女の敵のわるーい先生シリーズ 作:ブルアカ二次創作@本拠地はpixiv
考えることに、疲れました。
浮かんできたセイアさんの言葉を脳から追い払いました。
こうなったら、もう全部捨てないと。
綺麗なものは、汚してしまわないよう、切り捨てて。
汚い、思い出したくないものも、遠くに捨てて。
私は生きないといけません。
私は先生がいてくださらないと、生きていけません。
そして先生は、私を必要としてくださっています。
捨てないと。
私自身でさえも、ゴミ箱に捨てないと。
「……」
頷いて見せます。
私は、自力で頭を切り替えました。
せんせいの、きりふじなぎさへと。
「……私のことを、助けてくれるんだね?」
「はい」
「……そっか。ねえ、ナギサ。……寂しくなるね」
「……」
「もう私は、君のことを見ない。私の初恋の相手の、代替品として見るんだよ。わかってる?」
「はい」
「君にあげた服も、首輪も耳も、ピアスも、全部燃やすよ」
「はい」
「平時はもちろん、君を君として見るけど、二人きりなら君は私の奴隷。言うことを聞いて、私に加虐するだけの人」
「はい」
「君は、それで幸せ?」
「幸せです」
「そっか」
どうしてだろう。
どうして、せんせいはあいかわらず、かなしそうなんだろう。
「じゃあ、ほら。私に首輪を着けてみて」
「はい」
「ん」
かちゃかちゃ。
つけた。
せんせい、うれしそう。
みたされたかお。わたしのしらないかお。
「あの人の話し方とかもおいおい教えるけど、まずはどういじめるのか教えるね?」
「せんせい」
「なあに?」
「さいごに、きすしてください」
「いいよ、それぐらい」
それぐらい。
ああ、そうなんだ。
さいごまで、わたしのきすは、やすいんだ。
かなしい。
それなのに、そんなきすでよろこぶわたしが、いちばんかなしい。
「はい、おいで?」
くちびるが、かさなった。
……あったかい。
でも。みたされない。わたしも、せんせいも。
こういう、うんめいなのかなあ。
うんめいだとおもったほうがいいか。
きがらくだし。
きっと、どうしようもないんだから。
あはは。あはは……。
「何笑ってるの、ナギサ」
「ごめんなさい」
「いいよ。じゃあ……」
てを、とられる。
せんせいのくびを、つかまされる。
「こう、頸動脈を絞めるんだよ。私にヘイローがないのを忘れないでね」
「……」
「ナギサ?」
「……せんせい、すきだから、いや」
「しょうがないなあ」
せんせいは、ゆっくりという。
「……君は、私にただ利用されているんだよ。ナギサ」
「……」
「そのことについて、どう思う?」
「かなしい」
「惜しいなあ。君は、私のことが大好きでしょう?なのにその気持ちを、こんな風に利用されている」
「……」
「あっ、……そうだよ、その調子」
「……」
ずるい。
きたない。
わるい。
にくい。
ひどい。
ゆるさない。
いっしょう、ゆるさない。
一生、許さない。
数か月後。当番の日、私と先生はお昼休みに、二人でソファに腰かけ、モニターの前に並んでいました。
先生がものにしてきた生徒たちの黒コーデを、スライドショーで見せられています。
先生は、定期的にやるこれを『給油』と呼んでいます。
私という機械に、ガソリンを注ぐようなイメージなのだそうです。
「いやあ、どの子も似合うよねー」
「 」
「そう?」
「 」
「君のは燃やしちゃったものね」
「 」
「ははは。君のその顔、ミカにも見せてあげたいなあ」
私は、何かを喋っているらしいです。
先生の望むことを、教えられた通りに。
「 」
「え?」
「 ま る ?」
「そりゃまあ、飽きるまでだよ?」
「ああそうだ。今日はね、 と が来てるんだ。そろそろ仕上げなんだよ。耳ね。お願い」
「 は ?」
「そう。私は猫ちゃんと遊んでるからお願いね」
「私 よ ?」
「そういうのは君だけだな。だって、君だけだもの。こうやって、半永久的にもってくれるのは」
