女の敵のわるーい先生シリーズ 作:ブルアカ二次創作@本拠地はpixiv
ブルーアーカイブ 洗脳 で調べてもこれ系の洗脳がひとっつも出てこない悲しみ。絶対催眠アプリよりこっちのがエロいのに
⚠絶対に先生の真似はしないでください。合意の上でもです。人としてダメ。
初めて会った時からずっと目に留まっていた。あまりに理想的な子だった。
しばらくの間は。
「ナギサ」
「何でしょうか、セイアさん」
「君は……大丈夫なのかい?」
風の強い日でした。テラスにも少し吹き付けています。
ミカさんはおらず、二人きりでのお茶会です。
「おかしなことを聞きますね」
そう返すと、セイアさんはとても苦しげというか、少し青い顔をしました。
「……すまなかった、ナギサ」
「はい?」
「君のことを、止められなかった」
むしろ、あの時にもし止められていたら嫌だな。
私は率直にそう思いました。
「セイアさんのあの勘は外れでした。日頃とても頼れる能力ですから、平時に多少外れることぐらいはなんの問題もありませんよ」
「……あぁ」
諦めたように、セイアさんは外の景色に視線をやり、ぼんやりしました。
せっかく淹れて差し上げた紅茶にも、口をつけてくれません。
「……ナギサ」
「はい」
「きっと、私と、それからミカしか気づいてはいないだろうけどね。君は、変わった。知るべきでないことを知った」
「……」
「目が、違うんだよ」
「目ですか」
「子供のように、ひどく澄んでいるんだ。……何も恐れていない、愚者めいてもいる無垢な目だよ。私も、君も、そんな目を持つ生徒たちのことを知っている」
「それは誰ですか?」
「元アリウスの子たちさ」
藁のかたまりが、テラスの屋根から落ちていきました。鳩か何かの巣が、風にあおられて落ちたようです。
「一つの事しか信じていないんだ、今の君は。元は知恵を持っていたけれど、今は忘れてしまったんだ」
「私は皆さんのことを信じています」
「いいや。……どうでもいいと思っている」
「いいえ?」
「今の私の話だって、右から左さ。……何か一つだけを狂信して、後のことは知らないんだよ。だから誰かから裏切られたりしても、傷つくこともない。それが今の君だ。……エデン条約の頃の君の方がまだましだ」
「……心得ました。お気遣いありがとうございます」
セイアさんは席を立ち、出口に歩きながら話しました。
「ナギサ。一つだけ覚えていて欲しい。君は近々、また選択をすることになる。その時、間違わないでくれ」
帰りのドアの取っ手を掴んだところで止まり、私を振り返りました。
「すまない、もう一つあった。……ミカもそうだが、私だって、君の友達だ」
「ええ、もちろんですよ」
「私のことを忘れないでくれ。いや……私たちのことを忘れないでくれ。それでは」
いつにも増してよくわからないことを言いながら、セイアさんは去りました。
残された紅茶を捨てないとなあ、とふと思いました。
「先生!先生!先生!」
当番の日、オフィスまで来た私はすぐ、子犬のように先生に駆け寄りました。
「ああ、ナギサ。いらっしゃい。よしよし、良い子にしてた?」
「はい!一生懸命、桐藤ナギサをしていました!」
「変わった言い方だね。君は元からナギサでしょ?」
「いいえ!先生のお傍にいて、ピアスを着けているときの私だけが本物です」
「はは、素敵だよナギサ。トモエあたりが見たらどう思うかなぁ」
「知らない女の子の話なんて、もう効きませーん」
「子供っぽくてかわいいな、最近のナギサ」
「えへへ……」
地下室に通されました。
「今日は特別メニューだよ、どんなだと思う?」
「……あれ以上に特別ですか?」
「ある意味、衝撃の強さでいえばそうかもね」
もっと先生の色に染められてしまうと考えるだけで胸が躍ります。
自主的に部屋の真ん中に吊り下げられた拘束具を身に着けていきます。ハーネスに体を通して、翼をちゃんと羽根用スペースに通しました。
手錠を後ろ手に着け、ちょっぴり苦戦しながらも、なんとか施錠できました。
先生が、私一人でできない部分の仕上げをしてくださりました。ハーネスの背中側の固定具が、かちん、かちん、と鳴ってくっつきます。
「あっごめん、言うの忘れてた。今日は手錠、前側ね」
「えっ?」
それでは不完全です。
私のホルスターの拳銃に手が届いてしまうため、やろうと思えば、銃で縄を撃って脱出できてしまいます。前に先生が仰ったことです。
「いいんだ。それが重要でね」
「はい……?」
「よし、ほらできた。そして……」
先生はスマホを取り出して少し弄りました。
キャスター付き椅子を引っ張ってきて、高さを私の目線に合わせます。
