女の敵のわるーい先生シリーズ   作:ブルアカ二次創作@本拠地はpixiv

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「先生にいじめられて支配されちゃうナツが見たいんだけど、かわいそうなのはちょっと……」というそこの貴方!これを読みなさい!きっと後悔しないよ!ただし、高純度のシュガーラッシュ(本来の意味で)と、まあまあの狂気が含まれます。
⚠重篤な飯テロが含まれます。深夜の閲覧には注意してください。いっそ、深夜の軽食のおつまみにするぐらいがちょうどいいと思います。

そういえば今更ですが、このシリーズの目標は「全年齢でできるエロスを突き詰める」ことです。


ナツがわるーい先生に餌付けされて飼われて脳みそ幸せ砂糖漬けにされて尊厳破壊されるお話

 

 

 

 柚鳥ナツ。

 マイペースな哲学探究者……と見せかけて、本質的には献身的な友達想い。

 一人でいるより他者と共に時間を過ごすことを好む。部の仲間がピンチなら正義実現委員会にだって突っ込んでいく。

 あと、なんかペロロジラのビームにも牛乳で耐えてくれる。

 そして可愛い。

 私はこの子との時間が好きだ。

 ナツも私との時間を好きでいてくれる。

 もっとお時間いただきに来てもいいのに。

 いや、発想を変えよう。

 ナツの時間を私が奪えばいいじゃないか。

 ……というわけで作戦を考えた。

 ……私はこれから彼女へ、それはそれは残酷な仕打ちをしようと思う。それも、見ようによっては、この世のありとあらゆる罪悪より罪悪なことを、だ。決して逃げられない、誰も勝てないとある悪魔と契約させようとしている。

 しかし忘れてはならない。ルネサンスだってダンテの『神曲』から始まり、死後の世界を見て周る戯曲にみんなが酔いしれたのだ。ヒューマニズムとはロマンであり、ロマンとは本質的にロックなのだ。

 だから、これから起こることは仕方がないことだ。

 ……全てナツが可愛いから悪いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近、先生が変だ。

 どこが変なのかと言うと……十分に一回ぐらい「可愛い」と言ってくる。ヨシミならともかく、私に。

 ……「シャーレの先生はちんちくりんが好き」などという噂は本当だったのだろうか。それにしてはこう、急なような気がする。

 あと、会うたびに何故かスイーツを食べている。「この味付けは……」とか「ふーむ、つぶつぶの食感が……」などと呟きながら。

 その日はたまたまオフの先生に会い、二人で食べ歩きをした。先生は、カラースプレードカ盛りシュークリームを味わっていた。

「先生。……最近は、ロマンを感じてるのかね?」

「ロマン……そうだね、そうと言える」

 ……なんというか、悪い顔。そう思った。見たことない表情だった。

「……突然だけどさ。最近ね、身体を鍛えてるんだ」

「え、意外」

「私にあんまりそういうイメージないよね。昔は結構鍛えてたんだけども。で、最近、運動にちょっと疲れちゃってさ」

「……なるほど、そこでスイーツ。破滅的ロマン。いや、体組織へのロックと言えるね」

「そうともさ。忍耐は最高のスパイスだからね。お菓子だけど」

「ほお。……ねえ先生。今日の運動がまだなら、これから付き合おっか?」

「いいの?」

「うん」

 ……私もまあ、スイーツ好きの宿命として、お腹とか……だし。

 先生と一緒なら、きっと頑張れる。

 

 

 

 それから私たちは走った。お互いジャージに着替え、秋の、落ちゆく赤葉が舞うトリニティの運動公園にて、並んで駆けた。

「ぜえ、ぜえ、ぜえ……」

「……ナツ、大丈夫?」

 先生はまだまだ余裕そうだ。

 私は走馬灯が見える。輝かしい放課後スイーツ部の日々が廻り回っている。

 私はいつも盾を持ち歩いているし、バンドもやってるし……などという根拠のない自信はすっかり打ち砕かれた。

「はあっ、はあっ、はあっ……ろ、ろ、ろおっく……ろ、ぜえ、はあ……」

「…………」

 気のせいだろうか。隣を走る先生が、少しにやけてるような……。

「はあっ、はあっ……せ、んせい、なに、見てる、の……」

「え?ああ、ごめんごめん!可愛いと思って」

「まー、た、ぜえ、それ?……はあ、はあ」

「うん。ナツはどの顔も……ふふ、可愛いよ」

 ……褒め慣れてるなあ。カズサが毎週シャーレに通うわけだ。

 先生じゃなきゃ許されないだろうな、こういう発言。許さない生徒も一定数いそうだけど。

「ぜえっぜえっぜえっ……ろ……ろおっく、ろおっく、ろおっく!!!」

「お、加速した!」

 先生を追い抜き、がむしゃらに腕と足を振った。

 ……脂肪と一緒に色々燃えてる気がする。感情的な何かが。

 これもまたロマンか。いや、それともロック?

