ホロライブラバーズ 『この蒼空で会えるなら』   作:まだまだだね

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邂逅・風切りは光奔る

 際立った個というのは、否応なしに周知される。

 極まった者は何時だって注目の中心にいる。

 故に、彼の存在が気づかれるのは時間の問題だった。

 

「何か来て──」

 

 白蒼が奔る。

 

「ちょ速──」

 

 白蒼が奔る。

 

「こいつまさか──」

 

 白蒼が奔り、首が宙を舞う。

 

 バトロワ開始から五分。

 離れた位置から、()()を眺める者がいた。

 

「……あれはやばいわ」

 

「何が見えたの、ししろん?」

 

「無双ゲー」

 

「本当に何が見えたの?」

 

 第二校舎屋上。

 戦闘痕を残しながらも静謐な空間に二人の少女がいた。

 

 狙撃銃のスコープ越しに第一校舎で起きている蹂躙を眺める少女と、変なこと言い出す相方に胡乱な目を向ける少女。

 獅子の獣人である獅白ぼたんとハーフエルフである雪花ラミィ、新入生の二人組だ。

 入学前からの友人で、運良く同じ場所から開始した2人は周囲の情報を集めていた。

 

 そうして、少し離れた位置にある第一校舎にて()()を目撃する。

 

「あれ相手にするのは厳しいね」

 

「……そんなにヤバいんだ」

 

「うん、意味わかんないわ。いつ撃っても当たる気がしないんだけど」

 

 はっはっは、と笑いながら、開始場所が此処で、そしてラミィといち早く合流できて良かった、とぼたんは思う。

 野生の勘、獣人種が持つ本能が最大に警戒を叫んでいる。

 あれと真正面から戦うのは無謀を超えて自殺行為だと、そう叫ぶ。

 

 だから不意打ちを狙っているのに、まるで隙がない。

 もし今狙撃を敢行したとして、当然のように回避して弾道から此方の場所がバレるだろう。

 

「暫くは此処で様子見かな。ラミちゃんは周囲の警戒継続でお願い」

 

「下手に動くとぶつかるかも……ってことだよね」

 

「そそ、取り敢えず命を大事に、って感じでいこう」

 

 あれと戦うなら、せめてある程度近距離で攻防を為せる存在が欲しい。

 そうして初めて戦闘という形を作ることができる。

 これまでの戦闘経験──傭兵として培ってきた感覚が弾き出した結論。

 決して諦めることなく、いずれ来る可能性を持ち、少女は鋭い視線を向けるのであった。

 

 

「見られてる……やっぱり気づかれるのが早いな」

 

 校舎を駆け、見つけ次第生徒の首を落としていきながら、一夏は向けられる視線を感知した。

 遠視であったり、エネルギー感知であったり、その手の技能を持つ生徒はいち早く情報アドバンテージを得ようと既にその技能を行使している。

 向けられる視線の一つ、静かな戦意を宿したものに対して警戒度を上げながら、上の階へと進んでいく。

 

「…………」

 

 そうして、第一校舎の屋上に辿り着く。

 より鋭く、意識を研ぎ澄まし。

 扉を蹴破った、その瞬間。

 

「やれっ!!」

 

 一夏目掛けて、色とりどりの閃光が飛んできた。

 多様な属性による遠距離攻撃。それを受け、屋上に大量のセメントが漂う。

 屋上にて一夏を待ち伏せし、攻撃を行った五名の生徒たちは、セメントの奥を確認しようと目を凝らす。

 

「まじで鷲尾一夏かよ……」

 

 一瞬だけ見えた白蒼の髪。それが彼の存在を正しく肯定する。

 黄金世代と名高いこの世代で、全国2連覇を成し遂げた傑物。化け物、といったほうがいいかもしれない。

 一人の生徒が呆然と呟く。それほどの衝撃があった。

 

 バトロワを校舎の上階方面で開始した彼らは、鷲尾一夏の存在を確認し、一時結託した者達であった。

 獅白ぼたんが出した結論と似たもの──単独での交戦・撃破は不可能だと判断し、力を合わせることにしたのだ。

 上へ上へと進んでいく一夏を屋上で待ち構え、己の出せる最大火力の攻撃をぶつける。

 シンプルだが効果的な作戦は、確かに成功した。

 