「あ ま 」
「褒めてないけどね。じゃあ、よろしくね」
部屋から出ようとして、先生に呼び止められました。
「大事なこと聞くの忘れてた。卒業したら、シャーレに来たかったりする?」
「 然 ま 」
「ありがとう!君の紅茶は美味しいからね、嬉しいなあ」
「 来 す」
「ナギサ、待って?」
私の脳を縛っていた縄が、緩みました。
……ナギサ、と呼ばれるのはとても久しぶりです。
「……先生」
「ナーギサ?」
「……どうして今更、私をナギサと呼ぶんですか?」
「君と話したかったからね」
ぼんやりします。
白昼夢を見ているかのようです。
「ここにずっといてくれるのは嬉しいよ。でも……君は……それでいいの?私から離れなくっていいの?」
「……離さないように縛っているのはあなたです」
言葉に棘を込めましたが、先生にはこたえていません。
むしろ、少し嬉しそうです。
「ふふ、ロボットみたいに喋らないでよ。今は演技をしなくていいんだ」
「もう、先生の前では勝手にこうなるんです」
「そっか」
先生はしばらく黙り、所在なげにしました。
何か言おうかと思ったら、不意に私に近寄り、肩に耳を当ててきました。
何かを聴こうとしているようです。
「……うーん、聞こえないなあ、潮騒。ずっと前のあれは、やっぱり気のせいだったのかな……」
「先生」
「何?」
「あなたは、馬鹿です」
「今更ー?」
「はい。こんなことに付き合う私の次に、ですが」
「……うん」
「どうして、このおままごとをやめないのですか?」
「ずっと付き合ってくれる君を信頼してるからね」
「またそれですか。聞き飽きました」
「……ごめんね。結局、君はあの人にはなれなかったね」
「……」
「君は、君だ」
「はい。そして先生もまた、私の事しか見ていません」
「……うん」
「と言っても、傷ついてすり減っていく私にしか興味はないのですよね」
「……はは。私、本当に馬鹿だ」
「……」
「ごめん。ごめんね」
「……いいんです」
「ナギサ。……君は疲れたよね。もうこういうの、やめよう?」
無理です。
先生がいない人生を、私はすっかり忘れてしまいました。
「……嫌です。ほら」
先生の腕を捕まえました。
「……行きますよ。お疲れのようですから……仕事は後にしましょう?その前に、愛してあげます」
「……うん」
腕を引っ張って、『お仕置き部屋』を目指して歩きます。
先生の『給油』が必要そうですから。
始まる前から、既に先生は幸せそうです。期待に胸を高鳴らせています。まるで、薬物の中毒者のような顔で。
先生は、大勢の生徒に手を出しています。
しかし、完全なる私欲のためではありません。
みんなを自分に縛り付けて、手の届く場所に置くためです。
危ないことはせぬように、と。誰も死なぬように、と。
こんなやり方は間違えていますが、先生はきっとやめられないのでしょう。
何故なら、この人の心は満たされないから。
先生の心には、穴が開いているのです。
いくら愛を貰っても、注いだうちにだらだらとこぼれ出してしまうのです。
誰からの愛であろうとも。
でも。
特別な形の愛は、私だけが注いであげられます。
先生を鞭で叩いて、電気を浴びせて、罵倒して……。
そうしている間だけは、私も先生も、真に安心できるのです。
これからもきっと私は、同じことを繰り返すのです。
延々と。
私達のどちらかが、ダメになるまで。
そして先生も、繰り返し続けます。誰も逃げられなくなるまで、無謀に、永遠に。
夕方。帰る時間になりました。
「じゃあ、またね。私はまだ書類があるから、お構いなく」
「わ ま 」
私はしばらく、夕日を前にオフィスで仕事をする先生の後ろ姿を眺めていました。
私は、思案します。
先生はどうしたら助かるのか。
先生はどうしたら幸せになれるのか。
……ああ。
私は、先生の飼い主です。
私は、先生にとって唯一の、甘えられる相手です。
私が助けてあげないと。
