女の敵のわるーい先生シリーズ 作:ブルアカ二次創作@本拠地はpixiv
先生を心から信頼してる男性耐性ゼロのナギちゃんVSわるーい先生
先生は私にとって、兄のような人です。模範的で、とても心優しく、飾らぬ気品に溢れた方です。
そして……私にとって唯一の、甘えられる相手です。
先生とのお茶会の時間が、たまらなく好きでした。あの人が傍にいてくださるだけで、日頃のストレスがすべて払われるのです。
先生はとても聞き上手な方です。長い愚痴でも相槌を打って真剣に聞いてくれます。
それなのに先生の方は、一切愚痴を言わないのです。……厳密には言わないこともないのですが、大抵『デスクワークが大変』というだけです。
先生にとって生徒を助けることは、呼吸をすることと同じなのかもしれません。……以前、先生と、補習授業部の皆さんをあれだけ苦しめて傷つけた私に、ここまで優しくしてくれるのですから。
私は先生に、恩返しをしたかったのです。
しかし望みを聞いてみても、「このお茶会の時間を私にくれているというだけで十分だよ」と言います。それでももっと押して聞くと、先生は困った顔をして、考えて考えて、それでも思いつかないらしく、困り果てて言いました。
「もう……ナギサは本当に、私のことが大好きだね?」
「え」
「ほら、シャーレと連邦生徒会が乗っ取られた時もさ、ナギサは留守電で……」
「わーっ!わーっ!」
「ははは、あれほんとに可愛かったなあ」
「……もう!先生、本当に、私にできることはないのですか?」
「そっか、ナギサは私に恩返ししたいと思ってくれてるんだね」
「はい……。その、生徒が先生に何を言うんだと思われるでしょうが」
「いやいや、嬉しいよ。娘が背伸びしてるみたいで微笑ましいし」
娘。
微笑ましい。
この二つの言葉が、私の心を引っ掻きました。
「ナギサ?」
「……あっ、すみません」
「いいよいいよ。それでさ、今、一つお願いをしてもいい?簡単なことだから」
「もちろんです!」
「ありがとう。じゃあ手を握ってもいい?」
私は多分、すごい顔をしたと思います。
「……はい?」
先生は笑って、付け足しました。
「ナギサの手って凄く綺麗だからさ。だめ?」
「……も、も、問題ありません」
「わあい!では……失礼するね?」
……先生の、大きな男性の両の手に、私の右手の平を握られました。
それだけです。
それだけで心拍数が急上昇して、呼吸が下手になってしまいます。
「ナギサー、緊張しなくていいよ?」
「いっいえ、全く全然緊張していません」
「そう?ならいいけど。綺麗な爪だね」
「き」
「…ふふ、細くて白い手だね。天使がいたら、きっとこんな手をしてるだろうね」
「っ!!」
「あ、ナギサは実際天使か。ごめんごめん、キヴォトスの外にはいないものだからつい、感覚で」
「わ、わかりますから大丈夫です」
「うん。……落ち着くなぁ。手を握るの。ずっとこうしていたいよ」
先生はまっすぐ私を見つめてきます。まさか私を恥ずかしがらせるためにやっているわけではないはずですから、ここで怖気づくのは失礼です。
しかし、死ぬほど恥ずかしいです。
「……うぅ」
「そうだ、このまま手を繋いで外に出ない?散歩をしようよ。どう?」
「ひゃ、ひゃああ……」
「ふふふ、冗談だから大丈夫だよ。お目々グルグルだよナギサ?可愛いからいいけどね」
私の頭は限界でした。
たっぷり十数分楽しんだあと、ようやく先生は手を離してくれました。
「ありがとうナギサ、とても癒されたよ」
「…どういたしまして」
頭がおかしくなりそうでした。
「あ、そうだ。もう一つお願いしてもいい?」
「ひっ」
先生はにっこり笑ってくれますが、私はこれ以上は耐えられません。これ以上続けたらこの感情が膨らんで膨らんで、頭が破裂しそうです。
「と思ったけど、もう遅いからお互い休まなきゃね?頼みごとはまた今度、ね」
「………………助かります」
先生は歩き出し、テラスの出口で振り返りました。
「じゃあ帰るね。またねナギサ」
その晩私は、まんじりともできませんでした。
お風呂に入ってもベッドに入っても、ずっと先生の手の感覚が残っていました。
翌日、私は半ば狂っていました。知恵熱に侵されたようです。
水でなく熱湯で顔を洗ってしまったり、朝一の紅茶をカップでなく砂糖入れに注いでしまったりしました。
午後、ティーパーティー三人でのお茶会ではこんな会話をしました。
「ナギサ。その顔をやめてくれ」
「どの顔ですか?私は今とてもニュートラルな顔でしょう?ねえ?」
