魔法決闘:これはお嬢様とメイドの決闘のお話である。   作:春華ゆが

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めちゃくちゃ忙しかったです


十五話:歪めど決闘、すなわち相対するはヒトである

 ──引き裂く人狼、狂爪の一閃。紛れもなくそれは人に許されし人を超える力──魔法(マギア)。この世ならざる姿形、異界の異形を模るはウツルコの先手、変貌(メタモーフ)。まずは小手調べ、しかして必殺を謳う殺意の爪がヒビキに向けて襲い来る。

 いかに雄弁に語ろうと、いかに威圧を背負おうと、ヒビキはただ一人の人間だ。相対する者は彼女が持ち得ない殺意を持ち、異形の力を解き放つ。決闘の名目に落とし込んだとして、やはりウツルコ達「侵入生」は極まりし有害性を以って魔法(マギア)を操る。

 ここからは命の危険がある。先日の襲撃以上に、三者三様の危険人物と我々は闘うのだ。ヒビキはそれを感じ取った。そしてその「殺意」の具現を見据え、真正面から受け止めるべくヒビキは魔法(マギア)を起動する。何百何千と唱えた勝利を約束する詔。

 異形を操るは、こちらとて同じ。

 

「悉くを打ち砕く青銅の巨人──」

 

 鋭く伸びる銀人狼(ウェアウルフ)の爪はより硬い青銅の腕に受け止められ、かと思えばその奥からゴーレムはもう片方の腕を振り翳す。巨大、豪速、間髪入れぬ追撃。当然このカウンター、生半可では避けられない。ヒビキ・アルケイデアに油断と出し惜しみはなく、手加減などもってのほか。されど迎え撃つウツルコが浮かべたのは不敵な笑みだった。

 

(これが、クオンの頂点)

 

 面白い。挑戦者の立場だからこそ。

 ヒビキはウツルコの笑みを見て、命の危機にも笑う。

 

「このヒビキ・アルケイデアに刃向かったこと、後悔させてあげる」

「見せてよ。人生をクオンに捧げた末路ってのをさ」

 

 相手は強い。

 だからこそ、侵入生たちは舞える。

 魔法(マギア)展開。エーテルの充填と変わりゆくウツルコの姿。足元にも伸びる、変貌(メタモーフ)。迫り来る青の律動(ターロス)の攻撃を、獣のそれと化した両足で鷲掴みにした。

 僅かにゴーレムの攻撃の勢いをとらえ、自分の推進力に転換する。そのまま青銅を踏み台にし、天井まで跳躍する。刹那のやりとり。確かに互いの一撃一撃をかわしあう。

 互角だ。言葉を交わさずとも、ヒビキとウツルコの見解は一致した。

 なれば、となる。ウツルコはぐるりと視線を下に降ろし……他の戦闘に「手を出せない」ことを確認する。ヒビキが宣言した決闘ルール。団体戦ではなく三試合二本先取の個人戦。契約の拘束力を借りたルール制定は、思考と行動を魔法(マギア)によって支配する。

 よって、「邪魔しようと思えない、できない」。どうしても意識が一対一に行く。クオン内部からクオンの仕組みを利用する荒技。強制決闘と似た機転を対抗策に持ってこられるとは、そうウツルコは思った。

 発想は似ている。

 

『私たち、気が合いそうね!』

 

 クオンの校則など捻じ曲げてしまいたいのは、どうやらあちらもこちらも同じらしい。だとして相入れない。相入れるつもりもない。どれだけ何を暴れ回ろうと、あちらはクオンを守る側。

 そして、こちらはクオンを壊す側だ。

 思考は縛られる。行為など指一つ許されないだろう。神聖な決闘は一対一。孤独にて味方はいない、そうヒビキによって定められたばかりだ。

 

「みんな。せいぜい頑張ろう」

 

 だとしても、激励くらいはできる。ウツルコの高らかなる声援が、他の戦闘の開幕を告げた。

 ヒビキ対ウツルコ。

 セレナ対アラメヤ。

 マギ対イソレニ。

 大勢の新入生をギャラリーに、ステンドグラス下の決闘が始まった。

 

 

 セレナは内心で独りごちる。アタシまでタイマンかよ、と。自分たちでルールを制定できるなら、それこそ集団戦も可能だったろうに……と、口には泣き言を出さない。ただ頭の中で、頭の中で考える。態度だけは後ろを向かない。故に彼女は立派な戦闘員であった。決闘でこのクオンを守る、そんな今の決闘同好会に賛同する一人であった。

 対する仮面の三人組が1人、アラメヤ。先日の襲撃を行い、こちら三人を相手に大立ち回りを演じたやつだ、セレナにとってはそれこそ前のように後方支援に徹しているのがやっとだと思うような。