銃を抜きます。
先生に忍び寄ります。
ひた、ひた。微かな足音に、疲弊しきった先生は気付きません。
先生の背中が、だんだんと大きくなります。
あと五メートル。
あと五歩。
あと四歩。
あと三歩。
あと二歩。
あと一歩。
背中に、銃口を押し当てます。
「ナギサ」
振り向きもせず、平然と先生は言います。
「弾、入ってないんでしょ?」
正解でした。
「……なぜ、そんなことがわかるんですか?」
「君は、優しいから……。何をしたって、許してくれる子だから」
信頼。
この人からの信頼は、呪いじみていました。
私も、先生も、信頼に縛られています。
もう自力では決してほどけない信頼です。
「……先生。……あなたに、楽になってほしいです。……もう、見ていられません」
「はは、君は私の、死の天使さんだったのか。でも、わかってるよ。君は今、私のために、早まったおばかさんのフリをしてくれているんだ。君は本来、そんなことを言わないんだから。演技以外ではね」
事実でした。
私の先生への憎悪は、とっくのとうに燃え尽きていました。あの日から、一か月も経たないうちに。
残ったのは、煤のような憐憫。
それが先生には、わかっていたのです。
「どうしてそうカンがいいのですか?」
「……違うよ。臆病なだけ。だから、同じくらい臆病で、でも誰よりも優しい君を見初めた」
「……」
「私は、壊れてる。誰かに強い感情を向けられてる間だけ生きた心地でいられる、怪物だ」
「……あなたは、どうすれば救われるのですか?」
「わかんない。……でもね」
先生は椅子を回転させ、振り向きました。
「ナギサ。君が……君といる間は、本当に心から幸せなんだよ?」
「……」
壊れた大人は、疲れ切っていました。
「私に縛られて、やりたくもない飼い主役をやらされて苦しむ君が、いつまで経っても愛おしくて仕方ないんだ。私と同じように歪んだ君を通して、私は、昔の私自身を傷つけることができる。……君のことなんて見ていないのに、君が可愛くて可愛くて……おかしいんだ」
ああ。
私もそうです。
こんなことを言う大人が、愛おしくて仕方がありません。
…………。
本当の私って、どれだったでしょうか。
「先生は、いつまで私を縛るのですか」
「……飽きるまで、だよ。言い換えれば……いつか満足するまで。ねえ。ナギサ」
「はい」
「いつも私を幸せにしてくれて、ありがとう」
「……どういたしまして」
「ナギサ」
「はい」
「……」
抱きしめられました。
ひどく、弱弱しく。
死にかけた小動物のように。
「寂しいんだ。人肌恋しいんだ。……ごめんね」
「……わかりました。今助けて差し上げます」
「え?」
椅子の倒れる音が、無人のシャーレに響き渡ります。
先生を床に引き倒しました。
キヴォトスの外から来た先生には、決して抗えないであろう私の力で。
「必要なものは買い揃えておきましたから、ご心配なく」
騒ぐ先生に、長いタオルで作った猿ぐつわを噛ませました。
手錠も着けさせ、じたばたする足をロープで拘束します。
「そうです、先生。私だけ見てください」
先生は少し泣いています。
「こうすれば、あなたの中での私の存在が増しますよね?先生が教えてくれたやり方ですよ」
それを聞くと、先生は諦めたように、抵抗をやめました。
これでいいのです。
縛るだけでダメなら、縛りをもっと増やせばいいのです。
これで、先生は幸せになれます。
そうでなくとも、念じ続ければ幸せになります。
きっと。
きっと。
「先生。私を見てください。私に傷つけられてください」
先生に、跨りました。
上着を脱がせ、肩に強く噛みつきます。
血の味とともに、所有者の証ができました。
ああ。
先生で、私の頭が一杯。
……幸せです。
Bad Ending
わるーい先生とわるーいナギちゃん 完
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