 もう何もわからない。

 

 

 

 ベンチに倒れ伏した。

「ぜえ、ぜえ……燃え尽きた、ぜ……」

「お疲れ様ー。初回でこれだけ耐えるのはすごいよナツ。はい、水」

「……かんしゃあ」

「ナツ、動ける?」

 無理だ。腕一本動かせない。

「頭、がんがんする……わ、私の生命はもう、ここで果て尽きる……」

「わかった。じゃあはい、まずはゆっくり起きようね」

 肩を支えられ、ベンチに座る姿勢にさせられる。

「ん」

「飲ませてあげるね。ほら、ちょっとだけ上向いて」

「かんしゃあ……」

 先生はペットボトルを開け、私に水を……くれなかった。

「……」

「……先生?」

「……」

「く、くれないの……?」

 なんだろう、今の先生の顏……ちょっと怖いような……。

「お預けされるナツも可愛いよ」

「え……」

「しばらく見ててもいい?」

「何、言って」

 

 顎をくい、とされた。

 

 酸欠気味の頭は、事態を分析できなかった。

「……?」

「……ナツ」

「?」

「くださいって、おねだりして?」

 

 え?

 え……?

「……くだ、さい?」

 思わず口にしていた。

 

「いい子だね。はい、ご褒美。焦らず飲んでね」

「あ」

 優しく、飲み口を差し出される。

 私は動けず、私の唇に飲み口を押し当てた。

「……」

 こくこくと、冷えきった流れを口に迎え入れる。

 体が水を渇望していたため、もはや反射的に、本能で摂取していた。

 私の理性の部分はすっかり置いてきぼりにされ、幽体離脱みたいな状態で、水を飲む私と、飲ませる先生との影を眺めていた。

「……」

「よし、飲めたね。気分はどう?」

「……いい、よ」

「よかった」

 先生はいつも通りになっていた。

「……どうしたのナツ。まじまじ見てきて、私の顔に何かついてるかな?」

「……そ、その、ええと」

「もじもじするナツも可愛いな」

「……」

 頭も冷えてきて、冷静になれた。

 よし。しっかりと理解した。

 私は、からかわれたのだ。いつものヨシミのように。

 それだけだ。

 ……それだけなんだ。

 

 突然、高らかな鐘の音が鳴り、私たちの時間に亀裂を入れた。

「……おっと、時報。……もうこんな時間か。私は帰らないと。ナツ、もう大丈夫?」

「……うん」

「じゃあ私は帰るね。ナツもお気をつけて」

「あ、うん……」

 

 

 

「ああ、そうだ」

 先生は立ち去りかけて、振り向いた。

「ナツ、明日の当番もよろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どーしよ」 

 歩道を一人でのろのろ歩き、街灯の下で足を止めた。

 もう暗い。秋だから日が沈むのが早い。

 人っ子ひとり見当たらない。世界に私しかいないかのようだ。

「……さっきのあれ、夢?」

 ……違う気がする。 

 あの時の先生は、なんか、こう……危ない感じがした。

 それも、ひどく惹かれる危うさ。

 頭がぼんやりする。

 私の時間は、おかしくなっていた。すっかり時計が狂っていた。あの運動公園を出てから一時間経つのに、全然家路へつけていない。歩いてるのか止まってるのかわからない。

 ほっぺたをつねったけど、現実だった。

「……」

 ……私は特別ではない、と思う。

 特別に強くもなく、特別に苦労したわけでもなく……。少なくとも、物語の主人公みたいな器ではないと思う。

 でも……なら、あれは一体?

 あれをカズサがされるのなら、わかる。アイリとかヨシミでも、わかる。

 なぜ、私……?