「おい、魔力探知はどうだ」

 

「……感じない。俺たちの魔力残滓しか感じ取れない!」

 

 五名の火力が集結したその威力は馬鹿にならない。

 漂うセメントの量が如実に結果を表している。

 五人の中で結託を提案し臨時のリーダーを務めた男子生徒の声掛けに、返ってきたのは期待と興奮が隠し切れない叫び声。

 

 これなら、もしかして──全員がそう思ってしまう。

 

「これは……やったか?」

 

「あっ、おいバ」

 

 耐えきれないように、誰かがそう呟いて。

 その、あまりにもあんまりな言葉を、一人が慌てて止めようとして。

 冷気が肌を撫でた。 

 

 言葉が途切れる。不自然極まりない途切れ方。

 リーダーの背筋に嫌な汗が流れる。

『絶対的な敗北』の予感に、相棒である短剣を強く握った。

 

「っ、背中を合わせろ! 背後を取られたら終わる!」

 

 咄嗟の判断は正確だった。

 けれど、その『咄嗟』は、既に手遅れで。

 仲間の気配がない。ついさっきまで近くにいたのに、もうどこにもいない。

 

 全員やられたと分かった。

 当然だ、と思った。

 あの男が相手なら、そうなるよなという確信があった。

 

 流れる汗が嫌に冷たい。

 今になってようやく、冷や汗とかの尺度を超えた()()()()()の存在にリーダーは気がついた。

 

「即興にしてはいい合わせだった。ただ、もう少し狙いをつけた方がいい。粉塵が巻き起こったし、残留魔力も濃かったからこうして隠形に利用される」

 

「……はは」

 

 粉煙が切り裂かれる。

 開かれた視界のその奥に、いた。

 白蒼の髪、握られた同色の長剣。

 

 リーダーの生徒は知っている。

 一昨年、テレビの中で戦ってる姿を見たときから憧れているから、知っている。

 

 その剣の正体が氷造魔法により作られた氷の剣ということを。

 それは鷲尾一夏の主武装(メイン・ウェポン)

 敵を悉く切り裂き、凍てつかせる絶冷の刃。

 

「本当に、この学園に入ったのか」

 

「ああ」

 

 肯定は短く、いっそ冷酷なまでの声色だった。

 感情全てを無駄だと切り捨てような、そんな無表情。

 此方の全てを見抜いているような瞳。

 あの日の『最強』が、変わることなくここにいた。

 

 負けると思っているのに、それでも短剣を構えた。

 リーダーの生徒は、にやりと笑う。

 

「あんたのファンだ。サイン貰っても?」

 

「悪いけど、今はそんな余裕はない」

 

「そうかい、じゃあ手合わせ願おうか!」

 

「……来い」

 

 動き出しは同時だった。

 リーダーの生徒は、これまで一夏が倒してきた生徒たちより明確に速く距離を詰めた。

 一夏は目を見開く。それは、一連の流れで推測したその生徒の能力値を超えた速度であった。

 胸の奥の熱に背中を押されるままに、短剣による連撃をぶつける。

 

 空気を切り裂きながら迫る斬撃。

 それを一夏は身体捌きでかわす。

 身じろぎにしか見えない、ほんの僅かな動きで、するりと連撃全てを魔法のように避ける。

 手ごたえが全くない、斬撃自ら彼を避けたのではないかと思う光景に、思わずリーダーの生徒は笑みを深めた。

 

「どうなってんだよそれ……!」

 

 氷剣が振るわれる。 

 それで、終わりだった。

 白蒼の残光が軌跡を刻み、氷刃が体を断ち切る。

 一刀両断されたことに遅れて気づくような、そんな速度感。

 リーダーの生徒の体が粒子になり消えていくのを目の端で捉えてから、長剣を振って魔力に戻した。

 

「……想定よりも動きが良かった。もしもっと緩急の幅があったら、危なかったな。流石ホロライブ学園ってとこか、生徒のレベルが高い……」

 

