女の敵のわるーい先生シリーズ   作:ブルアカ二次創作@本拠地はpixiv

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あの『わるーい先生』の恐るべき生態が、今明かされる!
……この衝撃の真実は、とある新聞部員の実録である。あのシャーレの先生の裏の顔、そして、周囲からの厚すぎる信頼の理由……お見逃しなく!

(第二章は、信じて受け入れるルートからの続きに当たります)


女の敵のわるーい先生編
とあるトリニティモブちゃんのわるーい先生観察記録


 私はトリニティ新聞部の名もなき生徒。そして、まもなく名が知れ渡ることになる生徒だ。

 なぜなら……私はひょんなことから、あのシャーレの先生の本性を知ってしまったからだ。

 彼の善良な教師としての顔はあくまでも表の姿。その裏は……恐るべき狂気の持ち主であり、全ての女の敵なのだ。

 これを記事にすれば、キヴォトス中に激震が走るだろう。

 

 

 

 きっかけは些細なことだった。

 私はトリニティ新聞部の活動の一環として、補習授業部の取材を試みた。

 しかし新聞部はたまたま、誰一人シャーレの先生とも、また補習授業部員とも繋がりがなかった。

 アポを取ろうにも、約一名を除けば、全員が訳ありの危険人物。あのティーパーティーホストの桐藤ナギサも、彼女らには何もできないとの噂だ。近寄りがたい。

 ただ恐ろしい奴らというだけではない。彼らはグループだ。おぞましい才の持ち主の一人一人が、固い結束で纏まっている。

 まずは最もヤバイとされる補習授業部部長、阿慈谷ヒフミ。その名を知らぬものは少ない。ブラックマーケットに平然と通い、モモフレンズを「推す」ためだけに、あるいはバカンスのためにと、とにかく自身と身内のためであればあらゆる蛮行を平然と働く狂人である。

 そんな彼女を糾弾しようとするあらゆる動きは、水着徘徊系インテリサイコの浦和ハナコにより、水面下で全て阻害される。シスターフッドも既に彼女に掌握されているというのが、私の見立てだ。

 さらには、元アリウスの氷の魔女、白洲アズサが脇を固める。その戦闘脳をフルに活かし、補習授業部棟は無数のトラップで固められた氷の魔城と貸しているのだ。

 

 私達新聞部は、この三人に敗れた。

 何度も記事ですっぱ抜こうとしては、浦和ハナコに全て動きを見通され、野望はもれなく砕かれた。今や先輩たちの前で彼女らの名前を出すだけで、嫌な顔をされる始末。

 そして結局、シスターフッドに関する陰謀論めいたゴシップや、SNSで注目を集める生徒個人へのインタビューなど、当たり障りのない、毒にも薬にもならない日和見新聞を書く羽目になる。

 私はそれが嫌だった。ずっと、何者かになりたいと思っていた。

 そのチャンスは、不意に訪れた。

 

 その作戦は私の独断だった。補習授業部棟の外をよじ登り、地雷探知機を手に、ひっそりと天井裏のダクトを通って、ついに、ついに侵入を成し遂げた!

 謎に満ちていたその魔城。一見は何の変哲もないその廊下を、抜き足差し足で歩く。……意外と清潔だ。先生を含めても五人しか使っていない建物なのに。

「……!!」

 集音マイクが話し声を拾った!

 近いぞ……!

 すぐ近くの教室だ!

 ……この日のためだけに、常日ごろから忍び足の訓練を進めてきていたのだ。誰にもバレるはずはない。

 だんだんと話し声は明瞭になってくる。二人だ。

 この声は知っている!先生と……下江コハル!

 あの三人衆が綺麗に出払っている!神が私に微笑みかけているんだ!

 よし、よし!

 ついにはっきりと、何を話しているかの内容が……!!

 

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……バカで、スケベで、ごめんなさい……」

「よしよし、そんなことないよコハル……いい子だ」

 

 ん?

 ……え?

 

「とくべつじゃなくてごめんなさい、せんせえの期待に応えられなくてごめんなさい……」

「私はコハルのこと、信頼してるよ?君はちゃんと特別だよ」

「うう、ううっ」

 

 ……下江コハルが、泣いている?