「……こまった」

 ものすごく、誰かに相談したい。

 でも相談相手はいない。

 信頼できる仲間はいるけど……先生のことだし、それに、それに……先生は、あんなことをしないはず。

 確かにされた。でも、しないはずなのだ。そのパラドックスが邪魔をする。

 いつもの三人にはとても相談できない。とくにカズサはダメ。

 ……だけれど、私は明日、当番で……。

 さぼるなんて論外だ。先生はいつも、私の当番が済んだ後、私との時間を作ってくれる。

 ……でもでも、その先生が……。

 

「ああ……」

 ロマン。

 いつものように、その言葉で包めるようなものじゃない。

 全く、敵わない。

「…………」

 

 万策尽きた。

 頭を空にするよう努めながら、私は帰るべきところへ歩き続けた。

 一歩、一歩。

 必死に。

 先生に植え付けられた……この大きすぎる感慨を押し殺して。

 一歩、一歩……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいナツ!……どうしたの?すごい隈だよ」

「……そうだろうねえ」

 誰のせいだと思っているのだろう。

 ……それとも、やっぱり夢だったのかな。先生はいつも通りみたいだし。

「……先生」

「何?」

「……昨日、私達は一緒に走ったよね?」

「え?うん。そのはずだよ?」

「……うん。だよね」

 うん、そうだそうだ。

 あれは、奇妙な夢だったのだ。

 秋の精霊だか妖精だかが見せた夢。

 キヴォトスは、急に巨大ペロロが出現したりする魔境なのだ。そんなこともあるだろう。きっと。

「ナツ、辛そうだね……休憩室で寝てきていいよ」

「いや、そんな……」

「ナツが心配で私も仕事に手につかないよ。三時間ぐらい寝ておいで?」

 先生は、優しい。

「でも……」

「花の乙女の十五歳だし、身体は大事にすべきだよ。私は元気なナツが好き!」

「……ご、ごめん、先生、心配かけて」

「いーいーの。……ほら」

 手を、取られる。

 寝不足で、冷たくなってた顔が急に加熱された。

「おいで、ナツお姫様?」

「……うぅ」

 耐えろ私。身から出た錆だ……。

 優しくリードされて、廊下をゆっくりと進んでいく。

 先生は、私の小さな歩幅に、合わせすぎなぐらいにしっかりと合わせてくれる。

 ……ああ、ああ……。

 カズサもこういうこと、してもらったのかな。

 ……いや何考えてるんだ私。

「安心してね、ナツ」

 突然、先生は私に振り向かず言った。

「……お代は一切、頂かないからね、ふふ」

 その表情はうかがえなかった。でも、角度のおかげで、先生の口の端だけが少し見える。

 ……大きく上がっていた。

 ……眠くて、それ以上考えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベッドに入ると、先生は子守唄を歌ってくれて、頭を撫でられて……私は抗議の声も出せず、一層、また一層と、深い夢に落ちて行った。

 目が覚めると、真っ暗だった。

 重たい頭で、死ぬほど慌てた。スマホを見ると正午だった。

 混乱したけど、カーテンから薄い光が漏れてるのを見てようやく理解した。遮光カーテンだ。先生が閉めてくれたんだ。

 ……でも、三時間も寝てしまった。

 少しでも、ちゃんと先生に返さないと。

 重たい身を起こす。生活リズムの鎖が全身を苛んでくるけど、これ以上は甘えちゃだめ。

 歩け、私。歩くんだ。

 

 

 

 休憩室からシャーレのオフィスへの道なりに、食堂がある。

 ふらつく足で向かう。喉が渇いて仕方がなかった。

 それに、顔も洗わないとだし……。

「……ん?」

 違和感。

 ……いい匂い。

 ものすごーく、いい匂い。食堂からだ。

 二種類だ。……香ばしいショコラな匂い。……それから、豚の生姜焼きみたいな、食欲をそそるジューシーな匂い。

 勝手に足が進んでいき、食堂のドアに手をかけた時。背筋にぞくっと、嫌な感じがした。

 それは全く前触れのない、霊的な予感。

 このドアを開けたら、後悔するような気がする。

 そんな、予感。

 

 でも、水を飲まないと……。

 先生に、恩を返さないと……。

 

