「…中々大変な事になっていますね」
走りながら思う。
破壊痕がすげぇ事になっとるやん…と。
協会の建物はダンジョンとの関係上、くっそ硬い。なのに通路の真ん中辺りでクレーターが出来上がってる。モンスターがやったのか人がやったのかは知らんけど中々の威力だな。
「橘さん…速いっ…です」
そんな事を考えてると後ろから声がかかる…まーた豚が息切らしながらぶひぶひ言いだした。
「あなたが遅いんですよ…豚」
「そんな、もうヘロヘロなんです…これ以上はキツイですよ」
「ではどうしろと?後ろではモンスターが湧いています、これ以上速度は下げれませんよ?何か方法、あります?」
走るしかねぇんだよ。そんな意味を込めた俺の言葉。
だが豚野郎は何を血迷ったのか暫し逡巡した後、モジモジしてこんな事を言い出した。
「あの…また、おんぶして欲しいなって」
「……」
俺は黙って走る速度を上げる。
「橘さぁん!待ってぇ!後ろからモンスター来てるんすよぉ!死んじゃう!」
「死ねばいいじゃないですか」
「1回してくれたんだからいいじゃないですか!」
「……」
はいガン無視確定。死にたくないなら走れ。1回は助けてやったんだからありがたいと思えよまじで。
「橘さぁん!……っ…っ」
どんどん遠くなる声。
奴を置き去りに通路を抜ける。
その先で最初に見たのは……
大量のモンスター、満身創痍の探索者共。
そして
田村さんに拳を振るう一体の青い巨人の姿だった。
「うぉぉぉお!」
「峰村さん!無茶ですっ!」
雄叫びを上げ、突っ込んでいく峰村。
田村が叫んだが止まる様子は無い。
杖に魔力の刃を形成し、さらに加速、目標へと肉薄した。
「うらァ!」
振るわれる杖。一方ヘカトンケイルはこの段階でもその場から動かない。ただニヤニヤと1連の動作を眺めている。
舐め腐りやがって!
奥歯を噛み締め、力いっぱいヘカトンケイルの横腹に叩きつけられる魔力の刃。峯村のレベルは77、魔術師とはいえそこらの戦士職程度の身体能力はある。
だが…
刃はヘカトンケイルの肉を斬る事無く、皮一枚の所でピタリと静止した。
「…は?」
想像とかけ離れた手応え。峰村は小さい頃、斧で大木を叩いた時の事を思い出す。
「マジか…ありえねぇ…」
圧縮した魔力。それを最大限に威力の出る大きさで刃としたのだ、魔力量は関係ない。ただ峰村ではダメージを与える事すら出来なかったのだ。
「縺?>繧医%縺?h」
茫然自失とする峰村。ヘカトンケイルは「満足したか?」と言わんばかりに何かを発した後、峰村の手を杖ごと掴み…
ベキッ!…メキメキメキッ!!
人外の膂力で握り潰した。
「ァァァァァアッ!!」
「峰村ぁ!!」
他の探索者達と共に、モンスターと闘っていた金タグ探索者の山本が峯村の叫び声に即座に跳躍、ヘカトンケイルへと剣を振り下ろ…
「繧?j縺セ縺吶?縺?シ!」
「なっ!?」
そうとして直前で止める。握っていた峯村をこちらへ投げ飛ばしてきたからだ。
「クソがっ!」
なんとか峯村を受け止める山本。だが、とても戦闘を続けられる体勢では無い。そしてそれを見逃す程ヘカトンケイルは甘くなかった。
「縺溘∪縺偵◆縺ェ繧ァァァア!!」
左半身、三本の腕が山本を捉え、直後魔力の乗った衝撃が足、脇腹、肩へと突き抜ける。
「ガハッ…」
3つの拳は防具を粉砕しながら、壁へと山本達を超速で叩きつけた。
「…ゴボッ…」
立ち上る砂煙。剣を支えになんとか立ち上がった山本。だが左足は折れ、内蔵もいくつかやられたのか吐血する。
「生き…でるが…みねむら…」
「なん…とかな…助かっ…た」
一緒に受け止めた峯村を見やる。叩きつけられた衝撃か腕はあらぬ方向に曲がり、荒い呼吸を繰り返している。
「そりゃ…よがっ…た…でも…こりゃ」
「おわり…だな…」
チカチカとする視界の中。
目に映るのはこちらへ悠然と近づくヘカトンケイル、そしてモンスターに必死に抗う満身創痍の探索者達の姿。今この場で助けに入れる者はいない。
「蝗帙▽繧馴?吶>縺ォ縺ェ繧…」
2人を見下ろしながら足を上げるヘカトンケイル。最後のあがきも…出来そうにないな。
そう覚悟を決めた時、紅い槍がヘカトンケイルに突き立ち、踏み潰そうとした足が止まる。
「やぁぁぁぁあ!」
「縺ェ繧薙□繧。?」
田村だ。彼女は少しでも2人から引き離そうと、必死に突き、横凪ぎ等を繰り出す。無論、ヘカトンケイルにダメージはない。だがうっとおしかったのかハエでも払う様に腕を振る。
「だむら…」
「早く逃げてください!」
「やめどげ…じぬぞ…」
ゴウッ!田村の眼前を腕が通り過ぎる。それでも田村は覚悟のキマった顔でめちゃくちゃに槍を振るう
「お2人以外…くっ!、今金級はいません!私が…ここで死んでもッ!…まだ立て直せる、チャンスがっ!…残ります」
そういう事だった。ただこれは協会職員としての使命感から来るものだけでは無い。戦うものしか分からない想い、そして探索者としての意地が、田村を突き動かしていた。
「わがっだ…感謝する…」
「お前の…事は…忘れない…」
足を引きづりながら、周囲のモンスターに気づかれない様に後退していく2人を田村は微笑みで見送る。
「残業はなしになりそうです…」
槍を振いながら、田村はそう思った。余程うっとおしかったのだろう…ヘカトンケイルが構えたからだ。
「…はは、なんですかこの魔力…」
立ち上るオーラに思わず笑う。絶対に勝てない、それは分かっている…なら最後くらいイタチっぺをかましてやろう。
「はぁぁぁあ!」
田村は全ての魔力を穂先に込めて突きだす。
自分が今放てる最高の一槍
だが2本の腕で、簡単に槍を掴み取られる。
「繧ア繝?ゥエ遒コ!!」
そして山本を吹き飛ばした拳が田村に迫った。
目を瞑る。流れゆく走馬灯、楽しい人生ではなかったけれどもっと生きたかったなぁ…
「お母さん…」
最後に出た言葉がこれか。
受け入れた死を待つ。
1秒…2秒……。
いつまでもやって来ない衝撃。そして
「繧ア繝?ゥエ!!!」
ヘカトンケイルの咆哮。
田村は目を開けて確認する。
そこには……
「田村さん…私はあなたの母親ではありませんよ?」
腕を三本切り落とされ喚き散らすヘカトンケイルと
「柚希ちゃん……」
橘柚希の姿があった。