女の敵のわるーい先生シリーズ 作:ブルアカ二次創作@本拠地はpixiv
ある日、私こと聖園ミカがロールケーキの夢から目を覚ますと、自分がナギちゃんの部屋で寝ていることを発見した。
「…………………………?」
ナギちゃんの部屋の家具の配置上、身を起こすだけで、部屋の
困り果てた私はとりあえず、もう私の生活とは無縁になった、高級なベッドに再び身を潜らせて思案した。
どうしてこんなことになったのだろう。私はいつものように草むしりを終わらせ、いつものようにスマホで先生のSNS投稿がないかチェックしたり、嫌々ながらも勉強をしたりして、そして寝床についたはず。
……変わったことなんてなにもしていない。
……それ以前に、どのような変わったことをしたら、寝ている間にナギちゃんと入れ替わるというのか。先生はよく「キヴォトスに常識は通用しないね」と言うけど、身体が入れ替わるのは流石に大事件だと思う。
……あんまりに大変すぎることが起こると、かえって冷静になれてしまうものみたい。
……ああ、どうしよう。夢なら早いところ覚めてほしい。でも……夢じゃなかった場合のことを考えると、頬をつねるわけにもいかない。……うーん。
なんの気なしにベッドの枕側の木を弄っていると、バキッと音がして、もげた。精巧な造りの、ロールケーキ形の彫刻が私の手の中にある。
なるほど。身体が入れ替わっても力は同じなのか。
…………そうか。そうか。
このつやつやした木材の表面の手触り。折れた断面のざらざらした、もどかしくもどこか気持ちいい触覚。
確実に現実だ。
うん。
これはまずいな。色々と。
ええと。
そうだ、スマホで誰かに連絡しよう。私……聖園ミカは謹慎中の没落貴族だけど、ナギちゃんは違う。生徒会長だ。不在はトリニティの危機を意味する。
スマホを開くと、パスワードが立ちはだかってきた。
私の誕生日を入れてみる。一発だった。…………いやまあ解けずに困るよりはいいけど、なんというか……まあ今はそれどころじゃない。
飾り気のないホーム画面から、モモトークアイコンをタップする。
……待ち受けは、私達ティーパーティーwith先生の、楽しげな集合写真だった。
私とのトークルームは……。あった。ピン留めされている。
……先生もピン留めされてる。
……………………。
いや、ダメ。
いくらなんでもそれはトリニティすぎる。
『ナギちゃん』
『起きてる?』
『おーい』
既読もつきやしない。
……よく考えたら、私のスマホのロックって先生の誕生日なんだけど。
……ナギちゃんに解けるか怪しいラインかも。というか無駄に義理堅いから、そもそも私のスマホに触らないかも。
…………よし。もう仕方ない。
おそらくナギちゃんは私に会いに来れないだろう。諸事情で、アポを取ってない限りは門番の子たちが通してくれない。
お手伝いの子には適当に散歩とか言って、抜け出そう。
私の寮に行こう。
寮の前まで行くと、まさにナギちゃん……の入った私が飛び出してくるところだった。
「わた……ミカさん!」
自分の声で自分の名前を呼ばれるの、すごい変な気分だ。
「ナギちゃん!やっぱり入れ替わってたんだね」
「はい!ああ、なんということでしょう……どうすれば、どうすれば……」
私の姿のナギちゃんは慌てふためく。緊急時は意外と頼れないんだよなー、この幼馴染……。
……なんか私の声でナギちゃんの喋り方なの、すごいムカつくのは私だけかな。……自分の声を録音すると変に感じたりする、アレに似てる。
私は考えて、提案した。
「……とりあえず周りの目がアレだから、テラスに行かない?」
ひそひそしている周囲を横目に、ナギちゃんははっとした顔になった。
テラスでいくつか話をしたところ、どうやら結局原因はわからないということがわかった。
絶望的だ。
「…………もう、身体が入れ替わってしまったことを正式に公表するしか……」
「いや諦めが良すぎるよ!せめてもうちょっと足掻こう?」
「しかし、よりにもよってティーパーティーのホストが入れ替わったとなると、事は急を要します……」