 一息に、ドアを開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、ふふん、ふーん……」

 困惑した。先生は入り口から背を向け、調理台の小鍋に向かっていた。鼻歌を歌いながら、鍋の中身をかき混ぜていた。

 ……コック帽をつけて、エプロンを着た先生が。

「ふん、ふふん……。ん?ああ、ナツ!起きたんだ」

 先生は私に気付き、火を止めた。

「おはようナツ、寝起きも可愛いよ。水だよね、ちょっと待っててね」

 先生はぱっぱとコップを食器棚から出して、冷蔵庫から天然水を抜き、注いで渡してくれた。

「あ、その……ありがとう」

「いいんだよナツ」

「……先生、その……」

「寝てたことなら気にしないで!なんなら私の想定より早いし。……ナツ、向かいの部屋で待っててよ。座卓だから落ち着くし、そこで一緒に食べよう。もうすぐ出来上がるからね」

「ええと……」

 どういうことなんだろう?

 ……今気づいたけど、オーブンは三つも稼働していて、鍋もいくつかコンロに置かれていて……というかそもそも私、先生が料理できることも知らなかった。

 どこから突っ込めばいいのかわからず、とりあえず先生に従うことにした。

 調理にさっさと戻ってしまった先生に困惑しながらも、私はキッチンを後にし、向かいの部屋へと入った。

 ……一緒にアフォガートを楽しんだ、あの部屋へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二十分後。私はテーブルの前で、圧倒されていた。

「ふふふふふ。ナツのその顔が見たくてねえ。久々に気合入れちゃった」

 いくつもの小鍋が大きな銀のトレイの上に規則正しく配置されていた。そのどれもが小ぶりなIHヒーターで保温され、ゆっくりと楽しめるように考慮されている。

 その上、先生(もうコック帽は取っていた)の隣には、レストランでよく見る、料理を乗せて押して運ぶアレがあった。その上には、銀色の蓋をされた大きめの皿が三つ……。

「せ、せんせい、その……これは一体?」

「君に喜んでほしくて。一切他意はないよ。ほんとほんと。私に言わせれば、これこそが真なるロマンなんだ」

「ロマン?」

「そう。このロマンの柱は二つ。一つは、君がいつもするように、みんなで……つまり、君と私で仲良く楽しむこと。二つ目は……ナツ、ちょっと当ててみてくれるかな」

「え。……う、うーん、見当もつかないかも」

「正解はね」

 なぜか先生は私に寄りかかって、耳元で囁いた。

「ざ、い、あ、く、か、ん♪」

「ざ、罪悪感……?」

「そうさ。……このメニューはね、ふふ……」

 先生は、台から蓋つきの皿を一つ取り、私の前に置いた。

「ご照覧」

 蓋が取り去られ、中身は……花の形の、チョコレートタルト。丸ごとワンロールだった。私の両手の平ぐらいある。

 下側は、うすーくチョコっぽく着色されたクッキー色の、やや硬めであろう生地。その上に、柔らかそうなチョコレートブラウニー。表面がほんのりと焦がしてある。焼きチョコの香りが脳みそを焼いてくるようだ。

「おっと、驚くには早いよナツ。これに……」

 先生はトレイの右上の小鍋を開ける。

「極めてクリーミーな、ミルクチョコソースだよ。どのメニューも特別な、自信作だ。仕事で知り合った子たちの力も借りてさ。特別に卸してもらった素材を惜しみなく使って、試行錯誤を重ねてね……ナツ、よだれ出てるよ?さらに、これを」