「……シッテムの箱の生放送を……よし、テスト通りだ。よかった、あれタブレットとしては本当にポンコツだからなあ、どうか落ちませんように……」
「先生……?」
生放送、という言葉が引っかかりました。まさか私の姿を放送するわけではないはずですが、じゃあ何かというと見当もつかないからです。
「よし。……スマホは君から見えるように立てかけて、と。……ナギサ。今日は君にちょっと、頭を使ってみてほしいんだ」
「頭、ですか?」
「そう。君がどうしたいか、君自身で考えてみてほしいんだよね」
ちょっと、話が見えません。
「すぐにわかるよ。私を信じて」
「はい!」
「じゃあ私は行ってくるね」
「えっ?」
先生はすたすた歩き、拘束されて上半身をぶら下げて膝をつく私を残して、本当にいなくなってしまいました。
ちょっと考えた結果、とりあえずスマホをみないということはないだろうと思い、何も映っていない黒い画面を直視しました。
可能な限り瞬きせず、ずっと。先生により好きになってもらうために、ずっと。ずっと。ずっと。
先生が褒めてくれるのを妄想しながら。
およそ十五分間、続けました。
ようやく画面がつくと、映像が映し出されました。シャーレに来る前に私も通るシャーレの近所の、駅前広場です。
ああ、そうです。先生が私を放置するわけがないじゃないですか。疑った私は、いけない子です。後で先生にちゃんと報告しないといけません。
……午前九時。先生は、閑散とした駅前のベンチに座っている です。
撮影しているのは、マイクロカメラか何かでしょうか?それを先生が持ち運んでいるタブレットに接続し、このスマホに限定配信をしているようです。
ベンチに座っているとなると、誰かとの待ち合わせ……?
なんだか、胸がもやもやしました。
私は最近、先生のことになると、思考が霞むというか、ひどく一点に集中してしまうというか……盲目的になるのです。それほど無邪気に先生を信じていましたから。疑ってはいけない、疑ってはいけない、と考え出した頭を止めることができません。
こういう桐藤ナギサを、先生に向けたくありません。
先生は、神聖で特別な方なのですから。
しかし、ついに駅から人が出てきました。
私の大切な幼馴染の、ミカさんが。
「あ、先生〜!」
ミカさんは大喜びで駆け寄ります。
……私服、です。
それも私の知らない服。D.Uとはいえ軽い変装を兼ねているのか、ハンチング帽を被った、どことなくボーイッシュな青のコーデでした。
もしかしたら、ミカさんが、すっかり利用額の減ったカードを切り詰めて買ったのかもしれません。
もしかしたら、先生が、ミカさんにプレゼントしたのかもしれません。
「ミカ!待ってたよ」
「どうどう?試着じゃなくても似合う〜?」
「うん、ばっちりだね」
思考が二つに分けられています。
ああ、今回はこうくるのか、と冷静な、笑みを張り付けたままの私。
そして、不安に慄いて、今にも泣きそうな本来の桐藤ナギサ。
本来?
いいえ、今は先生の桐藤ナギサです。
そのはず。
なのに脳が熱くなってきます。
画面に白い字幕が出てきました。
「ナギサ、よーく見てね」
「でも、どうしても嫌になったら見なくてもいいよ。君を壊したいわけじゃないから」
「君のことを信じてるよ」
ああ、そうです。これは試練なんです。
きっと私が何か悪いことをしたから、罰が下ったのでしょう。
こうして苦しめば禊になるのです。そうです。
だから、逃げてはいけません。ただ笑って受け入れないと。
……銃を撃って拘束を解くなんて、考えてはいけません。
幸せそうなミカさんを憎んでも、いけません。
私が……顔をよく知られている私には絶対にできないデートをしている様子を、瞬きもせず見なければ。
二人が仲良く話しながら並んで歩いているだけで、心がが焦げそうでした。
ミカさんはまだこの辺りに明るくないようで、先生があちこちのお店を指差し、うきうきした様子で説明しています。
あそこのアイス屋さんが美味しい。あそこの定食屋さんもいい、というように。
……私には行けない場所。行ったとしても、きっと舌が受け付けないために……二重に縁のない場所。
両手の手錠がいやに重たく感じます。
お似合いの二人は高級レストランに入りました。ホテルの最上階です。きっと夜景は綺麗なのでしょう。
ミカさんは少し緊張した様子で、先生は堂々としています。
「安心してミカ。生徒と一緒に来るのは初めてじゃないから」
ミカさんの瞳が一瞬、あのドーナツの形になりました。
先生は白々しく「どうしたのミカ?」などと問いかけます。
間違いなくわざとです。私にはわかります。
私だからわかります。
……そうです。そうです。