「だからこそだよ!そのティーパーティーホストが、よりにもよって謹慎中の私と都合よく入れ替わりましたー、なんて誰が信じるわけ?そんな表明をしようものなら、よくて分派同士の抗争、悪くて内戦!トリニティは終わりだよ!」
「……では、どうすれば……」
「うーん。なんか、こういう事例とか他にないの?」
「……現に私たちの身に起きているわけですから、ありそうな気もしますが……ちょっと、聞いたことはないですね」
「だよね、私も知らないし。……うん、もう先生を呼ぶしかないか」
スマホ(元通りに交換した)を取り出す。
「あっ、その……待ってくださいミカさん」
「え?なんで?どうかした?」
「……ええと」
「うん」
「……その、ええと」
「何さ、早く言ってよ」
ナギちゃんは壁掛け時計を見て、焦っているような、はたまた恥ずかしがっているような顔をした。瞬きが激しくなり、汗も出ている。
「……今日、お茶会の約束をしていたので……先生は恐らく、あと一分も経たずに来ます」
「…………は?」
「……すみませんミカさん。その……わ、私だっていつも頑張っています!先生とお茶会したいですし、褒められたいんです!」
子どもか。……子どもだけども。
「……まあいいよ☆」
そのお茶会の機会は潰れてしまったわけだし、おあいこだ。
「……じゃあナギちゃん。先生には……」
「あっ、もう来ます!……ミカさん、ちょっと私のふりをしてください!」
「え?どうして!」
「どうしてもです!!本来は私とのお茶会の時間だったのです、責任を取って私を演じてください!くれぐれも失礼のないように!!」
「そんな、ムチャな……」
「ミカ!!」
こうなるとこの幼馴染は聞かない。
「……ああもう!わかったよ!」
「お願いしますよ!困ったら扉の隙間からプラカードで指示を出します!」
「う、うん……」
きいい、と戸が開かれる。
「こんにちは、ナギサ」
わーお。笑顔で、上機嫌だ。
……先生も楽しみにしてたんだろうな、お茶会。
「……御機嫌よう、先生」
「うん」
よし、挨拶は大丈夫。
慣れた様子で、先生は椅子にすっと座った。
……最低でも五回は呼んでるな、この感じは。ナギちゃんも隅におけない。
「……あれ、ナギサ。何かいいことでもあった?」
「えっ?つっ、いえ、特にはありません」
「そう?なんか翼がこう、いつもより高いから」
「そ、そういう日も、あるのです」
「そっか、そういうものかあ」
ナギちゃんの翼、若干垂れてる感じだからなあ。入れ替わったばかりで、感覚が……。
「ところでさナギサ」
「は、はい」
「私達、結婚はいつにする?」
「ぐっぶ!!??」
え?
は?
紅茶を噴いちゃったけど気にしてられない。
「……ナギサ、なんか変だよ?疲れてるの?」
「いっ、いえ、全然いつもの桐藤ナギサです……よ」
どうしよう、幼馴染の喋り方って意外と難しい。
上手く言い訳したいのに、どう敬語を使えばいいのかわかんない。
「ならいいけど……もしかして、私の事、いやになった?」
「え?」
「いつもは私が来たら、こう、傍まで来て、私の頬にキスしてくれるのに」
「え?え?え?」
理解できない。理解できない。理解できない。……どうしよう、どうしよう!
ナギちゃんの方を見る。……プラカードには、達筆な水性ペンの文字で『カマかけです!私でないことに感付いています!恐らく影武者か何かだと勘違いしてからかっているのです!流してください!』とある。
なんだカマかけか。焦った。
「……先生。ご安心を。わっ、
「ふうん。……じゃあさ、合言葉もわかるよね?」
「え」
「行くよ。ロールケーキの耳は?」
やばい、ナギちゃんの考えそうな合言葉だ。
ナギちゃんを見る。
『とぼけてください!』
「もう、先生は意地の悪いお方ですね。そのような取り決めに覚えはありませんよ?」
「えっ?」
やばい素で不思議そう。
『すみませんミカさん!聞かれたら一回私がとぼけて、先生が「えっ?」と言うのまで含めての合言葉なのです!』
アホなの?