 ふう、と息をつきながら一人ごちる。

 もし、素の能力値がもっと高かったら。

 もし、連携の錬度がもっと高かったら。

 一夏は負けていたかもしれない。

 

 敗北の可能性は常に側にいる。

 いくら取り除こうが、無くなることはない。

 油断なんてもっての外だ、と気を引き締め直した。

 

 その時だった。

 ひゅう、と風が吹いて、

 

「───ツ」

 

「覚悟っ!」

 

 直感が危機を囁くのに身を任せ、地面を蹴りつけて跳躍、寸前まで迫っていた斬撃を回避する。

 一夏は警戒を緩めてはいなかった。

 魔力探知も気配探知も、何も怠ってはいない。

 

 故にそれは、一夏の感知網を超えてくる領域の相手──天音かなたのような、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──の存在を示すのと同義であった。

 

(風に紛れたのか? 斬撃が空気を裂く音がした。武器はなんだ? 風遣いの近接戦闘者って誰かいたか? いや、いない。野良の、試合情報が残ってないタイプの強者。殺気混じりの攻撃だった、実戦経験も結構あると見たほうがいいな)

 

 一瞬のうちに一夏の思考が回る。

 一夏の戦闘用思考回路は一切の淀みなく正常に情報を紐解いていく。

 

 空中で一回転し、その勢いを乗せて距離を取る。

 着地と同時に氷剣を創造、眼前の刀を受け止めた。

 

「ぐっ!」

 

「逃がさないぞ」

 

 押し込もうとすれば、力を流され間隙を突かれる。一夏は細かに力を制御し、4:6の比率で自身が優位になるように鍔迫り合いに持っていった。

 

「流石でござるな……! あの奇襲を無傷で切り抜けるとは……!」

 

「あれは危なかった。運が良かったとしか言えない」

 

「それでも、見事なものでござる。白蒼の髪、氷の剣、極まった身体運用……鷲尾一夏殿とお見受けするでござる!」

 

「……あぁ、そうだけど……君は?」

 

「風真いろはと言うでござる! 以後、お見知り置きを」

 

 一夏は記憶を探るも、やはり名前に覚えはなかった。

 推測の的中、思考回路が加速する。

 相手の手札全てを出されたらまずい、と直感が囁く。

 今まで幾度となく一夏を助け勝利へと導いた勘に従い、このまま決着をつけようと魔法を発動しようとし──

 

「あっそれまずいでござるな」

 

 刹那、突風が吹いた。

 一夏に向けて、明確な指向性を持った風が襲いかかる。

 大柄な体格の人間であろうと吹き飛ばされるような強さの風。

 

 身体強化を施している一夏であっても僅かに体勢が乱れる。いろははそこに出来た力のゆらぎを見逃さなかった。

 押し込まれていた姿勢から全身をバネにし瞬間的に膂力を増大、氷剣を弾き飛す。

 

 一夏の両腕が頭上まで跳ね上がり、氷剣は離れた所にまで飛ばされた。 

 バトルロワイヤルが開始してから初めて、一夏に明確な隙が生まれる。

 

 その好機を見逃すことなく、いろはは追撃を敢行する。

 

「はッ──!」

 

 逆袈裟から横薙ぎの移行は流れるように自然で、無駄という無駄がない。

 無駄がないということは、減速がないということ。

 最速の斬撃が一夏の腹部に放たれた。

 

 一見して、詰みに近しい状況。

 

 それに対して、一夏は重心を()()と後ろにずらした。

 同時に素早く地面を蹴り後退。

 余りにも滑らかな、傍から見れば瞬間移動にも近しい、目を疑うような挙動だった。

 

 結果として、いろはの斬撃がぎりぎり服をかすめるに止まる。

 

「マジでござるか!?」

 

「ああ、マジだ」

 

 勢いそのままにバク転をして一足一刀の間合いから離脱。

 足元に転がる氷剣を蹴り上げて構え直す。

 そして、発動直前で待機させていた術式を起動した。

 

「【鳴るは咆哮】【空駆ける光の矛】【浄滅の雷を齎そう】」

 