 小さなお玉で、鍋の中身を掬い……。

 チョコソースは、タルトの、へこんだ中心部へ……。

「あ、あ、あ……」

「……ナツ、右手前の小鍋も開けてごらん?」

「……」

 恐る恐る開けると……なんということだろう。

 ……ホワイトチョコソース。カカオバター特有の、白く、美しい甘さを、口にする前から感じる。

「……ナツの好きなようにブレンドしていいからね?鍋も皿も、常に加温されてるから、いくら味わってもいいんだよ」

「……せせ、先生」

「どうしたのナツ。そんなに震えて」

「その、つ、作ってもらっておいてなんだけど、その、これは、その……」

「ああ。そうだよ。一切、カロリーに糸目はつけてない」

 先生は黙って、ナイフとフォークを器用に使い、ソースの滴る一切れをつまみ上げた。

 私の顔の前。その空中で、動きを止める。

「……だ、だ、だ、だめ、だめ……先生。だめ、お願いだからやめて」

「……」

 先生は笑っている。

「……ナツ。トレイの左手前の鍋を開けてみて?」

「……え」

「私にしか教えられない、究極のロマンがそこにあるよ」

「……そ、それは、パンドラの箱じゃない……?」

「大丈夫さ。パンドラの箱は一度開けられ、希望だけが残ったものだというじゃないか。まさか私からの贈り物が、絶望なわけがないでしょう?」

 ……。

 逡巡した。

 勝てない。先生からの気持ちと、私の好奇心には、絶対に勝てない。

 最後の小鍋を開く。

 

 

 

 牛丼の牛、だった。

 つゆだく。

 やはり先生のお手製らしい。多分、しょうがの産地からこだわっている。

 そんじょそこらのチェーン店と全く違うことが、香りだけで伝わる。

「よくあるスイーツ食べ放題のお店には、カレーがあるんだってね?甘味ばかりで飽きないように、って。……味は濃い目にしておいたよ。あと、さくさくした生地が多くて喉が渇くから、つゆはマシマシにしておいた」

 先生はあごで、最後に残った左奥の鍋を指す。

 それも開く。

 やや水分多めに炊かれた、白いご飯だ。

 私の心は折れた。

「そう。牛丼だね。本来はお昼ご飯だからね、ふふ、ふふふふふふ」

「あ」

「さ。まずはこの、いかにも君に食べてほしそうな、濃厚なソース付きブラウニータルトを……どうぞ?」

「……だめ」

 

「楽になっちゃえよ、ナツ?」

 

 耳元でまた囁かれると、私の理性は崩壊した。

 先生の前なのも気にせず、大きく一口かぶりついた。

 舌の歯に、心地よいしっとりしたさくさく。上の歯に、濃厚な、沈み込むようなチョコブラウニー。

 上品にもほどがある香ばしさと甘みとが殺到してくる。

 寝不足の脳みそに、糖分とカカオポリフェノールが染みわたる。

 一気にかぶりつき過ぎて、ほっぺたにたくさんソースがついた。

「いいんだよナツ。沢山こぼしてもいいからね。私が拭いてあげる……」

 ほっぺが、ティッシュで拭われる。

「あ、ナツ。そうだ」

 先生は台から、ポットを持ってきて、銀のマグカップに注いだ。

 ……適度に熱された、牛乳を。

「飲みやすい温度だよ。どうぞ?」

 一気飲みした。

「あはは、女の子がしちゃいけない顔してるよ、ナツ……?可愛いなあ」

「あ、その、ええと」

「いいんだよー?ほら、次はホワイトソースを試そうよ……甘さに飽きたら牛丼だ」

 先生が、次の一口を私に差し出してくれた。

 白と黒の背徳が、可憐に交錯している。

 反射的にまたかぶりつく。

 咀嚼する。

 ピースとピースのかみ合った甘味、苦み。ホワイトチョコの、バターっぽい癖すらも愛おしい。

 ごくん、と飲み込む。

 脳が痺れるような、感覚……糖分を取り過ぎると至ってしまうと言われる、シュガー・ラッシュ……。

 私は悶えながら、哀願する。

「あ、あ、だめ、これだめ、せんせい、やめて……」

「なんでー?せっかく作ったのに」

「だめ。お昼ご飯にこんなのを覚えたら、わたし、もう、戻れなく」

「なっちゃえよ」

 低い声で先生は迫ってくる。

 昨日のあの時の感覚が蘇る。

「ナツ。毎週、こういうフルコースを作ってあげるよ」

「なんで、なんでえっ」

 言いながら私はすでに、次の一切れに手を出して食べていた。

 今度はホワイトチョコソースを、どっぷりとかけて。

「君のその顔が好きなんだよ……。みんなを裏切った気持ちはどうだい?」

「うら、もぐもぐ、うらぎってなんてない!もぐもぐもぐ」

「裏切ってるんだよお。言ったじゃないか。罪悪感こそが真のロマン。こんなフルコースを食べちゃったら、部のみんなとのスイーツ巡りに支障が出るよねー。たまに断って、運動の時間に充てないと、ぶくぶく太っちゃう……あ、あとさ。このことはみんなに内緒だからね。もしも言っちゃったら、君には二度と作ってあげないから」

