長々と続けてもエタるだけなので。
あれから何日経っただろうか。
今残っているのは自責と後悔だけ。全てを捨てた筈なのに、心残りが押し寄せて来る。
ミレニアムはあれから、ゆっくりと元の形に戻っていった。止まっていた行政も、少しずつではあるが動き始めている。
先生もプレナパテス先生も、シャーレの業務に否応が無しに追われ、悲しみに沈んでいる暇も無さそうだ。
俺は何をしているのだろう。
沢山やり残した事があったはずだ。ヒマリを、ミレニアムの皆を、キヴォトスの皆を悲しませて死ぬ事に、何の意味が……
「っ、痛たた……」
最近はいつもこれだ。自分が死んだ事の意味を探そうとし、その度に脳裏に強烈な痛みが走る。まるで、それを探す事を身体が拒絶しているかのような……
意味ならある。
そうだ、俺は異物で……
(じゃあ、何で今まで足掻いたんですか?)
「誰だ!?」
頭に響く声に、咄嗟に銃を構える。だが、周囲には誰も居ない。レーダー、熱源探知に反応無し。そもそも今いるセーフハウスのセキュリティを越えられる存在が居るとは思えない。
(『全能』なんて崇められて)
(筋書きなんてもうグチャグチャなのに)
(今更傍観者気取り?)
「っ、黙れ!出て来い!」
(物語なんてとっくの昔に歪んでる)
(異物が去るにはもう遅すぎる)
(責任と義務、果たす時です)
「お前に!何が分かる!?」
(分かりますよ)
(貴方をこの世界に呼んだのは、私なんですから)
「は……?」
激情に支配されていた思考が、スッと冷えていくのを感じる。この世界に呼んだ……?この声は何を言っているんだ……?俺は、気付いたら当てもなくブルーアーカイブの世界を彷徨っていて、それで……
「アンタは……神なのか?」
(うーん、当たらずとも遠からずといった感じですね。)
(とにかく、貴方がここで腐ったままではいけないのは確かです。)
(踏み出しなさい。そうすれば私が誰なのかも分かります。)
「でも、俺はもうこの物語の、この世界の……」
(明星ヒマリ。)
(彼女がどうなっても良いんですか?)
「アイツを人質に取るつもりか!?それだけは許さない!」
思い残しなんて掃いて捨てる程ある。その中でも、彼女は、彼女だけは。どこの馬の骨と知らない俺の創った物を、評価してくれた。2人で下らない事から学園の危機まで解決した。応えられなかったが、俺の事を一途に思ってくれていた。
(では、踏み出し、彼女に全てを打ち明けなさい。)
(彼女を失いたくはないでしょう?)
「クソッ、分かった。分かったよ……」
彼女を想って死を選び、彼女を想って打ち明けようとする。酷い矛盾だ。我ながらとんでもないクソ野郎だと心の中で笑う。だが、頭の中で響く声を無視したら、本当に彼女が永遠に失われてしまう気がして。
自分から捨てたのに、自分から拾おうとするなんて。
許されようなんて思わない。ただ、赦されぬ事をした償いを。
そう思って踏み出した、その一歩目は。
「クックック……やっと出て来てくれましたね、ハガネ君。」
「すまん、今はマジで放っといてくれや。」
盛大に挫かれた。
「嗚呼!その神秘、その恐怖!やはり私の目に狂いは無かった!」
「頭は狂ってるみたいだけどな。」
「ククク、辛辣ですねぇ……」
黒服。ゲマトリア所属、この物語の敵役。そんな彼が、俺のセーフハウスの前で待ち伏せていた。
「ですが良いのですか?私の話、きっと貴方にとって価値あるものになりますよ。」
「はい、遠慮しておきます。」
彼の横を通り抜けようとする。不気味で手段を選ばぬ非情ではあるが、直接的な戦闘力は有していない。故に無視する。それに限る。
「嗚呼、お待ち下さい、蘇りし再誕の神よ!」
「お前、俺が生き返った事を知って……?」
だが、聞き捨てならないセリフによって、俺の足は止まってしまうのだった。
「しかし、貴方のセーフハウスは私の空間転移すらも無効化してしまうとは……出て来なかったら骨折り損でした。」
「はよ要件だけ話せ。ハリーハリー。」
「そうでした、貴方は明星ヒマリさんの所に向かわなければなりませんものね、ではまず結論から。」
「……」
相変わらず何処からか此方のやる事を嗅ぎ付けてくる。ヒマリの所に向かう事も、何故知っているのか。
「貴方は神になるべくこのキヴォトスに現れたのです。」
「……あっ、うち宗教勧誘はお断りしておりますので。」
「……ふぅ、最後まで人の話は聞くものですよ。」
「お前相手じゃ無かったらな。」
