女の敵のわるーい先生シリーズ   作:ブルアカ二次創作@本拠地はpixiv

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分岐 信じず拒絶する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、そうです。

 ずっとそうだったのです。

 先生は私なんて見ていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……などとまあ、よく言ったものです。

「ナギサ?」

 そんなはずはありません。

 だって……。

 ああ。

 なるほど。

「おーい?ナギサさん?」

 合点がいきました。

 同じじゃないですか、あの人と。

 ごちゃごちゃ、それらしいことを並べ立てて……肝心なことは言わない。

 ああ、憑き物が落ちました。

 ……警告をくれていたセイアさんには、感謝してもしきれませんね。

「先生」

「あっ、はい?」

「……少々、失礼しますね」

「え?」

 私はベッドから立ち上がりました。

 じゃらじゃらと、ピアスの飾りが鳴ります。

 私は右手にスナップを利かせ、先生の頬を張りました。

 バチン!と良い音が鳴ります。

「…………………………………?」

 先生は何をされたのかわからないようでした。

 私だって私が何をしているのかわかりません。

 そして私はつかつか歩き、テーブルの上の、作り置きのお菓子の容器を開けます。

 中から、特別に仕切りで分けてある、黒いマカロンを回収します。

 作った分の、四つすべてを右手に持ちました。

 私は固まっている先生の前に歩いて戻り、マカロンを全て先生の口にぶち込みました。

「………………………………もご?」

 先生はまたしても固まりました。

 そして私は先生を抱きしめました。

 背中をかるくとんとん叩いてあげます。

 子供をあやすように。

「?????????????」

 先生は状況を理解できないようでした。

 当然です。私にもよくわかりません。

 しかし、先生はとりあえず口の中のマカロンを食べるべきだと考えたらしく、ゆっくりと咀嚼し始めました。

 私は待ちます。なるべく先生が安心して味わって食べられるように、やさしく背中を叩きます。

「…………ごくん」

 飲み込みました。

「あの、ナギサさん?」

「なんでしょう」

「ええと。……なぜ私は君にビンタされてから、あの日くれたチョコと同じ味のマカロンを口にぶち込まれて、それから優しくあやされているのか教えてくれない?ハナコが水着で徘徊しててもここまで困ったことないよ私」

「覚えていてくださったんですね。あのチョコレートの味」

「忘れるわけがないよ。あれは、本当にただ美味しくて、美味しくて……私はあれ以来、そこらへんのチョコが受け付けなくなってしまったんだよ。君がお茶会のお菓子の中にいつも入れてくれる手作りのチョコ以外は、食べなくなった」

「……ふふ。ああ、質問の答えですが。私は、先生を拒絶すべきだと判断したのです」

「なるほど」

「でも……私は、先生のことを、やはり、この期に及んで愛しています。それに……気付いたのです。先生は、ミカさんとそっくりだと」

「そうなの?」

「はい。あれこれぐちぐちとうるさいくせに、胸のわだかまりは打ち明けない。ミカさんそのものです」

「そっか、私にもお姫様の素質があるのかな」

「そうそう、そういう戯言(たわごと)を止めないところもですよ」

「ふうむ」

「それで。ならもう、私の想いをぶつけるべきだと思ったのです。だから、真っ先にあなたへの憤りを込めてビンタをしました。そして、私のことだけを見てもらおうと、先生のために作っていたマカロンをぶち込んで……そして、最後に……あなたに、幸せに、なってほしくて……」

 こらえきれず、感情があふれ出ました。

 嫌じゃない、涙が。

「……だから、こうして、だきしめたんです」

「ナギサ……」

「せんせい。もう、もう……ゆるしてあげてください」

「……誰の、ことを?」

「あなたの、むかしのこいびとさんも……そして、だれよりも、あなたじしんを」

「……できるかな」

「そんなことわたしにわかるわけがないでしょう!あなたのことであり、わたしのことでは……!ごほんっ、でも……」

 涙を拭います。

「……要するに先生は、ずっと、寂しかったんだと思います。きっと、何とかなりますよ。私も、お手伝いします」

「いいの?」

「はい。……もう一回だけ、人を信じてみてくれませんか?何か、楽しいことを一緒にしましょう?一つと言わず、沢山のことを」

「………………いいのかな」

「何でもかんでも私に聞かないでください。ロールケーキをぶち込みますよ?」

「ごめん!……じゃあさ、ナギサ、その……ああもう、不思議だな。……沢山出てくる……小さいころから、周りのみんながやってるのに、私だけができなかったこととか……いっぱい出てくる」