 ……うーむ。

 流石にこれをすっぱ抜くのはまずいな。ただ正義実現委員会の劣等生が先生の前で泣いているだけじゃ、陰謀も何もあったものじゃない。

 むしろ、先生がちゃんと生徒の悩み相談を受けてあげているという証左でしかない。

 勝手に人のプライバシーを晒しただけに終わるだろう。ただ新聞部の印象が悪くなるだけだ。

 ……くっそお、あてが外れた……。しかし、あの厄介な三人はいないのだ。もう少し、あともう少しだけ……。

 

「……だからねコハル。私のお願い、もうちょっとだけ聞いてくれるかな……?」

「うん、ききます。ききます……」

「敬語なんて使わなくていいのにー、ふふ……」

 

 ……むむ?

 

「またコハルから、ハグしてほしいな?」

 

 ここで私は危機を感じた。足音だ。

 ……この特徴的なキビキビした歩き方は、白洲アズサか。

 ここから去らねば……。

 

 

 

 どうにか脱出し、私の頬は緩んだ。安堵と、歓喜で。

 先生の醜聞はいくつか聞くが……こんな、こんなことを陰でしていたとは!!

 チャンスだ。私が、何者かになれる機会がついにやってきたんだ。

 もう新聞部なんて知るものか。

 私一人で材料を集め、記事にし、暴露するんだ。

 華々しくクロノススクールに転校する自分の姿が見えた気がした。

 

 ここまでが、記録Aだ。

 

 

 

 

 記録B トリニティの洋服店にて

 

 それから私は必死に先生に張り付いた。

「コハル、きれいだよ」

「………………ありがと」

 恐ろしいやつだ。

 下江コハルに、純粋に真っ黒なコーデを試着させている。

 そしてレジに向かっていき、会計をした。先生の自腹で買い与えたらしい。

 ……これは、この教師の趣味だ。

 なぜなら、こうして真っ黒いコーデを人にプレゼントするのは、これで三人目だから。

 伊落マリー、白洲アズサ、そして下江コハル。

 ものにした生徒には、こうして黒いコーデを買い与えるらしい。

 さながら、主人が犬につける首輪だ。

 大スキャンダルだ!

 あの伊落マリーでさえも、この教師の手に落ちている。

 この事が明るみに出れば、トリニティがひっくり返るぞ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 記録C 私の誤謬について

 

 私は間違えていた。

 先生はちっとも、恐ろしい人なんかじゃなかった。

 

 

 

 それ以上だった。

 

 

 

 今日。記録Bを書き留め、喫茶店で情報を時間をかけて編纂し、新聞部に戻ると……いた。

 先生が。

 私の先輩と、何やら話し込んでいた。

 ドキンと心臓が跳ねた。これまで新聞部に先生が来ていたことなんてなかったし、私は、この部の誰も先生とは面識がないものだと思っていた。

 私はこの時点で、おかしいと思うべきだったのだ。

 みんながチラチラ私の方を見てくることも、気の所為ではなかったんだ。

 私は平静を装い、自分の作業机に向かった。

 

 しばらくして先生は、私に声をかけてきた。

 〇〇ちゃん、と。

 私の名前を呼んできた。自己紹介した覚えはない。

 恐る恐る「なんですか」と応え、顔を上げる。

 先生は間近にいた。足音もなかった。

 私は飛び跳ねそうになった。

 口をパクパクさせていると、先輩が先生の隣まで来た。

「ねえ〇〇、安心して。先生はね、ちっとも後ろ暗いことなんてしてないんだよ」

 異常だ。あまりに異常だ。

 この先輩の口癖は、「人間は常に善だが、ふとした瞬間に急に悪になる。私達はそれをすっぱ抜く」。

 私の、新聞部員としての信条でもある。

 その人が、こんなことを、本来は……言うはずがないのだ。

 先生に、思考を捻じ曲げられたのでもない限りは。

 情けないことに、腰が抜けた。

 先生は「二人でゆっくり話せるところに行かない?」と言ってきた。

 断ろうとした瞬間、その一瞬。私の鍛えられた察知力は、無数の視線を感じた。

 この部の誰もが、私を、刺すように見ていた。

 こわばった声で、私は「はい」と了承するしかなかった。

 

 すぐ隣の準備室に移った。

 パイプ椅子を二つ並べられ、先生の隣に座らされる。

 ……ああ、近くで見て、初めてわかる。

 この大人は、魔性だ。

 この笑顔。この座った姿。姿勢。目つき。

 ……おそらく、相当な訓練により、とにかく「無害」に見えるように研究し尽くされている。あらゆる本や、あらゆる俳優から見て盗んだのだろう。

 ……この顔で、生徒たちから本音を引き出すのだ。

 表でも、そして、裏側の、本性の側でも。

「〇〇。ごめんね。君のこと、調べたんだ」

 いきなりの呼び捨て。

 私は、自分で言うのもなんだが、刺々しいタイプだ。

 そのはずなのに……なのに。

 この人に、承認されて、呼び捨てされることに、なぜか心が踊ってしまう。

 頭が、乗っ取られたかのように。

「君は今二年生。……一年生の後半は、学校に来ていなかったんだね」

 なぜだ?

