。

 

「アハハ!やったやった!一着~!」

 

 笑顔を浮かべて、観客に手を振るった。

 すると観客達は喜びの雄叫びを上げる。

 もう誰もわたしを魔王だとは思っていない。

 

「みんな~!楽しかった~?」

 

 わたしが問い掛けると、観客達は大声で叫ぶ。

 

「「「楽しかった~!」」」

 

 誰もが楽しんだ。

 そのことにわたしはどうしようもなく嬉しく感じ、笑顔を浮かべた。

 

「アハハハ!」

 

<><><><>

 

 この日、ハルウララに新たな二つ名が付けられた。

 笑顔が誰よりも似合う桃色のウマ娘。

 

『笑顔の桃桜』と。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。