「よくお似合いですよ」
「ありがとうございます」
カツ丼後、さらに2時間話して取り調べを終えた俺は田村さんから渡された無地のセットアップを着て須藤さんの居る部屋に連行されていた。
コンコン……
田村さんが立ち止まり扉をノックする、この部屋か。
「入りたまえ」
「失礼します」
2人揃って入室、須藤さんはスーツではなくジャージ姿。俺と目が合うと破顔した。
「やぁ柚希くん、お互いこってり搾られたみたいだね、さ…こちらに座ってくれ…田村くんも」
「失礼します」
「…(ぺこっ」
お辞儀をして勧められたソファに座る。搾られたのは須藤てめぇのせいだぞ?俺は悪くない…許せん。
俺のメンチビームをスルーして正面ソファに須藤が座る。
「さてまずは訓練場の話だが…あれは気にしなくていい、修繕は全て協会と私の財布から補填される、今後それを理由に君が不利益を被る事はない…事故として処理する」
え!?まじ!?
「ありがとうございます」
わぁい、須藤さんだいちゅき!しゅきしゅきビーム!
田村は何か言いたげに柚希を見たが、言葉を飲み込む。
「うん、怖い顔を止めてくれてなによりだ…ではこれからの話をしよう、まずはこれを受け取ってくれ」
そう言うと須藤さんは俺の前に黒のドッグタグネックレスを置いた。
「こちらは?」
「探索者の認識タグだよ、探索者証と同時に支給されるものだ」
「にしては色がおかしいですが…」
手に取る。
探索者タグの色は高位探索者順に金、白銀、銅、鉄の4種類だ。黒などない。
「ふむ…まぁ協会での活動がないし知らないのも当然か、そのドッグタグは協専探索者のものでね…一般に広く知られている物とは少しばかり違う」
ふむ?
「…協専探索者とは?」
「協会の職員やそれに準ずる探索者のことだね、簡単に言うと協会の活動を手伝ってくれる協力者達だ…それがあれば入れないダンジョンは国内に無いし金タグ相当の効力がある」
はえー、結構いいもんだな。金タグと同等云々はともかく入れないダンジョンが無いのは助かる。
ただなぁ……俺は黒タグを机に置く。
「こちらは受け取れません」
「ん?なぜかね?」
「美味しい話には裏があると聞きます…先程の話だと私は協会の活動に対して通常の探索者より大きく尽力せねばならないという事、首輪をつけられるのはごめんです」
こういう事。
ぶっちゃけ時間はかかるだろうが俺は絶対金等級にはなれる、100パーセントね。だからこの黒タグを受け取る必要がない。
「いやいや、別に君を利用しようと思ってこれを渡した訳じゃない…というかだね、それは柚希くんを煩わせない為の措置だよ」
「私の為…ですか?」
「そう君の為だ…はっきり言おうか、あのステータスは異常だ…何か後ろ暗い事があるんじゃないか?」
「お爺様とモンスターを倒した結果です、そんなものはありません」
「さすがにそれは無理がある…レベルが50、60程度なら疑わなかったが100を超えるのは絶対に有り得ない…なにせ国内でその高みに到れる野良モンスターはいないからね、いたら大騒ぎだ」
「…橘の秘事です」
「美しい女性の秘密はみんなが知りたがるものだ」
じじい嘘つき確定で草。全然なんともならんやんけ。
俺は腰を少し浮かせる。いつでも逃げれる準備だ。…おっ隣の田村さんが身構えた、やるか?
「ははは!応接室でも言ったが詳しく追求しないから腰を下ろしなさい…ほら、田村くんも構えを解いて…」
もちろん無視、黙って須藤さんを見つめる。
「警戒させてしまったかな?…ではそのまま聞いてくれ、その黒タグはいわば辻褄合わせだ」
「…というと?」
「筋書きはこうだ…ある日我が池袋支部に修羅パンツの推薦状を持った16歳の少女が尋ねてきた、レベルはそうだな…60にしようか、いいかね?」
いや、いいかねって言われても…。
須藤さんは話を続ける。
「将来性に惚れた私は黒タグを渡し協会の仕事を手伝ってもらいながらレベル上げのサポートをする、そして数年後…レベルは100を超えていた…という訳だ」
……なるほど、まぁ橘の秘事が通用しないなら確かに必要な辻褄合わせだ。俺は腰を下ろす。
「失礼しました…少々動揺してしまったようです」
「誤解がとけて何よりだ、受け取って貰えるね?」
「はい、ご配慮頂き感謝します」
机の上のタグネックレスを手に取り首にかける。
「よく似合っているよ、首輪を付けるつもりは無いが不自然にならない様たまにウチの仕事も手伝ってもらうよ…かまわないね?」
「たまにですよ?」
念をおしとく。
「分かっているとも、君のサポートには隣に座る田村をつけよう…田村くん、挨拶を」
田村さんが立ち上がる。
「改めまして田村真美です…柚希ちゃん、これからよろしくね?」
「よろしくお願い致します」
俺も立ち上がり頭を下げる。
「はっはっは!うまく纏まって良かった、では柚希くん…これからよろしく!」
立ち上がった須藤さんが右手をこちらに差し出す。
俺はその手を握った。