 先生はまるで子供のようです。

 目つきも、身振りも……おもちゃ屋さんで誕生日プレゼントを選んでいいと言われて、迷っているような……可愛らしい子供そのものです。

「……ふふ。最初には何が出てきましたか?」

「……海!私は、海に行きたい!……君と、行きたい」

「行きましょう」

「いいの?」

「お互いに忙しいですから、すぐは無理でしょうが……一日ぐらい、いつかはなんとかなりますよ」

「嬉しい!……ああそうだ。君とゲームとかやってみたいな。それに、それに……」

「慌てなくていいのですよ。私もこういう育ちですから、先生に教えていただきたいことが山ほどあります」

「……いいのかな、私こんなに幸せで」

「もう。いよいよミカさんですね」

「ははは……ああ、私、変だ……内緒にしてね?こういう私の事」

「……」

「……ナギサ?ナギサ!?内緒にしてくれるよね!?ナギサ!?」

 私は、ぞくぞくしていました。

 私を散々飼いならしたあの人が、こんなに子供っぽくなっているのを見ると……。

 なんだか、良くない欲望が……。

 

 ああ、いけません、いけません。

 こういう気持ちだったのでしょうね、先生も。

 でも……本当に、愛おしいです。

「ねえ、ナギサ……むぐっ!?わっ、急に抱きしめてこないでよー!びっくりするじゃないか」

「……先生。こうすると、落ち着きますか?」

「……うん」

「私もです。あまり、甘えられずに育ってきましたから」

「……私も。みんな、ちっとも可愛がってくれなかった」

「……これからは普通に、こういうことをしましょう?」

「うん。……あっ」

「どうしました?」

「聞こえる。潮騒。また、聞こえるようになった……」

「まあ……むう、私には聞こえません」

「君から聞こえるんだよ……ふふ。……ねえ、ナギサ」

「なんですか」

「このまま、寝てもいい、かな。安心すると、ねむいや」

「……私も、眠いです」

 

 

 

「あっ、でも、ピアスはちゃんと外してくださいね?」

「……こんなに可愛いのに?」

「ピアサーで耳に着けて差し上げましょうか?」

「すみません、外します……」

「はい、お願いしますね。ふふっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数か月後。いつか使いたいと思っていた、つば広帽子の封を開けた日。

 私たちは電車を乗り継ぎ、貸しボートのある入り江にやってきました。

 天候は快晴そのもの。絶好のお出かけ日和です。

 貸しボート屋へと、二人で並んで歩道を歩きます。

 景色もよく。風が爽やかです。日頃縁のない潮気がとても心地よく感じられます。

「ナギサ。移動時間が長かったけど大丈夫?」

「大丈夫ですよ。日頃から庭のお手入れもしていますから、体力には自信があります」

「そっか、よかった」

 

「ねえ、ナギサ」

「はい?」

「私ね。小さいころ……中学生ぐらいの頃に、不思議な夢を見たんだ。一度しか見たことないのに、とてもよく覚えているんだよ」

「……気になります」

「ありがとう。どんな夢かというとね、真夜中に海の傍を歩く夢なんだ」

「……海、ですか」

「うん。……私は、生きるのが嫌だ、辛いのはもう嫌だって、泣きながら歩いていたんだ」

「……悲しい夢ですね」

「その時点ではね。でも……気が付いたら、隣に誰かがいたんだ。不思議なことに、その時は夜が明けていて……それどころか、真昼になっていた。それでさ、その、隣の人を見てみると……なんと、背中に翼があったんだ」

 思わず私は、自分の翼を見てしまいました。

 先生はちょっと肩を震わせ、続けます。

「そう、天使だったんだよ。不思議なことに、その人、いや天使さんは、なんだか……後光が射しているといるというのかな。眩しくて、絶妙に人相がわからないんだ。男か女かすら掴めない。そんな感じ」

「……それから?」

「私は聞いたんだ。あなたは誰?って。そしたらさ、こう返された。『あきらめないで』って」

「……」

「答えになってないよね、ほんと。でも……何故か、物凄く説得力があったんだ。そして、こうも言われた。『苦しむ人を助けたいという気持ちを、どうか諦めないで』とね」

「不思議、ですね」

「うん。でもさ。もしも、この夢を見てなかったら……私は、先生になっていなかったかも」

「え?」

「人を助けたいって思いを、諦めていたかもね。……それでさ。その夢で歩いていた道がここだって言ったら、どう思う?」

「……そうなのですか!?」

「うん。いや当時ね、夢から覚めた時に『なんだこの夢。あんな道も海も知らないのに』って思ったんだよね。予知夢だったのかなあ?その頃住んでた近所には教会があったからさ、天使はなんとなく好きだったんだけどね……ねえ、ナギサ」

