お願いだから……小説を……私の小説を………
おぉ、おぉ………あなありがたや……。
おぉう………おぉう。
一人の男が、黄金の街を見下ろしながら小さくため息を吐く。
振り返ればそこには眼下の街並みと同じ、いやそれ以上に
狭間の地から追放され、その瞳が褪せたと思えば、自分ですら知らぬうちにこの狭間の地へ戻っていた。それは単純に故郷に対しての義望か、それか抗いきれぬ闘争から来る無意識の行動からか。それは本人にも分からない。
だが一つ言えるのは確かに己は使命を果たし、今狭間の地で王となった事。
だと言うのに、なんだこの感覚は。
己と同じ褪せ人やデミゴッド、果ては巨人の山峰に住む親玉や古龍の王すらも倒した。
狭間の地に隠された影すらも暴き、もはや狭間の地において自らの知らぬ物は無いと言い切れる。
「わが王よどうしたのですか?」
隣から小さな声が聞こえてくる。振り返ればそこには一人の亜人がいた。小柄な体に見窄らしい服を着た亜人――ポックは褪せ人を案じる様子で話しかけてくる。
「退屈、なのですねわが王よ」
「お前には敵わないな。そうだな、退屈なのかもしれん。狭間の地に戻ってからは戦いの日々だった。それが私にとっての普通であったし、それは変わらぬ」
「では、一度王都から離れてみてはどうでしょう。わが王よ、あなたは使命を果たしたのです。玉座に縛られず、自由に生きてみてはどうでしょう」
「…………」
「オイラはあなたに救われたのです。たとえバカと罵られようと、今のオイラはあなたに仕える身なのですわが王よ。なのでどうか、お針子のポックではなくあなたに仕えるポックとして信頼してほしいのです」
「やはり、お前には敵う気がしないな、ポック。お前の言う通り、私はどうにも背負いすぎたらしい。言われた通り、少し玉座を離れるとしよう。ポック、私のいない後を頼めるか?」
「おぉ、是非とも……!あなたの期待に応えられるように頑張ります!」
褪せ人はゆっくりと立ち上がる。しばらく動かなかった事で体の節々からは軋む音が聞こえる。
鈍った体を慣らさねば。だがその前に行くべきところがある。
褪せ人は玉座の前の広場の中心に存在する祝福に手を翳し、ある場所を想像する。
すると褪せ人の姿は薄れ、まるで空気に溶けていくように完全に消えてしまった。
後に残されたのは空席となった玉座とお針子のポックだけ。
「いってらっしゃいませ。わが王よ。どうかあなたの旅がより良いものになるよう、オイラは願っています」
まず初めに褪せ人が感じた違和感は、円卓とはこの様な所だったか、という疑問であった。
元来円卓とは文字通り巨大な一室に円卓が置かれ、その中心には大祝福があった筈である。だのに今の己がいるここは円卓など影も形も見当たらぬ。それに部屋もおかしい。
見慣れた洋建築ではなく、全てが灰色に彩られた重苦しい部屋だった。
触れば手触りはザラザラしている。ここは一体どこだろう。転送に問題があったか?だが今までそんな事は無かった。
あれだろうか、二本指か壊れた様に遂に祝福も壊れたのだろうか。だとすれば困った。褪せ人にとってもはや家とも呼べる祝福が壊れてしまっては拠り辺が無くなる。
それに祝福から転送されればそこには必ず祝福があるが、この部屋には祝福が無い。これでは気軽に死ねない。
褪せ人は要警戒しながら部屋をでる。そこは外であった。建物は既に壊れており、続く部屋も無かったらしい。
「ここは、何処だ?」
部屋の外は海岸だった。波の音、潮の香り、鳥の声。一目みた瞬間に、ここは狭間の地では無いことを瞬時に悟った。ぐるりと見渡してみても黄金樹は見えない。
影の地のような場所でも無い。そもそも、褪せ人が出た建造物からして狭間の地の物か?いや違う。これはもっと別の…………例えるなら別世界。
そこまで考えて空を見上げる。雲一つない、澄み渡った青空が視界を覆う。
狭間の地や影の地のような鉛のような重さを微塵も感じさせない空だ。
なるほど、これは……この場所は。
「
両腕を突き上げて激しい喜びを全身で表しながら狂ったように声を上げる。
側から見れば誰も寄りつかないであろう光景である。しかし狭間の地では褪せ人はそろって人種の地位は低い、腹立たしいものだが
「まあまずはエビでも食うか」
祝福、律、黄金樹、色々と思う所はあるが、面倒が嫌いな褪せ人はエビを食って思考を書き換える。
エビの食感と強い塩味がとてもキク。茹でエビはいい、エビ好きに悪い奴はいない。
「さて、まずは祝福を探さねばな。あと出来れば地図が落ちていると嬉しいものだが…………ん?」
祝福を探すがてら適当に海岸を歩いていると、向こうの方から音が聞こえてきた。
その音は褪せ人にとって狭間の地ではとても聞き慣れた音だった。
鉄と鉄がぶつかり、火花を散らす、そんな音。
兜の内で、褪せ人はほくそ笑む。
「戦いはいい……私にはそれが必要なのだ」
新たな土地に、新たな戦い。一体どんな敵が待ち構えているのか、どんな人がいるのか、心震わせながら音の方へ歩いていった。
「ちょっと!今日は何かヒュージの数が多いのではありません!?」
「原因は分かりませんが!このヒュージ達、何か探してるような!」
「私達を狙っている訳じゃない………百合ヶ丘に向かってる訳でもないようね」
鈍色に光る凶刃を避ける少女達。一柳梨璃は明らかな異常を持つヒュージに不安を抱いていた。
突如として発生したヒュージの大群。それを狩るために百合ヶ丘のリリィ達は戦闘を開始したのだが、通常よりも多いヒュージ、まるで何かを探し求めるかのようにコチラには見向きもしない様に梨璃やこの場の者達も何かしらの異常を感じざるを得なかった。
「梨璃!下よ!」
(っ!意識が逸れた!)