 三節の詠唱が響き、バチリと魔力がスパークする。

 全身に白蒼の電撃を纏わせ、莫大な魔力が吹き荒れる。

 空気が変わった。ここからが本番であると、両者ともに理解していた。

 

「おお、ビリビリでござるな」

 

「君も似たようなことをしているだろ。異能、いや相伝の妖術か。それも剣術と根幹理念から融和している……そういう流派だな?」

 

「当たりでござ……いや気づくの早すぎでござる!?」

 

 視界の先、刀を構えるいろはも全身、そして刀に気流を纏わせている。

 一夏と同様の自己強化だ。揺らめく緑風が強い圧力を発していた。

 

 一連の攻防を通じて、一夏の観察眼がいろはの技術体系をより深く紐解いていく。

 厄介だ、と頭の中で一夏は警戒度を一つ上げた。

 

 相伝の魔法、妖術を持つ者がそれに合わせた戦闘技術を開発することはある。

 その手のものは総じて高い練度と実力を持つことを、一夏は知っていた。

 

「改めて、いざ尋常に勝負──!」

 

 いろはが飛び出した。

 先ほどよりも数段速く、その速度差も含めて対応は難しい。

 

 が、いろはが動き始めたのに合わせ、一夏も地を蹴った。

 緑風と白蒼の雷が交差する。

 刀と剣の衝突に空気が揺れて、粉煙が舞った。1秒の合間に数度の斬撃がぶつかるような速さで斬り結ぶ。

 高速で展開される剣戟を前にいろはの口角が上がった。

 

「やっぱり、この程度余裕そうでござるな!」

 

「そうでもないから、手加減があった方が嬉しいんだけどな」

 

「それは無理な相談にござる!」

 

 縦横斜め、斬撃の軌道がほぼ重なって見えるほどの速度でいろはが刀を振るう。

 それを一夏は防ぎ、かわし、戦況の流れを奪われないようにカウンターを差し込んですらいる。

 

 互いに流れを掴もうと、有効打を狙っていた。

 攻防の中、いろはの刀が纏う風が揺らめいた。

 

「っ!」

 

 刀が振るわれ、その斬撃を回避しようとして。

 一夏は大げさに転がって斬撃を避けた。

 回転する視界の中、刀の先端部から鋭く固まった緑風が刀身を伸ばしているのを見つける。

 

「ただの剣術じゃない……風を使った拡張斬撃か」

 

「ぐぬ〜〜なんで初見で全部避けれるんでござる!?」

 

 もし一夏が普段の回避機動を取っていたなら、絶対に躱せない一撃。

 直感が危機を囁かなければ、気づけなかったであろう隠密性と剣戟の中で行える操作性。

 近接戦闘において猛威を振るう、恐ろしい技術であった。

 

 どれほど伸ばせるかは分からないが、このまま受け手に回り続けるのはまずいな、と一夏は意識を切り替える。

 深度を増す集中。加速する意識の中、世界が停滞する。

 

「こっちから行くぞ……ッ!」

 

 地面を蹴り砕く勢いで一夏は突貫した。

 雷光が駆け抜けた軌跡を彩る。落雷が上からではなく横向きに落ちたような、そんな光景だった。

 氷剣がおよそ常人では認識すら不可能な速度で振りぬかれる。

 

「ぐう……!?」

 

 刹那の反応でいろはが斬撃を受け止めた。

 受け止め、伝わる莫大な衝撃が刀を通じて体の奥まで伝わる。

 その重さにいろはの動きが一瞬止まり、一夏の斬撃がそれを見逃さずに襲い掛かる。

 

 続く斬撃を何とか受け流そうとするが、間に合わず体勢が崩れる。

 受け止める事自体が駄目だと悟っても、既に遅い。

 

 回避はもう間に合わない。

 防御はじわじわと敗北に繋がっている。

 迎撃など以ての外だ。

 

 それは、酷く合理的な剣だった。

 高いスペックを持つからこそ可能な動きだった。

 強い力で単純に圧倒する、そういう術理だった。

 ただ順当に、相手を上から押し潰して勝利を手にするような強者の戦い方だった。

 