「……悪いことは言わないから今日はもう休みを取るんだ。ろくに寝てないんだろう?なぜ紅茶でなく昆布茶を出してしまったことにも気づかないんだい。結構美味しいからいいけど……それに、そのやつれた顔にキラキラした瞳を光らす感じはやめてくれ。怖い」
「もーセイアさんってば、おかしなことを言いますね。私は今日、とても幸せな気分なんですよ?」
「セイアちゃんどうしよう、ナギちゃんがバカになっちゃった……」
「ミカに本気でこう言われたらおしまいだね。ほら、ナギサの補佐の子達も心配しているよ。今だってテラスの入り口から覗いている」
セイアさんが言うと同時に、ひそひそ話していた彼女らは頭をドアの影に引っ込めました。
「そんな事言わないでくださいセイアさん。人生は、最高なんです。今最高に世界が広まっているんですよ。もう誰に裏切られたって辛くもなんともありません。それが先生でなければ。ああ面白い。あはは……あはは……アハハハハ」
「その笑いを自分でするんじゃない。あと、夢野久作めいた笑いも止めたまえ……あぁもう。私にティーパーティーの権限がもっと残っていれば強引に休ませるのに……先生に褒められた後のミカの十倍はひどいぞこれ」
「この十分の一ぐらいにひどいの?その時の私」
「あはは……あはは……アハハハハ、先生……罪な人です、あはは」
「重症だ……。こうなったら仕方ない。ナギサ、どうか私を許してくれ。まあ正気に戻った君は許してくれるだろうけどね。……私の直感は、いわば予知夢の能力が変異したものだ。だが、先生との夢でのつながりがほんの少しだけ残っていてね、奇妙なことに、先生がトリニティにいる間は、様子が少しわかるんだ」
「えっ初耳なんだけど」
「そりゃ言ってなかったからね。ナギサ、先生は今、何をしていると思う?聞けば、ただでは済まないと思うよ」
「あはは……なんでも来いという心地ですよ、今の私は。さあ言ってみてください」
「今、生徒の頭を撫でているね」
「」
「とても仲睦まじい様子だ。君は特別なわけではないんだよナギサ。先生にとってはね」
「よし、倒れたね。そうだ。そのまま休むんだナギサ」
「セイアちゃん流石〜、正しいと思えばどんなことも平気でやるんだね☆」
「ちなみに撫でられてるのは補習授業部の下江コハルだ」
「ゴフッ……」
「おーい、補佐の子達。見てないで担架を二つ頼む。大丈夫、いつものだから」
私は正気に戻り、迷惑をかけた全員に謝り倒してから、可能な限り懸命に働きました。
しばらくの間、皆さんが私にとても優しくなったのが、それはそれは辛かったです。
幸い一週間ほどで、再び示しをつけることができました。
「ナギサ、来たよ」
「いらっしゃいませ、先生」
そして、また先生とのお茶会の日がやってきました。
「……その、私の……変な噂を聞いたりしませんでしたか?」
「いや?何かあったの?」
「いえ、絶対に何もありません!」
「はは、そっか」
何故でしょう。
いつも通りの先生とのお茶会です。
しかし、違うのです。
先生と一緒なのに眠くなりませんし、何より……。
何かが物足りないのです。
「ナギサ?ナギサ?」
「あっ、ごめんなさい……」
心ここにあらず、だったと思います。
「疲れてるのかな?」
「……そうかも、しれません」
「なら、癒しが必要だね」
「……!」
先生は立ち上がりました。
「何してほしい?頼んでくれたら、何かしてあげるよ」
あります。先生にどうしてもしてもらいたいと思うことが、一つ。
「…………だ、誰にも言わないでくれますか?」
「もちろん」
半ば夢心地で、乞います。
「あ、頭を、撫でてください……」
「ダメだよ」
心臓が凍ったような気がしました。
「……え?」
「髪は乙女の命じゃないか。恋人でもない男に触らせるなんて以ての外。ダメだよ」
きっとセイアさんが嘘をついたんだ。だって、先生が私をこの理由で撫でないのなら、誰のことも撫でない。
絶対にそうだ。だからセイアさんの嘘なんだ。
それだけだ。それだけのはず。
……私は変わったはずなのに。
信じることの大切さを、先生から教わったのに。
先生が私に嘘をつくわけないのに。
思考がぐるぐるして、止まりません。
「ナギサ?大丈夫?」
「……はい」
「顔が白いよ。貧血かな?本当に疲れてるんだね」
「そうかも、しれません」
世界が二重に見えてきました。
「……それじゃあ、お互い得になる『頼みごと』をしてもいいかな?ナギサ」
先生はなぜか笑顔でした。膝を折り、私に目線を合わせます。
「……頼みごと、ですか?は、はい。何でも。なんでもします。教えてください、私は何をすればよいのですか」
半ば縋る勢いでした。