「はい?」

「……夢に出てきてくれたのは、君だったりするのかな?」

「……」

 どうしましょう。

 私にそのような記憶はありません。

 でも……。

 なぜでしょう。ロマンが壊れるから否定しないでおく、みたいな話でなく……。

 言われてみれば、覚えがあるような気がするのは。

「なーんて。答えは聞かないでおくね。その方が素敵だ」

「あっ、はい……」

「話してたら着いたね。いよいよだ」

 いつの間にか、ボート小屋は間近にありました。

「ごめんくださーい!ボートを借りたいのですが……」

 

 数分後、桟橋の上に私たちはいました。

 先生はボートにさっと乗り、私に手を差し伸べます。

「おいで、ナギサ」

「ありがとうございます」

「うん。よし、そこに座って……私は向かいで漕ぐからね。どこまで行きたい?」

「……ふ、二人きりであれば、どこでも」

「わかったよ、お姫様」

 先生の口にロールケーキをぶち込みました。

「もごもごもごもごもご!?」

「先生?何人目のお姫様ですか?よりにもよってミカさんに近い私に言うとはいい度胸ですね」

いぶもももうんあえお(いつも思うんだけど)おおいおーうえーいいあっえうお(どこにロールケーキしまってるの)?」

「秘密です!ほら、漕いでください」

「あーい……」

 

「けっこう沖まで来たね」

「そうですね……」

 先生はオールを漕ぐのをやめ、景色を見ています。

 私も同じように、遠くの山々や、カモメや、海の水面の波立や、その緑がかった美しい色を、しげしげと観察します。

「いいね、海」

「そうですね……」

「ナギサ、紅茶いる?」

「あ、いただきます……」

 先生は手提げ鞄から保温水筒と野外用カップを取り出し、紅茶を注いで渡してくれました。

「どうぞ」

「……し、市販ではないですよね?」

「まさか!私が淹れたんだよ。セイアにやり方を教わったんだ」

「私に聞いてくれても良かったのに」

「はは……照れくさくてさ。初心者だから多分、ナギサみたいにはいかないと思うけど。その、どうぞ」

「いただきますね」

 ……なるほど。

 確かに、味は初心者のそれではありますが……。努力のあとが、きちんと伝わります。セイアさん流の技巧もいくつか伺えました。

「美味しいです」

「よかった……」

「ふふ」

 

 波に揺られて、船の上にいるだけ。

 それがこんなにも、満たされた感覚なのは、不思議です。

 聞こえるのは微かな潮騒。

 揺らぎの音が、とても心地よいです。

 

 そろそろ、切り出してみましょうか。

 

「先生」

「なあに?」

「……いつ、予行演習をしたんですか?」

「ブッ!!」

 先生が紅茶を吹き出して、むせました。

「ふふふ」

 わからないわけが、ありません。

 だって、ボートに乗る時といい、漕ぐ様子といい、要領が良すぎました。

「なんでなの。なんでわかったの……」

「伊達にトリニティの上層を生き抜いていませんよ?この程度の観察力は当然です」

「エッチなことはからきしのくせにもごもごもごもごもご!!」

 

 ロールケーキを食べ終わるのを待ってから、話を再開しました。

「それで。私はとても、先生のこの後のお言葉に期待しているのですが……」

「……もう後日に回していい?」

「これ以上にふさわしい状況は当分ないと思いますよ?」

「そうだね。完全にバレていることに目を瞑れば、そうだね。……ねえ、ナギサ」

「はい」

「お願いだから、笑わないでね。……すー、はー。ああ、凄く緊張してるよ。……私、ちゃんとした恋愛なんて今まで一度もしてこなかったからね。はじめてなんだ。……想いを伝えるのは」

「私だって、想いを受けるのは初めてですよ?」

「ならなんでそんなに落ち着いてるの……」

「先生を信頼していますから」

「かなわないなあ。……一個だけ前置きをするね。ナギサ」

「はい」

「私と一緒に幸せになってくれて、ありがとう」

「どういたしまして」

「では。……ごほん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……桐藤ナギサさん」

「はいっ」

「……これからもずっと、一緒に幸せになってくれますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい!」

 

 

 

Happy Ending 

『元』わるーい先生とナギサ   完

このシリーズのジャンル

  • ホラー
  • 官能
  • サイコホラー
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