「もぐもぐもぐ、どうして、もぐ、ああ、だめ、止まらない、もぐもぐ、おいし、おいし……あ、ああ、あああ!」

 私は気付く。

 あの糖分の塊を、あっさりと一ロール平らげてしまった事に。

 私は歓喜と絶望で涙を流していた。

「ふふ。二重の罪悪感のお味はどうだい?仲間には抜け駆けをして、そして……あんなに頑張って走って燃やしたカロリーの、十倍近くを食べちゃった気分は?あはははは、教えてあげるよナツ。君が今食べた総量は……」

 

「……千三百キロカロリー♪」

 

「あ、あ、あああああああ!!」

「たーいへんだよ、ナツ。確か成人女性は一日で千七百ぐらいがいいんだよね?ほら、今すぐここから逃げるんだ!太らされちゃうよー?」

 私は立ち上がれない。

 逃げられない。

 だって先生は、喋りながら、二つ目の皿を出してきていて……。

「開けるね?じゃん!」

 

 世界の終わりが、そこにあった。

 パイだった。艶めかしく、ごろごろした果肉をふんだんに露出した……アップルパイ。

「酸味にこだわったんだよ。いつも仲間にアップルパイを配ってくれてるよね。気合入れて、チョコの後味を引き立てるようにしたんだよー?ほら、笑って、ナツ?にひひ、って笑って?」

「あっ、あっあっ」

「笑ってくれたら、あーんしてあげるし……それに……」

 先生は、パイの縁に、チョコソースをかけた。

「これもまたいいんだ。味のぶつかり合いを、シナモンの味付けが繋いでくれて……さあ、ナツ?」

 

 にひひ。

 にひひひひひひひひひひ。

 

「ああ、ナツ。気持ちいいね?君はとっても友達想い。それを、一切鼻にかけないようにしているのに……こうやって、みんなの見えない場所で、裏切って、独占して……君、今私に引っ付いてるの知ってた?しかも、赤ちゃんみたいに食べさせてもらって……カズサが見たらなんて言うかなあ?」

 知らない。

 そんなのしらない。 

 おいしい。おいしい。

 こんなの、かてない。

 ざいあくかんには、かてない。

 さんみ。あまみ。

 おいしい、おいしい。

 のうみそが、ばかになる。

 しあわせ。

 にひひ。

 にひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ。

「あはは!その調子だよナツ!糖分が流れて、脳みそがぷちぷちいって、君を壊していくよ……。ほら、噛まないでどんどん食べようね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食べ終わると、私は倒れた。

 噂にだけ聞いたことがある。ドカ食いのあとにやってくるという……気絶。血糖値スパイク。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、青白い、夜の燐光の中だった。窓から、黄昏時の光が差し込んでいる。

 すっかり食事の痕跡は片付けられていて、私には毛布が掛けられていて。

 先生と私は、一緒の毛布で、抱き合って寝ていた。

「……!?」

 跳ね起きると、先生も目を覚ました。

「あ、ナツ、おはよ」

「……おはよう」

「いい夢見れた?」

「……」

「ナツ」

「う、うん」

「来るときは、前日には教えてね。用意できるかどうか、私の都合もあるから」

「……」

 ああ、夢じゃなかった。

 私は……用意された三皿と、チョコソースとホワイトソース、そして付け合わせの牛丼を……全て。

 お腹に残った、重みが……物語ってる。

「あ、安心して。気絶する寸前に、胃薬と胃腸薬を飲ませてあげたからね」

「……せんせい」

「なあに、可愛いナツ?」

「……どうしてこんなことを、私に……?」

「ふふ。君を、私の物にしたかったからだよ」

「……どうして?」

「私はね」

 先生はまた、抱きしめてきた。

 私は逃げない。

 抵抗しようという発想がなかった。

「……しっかりした子を見ると、崩したくてたまらなくなるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その次の一週間、私は部のみんなと二度しか行動しなかった。

 するとしても、スイーツは食べなかった。ずっとドラムの練習に熱中していた。みんなに怪しまれたが、ロックの哲学を語るふりをしてごまかした。

 顔のむくみを、慣れない化粧でごまかして。ご飯も最低限以外は抜いて。

 みんなと会わない五日間は、死ぬ気で走り続けた。恐らく三十キロは走った。

 ……でも体重は、二キロ増えていた。

 ……。

 でも、一番怖いのは……。

 寝ても覚めても、イライラして……常に先生の作ってくれたフルコースを想起し続ける、自分自身だった。

 