ねえ。煩雑すぎでしょ。アホなの?
『先生が困惑したところで「カモミールティー」です!』
「カモミールティー」
「正解!君は本物のナギサだね」
決めた。後でナギちゃんの口にマカロン詰め込もう。
「……ところでさ、ミカ?最近どう?」
「うん、おかげさまで絶好ちょ……あ」
先生はにやっとして、頭の上で指をくるくるさせた。
……そうだった。ヘイローでわかるじゃん。
えっ、なにこの結末……。
「ナギサー!近くにいるの?おいでよー!」
「……うぅ」
「ナギちゃん……」
呆れたし、なんか……凄く疲れた。
「……で、二人ともどうやって入れ替わったの?凄いなあ。なんか、発掘した聖遺物でも使ったの?」
ああ。そうだった。
私達、そういえばピンチだった。
「二人とも?」
「……」
「……」
「え?……まさか?」
「……」
「……」
「……その。もしかしてだけど。この状況って……」
「うん」
「はい……」
「……人為的じゃなくて、天然?」
「……そうです」
「そうだよ」
「……え?普通にまずくない?」
「ああ、先生……そのご様子では、やはり、このような事例をご存じないのですね……」
「うん。初めて見たし、聞いたこともない……」
終わった。
トリニティは終わりだよ……。そうでなくても、もう分派同士の摩擦は避けられない。
うう……。
その時、ドアがノックされた。
遅れて、小さな鳥の鳴き声。
シマエナガだ。
見慣れた狐耳が、ドアの隙間から覗く。
「おや、お揃いだったのかい」
「セイア!」
「セイアちゃん」「セイアさん……」
セイアちゃんは私とナギちゃんとを、不思議そうに見比べた。
「……?二人とも?いつもと呼び方が違うが、何かの符牒かい?だとしたらはっきり言ってもらいたいね。私には覚えがない」
ああ、いつもならそのうっとうしいセリフに水を差すところだけど、そんな気分じゃない……。
「実は、その……寝ている間に、なぜか私とミカさんの身体が入れ替わってしまいまして」
「今日日小学生でもそんなドッキリはしないよ」
「小学生みたいな体つきでよく言うね、セイアちゃん?」
「その悪態は間違いなくミカだ。入れ替わったのは本当なんだね」
どうしようやっぱりムカつく。
「セイア、その……こういう時、どうしたらいいか知ってたりする?」
「……こんな奇天烈な状況のことなんて、私にもわかるわけが……ん?」
「?」
「ちょっと、三人とも静かにしてくれ……」
セイアちゃんは急に黙り込み、何やら視線を右上にやって、そのままの姿勢で固まった。
考え事をしてるらしかった。
私たちは三十秒ぐらい、そのまま静かにしていた。
すると、ピキーン!という効果音でもなりそうな顔をし、興奮した様子で語り出した。
「思い出したっ!!」
「な、何を!?」
「この状況!かなり昔に、私は夢で見ていた!君たちと知り合うよりもうんと前に!」
「ええっ!?」
「それは本当かい、セイア!?」
予知夢だ!!
今は勘に置き換わっているけど、昔見たのなら予知夢のはずだ!