 初めて戦う相手ではないが、お互い直接戦ったことはない。手の内もさほど知らない。わかることがあるとするならば、一筋縄では行かないと。

 もっと言うなら、アタシじゃ勝てないだろうこと。先日の戦いでこちら三人を同時に戦ったアラメヤの戦闘力は折り紙つき。セレナとしては自分が劣ることはわかっているのだから、まずは食らいつく所から、足掻くところから──。

 

「では。死合おうか」

 

 ──ショット。アラメヤの全身をバネにした体当たりを、

 

「……もちろん! 来なよ!」

 

 かわすところから。そこからだ。至近距離を掠める弾丸をかわし、セレナは笑い返す。紙一重の回避。速度の増加、伝達(コンタクト)を自己に使用することによる脚部へのエーテル集中。その発揮タイミングをギリギリまで絞り刹那に解放することで……セレナの瞬発力は、ワンステップにおいてのみ音速を超える。

 直線的弾丸軌道の唯一的弱点。それは直線を描くことに他ならない。

 「ずらせる」。自分の足元、軸足、立ち位置。そこに集中して、座標をずらしての直線行動の回避がセレナにはできた。読みやすいが避けづらい高速攻撃が避けづらいのは、その速度が故。であれば一瞬でいいから、それより速く。

 軌道を読まれ、すり抜けるように手応えはない。驚嘆。あれがこれをかわせるとは。手始めとは言え必殺を意図して放った攻撃を、あの三人の中で一番劣るだろうセレナに避けられた。その事実は……アラメヤにとって喜ばしい。故に飄々と立ち上がり述べる。

 

「まぐれじゃないね。一度でわかる」

「舐めてくれてもいいんだけどね!」

「評価は高いに限るとも! 正当であれ過大であれ!」

 

 退屈しなさそうだ。

 言って、跳び上がる一点。一瞬向けられた背中が反転し、全身を以てセレナの方へ向かう。次の瞬間──セレナの頬を「掠めた」。一点から一点へ、直線かつ高速の移動。それを極限まで集中した魔力のばねでかわす。二撃目も。文字通り瞬く間に、目で追う前に足を動かしてやっと。やっとかわして、セレナは今戦場に立っている。先日あのヒビキ、マギと激戦を演じた仮面……アラメヤと一対一で相対する。

 ぴたり、ごきり。視線の先で着弾し、伏せていたアラメヤが……セレナの方をちらりと見た。好奇の目だ。それはセレナにもわかった。仮面越しでも視線の意味が、意図がわかった。

 

「……何? ジロジロ見ないでほしいんだけど」

「おっとこれは失敬。とはいえ、評価するとは目を見張ることに等しい。多少は大目に見てほしいね」

 

 アラメヤの真意は知れず、されど本当に「楽しそうに」。セレナには、仮面の下の口が笑う声が幻聴される気がした。口元を大きく覆う仮面が意味を成さないほどに表情豊かに思えたのだ。そして思った。思わざるを得なかった。ああ、こいつは一人の人間なのだと。それは事実としてあった。実感として、感情と人格に触れた。得体の知れない侵入生とやら、その正体の序の序にあたるかも知れない。

 それもあるが、それだけではない。こちらが三者三様であるように、あちらも三者三様であるようだと。分かり合えるとまでは思わない。けれど少なくともただただ目的もなくというわけではないと、そういうことがセレナなりに思えた。

 決闘は対話だ。短く荒々しく、芯を捉える。

 その中でセレナにとって特別気に留めることがあるとすれば、対戦相手の態度であった。一撃、一撃。その度に立ち上がり、心底楽しそうに。そう、アラメヤは楽しんでいた。何を? 決闘を。そう即答できる彼女の内心。全身全霊で。

 

「……何が、そんなに楽しいのさ」

「愚問だ。殺し合いだよ、もちろん」

 

 死合うことがアラメヤの享楽。嬲るのも楽しく、喉元への刃はスリルを孕む。命がかかっていた方が決闘は楽しい。そう平然と言ってのけ、やはり仮面の奥から笑みを透かす。

 異常だ。セレナははっきりとそう思った。理解できるくらい単純な理屈だからこそ、おかしい。この学院で、ひいては王国で、命の危機など感じるべくもない。たった一つの共同体に住む人々は、当たり前のように魔法(マギア)による共同体を育む。……その「当たり前」の難しさは、つい最近よくよく身に染みたところだけれど。

 

「あいにくだけど、アタシ、死ねないんで」

 