 

 

 翌週。また、当番の日がやってきた。

「ナツ、いらっしゃい……わあ!凄い顔。そんなに私に会いたかったんだね?」

 そんなわけない。

 私は、また眠れなかったのだから。

「……ちがう」

「違わないよ。私のことで一週間、頭がいっぱいだったんだよね?……あぁ、もっと、そんな顔を見せて?」

「……」

「ナツ。君はもう逃げられないんだよ?」

「……今日は、たべ、食べない」

「……ぜーんぶ新作だと言っても?」

「……!!」

「牛丼はバターカレーに変えてみた。あと、メインディッシュ?が三皿は流石に毒だから、二皿に減らした」

「やめて、いわないで」

「牛乳はワンランク上にした。あと、お皿が一皿減って寂しいから、代わりに焼きプリンを作ったよ!」

「やめて……」

「やめなーい。……ナツ、よだれ垂れてるよ?可愛い」

「……うう、うう……」

「あ、泣いちゃった。……ナツ、ごめんね?えい」

 ぎゅっと、先生の胸に私が納められる。

「せんせい、おねがい、やめて、もう、ゆるしてえ」

「許すも何も、怒ってないよ?あ、泣いた顔も最高に可愛い……ちょっとごめんね」

 涙が、先生の手で掬われる。

 そして。

 優しく、軽いキスをされた。

 口に。

「……え?」

「涙は止まったね」

「……え」

「ナツ」

「……」

「私のことを、君の特別な人にしてくれる?」

「…………」

「ふふ。落ちちゃった。……もうなってるみたいだから、返事はしなくていいよ。それじゃあ行こうか」

「あ」

 お姫様抱っこされた。

「ナツは、もちもちしてるね」

「……」

 何も言えない。

 凍らされたみたいに、何も言えない。

 寝不足に、いろいろと重なって、何が起きているのか……。

 

 気が付けば、あの座卓の部屋に連れ込まれていた。

 世界一美味しい悪夢の場は、既に整えられていた。

 この間の私の位置に、先生が座って、私はその膝の上。

「ナツ」

「……」

「にひひ、って笑って?」

「できない……」

「ナツ、だめだよ?これから、この間よりもおいしい、あまーいスイーツ(罪悪感)を楽しむんだから」

 先生は机の上にある、「アルコール」とテープにマジックで書かれたスプレーを使い、手を清めた。

「君はここにいるとき、考えるのを止める癖をつけないとね」

「?」

「はい」

 先生の両手の親指が、私の口の両端を引き上げる。

「はい、にひひー。思考停止して、にひひー」

「……にひひー?」

「そう。考えない。脳みそとろとろ。君は世界一美味しいフルコースを食べる。それだけ」

「あ」

 

 そっか。

 そうなんだ。

 私、わかっちゃった。

 先生は、私を壊したいんだ。

 小さな子供にとっての玩具みたいに、壊して、ばらして、またくっつけて遊びたいんだ。

 そのために、私にたくさん食べさせて、太らせて。

 一皿減らしたことで、体重を維持できるぎりぎりを攻めさせて。

 ……私を、どくせんするために。

 なーんだ。

 わたしはとくべつじゃないか!

 カズサより。

 ヨシミより。

 うざわより。

 

 

 

 ……アイリより。

 にひひひひ。

 

「ああ、壊れちゃったナツ、可愛い……。一生大事に飼ってあげるからね……。あ、そうそう。君の為に、特別な前菜を考えておいたんだよ」

「にひひ。ぜんさいってなあに?」

「食べ物じゃないんだけどね。これを着てほしいんだ!ネットで取り寄せたんだよ」

 つくえのしたから、くろいふくろがでてきた。

 ……せんせいがとりだしたのは、わたしもしってる、あのふくだ。

 かずさのきてたやつ。ふくのていをなしていない、かーにばるのほらーかふぇで、きてたやつ。

 つけみみ。そして、こしとむねいがい、ぜんぶろしゅつした、くろいぬのきれ。

「だめえ、だめだよせんせい。にひ、わたし、にひひ、二きろもふえちゃったからぁ。にひ、おなか、みえちゃうよぉ」

 せんせいはからだをぶるっとさせた。

 ああ、そういうのにもろまんをかんじるのか!おぼえた。

 こうすればよろこんでくれるんだね。にひ、にひひ。

「……いいよ。太っててもいいよ……女の子として、もっと終わっちゃおうね、ナツ。大丈夫。一生、結婚とかできなくなっちゃっても、私がちゃんと飼うからね」

 うれしい!