「ああ、ああ、そうだ!夢なんて忘れるものだからね、今の今まで記憶の底だったよ!……そうだ。もう一つ、もう一つある。そう、そうだ……人の姿が、ぼんやりと……知ってる、知ってるぞ……!先生!古関ウイだ!彼女に連絡を!確か夢には、知らない大人と高校生二人……つまり君たち三人の後に、古関ウイが出てきていた!」
「連絡してみる!」
先生は電話をかけ、後ろを向いた。
「お願い出てくれ……あ、ウイ!私だよ!……ちょ、イタズラ電話じゃないから切らないで!電話をかけるのは初めてだけど、私だよ、先生!えっ、本人って証拠?……舶来ウィスキー!キックキックトントン、キックキックトントン!ぼくは半分獅子に同感です!……うん!読んでくれたでしょ
ウイという生徒はすぐに来た。
その子が、何やら謎めいた紫の分厚い本を手に持ち、床に何やら謎めいた五芒星模様の紫カーペットを敷き、何やら謎めいた呪文を唱えると、私とナギちゃんの身体は再び入れ替わり、元に戻った。
……案外あっけなく解決した。
……どっと疲れが出て、私は倒れた。
……先生とお茶会をする機会は、今度でいいや。
だって……。
「災難だったね、ミカ。お疲れさま」
「……うん☆」
先生が私をおんぶして、寮まで運んでくれたから。
ああ、なんか猫耳の生徒が泡拭いて倒れてる。チョコミントアイスを持ってる子が慌ててる。おもしろーい。
……うん。
今日は、なんだかんだ楽しかったかもしれない。
終わり方がいいから、そう思うのかなあ。
……まあ、まだお昼過ぎだけど。
……死ぬほど疲れたし、戻ったら、一回寝よっと。
セイアさんもウイさんもお帰りになり、予定通りに先生とのお茶会を楽しむことができました。
「……それにしても。ナギサも、結構あくどいね?」
先生はにやっと、いたずらっぽく笑います。
……先生のこういう顔を知っているのは私だけだと思うと、少し、優越感を感じます。
「はて、何のことでしょうか?」
「よく言うなあ。朝起きた時、きっと君はものすごく焦ったよね。身体が入れ替わっているのも当然そうだけど、それ以上に……」
先生は椅子から立ち、私の頭を優しく撫でてくれました。
……いつもと変わらぬ、うっとりとした多幸感に包まれます。
「……んっ」
「……私たちの関係が、ミカにバレていないか、ってね」
「……ふふっ。天は私たちに微笑みましたよ」
「うん。……何せ、身体が入れ替わったということは、つまり脳の中身も入れ替わった訳だ。記憶というのは形のないものだからね。たとえ、ミカの身体に入ったナギサが、ミカの記憶にアクセスできなかったとしても……向こう側もそうだという証左にはならない」
「ええ。ですから、カマかけをいくつもしましたね」
「カマかけのふりって設定の、カマかけをね。……おかげで、ミカ側もナギサの脳の記憶が読めないって証明できた。……よく咄嗟に思いついたね、あんな作戦。……ひどいことするなあ、ナギサ?」
「でも、先生だって楽しそうでしたよ?ふふ……」
肩を抱きしめ、先生の頬にキスを差し上げました。
「ま、そうだね。だって、私がミカに言ったことは、どれも本当の事だったんだから」
「卒業しても、当分は内緒ですが……ね」
「うん」
結婚は適齢期になったら、と約束しています。
……先生から、いえ。私の伴侶から頂いた指輪は、今は銀行の貸金庫の中です。
「……ミカさんは私のスマホにも、最低限しか手を着けませんでした」
「君は全部見たのにね」
「……また、こっそり危ないことに手を出されてはたまりませんから。念のためです」
「……君を信じてくれてる幼馴染の事、大切にしなよ?」
「ええ」
「……ふふ、きみは悪い子だね?」
「あなただってわるーい先生のくせに」
「……『元』ね」
愛する人は、遠い目をしました。
「先生」
「なに?」
……ときに、答えの分かりきった問いを、あえて投げかけたくなってしまうことがあります。
今のように。
「……もしも体が戻らなかったとしても、私を……ミカさんの身体になった私を、愛してくださりましたでしょうか」
「愚問だね。私には、君しかいない」
即答でした。
「……ふふ」
それからは二人でしばらく笑い、そして、見つめ合い……。
軽いキスを交わしてから、私の自室へと、先生と一緒に戻りました。
先生「こんにちはナギサ」 ナギサと入れ替わったミカ「……ご機嫌よう、先生」 完
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