物凄い握力でドアにしがみつき、ドアの隙間に足を滑り込ませてきた為、悪質な宗教勧誘を撃退出来なかった。だが待って欲しい。いきなり貴方は神になるのですと言われて、はいそうですかと頷けるだろうか。
「問いましょう、貴方は何故死んだのですか?」
「は?それは、俺が異物で、この先を知らないから……」
「それ、そこですよ。」
「?」
「何故死ぬ必要があったのですか?隠居生活を送るなり、キヴォトスから出て行くなりらやり方は幾らでもあったでしょう。ですが貴方は『死』という究極の方法を選んだ。」
「
「それは、どういう……」
「ここで最初の話に戻ります。貴方は神になる。そう定義されています。テクスト、テクスチャ、神秘、その全てにおいて。」
「ですが、貴方は生徒としてのテクストを帯び、テクスチャを纏ってしまった。神秘だけが貴方を神へと昇華しようとしていた。」
「ですから、神秘はどうにかそれらを剥がす方法を考えた。」
「神へと至り、それらを剥がす。一石二鳥のやり方に神秘は至った。」
「それが、貴方を1度殺す事。」
「何を、言って……」
「おや、聡明な貴方でもまだ分かりませんか?神話に再誕はつきものでしょう?」
「俺は、俺の意思で……!」
「違いますね。神秘が、貴方にそうさせた。死ぬ事が最善であると誤認させた。現に、貴方はこう思っている。大事な人を遺して、傷つけ、何故私は死を選んだのかと。」
「貴方は暁のホルスに迫る神秘の持ち主。強大なソレに抗う事は不可能だった。」
「そして、神秘の目論見通り貴方は死んだ。肉片1つ残さず、灰になって。完全な灰。蘇生は不可能。だが、そこから蘇ってこそ神話は確固たるものとなる。」
「待て、待ってくれ!」
「おや、どうしましたか?」
黒服の言葉を遮る。訳が分からないが、自分が神になろうとしている?事は理解した。ちょっとだけ。だが、まだ分からない事がある。
「何故俺は神になる必要があるんだ!?」
「……分かりませんか?」
「貴方が、本来であればここに存在しないからですよ。」
目を見開く。こことは何処か。ミレニアムの事か。キヴォトスの事か。まさか、ブルーアーカイブの事か。
「貴方は特異な存在。ただの傍観者に過ぎなかった貴方が、このキヴォトスへ到達した。明らかな異常事態。」
「もし完璧な絵画があるとして、それに素人が絵の具を垂らしてしまったとしたら。貴方ならどうしますか?」
「書き直してもらう、とか……?」
「100点の回答です。そう、元に戻す事は出来ない。なら、書き直すしか無い。では、元あった絵画は?」
「捨てる……?」
「そう、そうですよ!流石『全能』を冠するだけはありますね!いや、その称号も与えられるべくして与えられたのか……?」
段々と黒服の言いたい事が分かってきた。俺が異物、ブルーアーカイブが絵画とすれば、俺の居ない物語を作るには俺が死に、作り直すしか……
待て、作り直す……?
どうやって……?
「おい待て!例え神になったとしても、俺はこの世界をどうこうするつもりなんて無いぞ!この3年で分かった!アイツらは物語の登場人物なんかでも、舞台装置でもない!1人1人が生きている人間だ!」
「えぇ、そうです!そうでしょうとも!彼女達がただのハリボテであれば、私はここで身命を賭して研究なんてしませんよ!」
「なら結局何が言いたかったんだ!」
黒服の頭に存在する白い亀裂が大きくなる。大きく罅割れる毎に光を増し、此方を射抜くそれはもはや凶眼といえる。
「ですが、ですがね」
「果たして別世界の貴方も同じ意見なのでしょうか?」
『緊急ニュースをお伝えします!現在、空が真っ赤に染まっております!つい最近、この様な事がありました!そう!色彩の侵攻です!まさか再びそれが起こるのでしょうか!各校が消耗している現在において、再びそれらを退ける事は出来るのでしょうか!只今状況を注視しております!チャンネルは変えずにそのままでお願いします!』
“先生、やっと見つけましたよ。”
“彼女を連れて帰れば全て終わりですね。”
“最期の時まで、着いて来てくれるか?”
“超天才清楚系美少女ハッカーはもはや貴方の一部。只着いて来いと、そう仰って下さい、ハガネ?”
“嗚呼、そうだったな。”
“私は『全知』、全てを識り、理解する絶対の一。”
“俺は『全能』、全てを理解し、実行する絶対の一。”
““世界を今、正しい姿に。””
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