ミカさんは先生に縛ってもらうことはできません。
先生はミカさんのようなタイプには手を出さないと仰っていました。それに、ミカさんは力が強すぎて、拘束されること自体が不可能です。
だから、私の方が、特別で……先生に近いに決まっています。
こんな扱いをしてもらえるのは私だけ。
ミカさんは私の知らないうちに、随分強くなったようです。さっきの匂わせる言葉をもう、頭から流したようでした。前のミカさんでは考えられません。
先生を信じているからでしょう。
「先生、最近私はね……」
ひどい耳鳴りがします。
脳まで響いて、何かが壊れてしまいそうな気がします。
先生が何を喋っているのか聞き取れませんが、ミカさんを褒めていることだけはわかります。
成長したね、と。
だんだん、頭がズキズキしだしました。
心の膿が溢れてきたかのようです。
心臓が言うことを聞きません。
不安です。エデン条約の頃よりずっと強い不安です。
敵に命を狙われるより、自分を守ってくれる強い人に見捨てられる方が怖いのだと思い知りました。
いっそ殺してほしいというほどです。先生になら構いません。とにかく楽になりたくて……。
私は首を曲げ、自分のホルスターの銃を見下げました。
……楽になれる。
これを使えば、拘束から抜けられる。
嫉妬と不安に苦しまなくてよくなる。
……そして、先生からも見捨てられる。
私は、けらけら笑っていました。
あのときのミカさんのことで、ずっと、わからないことがありました。
裏切りが露呈しても、周りから魔女として詰られても、どうして彼女はずっと笑っていたのか。
本心を隠す時も、感情のまま動く時も、彼女はずっと笑顔でしたから。
でも今、私は理解しました。
味方が一人もいなくなって、全部が敵に回る恐怖を前にしたら、もう、笑うしかないのです。
私は銃を抜き、部屋の隅に放り投げました。
先生に褒めてもらえるのを想像しながら、涙を溜めた目で、笑って、画面を凝視し続けます。
初めての放置プレイで二時間はやりすぎたかな。
そんなことを思いながらミカと別れて地下室に戻ると、ナギサは羽根を、人が降りたブランコのようにゆらゆら動かしながら、笑っていた。
すっごく、可愛いと思った。
今、間違いなく世界で一番魅力的な女性だと思った。
「ナーギサ。ただいま」
声をかけると、バッとものすごい速さでこちらを向いた。子犬みたいだ。
ナギサは瞳孔の開ききった目で私を見た。笑顔で、まるで神様に救いを求めるみたいに見上げてきた。
……だめだ。
褒めてあげないと。
これ以上壊したら、取り返しがつかなくなるかも。
いや、意外と耐えるかな。ナギサはとても強い子だし。
……でも残酷すぎる。悪趣味だ。
だって、ナギサはいつかのミカのように笑って泣いている。絶望の淵で藻掻いている。ここでこの子に追い打ちなんてできる奴は、もはや人間じゃない化け物だ。
口の端をつり上げて伝える。
「……君、誰だっけ?」
私は化け物だった。
ナギサはたくさん泣いて、私はたくさん慰めてあげた。
数日後。
二人で、ナギサの部屋の鏡に向かっていた。
ナギサは私が選んだ(痛い出費だった)黒いワンピースを着て、頭に黒い花飾りをつけて、羽根には前より増えたピアスを二十個ほどじゃらじゃらぶら下げていた。いずれも黒か、濃い紫だ。五芒星やらハートやら悪魔のフォークやらの形の飾りはとても浮いていて、でも似合っている。
そろそろ本格的に始めることにした。
まず笑顔を貼り付ける訓練から始めた。教えたことをけして私以外の前で、匂わせることもないように。
元から愛想笑いは上手だったけど、前以上に自然になった。
褒めると、私のために頑張りたいと言ってくれた。
「君は桐藤ナギサ」
「はい、私は桐藤ナギサ」
「今は特別な桐藤ナギサ」
「はい、私は今、特別な桐藤ナギサ」
「特別な桐藤ナギサは先生から信頼されている」
「……はい!特別な桐藤ナギサは先生から信頼されています」
「君は、私が好き?」
「はい!」
「よし!はい、なでなでー」
「あは、……幸せです」
「私もだよ!ナギサは偉いね。本当にできる子だ」
訓練はこれで五回目。経験則からして、二回もやればいい。会えるペースを考慮すると、あと一週間くらいで私の好きなナギサはだいたい完成する。
……ナギサに鞭を振るうのは本当に気が乗らなかった。
楽しくはある。でも気乗りはしない。苦しめるのは嫌だった。……でも、やっぱり必要なことだから、仕方がなかった。
ナギサとの関係を、完璧な形で終わらせるためには。
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