 

 

 

 せんせいにうしろをむいてもらって、きがえた!

「可愛いー!気分はどう?シャーレに毎週通い詰めるぐらい私のことが好きなカズサの恰好をした気分は?」

「わかんないー!でもなんかわるいことしてるみたいで、にひ、ろまんをかんじる!」

「そうだよー?君はカズサの恋路に割り込んだわるーい犬。さ、お座り!」

「わん!」

 ぺたんとすわると、せんせいはますますしあわせそうにした。

「お手!」

「わんわん!」

「ナツわんちゃんは賢いねえー!」

「きゅーん!」

「さ!脳みそ空っぽのまま、食べようか!」

「わおーん!」

 

 

 

 さとーのかたまり、おいしかった。

 しょーとけーきに、ちーずけーき。どかもり。

 おいしかった。

 あたまがぽわぽわ。

 とうぶんかた。しゅがーらっしゅ。

 しあわせえ。

「お粗末様ー。ナツわんちゃん、幸せだねー?頭が馬鹿になっちゃうねー?」

「きゅーん、ごろごろごろ!」

 あおむけになって、ねころがる。

「あはは、そうだよね。何にもできなくなっちゃうよねー……うん、寝よっか!はい、毛布は事前に準備してましたー」

「わーい」

「ほら、眠たそうなナツわんちゃん?ぎゅー」

「あ、あああ……あったかーい」

 せんせいはにこやかにほほをゆるめて……わたしのおなかをさわってきた!

「わ、むにむにしてる。可愛いー!」

「やめて、やめてぇー!」

「なら抵抗しなよー?でも至っちゃってるから無理か。……ああ、ほんとに可愛い。……ナツ、初めて、貰うね?」

「みゅ、くすぐった、ん、んんっ!?」

 きすされた!

 うそでしょ!

 ……したが、はいってきた!

 ……あれ。

 あったかい。

 せんせいのしたと、わたしのしたがあたるの、いい。

 いやじゃないし、ぽわぽわしてきもちがいい。

 ちがうぽわぽわ。だぶるぽわぽわ?

 くちゅくちゅ、くちゅくちゅいう。

 あたたかい。あたたかい。やわらかい。

「……ん、ナツ、気分はどう?」

「……わかんない、なんか、ぞわぞわするよお」

「それもね、ロマンだよ」

 そっか、ろまんかあ。

 なるほどお。せんせいかしこい。

「ナツ。君の事一生逃がさないからね♪死ぬまで私のワンちゃんだから。君のお腹も、顔も、髪の毛も、腕も、足も、私だけのものだからね。返事は?」

「にひひー!」

「思考停止、気持ちいいね?覚えられたね?」

「うん!」

 しあわせ。しあわせ。

 せんせいが、しあわせをくれる。

 あまくて、のうみそがおかしくなるしあわせ。

 にひひー。

「ほらナツ、繰り返して?思考停止は気持ちいい」

「しこうていしはきもちいい!」

「よし、じゃあ、また深いキスするからね。心の中で、百回繰り返してね?」

「わおーん!」

「……あぁ、カズサにこのナツを見せてみたいな、ふふ……いくよ、ナツ?」

 ちゅって、くちがあたる。

 くちのなか、なめまわされる。

 すいーつをたべた、あまーいくちのなか。

 せんせいに、たべられてるみたい。

 あーしあわせー。

 ぽわぽわするー。

 

 ああっと、いけない。わすれるとこだった。

 

 しこうていしはきもちいい。

 しこうていしはきもちいい。

 しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。

 しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。しこうていしはきもちいい。

 

 

 

 ああ。

 ナツわんちゃん、しあわせー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナツがわるーい先生に餌付けされて飼われて脳みそ幸せ砂糖漬けにされて尊厳破壊されるお話   完

このシリーズのジャンル

  • ホラー
  • 官能
  • サイコホラー
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