 私は今まで、私の過去に触れてきた奴を、誰一人無事に返したことはない。

 ……なのになぜ、私は、安心しているんだ?

「当時は文芸部員で……いつも一人でいた君は、ひどいいじめにあったんだね」

「そうです」

 口が勝手に動いた。

 やめろ。やめろ……。

 どうしてだ。どうして、心にこんなにベタベタ触れられて、それが心地良いんだ?催眠術にかけられたような気分だ。

「ごめんね。もしもその時私がキヴォトスにいたら、何かが変わっていたかもしれないのに……。でもね。君はすごいよ。自力で立ち直って、二年生になってからは、誰よりも熱心な新聞部員だって聞いたよ。君の先輩も褒めていたし、私も読んだよ、君の記事。すごく、熱意を感じた」

 先生はにこり、と私に笑顔を向けた。

 嫌だ。嫌だ。

 これは錯覚だ。私の心の氷が優しく溶かされるような感覚なんて、ない。

 こいつは女の敵なんだ。最悪の淫魔だ。

 騙されるな。

「……君はいつも、一人で取材して、一人で記事を書いているんだってね。すごいね、基本みんなはタッグを組んで記事を書くのに、君は一人ですべて回してる。これはすごい才能だよ」

「……それが一番、楽だから、です」

 やめろ。

「私は、不器用なんです」

「うん」

 止まれ。

「怖いんです。他人が、怖いんです。ほんとは、私が弱いだけなのに……全部周りのせいにして、一人でいるんです。こうして周りに刺々しい態度をとって、近寄るな、って叫んでいるんです」

「うん……」

 ああ、やめろ、やめろ……。

「私は、文芸部でされた事に、負けたくなかったんです。だから、こうして、新聞部員として、ずっと一人で突っ走ったんです。本当は、色々教えてくれた先輩にもっと報いたいし、普通の高校生みたいにみんなと仲良くしたいんです……寂しいんです!ずっと、寂しかったんです……!」

「……よく話してくれたね。誰にも話したことなかったよね。ありがとう、打ち明けてくれて」

「……なのに、なのに私」

 だめだ。

 お願いだから……私に、寄り添わないで……。

「私は……先生が、悪だと、記事にしようと……」

「ふふ。……知ってたよ」

 頭を、撫でられた。

 ああ、ああ……。

 ぞわぞわして、どきどきして、安心して……私の、頭が……。

 価値観が、塗り変えられていく。

 

「よしよし。今まで一人きりで、ずっと頑張ってたんだね。ほら、癒されるでしょ?人肌っていいよね。よし、よし……」

 

 

 

 

 

 私は、変わった。

 この記録Cは、今、先生の隣で書いている。

 先生はにこやかに、私がこの文を書いているところを見守ってくださっている。

 これから二人で、これを含めた全ての記録を、焼却炉で燃やしに行く。

 そして先生と……デートをする。もっと私のことを知りたいから、と先生が言ってくださったのだ。

 この人は誰にでもこんなことを言っているはずなのに、どうしてもそう思えない。むしろ心が、とても踊る。

 これからはシャーレの当番にも呼んでくださるそうだ。

 

 私は、生まれ変わった。

 どうして、気づかなかったんだろうか?

 先生は、怪物だ。

 こうして、誰もが持つ心のヒビ割れを、先生で埋めてしまうのだ。自在に、ヒビ割れの形に自分を合わせて……そして、先生以外ではけして埋められないように、占有する。

 どうして、あの阿慈谷ヒフミも、浦和ハナコも、白洲アズサも……桐藤ナギサも蒼森ミネも歌住サクラコも剣先ツルギも羽川ハスミも、もれなくこの人に信頼を寄せているという事の異常さに、気付けなかったんだろうか?

 先生はまるで、深淵だ。見つめたときに見返してくるという、深淵。

 ……私は、もう、堕ちた。

 君に似合う黒コーデは何かな?そう先生が今、仰った。

 ああ。

 幸せだ。満たされた心地だ。生まれて初めて私は、心から安心している。

 

 

 

 この幸せを手放すなんて、絶対にできない。

 二度と。決して、決して……。

 

 

 

とあるモブちゃんのわるーい先生観察記録   完

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