「じゃあ」
身体をふっと引き寄せられました。
先生の、分厚くて大きな身体を感じます。
「どう?ナギサ。オキシトシンハグだよ。温かいね」
「あれ?ナギサ?おーい」
「頭真っ白になっちゃったの?羽パタパタさせて可愛いね」
「……あっ鼻血出しちゃった」
「……ナギサ、君を部屋まで運んであげるね?失神しちゃったんだから仕方がないよね」
「……君が悪いんだよ、ナギサ」
目を覚ますと私の部屋でした。
私は、先生にぎゅっと抱きつきながら、膝の上に座っていました。
「……せん、せい」
「おはよう。そろそろ慣れた?なーんて、そんなわけないよね」
「……は、離して」
「えー、嫌」
私を抱く力が強くなりました。
「お願い、ですから」
「ナギサ、私のこと嫌い?」
「違います…」
嫌いにならないで。
そんな想いが滲み出るような、否定の言葉でした。
「でしょ?」
また少し、抱く力が強くなりました。奇妙な高揚感が湧いてきます。……下着の中が、ぐちゃぐちゃに濡れていました。
「……あぁ、可愛いよナギサ。ごめんね、たくさん焦らしたりして。君が悪いんだよ。いつもは気高くて清楚なのに、私の前ではあんなに娘みたいに懐いてきてさ。崩したくなっちゃうのも自然だよね?」
私の喉が鳴りました。
壊れかけの頭に、『これで楽になれる、もどかしさから解放される』という救いが染み渡るようでした……が、先生は私を離して、隣に座らせました。
ここでようやく気づきましたが、先生と私が今座っているのは、自室の寝具の上でした。
頭の熱が増すばかりです。
「どうしたのナギサ。そんなに見つめられると照れちゃうな」
「……」
「息が荒いね。……ねえナギサ。君は私のことを、心のどこかで家族みたいに思っていたよね?父親とか、兄とか」
「……」
「すっかり、変わっちゃったね?」
「……せんせい」
「どうする?常識的に考えて、私がナギサの部屋にいるのは変だよね。誰かにバレたら大変だ。だから私はもう帰ろうと思うけど」
「……」
「困ったなぁ、これじゃ帰れないよ。ねえ、どうして手を離してくれないのかな?」
私の右手は本能的に、先生の腕を強く掴んでいました。
「……いか、ないで」
「……本気で言ってるのかな?この場面でその台詞は、まずいよ?」
「……せんせい。おねがいです、いじわる、しないで……」
先生はゾクリと身を震わせます。しかし、ぎらつくような欲望の雰囲気は全くありませんでした。……いえ、もしかしたら、今この瞬間でさえ徹底して、丁寧に隠していたのかもしれません。
私とお茶会をしているときでさえも。
「……ナギサのそういう顔を、私はずっと見たかった。でもね?このままじゃ二度と、前みたいな私とは会えなくなるんだよ。……ナギサ、どっちの私が好き?」
「……………………わたし、は」
冷水を浴びせるように、電話が突然鳴りました。
「出ていいよ」
ぼんやりと、私は電話に応答します。セイアさんからでした。
『ナギサ?今どこに……いや、この際どこでもいい!今すぐそこを離れるんだ!』
「セイア、さん……?」
『私は今、君が誰と話しているのかもわからない。けど、何らかの誘いを受けているんだろう!?その誘いに乗ってはならない!その場を離れろ!早く!』
「……嫌です」
『嫌です、じゃない!このままじゃ……君は底なしの沼に落ちて、二度と戻ってこられなくなるぞ!私にはわかるんだ!だから……』
先生は、電話をしている方と反対の耳に囁きかけてきます。
「セイアったら声が大きいね、丸聞こえだよ」
私の全神経は勝手に先生の声に集中し、セイアさんの焦燥に満ちた声は萎みました。
「どうする?君が選んでいいんだよ」
『ナギサ、頼む……二度と私のことを信じなくてもいい!だから今だけは……』
「私は君の選択を尊重するよ。ここで私を拒絶したなら、二度とナギサを『勘違い』させるようなことはしないけど……ほら、自分の心に聞いてみて?どうしたい?」
『返事をするんだ!聞いているのか?ナギサ、ナギ』
私は電話を切りました。
そして、先生にぴったりと身を寄せます。
それが私の意志かはわかりませんでした。先生に、操り糸をつけられたような気がします。操られることが、たまらなく気持ちいいとも思いました。
「嬉しいよ、ナギサ。私以外では二度と満たされないようにしてあげるからね」
私はされるがまま頭を撫でられて、花飾りを外されて……。
先生を心から信頼してる男性耐性ゼロのナギちゃんVSわるーい先生 完
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