 体勢が崩れた、これまでの彼女の速度感ならもう間に合わない。

 取った、と一夏が確信する。

 詰みの一手として、油断なく一夏が氷剣を振り下ろした。

 

 が。

 予測した光景は訪れない。

 

 空気の炸裂音が響いた。崩れた体勢のまま、いろはの体が横向きに高速で移動した。

 纏う風の一部を炸裂させ、生まれた爆風による加速で斬撃を避けたのだ。

 

 転がりながら距離を取る。

 それと同時に解放された風が再度いろはに集い、緑風のヴェールが再生成された。

 

「……風の多機能装甲か、厄介だな」

 

「隠しておきたかったのに……!」

 

 いろはが纏う風の鎧はそれ自体が身体強化、加速、防護の機能を持ち、また任意で装甲を炸裂させ瞬間的な加速機構へ転じることも可能である。炸裂させた風もまた集めれば装甲にでき、再生成に要求されるエネルギーが少なく、消耗が殆どない。

 

 持久戦から短期決戦まで対応可能な、極めて高い完成度を誇る術式だった。

 いろは自身の高い技巧が合わさり、崩すことが尋常ではなく難しい。

 

「……」 

 

 両手で握っていた氷剣を片手で握り直し、空いた片手に魔力を集める。

 洗練された操作技術で集束された魔力を電撃に変換、乱雑に撃ち放った。

 

 一夏は近接戦闘の方が適性が高く、普段は氷剣を使った戦闘を行うが、それは遠距離攻撃手段がないことにはならない。

 故に、その電撃は本職の魔法使いに劣らぬ威力を備えている。

 

「その程度──!」

 

「……こんぐらいなら歯牙にもかけないか」

 

 迫る電撃は戦闘を通して鋭さを増していく斬撃に切り払われる。

 なら詠唱込みで高火力をぶつけるか、と電撃を放出し続けながら先ほどより魔力を収束させる。

 

「させないでござる!」

 

 散っていく雷の残滓の中から、再度いろはが接近する。

 遠距離戦闘に応じない。

 攻撃手段に乏しいのか、と一夏の思考回路が高速で回転する。

 

 ならば、相手に付き合う道理はない。

 このまま一定の距離を保ちながら削りきる。

 冷静に勝ちを見据え、一夏は詠唱は始める。

 

「【稲光は奔り】【照らすは地平】【紛争をきざ】──ッ」

 

 後退しながら牽制として電撃をばら撒き、風の装甲を貫く攻撃を完成させようとして。

 一夏は詠唱を中断、無手の右手に高速で氷の盾を生成。()()()()()()()()()()を防ぐ。

 

 全身に響く衝撃に逆らわず、一夏は吹き飛ばされる形で距離を取った。

 まずったな、と自身のミスを悟る。

 時間をかけて確実に倒す事は間違いではない。が、今行われているのはバトルロワイヤル。

 

「新手か……!」

 

 視界の先、いろはの近くに二つの人影があった。

 白い髪、獅子の耳。もう一人は水色に近い青髪に尖った耳──エルフの証。

 

 ぼたんはずっと見ていた。

 ずっと、ずっとチャンスを待って、ここで行くしかないというタイミングが今だった。

 

「一旦組まない? あれ、どうにかしないとなのは同じでしょ」

 

「四の五の言ってられないでござるな……その誘い、乗らせてもらうでござる!」

 

 瞬く間に戦況が一変する。

 一対一は三対一へ。

 容易には倒せない剣士、直前まで気づかれない奇襲をなした二人組。

 

 一夏に悪寒じみた感覚──敗北の予感が走る。

 

「……」

 

 氷剣を右手に持ち替え、左手を無手に。

 対応力に重点を置き、剣を構える。

 

 敗北の予感など、何度も感じてきた。

 ならば、諦めることなどあり得ない。

 負ける事は許されていない。鷲尾一夏はそれを許さない。

 

 やるべき事に変わりない。

 ただ勝利を為せば、それでいいのだから。

 

 故に。

 鷲尾一夏はここに、最強たる所以を示す。




 次回:証左・冠を戴きし頂点
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