「今日も総司と地下か? 」
朝食を終え、食器を洗いつつやたらナニかした右手で接触を試みる総司を躱す俺にじじいが言った。
「え…あっ、いや…」
言葉を濁す。いやもう一緒には無理だろ…だって総司はもう総司きゅんじゃない。
…おい総司、ギンギンの目でこっち見んな。目の奥の仄暗い光が透けて見えるぞ。
「なんだ?用事か?」
「いえ別に用事は…あぁ、いえ!はい!用事です、用事…用事がありまして」
総司の禍々しい笑顔を見て咄嗟に言葉が出た。…用事なんてねぇよ…どうしよ…。
「姉ちゃん、それは僕と強くなるより大事な用事なの?」
「総司、今はワシと柚希が話しておる黙っていろ」
昨日と同じ修羅の如く鋭い視線、しかし総司はそれを真っ向から見返した。
「じいちゃんこそ黙っててよ、僕にも関係あるんだから」
「……ほう?総司、貴様地下に潜って化けよったか…」
ニヤリとするじじい。まぁ確かに化けたは化けたよね…少年から化け物にね。
「で、姉ちゃんどうなの?僕と強くなるより大事なの?」
じぃー…っと庇護欲を誘う可愛らしい顔でこっちを見る総司。
いや騙されねぇから…つかさりげなく右手で俺の手触ろうとすな。しかし用事…用事かぁ………あぁそうだ。俺は総司を無視してじじいに答える。
「はい、私も16になりましたので今日から探索者として登録し、活動しようと思います」
「…なんだと?」
じじいから剣呑な気配が漂う。まぁ自分の息子とその嫁さんを探索者で亡くしてんだ。孫娘にもその道行って欲しくないわな。
だが前世思い出す前の俺も元々これは決めてたんだ、今日である必要は本来なかったが悪いが譲れない。俺はじじいを真っ向から見つめる。
「お爺様の気持ちは分かります…父様も、総司のお母さんも探索者をして亡くなってますしあの日……その、いい辛いですがお爺様がお酒を飲みながら夜中に涙したのも知っています」
「……見てたのか」
「はい…それで私は強くなろうと決意したのですから…ただこのままではダメなんです…理由を説明しますので少しお待ちを」
そう言ってパタパタと部屋に戻った俺は押し入れから人の頭くらいある塊を取り出して再度リビングに戻りそれをじじいに見せる。
「随分デカイ魔石じゃな…何を殺った」
「あの地下のダンジョン、その最下層の主のものです…あそこにもう私の敵はいません」
「…僅か3年であれを倒したというのか」
じじいが目を見開く。相当驚いているらしい。おれはじじいの前に腰を下ろし正座する。
「強さを求めるのは橘に生まれたものの定め…お爺様、何卒お許し下さい…」
そして頭を下げる…土下座だ。
頼むよじじい許してくれ、孫娘の貞操と向上心を助けると思ってお願いします!
「お主も歩むか…ワシや茂信(しげのぶ)と同じ冥府魔道を……柚希よ、顔を上げなさい」
少し待っておれ…といってリビングを出ていくじじい。…こら総司、そんな親の仇みたいな顔でじじいの背中を睨むな。
つか冥府魔道とかなんとか言ってたけど探索者にはなりたいのは本当言うと金稼ぎの為だぞ?うち道場収入弟子4人だけだから貧乏だし。
地下の素材も売れるには売れるけど月に1回魔石を1個か2個売るのが限界だ。それ以上は絶対バレる。
でも探索者になれば言い訳つくから素材も売り放題、がっぽがっぽてな寸法よ。
それだけだ。今はもう強さとか本当は求めてねーよ今の俺充分ヤバいし。
……まぁ総司拗らせすぎて地下に頻繁には潜れないからあんま売るもんないけど。
そんな事を考えながら待つこと数分。戻ったじじいは俺に一通の封筒を手渡した。
「お爺様、これは?」
「探索者協会への推薦状じゃ…わしはある程度名が知れておる、お主の助けになるだろうから持っていけ」
「感謝します」
え?そうなん?若い頃モンスター狩ってたのは知ってたけど勝手に殺してたと思った。繋がりあったんだ。
「それとレベルの事についてはワシに付いて外にいたのを殺していたと言っておけ、分からん時、ボロが出そうな時は全て橘の秘事ですと答えよ…それでなんとかなる」
「分かりました」
「うむ…柚希よ、後は上手くやれ……行くぞ総司!貴様は今からワシや門弟共と死合稽古じゃ!」
「え!?いや、だったら僕も姉ちゃんと一緒に探索者に……」
「未熟者が何を言うか!!それにあれは16にならねばなれぬわこのたわけ者が!早く行くぞ!!」
「うわぁぁ!!」
首根っこを掴まれて引きづられながら退室する総司とじじい。
俺は渡された封筒を手に立ち上がると出かける準備をする為2階の自室へと戻った。