 だとして、死んでたまるか。これまた当たり前のセリフを吐く。けれどセレナにとっては大きな意味のある言葉だ。言うまでもなく、実力では圧倒的に向こうが上。その上で命を賭けた戦いであるなんて、はっきり言って実感もない。順当にいけば殺されるじゃないか、そういうことだと思う。そういうことがわかっているようでわかっていない。リンチで真剣勝負から逃げてきて、命懸けなんてなおさらだ。だから戦えているという、自分のバカさ加減も自覚がある。

 でも退かない、そう決めている。もちろん決闘の枠組みだから、というのも逃げない理由には一つある。どんな汚い方法でも、決闘至上主義のクオンで生き延びてみせる、そういう決意をしたことがあるからこそ、翻せないということもあった。クオンは人の運命を定める。ただでやられるかと、今だってそういう反発で立てる。

 でもそれは後ろ向きな理由だ。

 前向きになるだけの理由がある。セレナにはある。ヒビキとマギとは関係なく。

 

「親友と約束したんでね!」

 

 そう、セレナは宣言した。学院を守るという、約束を。結果がどうなるかなんて想像できなくても、死ぬ覚悟ができていなくても。それは逃げる理由になんて、これっぽっちもなりゃしないのだ。

 その過程にある、決闘同好会としてできること。セレナが三人目として決闘同好会にいるからこそ、ヒビキの策に則り、強制決闘への対抗を講じれた。その時点でいる意味はある。実力の劣る自分でも、無駄や役立たずではない。

 約束の中に、いる。

 決意の瞳。それを見据えたアラメヤは、興味深そうに返答する。

 

「ほう。いいね。親友か。私にはそういうものがいなくてね」

 

 ともすれば、寂しそうにそう呟いた。それを聞いたセレナは、思わず聞き返す。

 

「今日一緒に来た残りの二人は、友達じゃないわけ?」

 

 当然の疑問だった。はっきりしていることはあって、自分たちが今戦う相手は人間だ。それぞれの意思がある。考えがある。それが一致して、クオンを脅かしているのだろうと。つまりはどんな理由であれ、志が一緒であると。それは友達と呼ばないのかと。

 セレナはそう思った。

 けれどアラメヤはこう答える。

 

「利害の一致だね。それを過剰に評価するのは──」

 

 そこで、言葉を切って、

 

「──"君たちまともな学生に失礼じゃないかい"?」

 

 三度、跳躍した。

 

(──来る!)

 

 構える暇もない。思考と共に動くしかない。視線を落とし、足元に伝達(コンタクト)。意識を向けることがそのままエーテルの充満に繋がる。アラメヤの身体能力はマギのそれに負けず劣らずに思えた。単にエーテルの扱いに長けているのか、仕組みがあるのかはわからない。セレナにわかることは、自分が対応するには伝達(コンタクト)を使うしかないということ。

 あの速度に対し、

 

「……っと、そう来るよねぇ!」

 

 セレナは汗ばみながら、嗤う。瞬足の弾丸が、セレナの横を掠めた。セレナは、動いていない。今度は、「ブラフ」。踏み込んだ姿勢から、何もしない。完全な「ふり」に強化した脚力を使う。何故か? 次はあえて曲がってくると思ったからだ。これまでギリギリで逸らしてきた分、今度はそれを踏まえた軌道に。とはいえ直線なのは変わらない。こちらがかわす「はず」の場所に攻撃を仕掛けるだけ。

 一種の賭けだったが、読み勝った。これは一つのじゃんけんのようなものだ、そうセレナは思った。かわすか、かわさないか、あいこのない二択。

 強いて言えば、それだけでは勝てない。

 新たな択として、こちらから攻撃を仕掛けなければ、勝てない。

 そう思ったセレナの前に、またアラメヤの影が着弾した。

 戦闘の合間に、もう一つ気がかりなこと。彼女達の目的。「まともな学生」とアラメヤはセレナたちを指した。その発言の真に意味するところについて、セレナはめざとく気づいた。気づいてしまった、とも言えるかもしれない。

 けれど気づいたなら、問わずにはいられない。

 

「本当にすごい。また避けた。いやはや素晴らしく華々しく流石と言うべく……」

「……アンタたち、クオンの生徒なの……?」

 

 驚愕を隠せない声で、セレナはアラメヤにそう尋ねた。

 学園の外からの侵入者。ヒビキも最初推察し、当然そうであろうと決闘同好会全員が思っていた前提。されど先ほどのスピーチで推察された「内部の人間」の具体性。

 

 

「……あっはは!! これは失敬口が滑った、そうだそうだそうだとも! 我々三人、"クオンの学籍を持っている"!!!!」

 

 崩れた。内部の人間。その実は、明確にクオンの生徒である。

 ここから先に、誰も知らないクオンの深淵がある。

 

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