だがヒュージとしてもみすみす狩られるほど脳無しではい。明確な脅威があるなら排除する。一体のヒュージは意識が別の方に向いていた梨璃の直下から迫りかかる。
真っ先に気づいたのは梨璃のシュッツエンゲルである白井夢結であった。
咄嗟のフォローに入ろうと走るが、それよりも早くヒュージが届くその刹那、彼方から蒼白の奔流が放たれた。
奔流はヒュージを呑み込み、一切の塵も残さず消し去る。
「梨璃!大丈夫?」
「はい、お姉様。でも今のは」
「新手…………だと思いたくはないわね」
奔流の放たれた根元。その場にいたリリィもヒュージもそちらの方へ視線が行く。
木々をへし折り、進路上のもの全てを消し飛ばした奔流を放った存在が足音を鳴らしながら森の中から現れる。
「ふむ、狙いは良しか。おぉ、こんな大所帯は狭間の地でもそう見る事はなかった」
現れたのは身長2メートルもあろう程の巨躯に煤汚れた鎧を着込んだ男。中世の騎士がそっくりそのまま現代に現れた、そんなイメージを感じさせる。
「無事かね?貴公。だが感心はしないな、戦場で気を抜くなどと」
「…………あなたは」
「ふむ、面白い武器を持っているな。弾を撃ち出す筒と剣が同じとは…………狭間の地では無かった。すまんな貴公、少し見させてもらって…………ん?」
梨璃の側まで来た褪せ人は、極めて慎重に梨璃に接する。その姿は本当に戦場なのか目を疑う状況だったが、その実褪せ人は微塵も油断はしていなかった。
褪せ人を目にした瞬間、ヒュージはまるで親の仇にあったかのような有り様で褪せ人に襲いかかる。
「攻撃が単調だな、知能が無い……そんな動きだ」
振り向きざまに腕を振るった褪せ人の手には、いつの間にか褪せ人の身長程もある巨大な剣が握られていた。
ツヴァイヘンダーと呼ばれるそれは、斬るというよりも叩き潰す事に重きをおいた形状をしており、実際にツヴァイヘンダーの攻撃に巻き込まれたヒュージはどれも甲殻がひしゃげ、傷口からは血と思われる液体が滴っていた。
「うん、勘はあまり鈍っていないか。だが流石に過剰か?いや、慢心はダメだな。うん、慢心ダメ、ゼッタイ」
さてと、振り返った褪せ人は視界一杯に映るヒュージの大群に顔を顰める。
大群には碌な思い出が無いが、これはなんと言うべきか。
「壮観…………だな」
「もし、貴方聞こえていますの?」
「ん?どうした」
「先ほどのご助力、感謝してます。梨璃さんに万が一があってはリリィの、ヌーベル家としての名折れですわ。ですが、ここから先は私達に任せて避難を。騎士様?」
「騎士様?あー、避難だがそれは出来んよ。貴公ら見たところ子供ではないか。私とて流石に子供を目にして逃げる事は出来ないさ」
「違います。貴方が倒したヒュージは現行兵器でも充分戦える個体です。ですが、目の前のヒュージはCHARMが無ければ倒せないんです!」
不敵に話す褪せ人に梨璃と同じく背の小さな少女――二川二水はそうではないと諭す。
よく見れば先程倒したヒュージは目の前の個体よりも小さい。成る程、大きさで通用する武器が違うのか。褪せ人はそう結論づけた。
しかし、だからと言ってそれが逃げる理由にはならない。
「デカいから倒せない?武器が通用しない?そんなもの、何の理由にもならん。奴を見ろ、ついさっきまで生き、戦い、血を流した。つまり奴は生き物で、殺しても復活する死に生きる者ではないのだ」
ならば殺せる。あのヒュージの堅牢な甲殻の下は肉。もし硬いならば壊せばいい、溶かせばいい、腐らせればいい。こちらには手札が何百もある。
「血が出るなら殺せる。生き物とはそういう作りになっている」
そう言うなり褪せ人はヒュージの大群に突っ込んでいく。流石の梨璃達もその光景に目を疑い、褪せ人を追って再び大群の中に走って行った。
エルデンリングナイトレインが出たので勢いで書きました。