忘れられなかった影   作:アベルシアロン

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降谷視点の組織壊滅時の話。途中、というか真ん中はほぼジン視点。


忘れたかった記憶

着々と組織を滅ぼす為の準備が出来ている。降谷はセーフハウスで組織の資料を意味も無く眺めていた。本来ならこんな事はとっくに頭に入っている。寧ろ、暗唱出来る。それでも見ずにはいられなかった。未だにどこか、心の拠り所を探す自分に嫌気が指す。

降谷は見ていた資料をライターで燃やした。燃やした後、窓を開けていなかった事に気付いて、急いで窓を開けた。外の風が冷たい。それでも、冷まされない気持ちは鬱陶しかった。降谷は諦めて窓を閉めて、眠りに付くことにした。一時でもこの感情から離れていたかった。

 

 

建物内の組織の人員は殆ど無力化された。残るはリーダーと幹部だけだ。ベルモットは勘づいたのか既に逃亡した事を確認。リーダーとラムとジンはまだ内部にいる様だ。しかし、ラムも逃亡の準備が整っていると言って良い。

降谷は、盗聴器と無線から現在の状況を頭の中で纏め上げた。

「風見。お前は他の奴とラムの方へ。俺はジンの方へ行く。人員は出来るだけリーダーの方へ向かわせろ」

「分かりました。そちらにも何人か、」

「いや、一人で良い」

風見は降谷の有無を言わせない顔を見て、不思議に思った。きっと何かあるんだろう。仕方がないと溜息をついた。

「絶対に逃さないで、生きて帰って来て下さいね」

「勿論だ。俺がそんなヘマをすると思うか?」

「思いませんが、そうでも言っておかないといつか死にそうなので」

風見はしっかりと降谷の方を向いて言った。

「……俺の信用がないな」

「ええ。直ぐに無理をする上司の言葉に信用なんてありません」

風見ははっきりと言い放った。

「……分かった。必ず逃さずに帰ってくる」

「守って下さいね」

風見は分かれ道で姿の見えなくなるまで降谷を見届けた。そして、ラムの方へ向かった。

 

 

 

 

「貴様か、バーボン」

「ええ。実は僕、NOCでして」

バーボンは勝ち誇ったような笑みを見せた。

まだ、表面は取り繕えていると思いたい。

「それで、ノコノコ一人で現れるなんざ、俺に殺されたかったのか?」

ジンは鼻で笑って拳銃を取り出した。バーボンも拳銃を取り出す。お互いがお互いに向かって銃口を向けた。

「一発勝負ってか?NOCって奴は安定を取らないんだな」

ジンは黙りこくったバーボンを見た。渦巻く激情に耐えているのが丸分かりだ。組織がなくなるか

らって気が抜けすぎだな。

少し無言の時間があった。銃撃戦の音が遠くで鳴っている。

「援軍が来るまで時間稼ぎか?」

「いいえ。ここには僕以外来ませんよ」

お互いの目線が交差する。思惑を探る視線がかち合う。

「そういう割には貴方からは仕掛けてこないのですね」

「お前を殺して、俺がここから逃げた所でどうせ一斉掃射で殺され、!?」

バーボンが動いた。ジンが咄嗟に放った一発は降谷の頬に傷を付けた。バーボンはジンの拳銃を部屋の端へふっ飛ばす。ジンを床に叩き付けて、その心臓に銃口を当てた。

「なんて言った!?お前が他人に殺される位なら俺が殺す!」

「……それは、お熱い告白をありがとう。バーボン」

今のジンの手元には一切の武器がない。拳銃は飛ばされてしまったし、ナイフは先程叩き付けられた時にギリギリ手の届かない所に落ちてしまった。無駄に動けば、死ぬ事を良く分かっていた。

「……っ!お前は俺がどんな気持ちで今まで過ごして来て、死ぬ程悩んで、ここにお前を殺しに

来た事なんて知らないくせに!」

バーボンは思ったより激情家なのだろうか。しかも、一人称も二人称も変わっている。それを押さえてまで潜入調査をしていたのなら、その分優秀だったと言う事だ。つくづく気持ち悪い奴だ。

「お前だって、俺の気持ちなんか知りゃしねぇんだろ。お互い様だ」

ジンはじっとバーボンを見つめていた。バーボンの指が動けば死ぬと言うのに、今殺される予感はしなかった。勿論、抵抗する気も無い。

「……。」

ぽたりとジンの顔に雫が垂れる。それがバーボンの涙である事は直ぐに理解できた。

「俺は、降谷零。公安、ゼロの所属のNOCだ」

ジンはバーボンの見た事の無い悲しみに歪んだ顔と絡まる自身の感情に正常な思考が止まった。

「でも、俺は、おれは、」

二滴、三滴と、段々涙の数が増えていく。

「それでも、おまえが、すきだったんだ」

ぐしゃぐしゃと涙で顔を濡らすその姿は、いつものバーボンとは似ても似つかなかった。

ジンは、そっとバーボンの涙を拭って、耳へ顔を近づけて一言小さく呟いた。

「――、――。」

銃声が1つ、何もない倉庫に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

組織は壊滅した。幹部は全員逮捕または死亡が確認されている。あの後、残党の処理にも追われて、半年はろくに寝れなかった。つくづく時間が過ぎるのは早いと思う。もうすぐで、組織の壊滅から一年が経とうとしていた。

降谷は日が近くなるごとにあの日の事を強く思い出すようになった。一時期は仕事に追われて、考える暇もなかったのに。

辛くて、苦くて、悲しくて、幸せで、心の欠片を失ったあの日の事を。今でも求め続けるあの黒影を。

ヒロが死んだ時よりもずっと引きずってるだなんて、おかしいにも程がある。バイト先の梓さんからも心配される始末だ。本当にどうしようもない。

気付いた時には、有給を取っていた。

分かっていた。あの時、自分が今までにないほど心的外傷を負った事ぐらい。思っていたよりも自分の心が捻れていた事も。

だから、せめて、組織が壊滅した今日に、自分が彼を殺した今日に。

彼の所へ行く事を許してほしい。

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